ソードアートオンライン 〜鋼鉄の記憶〜   作:誠家

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記憶は、忘れて良いものと忘れてはならないものに分けられる。普通は忘れて良いものは忘れられ、忘れてはならないものは忘れない。しかし、忘れてはならないものも忘れて良いものとともにどこかに行ってしまうことがある。
それはどのような時か…そう、記憶を失ってしまった時だ。


第25話 記憶

転移門からかなり走ったところで俺は道を右に曲がる。

 

「おい、そっちじゃねーぞ!」

「知ってるよ!」

 

俺は曲がった地点から少し走ったところにあった建物に入る。そこにあったのは現実世界のテレビでよく見ていたものに似ていた建物があった。

そこに繋がれてあった一体の馬の首をタップ。使用するかどうか問われるので、すかさずOKボタンを押す。

俺の財布から金が引かれ、飛び乗る形で馬の背中にまたがる。

 

「そんなの使うくらいならもうちょっと敏捷上げろよ!」

「うるせーな!俺的にはこっちのほうがいいんだよ!」

 

俺の合図でそれは走り始める。明らかに俺よりも速い速度で。

主街区を抜けて、圏外に出る。俺たちと一頭は、暗くなった平原を駆け抜ける。

一歩一歩進むたびに仮想の草たちが引きちぎられていく。

…その横では、シュンヤが余裕たっぷりに並走している。

 

「お前どんな敏捷してんだよ…」

「今はそんなことどうでもいいだろ!それより…来たぞ!」

 

シュンヤが抜刀すると同時にモンスターのポップ音。

俺も愛剣の朱色の刀身を抜き出す。

 

 

「「邪魔だああああ!」」

 

 

俺とシュンヤの剣がコウモリの小さな体を四つに分断した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「くっ…!」

 

ユウキは懸命に体を動かそうとする。だが、動かない。体が言うことを聞かない。

この世界での麻痺毒は、解毒ポーションを使わない限り解毒することは不可能だ。ゆえに、レッド達はよく視覚からの麻痺毒攻撃を行うのだ。

 

「ワーンダウーン。」

 

皮袋を被った小柄なプレイヤーが楽しそうに呟く。クククッという声が皮袋の奥から聞こえる。

 

「まさか、本当に釣れるとはな。こんな大物が。攻略組のトップギルド様達じゃないか。」

 

リーダー格らしき男がそう呟くと後ろを向いた。

 

「それもこれも、お前の計画の賜物だな。よくやった、ショウマ」

 

ショウマと呼ばれたフードの少年は手を胸の前で振り、少し笑いながら首を振る。

 

「いえ、ザザさんにもジョニーさんにも手伝ってもらいましたから…僕だけの力ではありません。」

「つっても、こいつら大したことしてねえだろ?」

「うわぁ、酷いなあヘッド。俺だってちゃんと働いてましたよぉ?」

「お前は、ソファの上で、菓子食ってた、だけだろ。」

「あっ、ザザ!それは言わないって約束だろ⁉︎」

 

そんなやりとりに後ろの数十人は甲高い声で笑う。

ユウキ達にはそれが、悪魔達の笑い声に聞こえた。

 

「それじゃ、ショウマ。ご褒美のお時間だ。喋っていいぞ。」

「ありがとうございます、ヘッド」

 

ショウマは頭をさげると、ゆっくりと歩き出した。冷たい空気が辺りに宿る。彼はユウキとランの目の前で足を止めると、フードの下から彼女達を見下す。

 

「よお、はじめまして…いや、久しぶりと言うべきかな?」

「…あなたのような殺人鬼は…知り合いにはいませんが…?」

 

ランが震える声で言葉を発する。

その答えに彼はクククッという笑い声を口から漏らす。

 

「おいおい、残念だな。俺のこと忘れちまったのか?お前らが一番恨んでる相手だろうに。」

「私達が…一番…?」

 

ランは少しポカンとしていたが、すぐに顔を険しいものに変える。

 

「あなた…まさか…‼︎」

「ようやくお気づきか…」

 

彼はフードをはずして、素顔をさらした。その顔を見た途端、ランは鋭く息を飲む。瞬時に、《あの時》の憎しみの感情が再発する。

 

「加藤…晶馬…‼︎」

「よお、紺野姉妹。懐かしきクラスメイトとの再会に激励はないのか?」

 

ランは歯ぎしりをしながら、叫ぶ。

 

「誰が…誰があなたを激励なんて…!」

 

そこで、ランは気づいた。

ユウキの体が、小刻みに震えていることに。

 

