しかし、ユウキは過去にあった事件の過度なストレスによって幼馴染…カズマの記憶を失い、カズマに至っては他の元ベータテスター達とビギナー達の関係を守るために、プレイヤー達が密かに抱えている元ベータテスターへの恨みを兄であるキリトと、同じ元ベータテスターだったシュンヤとともに自分達だけを卑劣な《ビーター》とし、その恨みを自分達だけに向けるようにした。
ランはユウキがカズマの記憶を取り戻せるように頑張っているようだ。
こうして、茨の道を進むようになった3人だが、まだ分かってないことがある。
…そう、3人の《過去》だ。
ランがカズマに助けられたと感謝している理由、ユウキがカズマとの記憶を失ってしまった理由。そして、カズマが自分を責めて、後悔し続けた理由をこれと次で解明していこう。
話はおよそ10年前に遡る。
3歳、つまり幼稚園の時にカズマとユウキ、ランは出会った。
いや、実際はそれ以前…1、2歳の時にあってはいるのだが他人を認識出来るほど脳が発達していなかった。
だからこの歳になったわけだ。
「か〜じゅ〜ま〜!」
「うわっ!」
出会い頭にカズマに抱きつくという行為は幼稚園までほとんど癖のようなものだった。
「いてて…」
「えへへ〜おはよ、かじゅま。」
頭を押さえているカズマにユウキは満面の笑みを浮かべる。
「ゆうき、マットの上じゃなかったらあぶなかったぞ?そのだきつくくせやめろよな。あとおれのなまえはかじゅまじゃなくてかずまだから。」
カズマはそんなことをいうがユウキはなおも抱きついたまま嬉しそうな笑みを浮かべる。
「どっちでもいいじゃん、そんなの。」
「…とりあえずどいてくれ。」
後から来たランに引き剥がされるまでのかなかったそうだ。
小学校入学。誰もが期待で胸を踊らせるこの時期。
3人も同じく胸を踊らせていた。
「楽しみだな〜学校。」
「フフフ、ユウキったら昨日からそればかりね。」
「ま、それだけ楽しみなんだろ。」
ここは埼玉県川越にある小さな公園で入学式を終えた直後だった。ユウキは公園の中心でくるくると回り、カズマとランはそれを滑り台の上で見ていた。
「和真さん、木綿季のことよろしくお願いしますね。」
「?どういうことだよ。」
カズマの質問にランは微笑みながら答える。
「あの子楽しみとか口では言ってますけどかなり不安を感じてるんですよ。友達ができないんじゃないかって。」
「ふ〜ん。」
「ですから悄げちゃった時は勇気付けてあげてくださいね。」
そんなことをいうランを見ながら、カズマは苦笑する。
「大丈夫だよ。あいつなら友達の100人ぐらい簡単に作れるさ。」
「それは…期待しすぎじゃないですかね。」
「どうかな…」
カズマは右手に持ったコーラの缶を口元で傾ける。
「ま、期待のしすぎだとしてもあいつが友達のいない奴になることはないさ。俺ならまだしも、な。」
その言葉にランはクスクスと笑う。
「和真さん、今でも友達少ないですもんね」
カズマは少しだけ顔をしかめると唇を少しだけ尖らせた。
「い、良いんだよ。別に俺は友達がいなくても生きていけるし。」
「あれ?じゃあ私たちとも友達やめますか?」
悪戯っぽくそう言うランにカズマは少しだけバツの悪そうな顔をする。
「あ…いや…お前らにいなくなられたら…ちょっと、いやかなり困るんだが…」
そんな言葉を並べるカズマをランはクスクスと笑う。
「冗談ですよ。少なくとも私たちの方から友達をやめるなんてことは言わないので安心してください。」
ランの言葉にカズマは少しだけ安堵の顔を見せる。
「そりゃ良かった。お前らと友達やめたら本当に俺友達ゼロだからな。」
「もうちょっと友達作りましょうよ。」
「やだよ、面倒くさい。作るとしてもあと二、三人だな。」
「え〜。」
「作りすぎたらお前らと遊ぶ時間がなくなっちまうだろ。俺はお前らと遊んだりしてるのが一番楽しいんだから。」
その言葉にランは少しだけキョトンとしていたがすぐに微笑んで視線をユウキに戻す。
「そうですね…私達もあなたとこうして話している方が楽しいんです。」
「それなら良かったよ」
カズマがそういった直後、中心から声をかけられる。
「和真〜、姉ちゃ〜ん。そろそろ帰ろ〜!」
「分かった〜!」
カズマは大声で返すと滑り台から降りてユウキの方に向かって歩き出す。ユウキの横に行くとカズマの腕にしがみつく。これも癖になりつつあるのでカズマはもう慣れていた。
「姉ちゃんとなんの話ししてたの?」
「ま、今後のことについてだな。」
