やっぱりそんなにうまいことはいかないよな。
工場に入ることで、なんとか射撃をかわすことの出来たネフティスはそうつぶやいた。
接触回線で彼は吠える。
「どこで嗅ぎつけてきやがったんだ!」
そして牽制のため左腕のショットガンを一発放った。
「知らないわよ!ともかく交戦するしかないじゃない!」
メイはネフティスにあわせて吠え返し、機体の腕部に装備された4式マシンガンを数発撃つ。
そして正面から飛んでくる弾から逃れるために入り口脇まで移動し、二人は通信がつながらないかを数度試した。
しかし帰ってくるのはノイズばかりだ。
ジャマーの濃い地域であるとは聞いていたが、この距離で防術機間の通信すらできないとは……
これじゃ状況が何もわからんじゃないか。
ノイズの混じった声でメイは「通じた?」と聞く。この距離ですらノイズが混じるのだ、有線か光じゃなければ遠距離通信はできないだろうな。
「いいや、全く」そう言って彼は右腕のマシンガンを撃ち、どうにかして視界を切ってほしいと続けた。
「十分しか持たないけど良いわね?」
そう言ってメイは腕部内臓のスモークグレネードを発射し、背部の通信用ワイヤーをミグリオーレに撃ちこんで繋げた。
「ついでに信号弾撃っておくわ」有線に切り替わり、彼女の声がクリアになる。
それと同時に左腕から入り口に向けて信号弾が3発発射された。
色は順に赤、赤、緑。戦闘の発生を示すものだ。
それらはスモークを一瞬だけ各々の色に照らしてから、外へと飛んで消えて行った。
姉さん達に見えてるといいんだけど。そうメイはつぶやき、ライトをハイビームに変えて工作機械の陰に移動した。
スモークのおかげで光が入ってこなくなり、工場内部は黄昏時のように薄暗くなっていた。
内部を照らすのは二機の持つライトと、入り口から飛びこんでくる銃弾により入ってきた日光のみである。
飛びこんだら狙い撃ちされて撃破、かといって集団で飛びこんだら罠で一網打尽にされるかもしれない。
これでどっちも選べない膠着状況の完成、だろうな。
ネフティスは考える。
このままじゃどうせ燃料切れか弾切れかを待つだけだ。
あっちはどうせ補給部隊を持ってきてるんだろうし……それにその部隊まで加わられたら、最初っから無い勝ち目が完全に無くなる。
つまりこっちは短期決戦しかないのだ。それを相手はわかっているだろうしな……
この状況をすぐに打開するためだろう、ネフティス達の入ってきた方と反対側から射撃やブレードを照射する音が聞こえ始めた。
まずいな、あっちはもう一枚の扉が埋まっていたはずだ。
知ってるんだろうか?いや、今はそんな事どうでもいいか。
より面倒になった状況を思い、メイはネフティスに聞く。
「さて、どこから抜ける?」
その声には半分諦めが入っていた。
きっと同じことを考えた結果なんだろうな、よく分かる。
ネフティスは冗談めかし、同じように諦めを込めて言う。
「正面に突っ込むかな」
メイは同類へ苦笑いし「多分蜂の巣ね」と答え、「相手の強さによるけど」と続けた。
「じゃあやるか?」
「やりましょ。ブレードなり銃なり、それこそ装備はいっぱいあるしね」
彼女は背部冷却ユニットを展開して、通信機をノーティスモードに切り替えた。
「そっちに引き付けといてくれよ」
ネフティスは言い、スラスタを吹かして奥の壁へと移動した。
そしてすぐ、ミグリオーレの肩部ランチャーが前を向き、射出口から小さな球形のバルーンが展開された。
彼はそれに磁場がかかっているのを確認すると、内部にプラズマを充填し始める。
すると緑色のガスがバルーン内部に送り込まれ、青白い光球へと変化しながらバルーンを膨らませていった。
「プラズマランチャー?自爆兵器なんてよく積んできた物ね」
メイは半ばあきれて言う。
たしか選択肢としてミサイルランチャーもあったはずなのに、どうしてそんなもろいものを。
と言うかそれは大型兵器に積む物で、防術機に乗っける物じゃないはずよ。
メイは通信用のワイヤーがきちんと張るように張力を調整しつつ、そう考えていた。
