一撃のプリンセス〜転生してカンフー少女になったボクが、武闘大会を勝ち抜くお話〜   作:葉振藩

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おっぱいは身を助く

 激しい手合わせの後、ボクらは再び『天麗宮』へと戻ってきた。今回はあくまで謁見であるため、形式的に玉座の間に行く必要があった。

 

「いや、素晴らしかったぞ!キミの試合!流石は(わらわ)が見込んだだけのことはある!」

 

 皇女殿下が興奮気味に褒めそやしてくる。これと似たような事を、ここへ来るまでにすでに四回も言われた。

 

「東の果てにある霊山【道王山】! そこでは【道王把】と総称される様々な名拳が生まれたが、その中でも極め付けは道王山三大武法。その一つである【龍行把】は化勁と柔法に長けた「柔」の武法! 一方、同じく三大武法である【心意把】はそれとは対をなす「剛」の武法! 一切顧みることなく強大な勁を発しながら突き進み、前にあるあまねくモノを殲滅していく様は王者の風格がある! 【心意把】を超える剛拳はこの煌国広しといえど存在しないと、妾は確信していた……そこにいるシンスイに出会う前までは! 一拳一拳はまさに雷撃の如しとうたわれた【雷帝】強雷峰(チャン・レイフォン)から譲り受けたその拳を目の当たりにした時、妾は剛拳などという表現ではまだ生易しい、もっと異質で強大な「何か」だと感じた。爆発的な勁撃は言うに及ばずだが、それを当てるための技術にも並々ならぬ工夫が凝らされているのだ! 妾がこの身でソレを――」

 

「ほらほらチュエ、場所を弁えなきゃ」

 

 壊れたダムから溢れる水みたいに延々と放出される武法話を、隣のティエンチャオ殿下がやんわり止めた。

 

 皇女殿下は「やっちまった」とばかりに赤くなりながら口を塞いだ。その様子は、武法のうんちくをつらつら語りまくるのを止められた時のボクにそっくりだった。

 

 跪いたまま見つめているボクの視線と、皇女殿下の視線が重なった。とっても嬉しそうに笑いかけてくれる彼女とは逆に、ボクは笑い顔とも困り顔とも取れない中途半端な表情を浮かべていた。

 

 彼女と再び会えたのは、確かに嬉しい。親友と呼べる存在なのだから当然だ。

 

 けれど、彼女は皇女で、ボクは庶民。むやみやたらに接点など持てない仲。

 

 手を伸ばせば届く距離にいるはずなのに、その存在が果てしなく遠く感じる。それがもどかしかった。

 

 そんな心境を察しているのかいないのか、膝を付いているライライとミーフォンは複雑そうにこっちを見ていた。

 

「しかし、チュエ殿下のおっしゃる通りでございますよ。我が輩も久しく血が騒ぎましたゆえ。陛下もお喜びのようですし」

 

 ジンクンさんの威勢の良い発言に、陛下も「うむ」と頷く。それを見て少し嬉しくなった。

 

 さらに、陛下の側にひかえているティエンチャオ殿下も微笑をたたえて賞賛してくれた。

 

「そうだね。僕も彼女の腕前に感服したよ。正直、新しい護衛官として召し抱えても良いほどだ」

 

「……お戯れを。武法の腕だけでは、我らの任務は務まりません」

 

 跪くボクら三人の近くに立つリーエンさんが、淡々と口を挟んだ。現職の護衛官として聞き捨てならない発言だったようだ。ティエンチャオ殿下もそれを分かっていたのか、小さく苦笑を浮かべた。

 

 護衛官に話題が移ったところで、ボクの心の奥にくすぶっていた一つの疑問が浮き上がった。

 

 ボクはゆっくり挙手しつつ、遠慮がちな口調で、

 

「あの……一つ、思ったことがあるのですが、聞いてよろしいでしょうか?」

 

「何だ?申してみよ」

 

 陛下のお許しを得たので、控えめな語気を保ったまま口にした。

 

「今回、隊長さんは【心意把】を使っていましたけど、護衛隊って必ず【心意盤陽把】を使わなければいけないというわけでは無いのですね」

 

 すると、陛下は口をぽかんと開け、目を丸くした。何言ってんだこいつ、とでも言わんばかりのご尊顔。

 

 え?なに?なんか変なこと言った?

