ソードアートオンライン 〜鋼鉄の記憶〜   作:誠家

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少年は待ち続けた。彼女と再開する、その日を。
少女は探し続けた。自分の心の中の穴を埋めてくれる存在を。
そんな二人の行動は、ようやく終わりを迎える。二人はようやく、自由になれる。


第26話 圧倒

俺はユウキ達の安全を確認してから安堵のため息をつく。

 

あの後、馬の脚が許す範囲での全速力で走り、なんとかギリギリ間に合った。途中で降っていた雨も今はもうやんでいた。

俺は振り返ると、レッドプレイヤー達の中心に位置している長身の男に声をかける。

 

「よう、Poh。久しぶり…いや、3ヶ月ぶりだな。相変わらずの趣味悪い格好で安心したぜ。」

 

俺の言葉にPohはニヤリと片頰を上げて笑う。

 

「お前こそ、相変わらずの格好良さで安心したよ。まったく…反吐が出そうなほどにな。」

「…感動しそうなほどって言ってくれないかなあ。男相手でも案外傷つくんだぜ?」

「けっ、やなこった。いちいち俺の邪魔しかしてこねえ奴に、なんで感動しなきゃならねえんだ。」

 

俺はその言葉に首を横に振って両手を「やれやれ」という風に上げる。

 

「そんなもん、お前が殺しをやめりゃ済む話だろうが。三ヶ月前にこっぴどく懲らしめたのにまた湧き出て来やがって。ゴキブリかお前は。」

「それはお前もだろう?俺たちがPKするたびにしゃしゃり出て来やがって。しつこいんだよ。おら、今からそいつら殺すからそこどけ。」

 

その言葉に、俺は片方の唇を上げて返す。

 

「残念ながら、そいつはできない命令だな。一応後ろのやつらは俺の…まあ、《友人》だからな。俺はツレは絶対に見捨てないって決めてあるんでね。」

「そうか…まったく、本当に反吐が出そうな正義感だな。むしろ尊敬するぜ。」

「褒め言葉として受け取っておくよ…さて、それじゃあこれからどうするんだ?まだユウキ達を狙うっていうんだったら全力で相手してやるぜ?」

 

俺の飄々とした態度にしびれを切らしたのか、下っ端らしき男が怒声を上げる。

 

「てめえ…格好つけてんじゃねえぞ!状況わかってんのか!」

 

進み出ようとした男をPohが左手で制する。

 

「ヘッド…!」

「やめとけ。お前の腕じゃ縛り上げられて牢屋行きがオチだ。今は黙ってろ。」

「…はい…。」

 

男は渋々と後退する。Pohはわざとらしく両腕を広げる。

 

「さて、イッツ・ショウタイム…と行きたいところだが、どうやって殺したもんかね。」

「あれ、あれやろうよヘッド!」

 

ずた袋をかぶった男が甲高いはしゃぎ声を上げる。

 

「《攻略組を全員でミンチゲーム》!あれスカッとするから好きなんですよ!」

「それ、この前も、やった、だろ?少しは、変えろ。」

「口挟むんじゃねえよ、ザザ!特にあんなキザ野郎なんかはそうした方が殺しがいがあるだろ!」

「…」

 

喧嘩を始めた二人を無視してPohは傍らにいた青年に声をかける。

 

「ショウマ、お前はどうよ?どれが一番いいと思う?」

「そうですね…彼はワイヤーを持っているようですから…」

 

しばらく考えたあと、ショウマと呼ぼれた青年の顔が醜く歪む。

 

「前方に重装備を置いての《攻略組を全員でミンチゲーム》がいいと思いますね。」

「おい、ショウマ!」

「しゃあ!カカカカカッ、残念だったなザザ!」

「クッ…」

 

ザザが悔しそうに口元を歪める。

どうやら彼の言葉は絶対のようだ。

 

というか…あの顔…どこかで…。

 

俺の思考がどこかに辿り着きそうなところでPohの甲高い声がひびきわたる。

 

「タンク隊、前に出ろ!」

 

盾を持った重装備(と言っても聖竜連合並ではないが)のプレイヤー達が前に出る。なるほど、ワイヤーの対処方法をよく分かっているようだ。

 

