エリアEUに存在する、名などすでに忘れ去られた旧市街。
空は重金属雲により常に暗く、意思無き機械人形がこの街を守る。
それらはかつて、『エルフ』と呼ばれ、人々に恐れられていた。
二本の足と一対の手を持ち、『人類無き戦争』に従事したそれは、外敵に対し、狂気的なまでの武力を持って討伐するのだ。
名にあわぬ姿と力を見て、人々はきっとこう思ったことだろう。
彼らは恐れているのだろうか。
自分達の存在する理由が消えることを。
『人のいない戦争』が忘れ去られることを……と。
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太陽灯の強烈な光に照らされたネイトは目を覚まし、少しベッドの上で体を転がしてから体を起こした。
つい先日から使うこととなった、この硬いマットレスにはまだ慣れない。
高すぎる枕にも、煎餅布団にも、この部屋にも。
九十度体を回し、少しぼんやりとした意識のまま体をベッドからおろす。
今日着る予定の服は昨日給仕ロボに用意させていたはずだ。もう用意は済んでいるはずだろう。
ネイトはベッド脇の冷蔵庫の戸を開け、中を覗き込んだ。
これは前の住居から持ってきた数少ない家具の一つだ。それら以外は全て焼けてしまった。
何で傭兵なんてしているんだろうな。こんなきつい仕事なのに。あ、バター切らしてる。
そういえば明日は終戦記念日か。メールの準備どうしようかな。
取り留めの無いことを考えながら冷蔵庫の中をあさる。
あ、このドリンク今日で期限切れか。
ネイトはトルピーラドリンクのボトルを取り出し、戸を閉めてからシャワーを浴びに部屋を出た。
十五分ほどかけ、いつもよりいくらかマシといえる姿になったネイトは、給仕ロボに服をもってこいと命令した。
ロボットは彼の命令の意図をいくらか汲み取って行動し、ネイトが体を拭き終わるタイミングを見計らってバスルームの戸をあけた。
両手にはTシャツとズボンとジャケットが握られている。どれも古いものではあるが、昔から使っていた代物だ。
ネイトがそれらを5分で着終えると、「そろそろ出発の時間です」とロボが伝えた。
ああ、そろそろ時間なのか。
やっと見つけたトルピーラドリンクをのどに流し込み、ネイトはボトルをダストシュートに放り投げた。
「本日の、天気は、晴れ、後、雨。重金属酸性雨に、注意。いってらっしゃいませ」給仕ロボが機械的に淡々と告げる。
ネイトは扉を開け、ロックがかかったことを確認すると、部屋を後にした。
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この時代の傭兵にとって、数日間泊り込みの仕事は珍しい。
大抵は二週間から一ヶ月であり、エルフやGAIDAからの防衛なら数ヶ月も良くあること。
そんなことだから、数日ですむことなどほとんど無い。
例外は旧時代遺跡の調査……それも市街地に近いものくらいである。
今日からの仕事はその例外、旧市街地の調査であった。
「ミッションを説明する。今回のミッションはエリアEUの旧市街地調査団の護衛だ」
手元の携帯端末からなじみのオペレータの声が響く。心なしかいつもより硬いイメージをネイトは持った。
「まあ、露払い兼肉壁というほうが正解だろうがな。あっちもお前には期待していないようだった」
冗談めかせ、肩をすくめてオペレータは言う。
「いくらコイツの装甲がクソ雑魚だからってオペレータがそういうのは納得いかないな」
ネイトは不満を口にするが、オペレータはその言葉が聞こえていないように続ける。
「ノーマンズ・ウォー時代のエルフがまだ残っているという情報もある。注意しろ」
仕事が優先なのはわかるが、さすがに納得がいかない。
それ俺以外でやったら絶対消されるぞ。
「以上、作戦の説明を終了する。文句は後で聞くぞ」
「じゃあ今言わせてくれ」
「ダメだ」
おい、と言うネイトの言葉すら待たずに通信は終了し、端末は何も言わぬ黒い板と化した。
言いたいことだけ言ってそのまま消えやがったよ畜生。
まあいい。けっこう前に当たったオペレータ見たく、延々と出撃前までペラペラ話し出すよかマシだ。
ネイトはパイロット控え室の扉を開けた。誰もいないからか、空気は完全に冷えてしまっている。
どこに行ってもここはあまり代わり映えがしないな。しても困るが、たまにはロッカー以外ある部屋にもお目にかかりたいもんだな。
一部の依頼主は待遇もよく、レクリエーションルームなどもある施設にパイロットを待機させると言われているが、ネイトは今までそんなものを見たことが無かった。