 

 自覚無き粗相をしてしまったのでは、と心配になった途端、この国の旗印たる御人は心底愉快そうに大笑した。

 

「ふはっ、はははははは!いや、すまぬ!あまりに娘の言う通り過ぎるゆえ、可笑しくてな!そなた、誠に武法を愛しているのであるな」

 

「はい!それはもう」

 

 ボクはハキハキと肯定した。

 

「ふむ……そういった説明は余より、このチュエの方が適任であろう。何せ、この帝都に伝わる武法流派のほぼ全てを頭に入れているほどの武法狂いであるゆえ、な」

 

 陛下の名指しを受け、待ってましたとばかりに皇女殿下が一歩前へ出た。嬉々とした様子で、

 

「その通りだ、そんな決まりはない。もし使用する武法を単一化したら使える技の幅を狭めてしまい、かえって任務に支障が出かねんからなっ。確かに護衛隊に配属されたら、【心意盤陽把】は訓練させられる。だがそれはバラバラな武法を学んでいた護衛官達に「共通した戦法」を与え、連携を取りやすくするためという側面の方が大きい。【心意盤陽把】は元々護衛官のために作られた武法ゆえに、警護を行う上で最適な戦法が数多く備わっているからな。その戦法は至極単純、「迅速に近づき、迅速に制圧する」だ!それさえ守れれば流派の違いなど些末な事!そもそも【心意盤陽把】があれほどの速度を誇るのはそういった理由——」

 

「はいチュエ。そこまででいいからね」

 

 ティエンチャオ殿下にやんわり言いくるめられ、ぐぬぬ、と口を波線っぽくする武法大好きお姫様。

 

 なるほど。そういう理由だったか。

 

 武法は戦えるレベルまで上達するのに、結構な年月を要する。しかし、一つの武法に習熟した後に他の流派を学ぶと、その習得速度は桁外れに高くなる。これは、全ての武法の根本原理が共通しているからだ。第一外国語を熟達した後に他の外国語の学ぶとその習得速度もとんでもなく速いという話はよくあるが、その理由は多言語間に共通する要素が少なからず存在するからだ。それは武法に関しても同じことがいえるのである。

 

 護衛官に高い武法の実力が要求されるのは、任務の過酷さともう一つ、警護向きな武法【心意盤陽把】を短期間で叩き込むためであるとボクは知っていた。

 

 けれど、それは一面的な見方に過ぎなかったようだ。

 

 また一つ、ボクの記憶の引き出しに新たな情報が入った。彼女には感謝である。

 

 ジンクンさんは昔を懐かしむように目を閉じ微笑みながら、

 

「まあ、()が【心意把】を使いたがるのは、そちらの方が馴染み深いという理由ですがね。【心意盤陽把】に関して言えば、リーエンの方が達人と呼べるでしょう。昔は私の方が上であったというのに、今ではすっかり追い越されてしまいまして。いやはや、老いと才には勝てませぬな」

 

「何を仰います。私の腕前など、隊長殿には遠くおよびません。朝廷への忠誠心もまたしかり。十年前、暗殺者の凶刃から身を挺して陛下を庇った貴方の姿、私は一日たりとも忘れたことはございません」

 

 リーエンさんがいつもより少し強めの語気でそう言いつのった。ん? なんかちょっとムキになってるっぽい?

 

 陛下もまたジンクンさん同様ひっそりとまぶたを閉めながら語り出した。

 

「そのようなこともあったな。あの暗殺者は非常に素早い歩法を使う男であった。あれは余が第三子をもうけ、その生誕祭をしていた時だ。大勢の客人の中に紛れ込んでいたその暗殺者は、その稲妻にも見まがうほどの歩法の速度をもってあっという間に余の懐まで肉薄し、黒光りする短剣で突き刺そうとしてきた。余もあの時は死を覚悟した。しかし、当時はまだ隊員の一人であったジンクンが盾となってくれたのだ。その後暗殺者にはまんまと逃げられてしまったが、ジンクンが代わりに刺さってくれたおかげで余は事なきを得た」

 

「刃に刺さったって……ジンクンさんはよく平気でしたね」

 

 ボクは怪物を見るような目を大柄な隊長へ向けた。それを受けた彼は「深く刺さったものの、奇跡的に重要な臓は傷ついていなかったから、なんとか九死に一生を得たのだよ」と苦笑しつつ答えてくれた。確かにそれは奇跡としか言いようがないのかもしれない。

 

 ――って、あれ?

 

 どうして、刃が体に刺さったんだ?

 

 武法士は【気功術】の技能の一つ、【硬気功】が使える。任意の部位へ気の力を集中させ、そこの硬度を一時的に鋼鉄並みにする技術だ。それで体を防御すれば、刃物なんか通さないはずなのに。

 

 できるだけ言葉づかいに気を付けながらその疑問を陛下へお伝えする。すると、こう返ってきた。

 

「その暗殺者の短剣には、【磁系鉄(じけいてつ)】が使われていたのだ」

 

 腑に落ちた。

 

【磁系鉄】は特殊な磁場を発する希少金属。その磁場は気の流れを阻害し、気の塊の中へ分け入ることができる。【硬気功】をかけている部位もしかり。

 

 そういうことなら、たとえ【硬気功】の防御も無効化される。なので刺さるしかない。

 

