BanG Dream!~あの時の約束~完結 作:レイハントン
「本当に大丈夫か? この作戦」
「大丈夫! 大丈夫!」
「そうは思えないから言ってるんだけどね」
俺は…いや、俺達は朝からやまぶきベーカリーに居る。店内ではなくて外に。ここである人が来るのを待っている。なぜ朝からここに居るのかと言うと、まあ簡単に言うと牛込さんの件だ。帰る途中に戸山がどうしても牛込さんと話したいって言うからこういう方法をとった。
山吹に聞いた所、牛込さんはほぼ毎日朝、やまぶきベーカリーにチョココロネを買いにくるそうだ。よっぽど好きなんだろう。俺も金があれば毎日メロンパンを買いにくる。どこの青いタヌ……ネコ型ロボットの妹だ! って言いたくなるだろうが、ここはぐっと抑えてほしい。どら焼きも美味しいよな。
って事でメロンパンを買う代わりに牛込さんが来たらある物を渡してほしいと山吹に頼んだ。何が入ってるかは俺も知らん。なに聞いても教えてくれない。例えば……
「なに入ってるんだ?」
「秘密ー」
「その茶色い箱の内側には何があるんだ?」
「だから秘密だって!」
「一回内側と外側ひっくり返してみないか?」
「しないよ!」
まあこんな感じでまるで中身を教えてくれない。最後に有咲からうぜえから死ねとメンタルブレイクされたのはまた別の話。
「来たよ!」
「大声だすな! 見つかるだろ!」
「そう言うお前が一番声でけえ。それと早く土に還れ」
「それは遠回しに俺に死ねと?」
全く~。死んでほしいなら、死ねって! 言ってほしいよね~。その方が心の傷を抑えられるのに………。つうか土に還れってなんだよ! 俺は土の肥やしでも肥料でもねえぞ! どっちも一緒か。
「お前存在がうるせえ」
「それはどうにも出来ないから、言わないでもらえます?」
「喋りかけるなよ。契約違反」
「俺のは独り言だ」
こんな低レベルな会話をしていていいんだろうか………。少しすると牛込さんが例の茶色い箱を持って出てきた。そして気がつけば戸山の姿はなく俺と有咲の2人だけ。相変わらず行動が早いアクティブ系。もはやアクティブ関係ないんじゃないかと思うくらい。
すると有咲は戸山の元に向かって歩いていった。俺は有咲の後ろについていく。牛込さんが山吹に渡された箱を戸山のせいで落としてしまったので、それを有咲が広い牛込さんに渡した。
「作戦終了~。ふぁ~。帰る」
あくびをして言うと有咲は来た道を戻り始める。
お早いお帰りですな~。来た意味~と思うのは俺だけでしょうか。
「え? 今日行く日って」
「疲れた」
出たよ疲れた。俺もよく使うぞ。疲れた。ダルい。めんどくさい。この3つの言葉は俺の三点セットだ。こんな三点セット要らねえとか思ったそこの君! 意外と使えるだぞ。
「あいつはほっとけ。ああなったら言うこと聞かねえし」
「うん……」
「香澄ちゃん……。と…えっと…」
有咲を遠目で見ていると後ろから視線を感じ、振り返る。そこには俺と戸山を交互に見る牛込さんの姿が。そういえば自己紹介してなかったな。
「花咲川高校に通ってる神山恵です。えっと、話は戸山から聞いてるのでお気になさらず」
「は、はい。牛込りみです。よろしくお願いします」
「これはこれはご丁寧に」
牛込さんが礼儀よく頭を下げてくれたので、俺も頭を下げた。そして話は本来の話に戻った。もともとバンドの話をするために山吹に協力してもらったわけだし。
「ごめん。やっぱりちゃんと聞きたくて。無理に誘っちゃったのごめん」
戸山はどうしても無理に誘ったことを謝りたかったらしい。確かに悪いことをしたら、謝るのが一番いい。俺もそれならとこうしてお金を算出して手伝ったわけだ。後悔はない……と言ったら嘘になる。
「でも、バンド自体は嫌じゃないって言ってたから、なにかあったのかなって」
それも戸山が気にしてたことの1つだ。真剣に話す戸山だが、話せば話すほど牛込さんの表情は暗くなり、箱を抱きしめる強さも強くなっているような気がした。
「りみりんと話すの楽しかった。ライブの事とか、バンドの事とか。いろいろ教えてもらってドキドキした」
いや、気のせいじゃない。箱を抱きしめる力は強い。牛込さんは戸山の言葉でどんどん締め付けられてるような感じだ。これ以上喋らせていいものか。止めるか止めないか考える。
「りみりん、出来ることがあったら言って。私、一緒にやりたい。りみりんのお姉さんみたいにあそこで───」
戸山が言い終わる前に牛込さんが口を開いた。
「ごめんなさい……」
声は小さく、表情はさっきよりも暗い。そして何度もごめんなさいと言い続けやがて、牛込さんの瞳から涙が零れ始めた。一滴一滴が地面にポタポタと零れ落ちる。
「ごめんなさい……ごめんなさい」
「りみりんごめん! ごめんね! 言いたくなかったら全然」
「違う……違うの!」