新型だからテストしたいのは分かるけどね。
そしてちらりとリカリケアの脚部を見た。
すると「ミサイルは調整が長引くから後で、って言われたんだ。文句はおやっさんに言ってくれ」とネフティスがノーティスを返してきた。
「まあいいわ。威力だけは折り紙付きだしね」とすぐにメイは返し、機体をネフティスと反対側……入り口から見て右の壁に寄せる。
「囮してあげるから、さっさと充填終わらせなさいよ」
そう続けてキャラパス・ユニットをショットガンモードに切り替え、入り口に向けて二度撃つ。
これで射線はこっちを向いてくれるはず。後はネフティスのほうに向けないように注意を引いておけば良いでしょうね。
来るだろう弾丸をかわすため、彼女は壁を蹴って天井近くまで跳ばせ、滞空しながらスラスタで機体を少し右に移動させる。
それから一拍遅れて、弾丸の雨が彼女のいたところを襲い、それなりの強度を持っているらしい内壁にぶち当たって落ちた。
メイは射線の向きを変えるため、弾丸の飛んで来た方に向けて二発撃つ。
すると、先と同じように弾が帰って来る。今度は数発装甲に命中し、それなりに深い穴を穿った。
結構威力はあるのね。これじゃ五分後まで行けるかも怪しいわ。
メイはブレードを弾の来る方にかざし、機体を地面に寝転がらせる。
そして芋虫のように横に転がって射線から逃れた。
使い切ったマガジンがサブアームによって排出され、別のマガジンが再装填される。
だからショットガンは嫌いなのよね。ネフティスは使いやすいって言うけど私には理解できないわ。
メイはバレルが焼けていないかを確認し、機体を左に数歩移動させマシンガンモードに戻して十発撃った。
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リカリケアのマガジンが半分ほどなくなった頃、斥候として送り込まれたらしいニ機の防術機が中へと跳びこんできた。
それに関して二人は驚かなかった。
いつか突入してくるのは、ずっと前からある程度覚悟していた事だから。
しかし飛びこんできた機体を見て、二人は幾分か驚いた。
こんな物がどうしてこの環境下で動いていられるんだ、と。
なぜならば、それら二機はどう見てもスクラップ同然の物であり、このジャマー下でいつ崩れ落ちてもおかしくないような物であったからだ。
それらはブラスタをベースとしており、ジャンクから拾ってきたと思しき手足が、『突き刺さっている』というべき取り付け方がされている。
耐ジャマー能力もコア一機では不充分なのだろう、同じくジャンクヤードにあったらしい弾丸の突き刺さった物が肩に追加で乗っけられていた。
各部の装甲は明らかに純正品ではないだろう鉄板で、そのひとつには塗料で塗りつぶした跡と、菱形に弓をあしらったエンブレムが載っている。
それはこのオンボロが、傭兵斡旋組合『Ar&Dogs』の物であることを示していた。
「『タギー・ドッグ』……」エンブレムを見たネフティスはいまいましげにつぶやいた。
それも当然だろう。傭兵の間でも最悪の職場だと言われ、使う側からもここにだけは依頼したくないと言われるほど『タギー・ドッグ』にはいい話がない。
安いのは少年兵に改造手術をして死ぬまで無給で使っているからだとか、闇ルートに流れている旧世代遺産は大体ここが盗んできた物だ、というのはよく流れてくる噂話だ……そしてそれはおおむね真実である。
ブラスタ達は中を一瞥するとすぐに、動きを見せないミグリオーレの元に飛び出した。
メイはそれに対応すべくブラスタを射撃する。
すると一機がもう一機をかばうかのように射線に飛びこみ、そのまま銃弾を受けて機能停止した。
それと同時にメイのコクピットに弾切れのサインが点灯する。
「こんなときに!」メイはエネルギーブレードを展開し、機能停止したブラスタを飛び越える。
しかしそれにブラスタは見向きもせず、ミグリオーレに向けて全速力で進んでいる。
不味い、これじゃ追いつけてもネフティスが危ない!