 【磁系鉄】は非常に希少かつ高価な金属だ。それで作られた刃物をわざわざ持ち出したあたり、その暗殺者は是が非でも陛下を亡き者にしたかったのだろう。

 

 その凶刃から、ジンクンさんは見事国の宝を守ったのだ。

 

 この上ない(いさお)である。

 

「その厚き忠義に胸を打たれた余は、ジンクンの怪我が完治後、隊長に任命したのだ。その任さえも、今日まで立派に勤め上げてくれた。余の自慢の忠臣だ」

 

「ははは、とんでもございませぬ。隊長職など、私風情には過ぎた賜物。十年経った今でも隊の手綱を握るだけで精いっぱいでございます。私より適任な者は他にもいたでしょうに、陛下もお人が悪い」

 

 照れながらそう言うジンクンさん。どこまでも謙虚な人である。

 

 その謙虚さを、リーエンさんがたしなめた。

 

「差し出口を失礼します。――隊長殿、貴方の謙虚さは美徳ですが、過ぎた謙遜はかえって自身の心証を悪くしてしまいます。たまには胸を張る事を覚えるべきだ」

 

 さっきと同じく、少し力の入った声だった。

 

「隊長殿は素晴らしきお方です。類稀(たぐいまれ)な武法の功力を持ち、護衛に役立つ技術を深く身につけ、さらには機転もよく利く。しかしそれに決して驕ることはせず、青き血をあまねく害意から守護すべく日々精進を重ね続けている。これこそ護衛官として、陛下に(さぶら)う者として在るべき姿。その姿を日々目に焼き付けつつ、私もそれに近づこうと非才ながら精進している次第です」

 

 リーエンさんがこれでもかといわんばかりに褒めちぎっている。その口元は少しだが笑っていた。無表情と呆れ顔しか見たことの無いボクにとっては新鮮だった。

 

 ジンクンさんの事を本気で尊敬しているのだ。

 

 その敬意を向けられた本人はというと、ばつが悪そうに曖昧な笑いを浮かべていた。けど、まんざらでもなさそうだった。

 

 陛下もまた、ジンクンさんを称賛する。

 

「そうであるな。ジンクンほどの者が傍に仕えていると思うだけで、余も気兼ねなく執政が行える。むしろ働き過ぎで、たまには休めと言いたくなるほどだ。そなたにはいつも感謝しておるぞ、ジンクン」

 

「勿体無きお言葉、痛み入りまする。しかし、働き過ぎというわけではありませぬよ。毎年の冬、長いお暇を頂いておりますゆえ」

 

「それはそなたが休むための暇ではなかろう。確か、娘の墓参りのためであったか」

 

「……ええ。そうでございます」

 

 ジンクンさんは少し影が差した顔で小さく微笑んだ。

 

 この人、娘さんがいたのか……まあ、見た感じの年齢的におかしくないんだけど。

 

 話題が話題だったため、周囲の空気が少し重いものとなった。

 

 それをいけないと思ったのか、陛下は「すまぬ」と一言謝った後、強引に話題の方向を切り替えた。

 

「いずれにせよ、先ほどの試合は誠に良いものであった。李星穂(リー・シンスイ)よ、【雷帝】より譲り受けたそなたの技、しかと見させてもらった。これからも一層の精進を重ね、一層の活躍を見せてくれることを陰ながら期待している」

 

 陛下の言い下したそのお褒めの言葉に、ボクは「ありがとうございます」と会釈した。

 

「では、今日はここまでにしよう。そなたら三人とも、長旅で疲れておろう。今日はゆっくり休み、明日にでもこの帝都を物見遊山などするとよかろう」

 

 帰って良い。

 

 そう受け取ったボクらは立ち上がろうとするが、皇女殿下がすがるように口をはさんだ。

 

「ち、父上っ? も、もう帰してしまわれるのですかっ」

 

「当然であろう。少々雑談が過ぎてしまったが、すでに要件は済んでいるのだ。これ以上このような仰々しい場に置いておいては彼女らの気が休まらぬ」

 

「そ、それはそうかもしれませんが……妾は、その……」

 

 言葉を濁しながらも、その切なげな目はちらちらとボクの方へ向いていた。

 

 もっと一緒にいて、もっと話をしたい。うぬぼれでないとしたら、彼女が考えていることはこんな所だろう。

 

 ボクだって気持ちは同じだ。けれど、それは互いの立場が許さない。皇族との間柄は利害関係が生まれやすいのだ。王様が一人の臣下に寵愛を傾け過ぎたせいで衰退した国だって歴史上たくさんある。

 

 きっと、皇女殿下もそれはわきまえている。だからこそ苦しいのだろう。

 

「チュエ。今、お前は「皇女」であるぞ。その意味が分かるな?」

 

「っ……はい」

 

 陛下の重厚なお言葉に彼女は一瞬息を呑み、そして俯き加減で静かに頷いた。前髪で顔が隠れているため、どんな顔なのかよく見えない。

 

