一撃のプリンセス〜転生してカンフー少女になったボクが、武闘大会を勝ち抜くお話〜   作:葉振藩

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打ち砕く拳、切り裂く脚①

 この【滄奥市(そうおうし)】に来て、特に日は長くない。せいぜい半月いくかいかないか程度の日数しか経っていない。

 

 しかし、その決して長くはない数日間は、非常に密度の濃いものだった。

 

 古流の【刮脚(かっきゃく)】を持つ大人びた少女、宮莱莱(ゴン・ライライ)と出会い、仲良くなった。

 

 【九十八式連環把(きゅうじゅうはちしれんかんは)】の汚名返上を志す少女、孫珊喜(スン・シャンシー)と出会い、ぶつかり合い、そして和解した。

 

 【太極炮捶(たいきょくほうすい)】宗家の娘、紅蜜楓(ホン・ミーフォン)と戦い、勝利したら懐かれた。

 

 皇女という身分を隠して大会に参加していた少女、羅森嵐(ルオ・センラン)と出会い、意気投合した。

 

 ライライと仲違いした。

 

 そして、友情を取り戻した。

 

 まるで中身がよく詰まったスイカのように、この数日間には出会いと驚き、そして事件が溢れていた。

 

 楽しい事もあれば、辛い事もあった。

 

 しかし、今――円形闘技場までの一本道を歩くボクの顔は、笑顔を無理なく浮かべることができていた。

 

 大きな一束の三つ編みを後頭部ではためかせながら、迷いなく一歩、一歩進む。

 

 進む先にある四角い出入り口からは、朝日がまばゆく溢れ、この一本道を照らしていた。奥からは、大勢の人のおしゃべりが多重したガヤが聞こえて来る。

 

 それを見聞きして、ボクは感慨深いものを感じた。

 

 これから、【滄奥市】で過ごした数日間に終止符が打たれようとしている。

 

 時間が経てば、おのずと打たれる終止符。しかし、最後に笑えるのは二人のうち一人だけ。

 

 その終止符の名は――決勝戦。

 

 時間が経つのは早いものである。本当にあっという間だった。

 

 最初に鈴を奪い合い、そしてこれから最後に【黄龍賽(こうりゅうさい)】本戦の切符を奪い合うのだ。

 

 あの四角い光の先で待っているであろう相手と会うべく、ボクは足を少しも止めることなく動かし続けた。

 

 やがてその四角い入口をくぐる。

 

 途端、ボクの周囲全方向が、陽光による強い明るさを得た。円形闘技場とその周囲の情景が、はっきりと姿を見せた。

 

 周囲は円筒のような高い階層で塞がれており、そのうちの一層である客席から、無数の観客が円形闘技場(こちら)俯瞰(ふかん)していた。

 

 彼らの視線は、総じてボクと――もう一人に向いていた。

 

 胸が人一倍大きく、砂時計のような美しいボディライン。毛先にゆるいウェーブのかかった長髪をポニーテールにした髪型。そして、大人びた中にも微かに少女っぽさを残した顔立ち。

 

 彼女こそ、この決勝戦で戦う相手、宮莱莱(ゴン・ライライ)である。

 

「来たわね」

 

 ライライはやって来たボクの姿を真っ直ぐ見て、奥ゆかしく口元を緩めた。

 

 しかし、この柔和な微笑の中に、恐ろしい力を隠し持っている事を、ボクはよく知っている。だから闘志を含ませた微笑みを浮かべ、ライライに返す。

 

 この数日間、彼女の技を何度か目にした。あの蹴り技をあえて言い表すなら、「岩石の圧力を持った強風」。破壊力だけでなく、変化と柔軟さにも富んでいる。重さと軽やかさという、相容れない二つの要素を兼備した奇跡の脚法。あの『無影脚』から厳しい教育を受けただけの事はある。

 

「……ライライ。今更だけど、本当にやるのかい?」

 

「もちろんよ。昨日も言ったでしょう?」

 

 ライライは、父親の仇であるレイフォン師匠が先立ったおかげで、大会にかけた「武名を轟かせて仇を引き寄せる」という目的を失ってしまった。あんまりな言い方をすると、もう戦っても意味がないのだ。

 

 しかし彼女は、戦いたいと言った。仇を追い続けてきたこれまでの人生から軌道修正するための、最初の一戦をして欲しいと。

 

 もし彼女が棄権してくれれば、ボクは決勝戦を不戦勝でパスし、楽に本戦の参加資格を手に入れる事ができただろう。元々ボクは、本戦に優勝して父様に武法を続ける事を認めさせるために戦っていた。ここで不戦勝なら、願ったり叶ったりであった。

 

 けど、「棄権しない」というライライの言葉を聞いた時、ボクはどういうわけか落胆はしなかった。それどころか、凄く嬉しくさえ思えた。

 