メイは機体スラスタで下方向に機体を押さえつけ、脚部に出力を集中させる。
そして深く機体を沈め着地し、斜め60度ほど機体を傾けて跳躍した。
あまりの加速度に肺から息が漏れ、一瞬視界ブラックアウトする。
そしてその速度をできるだけ殺さぬように着地し、もう一度同じように跳ぶ。
コクピットのG計は一瞬だけ9Gを示し、2Gまで戻るとすぐにまた9Gを表示した。
10m、7m、5m……ブラスタとの距離がだんだんと縮まっていく。
そしてそれが3mにまでなったとき、ブラスタは後ろを向いて何かを投擲した。
その一瞬後、工場内部に閃光が広がる。急な閃光にカメラがセーフモードに切り替わり、リカリケアは着地を失敗して地面に転がった。
その隙にブラスタはミグリオーレとの距離を詰める。
そして3mほどのところに来たところで、威嚇の為にミグリオーレの少し上を向けて二発撃った。
不味いな、迂闊に撃ったらバルーンをやられて御陀仏がオチだ。
ここはもうやってやるしかなさそうだ。
「しかたねえ、ぶち抜くぞ!」
そう言ってネフティスはバルーンを切り離し、接触信管モードで壁に向けて移動させた
それと同時に全速力でバルーンから飛びのき、いまだ機体を起こせていないメイの方に向かう。
だがそれに何か不味い物を感じたのだろう、ブラスタは右腕の機銃でバルーンを撃ちぬいた。
バルーンは内部のプラズマに振れて消滅し、爆発的な速度で周囲に拡散し始める。
余波として強力な熱風が工場内部を襲い、耐えきれなかった工作機械が崩れ落ち壊れていった。
すぐにネフティスは冷却材を機体各部から噴出させ、高熱から機体をガードする。
メイの方もオートで冷却システムが起動し、熱による損壊をかろうじて免れた。
しかしジャンクゆえ不充分な物しか持っていなかったブラスタは、高熱に負け機能停止。
再起動されないようにとネフティスにコアをぶち抜かれ、そのまま大破した。
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「動けるか?」ネフティスはリカリケアに通信を送る。
「平気よ。それよりさっさと脱出しなきゃね」メイは大丈夫だと言う様子で答えた。
あんな速度ですっ転んだのによくそう言えるもんだ。
ネフティスは「あまり無理はするなよ」と答え、先の熱でもろくなっていた外壁を指して言った。
「あそこから脱出する。熱でもろくなってるから、蹴っ飛ばせば容易に通れるだろうしな」
メイは機体を立ち上がらせ、機能チェックをしてから言う。
「了解……でもちょっと待って」
「どうした?」
リカリケアがこつこつとマニピュレータで頭部を叩く。
その手つきは危うく、どこかに不備があることをネフティスに理解させた。
メイは言う。「メインカメラ前のシャッターが壊れて開かないのよ。面倒だから開けっぱにしとくわ」
そして、ゆっくりとマニピュレータを動かしてシャッターをつかむと、上に向けて捻って開けたままの状態にした。
「うん、見える見える。じゃあ行きましょうか」
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レオナルドは工場の入り口から飛び出してきた光を見てすぐ、ヴィダーレ達に『緊急』の文字列を送信した。
そして数秒送れて聞こえてきた銃声から、中の二人が何物かに狙われていることを察する。
どこかの傭兵集団だろうな。俺達がこんな辺鄙な場所に探査しに来たのを見て、よっぽどの物があるとでも考えたんだろう。
レオナルドは機体の腕だけを展開させ、軽く上空から支援射撃を行う。
この高度からじゃろくな精度は期待できないだろうが、それでもいくらかはましになるだろう。
あわよくば相手を撤退させられるかもな、はは。
しかし彼の思考とは裏腹に、地上の防術機はレオナルドに目もくれず、集中砲火の体勢を崩さない。
彼が一機に集中して射撃をしても、その機体の腕が壊れても、その機体が大破して機能停止しても、撃ち返してくるのは狙われている一機だけである。
高空を飛んでる相手を撃たないのは防術機同士の戦闘でのセオリーだが、それにしては行きすぎている。仲間が惜しくないのか?
それともでっかい組織ぐるみで、下っ端には命令に逆らえないって言うやつか?
「どっちにしろ、こいつは相手が相手らしいな」彼は毒づき、より詳細なデータを入手するために高度を落とした。
「敵襲だヴィダーレ!」信号弾から理解しているだろうが、レオナルドはマイクに叫ぶ。
ヴィダーレはすぐに「救助を頼む」とノーティスを返し、邪魔なユニットはパージして構わないと続けた。
頭の硬いあいつにしては珍しいな、そんなに状況が不味いのか?