 皇女殿下の気持ちを、陛下も分かっているのだ。その上で「それは許されない」と遠回しに釘を刺した。

 

 部屋を覆う空気は先ほどとは一転、暗くどんよりしたものになった。

 

 さっきまで立ち上がろうとしていた両足が、まるで凍ったように動かなくなっていた。動き出してはいけない空気を敏感に感じ取り、それに体が服従してしまっている。

 

 その空気を、

 

 

 

「父上ぇー? ここにおるのかー?」

 

 

 

 背後から聞こえてきた、幼い女の子の声が破った。

 

 思わず後ろを向いた。ライライ、ミーフォンも同様に首を動かす。

 

 閉めたはずの両開き扉が開け放たれており、その真ん中に一人の少女……もとい幼女が立っていた。

 

 年齢はおそらく十歳に届くか届かないかというほど。女児特有のふっくらした輪郭を持つ精巧な人形のような顔立ち。髪色は皇女殿下より少し黒寄りな焦げ茶色で、肩のラインを少し通り過ぎた辺りで切り揃えられている。腕が肩口まで露出した上着と足首まで覆い尽くした(スカート)という上下衣装は、夕焼けのような朱色と華美な金糸の刺繍で彩られていた。

 

 これまた髪の色から、皇族の一員であると確信するボク。

 

露琴(ルーチン)!? なぜここにいる!?」

 

 皇女殿下の、非難混じりな驚きの声。

 

 ルーチンと呼ばれたやんごとなき幼女は、とてとてと玉座の近くまで駆け寄る。

 

「父上、これはいったいなんの騒ぎじゃ? 面白いことなら、わらわもまぜてほしいのじゃ」

 

 鈴の音のような幼女様のお言葉に、陛下は目頭を揉みながらため息を吐く。

 

 突っ込みを入れたのは、ティエンチャオ殿下だった。

 

「ルーチン、君こそどうしたんだい? 今は勉強の時間だったよね? もう終わったのかい?」

 

「まだじゃ!退屈じゃったから、抜け出してきたのじゃ!」

 

 ボクより壁な胸を張り、ドヤ顔で言い放つ幼女様。

 

 ティエンチャオ殿下の天使のような微笑みに、若干の苦みが走った。

 

「で、一緒にいた教師はどうしたんだい?」

 

「薬で眠らせたっ!」

 

 豪語するロイヤル幼女。呆れ返る皇族の面々。

 

 皇女殿下がつかつかと鋭く歩み寄り、幼女様の後ろ襟を掴んで猫のように持ち上げた。火を吐くような激しい口調で、

 

「この馬鹿者が! 偉そうに言うんじゃない偉そうに! とっとと戻れ! ついでに眠らせた教師を起こして詫びてこい!」

 

「うわー! はなせ! はなすのじゃ、このうつけ者が!」

 

 じたじたと手足で宙を掻く幼女様。

 

「教師に一服盛って勉強をすっぽかしたお前の方がうつけ者だ!この大うつけが!」

 

「やかましいのじゃ、家出皇女! 自分だって帰ってきてから父上に死ぬほど叱られて、一週間出禁食らったじゃろうに!棚上げはやめるのじゃ!」

 

「な、なんだと貴様ー!」

 

 ああだこうだ、こうだああだ、とかしましく言い合う二人。

 

「二人とも、そこまでにしておこうか。客人も見ているのだから」

 

 ティエンチャオ殿下は柔和な物腰を崩さないまま、包み込むように口喧嘩を仲裁した。その態度にほだされたのか、二人もそれ以上言い返すことはせず、ぶすりとした顔で黙りこくった。

 

 皇女殿下しかり、幼女様しかり、皇族の女性陣はクセが強いようだ。あの天使と見紛う美貌を持つ第一皇太子は、そんな個性的な面々を上手に取りまとめる役割があるっぽい。

 

 陛下は咳払いの後、やや疲れた声で、

 

「騒々しくて済まなかったな。後できつく言い聞かせておくゆえ、どうか許して欲しい」

 

「いえ、ボク達は一向に構いません」

 

 両隣に跪くライライ、ミーフォンも頷いて同意する。

 

「ところで、その方は?」

 

 もうほとんど分かりきっていたが、ボクは一応その幼女について尋ねた。

 

 すると、その幼女を掴み上げている皇女殿下が答えた。苦笑気味に。

 

「ああ、こいつは煌露琴(ファン・ルーチン)。やたらとやかましい妾の愚妹だ」

 

「やかましいのはおまえじゃ、チュエ!わらわがやる事なす事にいちいちうるさく言いおってからに!」

 

「だったらその勝手気ままな行動を改めろ!あと、妾の事は姉上と呼べと何度も言っておろうが!?」

 

「やだ!そんな貧相な乳をした汗くさい女を姉とは呼びとうないのじゃ!」

 