 ボクは「仇を打つ」というライライの目的を、内心で心配していた。けど今回、その目的と決別しようとしている。そのきっかけとなれる事が嬉しいのだ。

 

 センランの時といい、今といい、この大会には単純な勝ち負け以外の意味を持つ試合が多かった。

 

「シンスイ、あなたの【黄龍賽】への思いは、昨日すでに聞いているわ。そして、同時に応援してもいる」

 

「……うん」

 

「でも、ごめんなさい。私はわざと負けてあげられるほど、器用な女じゃないの。……戦う前に、それだけ謝っておきたかった」

 

「うん。分かってる。いいんだ」

 

 ボクは柔らかく笑いながら、かぶりを振った。

 

 ライライはお父さんの【刮脚】を本当に大事に思っている。なので、わざと負けることは、【刮脚】の名誉を傷つけてしまうことに繋がる。

 

 そんな彼女の気持ちをくんだボクは、顔の前に左拳を持ってきて――それを右手で包んだ。

 

「【打雷把(だらいは)】――李星穂(リー・シンスイ)

 

 ライライもまた、ボクと同じ【抱拳礼(ほうけんれい)】を行い、祝詞(のりと)のように口にした。

 

「【刮脚】――宮莱莱(ゴン・ライライ)

 

 次の瞬間、銅鑼が高らかに鳴り響いた。

 

 この【滄奥市】で、最後の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 【抱拳礼】を解き、最初に行動に移したのはボクだった。

 

 射ち出された一矢のごとく、ライライめがけて突っ込んだ。

 

 彼我の距離は、約一秒弱で、触れ合えるまでに狭まる。

 

 だが、いきなり大技は使わない。

 

 まずは軽く小手調べだ。

 

「せぁっ!!」

 

 前進を止めぬまま、体を時計回りに回転。その遠心力を上乗せした右回し蹴りを振った。

 

 脚という名の鞭が、風を斬り、ライライの左脇腹に迫る。

 

 が、突如ライライの下半身に白い閃きが発生。

 

 ボクの回し蹴りは見事に直撃した――ライライの靴底に。

 

 彼女は迅速に左足を持ち上げ、その足裏で回し蹴りを受け止めたのだ。

 

 その変則ガードに舌を巻く暇はなかった。ライライの左足が唐突に軌道を変え、ボクめがけて飛びかかってきた。

 

 右足を上げているため、足さばきによる回避は出来ない。なのでボクは右前腕部を垂直に立て、それをウエストの捻りによって体の内側へと引き寄せた。

 

 足裏を先にして一直線に向かって来たライライの蹴り足の側面に、ボクの右前腕部が接触。このまま摩擦力で軌道をそらしてやる。

 

 ――しかし、ライライの蹴り足は1厘米(りんまい)も動かなかった。

 

 ボクはとっさの判断で後ろへ跳ねた。

 

 瞬間、ライライの靴底が疾風の速度でボクの土手っ腹にぶち当たった。

 

「ぐっ!?」

 

 強烈な衝撃と鈍痛をその身に受けたボクは、余った勢いで弾き飛ばされる。後ろに跳んだことで衝撃を軽減できたが、それでもかなりの威力だった。まともに受けていたらと考えるとゾッとする。

 

 後傾しそうになったが、なんとか踏ん張って直立姿勢を保ち、両足を踏みしめた摩擦で勢いを殺す。

 

 が、完全に停止した時には、すでにライライが目の前に迫っていた。

 

 その片膝が上がったのを見た時、ボクは本能的に体をねじった。

 

「ふっ!!」

 

 ライライの鋭い吐気が響くとともに、さっきまでボクの正中線があった位置を、一筋の閃光が貫いた。

 

 彼女の放った爪先蹴りが持つ桁外れの速さを間近で見て、怖気が立つのを感じた。

 

 ふと、胸元に涼しさを感じたので見る。なんと爪先がかすったボクの服の胸元は、長い横線状の切れ目がパックリ入っていた。服の中の素肌が、絶壁のような胸とともに見え隠れしている。

 

 女の子らしく恥ずかしがっている暇はなかった。

 

 ライライは杭を打ち込むように蹴り足を着地させる。そしてそこを軸に素早く独楽(コマ)のように回転。背を向けた状態からの振り向きざま、後ろ回し蹴りを仕掛けてきた。その蹴り足は膝が九十度ほど曲がっていて、(フック)のようになっている。

 

 ボクは軽く身をかがめ、そのキックに頭上を通過させた。ライライは比較的高い位置で蹴りを放ったため、彼女より身長が低いボクには回避が容易だった。

 

 空振ったことで、ライライの体は遠心力の運命通りに胴体をさらけ出した。

 

 ここが攻めどころだと瞬時に感じたボクは、拳を脇に作り、後足を蹴って彼女めがけて飛び込む。

 

 正拳突き【衝撃(しょうすい)】が直撃する――

 

「がっ!?」

 