すると牛込さんは振り返ると走って行ってしまった。手を伸ばす戸山だったが、届くはずもなく、俺も戸山もただ小さくなっていく牛込さんの背中を見ることしか出来なかった。
いったい何が彼女の心を締め付けているのだろう。戸山の話と見た感じだと、バンドという言葉に反応したとも思える。
全く………目の前で女の子が泣いてたのに何にもしないなんて…やっぱ最低だよな…俺。だけどあの状況でどんな言葉をかけてあげれば良かったのか、わからない。
だけど前にも同じような経験をしたからあれだけならわかる。元気がない相手への接し方なら。
「行くぞ戸山。学校遅れる」
「うん………」
頷くと牛込さんが走っていった方に歩き始める。俺はその隣で落ち込む戸山を横目で見ていた。
元気とポジティブ思考だけが取り柄と言っても良いぐらいの戸山がかなり落ち込んでいる。正直それも仕方ない。友達が泣いて走って行ってしまったのだから。
「元気だせよ戸山。さっきので話は終わりじゃねえだろ?」
「…………りみりんを泣かせちゃった……。やっぱり迷惑なのかな……?」
「バカ」
俺はそっと戸山の背中を叩いた。
「え?」
「あれで終わらせる気か? こういう時こそ、普段みたいに接してやるんだよ。変に気遣ったら余計に牛込さんが苦しくなるだけだ」
「………わかった。もう少し頑張ってみるね!」
無理やり作った笑顔で答える戸山。なんとなく心からの笑顔ではないことがわかった。長年、人の機嫌伺ってるとわかるもんだよ。
見ちまったもんは仕方ねえよな。俺もどうするか考えてみますか。見てみぬ振りはもう終わりだ。最低な事をしちまった以上、その罪を償わなくちゃいけない。
放課後。戸山との待ち合わせ場所の花女に向かった。
1日考えてみたけど、こればかりは考えてもどうにもならなかった。ならなかったと言うよりも、牛込さんは本当にバンドをやりたくないから泣いたのか。それとも他に別の理由があって泣いたのか。理由さえわかれば解決出来るんだけどな………。
遠くから見ると、校門の近くにはすでに戸山が待っていた。ちょうど帰りなのか、ぞろぞろと花女の生徒が出てくる。なんか嫌だな~とも思ったけど、待たせるわけにはいかないため、少し駆け足で向かい戸山に話かける。
「悪い。待ったか?」
「ううん。そんなに待ってないから大丈夫だよ」
「そんであの後はどうなった?」
とりあえず状況確認。
「あんまり話してないかな~。だけどいつも通りで居たよ!」
「本当か? それ。まあ後で山吹に聞けばわかることだ」
「大丈夫だよ~! そうだ! 今日はなに教えてくれるの?!」
そんな目を輝かせるな。ギターは逃げないし、俺も逃げない………たぶん。ほら、たまにあるだろ? めんどくさくなる時が。それだよそれ。どれだよ……。
早くギターの練習がしたいのか有咲の家の蔵に向かう戸山の歩く速度は朝とは比べものにならないくらい早い。それだけ練習したいってことなんだろうけど。
2人で並んで歩いていると、見たことある人と外人の人が話していた。あの後ろ姿は牛込さん? あれってよく英語の教科書とかで見る展開か?
「どうしたの?」
「マジか。道聞いてんじゃねえの?」
するとなにを思ったのか戸山が口を開く。
「あっ! ハローアイム香澄! アイムギタリスト!」
「「Watt's?」」
いや俺もWattsだわ。なに言ってるのこいつ? みたいな顔されてますけど。それにしても外人か~。英語で話せるかな………。
結局結論から言うと案内は出来た。結構時間かかった上に英語を理解するのも大変で、フィーリングでどうにか出来た戸山が凄い。人間勢いとフィーリングって結構大事なのかもな。それと勉強不足を感じられた瞬間でもあった。
外人の夫婦を案内した俺達は公園に着ていた。そこで少し牛込さんと話したいっていう戸山の要望だ。辺りは有咲の家に久しぶりに行った時のようなオレンジ色に染まっていた。
「案内出来て良かったね」
すべり台とすべり台の間の階段に戸山と牛込さんは座っている。俺は後ろで2人の背中を見ていた。
「私、すぐに固まっちゃうし、テンパっちゃって………。格好悪い……」
うつむいて話す牛込さん。またまた何を思ったか戸山がよくわからんタイミングで可愛いよ、と告げる。牛込さんは首を左右に振る。まあ、いきなりそんなこと言われたら困るよな。戸山の謎の言動の1つとしよう。
「香澄ちゃん凄い……。自己紹介とかバンドの事とか、全部一生懸命で………」
牛込さんの言葉からはどこか羨ましさを感じた。俺も戸山の凄いと思うことは多々ある。ポジティブ思考なところとか、誰とでもわけ隔てなく接することが出来てるところとか。バカなのか? とか言ってるけど、そう思うことだってある。
「香澄ちゃんがバンドに誘ってくれて、本当に嬉しかった」
意外にもバンドに誘ってくれたことは嫌じゃないらしい。そしたらいったい何が牛込さんにバンドをやりたくないと思わせてるんだ?