「な、何を吐かす!?貧相じゃない!平均くらいはあるわ!それに臭くもない!」

 

「はいはい、貧相でも臭くもないから、そろそろやめようね。いい加減にしないと父上の怒りが爆発するよ」

 

 顔を真っ赤にして口論を再開する二人の皇女。それをまたしても上手に諌める皇太子。

 

 その様子を呆然と見ながら、微かに考えを巡らせるボク。なるほど、やっぱり彼女が陛下の仰っていた「第三子」か。

 

 皇女殿下はルーチン様を床に下ろす。

 

 小さな皇女は「んべ」と大きな皇女へ舌を出してから、長い(スカート)を軽やかに翻してボクらの方へと振り向いた。

 

「して、この者たちは一体何奴じゃ?新しい側室か?」

 

「失礼な事を言うな!」

 

 ごちん、と皇女殿下のゲンコツがヒット。

 

 再び姉に噛みつきそうになる前にティエンチャオ殿下が優しくなだめ、そしてこの状況をさらっと説明した。

 

「ふむふむ、なるほど。つまり(チャン)なんとかの唯一の弟子である李星穂(リー・シンスイ)という女に武法を表演させていた、と。しっかし、わらわには分からんのぅ。武法なんか見てて何が楽しいのじゃ?」

 

 ぴっきーん。皇女殿下とボクの冷ややかな眼差しがルーチン様一点に注がれた。ボクらを敵に回す発言を堂々としたよ、この幼女。

 

 ティエンチャオ殿下はルーチン様の頭に軽く手を置き、

 

「それより、ダメじゃないか。勉強をサボっちゃ」

 

「だってだって!つまらないのじゃ!」

 

「勉強は面白い面白くないで学ぶものではないよ。必要だからやるんだ。僕らは皇族。民を導く立場である以上、普通の人より高い教養を身につけておく必要があるんだよ。それが、この国で誰よりも満ち足りた生活を送る権利と引き換えに課せられた、僕らの使命なんだ」

 

「う……」

 

「亡くなった母上だってきちんと学んだんだ。もし今の君の姿を天上の母上が見たら、きっとガッカリすると思うな」

 

「うう……」

 

「さ、分かったら戻りなさい。あと、ちゃんと教師の人には謝るんだよ?」

 

 ルーチン様はしばらく黙ってから、分かったのじゃ、と弱々しい声で答えた。

 

 陛下はふぅ、と安堵したようなため息をつくと、改めて申された。

 

「重ね重ね申し訳ない。では、今度こそさらばだ。立つが良い」

 

 言われた通り、ボクら三人は立ち上がる。視界の右端に微かに見えていたライライの巨乳がたゆん、と上下に揺れた。そちらへ意識が行かないよう、前だけを見続ける。

 

 が、その時、ルーチン様の顔色に変化が訪れた。

 

 興味なさげにこちらを見ていた目が、くわっ!と大きく開かれたのだ。信じられないものを見るような、それでいて長年探し求めていたものをようやく目の当たりにしたような、そんな驚愕と妄執を強く感じる眼光。

 

「……い」

 

 幼い唇が、何かを呟いた。

 

 かと思えば、玉座のある段から足を下ろした。

 かと思えば、真っ直ぐ歩き出した。

 かと思えば、歩行は走行になった。

 跳躍。宙返り。

 放物線の下りを刻みながら、落下予定地点——ライライへと迫る。

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっぱいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ!!!!!」

 

 

 

 

 

 ルーチン様は奇声を上げながら彼女に抱きつき、その豊満な巨乳に顔を埋め込んだ。

 

「きゃ!?」

 

 飛びかかってきた重さに押され、仰向けに倒れるライライ。

 

「ル、ルーチン殿下っ?な、何を?」

 

 ライライは困惑の声で問うが、ルーチン様はその声が聞こえていないようだ。

 

 なぜなら、 自分の頭を巨乳の谷間に夢中で押し込んでいたからだ。

 

「ふもっ、ふむぅ!うぉ……うぉっぷぁいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!ふごっ!ふごっ!ふごぉぉぉぉ!!」

 

 犬みたいに呼吸を荒げ、乙女が出してはいけないような重鈍な声を出しながら、その大きく実ったおっぱいの間に頭部をねじ込み続ける。その眼差しは、まるで飢えた獣のようだった。

 

 ふにゅんふにゅん。その巨乳を両手で鷲掴みにし、揉みしだく。ルーチン様の指の圧力を受けた肉の果実は、目まぐるしくその形を変える。

 

 プチ皇女はオヤジみたいな声をもらす。

 

「むふ、むふふふ!むふふふふふふ!何という理想的なおっぱい!形、大きさ、柔らかさ!全てが完璧!芸術的ですらあるっ!!」

 

「ちょ、ちょっと殿下……だめです……これ以上は……あんっ!」

 

 ライライは言葉の最後で、艶めかしく喘いだ。

 

 ルーチン様が、乳房の「尖端」を服越しに摘んでいた。

 

「ふむふむ!乳輪も綺麗な円形で、尖端の大きさも程よいものじゃ!ま、間違いない。これこそわらわが長年探し求めてやまなかった神なる双丘!いただきむぁぁぁす!!」

 

 なんと、その「尖端」を服の上からパクッと咥えたではないか。

 

 そのまま…………ちゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!