 ――という確信は、突如腹に舞い込んだインパクトによって見事に裏切られた。

 

 目を向けると、ライライが先ほど空振らせた蹴り足をそのまま使い、ボクに前蹴りを打ち込んでいた。体幹の力で遠心力を無理矢理殺し、キックに転じたのだ。

 

 苦し紛れの攻撃だったためか、威力はさほどでもなかった。しかし決して優しくもない。蹴りの勢いのまま、ボクの足は真後ろへ大きくスライドする。

 

 止まった後、ボクはじんじんと残った腹部の痛みを感じながら、我知らず喉を鳴らした。

 

 ――強い。

 

 蹴りの威力や速度がずば抜けている事は知っていたつもりだ。しかし間近で見たことで、初めてそれに明確な驚異を感じられた。

 

 おまけにパワーやスピードだけではない。ライライは自分の両足を、まるで腕と同じような巧みさでコントロールしている。まるで下半身にもう一組、腕が生えているようだ。

 

 その凄まじい蹴り技の嵐からは、彼女のたゆまぬ努力が色濃く感じられた。

 

 ライライはボクに微笑みを向けると、

 

「初めて会った時、私の【刮脚】が見たいって言ってたわよね。どうかしら? 気に入ってもらえた?」

 

「……うん。そりゃもう。めちゃくちゃ凄いし、おっかないよ」

 

「ありがとう。でも、今見せたのはまだまだ毛先の部分よ。これからもっと凄いものを見せてあげるわ」

 

 ライライは口元を不敵に釣り上げて笑う。

 

 …これは、小手調べなんて言ってる場合じゃない。

 

 最初から叩き潰すつもりで行かないと、足元を掬われる。

 

「じゃあ、行くわよ!」

 

 その一言とともに、視界にあるライライの姿が一気にズームアップしてきた。

 

 ダッシュ中に体の右側面をこちらへ向け、蹴りの間合いにボクを捕らえると、助走を込めたサイドキックを一直線に突き出してきた。

 

 ボクは体の位置を右へ少しずらし、猛烈な勢いで押し迫った足裏を紙一重で回避。そしてすぐさま、突き出された彼女の蹴り足をなぞる形で急接近する。

 

 がら空きの胴体に狙いを定め、ボクは踏み砕かんばかりに後足を蹴って加速した。

 

「フンッ!!」

 

 爆ぜるような激しい踏み込み【震脚(しんきゃく)】によって急停止し、正拳を打ち出す。【打雷把】の一技法、【衝捶】だ。【打雷把】では基本に位置する技だが、それでも直撃すればただでは済まない。

 

 ライライはやって来たボクの拳の真下に片腕を差し入れ、そして上げた。それによってボクの拳は大きくすくい上げられ、無力化する。

 

 さらに蹴り足を迅速に引き戻し、踏み込まれたボクの前足の股関節に足刀を押し込んだ。

 

「うわっ……!?」

 

 股関節を骨盤ごと後ろに押されたボクは否応なくバランスを崩し、尻餅をついた。

 

 しかし、のんびりしている余裕はない。ライライのむこうずねが真正面から急激に押し迫っているのだから。

 

 ボクは前腕部を交差させ、その又で蹴りを受けた。

 

 馬鹿げたインパクトが両腕に響くと同時に――派手にぶっ飛んだ。

 

 ゴロゴロと大きく後転しながら、ボクは背筋を凍らせていた。

 

 これほど重たい蹴りを受けたのは久しぶりだ。

 

 こんな蹴りを繰り出せる武法士はそう居ない。仇討ちを目指していただけの事はある。

 

 ボクは転がった状態から流れるように起き上がる。前方を見ると、すでにライライが残り約3(まい)ほどにまで距離を縮めてきていた。

 

 蹴りを受けた両腕が震えている。彼女の蹴りの威力をまだ覚えていて、そして恐怖しているのだ。

 

 しかし、両手を強く握り締めて、震えを無理矢理止める。震えたいなら後で好きなだけ震えればいい。でも、今だけは我慢してくれ。

 

 やがてライライは蹴りの射程内にボクを入れた。そして、何度も鋭い蹴りを連打させてきた。

 

 左右、上下、斜め、あらゆる角度から凶悪な閃きが走る。それらはまるで街灯に群がる羽虫のような不規則さで、ボクの眼前で飛び交う。

 

 ボクは全神経を集中させて、蹴りの嵐を紙一重で避けていく。【打雷把】の修行で鍛えた精密な足さばきの成せる技だ。

 

 しかし時々避け損ね、上半身のあらゆる場所にかすって服に切れ目ができる。

 

 それでも、クリーンヒットだけは着実に避けていた。

 

 幾度も視界に蹴りが行き交う。それらは全て、腰のある位置を下らない、高めの蹴りだった。

 

 だからだろう。――ボクのむこうずねに向かって唐突に放たれた低い爪先蹴りに、うまく反応できなかった。

 

