BanG Dream!~あの時の約束~完結 作:レイハントン
戸山と有咲が待つ席へと向かうとなにやら戸山は光る棒なる物を持っていた。物持ちいいなあいつは。あれだろ? 冬を感じさせる曲の途中で、推しキャラの色からオレンジに変えるんだろ? え? なに、アニメが違うって? んなもん最初からわかってるよ。最初見たときは結束力凄いなと思いましたはい。
「あ! 恵君は使う?」
「いや。遠慮しておく」
「お前が持ってたらオタクにしか見えねぇもんな」
「とりあえず市谷さんの発言は変わりに俺が謝っておきます。すいませんでした」
なんで謝っているのかよくわかっていない2人はおいといてだ。すると奥の部屋からギターの音が聞こえてきた。周りの人はあまり気に留めていないが、ライブハウスに来たのが2回目の俺達は音が聞こえてきた方に視線を向ける。有咲はオレンジジュースが入ったコップを持ったまま、「チェックか」と冷静に言うが。戸山は………。
「いえーい!!」
「「はぇーよ」」
俺と有咲のダブルツッコミが炸裂。しかし、俺は有咲から睨まれて防御力が下がった。
「ツッコミ被せんな気持ち悪い」
防御力が下がっている俺には効果は抜群だ。久しぶりに効いたぜ…………有咲の攻撃(冷たい言葉)がな。それからしばらく俺が喋ることはなかったとさ。めでたしめでたし。・・・・・・・いやいやめでたくねぇなおい。まだだ! まだ終わらんよ! 有名な金髪仮面のセリフで復活して気を取り直す。
ライブが始まるまで、しばらく他愛もない話で時間を潰していた。始まるまでひたすらライブの事とか、ギターの事を聞かれた。こんなに質問されたのは、最初に彼女が出来たときに徹からの質問攻め以来だよ全く。ライブ会場に入るとすでに人はたくさん居る。
今、チラッと見えた独特な髪色のショートカットは・・・・・・まさか、な。モカじゃないことを祈りつつ(なんでかはわからんが)。ライブが始まるのを待った。
そして始まったライブ。あの厳しそうなオーナーが選んだバンドだけあってどのバンドも気合が違った。もちろん演奏能力も高い。ここがガールズバンドの聖地だということが頷ける。あ、全部調べてきたことです。予習ってやつだな。勉強でもなんでも大事だからな、予習・復習。俺の隣で1人、「いぇーい!!」とここでの正解の反応を示す戸山。有咲の様子はわからんが、たぶん普通に観戦してることだろう。すると戸山は辺りをキョロキョロしながら何かを言っていた。ライブの音と歓声で聞こえん。
「りみりんどうしたんだろうね。次グリグリだよ?」
「あ? えみつんどこ行ったて、次ギリギリだよ?」
「違うよ! りみりんが居ないの! 次、グリグリなのに!」
「あー、そういうことな。確かにまだ見てないな」
焦ったー。つか関係ない単語がたくさん出てきたけど、スルーしよう。ライブが始まってから、牛込さんの姿を見ていない。いったいどうしたんだろうか。心配していると次のグループが出てきた。だけど、グリグリじゃない。予定ではグリグリのはずなんだけどな。
「あれ?」
「ちがくね?」
「順番間違ったとかか?」
「それはないだろ」
冷たいツッコミをスルーして考える。答えが出るかはわからないけど。するとどこからか、「マジ?!」と聞こえてきた。辺りを見回して声の主を探す。左側で少し離れた場所に居た、ライブハウスのスタッフさんが首を左右に振って、会場を後にした。どう見ても怪しい。グリグリのが出てこなかった時点から何かが狂い始めている様な気がした。気が付くと右に居た戸山と有咲の姿がない。入り口に視線を向けると2人はさっきのスタッフさんを追って出て行ったのだろう。このままほっとくことも出来る。だけど、それじゃなにも変わらない…………昔と。覚悟を決めて、2人の後を追った。
2人に追いつくと、控室付近ににたどり着いた。すると、「来るまで待つのは?!」と戸山の声が聞こえてきた。その言葉を聞いただけであらかた予想はつく。
グリグリのメンバーが来ていない。
「戸山、あり、市谷さん! いったいどういう状況だ?!」
「お前今、名前で呼びかけただろ!」
「今そんなことはどうでもいいだろ! グリグリの人達がまだ来てないんだろ?」
牛込さんは無言で頷く。その表情は暗い。心配になるのも無理はない。それは控室の状況を見てもわかることだ。
「………でも今は待つしか」
「ダメ!!」
後ろの方から聞こえてきたオーナーの声。俺を含めた4人が振り返る。
「なにがあってもお客さんを待たせるのはダメ! それだけはやっちゃいけないんだよ」
「どうしてだよ! グリグリの歌を待ってる人だっているんですよ?!」
「じゃああんたが時間稼ぎをするかい?」
「うっ、そ、それは………」
すぐにやりますなんて言えなかった。いまだに変われない俺には・・・・・・。牛込さんは、「はわわ~」と言いながら俯いていた。ちくしょう…………なにが変わるだよ。言葉だけ並べてかっこつけて結局なにも出来ない。はぁー………。反吐が出るとはまさにこのことか。それでもスタッフさん達はまだあきらめていないらしく、牛込さんの肩に手を置いて「出来るだけ時間伸ばしてみるから」と言って行動している。
「やばくね?」
やばいなんて状況じゃない。どのバンドも必死に頑張って、グリグリが来る時間を稼ぐ。だけど神様は皮肉なもので人の努力を一瞬で無に帰す。報われない努力はないなんて言葉もあるけど、どうやら報われない努力もあるらしい。どんどんバンドの数が減っていく中頑張る。もうそろそろ来ても良い頃だろ? 頼む! 早く来てくれ!