「え〜、何それ。」
「子供のお前にはまだわかんねえよ。」
「ちょっと、子供扱いしないでよ!ボクもう6歳だよ!」
「子供じゃねえか。」
カズマが笑いながらそう言うとユウキはすぐに反論する。
「和真も同い年のくせに!」
「知識が違うんだよ。18+15は?」
「え…と…」
「33。まだまだだな。」
「ムキー!」
ユウキはカズマの腕から離れてカズマの肩を叩き始める。
「バカバカバカバカ〜!」
「お前が言うな」
カズマはそう言うと家に向かって歩き始めた。
「お、おい。引っ張んなって。」
「フフフー。照れなくていいよ♪いくら美人のボクとツーショットだからって。」
「…お前、それ自分で言うのか?」
この日は1月1日、つまり元日だった。
「ほらほら、もっとくっついて。」
「いや、もうくっつけないだろ。無茶言うな。」
「フフフ。なんならキスしてあげようか?」
「何言ってんだお前。女の子がそう易々とキスをするもんじゃありません。」
今日は元日ということで初撮りなるものをしようということで紺野家に誘われた。カズマが犠牲となり、紺野一家とカズマの写真という明らかに結婚式ぐらいでしか撮らなさそうなものまで撮らされた。
そして今、ユウキとカズマのツーショットなのだが…
「フフフ♪和真あったかい。」
「頬をスリスリするな!猫かお前は!」
カズマは助けを求めるようにカメラを構えて笑っているユウキとランの両親、寿明と恵を見る。
「おじさん、おばさん!助けてくださいよ!」
「あら良いのよ、もっと続けて。なんだか新婚さんを見てるみたいで朗らかな気持ちになるわ。ねえ、お父さん?」
「ああ、まったくだ。和真君、娘を頼んだぞ。」
「こんな状況で任せられてもね⁉︎」
カズマは必死に抵抗しながらそう叫ぶ。そこで、寿明がカメラを構える。
「そろそろ撮るぞー。はい、ポーズ決めてー。」
「和真。ここはキスを…」
「しません」
カズマは呟くとそっぽを向き、ユウキは満面の笑みでカズマの腕を引きながらピースを作る。
「ハイチーズ!」
カシャリッという音とともにシャッターが切られる。このとき撮った写真が、未来のカズマのスマホのロック画面となる。
「ふぅ…」
カズマは家の風呂に浸かりながら、ユウキ達のことを考えていた。普段は無心ではいるものだが、原因は今日のユウキ達の発言だった。
『ボクと姉ちゃんはね…エイズになる可能性が高いんだ。』
少し悲しげな笑みを浮かべながらユウキはそんなことを口にした。
エイズ。またの名を後天性免疫不全症。
HIVにより感染する感染症の一つ。
ネットで出てきた情報はこれくらいだった。
カズマももう三年生が終わり、進級して四年生になろうとしている。実は今日は三学期の終業式だった。
正直そんなことを言われた時はかなり驚いたが今は気持ちの中で整理ができている。
「俺が、あいつらのためにできること…」
カズマはネットでさらなる情報を手に入れていた。
《エイズの治療薬はまだ完成されていない。》
エイズというのは厄介な病気らしく、発症したら今の医学では治せないのだという。ユウキ達のHIVは薬物耐性型じゃなかったことから薬の服用で発症は免れてきたらしいが、いつかかってもおかしくない状態らしい。
「…」
カズマは、そこである考えを思いついた。これならいけると、そう思った。しかし、数多の天才達が作ろうとしても作れなかったものだ。しかし…
「天才は99パーセントの努力と1パーセントの頭脳とか誰かが言ってたよな。」
多少違う気がするが、そんなことはどうでも良かった。カズマは浴槽で立ち上がると右手を握りしめる。
「俺が作ってやる…エイズの治療薬。」
医者になる…カズマの夢は、ここで決まった。
しかし、4月の終わり。そこで、事件は起きた。
「…」
新学年として始まってからすでに10日が経過していた。
結局入学当初から増えた友達の数はまさかの1。
予想していたことではあるが自分でもすごいと思う。
「おい、桐ヶ谷。」
本を読んでいるカズマの前にシュッとしたイケメンが現れる。彼はカズマの机に両手をつくと思いっきりカズマを見下す。
彼の名は加藤 晶馬。PTA会長の息子で学級委員というクラスのリーダー格だ。
彼とカズマは本当に仲が悪かった。
別にカズマはそこまで敵対視してたわけじゃない。
というか正直、眼中にもなかった。
ただ、いかんせん加藤の方がカズマを嫌っていたのだ。
リーダーという立場のものからすると、自分の下につかずいつもマイペースで動いている奴は邪魔な存在だったのだ。