「――っ!!」

 

 弁慶の泣き所に鋭い衝撃を受け、悶絶しそうになる。実際にはしなかったが、痛みによって全身が硬直してしまう。

 

 その僅かな隙を、ライライは回し蹴りによって突いてきた。

 

「あがっ――!?」

 

 莫大なショックが、二の腕を通じて体の芯まで染み渡る。

 

 重量の塊に横殴りされたボクは、大きく真横に飛ばされた。

 

 めちゃくちゃな転がり方をしつつも、なんとかしゃがみこんだ姿勢でストップする。

 

 ボクは激痛の名残を感じながら、手足の調子を確かめる。今のはかなり痛かった。しかし、動けなくなるほどじゃない。まだやれそうだ。

 

 少しぎこちないながらも、ボクは立ち上がって構えを取ることができた。

 

 それと同時に、自分の失念を叱咤する。

 

 ボクはすっかり忘れかけていたのだ。ライライの武法の性質を。

 

 

 

 ――ライライの【刮脚】は、最も古いタイプのものだ。

 

 

 

 現在【刮脚】には、大きく力強い蹴りが主体の【武勢式(ぶせいしき)】と、低く鋭い蹴りが主体の【文勢式(ぶんせいしき)】の二種類が存在する。

 

 ――【武勢式】は、ダイナミックで威力の高い蹴りを連発し、相手の体力を削ぎ落として倒すという戦法をとる。

 ――【文勢式】は、低い蹴り技で武法の命たる足を徹底的に攻めることで、足を破壊もしくは弱らせ、相手を戦闘続行不能に追い込む戦法をとる。

 

 そして、その二つの亜流の元となった古流の【刮脚】は、二つの亜流の性質を同時に持っている。つまり、高い蹴りと低い蹴り、どちらにも長けているのだ。

 

 高い蹴りは体力を削ぎ、低い蹴りは脚力を削ぐ。

 

 今度からは高い蹴りだけでなく、低い蹴りにも気を配らなければならない。

 

 遠く離れていたライライは、再びボクへ向かって疾駆した。

 

 彼女の蹴りの間合いに入る直前、ボクは両前腕部に【硬気功(こうきこう)】をかけた。青白いスパークとともに、両腕は鉄腕と化す。

 

 ライライは細く鋭い吐気とともに、右足による回し蹴りを振り出した。

 

 対して、ボクは蹴りのやって来る左方向に両腕を構えた。それに加えて、足指で大地を強く掴んで立ち、脊椎を弓弦(ゆずる)のように張り詰めさせる。

 

 そして半秒と立たぬ間に、構えられた両前腕部にライライの右足が激しく直撃。空気が爆ぜるように震え、蹴りの衝撃が腕を通して体幹に伝わってくる。

 

 普通ならその場から吹っ飛ぶほどの威力だったが、ボクの立ち位置は全く動いていなかった。【打雷把】お得意の【両儀勁(りょうぎけい)】を用いて、ピラミッドのごとく磐石な重心を得ていたからだ。

 

 受け止めた蹴り足をなぞるようにして、ライライの懐へと潜り込む。

 

「もらったっ!!」

 

 ボクは脇に構えていた右拳を【震脚】の踏み込みと同時に突き出した。【衝捶】だ。

 

「――甘いわね!!」

 

 だが、ライライは軸足となっていた左足を跳躍させ、その膝を真上に突き出す。それによってボクの打ち放った右拳は真下から打ち上げられてしまった。攻撃失敗だ。

 

 滞空中もライライは止まらない。拳を防いだその足を使って、真っ直ぐ爪先を走らせた。

 

「くっ!」

 

 ボクはとっさにもう片方の左手を構え、爪先を受ける。【硬気功】がまだ残っていたため痛みも怪我もなかったが、重鈍な衝撃を手で感じ取った瞬間、地に付いていた足がそのまま大きく後ろへ滑った。

 

 しかし、ボクらの距離はほとんど離れていない。――なぜなら、勢いよく滑るボクを、ライライが追いかけてきていたからだ。

 

 追い討ちをかける気だろう。

 

 ボクは再び【硬気功】で防ごうと一瞬考えたが、すぐにその思考を捨てた。ライライの蹴りは威力が高い。【硬気功】で受ければ無事で済むだろうが、また今みたいに吹っ飛ばされるに違いない。そこを追い討ちされる可能性がある。もしそうなったら同じ事の繰り返し。【気】も無限じゃないのだ。戦いが長期化する事を考慮すると、なるべく無駄遣いは避けた方がいい。

 

 なのでボクはわざと体重を真横にかけて体を横倒しにし、飛んできたライライの回し蹴りをくぐって避けた。

 

 そして横たわった状態のまま全身に捻りを加え、ライライの軸足へ蹴りを放った。しかしその足が跳んで地から離れたことで、ボクの蹴りは空振りに終わる。

 