「加藤…晶馬…?クラスメイト…?ボク達が…一番…憎む…?」

 

そんなつぶやきがユウキの口から漏れ出ている。

 

「ユウキ、ダメ!何も考えないで!」

 

そんなランの叫びをあざ笑うかのようにショウマはユウキに顔を近づける。

 

「おい、紺野妹。お前、俺のこと覚えてねえのか?」

「晶馬…加藤…晶馬…?分からない…何も…何も…。」

 

ユウキの顔は蒼白に染まり、細かく震えている。

ショウマは大きな音で舌打ちをする。

 

「チッ。なんだよ、興醒めだな。」

 

そんなことを呟く彼にリーダー格の男が笑いかける。

 

「おいおいショウマ。お前、《絶剣》樣とクラスメイトだったのかよ。すげえ奇遇だな。」

「ええ、まあ。一目見ただけですぐにわかりましたよ。それこそ、第十三層で見かけたときにね。」

 

ショウマは細身の長剣を腰から引き抜き、ユウキの顔に突きつける。

 

 

 

「何度殺そうかと思ったか…数えきれないですよ。」

 

 

 

その行動に他のスリーピング・ナイツのメンバーは息を飲む。

 

「おいおい、ショウマ。俺たちの、分も、残して、おけよ。」

「心配しないでくださいよ、ザザさん。ちゃんとメイン以外はあげますから。」

「ショウマ、そりゃねえだろ。自分だけメイン一人じめなんてさぁ!」

 

その言葉にショウマはふふっと笑う。

 

「冗談ですよ。ちゃんと残してあげますから女性陣は犯すなり何なりしてあげてください。女性でヤれないのはかわいそうですからね。」

 

後ろの集団から「おおっ!」という声が上がる。

 

「ハッハッハッ!なかなか優しいじゃねえか。」

「まあ、虐めていたとはいえ元クラスメイトですからね。慈悲ぐらいはあげてやらないと。」

 

その言葉にユウキはさらに大きく身震いをする。

 

「虐められていた…?ボクが…?誰に…どこで…?」

 

その問いに答えるかのようにショウマは淡々と告げる。

 

「本当に覚えてないみたいだな。ストレスで記憶でも飛んだか?…お前達が虐められていたのは小学四年生の頃。進級したばかりだよ。持病のことで虐めを受けたんだ。」

 

そこで、ポツリポツリと雨が降り始める。

 

「そうそう、こんな雨の日だったな」

「やめて…!やめなさい、加藤‼︎」

「俺の今の名はショウマだ!その名前で呼ぶな‼︎」

 

気圧されたのかランの体がビクリと震える。

 

「え…?ボクが…学校に…?そんな…ボクは…産まれた時から…病院で…そもそも…誰が…ボク達を…?」

 

そんな言葉を呟くユウキにショウマは大きくため息をつく。

 

「ここまで来てまだ察せねえのか?脳まで菌に汚染されたのか?この細菌野郎が。」

「細菌…野郎…」

 

その言葉を聞いたことで、ユウキの頭が激しく痛み始める。

 

「ァグッ…!?」

 

まるで、閉じていた何かを無理やり開けているかのような音すら聞こえてくる。

 

「ダメ…!ユウキ…!それ以上は…!」

「てめえ!ユウキを罵倒するんじゃねえ…!」

 

ジュンが大声で叫ぶ。

ショウマはジュンを呆れたような目で見ると、手を上に突き上げて振り下ろす。そこでジュンの体が何者かに貫かれる。

 

「ガッ…⁉︎」

「「ジュン!」」

 

近くに倒れていたノリとテッチが同時に叫ぶ。刺した男はしばらくした後、ジュンの体から剣を引き抜く。

 

「ぐ…!」

「部外者が首をつっこむんじゃねえよ。これは俺とこの二人のお話だ。人の話はちゃんと聞けって教わらなかったのか?」

 

そんな声も、ユウキには聞こえていなかった。ただただ、鮮烈な痛みが頭を襲い続ける。

 

「うあっ…ぐっ…!」

 

ユウキは懸命に頭を押さえる。しかし、それだけでは痛みは治まらない。

 

「…しょうがねえ、無理矢理やるか。」

 

ショウマは雨で増水した川に近づくと、アイテム欄から取り出したバケツに水を汲む。その水を、ランの前に運び…その水をランにかけた。

 

「うっ…!」

「姉ちゃん…!」

 

ユウキは手を伸ばそうとする。

 

