「いたぞ!あそこだ!」
「…!」
走る。走る。全速力で、私は走る。
「ハア、ハア、ハア…」
敏捷力全開で走るが、今の私はそこまでレベルが高くない。《彼ら》との差もじわじわと無くなってきている。
「誰か…誰か、助けて…」
自然と、私の目から涙が零れ落ちた。
「〜♪」
俺、霧谷 隼人は今かなり上機嫌だ。俺が鼻歌を歌うことなんてほとんどない。そんな俺を見てカズマが「キモい」などと言ってきた。
まったく、失礼な奴だ。
少しスキップしていただけだというのに。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
何故俺がこんなにも上機嫌なのか、不思議に思っている人も多いと思うので、説明しておこう。前々から欲しいと思っていたスキルが先日、ようやく手に入ったのだ。
その名も、《カタナ》スキル。
亜人系のモンスター達がたまに使っているスキルで、よく初心者が最初からあるスキルだと勘違いしているがそんなことはない。
カタナスキルは完全なエクストラスキルなのだ。
と言っても習得方法はそこまで難しくない。《曲刀》スキルをしつこく練習していれば、出現する可能性は高い。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
まあ、やはり難しいのに変わりはないようで、俺も第二層から曲刀に変えて練習して来たわけだが…
「まさか、習得に23層もかかるとわな…」
俺は苦笑まじりにそんなことをつぶやく。
俺たち、第一層で《ビーター》となった3人はその後もソロを貫き通している。キリトさんがしばらくアスナさんとコンビを組んでいたようだが、それも先日解消したと言っていた。
現在、攻略が完了しているのが第二十五層。
そして、日付は4月2日。正直、ウィークポイントである二十五層は予想していたものをはるかに超える強さだった。
その結果、攻略組最大級のギルド、キバオウ率いる《アインクラッド解放隊》は壊滅し、それ以外にも多くの犠牲を出した。
攻略組初のツーレイド(48×2)で挑んだというのに、だ。
しかし、いつまでも他者の死を悔やんではいられない。
それに、最近では《風林火山》や《血盟騎士団》などの有力ギルドが出てきているらしい。血盟騎士団はまだ立ち上げてからそこまで経っていないのに有力ギルドと言われているのだから素直に素晴らしいと思う(アスナさんが入ったのもでかいと思うが)。
そんなわけで攻略組は、アインクラッド解放隊が壊滅した時にかなりの痛手を負ったが、バックに優秀な控えが備えているので攻略に支障が出ることはそこまでなかった。
そして、俺が今いるのは最前線である第二十六層ではなく、それより五つ下の二十一層だ。
本来は最前線より下で戦うことはほとんどないのだが、武器の強化素材を手に入れるために降りなければならないことがある。
俺はウィンドウを開いて残り個数を確認する。
「…あと4つか」
またウィンドウを消して歩き始める。
そういえばこの前聞いた話だが、ユウキとカズマは幼馴染なんだそうな。
しかし、ユウキは記憶を失っているのでカズマのことは覚えてないだとか。カズマも本当は思い出して欲しそうにしている、という話…というか相談をスリーピング・ナイツのサブリーダーであるランから聞いた。
どうしたらいいのか、ということを聞かれた。正直俺に聞かれても困るんだけどな。
恋…はともかく、女子の付き合いなんてリアルでもほとんどないし。
とりあえず『本人達に任せたほうがいいんじゃない?』と精一杯当たり障りのないアドバイス(?)をすると、お礼を言って帰って行った。
本当にそれは本人達に任せるしかないと思う。おそらく、他人がどうこうできる話ではない。
俺はそんなことを考えて天を仰ぎながら、ポツリとつぶやいた。
「…そういや
そんなことを言いながら左にある角を曲がった…直後、体に衝撃が走る。
どうやら誰かとぶつかったようだ。
俺はなんとか踏ん張るが、相手は尻もちをついてしまった。
「あっ、すいませ…」
直後、俺は眉を寄せた。
まず、ぶつかったプレイヤーは女性だった。
この世界では珍しい、女性。
髪は明るい茶色で、目は程よい大きさ。顔は小さく、長い髪を編んだ大きいツインテールが目を惹く。
『ん…?この子、どこかで…』
そのような考えが脳内を走り、俺はしばらく記憶をあさっていく。
そして、同じ共通点を持った女性が脳内に現れた。
「お前…もしかして…」
そこで相手も気付いたようで、口を開き言葉を発する…直前に耳をつんざく、金切り声が響いた。
「いたぞ!あそこだ!」
「獲物が1人増えてやがる!」
二つ向こうの角から現れた彼らのカーソルは、オレンジ。
つまりは、最低でも一度、犯罪を起こしている集団だ。
その数、8人。
どうやらこの女性プレイヤーは、あいつらに追われていたらしい。
「まったく…面倒くせえな…」
俺は腰の鞘から、銀色の刀身を抜き出した。俺は、同じプレイヤーでも犯罪者達はモンスターと同じ扱いをする(殺しはしないが)。
「死ねえー‼︎」