 両膝を立てながら虚空に浮いたライライは、今なお寝転がったボクめがけて右足の靴底を鋭く撃ち出す。

 

 体を横に転がして蹴りを回避。音並みの速度で飛来してきた靴底は、ヒットした箇所の石敷を容易く破砕した。

 

 機敏に跳ね起き、構えを取った。同時に、ライライも着地する。

 

 ボクが今いる位置は、ライライの背後だった。

 

 攻撃を仕掛けるチャンスと思ったが、すぐに思いとどまり、大きくバックステップした。

 

 ――ボクが飛び退いたのと、ライライの片足がかまいたちのような鋭さで背後へ蹴り上げられたのは、ほぼ同じタイミングだった。

 

 その蹴りは、馬が後ろ足を持ち上げる様子によく似ていた。

 

 ――やっぱり、その技が出たか。

 

 あれは【鴛鴦脚(えんおうきゃく)】。背後にいる敵を攻撃する時に用いる蹴り技だ。【武勢式】にも【文勢式】にも存在する、【刮脚】の代表的な技の一つ。

 

 ライライの攻めは続く。美しくも強靭な両足でカニ歩きのようなステップを鋭敏に刻み、横向きのまま距離を詰めてきた。

 

 彼女が片膝を上げたかと思うと、その足の靴底が視界で急速に拡大した。

 

「うわ!」

 

 ボクは驚き、両腕で顔をガードした。ほぼ本能的な反応だった。

 しかし、蹴りによる衝撃は来ない。

 

 ――と思った瞬間、足の側面から何かがぶち当たり、重心を崩された。

 

「えっ……!?」

 

 ボクは足元を見る。そこにはライライの片足。どうやら足を払われたようだ。

 

 いつものボクなら、こんな簡単に倒されたりはしない。最初の蹴りのせいで、ボクの意識は完全に顔面に集中していた。それによって足元から意識が外れた。そこを狙ったのだろう。

 

 横向きに自由落下する今のボクは、まさに「死に体」だ。地に足が付いておらず、その場から逃げることもままならない無防備な状態。

 

 ライライの片足が動く。

 

 ボクはとっさの判断で、胴体の前で両腕を構えた。

 

「ぐっ――!!」

 

 次の瞬間、衝撃が爆発。

 

 構えられた両腕に、強烈な前蹴りが衝突してきたのだ。腕がもげそうなほどの圧力と鈍痛が、体の内側まで反響したような気がした。

 

 ボクは地に足を付いていなかったため、蹴りの威力のまま弾かれたように吹っ飛んだ。

 

 着地後も、勢いよく転がるボク。しかしなんとか立ち上がった。

 

 当然というべきか、ライライはボクに向かってダッシュで近づいている。一度も休ませてやる気はない。顔がそう言っている気がした。

 

「はああぁぁっ!!」

 

 ライライは裂ぱくの気合いを響かせながら、再び怒涛の蹴りの数々で攻めてきた。

 

 ボクはそれらを懸命に回避、あるいは受け流した。

 

 今度の連続蹴りは、まるで曲芸のようだった。

 

 単純な高い蹴り、低い蹴りという枠にのみ収まらない。

 

 胴体を狙った蹴りかと思えば足元狙い。足元狙いかと思えば胴体狙い。胴体狙いのフリをした足元狙いの蹴り、と思わせた胴体狙いの蹴り。その逆もしかり……

 

 カフェイン摂取済みの蜘蛛が張った糸のごとく変則的な攻撃軌道の数々が、縦横無尽にボクの視界内を踊り狂う。

 

 次の瞬間、

 

「あがっ――!?」

 

 丸太で思いっきり殴られたような衝撃が、両側の二の腕へドドンッ!! と左右交互に叩き込まれた。ライライが両足交互の回し蹴りを、とんでもない速さでぶち当てたのだ。

 

 砕けんばかりに歯を食いしばる。

 

 が、それは蹴りによる痛みのせいではなかった。

 

 

 

 ――すごく気持ち悪い。

 

 

 

 腹の中がよじれるような、凄まじい不快感。胃が捻転し、消化液が嵐の海のように荒れ狂うイメージ。いまにも吐き戻したい気分だ。

 

 これは一体なんなんだ。

 

 考えている時間など与えられるはずもなく、

 

「そこっ――!!」

 

 光線のごとく伸びてきたライライの片足が、ボクの胴体を真っ直ぐ撃ち抜いた。

 

 ボクは勢いよく後方へ弾かれる。地面に落ちた後も、倒れたまま石敷を高速でスライドし、そしてようやく止まった。

 

 体のあちこちが、何かに取り憑かれたようにジンジン痛む。原因不明の不快感もまだ抜けない。しかし意識は失っていない。それが奇跡に思えた。

 

