BanG Dream!~あの時の約束~完結 作:レイハントン
外に出るとポツリポツリと雨が降ってきた。まだ傘を差すのは早いか? とも思ったけど、パンの入ってる袋の事を考え、傘を差すことにした。
昨日まで天気が良かった事を考えると今の気分と合ってるような気がする。結局授業時間を使って考えても納得がいく答えは出せなかった。考えれば考える程、本当に優衣は俺と付き合いたかったのか? と思ってしまう。
でも現に優衣は俺が欲しかったと言っていた。………どうして普通に付き合ってくださいって言えなかったんだ……? いくら考えてもその答えが出ることはない。
ふと戸山の事を思い出し、帰る前に有咲の家に寄って蔵を覗いていくことにした。パンを渡す為と謝りに行くためだから、有咲もそこは許してくれるだろう。
いや、待て。それって必然的に有咲に会うことになる。つうか最初から気付けよ俺。だけどこの時間帯戸山は家に居るか? あのアクティブ系女子だ。居るはずがない。もう好奇心の塊みたいだからな。悪口ではない。褒め言葉だ。
そんな事を考えて歩いて居るとちょうど前を見たことがある人が何かを抱えて走っていった。──よく見ると戸山と有咲。
「え? なにしてるんだよ……」
なんでだかはわからない。だけど、とりあえず追いかけることにした。傘すら差してないのが気になったから。
パンの袋を鞄にしまい走った。足が地面に着く度に水がパシャと音を立て跳ねる。意外にも2人は早くて追いつくのに少し時間がかかった。追いつき2人を傘の下に入れる。すると2人も一旦止まってくれた。
「なにしてるんだ? 2人共」
「うわっ、来んな、来んな! 私の半径50メートルの中に入るな!」
「それって俺にこの街に居るなと?! つうかそんな事は聞いてない」
全く……有咲と話が始まると終わんねえ。それより話を元に戻そう。
「なに運んでるんだ?」
「私がギターケース落としちゃって………それで壊れちゃったの……」
「だからそれを直す為に楽器屋さん向かってんだよ。察しろポンコツ」
「察せるか! とにかくここら辺の楽器屋さんは江戸川楽器店だ」
鞄を左肩にかけ傘を出来るだけ2人が入る位置に差した。別に濡れても構わない。ここまで来る途中に2人は俺以上に濡れてるんだから。
理由を話してくれた戸山の目元……。あれは雨か? それとも涙か? いったい何があったのかわからないけど、今は楽器屋さんに行くしかない。
走ること数分ようやく江戸川楽器店に着いた。中に入ると店員さんがぬいぐるみで遊んでいた。
前に1回来たけどあの店員さんなんでぬいぐるみで遊んでるんですかね?
「いらっしゃー」
い、はどこ行ったよ。い、は。
「はぁ……はぁ。落としちゃって……修理お願い出来ますか?」
いつの間にか俺達の前に来た店員さんは両手を腰に当てて堂々と言った。
「任せてー!」
えっ、バイトの人じゃないのか? まさかギターの修理までこなせ───
「店長ー」
店長呼ぶんかい。
修理する間に戸山、有咲、俺にタオルを貸してくれた。なんて優しいお店なんだ。そしてよく見たらあの店員さん、グリグリのメンバーやん。全然わかんなかった。
テーブルを囲いながらこの気まずい空間でいつ話を切り出すか迷う。にしても置いていったぬいぐるみはいったいなんなんだ? この妙に話かけたくなる感じは………。
「ごめん……」
ふいに戸山が謝った。だいぶ落ち込んでる様子で。
「大丈夫でしょ。近くに居る奴は大丈夫じゃないけど」
「それどういう意味だ」
そう言うと戸山は1人泣き始める。ギターを落として壊したぐらいでそこまで泣くかね? 有咲はこうして許してくれてる? 訳だし。
俺はこの時まだわからなかった。戸山がそこまで泣いているのか。
「どんくらい壊れてたんだ?」
「……弦が切れちゃった…」
「そっか。ヘッドが折れてなきゃ大丈夫だと思うぞ」
「そうなの?!」
勢いよく机をバンと叩きながら俺にずぃーと寄ってくる。
「お、おう」
そんなに近づかないでもらえますかね。つうかそこまであのギターが大切なのか? 有咲のなのに……。あっ、だから落ち込んでるのか。