 

「ふぁあああああああああああんっ!!」

 

 ライライが艶っぽい悲鳴を上げた。

 

 しかし、それすらも構わず、一心不乱に尖端を吸い続けるルーチン様。一週間ぶりに餌にありつけた肉食獣のように血走った目だった。

 

「んむっ!んちゅっ!ちゅぅぅぅぅ!!はむっ!ちゅぅっ!うぉっ、うぉっぷぁぁぁぁぁぁい!!」

 

「や、あ、んぁん!やだ!だめぇ!そんな、そんなに吸っちゃ……あぁんっ!!だめぇ!!だめぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 顔を真っ赤にし、甘ったるい叫びを上げながら、首を左右に振るライライ。

 

 ……一体、何が起こっているのでせうか。

 

 眼前では、今なお謎の淫行が続行されている。

 

 これ、どうすればいいんだろう。

 

「早く終わらせてくれぬものか……」という陛下の疲れた独り言を耳でとらえつつ、そう思ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ルーチン様による突然のセクハラ行為は、皇女殿下が三発のゲンコツを叩き込んだことでおひらきとなった。もし漫画なら、ルーチン様の頭にはタンコブが鏡餅よろしく三段重ねになっていることだろう。

 

「誠に失礼した!うちの愚妹が済まぬ!」

 

 皇女殿下は妹の頭を押してお辞儀させつつ、自身も深くこうべを垂れた。まるで親子揃っての謝罪シーンのようだ。

 

「ほら、お前も謝るんだっ」と肘で小突かれたルーチン様も「……ごめんなさいなのじゃ」と弱々しく口にした。

 

「お、おやめ下さい。私はもういいですから」

 

 ライライは散々揉まれ吸われを繰り返した我が胸を腕で隠しつつ、柔和な笑みを作ってそう言った。その頰はいまだ熱に浮かされたように火照っており、声もどこかとろけた感じがする。

 

「我が愚妹は異常なほどの乳狂いでな、ライライのような立派な乳を目にすると、跳びかからずにはいられないタチなのだ」

 

「は、はぁ」

 

 ライライは「どう返せばいいのか分からない」といった表情で一応の相槌を打った。うん。もし本当にそう考えていたのなら、ボクも同意だ。

 

 ルーチン様は下げた頭を少し上げた。涙を含んだ上目遣いで遠慮がちに被害者(ライライ)を見つめながら、

 

「その…………本当にすまなかったのじゃ。そなたの乳があまりに見事であったゆえ、頭のタガが外れてしまっておった」

 

「み、見事だなんて、そんな事はありませんよ。無駄に大きいばっかりで……子供の頃から笑われたりからかわれたりしてきたんですから」

 

「何を言う!素晴らしいおっぱいであったぞ!その乳に顔を埋めた瞬間、宮廷御用達の枕さえ敵わないほどの柔らかさがわらわの頭を包み込んだのじゃ!つかめば指が面白いほどよく沈む柔和きわまる乳房の感触は、まさに神が人の身に与えたもうた神秘! 吸っても母乳が出てこないことは誠に残念であったが、そこは想像力で補った!そなたを揶揄した者どもは全くもって目が腐っておる!こんな神なるおっぱいを見たら、普通なら拝み倒したくなるものではないのかっ!」

 

 どうしよう。こんな酷い会話聞いたの初めてだよ。とんだおっぱいマイスターである。

 

 ライライも笑みが引きつっている様子。

 

 しかし、スケベオヤジよろしく緩みまくったルーチン様の表情が、突然哀愁のようなものを帯びた。

 

 

 

「それに……凄く良い匂いじゃった。まるで、顔も見たことの無いはずの母上を思い出したのじゃ」

 

 

 

 ボクとライライは揃って息を呑んだ。

 

 母上とはすなわち、皇后様のことだろう。

 

 けど、その方は今、この場にはいない。いや、この世界にすらいない。

 

滄奥市(そうおうし)】にて、皇女殿下は身バレ防止に隠していた純金の指輪を「母上の形見」と表現していた。つまり、もう皇后様は亡くなっているということだ。

 

 皇女殿下は静かに目を閉じ、そしてすぐに開いて答えた。

 

