●討伐計画
「綺麗どころまで用意して、秘匿技術を盗み出すそうとか剣道部は完全なクロってわけね」
生徒会室で昨日起きたことを報告。
七草会長は嬉しそうに渡辺委員長が上げた成果を確認する。
「ねぇねぇ、達也くんはどう思う?」
ニコニコとした表情は楽しげで、実に小悪魔ぶりを発揮して居る。
おそらくは自分が見込んだ生徒会メンバーを、対ブランシュ・チームに何度も押していたからだろう。
とはいえ部下の活躍を喜べる上司と言うのは貴重だ。
うちの親父や小百合さんを見ていると、余計にそう思う。
もっともあれはあれで常識的なところが、駄目な方の親父と比べて好感が持てる訳だが。
「会長の方が上でしたよ」
「え?」
話を流す為に適当印行ったのだが、会長は意味をつかみ損ねた様だった。
「半裸の綺麗どころよりも会長の笑顔の方が上だと申し上げました」
「えっえ? えー!?」
直球の表現に慣れて無いのか、会長は顔を赤らめて戸惑っている。
あるいはいつものコケティッシュな雰囲気は作り物で、ストレス解消用にからかって居るのだろう。
「中条先輩の可愛らしさや深雪の静かな佇まいは、ガラスケースに入れて置きたくなる人もいるでしょうね。その面に置いて生徒会側が剣道部を圧倒して居るのは確かです」
「達也くんのイジワル。…でも、あえてリンちゃんを外して表現したのは、もしかしてわざとかな~? お姉さん気になっちゃう」
流石に冗談だと気がついて落ち付いたのか、せめてもの反撃とばかりにこの間の話題を蒸し返して来る。
仕方無いので俺は苦笑して説明を付け加えた。
「凛とした佇まい…だと二重の意味で被りますね。だからと言って他の表現では文系美人の表現になってしまいますが、市原先輩は理系ですから」
「リンちゃんだけに凛とね…っちぇ。面白くないわ」
七草会長は上流階級にそぐわぬ仕草で、つまらなさそうに舌打ちをする。
もしかしなくてもこちらの方が素なのではないだろうか?
先ほどの会長への表現を訂正するのであれば、今の表情の方が一番上で、一番下が剣道部のアマゾネス達で間違いが無い。
「じゃあさ、リンちゃんの方はどうなの? 満更でもないんじゃない? 年下だけどお金持ちよー?」
「会長。少し想像の翼を広げてください」
からかう対象を切り替えた会長であるが市原先輩は涼しい顔で切り返した。
「私と司波くんだと、ベットでも子供の前でも研究の話ばかりだと思いますよ」
「あー見えるようだわ。絵に描いたような情緒不適合者の夫婦生活」
「俺の事をどう考えているのかが良く判りました。…本題に戻りましょう」
平然とした調子で入力を続ける市原先輩に会長はアッサリと撃沈された。
俺は二人のやり取りを愉しめる立場にないので、さっさと用件を切り出して置く。
「ブランシュの計画そのものは読めます。というより戦略目標は魔法科大学からの知識、戦術目標は二名の魔法師のみです」
「会長と十文字くんですね。そのどちらかを確保せねばならぬとしたら、おのずと絞れますか」
「も、もしかして私なの?」
俺と市原先輩の視線が会長に集まる。
遅れて他のメンバーも同様に見つめているのだが、顔をあからめるどころか気後れしてブルリとしていた。
無理はあるまい。浚われてDNA情報を奪われたり人体改造されるなど想像したくもあるまい。
「場所の固定がし易いですからね。その意味もあって、二科生と一科生の対立を助長し対処に追わせる気でしょう」
「対立を納める為に全校集会を開かせ、CADを持たずに講堂へ集まったところを抑えれば用が足りますね」
「ど、どうしよう…納めない訳にはいかないし、特別閲覧室も考えたら人でなんて足りないじゃない…」
自らがメイン・ターゲットとあって、先ほどまでの強気の姿勢が下降する。
自覚してもらう為に説明したとはいえ、必要以上に委縮してもこまるのでここでフォローしておくとしよう。
