孤独のグルメシーズン7が放送していますしモチベが上がったので久しぶりに書いてみました。
時系列的にソードオラトリア6巻のカーリーファミリアとの戦い以前の話になります。
ぼんやりとした意識が徐々に覚醒していき、無機質な石で作られている部屋の中で寝かされていることに気付いた俺は周りを見渡した。窓ガラスも無い四角い枠から明るい陽射しが差し込んで部屋の中を眩しいほど照らしている。
(ここは……うっ、痛い……)
ズキズキと鈍い痛みがある後頭部を優しく摩りながら意識を失う前までの出来事を思い出そうと必死に記憶を辿る。
確か所用でニョルズファミリアの運営するメレンに来ていた俺は主神のニョルズと商談を済ませて、夕食は何を食べようと思い街中の飲食店を物色してたらとある路地裏で褐色の幼女が倒れているのを見つけた俺は慌てて駆け寄って抱き起して……。
『だ、大丈夫かい!?しっかりしろ!!』
『……す』
『よ、よかった……意識はあるみたいだね』
『少しの間眠ってもらうぞ』
『へ?』
間抜けな声を出したその直後後頭部に電流のような衝撃が走り、俺は幼女の不敵な笑みを見たのを最後に意識が途切れた。
そうだ、あの時俺は誰かに後ろから殴られたんだ。
でも一体誰が、そいつがこんな所まで運んだのか?
見知らぬ石造りの一室でただオロオロとする事しかできない俺はどうしたもんかと思っていたらドアが静かに開き、とっさに身構えたが室内に入ってきた人物に俺は目を見開いた。
「え、君はメレンで倒れてた女の子……?」
「おお、起きたか、あまりに長く寝ておるから叩き起こそうかと思っておったぞ」
なんだ、まったく状況が掴めない、一体この娘は何なんだ。
「あぁ、すまんのぅ。少々手荒なことをしてしまったがこうでもしないと素直に付いてきてくれないと思ってな」
そういうと褐色の幼女は自分がカーリーファミリアの主神カーリーであること、ここが本拠地であるテルスキュラという国であることを教えてくれた。
「噂に聞いておるぞ、かなりの強者らしいじゃないか。シルバーファングを神の恩恵なしで倒したんだって?……私の子供たちは強いオスが大好きでな……。どうだ、子供たちのつがいになってみないか?」
「は?」
職業柄様々な神と交流してきたが、こんな突拍子の無いことを言う神は初めてだ。というかこんなのが大勢いたらたまったもんじゃない。
「……というのは半分冗談じゃ、本当はお主に頼みたいことがあってのう、少し表立って言えんことなんじゃが」
半分本気なのかとツッコミたくなったが深くは追及しないようにしよう……。
(まさか『可愛らしい家具と抱き枕を見繕って欲しい』とは……。見た目も幼女なら中身もやはり幼女なのか)
最終的に俺はカーリーからの依頼を受け、それを承諾した。どうやら神の沽券に関わるから出向いて話すことができないので秘密裏に自分の国で直接話をする為にわざわざ連れ去ってきたらしい。なんとも強引な手段だが、まぁ食われることはとりあえずないと分かったので一安心だ。
というかオラリオから遠く離れている国にまで俺の名前が知られていることに驚きだ、怪物祭の件以降山のように商談にかこつけて勧誘するファミリアが増えて辟易していたが案外悪いことばかりじゃないようだ。
しかし、俺よりも遥かに長く生きているはずの神様の子供らしい願いに少しほっこりするなぁ。自分にもこんな可愛くて無邪気な娘がいたら子煩悩になっていたかもしれん。
「おぬし、失礼な事考えておっただろう」
「え、あ、いやぁははは……」
ジト目で睨まれ、言葉を濁しながら慌てて話題を変える。
「それでは、まずカーリーさんのお部屋の間取りを調べますので案内していただけませんか」
「それなんじゃが少し別の用があってのう、すまんが私の用事が終わるまで時間を潰してくれんか?アルガナとバーチェに我がホームを案内させよう、入ってこい」
カーリーが手を叩いて合図をすると扉が開き、身にまとっている布の面積が以上に少ない褐色の女性たちが入ってきた。
「カーリー、こいつ、本当に強いか確かめたい」
「……」
いきなり現れた二人に戸惑いを隠せないが、扇情的な衣装をしているこの女性たちが見た目でもうアマゾネスだというのが分かった。
「これこれ、確かめたい気持ちはわかるがこやつは客人じゃ。丁重にもてなせ」
「なんだ、つまらない」
束ねた白髪が足の付け根まである女性が心底つまらなさそうに腕を組んだ。
「付いてこい」
そう言うと強引に俺の手を引き部屋の外に連れ出そうとする。
助けを求めようとカーリーを見ると何かを期待すような笑みを浮かべて「後は頼んだぞ~」と暢気に手を振るだけだった。早く用事を済ませて帰りたいんだけどなぁ……。