やはりアレはうわさ程度に考えるのが良さそうだな。
ネイトは適当なロッカーからパイロットスーツを取り出した。
黒の地に青の接続用パーツの乗っている標準的なものだ。くたびれて継ぎの当てられているそれは長年使われていることをそれとなく示している。
ネイトはパイロットスーツを大きく開け、アンダーウェアだけになるまでに服を脱ぎ、ロッカーに服を投げ込んだ。
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雑多に物の置かれたハンガーでは四機の防術機が整備を受けていた。
どの機体も空を見上げ、骨にまとわり付く装甲を脱ぎ捨てた姿で屹立している。
周りには整備士達があわただしく動き回り、ユニットを剥ぎ取っては整備を始める様は、大きな獲物に群がる蟻を想起させた。
ネイトはグリードの担当整備士を見つけると、今どれくらいのところまで整備が進行しているのかを聞くために駆け寄った。
「整備の状況は?」
ネイトに状況を聞かれた男はユニットから視線をはずさず、「後30%ほどだ。バランサーの調整したから後でテストいるぞ」と答え、左手でグリードのコックピットを指した。
「FCS調整終わって組んだら呼ぶから、それまではゆっくりしていてくれ」整備士はそう言いながらテスターを取り出し、ユニットの通電をチェックし始めた。
「どのくらいかかりそうだ?」その質問に対する答えを聞き、ネイトは驚いた。
せいぜい50分ほどしかかからないであろう整備なのに、二時間弱もかかると答えられたからである。
確か前回は装甲二枚と左足のシリンダーしか壊さなかったはず……ユニット交換でどうにかなるはずだ。
ネイトは男に、どうしてそうなったのかを聞いてみた。
「整備ロボのほとんどが別んとこに借り出されてんだ。何でも急ぎの用だってんでな」
内部の基盤を取り出し、予備パーツと交換しながら男は答える。
その口調には『忙しいからどっかいっててくれ』という意図がこもっているようであった。
見れば確かにいつもは数十体いるはずのロボがほとんどいない。
「それで今日は人が多いわけか、納得した。」
これ以上邪魔をしてはいけないな。そう思ったネイトは、ハンガーを後にする決意を固めた。
「ま、気長に待つことだな」
整備士はそういうと、机の上の端末を取り、操作しようとしてからすぐに手を止めた。
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違法建築めいた構造の急造ブースターを載せた防術機が四機、カタパルトに乗せられて立っていた。
周囲では整備員がブースターと機体の最終調整を行い、パイロットはブースター各部のジンバル機構や、フラップの確認をしながらミッションの開始を待っている。
上下左右、ロール軸で各部品は身をよじるようにして稼動し、それが一機、また一機と止まるにつれ、カタパルト各部では偏流板が立ち上がっていった。
そして整備側からのOKサインが出る。
指揮官は言った。
「ミッション開始。旧市街地調査団に先立ち、残存エルフを全て撃破する。各機、準備は」
ネイトとヒュペルボレアのパイロットが答える。
「V4、すでに完了している」「V3、OKだ」
それから一拍遅れ、ライドガンナーのパイロットも「V2、終了した」と答えた。
リロードのパイロットは3人が準備完了したことを確認すると、オペレータと指揮官にノーティスを返した。
通信のラグの後指揮官は了解し、カウントダウンを開始した。
「作業員は全員退避せよ!」パイロット以外皆退避済みのカタパルトにいくらかにごった声が響く。
「カウント開始、8!」「7!」カタパルトのランプが点灯を始める。
まずは赤い光が。そして射出先の安全が確保されると緑の光が。
「6!」「5!」「4!」ウィンウィンという音とともにブースター内部の燃料ポンプが起動し、点火初期用の燃料が噴霧器に送り込まれ始める。
防術機との接続部では冷却機構が開放され、腕部に外付けされた対加速ユニットが展開し、射出に耐えられる状態を作り上げる。
「3!」「2!」ブースターのジンバルが初期位置にロックされ、射出準備が完了する。
「1!」後はもう、飛んでゆくだけだ。
力を込め、指揮官が叫ぶ。
「全ブースター、イグニッション!」
カタパルトによる圧倒的な加速力と、ブースターの殺人的な推進力により、四機の防術機は数秒にして視界から消えた。
