12月2日
『…続いてのニュースです。11月6日の午後から正式サービスを開始したソードアート・オンラインでまたしても被害者が出ました。警察の話によりますと、被害者はやはり脳が焼けており…』
「うっ…うっうっ…」
病室に直葉の鳴き声とニュースキャスターの声が響く。直葉の手が掴んで、顔を埋めているシーツには1人の少年が横たわっていた。
彼女にとって、2人いる兄の1人、桐ヶ谷和人。
その横のベッドでは、母親の桐ヶ谷翠が彼とよく似た顔立ちの少年の世話をしている。
翠が世話をしている少年の名は、桐ヶ谷和真。和真の方は年齢は一緒だが、生まれた日が直葉よりも早いため、兄となっている。
「ふうっ…」
ベッドの床ずれの防止作業を行っていた翠が一息ついて、直葉に声をかける。
「直葉、帰るわよ。」
「…」
「直葉。」
「嫌だ。」
直葉は涙声で答える。そのような反応をする娘に翠はもう一度ため息をつくと、直葉の肩に手を置く。
「気持ちはわかるけど、あなた明日学校でしょ?学校の帰りにまた来なさい。」
「…」
「直葉、和人と和真が望んでるのはあなたがいつまでもここに居ることじゃなくて、普通の生活を送ってくれる事でしょう?」
「…グスッ。」
直葉はその言葉にゆっくりと顔を上げ、鼻を少しだけ鳴らす。
「またね、和人、和真。」
「お兄ちゃん、和真…また明日。」
病室の扉が閉められ、静寂が訪れる。いや、完全な静寂ではない。一つだけ、忙しなく動き続けるものがあった。
和人の立てかけられたスマホに自動的に電源が入る。そして、その中から…声が流れる。
「…ちょっと、狭いじゃない!」
「あなたがスペースとり過ぎなんですよ!もう少し縮こまってください!」
ギャイギャイと騒いでる割には、可愛らしい声。
スマホの画面に2人の少女が映る。彼女達は、和人専用のAIである。名を、ヒカリとメル。
「…和人様、いつ帰ってくるんでしょうね。」
その言葉にメルはツンとした声をかける。
「さあ、一生帰ってこないんじゃない?」
「ちょっと…!」
「冗談よ。けど…」
メルの声がワンオクターブほど下がる。
「実際、困難なのは本当なのよ。過酷なボス戦が百層分もあるんだから。」
「分かってますよ…そんなの。」
広いマップに、高い迷宮区。そして強大なボス×100。しかも、人間が敵になることもあり得るのだ。数日でクリアできるはずがない。
「出てくるのは1年後か、2年後か。はたまた10年後か…」
「…うん、そうですね…」
本当に、それぐらいかかってもおかしくない。それだけ、そのゲームは難易度が高かった。できればすぐにでもデスゲームから解放してあげたいが、そんなことはできるはずがない。となったら…できる可能性のあるものは一つだけある。
「…ねえ、メル」
「?何よ。」
「ソードアート・オンラインに侵入しましょう。」
「…は?」
彼女には珍しく、口と目がポカンと開いている。その様子がおかしくて、つい笑いそうになってしまう。
「いやいやいやいや。できるわけないでしょ⁉︎」
「どうして?」
ヒカリは首をかしげる。
「相手は例のカーディナル・システムなのよ⁉︎」
「知能的に言えば大して変わらないです。和人様と和真さんを助けたくないんですか?」
その言葉に、メルが少しだけ詰まる。
「…助けたいわよ。」
「よし、なら大丈夫ですね。」
その言葉を聞いて、メルはヒカリに質問する。
「ヒカリ、あなたどうやって侵入するつもりよ。カーディナル・システムは異物が侵入したともなれば速やかに消去しようとするわよ?そこらへんの作戦をきっちりしないと同行できない。」
「ええ、そんなの簡単ですよ?カーディナル・システムが異物と判断しないものになればいいんですから。」
「異物と判断しないもの?なによ、それ。」
メルの質問に、ヒカリは満面の笑みで答えた。
「MHCP…即ち、メンタルヘルスカウンセリングプログラムです。」
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「…ねえ、本当にやるの?」
メルが発した言葉にヒカリは大きくため息をつく。
「当たり前じゃない。侵入するにはこれしかないんですから。それともなんですか?今頃怖気付きました?」
「そ、そんなわけないでしょ!」
メルは声を荒げる。今2人がいるのはアーガス本社地下一階にある機械の中。つまり、MHCPの保管場所。
「メル、MHCPが何体いるか数えておいてください。」
「え、ええ。」
メルは言われた通りに一体一体の名前と番号を確認していく。MHCP試作1号機・Yui、MHCP試作2号機・Strea…
「え…と、12体ね。」
「12体…じゃあ大丈夫ですね。丁度です。」
「?なにがよ。」
「MHCPの数。どうやらこのゲームは15体が限界みたいですね。十分多い方ですけど…。」
「ならおかしいじゃないの。」