ま、戦場に行けるなら俺は別に良いけどな。
待ってましたといわんばかりに、レオナルドはレーダーユニットをパージする。
この高度なら、機密処理などしなくても落下で壊れてくれるだろうが、念の為彼は腕の機銃でユニットを撃ちぬいた。
そしてすぐ、機体を人型に変形させる。
瞬間的な変形により彼の肺から空気が吐き出され、数瞬の間彼は顔を歪めた。
だから高機動は嫌いなんだ。設定で衝撃は抑えられても、体が受けつけんからな。
彼はそう吐き捨ててから、地面に向けスラスターを全開にした。
気流に乗る気など端から無い、最大速度での落下である。
レオナルドは一部感覚を遮断し、無重量状態に耐える。
コクピット内部の括られていない小物が宙を舞い、彼の顔を叩いてはどこかへ流れていった。
そして1200mほど降下した頃、機体を縦に半回転させ、彼はスラスタを全開した。
速度計の表示が、時速300Kmからだんだん遅くなってゆく。
250、200、150、100……そしてちょうど0となったとき、彼の機体は地面へと優雅に着地したのであった。
土煙が上がり、それに粘りついていた何かがきらきらと光を反射する。
それと同時に通信に混ざり始めたノイズから、彼はそれがジャマーだと判断した。
そして反射しているのが、敵のロック用レーザーであることも。
この濃度、関節部の多いこいつにはちと厳しいか。
それにコックピットをさらすのは自殺と道義。もう変形するべきではないだろう。
レオナルドは思考をめぐらし、周囲の状況について一通り考えると、腕部武装の残弾を確かめた。
上から見た限りだと、敵の数は30。それに対し、こっちはたった4……言うまでも無く逃げるのがベストだろうな。
とすると……彼は警戒のため周囲を見回し、それからコンテナの方をちらと見た。
あの二人は上昇用ブースターの搭載されているコンテナに向かうはずだ。
そう彼が考えたとき、一発の銃弾が機体の右1mを通って行った。
30秒、割と動きが早いな。機動型なのか?
それと同時に改造されたリロードが姿を見せ、信号弾を2発射出する。
赤い色のそれは『敵はここだ』と言う情報を示し、それに引き寄せられて二個小隊分の防術機が彼の前に現れた。
こんなところにどれだけ戦力を集めてるんだよ。馬鹿じゃねえのか。
全く、ヴィダーレも無茶させてくれるぜ。
彼はそう吐き捨て、すぐに機体を壁に隠した。
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「行っちゃいましたね」アリスは通信を切ったクロウノッテを見て言った。
「ああ」
ヴィダーレはため息をつき、「方向真逆だったんだけどなぁ」と続けて、もう一度ため息をついた。
「いつもあいつこうなんだよなぁ。人の話聞かずに飛んでって、結局自分が泣く羽目になって帰ってくる」
「そうなんですか?」
個人的な興味からアリスは聞いた。するとヴィダーレは目を手で覆い、思い出したくないと言った様子で言った。
「ああ。結構前にはそれで自分以外全滅とかやらかしてる」
その声には悲壮さがこもっていた。
「しかも三回くらい」
はっはっは、というヴィダーレの乾いた笑いがブリッジに響いた。
「全滅、全滅……もしかしてそれは」とまで言った所で、彼女は言葉を切った。
この話はここで止めておいたほうが、ヴィダーレさんの精神衛生上良いのでしょうね。
じゃないと何かがバラバラに砕けちゃいそうですし。
そう思ったアリスは「お疲れ様です」とだけ言って、敵位置の精査を始めた。
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「いくぞ」ネフティスは小さく決断的に言い、機体を全速力で前に進めた。
そしてもろくなった壁をメイが蹴飛ばして壊し、そのまま工場内から脱出する。
すると音から察したのだろう、数機の防術機が二人の側に回ってきた。
そして土煙から出たとたんに銃撃が二人の方を向き、弾丸が少しずつ装甲を穿っていった。
二人は急いで建物の影に逃げ込み、射線を切る。
「予想以上の数ね。こりゃ逃げるしかないわ」
復活した通信により送られてきた情報を見て、メイは言った。
「輸送機込みで30対4……まずはレオナルドと合流を急ぐか」
了解、とのメイの返事を待たずに、6機の防術機が前後から挟撃のため飛びこんでくる。
メイはリカリケアの強力な脚力を、ネフティスはミグリオーレの圧倒的な推進力を用い、ショットガンを撃ちつつ空中機動に移った。
そうはさせるかと後ろの三機が射撃を始め、リカリケアの左足と右腕に数発の銃弾が命中し装甲を一枚もぎ取っていく。
「面倒だから寝てて頂戴!」
メイはスタングレネードを3機めがけて撃ちこむ。
周囲に閃光が走り、それからすぐ後ろの3機が動きを止める。
おそらくカメラが機能停止し、動くに動けなくなったんだろうな。
ネフティスはすぐ前に向き直り、そのまま逃げようとスラスタを吹かす。
しかし盾に隠れることにより閃光から逃れていた前方の3機は、二人に向け射撃を始める。
ネフティスはライフルを数発盾に打ち込んでみる。
弾丸はカン、という軽い音を立てて兆弾し、特に大きな傷を与えることもなく飛んでいってしまった。
恐らく輸送機などの対ナノマシン弾頭装甲か?