「……我らの髪の色は母上譲りだ。その母上は、十年前にルーチンを出産して間も無く身罷(みまか)られた。ルーチンがそこまで乳狂いなのは、母上の死が関係しているのだ。こいつは母親の顔を見たことがない。ゆえに、母という存在に対する憧れが人一倍強いのだ。その憧れが屈折し、やがて母性の象徴とたびたび形容される女の乳への妄執へと変わった。厳密に言うと、こいつは乳を求めているのではない。その乳の向こう側に、母親を求めているのだ」

 

 そういうことだったのか。そこまで聞くと、同情の気持ちが湧いて来ないでもない。……乳乳連呼しているところにはこの際目をつぶろう。気にしたら台無しな気がするから。

 

 ルーチン様は潤んだ上目遣いで、なおもライライの方を見つめている。まるで母親に冷たく扱われた子供のような表情だ。

 

「だから、こいつの事を好いてくれとは言わない、けど嫌わないでやってくれぬか?馬鹿で我儘で悪戯好きで気まぐれで生意気な奴だが、悪い奴ではないのだ。どうか、伏して頼む」

 

 皇女殿下は深々と頭を下げた。

 

 為政者としてではなく、一人の姉として。

 

 ライライは瞳を閉じ、遠い日に想いを馳せるような笑みを浮かべて言った。

 

「……私も、幼い頃に父を亡くしています。なのでルーチン殿下のお気持ち、幾ばくか察する事が出来ます」

 

 細く長い美脚がたおやかに数歩進み、しゃがみ込む。

 

 ルーチン様の頭に、ライライのなめらかな手が優しく置かれる。

 

 今の彼女の顔は、まるで母親のように慈愛に満ちていた。

 

「嫌いになんてなりませんよ。どういう理由であれ、私を好いてくださったのなら悪い気は致しません。こんな粗末な胸でよければいくらでもお貸しします」

 

「ほんとうか!?」

 

「はい。ですが……さっきみたいに乱暴なのは、その……遠慮して頂けると……」

 

「わ、わかったのじゃ!今度からなるべく自分を抑える!」

 

 恥ずかしそうに言葉を尻すぼませていくライライに、ルーチン様は活き活きと頷く。さっきまで泣きそうだったのが嘘のように、晴れやかな笑みとなっていた。

 

 ふと、小さな皇女は大切な事を思い出したようにハッとした。

 

「そ、そういえばそなた、名はなんという?」

 

「ライライです。宮莱莱(ゴン・ライライ)

 

「ライライ……うむ!たしかに覚えた!むふふ、うりゃ!」

 

 ルーチン様は嬉々として、ライライの胸の中へむにゅん、と飛び込んだ。さっきみたいな欲望劣情丸出しな飛び込み方ではなく、しなだれかかって甘えるような感じで。

 

 胸の谷間に頭を埋めながら「ふふふー」ととろけた声を出す小さな皇女。あっけにとられたように目をぱちくりさせていたライライも、すぐに表情を和ませて焦げ茶色の髪をさらさら撫でる。

 

 が、すぐに我に返り、慌てて手を引っ込めた。

 

「ご、ごめんなさい。いきなりこのような馴れ馴れしい事を!」

 

「どうしてじゃ?もっとして欲しいのじゃ」

 

「ありがとうございます。ですが、いずれにせよ私はすぐにここから去らなければならないのです。申し訳ありませんが、ここで離して頂かないと」

 

「え……帰ってしまうのか!?嫌じゃ!もっとライライと一緒に居たいのじゃ!」

 

「ルーチン」

 

 幼い子供を軽く叱るような声色で、ティエンチャオ殿下が呼びかける。

 

「我が儘を言ってはダメだよ。誰にだって帰るべき場所があるんだ。君だって家に帰りたいのに帰れなくなったら困るだろう?」

 

「でもっ」

 

「いいかいルーチン、僕らは為政者だ。為政者の発する言葉は、民には(ちょく)として認識される。ゆえに僕らは口にすべき言葉を慎重に選ばなければならないんだ。君が何気なく口にした発言が、誰かの人生を大きく狂わせてしまう事だってあるんだよ。君は宮莱莱(ゴン・ライライ)を慕うその声で……彼女を不幸にしたいのかい?」

 

「っ。わ、分かったのじゃ……」

 

 上手いこと言いくるめられてしまったルーチン様はライライから離れ、沈んだ顔で俯いた。

 

 彼の言っている事はもっともなのだが、なんだかちょっと可哀想に思えてきたかも。

 

 そう考えた瞬間、ライライが開いた距離を埋める形で一歩近づいた。目線の高さをルーチン様に合わせ、表情を緩めながら、

 

「大丈夫です。これでお別れじゃありませんから。また会えますわ」

 

「ぐすっ……ほ、ほんとうか?また、わらわに会いに来てくれるか?」

 

「はい。ルーチン殿下が良い子になって、お勉強もお稽古事も頑張ったら、いつかきっと会えます」

 