しかも何かで勝とうにも彼にはカズマを超える能力はほとんどと言っていいほどなかった。
運動もカズマが上。
勉強もカズマが上。
一度親の仕事の件で挑発したが、軽く受け流された。
となったら彼としてはあと唯一勝っているもの。
交友関係でいびるしかなかった。
学年の大半は彼の支配下にあるから、四年生になって話したことがあるのは紺野姉妹ともう1人の友達だけになる。
「…」
「無視してんじゃねえよ」
カズマは少しため息をつくと面倒くさそうに返した。
「何か用か、成り金。」
「な…!」
加藤は大きく顔を歪める。しかしすぐに笑みへと変える。しかし、そこに余裕はなかった。
「相変わらずの減らず口だな。2年前とちっとも変わってねえ。」
「お褒めに預かり光栄だな。…なんか用か?」
カズマは小説を一ページめくる。
「まあ良い。良い加減俺の下についたらどうだ?そっちの方が楽だぜ?」
カズマはさらに一ページめくる。
「なんだ、俺の友達の少なさを気にしてくれてたのか?でも気にするな。大して支障は出てないから。」
「強がりはよせよ。お前、本当は羨ましいと思ってんだろ?俺みたいなやつのこと。」
「全然。」
カズマの返答に加藤の唇の端がヒクヒクと動く。
「どこが羨ましいってんだ?お前の《友達》はただの毛糸で繋がってるくらいの絆の深さだろ。俺と俺の友人との絆に比べたら天と地の差があるな。鉄ワイヤーとちぎれかけの毛糸だな。」
さらに一ページめくる。
「なあ…《塵も積もれば山となる》って言葉知ってるか?」
「なるほど《質より量》ってことか。でも所詮塵は塵だろ?風が吹くだけですぐに飛ぶんだから意味ないな。」
カズマはもう一ページめくろうとするがその直前で襟首を掴まれる。本がトサリッという音を立てて落ちる。
「てめえ、調子乗んなよ…!」
その声は明らかに殺意をはらんでいたがカズマは冷たい視線を送りながら、その腕を掴み返す。
「おいおい、ダメだろ。学級委員がクラスメイトをいじめたら。それともそんなに俺の言ってたことがピンポイントだったのか?」
カズマが思いっきり力を込める。なんのスポーツもしてない奴が剣道をしているカズマの握力に耐えられるはずもなくすぐに手を離す。
「てめえ…!」
カズマは落ちていた本を拾って、ついていた埃をはたく。
「何か言い返せることがあるなら言ってみな。お前が誰かにいじめられてても助ける奴なんているはずないから。」
「…お前はどうなんだよ。」
「あ?」
カズマが少しだけ目を向けて聞き返すと加藤は声をあげた。
「お前にはいるのかって聞いてんだ!」
「いる可能性は低いな。2人は女子だし1人はヘタレだし。けどまあ、俺の友人に何かした奴は殺すけどな。」
その言葉を聞くと加藤はドアへと向かい、出て行く前にカズマを睨んで一言。
「…覚えてろ。」
「…木綿季達に何かしたら、本当に殺すからな。」
カズマの言葉に加藤は何も言わず出て行った。
「ふぅ…」
カズマは一息ついて席に座る。そこで横から声をかけられる。
「くくく、なかなかカッコよかったぜ。和真君。」
「茶化すなよ。」
カズマはその声に笑いながら返す。
彼の名は冬木 淳。カズマの唯一の男友達。
「そうかそうか。俺と和真の絆はそこまで深まってたか。鉄ワイヤー…悪くないな。」
頷いている冬木にカズマは笑いながら返す。
「別にお前だと言った記憶はねえぞ。」
「あれ⁉︎」
冬木は少し目を見開く。
「おかしいなあ、俺と和真は友達のはず。そろそろ漫画を貸してくれる約束だって…」
「してません。」
カズマはページをめくりながら呟く。
「お前また無くしたのか。」
「…親が勝手に捨てちゃうんだもんよ」
「お前が片付けてないだけだろ」
「………なあ和真。」
「貸さないって言ってんだろ」
「…ちえっ。」
唇を尖らせる冬木を見てカズマはもう一度笑った。
ーーーーーーーーーーーー
「くそっ、くそっ…」
加藤は家に帰ってから、ずっと部屋の中で引きこもっていた。
邪魔だ、邪魔だ。とにかく邪魔だ。
加藤から見ればカズマや冬木はただの邪魔なやつでしかなかった。保育園の頃から人の上に立つことで生きてきた加藤にとって従わない人間がいることは屈辱でしかなかった。しかも2人、いや4人も。
「何かないか…なにか…」
加藤は勉強に使う集中力も全てあの4人を自分の下に置く為だけに費やしていた。
「…そうだ。」
そこである考えを思いついた。