「閲覧室の方はセキュリティの関係もあって時間の猶予を与えなければ大丈夫です。それでも不安ならば専門家を雇えば間違いがありません」
許可を出せる教師は普段から接触し難い対象なので、洗脳したり浚ったりも難しい。
パスワードを抜いてセキュリティを突破するような時間を与えなければ良いのだし、専門家が無効化に掛ればまず防げる問題である。
テロリストの中にICEブレイカーが居ないとは限らないが、やはり素人で得意な者と専門家の間には高い壁があるものだ。
「次に居場所を固定されて襲撃されることですが、逆に言えば戦力を集中して護れると言う事です」
「判っている襲撃は対処もし易いですからね。いつでも何処でも襲撃される方が厄介かと」
「二人ともイジワルね。そこまで言われて震えて居られないわよ。こんな所までお似合いなんだからっ」
催眠ガスやフラッシュグネードをいきなり投げ込まれれば確かに脅威だが、判って居れば封じる魔法は幾らでもある。
それを風紀や生徒会の複数名が入力しておき、咄嗟に動ける誰かが対処するのはそれほど難しくない。
人間は驚きと立場に寄って行動を大幅に制限されるが、来ると判っている奇襲ならば全員が動けないなど稀なのだから。
●
「で、でもですね。例のテロ用CADを持った十人くらい中から協力したら大変なんじゃ? それに強化人間にするなら会長でなくともどこかで誰かを襲撃とか…」
「あのCADに関しては服案があります。襲撃できなくもないですが、吸収された組織にも都合があるでしょう」
「面倒を見てやるからお前達の技術をよこせと言われても、流石に渡せないわよね」
大丈夫だと思って安心したのか、会長は不安がる中条先輩を宥めに掛った。
その様子は先ほどまで軽く震えていたとは思えないが、表面上であれ取り繕ってみせるのが十師族なのだろう。
それに無頭竜が即座にブランシュに強化人間手術の術式を渡さないと言うのは、それなりにありえる話なのだ。
衰退しかけた組織がおいそれと屋台骨の技術を渡すわけもなく、現にリンとて全てを俺達に話しいないどころか部分だけを語っている可能性すらある。
この時は気が付かなかったのだが、もっと強力な技術を隠す為に強化人間手術を守っていたらしい。
「その辺りを考えると成果物である強化人間を現物で渡すというのが精々でしょう。ということは人数が多ければ多いほど、追跡者は少なければ少ないほど良いということになります」
強化人間を複数製作し、貢献度に応じて渡してやるということならばメンツも技術も保たれる。
実質的に渡さざるを得ない状況だとしても、それにこだわるのが人間と言うものだ。
「要は襲撃が判っている状態で護り切れば問題無いということよね。じゃあさっき言ってた服案に関して教えてくれる?」
すっかり落ち着いた会長は頷いて必要な対処手段を求めた。
俺は頷いて一高の地図を指差しながら説明を続けることにした。
そこには風紀委員の巡回コースが描かれており、幾つかを持ち回りで担当して居る。
「予め剣道部員たちの魔法傾向を確認した上で、俺が狙い易いコースを回ることにします」
「囮という訳ですか。確かに司波くんが使ったというキャスト・ジャミングの効果を見るには良い機会ですね」
「そっか。グラム・デモリッションはチャージタイムがあるのが一般的だし、キャスト・ジャミングの方が咄嗟に使い易いわよねぇ」
グラム・デモリッションは最強の対抗魔法と言われているが、相手よりも魔法を視認して上手く当てないといけない。
キャスト・ジャミングであれば、サイオンのコスト的にも波の大きさ的にも相手の居る方向へ乱雑に放っても問題は無い。
となれば有用性を確かめる為にも、俺が一人で巡回して居る時に狙い撃ちたくなるだろう。
「じゃあそこを捕まえる訳?」