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下に見える海は見通せぬほど深く黒く、灰色の空は太陽の光により金属めいて鈍く輝いていた。
時刻は出撃から二十分後。ブースターの第一弾燃焼がほぼ終了し、機体は目的地が見えるほどの距離にまで近づいていた。
傭兵達は燃焼が終了したことを確認すると一段目をパージし、予備点火固体ロケットを起動する。
二段目燃料に十分な圧がかかり、タンクからパイプへと高速巡航に耐えるだけの流量が確保されると、二段目エンジンが点火された。
基地からのノイズ交じりの通信が傭兵達の機体に届く。
「後三分で到着だ。逆推進ロケットの準備をしておけ。タイミングはこちらで指示する」
「了解」の声が四度響き、ブースターの轟音のなかに溶けて消えた。
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パイロットたちは逆推進を終え、着陸を残すのみとなった。
円柱の液体燃料タンクが並んでいたブースターは道中ですでにパージされ、残っていた接続パーツは逆推進ロケットがパージされるとともにねじ切れて落ちた。
機体の下にはフレームの見える建造物が立ち並び、割れた道路が誰を迎えるでもなく横たわっている。
「各機、状況報告を!」
現場指揮官に任命されたリロードのパイロットが命令する。
ライドガンナーとヒュペルボレアのパイロットは自機と周囲に異常が無いことを報告し、ネイトもそれに続いて異常が無いことを報告する。
数拍の後それを聞き終えた現場指揮官は、倒れた幹線道路脇にある少し広めの土地に着陸することを決定した。
基本的に四肢を使って移動する防術機において、空中は最大の敵である。
スラスタを用いた機動は第四世代機でもない限りほとんど出来ないため、三次元機動の難しい防術機は空中だとただの的となるからだ。
ゆえに降下する場合は、何かの影に寄り添って降下することが基本となる。
それはHALO降下が基本のこの時代に、性能の都合で低高度からの降下しか出来ない防術機特有の問題であった。
パイロットたちはスラスタから青い炎を吹かせ、地上の重金属粉塵を飛ばしながら着陸を終えてゆく。
コアの強力な通信機はその着陸状況を刻々とリロードに送信し、重金属粉塵が落ちたころ、送信は終了した。
現場指揮官は次なる命令のため、とりあえずは固まって移動するべきであると3人に伝えた。
それから少し間を開け、「ヒュペルボレアを前衛、ライドガンナーを後衛とし、グリードとリロードがその中継をしながら移動する」と命令を下し、残存エルフ捜索のための進行方向を伝えた。
全機体のスラスタの出力が上昇し、ホバーに近い状態に機体を持ち上げる。
これは防術機が移動するときの基本状態であり、この状態から脚部またはスラスタを使用して前進する。
第二世代機は脚部を用いるものが中心で、その速度は時速200キロほど。
しかし第四世代はスラスタがメインとなり、早いものでは時速340キロにまで届く。
ヒュペルボレアのパイロットは幹線道路脇から通りへの交差点のビルの前で一度機体を止め、後ろの機体の状態を確認してから、一気に機体を角から出した。
重金属粉塵と道路に落ちた細かい瓦礫がヒュペルボレアを迎えるように持ち上がる。
パイロットは現場指揮官に短く「クリア」とだけ伝えると、さらに前へと進むために道路を蹴った。
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ネイト達の着陸から一時間ほどが経過し、未捜査面積は30%ほどとなった。
幹線道路わきから開始された捜査は大通りをたどるようにしてだんだんと細い道路へと辿る方式で行われ、何十回目かのクリアリングを完了したヒュペルボレアのパイロットは、またなのかという様子で「クリア。」と言った。
これで未捜査なのはFB番のルートだけとなり、現場指揮官は三人に気を引き締めるようにと伝えた。
ヒュペルボレアのパイロットはスラスタを止め、機体を180度回転させるために足でブレーキをかける。
状態の悪い道路がその運動エネルギーに耐え切れず陥没し、パイロットはあわててスラスタの推力を上昇させる。
右足がすねまで落ちたところで落下は止まり、機体を接地させることは危険だと判断したパイロットたちは機体の最低接地可能圧のパラメータを低めのものへと変更しようとした。
そのときである。
つい先ほどヒュペルボレアが陥没させた道路を突き破り、六機の機動型エルフが飛び出してきたのだ。