 ボクは重い体を強引に奮い立たせ、しかし口元には満ち足りた笑みを作り、ライライに訊いた。

 

「……さっきの二つの技、ボクは見たことないんだけど……もしかして、古流の【刮脚】の技?」

 

 ライライはご名答と言わんばかりに微笑み、

 

「そうよ。今の二つの技は、古流の【刮脚】にのみ伝わるものだわ。最初の三連蹴りは【三才擊脚(さんさいげききゃく)】。()()(胴体)の順に蹴りを放つ連続技で、最初の顔面蹴りで下半身への注意をそらし、意識が抜けて緩くなった足元を二擊目で払って相手を「死に体」にし、そして三擊目で吹っ飛ばす。高い蹴りも低い蹴りも使いこなせる古流ならではの技よ」

 

「……ちなみに今ボク凄く吐きそうなんだけど、これも君の技のせい?」

 

「ええ。【響脚(きょうきゃく)】の、ね。相手の左右側面へ素早く回し蹴りを打ち込むことで、相手の体内に強烈な揺さぶりをかけ、振動波を発生させる技。【硬気功】でも防げない防御不能の蹴りよ。振動波はしばらく続くから、まだその不快感は消えないわ」

 

 聞けば聞くほど、驚異を感じざるを得ない内容だった。

 

 しかし、ボクはそれと同時に嬉しい気分にもなる。

 

 古流の【刮脚】が持つ技術は、ボクの期待以上に面白く、凄いものだった。

 

 しかしそれらを可能にし、そしてより優れた技たらしめているのは、ひとえに、ライライの修練の積み重ね。

 

 ――本当に、手強い相手だ。

 

 でも、それでもボクは負けない。負ける理由にならない。

 

 ボクはこの戦いで勝って、本戦への参加資格を手に入れ、そして優勝しないといけないんだ。

 

 友達だろうと、強敵だろうと、立ちふさがるならぶっ飛ばしてやる。

 

 ボクは片足で力強く足踏みした。【震脚】だ。

 

 するとどうだろう。体内に渦巻いていた不快感がぴったりと止み、調子が戻った。

 

 「よしっ」と意気込むと、ボクは両肩を元気良くぐるぐる回す。

 

 【震脚】をすると、地面からの反作用によって強い垂直の力が発生する。その力を使って振動波を強引に殺したのだ。思いつきでやってみたが、うまくいったみたいでよかった。

 

「……まさか、そんな無茶苦茶な方法で【響脚】の振動を消すなんて。シンスイ、あなたやっぱり面白い子だわ」

 

 元気を取り戻したボクを、ライライは緊張の混じった笑みを浮かべて見つめていた。

 

 彼女も彼女で、譲れない意地がある。

 

 これはルールに守られた、競技的な試合。

 

 だが、互いに譲れないものを持って戦うという点で、真剣勝負と何の違いがあるだろう?

 

 ボクら二人は闘争心を身にまとい、睨み合う。

 

 最初に動いたのは、ボクだった。

 

「じゃあ――いくよっ!!」

 

 【震脚】で大地を踏み鳴らすや、猛然とライライめがけて突っ込んでいった。【震脚】によって強化された瞬発力は、彼女との間合いをすぐに狭ませる。

 

 蹴りの射程範囲に入ってもなお、ボクはライライの正面へと突き進む。いつでも突きを放てるよう、拳を脇に構えておく。

 

「ハッ!!」

 

 当然の反応というべきか、彼女はバカ正直に直進してくるボクを足裏蹴りで迎え撃ってきた。闘技場の石敷も簡単に砕くほどの威力の塊が、真っ直ぐボクに向かって来る。

 

 ――が、それは予想の範囲内だった。ボクは蹴りが放たれる直前、細かい足さばきによって体の位置をほんの少しだけ横へ動かしていた。爆速で進む彼女の靴裏は、ボクの真横を素通りする。

 

 そのまま流れるように懐へ入った。

 

 いつもならここで正拳を打ち込むところだが、その手は一度破られた。攻めるとしたら意表を突く意味も兼ねて、違う攻撃を放った方がいいだろう。

 

 なので――ボクはあえて回し蹴りを選んだ。

 

「くっ……!?」

 

 ライライは腕を構えて、ボクのキックをガードする。さすがの彼女も予想外だったのか、反応がわずかに遅れていた。ギリギリで防いだのだ。

 

 倒れはしなかったものの、蹴りの威力に流されるまま後ろへたたらを踏むライライ。

 

 重心のおぼつかない今は、思うように攻撃に対処できない。今なら拳が当たるはず――そう思ったボクは迷わず地を蹴った。

 

 拳の届く距離にライライを捕らえた瞬間【震脚】で激しく踏み込み、さらにその足へ急激な捻りを加えて全身を旋回させる。その身体操作とともに打ち出された必倒の正拳【碾足衝捶(てんそくしょうすい)】が、シャープな勢いでライライへと迫る。