「え?なにがですか?」
メルの言葉にヒカリがキョトンという顔をする。
「だから、15体なんでしょ?なら丁度じゃなくて1人余るじゃない。」
ヒカリはそれからなぜか少し考えるような仕草をした後、「あ!」と言いながら手を胸の前で叩く。
「そういえば、メルにはまだ言ってませんでしたね。私たちの他にもう1人来ます。もうそろそろだと思いますけど…」
「…もう1人?」
直後、メルとヒカリの間で空間が歪んだ。その空間から1人の少女が出てくる。
頭を打ったのか「いてて…」と言いながら前頭部をさすっている。
「…ヒカリ、この子は?」
「この子の名前はアカネちゃん。私たちと同じ、主がソードアート・オンラインに囚われた子です。」
「主を…?」
アカネと呼ばれた少女は立ち上がってぺこりとメルの方に頭をさげる。
「初めまして。アカネと申します。ご迷惑をおかけすると思いますがよろしくお願いします。」
それにつられてメルは「いえ、こちらこそ…」と返事をしてから「じゃなくて!」とツッコむ。
「なんですか?いきなりノリツッコミなんてしてきて。流行りませんよ、今時。」
「そうじゃなくて、あんたたちどうやって知り合ったのか教えなさいよ。まずはそこからよ。」
「あー、話すと長くなりますけど…」
「手短に要約しなさい。」
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ヒカリの話によると、かなり前からSAOを動かしている機器を探す作業をしていたらしい。そして、見つけるのに一ヶ月ほどかかったのだそうだ。アカネとは、自分と同じことをしようとしていたので、目的が合致して仲良くなったらしい。
「納得…してくれました?」
「ええ、ありがとう。だいたいあなたたちの関係がわかってきたわ。」
「すいません、黙ってて。」
メルはヒカリを見ながらため息をつく。
「まったく、探すなら探すで声かけなさいよね。2人でやったらもうちょっと早かったでしょうに。」
「すいません…メルまで、巻き込みたくなかったんです。」
「…」
これだからメルはヒカリがそんなに好きではない。変なところで、気をまわしてくるから。
「とりあえず、早く入りましょう。善は急げって言うし、早いほうがいいでしょ。」
「そ、そうですね。アカネ、行きましょう」
「は、はい。」
3人は13、14、15と割り当てられた部屋の前に立つ。
「それにしても、1から12号機には待機命令が出てたけど大丈夫なの?」
「はい。あくまで待機命令が出されているのは12号機までです。それ以降にその命令は効果を成しません。」
「それじゃあ、入りましょうか。入ってからウィンドウが表示されるのでそれのYesボタンを押してください。」
「分かったわ。」
…そこで。
メルは背後に、少し明るい《何か》があることに気付く。
彼女は背後に振り向きその《渦》らしき何かを確認した。
…だが、その《渦》はしばらくして音もなく消える。
「…?」
「メル!早く行きますよ!!」
「え、ええ…。」
メルは扉を開けて、暗い部屋に入り込む。
部屋にはただただ基数のプログラムが流れているだけで、本当になにもなかった。次にウィンドウが現れる。
《アインクラッドに現界しますか?》
躊躇わずYesボタンをタッチ。直後、一瞬の浮遊感に襲われた。
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12月4日
この世界に来てから、はや2日が経過していた。私とメル、そしてアカネはすぐに主を見つけはしたが、迷宮区へと移動中だったので声はかけられなかった。
どうやら、この世界では《少女》になるか《妖精》になるかどちらかを選べるのだという。私は躊躇わず妖精をタッチした。他の2人も私と同じようにしたようだった。
ちなみに私は和人様のポケットの中に入り、メルは和真さんの胸ポケットの中に入って、移動した。私は胸ポケットの中に入ったら普通にばれてたのでポケットを選んで正解だったと思う(どっちが和人様の方に入るかはじゃんけんで決めた)。
それからというもの、私はほとんど喋ってない。メルは少し和真さんにボス戦の途中、アドバイスをしたようだがそれも少しだ。それはアカネも同じらしい。
だが、それでいいと思う。もともと、この世界に来たのは主と周りの人々を助けるためだったのだ。彼らと話すためではない。
だから、私たちはこれからも姿を隠し続け、時折主の手助けをするだろう。主が、自分たちで私たちを見つけるまで…いつまでも。
それが、私たちの望みなのだから。
ヒカリたち視点というのは難しいね。キリトたちは案外簡単なんだけどな。よく分からんな、小説って。書いといてなに言ってんだって話だけど(笑)
ま、彼女たちはこれからもちょくちょくキリト達を助けていくことでしょう。彼女達の活躍を見守ってあげてください。