しかもあの硬さを見るに、強襲用の機体から引っぺがしてきたものらしい。
それに穿たれたガンポートから、盾持ち以外の2機は射撃を続ける。
空中にいる二人は機体を上下左右に移動させ、どうにか回避しようと試みるが根負けし、さっき行動不能にした防術機の後ろに移動し着地。
そしてすぐコアを撃ちぬき、即席の盾としたのであった。
「いきなり邪魔なやつが出てきやがったな」
ネフティスは盾にむかって十発撃ちこむ。
しかし弾丸は軽い音を立てて兆弾し、地面や外壁に穴を穿つだけであった。
お返しといわんばかりに弾丸が飛んできて、盾としていたジャンク機の装甲がどこかへと吹っ飛んでいった。
このまま足止めを食らうのもまずいな。何時相手の増援が来るかもわからんし。
そう思ったネフティスは、「面倒だから蹴っ飛ばしてくれ!」とメイに言い、ガンポート周辺を狙って射撃した。
ライフル弾が向かって右側のバレルに4発、左側に1発命中し、右のものがまともに撃てないほどに変形する。
それを受け、敵は慌てて盾役と射撃手を入れ替えにかかった。
「了解!」
メイは装甲が一部脱落した左足を後ろにし、ガンポートの死角となった盾の左側を前進する。
工場の壁を蹴り、スラスタを全開し、同じくガンポートの死角となる上方から後ろに回りこむ。
そして反転し、盾持ちに全速力の蹴りをお見舞いした。
防術機を六メートル飛びあがらせる脚力は簡単に胴体を潰し、中の人間ごと機体をスクラップへと変貌させる。
それだけでは飽き足らず、盾までも衝撃で飛ばし、反動でリカリケアを空中へといざなった。
メイはそれを生かし、三次元機動をしながらショットガンを連射する。
そしてネフティスはすぐにメイの元へと向かい、仕上げとばかりにコアに一発ずつ接射した。
「スクラップメタルの寄せ集めとはいえ、意外ともろいな。だからあんな盾持ってるんだろうが」
ネフティスははがした装甲板を盾のように持ち、感触を確かめてから言った。
防術機の装甲に用いられるアルミ合金は数発の弾丸で撃ちぬかれるほどの強度しかないのだが、今彼が持っている板はそれの数倍弱いのであった。
下手をすれば散弾でも撃ちぬかれかねないそれを彼は投げ捨て、コンテナのほうに向き直って移動を始める。
数の上では圧倒的に不利だが、これならば逆転の目はあるかもしれない。
コンテナまで5900mと言えば長いようだが、時間にすればたった一分ほどの距離しかないのだ。
逃げ切るのは容易……たとえ途中で襲われても、集中砲火さえされなければ撃破はされるまい。
ネフティスはいくらか安堵し、一度大きく息を吐いた。
さて、さっさと逃げるとしましょうかねぇ。
そう思い、切れていた通信回線を開きなおす。
今度はすぐにpingが帰り、早速二人はレオナルドとの回線を開いた。
「畜生畜生畜生!」
それと同時に、銃声にまみれたレオナルドの悪態が飛んでくる。
二人はいくらか驚き、何があったのかと彼に聞いた。
レオナルドは答える間も無いと言った様子で『数が多すぎる、減らしてくれ』とのノーティスを返し、地図データを添付させて送ってきた。
すぐに二人はデータを確認する。二人の出てきた方向と反対の方に、赤い点が8と青い点が1。
恐らく救援に来たは良いが、突っ込みすぎて敵に囲まれ絶体絶命。そのまま泥沼状態になったといったところだろう。
アイツは何時もこんな調子なんだからなぁ……メイはそう考えた後、『向かうからこっちきて』とノーティスを返し、自分たちの位置をポイントして地図データを送信した。
そして返事を待たず、来た方向と逆向きに加速する。
一対八とは無茶をしたもんだな……しかもそれで、よく今まで持っている物だ。
バカだのなんだの言われているが、腕だけは確かだといわれている理由がよくわかったよ。
ネフティスは半ばあきれながら、後でちょっとは良い思いさせてやろうと誓った。
