JKが紡ぐ、青春協奏曲   作:Cr.M=かにかま

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12.ある物語の終わりの始まり

 

「あ、いっつーさんお疲れ様です。 少し遅かったですね〜」

「五葉さんがアタシ達より後なんて珍しいですね、お茶でも飲みますか?」

「–––いや、一本吸わせてくれ!」

 

もう、限界ッ!!

モカとリサの二人が座ってるテーブルの奥にある喫煙室へと急ぐ。

ライターはっと、たしかズボンのポケットだったな。

 

「ふぅ」

「禁煙するっぽいこと言ってませんでした〜?」

「気のせいだ」

 

11月も中旬、すっかり寒くなっちまった日々が続いてる。

こういう日もやはり俺はタバコを求めちまってる辺り、愛煙家とカテゴリされる人間なのだろう。

だけど、ちょっとくらいは許してほしい。 さっきまで大学に行ってたし、会議室は禁煙で三時間は我慢したんだ。 ここに来る途中も歩きタバコなんて行儀の悪いことはしていない。

 

「さて、そろそろ仕事しますかね。 店長は?」

「そろそろ五葉さんが来る時間だな、って言ってどこか行っちゃいましたよ」

「.....あの人は」

 

多分取引先なんだろうな、そうだと思いたい。 そうでなくとも仕事関連であってほしい。

とりあえず着替えを済ませて、表に出て店内の様子を確認しつつ、商品の補充をして、在庫の確認。 トイレ掃除を済ませて休憩することにしよう。

 

「.....お前らいつまで休憩してんの?」

「いっつーさんが着替え終わったらレジにでも行こうかと」

「はよ行ってこい、どうせ入間さんに任せっきりなんだろ? これから忙しくなるから早めに準備しとけ」

「しゅーん」

「ったく、帰りやまぶきベーカリーでパン買ってやるから、さっさと行った行った!」

「いってきまーす」

 

まだ、まだ生きていけるさ。

モカのパン代が俺の財布から消えたぐらいで生活できないなんて柔な稼ぎ方してないからな!

それに今回は日雇いのバイトも入れたし、普段より貯蓄はある。

 

「五葉さん、モカの扱い上手くなってないですか?」

「そうか?」

「だって、初対面の時と比べたら」

「.....忘れてくれ」

 

新人研修でモカを担当したときは、うん、なんていうかコミュニケーションが取れなかった。 基本的に上の空だし、何考えてるのか全然わからなかったからそれはもう苦労したもんだ。

その癖、教えた内容はしっかりと覚えて出来るようになってるもんだから、感心するしかなかったよ。

 

とりあえずは品出し、立ち読み客の追い払いをしながら店内のモップ掛け。

この前、立ち読み客を追い出してネットで炎上して以来立ち読みする奴らは減ったが、それでもゼロではない。

店長に徹底的に禁止するようにテープ貼りを提案したのだが、未だに実行されないことから、うちはこのスタンスでいくことは決定事項なんだろう。

 

トイレに客が入ってないことを確認し、清掃中の看板を置いて掃除を始める。 トイレットペーパーを無駄に使う輩がいるもんだから余計な出費が増えて仕方ない。

このことも店長に言って経理に相談してもらうことにしよう。

 

「いっつーさん、発注してたお菓子が届きましたよ〜、てんちょーいないんで代役願います〜」

「わかった、じゃあモカはここの掃除やっといてくれ。 中途半端だからさ」

「おっけーです」

 

デッキブラシとバケツをモカに託して裏手に回る。 レジは入間さん一人だけみたいだけど、問題はなさそうだ。

軽い会釈をして、レジの奥手にあるスタッフルームを抜けて裏口から外へ出る。

 

「いつもご利用ありがとうございます、こちらの方に判子とサインの方を」

「あ、はい」

 

もうこのやり取りにも慣れたものだ。

商品の発注は基本的に店長と変態の親子が担当してるから余分な注文はしてないだろう。

しっかりと売り上げに則ったうちのニーズに合わせた量を注文しているはず。 店長は全面的に信用してるが、息子の変態の方はあまり信用してない。 そういえば最近あいつの顔見てないな。

 

「三木くん! ちょっと運ぶの手伝って!」

「わかりました!」

 

この後、店長は俺が業務終了しようとしてる時間にやっとのことで戻ってきやがった。

どうやら電車の方が遅延していたらしい、なら仕方なしだな。

 

業務が終わり、約束通り俺はモカを連れてやまぶきベーカリーに向かう。

商店街は基本的に店が閉まるのが早い、やまぶきベーカリーも例外ではないが俺とモカの上がりは夕方だったので走れば間に合う時間ではあった。

 

–––ちょっと待ってモカさん、走るの早すぎじゃありませんこと?

 

 

 

「いらっしゃ–––、あ、モカ! いらっしゃい、もう閉めようかと思ってたところだよ! 五葉さんも」

「せーふ!」

「ゼェ、ハァ、ちょ、ちょっと、まっ、タ、タンマ、ぁッ.....」

 

しんどい!

羽丘の近くのコンビニからやまぶきベーカリーのある商店街までの休憩なしのマラソンはキツイ!