手を引かれるまま玄関を出ると目の前に巨大な壁があり、なんだと思い目を凝らすとそれは丸い円形状の建物だと気付くのにそう時間はかからなかった。
コロッセウム、つまり円形闘技場のようなだろう、見た目が全く同じだ。オラリオでも怪物祭りの時にモンスターを調教するために使う闘技場があるからそこまで驚きはないが、この世界では現役で使われているのを見るとまるでローマ帝政期の時代にタイムスリップしたような気分になる。
「……ここなら大丈夫だろう」
やがて闘技場の中に入り、グラウンドのちょうど中央の場所に連行されるとカーリーからバーチェと呼ばれたアマゾネスの女性が掴んでいた手を離し、アルガナと一緒に俺と向かい合った。
「やっぱり気になる。お前、今から私と戦え」
アルガナはそう言うと獰猛な笑みを浮かべながら戦闘の構えをとった。
「あの、何のつもりですか?さっきカーリーさんに止められてたでしょう」
「関係ない、お前は何か他のオスとは違う匂いがする。体が疼いて仕方がない」
参ったなぁ……、怪物祭りの時といい、平穏に暮らしていたいだけなのに何で俺の元にトラブルが舞い込んでくるんだろう。おかげで最近はゆっくり一人で飯も食えていない。行く店全てどこかのファミリアに必ず熱いラブコールを受けてるからだ。
ああ、もう何でもいいから静かに飯が、食いたい。
ポン ポン ポン
よし、アマゾネスの国で飯を食える機会なんて滅多にないし何か伝統料理とかがあればそれを食うか。
「おい!何を呑気に突っ立ってる!こないならこっちからーーー」
「すみません、後にしてもらえませんか?」
「……は?なにをーー」
「一人で見て回りますんで。では」
もう相手にしている暇はない。アルガナが何か言おうとする前に俺はそそくさと闘技場を後にした。
さて、闘技場付近を探してみるか、どんな飲食店があるだろうか。
俺は辺りを見渡したがこれといって飯を食える店は見つからない。行き交うアマゾネス達が遠巻きにヒソヒソと何か話しているが彼女らの顔と雰囲気を見る限り余り歓迎はされていないようだ。
うーん、女性しかいないからやっぱり男の俺はイレギュラーな存在か。完全にアウェイな国だ。
少し居心地の悪い気分を味わいながら飯屋を求めてあてもなくぶらついていると俺の胃袋を刺激する香ばしい香りが漂う建物を発見した。
飯屋……だよなここ、看板立てかけてあるし……。
テルスキュラはオラリオより建築技術がかなり遅れているのだろうか。目にする建物はどれも石を積み上げて造られた粗末な建物ばかりだがこの店も例に漏れず同じような造りだ。
ドアの無い入り口から少し中を覗いてみるとよく磨かれて鏡みたいにツヤが出ている石のテーブルと椅子、そしてカウンターがあり、多くのアマゾネスが談笑しながら料理にがっついていた。
うーん、早く腹に何か入れないとぶっ倒れてしまいそうだ。よし、ここにしよう。
店内に入るとアマゾネスたちが全員俺の方を見てまた何かを囁きあってる。聞き耳をたてると「カーリー様の許可がなかったらあんな男……」などと言う声がチラホラとあった。
どうやら既に俺がこの国に滞在することは周知されているようだ。
ああよかった。カーリーさんの許しがなければ少なくともさっきの二人の様にいきなり決闘を申し込まれたりはしないだろう。安心して飯が食える。
そうなればもうビクビクしながら食べる事は無い。俺は堂々と胸を張ってカウンター席に座った。怖がるんじゃない、俺はただ腹が減っているだけなんだ。
「……」
体中で威圧感を放っているアマゾネスの店員が無言で水の入ったコップを目の前に置いた。顔にぶっかけられるんじゃないかとヒヤッとしたが流石にカーリーの客人に無礼は働けないのだろう。
「あの、メニューはないんですか」
店内をザッと見渡したがどこにもお品書きがない。客が来たらメニュー表を渡すシステムなのかな。
「肉だ」
「え?」
「牛、豚の焼いた肉しか出してない。お前、どれにするんだ」
「え、えーと。じゃあ豚で」
「分かった」
咄嗟にそう言うと注文を聞き終えた店員は厨房の奥へと消えていった。
焼いた肉……?随分と曖昧模糊な言い方だなぁ。料理名とかないのか?まさか羊一頭まるごと焼いたやつが出てくるんじゃないだろうな。
料理を待っている間、俺はまた店内を観察した。店内にいるアマゾネスたちが食べている料理はチョップのようだ。どれも皿に山の様に積み上げられていてどう見ても成人が1日摂取する平均カロリーの3倍以上の量はありそうだ。
しかし焼いた肉ってチョップのことか、もしかしてこっちの世界ではそういう呼称は無いのか。まぁ別に間違ってないけど。
「……はいよ」
やがて厨房から店員が山盛りのチョップをのせた大皿を目の前に置いてくれた。
「こ、これは……」
なんなんだこれは、で、デカすぎる……!?チョップってこんなにデカかったっけ……?