そして──────
グリグリは来ないままライブが終わってしまった。控室では出演した人達が片づけを始めている。結局だめなのか…………? あれだけスタッフさんが頑張ったのに。
「ホントなんなの?!」
いままで関係なさそうな態度をとっていた有咲が意外にも口を開いた。その意見には賛成だ。だけどなにが出来る? 臆病で、一歩踏み出せない俺に。するとオーナーは俺達に「邪魔」とだけ伝えて、片づけを見守る。正直、俺も有咲も牛込さんも戸山も諦めて─────────なかった。気が付くと戸山は変な歩き方でステージに向かっていた。
おいおい、嘘だろ? あいつまさか?! いや、でももうすぐグリグリが来るかもしれないというだけかもしれない。
「こ、こんにちは!! 戸山香澄です!」
「あのバカ! 自己紹介してどうするんだ?!」
案の定お客さんの反応はない。シーンとしている。そして…………
なぜかきらきら星を歌い始めた。もうため息しかでない。あいつはなにを思ってきらきら星を歌い始めてるんだ? そんなのでどうにかなるはずないだろ…………。
「ちょっと! なにしてんの?!」
ステージ脇から、思わず声をかける有咲に戸山は歌うのを一旦止めて、ステージ脇に向かう途中で何かを持って有咲の元に来た。そして、戸山が有咲に渡したのはカスタネット。こ、これは………。
「は?! カスタネット───」
カスタネットを「有咲も!!」と言って渡すと、手を引いて無理やりステージに引き込んだ。もう逃げ道などない。お客さんの前に立つとさすがの有咲も硬直していた。そんなことにお構いなしに戸山は歌い始めた。おいおい、勘弁してくれよ~。たぶん有咲も同じこと思ってるんだろうな。最終的には歌いながら手拍子を始めた。勘弁したのか、じっと戸山のことを見ていた有咲は恥ずかしそうにカスタネットをリズムよく叩く。そしてようやく歌い切った2人。戻ってくると思っていた矢先に、またきらきら星を歌い始めた。もうお腹いっぱいです………。でもパターンは変えるらしくカスタネットを叩いていた有咲も一緒に歌う。
そろそろ文句の1つや2つが出てくるかと思っていたが。案外お客さんの反応は良かった。
「なに、あれ?」
「ちょっと可愛いかも」
意外にも応援が飛び交っていた。オーナーもスタッフさんも止める気はないようだ。ふと隣の牛込さんに視線を向けると、目を輝かせていた。しばらく目を閉じると、なにかを決意したような表情に変わった。
「牛込さん、なにを?」
俺の声が聞こえてないのか、牛込さんはベースを借りてステージ脇に立った。一方で戸山と有咲はきらきら星を歌い切り、次なにを歌うのかを漫才みたいに話し合っていた。ここまで来ると傑作だよホント。
「で、どうすんの?」
「どうしよう………」
とうとう策が尽きたか。ならさっさと戻ってくればいいものの。にしてもグリグリ遅いな!