「お前いつまで居んだよ。関係ないだろ」
「今日は戸山に用事があるんだよ」
今言っても意味ないだろうな。そしてずっとスマホを弄ってる有咲。その画面がチラッと見えた。
は?! ランダムスターが30万?! お父さんが言ってた値段と大差ないじゃんか! やっぱり凄いギターなんだな。
だけどその出品を取り下げるか、そのままにするか悩んでいるようだ。すると俺の視線に気付いたのか、後ろに振り返ってきた。
また悪口か……。
そう思った。
「なんで付いて来たの?」
飛んできたのは悪口ではなく、質問だった。その表情は嫌悪感も感じられるが、それ以外のなにかも感じられた。その時はわからなかったけど。
「は? なんで?」
「いいから答えろ」
厳しー。理由も聞いちゃいけないのかよ……。
「あんなびしょびしょで必死に走ってたら、誰でも気になるだろ」
「あっそ。わかったから黙ってて」
「相変わらず酷えな」
「当たり前だろ」
当たり前……か。普通に質問が飛んできたのも奇跡に近いと思う。やっぱり優衣の事を話しても信じてもらえるわけないか。
まだ答えは出せない。
するとギターの修理が終わり、店長と店員さんが戻ってきた。
「おまたせー」
「はっ……!」
ランダムスターは綺麗に直っていた。その修理具合はまさに──
「完璧」
すると戸山は立ち上がりヨタヨタとギターに近づく。しかも泣きながら。
「良かった~! 良かった~! ごめんね! ごめんね~!」
なぜここまでそのギターに執着しているのかがわからない。だけど、なんとなくの予想はついた。
ランダムスターがよっぽど好きなんだな。戸山は。
あの時一目見て気に入ったんだろう。俺も今のギターそんな感じで手に入れたんだけどな~。
「ネッグ反ってたから直しておいたよー。ケースはもうダメ」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
ネッグも反ってたのか。パッとしか見てないからわからんかった。基本調整まで。こりゃあお高くつくんでしょ?
「いくらですか? そこの奴が払うんで」
「え? 俺が払うの?」
「基本調整、学割で3000円」
指を3本立ててそう言う店員さん。その金出したら今月死ぬよ? いいのか? 有咲からすれば今すぐ死んでほしいか……。悲し。
「お前なんの為に来たの? 金払う為だろ?」
「違うわ! 傘差したのに関係ない金はらうの?!」
これはいくらなんでも理不尽過ぎる……。会う度に理不尽度が増していくんですが。
「私払うよ!」
「ほら、良いのか? 女の子が払うって言ってるんだぞ」
「いやいや。俺関係ないだろ」
結局戸山が全額支払った。後々売られるのに支払うのか戸山よ……。それだけランダムスターが好きなんだな。
江戸川楽器店をあとにした俺達は有咲の家に向かっていた。外はすでに雨がやんでいて、あちこちに水たまりが出来ていた。雨雲は晴れ、夕日が眩しい。
戸山はランダムスターを大事に両手が持ち運び、俺は壊れたギターケースを持たされ歩いていた。
「良かった~」
本当に嬉しそうだ。
「……持って帰れば?」
「え?」
今なんて?
「出品取り下げたから」
「なんで?」
「大事にする?」
「する!」
戸山はそう笑顔で答えた。こういうタイプは大事にするだろう。そしてあの有咲がわざわざ商品を取り下げるとは。変わったんだな。有咲も。
「よし。540円」
「え?」
「オクーの取り下げ手数料」
「うん!」
元気良く答えたものの……。
「あと300円しかない……」
さっき3000円のが響いてるんだろう。
「やっぱ売る!」
「ダメ~!」
売るとは言ったものの。俺は見逃さなかったチラッと戸山のことを見た有咲が笑顔だったのを。
なんだ……。普通に友達作れるじゃねえかよ。俺が居なくても……。
しばらく歩き市ヶ谷家の蔵に着いた。
「はい。荷物」
「ん? 中まで持ってくんじゃないのか?」
「いや、中に入れたくないからここでいいよ」
そういう事かーい。まあ確かに、嫌いな奴を家の中に入れたくはないだろう。だけどはいわかりましたなんて言えるかよ!