その黒い体は弾丸のごとくヒュペルボレアに齧りつき、装甲を自らの刃で削り、穿ち始める。
ヒュペルボレアは機動型エルフとの衝突にバランサーが耐え切れなくなり、右足を上空に振り上げるようにして左半身から地面へと転がり落ちた。
周囲に漂っていた重金属粉塵が再三舞い上がり、その衝撃により再度陥没した道路は、ヒュペルボレアのシールド捕らえて離さない。
「エルフだ!エルフが出た!」ヒュペルボレアのパイロットは叫び、現場指揮官たちはそれから数拍遅れ、基地にエルフ発見の報告を行った。
それからすぐに、悲鳴のような甲高い音が周囲一体に響きはじめた。
いままでの経験から、彼らはヒュペルボレアがエルフからの攻撃にあっているのだと直感し、救助すべく道路を右へと膨らむようにして曲がった。
いち早く現場へと突入したリロードは、一瞥しただけで状況を理解し、すぐに機動型エルフに向けた射撃を開始した。
十発、二十発と撃ったところでグリードが追いつき、射撃を始めるが、数十発撃ってもエルフは止まらない。
ライドガンナーが追いつき、火力支援を開始するが、それでも結果は同じであった。
各個撃破の形に持ち込まれつつあると現場指揮官は直感する。
1マガジン分を打ち切ったリロードはすぐに再装填し、ライドガンナー以外で機動型エルフの中へと突入するとネイトたちに命令をした。
今度はグリードが先に到着し、地面に転がっているヒュペルボレアにまとわり付く機動型エルフ二機にタックルをして引き剥がす。
仰向けとなって離れた機動型エルフにライドガンナーは容赦なく弾丸を打ち込み、先ほどからの射撃でダメージが限界を迎えていた一機は爆発四散した。
強烈な爆風の直撃により、数瞬エルフの動きが止まる。その隙を見計らい、リロードとグリードはヒュペルボレアから機動型エルフを引き剥がしてゆく。
「すまん!」短くヒュペルボレアのパイロットは礼を返し、左腕を自らの武器で打ち抜いて分離させた。
ライドガンナーは後方から支援射撃を行い、機動型エルフの装甲に確実にダメージを与え、ヒュペルボレアが状態を整える時間を稼ぐ。
「V3!お前は下がれ!」短い質問を現場指揮官は発し、応答を待ちながら射撃を行う。
ノイズ交じりの通信がヒュペルボレアから返り、後退する姿を見た現場指揮官は、後のことをライドガンナーに任せ前衛代理として機動型エルフへの乱戦をはじめた。
この状況は痛いな。現場指揮官は思った。
リロードは第二世代だが、後退のできる珍しい機体だ。
しかし乱戦向けではないため、左右スライドは搭載されていない。
ヒュペルボレアのように、前後左右に自由に動けるのはほんのわずかな第四世代機ぐらいなのだ。
リロードの視線が周囲を回っているエルフを一瞬捕らえるが、すぐに離される。
それに伴いリロードの弾も一発だけエルフに命中するが、残りは何もない場所を数度射撃した。
これは一度引くべきだな。
現場指揮官はそう判断し、ネイトに撤退の支援を任せると、エルフに背を向けて前進した。
リロードはまっすぐ自分へ向かってくる機動型エルフに、後方カメラを使用した引き撃ちで射撃をする。
五十発全てが命中し、二機の機動型エルフを機能停止に追い込んだところで、使い切ったマガジンがオートで落ちた。
現場指揮官は再装填のために前方カメラへと切り替える……そしてそれと共に地面に大きな衝撃が走った。
一瞬のノイズの後に彼の目に映ったのは、黒く光る四脚型のフレームが彼に飛び掛る様であった。
現場指揮官の叫びが通信に乗り、バランスを崩してリロードが地面へと倒れこむ。
ぎゅるぎゅるという音とともに先ほどヒュペルボレアへと齧りついていた刃が右腕を襲い、装備していたマシンガンを破壊し爆散させた。
「畜生が!」リロードは腰部に装備していた予備のマガジンを手に持ち、自分にのしかかる機動型エルフへと叩きつける。
薄いマガジンのフレームはすぐにゆがみ、中に蓄えていた弾薬をあたりへと放り出しながらエルフの装甲にいくらかの凹みを作り出す。
しかしすぐに別の機動型エルフがリロードに飛び掛り、右腕部の動きを封じる。
脚部だけはまだ自由だが、この質量を上に乗せていたのではまともに動くことが出来ないだろう。
ヒュペルボレアを逃がしていたグリードはすぐにリロードの元へと駆け寄り、リロードの作った凹みに向けて数十発ほど打ち込む。
数発で凹みから穴が開き、内部に20発ほどの弾丸を受けた機動型エルフ一機は機能停止し、その場に力を失ってへたり込んだ。
その間にもう一機の機動型エルフはリロードの右腕部を破壊しつくし、胴体部へと刃を移動させていた。
