「それじゃあお兄ちゃん、和真、部活行ってくるね〜。」
部活で疲れてベットに倒れこんでいる俺の耳にそんな声が微かに聞こえる。俺はベッドで上体を起こすと大きく伸びをする。
「ふあ〜あ…んぎぎぎ…はあ。」
とりあえず一息つき下に降りる。一階は見事な静寂に包まれていた。キッチンに移動し、やかんに水を入れコンロの火にかける。
その間にコップを出しインスタントコーヒーの粉を入れ、台所にある椅子に座り込む。
俺はおもむろに、ズボンのポケットに手を突っ込みスマホを取り出した。
ロック画面が表示される。その壁紙に俺は幼い時の写真を選んでいる。左側で無愛想にそっぽを向いている黒髪のクソガキ。俺だ。
そして右側で俺の左腕を掴み無邪気で愛らしい笑顔でピースをしている紫色の髪を持ったショートカットの女の子。服は女の子らしいフリフリのついたようなものではなくワイシャツとジーパンという実に男の子らしい服に身を包んでいる。
彼女の名は紺野木綿季。俺の幼馴染で、親友で…俺の初恋の相手。昔は木綿季も埼玉県に住んでいて幼稚園、小学校と同じだったためよく一緒に遊んでいた。日が暮れるまで木綿季の双子の姉の藍子と一緒に…。
「…」
俺はそこである思い出のせいで嫌悪感がこみ上げ回想を打ち切る。俺はパスワードを打ち込み画面を開く。
ホーム画面へ移行したところで、ニコニコ動画のアイコンをタッチ。すると画面が一気に変わり様々なボタンが出てくる。俺はさらに生放送ボタンをタッチ。
画面がニコニコ生放送画面に切り替わる。どうやらそこでお湯も湧いたようで、やかんがしゅんしゅんと音を上げ出す。火をとめ、コップにお湯を注ぎ、さじ棒でかき回してからコップを持って二階に上がる。
同居人の兄弟起きているようで、少し開いたドアの隙間から後ろ姿が目に映る。俺は何も言わずに通り過ぎ一つ奥の部屋に入って机の上にコップを置く。
ノートパソコンを、机の脇に置いてある袋から取り出しコンセントをさしてから電源をつけ、パスワードを入力する。
スマホに目を向けると、あるゲーム屋にとても長い行列ができている映像が見て取れる。並んでいる全員のお目当は恐らく、いやほぼ確実に今話題の《アレ》だろう。
俺はベッドの横に置いてある球体にも似た形の物体を見下ろす。
最新型ゲーム機《ナーヴギア》。
そしてそれの最新ソフト。
VRMMORPG 《ソードアート・オンライン》。
様々なものを新しく導入した、生粋のゲーマーなら喉から手が出るほど欲しい話題のソフト。
俺はそれをなんとタダで手に入れた。ダメ元で申し込んだCBTの抽選に当たったのだ。クラスのやつからは「羨ましい」と連呼された。
パソコンが立ち上がったので検索サイトで《ソードアート・オンライン》と入力すると多数の文字が画面上に浮かび上がる。俺はその中からゲームの説明が見れるものをクリック。
ゲーム内での必殺技の出し方やコンボの決め方をもう一度頭に叩き込む。俺はかつてはCBTでも常にトップに近いところを走っていた。しかしそれは3ヶ月ほども前の話。技のキレ、正確さに関しては鈍っているだろう。だからこそこうして叩き込んでいく。
10分ほどもある動画を見終わった後に俺は現時刻を確認する。現時刻、12時40分。まだSAO正式サービス開始まで20分の猶予があるので何か暇つぶしがしたかった。
俺はクローゼットに近づくと一冊の大きめの本を取り出す。小学校時代の卒業アルバム。不思議な感じだ。ほんの6、7ヶ月前まで小学生だったのにすでに小学校時代の記憶は薄れかけている。俺は1ページ目からページをめくっていく。1年から始まり、2年、3年…と続いていく。俺は4年のページで手を止めた。
今まで必ずと言っていいほど写っていた女の子がまったく写らなくなったからだ。しかも5月下旬にあった運動会の前の月から。
「そうか…あいつが転校したのって、4月…だったんだな」
再びの嫌悪感。脳内には後悔だけが渦巻いている。その光景をあざ笑うかのようにスマホのアラームが鳴り響く。
ソードアート・オンライン正式サービス開始の時間。俺は重い体をゆっくりとした動作で持ち上げコーヒーを飲み干してからベッドに横たわり頭にナーヴギアを装着、コンセントをさしこむ。
俺は机の上にある写真立てを掴みその中にある写真を見る。あいつが転校する直前に撮った最後のツーショット写真。進級祝いで撮ってもらった。この写真立てもあいつが俺の9歳の誕生日の時に買ってくれた誕生日プレゼントだ。
俺は同時に机の中にしまってある姿見を取り出しその頃の俺と今の俺を見比べる。
「…ずいぶんと変わったな。俺も。」
昔はストレートに近かった髪はくせっ毛がちょくちょくあり、目は丸かったのが少しだけ鋭くなっている。恐らく木綿季と今再会しても気づかない可能性の方が高いだろう。
俺は写真立ての中で薄っすらと笑う俺といつもと変わらぬ笑顔で俺の腕に抱きついている少女を一通り見てから机に戻す。
俺は目をつむりもう言い慣れた、しかし久しぶりの言葉を発する。
「リンクスタート!」
第2話終了!キリトくんの弟、和真君のお話でした!ちなみに和真君は剣道部に所属しております!ではでは第3話で会いましょう!アディオス‼︎