「いえ。剣道部の周囲で確認いただければ幸いです。追って捕まえるよりも誰が動いているのか特定し、追うにしても包囲を絞ってCADの隠し場所のエリアを特定した方が早いですね」
剣道部の誰かが来るまでは今の段階で特定できているのだ。
ならば剣道部から出た者・戻って来た者、移動経路を確認すれば良い。
後は全校集会をした時に剣道部所属の者を警戒しておくなり、CADの方は風紀が偶然見付けたことにして事前に回収しても良いだろう。
「でも、そこまで上手く場所を特定できますかね?」
「魔法を使用しても問題無いだけで、学内にも魔法を検知するセンサーはありますよ。一度だけ襲う訳でも無いでしょうから何度でもチャンスはあります」
もっとも、俺はその前に対象を絞るつもりで居る。
先ほど事前に魔法の傾向を確認してからと言ったが、あれは嘘だ。
俺が持つ『精霊の目』で魔法の投射パターンを軽く把握しておき、巡回中に襲ってきたやつとデータを照合する。
人が少ないコースを通るのは、襲撃させ易くする為ではなく、特定し易くする為と言った方が良いだろう。
なにしろ精霊の目による魔法性質の確認は、複数が近くに居る場合は相手が魔法を使用しないと確認し難いのだが、一人で居るなら何とか魔法を使わずとも成功する場合があるからだ。
「シンパを使うとは思いますが、もしかしたら司・甲自身が動くかもしれませんね。そうなってくれれば後が楽なのですが」
「ならセンサーの方はこちらで掌握しておくわ。達也くんは怪我しない様にね」
百山校長と話がついているのであろう、七草会長は準備を快く請け負ってくれた。
後は風紀や部活連の中から信用のおける数名を選んでもらって、剣道部の周囲に配置すれば理想的だろう。
●予定内と想定外
数日して、嵐の様な帰還が過ぎ去った。
魔法の不正使用や喧嘩以上の事件は無く、特に目立つ事はそうそう起きはしない。
…俺を襲撃する件は別にして。
「大変だったそうだね。それで成果はどうかな?」
回収したセンサーのデータを(繰り返し使用すす為の)処分する前にコピーして、五十里先輩と解析を始める。
「まさか仲裁の方で腕試しをされるとは思いませんでしたよ。お陰で死に掛けましたが…」
予定外だったのは、桐原先輩を取り押さえた俺に挑んで来る者が居たこと。
二人で喧嘩するという演技をして、俺が止めに入る所でワザとこちらに誤爆するのだ。
精霊の目で見ても魔法式だけでは対象が判らないので、流石にこれを回避しきるのは難しかった。
「代わりにという訳でもありませんが、剣道部のメンバーが残したデータはこの通り確保できました」
「この短時間で良く把握できるね。僕なんて一致した波調データを見せてもらって、ようやく判るくらいなのに」
俺はセンサーから取り出した波形データを、予め測定した剣道部メンバーの中から特定して見せた。
良く判る一部を参考にその部員の全データを見せると、五十里先輩も暫くして特徴を掴んでくれる。
「おそらく指導の先生方の方がもっとうまく出来ると思いますよ。俺が可能だったのは、予め特徴を掴んでいたからです」
当然嘘の言い訳で、予め調べていたのはエイドスへの魔法投射パターンだ。
とはいえそれを説明する訳にもいかないので、サンプルデータを見せて納得させる。
「それって君が教師クラスのデータ把握力を持って居るってだよね。それはそれで凄いと思うよ」
「俺にはむしろ、突然言われた解析をその場で実行できる五十里先輩の方が凄いとは思いますけどね」
これは嘘では無く、本当に感心して居る。
俺が精霊の目というカンニングを元に言い訳して居るのに対し、先輩は本当に比較で特定して居るのだ。
「やっぱり主将の司先輩は加わってないね。それと精鋭である幹部も」
「物がモノですし使い捨ての尻尾にやらせたんでしょう」
