雨傘   作:Enoghalvtreds

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太陽灯より

明けることの無い夜の闇が、三十年前に廃棄された都市ジェートを包んでいた。

天を覆う作り物の空はすでに機能を失い、どうにか生きている街灯だけが、残された人々を照らしている。

時折街の大型モニターがノイズまみれの映像を流すが、人々は気にもとめず、歩いてゆく。

人々は気づかない。捨てられたことにも、置いて行かれたことにも。

そうしてこのまま、前と同じライフサイクルを延々と回し続けるのだろう。

そんな闇の中で、一人の男が大通りから路地へと歩んでいく。

それから数十秒の後、この都市に似つかわしくない一筋の端末の光が、大通りから路地へと消えていった。

 

『ターゲット視認。これより追跡に移る』

ジョン・ブラウンはコネクタを介して一瞬でノーティスを発した。

『確認した。可能ならば始末せよ』すぐに返事が返ってくる。

可能ならば、か。依頼人も慎重だな。

ジョンは文面を見て、少し考える。

かなり腕の立つ相手らしいが、そうは思えんね。

あんなに簡単に発信機を、しかも気づかずに3日間も持ち歩いてくれる奴だ。

こんな楽な相手、ほかの誰にも渡す気はない。

口元を少しだけほころばせ、ジョンはインプラントしたカメラで周囲を確認した。

周りはバーや会員制のクラブ、廃ビルが並んでいる。

その壁には例外なく退廃的な落書きが描かれ、一つ残らず生きていない監視カメラがそれを虚ろに眺めていた。

ジョンは耳を澄ませる。

しかしあるのは二人の衣擦れと足音だけだった。

特に人もいないようだ。これなら………

ジョンがそう思うと、男はポケットからメモらしき物を取り出し、周囲を見回し始めた。

また道に迷ったか。本当にこいつはよく迷う奴だ。

三日で四十回はもういい加減にしろとしか言いようが無い。

なんど離れて信号を頼りに見つけなおしたか……全く。

ジョンは表に出さぬように注意しながら呆れる。

まあいい、だったらまた離れれば良い話だ。

それに今回はメモがある。

そいつの中身を改めれば後で楽に事を運べるだろうしな。

そう考えジョンは男の隣を通り過ぎていく。

そしてすれ違いざまにカメラでメモの内容を撮影し確認した。

なになに………三叉路を右に行き、道なりに行って左、か。

字は前に見たときとは違う……誰かに書いてもらったのだろうか?

まあいい。この後の三叉路でまた後ろにいけるとわかっただけでも僥倖だからな。

そう思い、ジョンはそのまままっすぐに進んでいった。

 

それからしばらく後、ジョンは足音を立てぬように男を追っていた。

彼の懐にはサプレッサー付きのオートが、体の各部には予備が数丁しまわれていた。

男は手元のメモを確かめながらT字路を左に曲がり、いらなくなったメモをその場で握りつぶしてゴミ箱に投げ込んだ。

この先は一本道で、目的地はその奥。

周囲の建物から見るに、行き先はバーかパブだろう。

なら移動もそこまでしないはずだ。

手元の爆弾を仕掛けて終わりで良いな。

そう考え、ジョンはゆっくりと角を曲がった。

 

そして奥の道を見ると、そこには誰もいなかった。

まさか!ジョンは後ろを振り返る。

しかしそちらにも誰も居ない。

動いているものは、風に吹かれ倒れた空き缶だけだった。

ジョンは発信機の信号を追うため、端末へ意識を向ける。

すぐにワイヤーフレームで描かれた旧都市の全景が彼の脳に飛び込んで来た。

しかしどこを見ても、あるべき赤い点はない。

代わりに『SignalLost』の文字があざ笑うかのように浮かんでいるばかりだ。

畜生!彼は毒づき、インプラントしたカメラで周囲を確認する。

やはりさっきと同じ風景だけが彼の第三の目に映っていた。

 

特に周囲に動きは無い……ということは、建物の中に入ったのか?

いや、それは無いな。気づいてるのならそんな真似はしないはず。

追っ手を自分の視界からはずすなんて、俺だったら絶対にしない。

ということは……そう彼が考えたところで、彼のこめかみに冷たく硬いものが突きつけられる。

そして、「死にたくなけりゃ手ぇ上げてもらおうか」とネイト・朝野川が冷たく言い放った。

 

ジョンは手を上げながら、「何時気づいた?」と聞く。

「路地に入る前くらいだ。」

そう言ってから彼は左手でジョンの端末を抜き取り、「こんなもん持ってる奴は、ここじゃろくに居ないからな」と言って、地面に落とし踏み潰した。

「さあ、どこから来たのかを明かしてもらおうか」ネイトは続ける。

彼の真っ黒な目には、生きるためならば何でもするといった覚悟があった。

それはつまり、ジョンが立ち去るか死ぬかを意味するのだが。

 

「仮に教えなかったとすればどうなるんだ?」回答のわかっている質問を、彼は放った。

教えなければここで始末するんだろう?

俺だってそうしてきたんだし、良くわかっているさ。

「ここで始末する」

そうネイトはジョンの思ったとおりに答え、「さあ吐け」とだけ付け加えた。

そしてこめかみに銃をきつく突きつける。

「良いだろう、答えてやる。じつ」

 

そして路地に二回銃声が響いた。

カツンと音を立ててスリーブガンが転がり落ち、次いでジョンがくずおれる。

「返事は弾丸で、てのにはもう飽きてるんでね。次は言葉で返してくれ」

そしてネイトは二丁の銃を拾い上げ、路地奥のバーに姿を消した。

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