酒は飲んでも飲まれるな   作:しゃけ式

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最終話です。



真冬の夜の淫夢

「な、何言ってるの…?彩ちゃん男の子だよ…?」

 

 

由比ヶ浜が信じられないと言った表情で確認する。周りのやつらも何が何だかといった面持ちでこちらを見ている。

 

 

「いやまあある意味では男の子っつか男の娘だけど…。というか、お前らはそんな差別思想の持ち主か?」

 

 

「これは差別ではなくて常識の話よ」

 

 

「常識で言うならそもそも俺みたいなクソ野郎に執着すること自体非常識だと思うが。…その点で、ほんと戸塚には感謝してるよ」

 

 

頭を撫でる、なんて気持ちの悪いことはしないが戸塚の方に目をやってついつい笑みがこぼれる。戸塚も嬉しそうにしてくれており、やはり俺が選んだ彼女(戸塚)は間違えていなかったと思える。

 

 

「あの、先輩…」

 

 

目を伏せながら、小さく一色が問う。

 

 

「わたし達とは、本当に遊びだったんですか…?」

 

 

震える声に幾ばくかの罪悪感を感じながら、 言葉を返す。

 

 

「…遊びっつか、まあ望まない恋愛だったのは確かだ。今更こんな話するのは虫が良すぎるとは思うんだが、これから俺のことはどう扱ってくれてもいい。いないものとして接してくれても、害虫みたいに忌避してくれても、周りに俺のことを触れ回ってくれてもいい。甘んじて受け入れる覚悟は………、あるとは言えないが、そんだけのことをされることはしてきたつもりだ」

 

 

辺りは静まり返る。この長い間は、俺の処遇を1人1人考えているからなのだろうか。

 

 

そんな折り、くすっと微笑を浮かべたのはまたしても一色だった。

 

 

 

「先輩…、わたしが、そんな簡単に好きな人を嫌いになれると思いますか…?」

 

 

 

涙を浮かべる。それでもなお笑顔を絶やそうとしないのは一色なりの気遣いなのか、答えは出ない。

 

 

ところどころに嗚咽をにじませながら、一色は続けた。

 

 

 

「わた、わたし…、本当に先輩のことが…っ、先輩のこと………、好きでしたぁ……っ」

 

 

 

「いっし…」

 

 

呼び終える頃には、すでに奉仕部を出た後だった。去り際に煌めいた光は言わずもがなだろう。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

それから俺達は程なくして解散した。半ば強引に雪ノ下さんに俺が手を出した女達には関わるなと約束させられ、後味の悪い幕切れとなった。

 

 

 

 

まあ、これ以上ないほどクソみたいなことをしたのは俺だから何も言えないんだがな。あとやっぱあの人シスコンだわ。

 

 

 

 

「ね、八幡」

 

 

戸塚が声をかける。繋いだ手は暖かくて、確かな体温を感じさせる。

 

 

「どうした」

 

 

紅く染まった顔は夕暮れだけなのか、これからずっとなのか。

 

それとも、今日限りなのか。

 

 

「僕が奉仕部に向かった理由、言ってなかったよね」

 

 

そういえば、と口をつく。あの時は初めに俺の名前を呼んだ以外は口を開いていなかったように思える。

 

 

「僕は別れる気は無いよ。今回のことはやっぱりダメなことだと思うし、正直僕も戸惑ったけどさ、それでも」

 

 

手をぎゅっと繋ぎ直される。汗が滲んでいるのは緊張からか、それとも。

 

 

「好きなんだ、誰よりも八幡のこと」

 

 

「…」

 

 

「あれ、八幡?もしかして泣いてる?」

 

 

「…、うるせ」

 

 

余った手で目を抑え、零れそうになった涙を拭う。それでも手は離さない。

 

 

 

 

間違いまくった青春だとは思うが、俺はこの青春を肯定したい。利他的に生きることこそが最も利己的だと考えていた俺だが、こうして変わらない絆を持ってしまうと、やはり考え方は変わってしまったのだ。