テロ用のCADを使って試した自覚があるからか司・甲は襲撃を行って居なかった。
僅かに所属する一科生も同様で、こちらは理由を付けて拘束したかったので残念ではある。
これだけ用意周到だと、CADの隠し場所を見付けても迂闊には回収しない方が良いかもしれない。予備どころか本命が隠してある可能性もあるのだから。
測定データとセンサーのデータから実行犯と司・甲の波形を除くと、他の剣道部が測定データに残り、センサーからは完全に別物のデータが残る。
「でもこっちのデータの無い人は誰だろ」
「そっちは他の風紀委員が特定してくれました。非魔法系クラブにも影響力を残していたようです」
これは完全に不意打ちだった。
魔法系クラブに対する非魔法系の不遇を理由にいちゃもんを付けるところまでは予想していたが、まさか実行まで協力するとは思わなかった。
「そういえば関本先輩が得意げだったわえよねえ」
意外そうな顔をする千代田先輩であるが、俺としては見付けてくれた関本先輩には感謝の念しかない。
「得意げに剣道部が怪しいと言っておいて、他の非魔法系もとは思わなかったので汗顔の至りです」
「そこまでかしこまることもないと思うけどね。君が居なければこうして特定することすら難しかったんだし」
恥ずかしさで顔から火が出るようなことは無いが、思考の穴に陥っていたと言うべきだろう。
本当に非魔法系にまで根を張っているならば、もっと多くのクラブに影響して居る可能性もある。
もちろん杞憂であり、使い捨てだから襲撃させた、使い捨てではない人材として他のクラブから一科生を引き抜いて手元に置いた…と考えられなくもない。
(ここはプラスに考えるべきだな。最後まで温存された方が危険だった訳だし、調査の成績を誰かと競っている訳でもない)
怪しい剣道部との接触を見付けたということで、発見者の関本先輩は意気揚々と成果を誇っているらしい。
俺が測定したデータがあると知るやソレを要求したとのことで、今頃はパターンの解明に勤しんで居ることだろう。
市原先輩は若干不満げな様であったが、後で会長たちと一緒に宥めておくとしよう。
「話は変わりますが、先日のデータを元に改良品を設計されてましたよね? 今日になって製造ができたそうです」
「じゃあ良い機会だから週末にでも何処かで受け取らせてもらっても良いかな? どんな物に仕上がったか興味があるんだ」
この日の最後に、俺は五十里先輩から受け取ったデータを元にラボで製造したCADの件を話した。
押収したCADを元に刻印魔法で改良したものであり、テロリストがどこまでの品を持って居るか…という検証の為に作ってみたらしい。
もっとも五十里先輩が途中で暴走したようで、刻印魔法専門家による魔改造バージョンもあるというのが笑える冗談なのかもしれない。
「構いませんよ。俺もデータの入力をしてみて、そこから更にブラッシュアップしてみたいですからね。せっかくですから一緒にラボに行きましょうか」
「悪いね。天下のトーラス・アンド・シルバーに他所者がお邪魔させてもらって」
「ちょっと司波くん、人の婚約者をデートに誘わないでくれる?」
俺と五十里先輩は千代田先輩の様子に苦笑しながら、適当に待ち合わせを決めて下校する事にした。
と言う訳で新入生勧誘関連の騒ぎは終わりました。
桐原先輩の騒動が原作の高周波ブレードによる停学級から、不正使用よる良くある注意で終った為、十文字会頭は登場しませんでした。
彼の多大なる安心感が無いせいもあって、会長やあーちゃんに若干の不安が残ったままに成って居ます。
また原作と違い司弟は慎重というか大会優勝の影響でシンパが結構いるので、代わりにトカゲの尻尾が襲いかかった感じになって居ます。
同様に次回のフォア・リーブス社への訪問に関しても、初期から五十里先輩と仲が良いのでお供連れになるなど変更があります。