1人考えるなか牛込さんは話を続ける。
「でもステージに上がるの怖くて。みんなに見られてると頭真っ白になって……お姉ちゃんみたいにカッコ良く出来ない……。間違えたら迷惑かけちゃう。きっと……がっかりさせちゃう」
その考えはちょっと待っただ。
「俺はそうは思わないけど」
突然喋ったからか、2人が一斉に俺のことを見る。
「ステージっつうか、人前に立つと頭真っ白になるのは、牛込さんだけじゃない。俺だってそうだ。君のお姉さんだって、最初はそうだったと思う。だけど慣れて行くんだ。そこが人の怖いところだよな」
これは俺なりに考えたこと。誰だって初めてやることは、心配だし失敗だってある。だけど失敗したからって必ずしも迷惑になるとは思えない。高校生ならなおさらだ。社会に出たらダメなんだろうけど。
バンドは間違っても他の人がカバーしてくれる。いつだって完璧に出来るとは思わないから。間違ったことに対して文句を言うなら別の人と組めばいい。簡単なことだ。
「あんまり気にしてもしょうがねえよ」
「そっか」
「………ごめんね」
「ううん!」
牛込さんは戸山に謝った。やっぱりバンドはどうしても出来ないらしい。
すると戸山が立ち上がり、スカートについた砂を落とすと階段を上っていき俺の隣に立つと牛込さんに向かって言った。
「りみりんとまた話せて良かった!」
次になにをするかと思えば戸山はすべり台を滑った。
「はぁ~~。やあ!」
「やあじゃねえよ……。お前は何歳だ?」
「16歳!」
「真面目に答えるんかい!」
今時すべり台で遊ぶ16歳なんて見たことがない。すべり台を滑った後の戸山の笑顔は無邪気だった。そんな真っ直ぐな笑顔を向けられるのも戸山の凄みだと、俺は思う。優衣みたいに偽りの笑顔じゃなくて。
牛込さんと別れて蔵へとやってきた。学校に行ってない(つまりサボリ)有咲に今日の出来事を伝える戸山。だけど………
「3人でね。英語喋ってね」
「へぇ~」
「バンドが出来ない理由もちゃんと聞けてね」
「へえ~」
まるで興味なし。盆栽の世話で忙しいらしい。盆栽の世話ばっかりしてるから友達増えないんじゃないか?
「凄いんだよ! 恵君ギター以外にも英語出来るんだ!」
「ギター以外にも取り柄あったんだな」
「待て待て。ギター以外取り柄ないってどういう事だ?! つうか戸山、さりげにバカにしただろ」
人って凄いな。ある強いイメージがつくと、それ以外が霞んで見えてしまうんだから。一番刺さったのは有咲の言葉なのは内緒。
「だから2人で頑張ろう!」
「へぇ~……え?!」
ん……2人? 誰と誰だ?
「日曜も楽しみ~。りみりんもライブ行くって。あっ! さーやも誘おうかな。待ち合わせ16時半でいい?」
次々と話を進めていく戸山。まさに人の話を聞かないという象徴だ。そしていつものパターンだと俺も誘われるだろう。
「行く前提かよ!」
「行かないの?」
「い、行かないとは言ってない」
「有咲難しい~」
それは会った当初は思った。徐々に慣れていくから大丈夫だ戸山。まだ誘ってくんないの? このままだとガールズバンドに興味ある人になっちゃうじゃん。
「ねえねえ、このc6のコードどうやるの?」
「c6は人差し指が1弦、薬指と中指が2弦で……小指が、3弦だ」
「こ、こう?」
「違う違う。こうやんだよ」
自分のギターを椅子に置き、戸山の横に移動して、c6のコードのやり方を教える。
「いいか? 人差し指が1弦のここ。薬指、中指が同じ2弦だから少しズラして押さえる。で、」
「痛いんだけど」
「小指が3弦のここ。指が痛いのは仕方ない。そのうち慣れるさ。俺も慣れたし」
「わかった」
どこが驚くって、これを一瞬でやってまた別のコードを押さえないといけないんだよな。それが出来るようになるのはまだ先かな。
「それとギターやってると血豆とか出来たりするから、早めに治せよ。庇ったりすると変な癖つくから」
「うん! 気をつけるね!」
「それと毎日10分でもいいから練習すれば、いつか自分の力になる。継続力は力なりって言うだろ?」
「大丈夫! 10分どころか1時間くらい弾いてるから!」
お、おう。長続きしなさそうな戸山がそんなに練習してるなら大丈夫そうだな。昨日よりは戸山が首を傾げる回数は減ったから、少しは教えるの上手くなったか? こっちもわかりやすく教えられるように毎日勉強だ。
(昨日より教えるの上手くなってるじゃん。あいつまだ自覚してないのかよ……。自分が天才だってことを)
明日が俺にとっても、戸山達にとっても忘れられない出来事に巻き込まれるとは思ってもいなかった。
新たに高評価くださった、賀茂ノ端さん、藤代凡人小隊長さん、弥未耶さんありがとうございます!