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「後500!」メイはスラスタ炎の描いた曲線を見て言った。
それは規則性など全く見えないランダムなもので、ジャックナイフターンやクルビットなどの機動が複雑に絡み合った物であった。
戦闘機の機動を防術機でやるとは……。
ネフティスはそうつぶやく。
防術機は300mほどしか上昇できず、それ以上は気圧などの関係で推力が著しく低下する。
だから高空を飛ぶものは翼などで揚力を稼ぎどうにか飛行しているのが基本。
そのため、今レオナルドが取っている機動は本来、特化型でも厳しいであろう機動なのだ。
「変形したほうが良いよね」メイがあきれて言う。
「開口一番がそれか!どうでも良いからさっさと逃げるぞ!」レオナルドはそうノーティスをよこし、一直線にネフティス達の方向に機体を飛ばした。
そうはさせんといわんばかりに、彼を狙っていた銃口が二人の方を向く。
そして弾丸が三人へと襲いかかった。
二人はすぐに建造物の陰に逃れ、レオナルドに当てないように注意しつつ射撃をする。
「さっさと来い!じゃないとこっちまでやられるから!」
レオナルドが邪魔で相手に弾を届けられなかった苛立ちから、メイが叫ぶ。
「言われんでもやっとるわい!」
彼がそういった次の瞬間、クロウノッテの翼に数発の弾丸がかすめ、動翼を一枚もぎ取っていった。
このままランチャーを撃ちぬかれてはまずいな。
レオナルドは背部ユニットのハッチを開け、中に装填されていたスタングレネードと信号弾一式を投棄した。
その数秒後に弾丸がランチャーユニットを直撃し、スクラップへと変貌させてしまった。
「畜生!やっぱもろいなこいつは!」その悪態と共に、左のガンポッドと右の脛を破壊された機体が二人の前になんとか着地した。
メイが「まだ行けそうじゃない。乗って帰ろうよ」と無慈悲に言う。
無茶を言ってやるなとネフティスは返答し、レオナルドにどのくらいなら持つかと聞いた。
「変形もできるし飛べる。収容されるまでならフルで使えそうだ」と彼は返し、片足だけで立ち上がる。
「OK、じゃあさっさとコンテナまで行っちまうか」そうネフティスは言って、ヴィダーレにコンテナの準備をして置くように言うと、「大丈夫、用意はもうとっくにできてます」とアリスが通信でもわかるくらい胸を張って答えた。
そして「燃料もたっぷりありますし、余裕をもってくださいな」と続けた。
「了解」メイはネフティスに割り込むように言い、「じゃ、さっさと行きましょう」と言って、クロウノッテの肩を持ってスラスタを吹かした。
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「コンテナまで7キロか……」レオナルドは後ろに残してきた敵を見て言った。
速度でも硬さでもあっちが劣るとはいえ、先回りされていないことを祈るしかない。
じゃ無きゃ囲んで撃たれて蜂の巣だ。
さっきあいつらは六機まとめてやったらしいが、きっともう対策されているし、今度その数で来られたら勝てない。
わかってはいたが、本当に厳しいものだ。
ときどきリカリケアを伝わってくる衝撃を感じながら、レオナルドは考える。
ネフティスのやつは損傷こそ少ないが、弾薬は結構減っているはずだ。
逆にこの小娘も俺と同じように、損傷が厳しくなっている。なんとか動いているが、フレームは剥き出しだわ武装は焼けてるわで当たったら即死だろうな。
そして俺は……武器と足が片っ方ずつと、結構な部分の装甲が無い。整備しどもが見たら、この状態で変形や機動性に影響が無かったのがラッキーだと言うだろうな。
レオナルドはため息を吐き、レーダーを捨ててくるんじゃなかったと口の中に吐き捨てた。
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