グリードはすぐに機能停止した機動型エルフを引き剥がし、十から二十発の弾丸をリロードに齧りつく機動型エルフに撃ち込むと、左から来ていた残りの機動型エルフを回避するために一度後ろへと下がった。
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「こちらV1。エルフを全て撃破した。」
現場指揮官のリロードはその言葉をノイズの入った形で基地へと送信する。
それの右腕は千切れ、左足の装甲をもぎ取られ、胴体のフレームが覗いている。
コクピットが一部見えているその姿から、どのような戦闘であったのかがうかがい知れるというものだ。
指揮官は少しの沈黙の後、「了解した。回収地点のデータを送る」とだけ返し、その直後から通常回線でのゆっくりとしたダウンロードが始まった。
遅々として進まないシークバーを前にして、軽い口調で現場指揮官は言う。
「これで仕事はお仕舞いだ。400万Brの依頼だけあって結構きつかったが、終わってみればどうって事無かったな」
気を抜いてやりたいのか、ただ単に終わって安堵しているのか。
まあいい、ここは一番つらかったであろうアイツに乗ってやろう。
ネイトも同じように、「ああ、お前のお守りで手一杯だったよ」と冗談口調で返す。
ヒュペルボレアとライドガンナーのパイロットが笑い、「お前が言えるかよV3!」と現場指揮官も笑いながら返す。
はははという笑い声が通信回線に乗って互いのコクピットに響き、そのうちそれは楽しげな話へと姿を変えた。
通信は今までに無く頻繁に途切れ、会話と会話の間のノイズはあわただしく生まれては消えていった。
「あそこにいい店があるんだ。お勧めはパインのサラダ。ショットトループと一緒に頼むといい」
ライドガンナーのパイロットがそう言ってから数秒の後、次の通信のノイズを待たずにダウンロードは終了した。
現場指揮官はやっとかという様子で「回収地点はA9番の空き地だそうだ。R-Fのバーで飲もうぜ」と、個人的なことも含めて通達をした。
各パイロットは各々の返事を返した後、回収地点へと壊れていない部分を用いて移動を開始した。
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数分ですむはずの移動は十数分へと延びに延び、それでもまだネイトたちは到着することが出来ていなかった。
リロードとヒュペルボレアの傷は深く、エンジニアが「これは買い換えたほうが早い」というのが容易に想像できるほどであったからだ。
「ここまでやられるとはな。私もそろそろ潮時だろう」現場指揮官は自嘲するようにつぶやいた。
老兵として有名な彼も、ここらで引退だろう。
金はあるしな。ネイトは思う。
「いきてるだけでめっけもんさ。それともアンタは死んだのかい?」ライドガンナーのパイロットは茶化して答え、「それより、さっさと回収地点に着くのが先だ」と続けた。
数瞬の沈黙の後、現場指揮官は小さく笑って答え、、いくらかの適当な会話の後、現場指揮官は基地へ通信をはじめた。
「こちらV1、回収地点へと到着した」
「了解。輸送機、回収準備を」破損状況を見て判断した基地司令官が言う。
それと同時に空中の輸送機はネイトたちに後部を向け、後部カーゴベイのハッチを開けた。
回収の準備、だな。これでこの仕事も終わりか。
ネイトは口の中で短く言葉を吐き、他のパイロットたちが準備を始めるのと同時に、グリードのシャットダウンの準備を始めた。
防術機から響く機械音は最低限を残して消えていき、輸送機の排気音と通信待ちのノイズに溶けて消える。
そのうち関節を支えるだけの力をもそれは失い、その場へとへたり込むただの人形と化ていった。
ノイズが走り、基地司令官の声が冷たく、笑うかのように傭兵達へと届く。
「ミッション開始」
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「指揮官、ミッションは終了した。冗談はやめてくれ」ヒュペルボレアのパイロットがやれやれといった様子で通信をする。
ああ、そうだといった様子でネイトや現場指揮官は通信が返ってくるのを待つ。
ミッションは終了。残っていた機動型エルフを掃討し、後は回収を待つだけ。
今はそういう状態であるはずなのだから。
しかし、一向に返事が来る様子はない。
通信ノイズだけが響くコックピットの中で、ネイト達は困惑した。
別地点への通信を間違えて傍受してしまったのか?