「わかった。じゃあな」
言うんです。
「えー! 待って、待って! 恵君に聞きたい事あるから待ってて!」
「いや、帰れって」
チラッと有咲の事を見るけど、帰ってほしいとさ。目がそう俺に訴えている。
「お願い有咲! 恵君も中に入れてあげて!」
「じゃあ入場料払え」
「入場料ってお前……。いくらだ?」
「540円」
それさっきの手数料だろ。なんで戸山の代わりに俺が出さんといけないんや。
「いやなら帰れ」
「………わかったよ」
大人しく540円を払い中に入れてもらった。戸山が居なかったら、入れなかったけど、540円は痛えな……。
蔵に入るとばあちゃんが中の様子を見ていた。
「ばあちゃん……」
てかだいぶ綺麗になったなここ。物で散らかってたのに。
「綺麗になったね~。約束通りここは有咲の部屋にして」
ばあちゃんは「はい」と言って有咲に鍵を渡した。すると次は入り口から見て、右の床が一部だけ色が違う所を持ち上げた。
「え?」
懐かしいな。ずっと前にもここに入ったことあったっけ。
下に降りると部屋が広がっていた。地下室みたいな感じだ。右部にテーブルがあって、緑色のソファーもある。
「ええっと」
階段を降りてすぐに有咲はしゃがみこんでごそごそと何かをやっている。
すると黒い線を戸山に「刺して」と言って渡した。それをランダムスターのボディの下の方に刺しこんだ。
有咲は頷くとボタンを押してONに切り替える。そしてゆっくり弦に触れると上から下に手を降ろす。
普通に弾くよりも大きい音で部屋に響く。そんな事よりもちゃんと音がなったことにビックリしているんだろう。
「凄い……。凄い! 凄い! 凄い!」
「はいはい」
「凄い! 鳴った!」
まるで話を聞く気もなく同じ感想をひたすら話す。鬱陶しい……。それと凄い言い過ぎな。
「香澄!」
名前を呼ばれると一旦話すのを止め、有咲の方を見た。
「こ、ここで練習すれば?」
「え?」
恥ずかしそうに言う有咲。
あ………なんだろう。本人の前で言ったら殺されそうだけど、可愛い……。
「ただし!………ご、ご飯……」
「え?」
なんて? ご飯がどうかしたのか?
「い、嫌ならいいけど!」
すると戸山は嬉しそうに有咲に飛びついた。有咲も顔を赤くしてるけど、嬉しそうな辺り、嫌ではないんだろう。
「なに見てんだよ。お前は来んなよ」
「いや誰も来たいとは言ってねえだろ」
「えー!」
なんでこいつはえー! って言ってるの? 普通に考えてギターの練習する為に来るんだよな? 練習もしない俺が来る意味ありますか? あ! 有咲との仲を戻さねば。
「こいつ要らねえだろ?」
「じゃあ私、誰にギター教わればいいの? それにバンドの事も聞く人居ない……」
「いや誰が教えると言ったよ。俺は考えるしか言ってない」
「そうだよ。こいつにギター教わったら大変な事になるぞ」
それは遠まわしに下手くそと言っているのか? え? 待てよ、ここはめんどう事を避けるチャンスだ。
「それに誰もギターやってるなんて言ってないだろ」
「え?! そうなの?!」
「嘘つくな。ギターやってるだろお前」
しまったー! 全部知ってる奴が居たー! 墓穴掘ったのはこっちだったかー!