 

 しかし、拳の延長線上にあったライライの姿が消えた。目標を失った拳が空気の壁を穿つ。

 

 彼女は胎児のように体を丸めて、地に背中を付いていた。慣性に逆らわず、自分から後ろに転がったのだろう。

 

 抱え込まれていたライライの両膝が、急激に伸びた。

 

「おっと!」

 

 迫ってきた二足の靴裏を、ボクは体を反らして避ける。数歩後ろへ下がって再び距離を作った。

 

 ライライは跳ね起き、ボクめがけて走り出す。女豹のごとく鋭い疾駆だ。

 

 足のリーチ内まで入った瞬間、横薙ぎの蹴りを放たれるが、それをかがんで避ける。

 

 ライライはその回し蹴りの遠心力に従って背を向け、片足を大きく跳ね上げた。【鴛鴦脚】だ。

 

 ボクは体を後ろにのけ反らせてその蹴りを回避。しかし大きく跳ね上げられた片足は空中でピタリと動きを止めたかと思うと、爪先を先にして急降下した。

 

 ボクは前にあった足を、素早く全身ごと下がらせた。爪先はボクの前足の甲があった位置に激しく落下。……もし足を下がらせなかったら、死ぬほど痛い目にあっていただろう。

 

 【鴛鴦脚】の目的は、二つの亜流によってそれぞれ異なる。

 

 【武勢式】は胴体か顎への攻撃、そして【文勢式】は爪先か足甲への攻撃を目的としている。

 

 だがライライの放った【鴛鴦脚】は、その両方の性質を兼ね備えたものだった。それこそ、彼女の【刮脚】が古流たる証拠だ。

 

 振り向きざまにスイングされた後ろ回し蹴りをバックステップで躱してから、ボクは元来た方向へ戻る形でライライへ向かっていく。

 

 矢継ぎ早にやって来る剛脚の振りをかいくぐり、ライライの胸の前に到達。遥か彼方まで打ち抜く気持ちで【移山頂肘(いざんちょうちゅう)】の右肘を繰り出す。

 

 彼女はボクから見て少し右へズレて、肘打ちを空振らせた。そして、そこから止まることなく右膝を上げ始めた。ボクの脇腹を蹴る気だ。

 

 ボクは迅速にその蹴り足の太腿を両手で押さえ、移動を止める。彼女の脚は、あの凶悪な威力の蹴りを放ったとは思えないほどに柔らかく、なめらかだった。

 

 右側面に立つライライへ寄りかかるように、体当たり【硬貼(こうてん)】を仕掛けようとする。だが踏み込もうとした右足の膝が、ライライの足裏によって途中でつっかえ棒よろしく止められた。【硬貼】はライライまであと少しという位置でストップ。命中ならず。

 

 ボクはめげずに足底から全身へ捻りを加え、【震脚】による重心移動と同時に左拳をライライめがけて突き出した。だが彼女はボクの放った【拗歩旋捶(ようほせんけん)】を紙一重で避け、あさっての方向へ流す。

 

 ライライは踏み込まれた足へ爪先をぶつけようとしてきたが、ボクは素早く重心を後ろの足へ移して体を引く。

 

 ライライの爪先蹴りが空振ったのを見越して前蹴り。

 

 彼女はそれさえも最小限の動きで躱す。

 

 

 

 ――それからも、そんな演武じみた避け合い攻め合いを次々と繰り広げた。

 

 

 

 互いに全てを躱し、全てを躱される。

 

 一向に決着のつかない堂々巡りの攻防。

 

 わざとやっているのではないかと思う者もいるかもしれない。しかしボクらは真剣そのものだった。

 

 特にライライがそうだ。彼女はボク以上に慎重な面持ちで攻防に臨んでいた。ボクの【勁擊(けいげき)】には【硬気功】が通じない。それを警戒しているのだろう。

 

 驚くべきことに、ライライの足さばきの器用さも、ボクに負けず劣らずだった。

 

 いや、むしろここまで達者で当然かもしれない。【刮脚】は蹴り主体の武法であるため、人並み以上の足の器用さが求められる。そもそも、足の器用さを養う【打雷把】の修行法【養霊球(ようれいきゅう)】は、彼女の【刮脚】がルーツとなっているのだ。足さばきが上手くとも、何ら不思議ではない。

 

 手数の出し合いと潰し合いは、なおも繰り返される。

 

 しかし、どんなものにも等しく終わりはあるものだ。

 

「せいっ!!」

 

 ライライはほんのわずか生まれた隙を利用し、ボクの膝裏に自分の膝をぶつけてきた。

 

 蹴られた力こそ微々たるもの。だがその微々たる力によってボクの下半身のバランスはあっけなく崩れ、体が傾く。ボクも下半身の功力は相当に鍛えているため、足を蹴られても簡単にバランスを崩さない自信がある。だが彼女は膝裏を蹴ることで、膝関節を無理矢理曲げさせたのだ。膝カックンの要領である。