彼は部屋を出て廊下を通り、両親の部屋へと入りデスクを漁る。そこで見つけたのは…生徒のプロフィール。
彼はそれをめくっていき、ある2人のところで止める。
「…これだ。」
彼の唇はつり上がって、彼は確信した。確実な勝利を。
あの4人が這いつくばってこうべを垂れる様を幻視した。
「はは…ははは…ハハハハハ‼︎」
彼は狂ったかのように哄笑した。彼の声は、少し暗くなった空へと吸い込まれていった。
ーーーーーーーーーーーー
『ねえ和真。神様って信じる?』
画面に映っているユウキから発せられた言葉にカズマはピタリと文字を書いていた手を止める。今は夜寝る前恒例のテレビ電話の途中で、カズマは電話をしながら勉強をしていた。
「は?いきなりどうしたんだよ。」
カズマはシャーペンを置くと、テレビに映ったユウキとランの顔を見る。
『こら、木綿季。和真さんになに聞いてるの。すいません、私とこの子今日はお母さんと教会に行ってきたものですから…』
すかさずランがユウキの発言について説明する。
「教会…あっ、そういやお前らの母さんキリスト教徒だったな。」
カズマは一度、お祈りの現場まで同行したことがあった。十字架が、とても大きく見えたことを覚えている。
「それで、神様がいるか俺が信じてるかだったよな。」
『うん、和真の意見を聞かせて欲しいな。母さんは『イエス様』って呼んでるけどいまいちよくわからなくて。』
「そうだな、まずはイエス様のことについて説明するか」
『お願い!』
目を輝かせるユウキを見て、カズマは少しだけ笑いながら天井を見上げて話し始める。
「イエス様っていうのは、宗教を創った人…つまりイエス・キリストのことだな。一回死んだのに生き返った、ていう現実ならありえないようなことをしたって言われてる。」
『『へえ〜』』
なぜかランまで感心したかのように声をあげた。
「キリスト教は主にヨーロッパで信仰されてるってのは聞いたことあるな。今知ってるのはそんぐらいか。あと俺が神様を信じてるかどうかについてだけど…」
『ゴクリ…』
ユウキはゆっくりと唾を飲む。そして、カズマは笑いながら答えた。
「正直どっちつかずだな。」
『…どっちつかず?』
ユウキが首をかしげる。ランも少し不思議そうにしていた。
「ああ。別に俺は神様がいると思ってるわけじゃないよ。だっている確証なんてどこにもないんだから。けど、いないっていう確証もない。なら、いるいないを判断するのはその人自身だし、信仰するかどうかもその人の自由だ。だから俺はいないとも思ってるし、いるとも思ってるってこと。」
『ふーん…難しいこと言うね』
「ははは、まあ後々自分の考えを見つけ出せばいいんじゃないか?」
『えー、何年後になるか分かんないよー。』
その言葉にカズマは優しく微笑む。
「それでいいんじゃないか?この世にある意見の中で《間違い》なんて存在しないし《正解》も存在しない。その人の出した意見が、その人の真実なんだからさ。ゆっくり考えりゃいいんだよ。」
『和真さん…難しいこと言いますね』
「難しくなんてないさ。俺は事実を言ったまでだよ。お前らももうちょい面倒くさい奴と接したらわかるかもな。」
カズマの言葉にユウキはゆっくりと頷く。
『そうだね…頑張ってみるよ。』
「ああ、おやすみ二人共。」
『おやすみなさい、和真さん…』
『おやすみ、和真。…大好き。』
カズマはノートへと向けていた視線をもう一度タブレットの方に向けた。頬を赤く染めたユウキがにっこりと恥ずかしそうに微笑んでいた。
カズマは数秒の間のあと、優しい笑みを浮かべて言葉を発した。
「ああ、俺も大好きだよ。木綿季。」
カズマの言葉にユウキは満足そうに微笑むと手を伸ばしてテレビ電話を切った。
静かになった部屋でカズマは独り言をつぶやいた。
「大好き、か…初めて使ったな、そんな言葉。」
カズマはそう言うと、目を閉じてゆっくりと深い眠りに落ちていった。
ラブラブだねー♡ちょっと俺も書きながらドキドキしちゃったよー。良いよねー新婚って。一、二年目が一番盛り上がる時期だよね。
ちなみにユウキとランの両親は生きてます。あとユウキとランは元々埼玉に住んでたってことになってますんで。
後付けとして加藤君のお父さんはPTA会長と大きな会社の社長してます。
さて、次回はかなりやばい内容となります。なぜユウキは記憶を失ってしまったのか。その理由がわかる話となるはずです。お楽しみに!
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