「分かった。わらわ、もう勉強サボらないのじゃ。父上や兄上の言うこともちゃんと聞く。家庭教師に薬を盛ったりもしないのじゃ。良い子にするのじゃ。だから、だからまた会いに来てたもれ」

 

 はいっ、とにっこり返事するライライ。まるで小さな子供に「良く出来ました」と褒めるみたいに。

 

 すごい。いい感じに(しめ)たよ。ライライにこんな才能があったなんて。

 

 驚愕を示したのはボクだけではなかった。

 

「……これは驚いたな。滅多に人に懐かないあのルーチンをここまで手懐けるとは」

 

 陛下が心底驚いたように言呟いた。

 

 おとがいに指を当てて考える仕草をしばらく見せ、やや歯切れ悪く次のように持ちかけた。

 

 

 

宮莱莱(ゴン・ライライ)よ、物は相談なのだが……しばし、我が娘ルーチンの近侍(きんじ)として雇われる気は無いか?」

 

 

 

 ライライは一瞬石化したように固まってから、自分の聞いた事が理解できないとばかりに確認を取った。

 

「近、侍?つまり、ルーチン様の側仕えになれと仰るのですか?」

 

「左様である」

 

「む、むむむむむ無理です無理です!わ、私、皇族のお側付きになれるほどの教養なんて欠片も持ち合わせていないんですから!」

 

「そう身構えずとも良い。何も東宮傅(とうぐうふ)になれと申しているわけではないのだ。ルーチンの側にいて、面倒を見てやってくれればそれで良い。そなたはこのじゃじゃ馬娘に懐かれ、かつ見事に手懐けられる手腕の持ち主だ。そなたが近くにおれば、ルーチンの暴れん坊ぶりもなりを潜めるやもしれぬ。それにそなたの武法の腕前ならば、万が一ルーチンに危険が迫った場合でも守ってやれるしな。無論、少なからずの報酬も出そう。どうだ?期限はこの帝都に滞在している期間中で構わぬ。受けてみる気はないか?」

 

 ライライは陛下から目を離し、下を見つつ黙考した。

 

 その途中、彼女は何か名案が浮かんだように顔色を明るくすると、視線を再度玉座に戻して答えを出した。

 

「分かりました。この宮莱莱(ゴン・ライライ)、ルーチン殿下付きの近侍の任を拝命致します。ですが陛下、報酬には金品ではなく、別の物をお願いしたく思います」

 

「申してみよ」

 

「——私と、ここにいるミーフォンの衣食住の保証を」

 

 陛下と、ミーフォンが同時に眼を(しばたた)かせた。

 

「そのようなもので良いのか?」

 

「はい。むしろ、とても嬉しく思います。元々、私とミーフォンは本戦参加者ではなく、シンスイの後をついて来ただけなのです。ですので、宿泊費の工面に難儀しておりました」

 

 ライライの口調には、最初のようなおっかなびっくりさが無くなっていた。陛下と話す事にだいぶ慣れたようだ。

 

 陛下は少し間を置いて、重々しく頷いた。

 

「よかろう。ならば早急にいずこかの宿を手配しよう。ティエンチャオ、頼めるか?」

 

「御意」

 

 ティエンチャオ殿下は涼しげに返事をすると、無駄のない洗練された歩様でボクらの横を通り過ぎ、両開き扉から出て行った。それに数人の護衛官が付き従った。

 

 途端、ルーチン様は我慢を解き放つようにライライの腰へ抱きついた。

 

「ライライっ!やったのじゃ!これからも一緒にいられるのじゃ!」

 

「ふふふっ、だから言いましたでしょう?また会える、と。これからしばらくの間、よろしくお願い致しますね」

 

「わかったのじゃ!うふふー!ライライ、ライライっ!」

 

「あ、でもお勉強とかはちゃんとしなきゃダメですからね?」

 

「うん!わらわ、頑張る!だから、いっぱい甘えさせて欲しいのじゃ!おっぱいもたくさん触らせて欲しいのじゃ!」

 

 心底幸せそうに頬をすり寄せるルーチン様を、流石のライライも可愛いと思ってしまったのだろう。フニャッとした笑いを浮かべ、その焦げ茶色の髪を撫でる。

 

「では、色々とゴタゴタしたが、今度こそ終わりとする。各々、用心してお帰り願おう。だが宮莱莱(ゴン・ライライ)、そなたはもう少し残ってもらいたい。これからの予定を詳しく話さねばならぬゆえ、な」

 

 座から立ちながらの陛下の発言に、ボクら三人は同時に頷いた。

 

 ミーフォン達の寝床が見つかったのはまさに僥倖だ。「芸は身を助く」とはよく言うが、ライライの場合は「おっぱいは身を助く」であったようだ。……上手くないね、うん。

 

 不透明だった先行きに希望を見出した二人の表情には、少しだけ生気が増している気がした。

 


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