 

 

夕日に照らされながら、道路を歩く。隣には戸塚がおり、それはこれからも変わらないだろう。いや、変えさせない。俺が見つけた本物は間違っていなかったのだと、これから一生かけて証明していくんだ。

 

 

再度手を握り直し、俺達は帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、俺は葉山を屋上に呼び出した。現在ここにいるのは俺と葉山だけで、昼休みだというのにやけに静かな学校は嫌に緊張感を感じさせる。

 

 

「ここに呼び出した理由はわかっているよ。本当は戸塚と付き合っていたんだろ?」

 

 

「…ああ。本当に悪いと思っている」

 

 

「ま、それなら納得なんだけどね。どうりでヤる前の手際が良かったわけだよ」

 

 

「お、おお…」

 

 

失礼極まりないが鳥肌が立ち、腕を後ろで組み必死に隠そうとする。今の生々しさはマジで気持ち悪い。

 

 

「俺のことは忘れてくれよ。じゃないと戸塚が可哀想だ」

 

 

「葉山」

 

 

「なんだい?」

 

 

にこやかな笑顔でこちらを向く。

 

 

「やっぱお前イケメンだな。俺にはもったいないくらいだ」

 

 

「……その言葉をもらえただけで充分だったね。比企谷、今までありがとうな」

 

 

「葉山…」

 

 

「じゃあね、()()()()()

 

 

身を(ひるがえ)して屋上を後にする葉山。去り際のあいつの背中は妙に広く見え、それがまた頼れるやつなのだと再実感させられた。

 

 

最後の呼び方、あれが俺達のこれからの関係を暗示していたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「ねえヒッキー、ちょっといい?」

 

 

放課後、帰ろうとしていた俺を由比ヶ浜が引き止めた。

 

 

「…別にいいが、雪ノ下さんに関わるなって言われてたろ?」

 

 

「そうだけど、最後に一つだけ」

 

 

最後、という言葉に少しの痛みを感じたがそれを言えるほど俺の立ち位置は高くない。

 

 

「なら廊下でいいか?さすがに教室じゃ話せることも話せねえだろ」

 

 

「わかった」

 

 

お互いそれまでとは違う冷静さで、というか由比ヶ浜がいつもの由比ヶ浜からは考えられない落ち着きで返事をするその姿に、かつてこいつらにも感じた本物は崩れ落ちたのだと、瓦解してしまったのだと理解してしまう。

 

 

10秒にも満たない移動時間が、俺には驚くほど長く感じた。

 

 

「ヒッキー昔言ってたよね。本物がほしいって」

 

 

「ああ」

 

 

「それで、本物は彩ちゃんとの間に見つけたって」

 

 

「…ああ」

 

 

「じゃあさ、ヒッキーにとっての本物って結局なんだったの?」

 

 

「それは…」

 

 

核心を突く質問に戸惑う。口ごもった俺に畳み掛けるかのごとく、由比ヶ浜は質問をかぶせる。

 

 

「恋愛関係?…は奉仕部とは違うか。居場所?それとも、歯車になりたかったとかそんな感じ?」

 

 

歯車…。言い得て妙な喩えに思わず首肯してしまいそうになる。確かに奉仕部での俺は、居場所というよりは共依存を望む、さながら一つでも欠けたら機能しない歯車のようなものを求めていたように感じる。

 

しかし、戸塚との間に見つけたのはそういったものでは無いのも事実である。

 

 

「あの頃はそうだっただろうな。お互いがお互いを必要として、求めて、依存し合う。俺たちにとってはこれ以上ない幸せで、はたから見たら滑稽なことこの上ない関係」

 

 

だが、と繋げる。

 

 

「戸塚との本物はそれとは違う。言ってみたら……、あー、あんまり良い喩えは思いつかないんだが多分それが本物なんだよ。個人によって違うけど、当人同士が共有しあえるもの、的な?」

 

 

「ぷっ、やっぱりヒッキーって変な人だね」

 