いや、だったら回線は別にするはずだ。ならば……
ぐるぐると思考はめぐるが、ネイトたちは適当な回答を見つけることが出来なかった。
指揮官はやっとノーティスを返す。
「ああ、すまない。これも仕事なんでな」
それは当然であり必然であった。『ミッション開始』の通信は彼らに送られたものではないのだから。
後方のビル街、その中でもっとも高いビルの屋上から、一機のRE:LOADがネイト達のもとへ飛び出した。
機体バランスを崩すまでに膨れ上がった腕部には、鉄塊と表現するべき超大型のメイスが装備され、機体を崩壊させて見せようとばかりに強化の施された異形の脚部は、落下しながらビルの外壁を蹴り下方向への加速度を稼ぐ。
それが標的へとメイスを振り下ろすまではたった数瞬だったが、ネイトの感覚では一時間にも二時間にも感ぜられた。
白と黒で構成されたペイント。両肩と両足にそれぞれ一本ずつ引かれたラインはXの字のように見え、左肩には黒地に白い菖蒲の花のエンブレム。
胴体から突き出したカメラユニットは緑をいくらか含んだ赤色に光り、各部に装備されたブロック式装甲を照らしている。
ネイトはゆっくりとRE:LOADライドガンナーのほうへと進んでいくのを眺め、こう思った。
こいつは『死神』なのだと。
そして『死神』はライドガンナーへとその鉄塊を衝突させ………
その瞬間に、彼の意識のスピードは元へと戻った。鉄塊は一瞬でライドガンナーを鉄くずへと変貌させ、残った運動エネルギーで地面に直径6メートルほどのひび割れを生み出す。
一拍遅れて発生した強烈な風はグリードのバランスを失わせ、後方へと倒れこませた。
グリードの上部ハッチはロックが壊れたのか開放され、ネイトを重金属粉塵漂う空間へと投げ出そうとする。
シートベルトはそれを押さえつけるために内部のワイヤの数本を千切れさせ、ミチミチという音を出す。
『死神』は赤く光るカメラをネイトの方向へと向け、すぐに彼の元へと機体を動かす。
地面へとめり込んだメイスは簡単に引っこ抜かれ、土煙を上げて数秒の間火花を上げると、すぐにグリードへ衝突した。
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「ミッション終了。各機、輸送機へと帰還し、後から来るNFAの護衛のために補給しろ」
傭兵達に指揮官は通達する。厄介者であった翼付きやベルの傭兵……リロードやライドガンナー、ヒュペルボレアのパイロットを処分できたためか、いくらか声には喜びが混じっていた。
先ほど開放されたハッチから防術機に乗った傭兵達が乗り込んで行く。
その中には菖蒲のエンブレムのRE:LOADもあった。
雑多な輸送機では狭いと言い出しそうなそれはゆっくりと斜面を登り、雑多な輸送機内部へと侵入する。
先ほどの戦闘で大破した防術機を含め、七機の防術機を乗せた輸送機は、敵戦力との会的を避けるため、上空へと上った。
パイロットは防術機を降り、各々の場所へと移る。
四人は個室へ、三人はモルグへ。
その冷たい寝床は肉塊にも等しく安らぎを提供し、目覚めぬほどの心地よき睡眠を送った。
彼らを目覚めさせるものはいない。
彼らを起こすものは、誰もいない。
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