チョップの一つ一つが尋常じゃなく大きい、パッと見た感じはA4サイズの紙くらいのサイズだ。俺のいた世界じゃここまでビッグなものはまずない。
「あの、これってどんな豚を使ってるんですか……?」
「我が国の付近でしか生息しない特殊な豚を狩って調理しているんだ」
ほう、やっぱり普通の豚じゃなかったのか。しかしこれは中々ボリュームがある。アマゾネスの人々は毎日こんな大量に食べるのか……。恐るべしアマゾネス。
ビッグポークチョップ←規格外のサイズ!見てるだけで満腹感が味わえる野性味溢れるお肉。
「いただきます」
シャツの袖を捲り、臨戦態勢を整えてチョップを持つ。うーん、網目状の焦げが俺の食欲をさらに促進させるぞ。
「うん、美味い」
実に質実剛健な味。嘘のないストレートな味わいだ。手掴みで食べると余計に美味く感じる。
ああ、いちいち紙で手を拭くの面倒くさいな。グラスに油とか付いちゃうかもしれないからそこの所は嫌な部分だ。
「食べきれるかなこれ」
一つ食べ終わったがまだ4つもある。だけど、アマゾネスという種族はこの程度一瞬で食べ切っちゃうんだろうなぁ。
…それにしても、この世界に来てからもう長いけどアマゾネスの服装はおっさんの俺でも直視できないほど布の面積が少ない。オラリオでも普通に街を闊歩しているけど日本だったら確実に警察のお世話になってるぞ。
「ふぅ、ごちそうさまでした」
うう、食い過ぎた。胃の中が肉でギッチリ詰まってて爆発しそうだ。
「あの、いくらですか?」
「50ヴァリスだ」
俺は財布から硬貨を取り出し店員に渡した。店員のアマゾネスはじっと俺の顔を見つめているが俺の顔に何かついてるのだろうか。
「……お前、美味そうに食べるな」
「え?」
「また、食べにこい」
そう言いながら少し口元に笑みを浮かべたアマゾネスの店員は心からそう思ってるんだと感じた。
は、初めてそんなこと言われた。普通に食べてるだけなんだけど、他人から見ればそんな風に写るのか。
はは、少し恥ずかしい。きっと子供みたいに無邪気に食べていたんだろう。お肉は大人を少年にする魔法の食材だ。
さて、一仕事するとしよう。俺は豚肉でパンパンに膨れている腹をさすりながら店を後にした。
テルスキュラでゴローが一人飯を楽しんでいる頃。
「おう、ニョルズ、それはホンマか?」
「ああ、間違いない。私の水夫である子がお前の知り合いを担いで行く褐色の少女と幼女を目撃したらしい。街中にある宿に数日前から泊まっていたカーリファミリアの主神カーリーとその子供の特徴と酷似しているらしいから間違いなくこの二人だろう。」
下心を剥き出しにした女子だけの旅行でメレンにやって来たロキファミリアの女子一行はニョルズからロキの知人であるゴローが誘拐された事を知り驚愕した。
「……直ぐ助けに行かないと」
アイズは今にでも駆け出しそうな勢いだ。
「せやな。なんで攫ったんか見当もつかんけどちょいとばかしやりすぎや」
ロキは閉じていた目を見開いた。瞳には静かな怒りがユラユラと揺らめいている。
「ウチが目つけてるのにちょっかいかけたこと後悔させたるわ……」
バベル最上階にて
「そう、分かったわ」
オッタルからゴローが攫われたという報告を受け、フレイヤの心はどす黒い怒りが渦巻いていた。
「ふふ、私のモノに手を出すなんて、いけないわね」