「マジかよ~! あとなに歌えんの?!」
「え~! こ、校歌?」
「マジかよ!」
マジなんだよな~。その人は。どうすんだ? この状況……。
「花女のなら歌えるよね?!」
「あたしも?!」
「有咲2番ね!」
「はぁ~! 知らねぇし!」
だろうね。だって学校行ってないもん!! 余裕ぶっこいて学校行ってないもん!! さっきからブーブー文句を言いつつも、2人を止めるか必死に考えた。だけど人間焦れば焦るほどに正しい答えを導けない。
すると固まっていた牛込さんが一歩また一歩とステージに足を踏み入れる。おいおい、噓だろ?! この状況でまだややこしくするのかよ!! さすがにオーナーも止めるだろ? チラッと様子をうかがうが止める気はないらしい。表情1つ変えずに3人を見ている。突然、大きなベースの音が聞こえてきた。牛込さんだ。スピーカーに繋いだベースの音が大き過ぎる。すぐに調整を始めた。正直そんな冷静さをもって判断しているならもう少しましな判断をしてほしいものだ。さっきと比べてお客さんが減っている。そりゃそうか。バンドのライブを観に来たのに、こんな茶番見せられたらたまったもんじゃない。
調整が終わったのか、深呼吸してベースを弾き始める。もちろんきらきら星だ。もうどうなるかもわからない状況でも戸山は歌う。仕方ないとばかりに有咲も歌う。
俺はただ戸山、有咲、牛込さん達が必死にグリグリが来る時間を稼いでいるのを見ていた。最初はなにしてるんだよ、こいつらは……と呆れていた。だけど一生懸命にきらきら星を熱唱する彼女たち。さすがに低レベルな演奏と歌に飽きてしまっただろう、明らかに怪訝そうな表情で彼女達を見つめるお客さんが居る。戸山達は演奏するのと歌うことで必死なのだろう、飽きているお客さんに気付いていない。隣からのオーナーの視線が俺の背中に刺さる。早く止めて来いと言わんばかりの視線だ。本来なら、お客さんやお店のことを考えて止めるべきなのだろう。それでも足を踏み出せなかった。あいつなに? また変な奴出てきたよ……的な視線が俺に向くのが怖い。結局のところ俺も世に言う、臆病な人に分類されるのだろう。あれだけ文句を言ってたくせに何もできない。もう笑うしかないな。こんなんじゃ、戸山達に文句を言う資格はない。人前に出るのくらい簡単だろ、と思っていた自分をぶん殴りたい。そんなこんなで、きらきら星4回目に突入しようとしていた時。
「あんたは行かないのかい?」
意外にも俺に話しかけてきたのはオーナー。隣に視線を移して答える。
「はい……。俺なんかが出たところでなにも変わらないと思うので」
「そうかい。じゃあ、せめてあの子達を止めてきな」
返事を返すのに数秒、いや。数分かかった。ステージに向かう時の戸山の背中を見てふいに思った。
あー、すげぇなーって。
だいたい、いつも戸山には驚かさせる。人の家に行く前に今から行くねとか連絡してきたり。ギター弾きながら登校したり。ちょっと変わった歩きかたで、ステージに出たり。………あれ? もしかして、戸山よりもへぼい? 別に戸山をバカにしているのではない。むしろ褒めてる。有咲と決別した時もそうだ………一歩踏み出すってことが出来なかった。変な意地とプライドが邪魔をしたりなんてない。どこか恥ずかしくて、ただ”勇気”がなかっただけなんだ。
せめてこの状況の後始末くらいつけよう、そう思っていた。足を一歩踏み出そうとするけど、俺の中の気持ちがそうさせてくれなかったんだ。あと少し我慢すれば、グリグリが来てくれるんじゃないか? と勝手な期待をしていたから。
そうだ………自分に嘘をつくのをもうやめよう。正直になるんだ。
今は勝手な期待と恥ずかしさはない。
羞恥心を捨てた訳ではないから悪しからず。それに、戸山達の行動を無駄にしたくなかった。たぶん戸山がこの中の誰よりもグリグリのライブを楽しみにしてると思う。だからあんなに頑張れるんだと、思っていた。……いや。せっかくグリグリのライブを見に来たのに、たぶん急いでライブハウスに向かっている彼女達のライブを見ないで今日が過ぎるのはもったいない。そう感じた。この高まってくる思いを隠すために。
「やっぱり、俺に彼女達を止めるのは無理です。…………俺もあそこに立ちたい。っていう気持ちが隠せないので」
俺は結局のところお父さんとお母さんの息子なんだなぁ~とひしひしと感じつつ。ステージを見る。やっぱりどうにも立ちたくなってしまう。音楽番組を観ていた時に突然、歌いたくなったとか、ギター弾きたくなってきたとか、思う気持ちがようやくわかった瞬間。
ちょうどギターを持っていたお姉さんに、「ちょっと、借ります」と、ひと声かけてギターを借りてステージへと足を踏み出した。