先頭の男が繰り出した上段切りを、俺は下からの切り上げで弾いた。俺たちの顔を、火花が一瞬まばゆく照らした。
ーーーーーーーーーーーー
俺は今、第二十二層で散歩をしていた。ここはモンスターも少なく、圏内には大自然が広がっているので、とても心が安らぐ。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
俺は第十層で、自分の顔をユウキに晒した。
自分で見せたのではなく、フードをのけて戦っていたところをユウキ達《スリーピング・ナイツ》面々と鉢合わせしたのだ。
すぐに隠したが、大剣使いの少年やハンマー使いのお姉さんにフードをからかい混じりにのけられ、ユウキに見られた。
ユウキは俺の顔を見ると「へー、なかなかのイケメン君だね!」と言っていた。
記憶を取り戻した様子はなかった。
俺は内心ホッと安堵の息をついていた。ちなみに、ジュンという名の大剣使いとノリという名のハンマー使いのお姉さんはランに怒られていた。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
今日は雨も降っておらず、良い散歩日和だ。俺は胸いっぱいに空気を吸い込み…
「あー!カズマ見つけたー!」
「…」
その声が聞こえた瞬間、猛スピードでダッシュを始める。
「こらー!逃げるんじゃなーい!」
「逃げるわ!」
俺は目の前に現れた切り株をジャンプで避ける。
俺は第一層での階段で、ユウキと《勝てば俺の正体を明かす》という約束をした。それからというもの、一層上がるごとに1デュエルというのが日課になっていた。
まあ、それは良い。実際ユウキの成長を間近で見れるのは願っても無いことだ。
しかし最近、《一層上がるごとに1デュエル》が《一層上がるごとに2(3)デュエル》になりかけている。
このままではユウキと顔をあわせるごとにデュエルをしなければならなくなりそうなのだ。そんな殺伐とした生活は送りたくない。
そんなことを考えているうちに、俺とユウキの差はかなり縮まっていた。
「フッフッフー、もう逃がさないよ〜…とりゃっ!」
「うわっ!」
俺の上にユウキが飛び乗り、その重みで俺はバランスを崩した。しかも横が芝生の坂になっていたので、俺たちは一緒に転がり始める。
平面になって、止まった時点で俺は下になっていたので少しだけ頭を打つ。後頭部に痛みを感じるのと仮想の体にユウキの暖かさが伝わってくる。互いの息遣いのみが聞こえる。
いつまで、そうしていただろうか。ユウキが顔を上げて笑顔を向けてくる。
「あはは…ごめんね、カズマ。」
「…圏内じゃなかったらカーソル変化もんだぞ。今の」
「…逃げたカズマも悪いと思う」
バツの悪そうな顔をするユウキに俺は少し微笑みながら、小さくため息をつく。
「あのな、普通は逃げるだろ。それに、どうせお前またデュエルしに来たんじゃないのか?」
「さすが!よく分かったね!」
よく分かったねも何も…
「お前、ばったり会うとき以外は全部デュエルの申し込みじゃねえか。」
「たまに食事に誘ったりするじゃない。」
「それはお前が金のないときだろ?バカみたいに武器とか買いすぎて。そんなもんランに借りろや。」
「…姉ちゃんに借りるのは気がひけるんだよ」
「俺に借りるのは?」
「…別に良いかなって」
逆だろ。なんで身内に借りるのはダメで他人に借りるのはOKなんだよ。
俺はユウキの下からするりと抜け出し、フードコートやズボンについた草を払ってから立ち上がる。
「とにかく、この層ではもう一回やってんだからダメだ。」
「良いじゃん、ケチ。」
「そんな唇尖らしてもダメだからな。散歩ぐらいゆっくりさせてくれ。」
「ああ、散歩中だったんだ。…ボクもついて行こうかなあ」
「来なくていいぞ。」
俺は踵を返すと坂を登り始める。
「あ、待ってよカズマ〜!」
俺はついてくるユウキを見ながら少しだけ口を緩ませた。
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「これで最後っと…」
俺は縄で縛り上げた犯罪者の最後の1人を回廊の中に放り込む。
《回廊結晶》はバカみたいに高いが二十層あたりから売られ始めたので一応一個は所持していた。
繋げているのは第一層の黒鉄宮内部の牢屋の中。要はパトカー代わりに使ってる。
「さて…」
俺は未だに後ろで座り込んでいる少女に声をかける。
「久しぶり…だな。沙綾。」
俺の言葉に、彼女はピクリと体を震わしてからこちらを見る。
「お元気そうで何よりです…隼人さん。…やはり、気づいてましたか…」
「当たり前だろ。顔が一緒なんだから」
俺は苦笑しながらそう呟く。
俺は顔を真剣なものにして、腰をかがめて彼女と視線を合わせる。
「お前には聞きたいことがあるけど…」
俺は周りを見渡してから手を差し出す。
「ひとまず街に戻るか。ほら。」
「…すいません。」
沙綾は俺の手をとってゆっくりと立ち上がるそれを見てから俺は来た道を戻り始める。街に帰る途中、俺と俺の幼馴染は何も話さなかった。
やっとヒロイン全員揃ったね。長かったわ〜。というわけで、感想とできれば評価もお願いね♡ではまた次回!