 

 仰向けに倒れるボク。前――正確には真上――を見ると、彼女の履いている靴の底が視界で一気に大きくなっていた。

 

「なんのっ!」

 

 ボクも負けじと足裏を突き出し、振り下ろされたライライの靴底とぶつけ合わせた。

 

 ものすごい下向きの力が、足裏を通して膝にのしかかってくる。

 

 だがボクもそれに応戦すべく、靴裏を真上に進めようと足に力を入れる。

 

 ぎりぎりと、互いの脚力が拮抗(きっこう)し合う。ある時はボクが押し、ある時はライライが押す。一進一退の力比べ。

 

 しかし、引力が味方してくれているためだろうか、気がつくとライライがボクを押し返す回数の方が多くなっていた。

 

「くっ……!」

 

 ボクは眉をひそめ、奥歯を食いしばる。額にはうっすらと汗が浮かんでいた。

 

 ライライの足が、さらに手前へと押し寄せてくる。

 

 このままだと、押し切られる。

 

 なら、彼女の足から素早く自分の足を離し、

 

 ――いや。そんなのはボクのプライドが許さない。

 

 ライライ、確かに君の足の【(きん)】はかなり鍛えられてる。

 

 でも、それはボクだって同じだ。

 

 【両儀勁】の源泉は、両足を大地に固定させる強靭な脚力。【打雷把】という流派の門戸を叩いて以来、ボクはその力を徹底して鍛え上げてきたんだ。

 

 このまま容易く押し切られていい道理が――あるはずがない!!

 

 ボクは自分の足へ、ありったけの力をつぎ込んだ。

 

 少しずつだが、着実にライライの足を押し返していく。

 

「な……!?」

 

 ライライは一瞬唖然とするが、すぐに表情を引き締めて踏む力を強めた。

 

 ボクの足は途中で数度進行を止めるが、下がることはなく、どんどん上がっていく。

 

 そして、

 

「――――あああぁぁぁっ!!」

 

 渾身の力で、最後の一押しをした。

 

「きゃっ!?」

 

 途端、ライライの体が宙へ浮き上がった。1(まい)弱の高さだ。

 

 ボクは跳ね起き、ライライは尻餅をつく。

 

 今なお座り込んだ体勢の彼女めがけて、狼のような俊敏さで突き進む。

 

 ライライもそんなボクの行動に対し、慌てた様子で立ち上がった。そして、突風にも似た勢いのミドルキックを振り放つ。

 

 ……しかし、攻撃のタイミングが少し遅かった。ライライが蹴り出した時、ボクはすでに足のリーチの半ばまで達していたのだから。

 

 ボクは片手で蹴り足の太腿を押さえ、回し蹴りをストップさせる。遠心力で放つ蹴りなので、足の末端に働く力は強くても、内側の力は弱いのだ。なので片手で事足りる。

 

 そしてもう片方の手を拳にし、ライライの上腹部へと添えた。

 

 彼女はこの上ない焦りを顔ににじませながら動こうとする。

 

 だがこうなった以上、もう逃げようがない。銃を突き付けているのと同じ状態なのだから。

 

「ぶっ飛べっ!!」

 

 四肢と胴体を同ベクトルへ急旋回。添えられたボクの拳は――ゼロ距離で音速にも届かんほど加速。

 

「っはっ…………!!!」

 

 【打雷把】最速の正拳【纏渦(てんか)】は、パァン、という空気をぶち抜く音とともに、ライライへと深くねじ込まれた。

 

 と思えば次の瞬間、拳と彼女の体が磁石の反発よろしく離れた。10(まい)を軽く超えるほど吹っ飛び、やがて仰向けになって停止した。

 

 ボクは突き終えた体勢を解き、剣道の残心のように構えへと移る。この試合、油断は寸分も許されない。だがそれ以上に、ライライがこのまま終わるわけがないという確信めいた予想もあったからだ。

 

 全身の螺旋運動で力を発する【纏渦】は、打撃部位への運動量伝達が凄まじく速いが、威力が他の技に比べて弱い。立ち上がる可能性は十二分にある。

 

 そして、そんなボクの予想は的中した。ライライがゆっくりと立ち上がったのだ。

 

「……さすがね、シンスイ。戦ってみて、あなたの恐ろしさを初めて理解したわ」

 

 顔には苦痛の色がある。だが両足はしっかりと地を踏みしめている。

 

「どうやら私も……出し惜しみは禁物みたいね」

 

 ――出し惜しみ?

 

 これ以上、まだ何か隠し玉があるというのか。ボクの中の微かな警戒心が一気に肥大化する。

 

 ライライは闘志の燃えくすぶる瞳でボクを真っ直ぐ捉えた。

 

「――見せてあげる。【刮脚】ではない、私が自分で創り出したとっておきの技を」

 


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