 

「さーや、まだパン残ってる〜?」

「残ってる残ってる! わざわざ来てくれたし、サービスしたげる!」

「ほんと〜? やったー、といっても今日はいっつーさんの奢りなんだよね〜」

「そっかぁ、じゃあ.....やめとく?」

「なんでやねん」

 

 

 

国立華岡大学の学祭はアホみたいに規模がデカイ。

研究発表はもちろん入学希望者が全国から押し寄せてくるし、有名人を招いてのステージもいくつかある。 使えるところに金をバンバンと使うところで有名でもあり、あの弦巻財閥とも関係があるとかないとか噂もされている。

 

B級グルメグランプリも何故か大学構内で行われるし、学生が主体となって行うステージや舞台もそれなりの数と規模があるわけで、それを準備・取りまとめを行う実行本部は毎年この時期になるとてんやわんやと大騒ぎをすることになる。

今まで俺は関係なく、お疲れ様と遠目で見ているだけだったんだが、どうも今年はこちらに参加しなくてはならない状態となってしまった。

 

「で、まりな。 メンバーの方はなんとかなりそうだが、曲も俺たちのカバーでいいのか?」

「うん、君禎の演奏してたもので全然大丈夫。 あ、でも私もちょっと演奏したいやつあるから、譜面の準備急ぐね」

「.....にしても、まさかあいつらに感化されてこんなことになるなんて思いもしなかったよ」

 

本当、人生ってのは何が起こるか全然わからねぇ。

 

「それで、当日の予定と、あとこれが予算と設備なんだけど–––」

「なるほど。 こっちの方はまりなの方が詳しいだろ、俺はほとんどわからないし、下手に弄れないから誰かあともう一人助っ人とかいる?」

「こっちで応援呼ぶから大丈夫! 機材関係の方なら宛てもあるし! 衣装の方は?」

「白金に教えてもらって、少し頑張ってる。 無理なところとかは任せる形になっちまってるけど」

「白金さんに?」

 

この前あった手芸教室でまさか講師側に参加してるなんて思いもしなかったからな。

その際、一緒に参加したひまりからはAfterglowのマスコット、というかあれは、なんといえばいいのかわからないストラップをもらった。 もう一人、奥沢も一緒に参加したんだった、なんていうかあの人も上手かったな。

最近のJKは女子力が高いことで。

 

「そういやこの美術部の展覧会の場所の予約申請はまだ取りに来てないんだよな?」

「そういえばそうだね、本部の方に誰もいなかったら二人で待ってよっか」

「.....そうだな」

 

本来ならこんな一銭にもならない仕事糞食らえだが、まりながいるなら別だ。

 

「CiRCLEの方は大丈夫なのか?」

「うん、あの子が頑張ってくれてるから私もある程度自由に動けるんだよ」

「ハハ、それはありがたいな」

 

お陰で二人でいれる時間が増える。 なんて恥ずかしいこと、言えるはずもない。

まりなはそんな俺の顔を見て微笑む、なんかむず痒い。 期間限定で設置された実行本部のある部屋はやはり誰もおらず、鍵を持ってるまりなが部屋の扉を開けた。

 

「.....残り一週間。 感覚思い出してきたか?」

「もっちろん、私が言い出したことなんだから」

「.....そうだな」

 

–––音楽を奏でるのはお前らJKだけじゃねぇってことを教えてやるよ。

 

 

 

華岡大学文化祭。

11月の中旬という少し肌寒い季節に行われはするが、それでも人の熱気というのはすごいもので俺は現に半袖である。

 

「–––改めて思うと、中々濃いメンバーが集まったよな」

「そうかな? 私としてはこのメンバーで演奏できるってすごい楽しみだよ!」

 

ボーカル兼ドラムの俺、リードギターのまりな。

 

「北沢君もありがとう、店の仕事もあっただろうに」

「いいんですよ、先輩との演奏も久々ですし、妹に兄の威厳というものも見せてやらねばなりませんし」

「そっか、ハロー、ハッピーワールドの皆も呼ばれてるんだったね」

「兄貴兄貴ー、ウチキンチョーしてきたんですけどー」

「お前が緊張するなんてことないのは知ってるから安心しろ」

「うぇー」

 

ギターの北沢君、キーボードの蜜柑。

 

「君禎からの頼みなんて、断る要素ないだろ? それに、久々の出演なんだから」

「本来なら頼みたくなかったんだけどな、この際仕方ないと思った」

 

サブボーカル兼ベースの変態こと海輝。

 

「じゃあ、打ち合わせ通り俺がドラムやってる間は海輝がボーカル。 俺がボーカルやってる間のドラムだが、本当にできるのか北沢君」

「大丈夫です、俺も元CamereoNの一人ですよ。 練習の時も大丈夫だったでしょ?」

「.....すまんな、どうしても心配になっちまってな」

「君禎はもう少し人を信用してもいいと思う」

 

–––変幻自在がウリのバンド、CamereoN。

俺と北沢君の元いたバンドでそこではリーダーの方針でいくつかの楽器を演奏技術が必要とされていた。

そのスタイルを取り入れつつ、まりなの思いで俺たちは今できるメンバーを集めてこの文化祭で嵐を呼ぶ。

 

「まったく、しっかりしてくれよリーダー!」

「ちょっと待て、俺はリーダーじゃないぞ!?」

 

これだけは言わせてもらう!

リーダーはまりなだ!

 

「おほん! じゃあ、皆! 私のワガママに付き合ってくれてありがとう!

–––最高のステージにしよう!」

 

まりなの手が差し出される。

 

「はい!」

 

重なるのは北沢君の手。

 

「上等っす!」

 

蜜柑の手。

 

「世界は俺を呼んでいる」

 

海輝の手。

 

「.....あぁ、やってやろう」

 

–––そして、俺の手。

 

「–––ピースメン! ファイトー!!」

 

–––これはJK達による物語。

しかし、あるいはひょっとして、JK達に感化された者たちがいたかもしれない物語。

 

ピースメン。

この五人が世界へ羽ばたく物語の始まりにすぎないのかもしれない。


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