「バカなことは今すぐやめな。もう終わりだ」
「それでも行きます。ここで引いたら、そのくらいも出来ないのか? お前はってお父さんにバカにされると思うので。それにお客さんを退屈にさせちゃいけないですよね?」
自分でもわかるくらいに決めたぜみたいな決め顔をして、振り向いた。そういうセリフはカッコいい人が言うからこそカッコいい。一般ピーポーな俺が言ったところで、キザなのは確定。その恥ずかしさを隠すために足早とステージに向かった。舞台袖に居た数人の女子が顔を赤くしていたなんて、知る由もない。
俺がステージに姿を現すとざわつき始めた。ただでさえ、バンドも組んでない、楽器もろくに扱えない、歌もいまいちという状況のなか。そこに新たな人が登場、しかも男。ざわつかないはずがない。ひそひそとお客さんが話し始める中、キョトンとした表情で俺のことを見つめる戸山達。俺は有咲と戸山の前に立ち出来るだけ大きな声で話し始めた。
「えー、このわけのわからない状況でも、見守ってくれているお客様。ありがとうございます」
一礼して話を続ける。
「グリグリの方達は、今現在こちらに向かってます。トラブルが発生して遅れているだけなので」
こっちに向かっている保障なんて正直ない。それでも信じるしかない。
「ですので、来るまで頑張ります!」
雑な説明を終わらせ、ギターをスピーカーに繋ぐ。ここで俺がソロで頑張っても仕方ないので、小声で、またきらきら星を歌ってもらうように戸山達に指示した。たぶんだけど、きらきら星以外歌えないんだと思う。でなかったら校歌歌おうなんて普通は言わない。
「早く歌え」
「え? なに歌えばいいの?」
「きらきら星だ。俺が牛込さんのベースに合わせるから」
「本当に大丈夫なのか?」
不安な表情で俺のことを見る有咲。この状況なら不安になるのも仕方がない。それでもやるしかないんだ。
「大丈夫なようにするから」
「………わかった」
有咲が納得してくれたところで、ギターを構えいつでも演奏できるようにする。そして牛込さんに準備OKと視線を送った。まだ緊張している牛込さんに、戸山に合わせろなんて言えない。歌なら遅れても合わせられるだろうから。
そしてベースの音が聞こえてきた。牛込さんの音に合わせるよう、俺も演奏を始めた。ベースの音がギターの音で消えぬように音を抑える。有咲のカスタネットの音が入り、戸山が歌い始めた。勇気を出したとはいえ、お客さんの反応が気にならないわけではない。演奏する手を止めずにお客さんの反応を見る。ステージの下では、笑顔で見守りながら、ペンライトを左右に振っていた。少し安心したので、少し調子に乗ってみることにした。
俺はアーティストじゃないけど、お客さんにはつまらない思いをしてほしくない。音を少しだけ大きくして、注目を集める。目をつむりながら演奏を始めた。パッとやって出来たわけでもない。暇さえあればギターを弾いて出来るようにしたことだ。俺は天才とかじゃないから、努力努力の毎日。勉強出来るのも、ギター弾けるのも、バンドのことを戸山にアドバイス出来るのも全部毎日少しずつ努力した結果だ。
いつしかキラキラ星の演奏は終わり、1人突っ走っていた。気が付けばきらきら星を自分なりにアレンジして演奏していたのだ。やらかした………という気持ちのまま、目を開ける。だけど今は時間を稼げればいい。最初は笑顔で見ていた手前のお客さん(1人は知り合い)の表情が変わっていた。
モカの隣にいる、黒髪ショートカットで一部の髪が赤い女の子は真剣な表情で俺のギターの手元を見ている。
髪色が水色のセミロングの女の子は関心の眼差しで俺の手元を見ている。
前列に居るお客さんだけはどこか違う表情で、ライブ? を見ていた。なぜそれほどまでに俺の演奏でそんな表情になるんだ? 正直、今の俺の演奏の技術は、どの程度なのかわからない。プロレベルなのか、はたまた全然なのか。プロのお父さんに一度たりとも褒められたことがないことを考えると、まだまだなのか。
謎が頭の中を駆け巡った。演奏中に考え事はあまりよくないのはわかってる。それでも考えてしまう。俺の動画を見ている人はあんな表情をしてるのか? と。気が付けば演奏の手が止まっていた。やべっ! と思いつつ、MCで乗り切ろうと口を開けようとした瞬間───ふと、左からの視線を感じた。まさか! と、視線を左に向ける。そこには待ちに待ち望んでいた人達、グリグリのメンバーだった!
こうして俺はまた1つ成長出来たのかもしれない。
間が空いてしまって申し訳ないです。次回は出来るだけ早く書き上げるので、しばらくお待ちください。