…そこで、ある光景が脳の中に入り込んできた。ランが学校の廊下のような場所でびしょ濡れのまま座り込んでいる光景。そして、誰かが血を流しながら自分に覆いかぶさる光景だった。

 

 

「これ…は…」

 

 

そう呟いた、次の瞬間。ユウキの頭を先ほど以上の鮮烈な痛みが襲う。

 

「うっ…がああああ…‼︎」

 

今まで閉じていた記憶の扉が、すべて開けはなたれる。9年分のすべての記憶が、増水した川のような勢いでユウキの頭に入り込んでくる。

 

 

凄まじい頭痛と共に。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

記憶を戻す方法には、いくつかやり方がある。その中で、最も効果があると言われているのが《記憶を失った時の場面を再現する》というものである。

なぜなら、その場面の中に記憶の扉を開ける《鍵》となる場合が多いからだ。ユウキの場合は、まさにそれだった。

逆に、顔や名前を聞いただけでは足りないことが多くある。

 

 

…ただこれは、その本人に大きなストレスがかかる事がデメリットと言えるだろう。

 

 

なぜなら、その場面における《トラウマ》が、扉を閉じた要因となっているケースが多いからだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「ああああああああ…‼︎」

「ユウキ…ユウキ…‼︎」

 

ランは必死に叫び続けるが、その言葉もユウキの耳には届かない。

ユウキの頭にはあらゆるものが渦巻いていた。悲しみ、憎しみ、喜び、楽しみ…。それらの感情がユウキの五感をすべて遮断していた。

 

「うぅ…!」

『止まれ…止まれ…!』

 

ユウキは頭の中で必死に念じる。それもそうだろう。ただの14歳の女の子が、大量の記憶の奔流に耐えられるはずもない。

 

しかし、そんな願いなど聞いていないかのように記憶はユウキの頭に入り込んでくる。

 

『その細菌野郎が!』

『学校来てんじゃねえよ!』

『汚れるだろ!さわんじゃねえ!』

 

かつてのクラスメイト達のそんな声が頭の中と耳を走っていく。

目尻には自然と透明な雫が溜まる。

 

『止まれ…お願い、止まって…!』

 

そんな願いも、儚く消えていく。

そして、最後に映ったのは少し長めに伸ばした黒髪を持つ同い年くらいの少年。

彼との記憶…思い出と、彼に抱いていた想いが頭の中に広がる。

 

 

『木綿季。』

 

 

少年は優しい声で、彼女の名前を呼ぶ。

 

ユウキにとって、彼や姉と遊んでいた日々はまさに夢のようだった。

1日1日が、まるで輝いているかのような日々。

たとえどれだけ悲しいときでも、彼の顔を見て、慰められ、頭を撫でられればすべてを忘れられた。その笑顔を見れば、何もかもが美しいものに見えた。毎朝、彼を見ると…自然と心の中に温かいものが広がっていった。

 

そして、彼はいつだって彼女の前を走っていた。前を走り、ユウキの手をとり、導いてくれていた。

それは、自分達がHIVの感染者だという常人なら縁を切るようなことを聞いても彼はいつも通りに彼女達に接した。ついには、自分の夢をユウキ達を助けるためだけに決めてしまった。

 

何度彼に感謝しただろう。何度彼のことを想っただろう。何度…彼のことを愛しいと思っただろう。

そんな中、あの事件は起きてしまった。水をかけられ、罵声を浴びせられ、暴力を振られていたユウキを守るために、彼は自身の体を盾とした。

加藤の持っていたナイフは、彼の肩を貫き、赤い鮮血を飛ばした。

そして、ユウキの頭の中に最後の記憶が入り込む。

ナイフで肩を刺された少年が、自分の体の上に倒れこんでくる。左肩は大きな傷口によって大きく開き、左腕には五本の彫刻刀が根元まで刺さっている。

 

ユウキは彼の名前を必死に叫ぶ。しかし…

 

『木綿季…』

 

彼はそう呟き、彼女の髪を撫でてから目を閉じた。そこで、ユウキの頭の中には後悔と、自責の念だけが渦巻いた。その過度なストレスによって、彼女の彼との記憶は、脳の奥深いところに封印された。

 

「ようやく思い出したか?」

 

その言葉が発せられた方を、ユウキは倒れ込み、頭を押さえた状態で睨む。まだ、麻痺毒の効果は抜けていない。

 

「うぅ…ぐうぅ…」

 

自然と、ユウキの目から涙が溢れ出ている。雨は、少し小降りになっていた。

 