「それに最近はtwisterで動画もあげてるクセに」
なんでそんなことまで知ってるんだよ………。
「じゃあ教えてよ! 良いでしょ~。減るもんじゃないし」
「いや来るなと言われてる時点で無理なんだよ」
「お願い有咲! 一番近くに居るのが恵君なの! お願い!」
「やだよ! こいつ嫌いなんだよ!」
そんなドストレートな………。それからも戸山の説得が続いた。その分だけ俺のメンタルはやられたのは言うまでもない。俺のライフはとっくにゼロだよ……。
市ヶ谷家の蔵をあとにした俺と戸山は帰路についていた。戸山はギターを肩から掛けて両手で持っている。厳重だな。
「なんかごめんね」
「いいや……」
結局俺は市ヶ谷家を出入りするのが許されたけど、必要ない事以外話し掛けるのは禁止。名前で呼ぶのも禁止。朝来るのも禁止だそうだ。結果仲直りなんて夢のまた夢になった。
「恵君と有咲ってどうしてそこまで仲が悪いの?」
「いろいろあってな……。あっ、それと昨日は悪かったな」
「え? あ、うん。私も勝手に家行っちゃってごめんね」
悪いのは俺だ。戸山はなにも悪くない。格好悪い所も見せちまったしな。
「いや、悪いのは俺だけだ。それとこれ、昨日のお詫び」
鞄からパンの入った袋を取り出し戸山に渡した。それを受け取り中を覗く戸山。
「チョココロネ?! ありがとう!」
「おう。………どうしてバンドやりたいんだ?」
俺はずっと疑問に思っていたことを聞いた。ギターが好きなのはあれで痛い程伝わった。だけどバンドはわからないままだ。
「ん~。このギターもそうだけど、グリグリのライブ見てこれだ! って思ったの。キラキラしててドキドキして」
・・・・なるほど、なるほど。よくはわからん。だけどこれだけはわかった。単純に興味が湧いてやってみたくなったから。間違ってるかもれないけど、だいたいは合ってると思う。
俺も同じようなものだから。
「どうして恵君はギターやり始めたの?」
「そうだな~。やっぱお父さんがやってて、俺もやってみたくなったってところかな」
「そうなんだ!」
その時───ふと思いだした。なんで俺がギターをやろうと思った“本当”の理由を。
俺がギターを始めようと思った時、ちょうど有咲がピアノを始めた頃だったのかな? 有咲と出会ったのはその時。
いつもとは違う道で帰っていた時に道に迷った。つまり迷子ということ。あちこちに歩いたけど、ダメだった。
そんな時、全然笑ってくれない有咲に出会った。どこに行けばどう出るか教えてもらい、その時はそれで終わった。それをお母さんに話したらお礼にお菓子持って行きなさいって言われて持っていった。
それからたまに有咲の家に行くようになったんだけど、有咲は人前だと全然笑ってくれなかったんだ。
だから俺は有咲に笑ってほしくてギターをお父さんから借りて一生懸命練習した。
手を怪我しようが、出来なかろうが頑張った。
そして……あの時の有咲から言われた一言で続けようと思った。すっかり忘れてたけど。
『他にも練習して聞かせてよ! 恵のギターもっと聞きたいから!』
あの時の有咲の笑顔を思いだした。あれでやっと笑ってくれたんだ。その時は心が嬉しい気持ちでいっぱいで、飛び跳ねそうだったのを今でも覚えてる。
「なにやってるんだ? 俺は……」
戸山に聞こえない声でそう言う。
「なにか言った?」
「いや。なあ戸山」
嫌われてもいい。
「もし俺で良かったら」
悪口を沢山言われてもいい。
「ギターの事もバンドの事も“本気”で教えるよ」
また有咲が普通に学校生活を送れるようになってほしいから。
「本当に?!」
「ああ。だけど条件がある」
「条件?」
もう2度と裏切られるなんて目にあってほしくない。実際のところ裏切ったのは俺って事になってるけどそれでいい。有咲にはずっと笑顔で居てほしいから。
「1つ目は文句は俺にいくらでも言ってもいい。だけど弱音は吐くな」
誰だって文句は言いたくなる。だからせめて弱音は吐かないでほしい。人間天才以外はすぐに出来る訳じゃないから。少しずつ少しずつ弾けるようになればいい。
「2つ目はずっと有咲の友達で居てくれ」
せっかく出来た友達だ。有咲にはこれからどんどん友達を増やしていってほしい。こんなめんどくさがり屋なんて要らないくらいに。
「3つ目はバンドの仲間は自分で集めてくれ。この人と一緒にやりたいって思える人を探せ」
これはお父さんの受け売りだけど、バンドをやるときに今のメンバーとバンドをやりたいから始めたと言っていたからだ。
まあ普通に考えて一緒にやりたくない人とやっても楽しくないよな。
「わかったか?」
「うん!」
この瞬間──俺は決めた。
もうこの現実から逃げない。
起こってしまった事は仕方ないから。
裏切られる気持ちが俺にもわかった今なら……何をすれば良いか判断が出来る。
この時はそう思っていた。
新たに高評価くださった斬破刀・真打さん、とんこつカカオさん、十六夜師匠さん、ジャンヌ・オルタさん、ティガーさん、ミラネさんありがとうございます!