 

「言うな。そんなの()()()が一番知ってるだろ?」

 

 

「……そだね」

 

 

寂しげにも見える表情は、果たして俺の思い込みなのか。答えは出ない。

 

 

「あたしは多分これからもヒッキーを好きなんだと思うよ。ずっと好き。………世界観が違えば殺して首だけ持って帰るレベル」

 

 

「怖えよ!!!」

 

 

「あははっ。だからね、ヒッキー」

 

 

そう言っては体を俺に近づける。

 

 

 

 

 

「一生あたしのこと、覚えててよね」

 

 

 

 

 

それだけ言うと由比ヶ浜は教室へ戻り、帰りの支度をする。

 

 

最後に残された言葉は、おそらく一生俺の心に居座り続けるだろう。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

今日も今日とて戸塚と帰る。お互いに言葉を交わさないのは、言わずとも通じてるからだと信じたい。

 

しかしすれ違いがこの空気を生み出しているのも事実だろう。

 

 

「戸塚」

 

 

「なに?」

 

 

「俺が死んだら、それは自業自得だから心配すんなよ」

 

 

「えっ、なにそれ。これから殺される予定でもあるの?」

 

 

「万が一の話だ」

 

 

「……万が一でもそんなことは言わないで欲しかったな」

 

 

……………………。

 

 

そして始まる無言タイム。やはりどこかすれ違っている。解決策は見つからないし、このままずっとこうなのかもしれない。しかし今の俺にはそうならないことを願うばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなことがあったんだけどさ、どうしたら仲直り出来るんだろうな、小町」

 

 

「……戸塚さんと付き合ってる?いやいやいや、戸塚さんは男の子だし、しかもお兄ちゃんは小町と…」

 

 

「ん?どうした?」

 

 

「う、ううん!何でもないよ!それより、戸塚さんとの仲直りだっけ?」

 

 

「ああ。どうにもすれ違いが多くてな…」

 

 

「まあそれは時間が解決するんじゃない?友達との喧嘩とかって大体そんなもん……、あっ…(察し)」

 

 

「今まで友達がいなくて悪かったな」

 

 

「今のお兄ちゃんには小町がいるもんね」

 

 

「ああ、それと戸塚も………、うっ」

 

 

ドクっ、と脈打つ愚息から放出されるナニ。

 

 

これから先、俺の青春はどうなるかはわからない。青春なんてものは、もう既に終えてしまっているかもしれない。はたまた、青春は死ぬまでが青春かもしれない。

 

そんなことは神のみぞ知る、と言ったところだ。多分、それが人生なんだろう。臭いセリフだが正しく世の真理を伝えている。何もわからないから面白くもあり、こうして俺と戸塚はカップルになったということだからな。

 

 

まあ、なんだ。しかし。

 

 

今回の話で得た教訓があるとしたら、それは『酒は飲んでも飲まれるな』ってところか。

 

 

 

 

「あっ、ちょっと待って小町!今お兄ちゃんイったばっかだから結構しんどい!!」

 

 

 

 

あ、あと未成年はお酒を飲んじゃダメだからな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






くぅ疲(ry

更新も遅く、話の内容も馬鹿みたいなこんなssを最後まで読んでくださりありがとうございました。正直途中からキャラを多く出しすぎたとめげそうにもなりましたが、皆様のおかげで(特に感想などはすごくモチベが上がりました)なんとかここまで書き上げることができました。

前に書いた方はわりかし話の内容が重かったので、次に書くやつはちょっと軽めにしようと考えていたら別の意味で重くなってしまいました(笑)俺重い話しか書けないんですかね…(笑)

ともあれ、最後まで読んでくださり本当にありがとうございました。

おそらく次回作は去年の夏からしたためている俺ガイル×中妹のクロスオーバー(まあ溜まってる話数は全然ないのですが)か劣等生×とあるのクロスオーバーだと思います。よければ新作にそれが上がっていたら読んでやってください(土下座)


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