「ま、思い出したところで何の意味もないけどな。お前はここで殺される。その未来に変わりはない。…ああ、」

 

ショウマはニヤリと挑発的に笑う。

 

「冥土の土産には、ちょうどいいかもな。」

 

その言葉に、周りのレッドプレイヤー達が一斉に大声で笑う。

 

「ぐうう…‼︎」

 

ユウキは悔しさから奥歯を噛みしめる。その様子を見て、ショウマはあざ笑うかのように言葉を並べる。

 

「そんなに悔しいんだったら愛しの幼馴染の名前でも呼んだらどうだ?」

「…ッ…!」

 

ユウキは彼の言う幼馴染が、記憶の中で出てきた《彼》のことであることは気づいていた。しかし、彼がカズマであるということには結びついていなかった。

そう、カズマ自らも言っていたが、今と昔では顔が全く違うのだ。記憶が戻った今の状態でカズマに会えば…いやさ、通常の思考能力ならばユウキもそれに雰囲気や喋り方で気づく。

 

しかし、ユウキの脳は死への恐怖心と急な記憶の解放によりまともに働かなくなっていた。

だから、幼馴染が今このゲームにいることは気づかなかった。今の彼女の中では《和真》と《カズマ》は別人として認識されているのだ。

 

「さてと、そろそろ終わらせようか。…皆さん。」

 

ショウマの手が振り下ろされる。

 

「お好きにどうぞ。」

「「「うおおおおおおお!」」」

「「「ヒャアアアア!」」」

 

激しい雄叫びが、静寂な夜の森の中に響き渡る。それと同時にレッドプレイヤー達は動き出した。

その光景を見て、スリーピング・ナイツの全員が死を予感した。

ほとんどのものが、恐怖に震えていた。

 

しかし、例外が3人。

 

ユウキ、ラン、シャムは手を力いっぱい動かして祈るような形を作る。そして、彼女達が今もっとも信頼を置いている者の名を呼んだ。

 

「「「助けて…」」」

 

 

「カズマ」

「カズマさん」

「シュンヤさん」

 

 

3人の声は、闇に飲み込まれる。気がつけば、レッドプレイヤー達との距離も残りわずかとなっていた。

 

ーーもう無理かな…ーー

 

ユウキ達は、そう思いながら前を見据える。なぜ、目を開けていたのか。かっこいい理由などではない。ただ、ここで目を閉じてしまうと不可視の何かに負ける気がしたのだ。

それだけには、負けたくなかった。

 

故に、3人はしっかりと直視した。

 

レッドプレイヤー達と、自分たちとの間に白色の小石のようなものが投げ入れられるのを。

 

 

「…あ?」

 

 

それらはしばらく滞空すると…バシュシュッ‼︎という音を立てて形状を艶やかな紐へと変える。広くない河川敷の間に、多数のワイヤーが張られた。

 

レッドプレイヤー達は、それを見て、動きを止める。

 

そこで、闖入者が二人。一人はユウキ達の方へ飛び出し、もう一人はレッドプレイヤー達の方に飛び出す。レッドプレイヤー達が無意識に数歩後ろに退いた。

 

「シャム、皆!大丈夫か⁉︎」

 

近くからした声には、全員聞き覚えがあった。

 

攻略組《スリートップ》の一人、シュンヤ。

 

そして、相手が彼となるともう一人も自ずと決まってくる。

 

ユウキは、ワイヤーの向こう側にいる人物に視線を向ける。

装備のすべてを黒一色にしていて、その中でコートにはフードが付いている。

背中に吊った剣は、禍々しいオーラを放っているようだった。

そして、今は降っていない雨に濡れ、夜風に揺れる髪もまた…黒。

彼は乗っていた黒馬から降りると、首だけを後ろに向けて、ユウキに笑いかけた。

 

「無事か、木綿季。」

 

その声、その佇まいを見てユウキは思わず嗚咽を漏らした。ようやく、気づいた。彼の正体を。彼がなぜいつも迷惑ばかりをかける自分のそばにいてくれたのかを。いつもいつも…会うたびに懐かしく思えてしまっていた理由を。

ユウキは、泣き笑いのような顔をしながら、震える声で呟いた。

 

「遅いよ…和真…」

 

そんなユウキを見て、彼は安心したかのように優しく微笑んだ。

 

 




はいきたー!超かっこいい登場の仕方!かっけー!俺もやってみてぇー‼︎
…はい!というわけでここまで来ました。やっと、やっとこさ!そして、次回もほとんど会話になるかと思われます。バトルは次次回!お楽しみに!
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