「そのワイヤー、確かに対人戦では足を動かす邪魔になるなど、かなりの脅威になる。しかし、それにも対処方法は幾つかある。」

 

ショウマは指を一本だけ立てて俺に突きつける。

 

「その中の一つ、《盾はワイヤーを通さないから突っ走れる》というものを組み入れた陣形だ。これでお前のリーチはなくなったな、カズマ…いや、桐ヶ谷と呼んだ方がいいかな?」

「?お前…」

 

そこで、俺は気づいた。

そのイントネーションやウザったい顔に心当たりがあったことを。

そう、確かあれは小学生の時に…

 

「カズマさん…!」

 

その声を聞いて俺は視線を後ろに向ける。見るとランが苦しそうに声を発していた。まだ麻痺毒の効果が抜けてないらしい。

 

「彼は…彼の名前は…」

 

次のランの言葉によって俺の脳に衝撃が走った。

 

「彼の名前は…加藤、晶馬です!」

 

俺は耳を疑った。自分の聞いた言葉は、聞き間違いかと思いもした。だから、一度質問をする。

 

「…お前、加藤か?」

 

俺の質問にショウマは顔をしかめながら返答する。

 

「…その名前は、今ここであまり言われたくないんだがな…」

 

そう言いながら首をやれやれと横に振る。その仕草で奴が加藤であることを俺は理解する。

 

「そうか…お前が…」

 

俺の心の中である感情が湧き始める。《それ》は、時間が経つ事に、俺の頭に記憶が流れる事に溢れ出てくる。

 

「それにしても桐ヶ谷…」

「この世界で本名を呼ぶな、加藤。」

 

俺の冷ややかな声に、加藤は息をつまらせる。

 

「…てめえこそ、人の本名言ってんじゃねえよ。」

 

二人の抑えきれない殺意が空中で混じり合い、スパークを散らして落ち葉を四散させる。

そして、睨み合いを先に終わらせたのは俺ではなく…加藤だったわざとらしい動作で両手をやれやれと言うふうにあげる。

 

「ま、ここでやり合いたいのはやまやまだけどな…うちのギルドの中にはお前に恨みのあるやつは腐るほどいる。まずはそいつらの相手をしてからだな。」

「ギルド…?お前ら、ギルド名があるのか?」

 

その言葉にPohがニヤリと唇の端を上げる。

 

「ああ、ギルド名は《ラフィン・コフィン》だ。以後よろしく頼むぜ。」

「ラフィン・コフィン…《笑う棺桶》ってことか。服の趣味だけじゃなくてネーミングセンスまでお釈迦になってるじゃねえか。」

 

俺の笑い混じりの言葉にPohは口角を上げて同じような声で返す。

 

「そうか?案外気に入ってるんだぜ。何しろぴったりじゃねえか。…プレイヤーどもに恐怖を植え付けるには、な。」

 

その言葉と同時に飛んできたナイフを俺は背中から抜いた剣で迎撃する。

弾いたナイフが近くの木の幹に刺さる。

 

どうやらずた袋をかぶった男が投げてきたようだ。奴が少しだけ「チッ」と舌打ちをする。俺の心臓を狙ってきた正確さといいスピードといい、大したレベルであることは確かだ。

 

「…躾が出来てねぇ犬っころ共が。」

 

ギルドの幹部であろう中心の四人の前には下っ端40人が陣形を組む。

確実に、俺のワイヤー対策だろう。

 

俺は少しだけ、上を見上げる。そこには、分厚い雲が存在している。存在する光源は、木になった光る果実のみ。俺は少しだけため息をつく。

 

 

「ったく…面倒くさいったらありゃしねえ。」

 

 

俺のその言葉と同時に最前線ののタンク隊が俺めがけて突進してきた。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

「カズマ…」

 

ユウキは一人で約40人の猛攻をいなしている青年の名前をつぶやく。もちろん、いなすだけではなくナイフでの麻痺毒攻撃も行っていた。素晴らしい反応速度だが、既に浅い傷を何発かもらっているようだ。

 

立ち上がって幼馴染の手助けをしようと両腕と足に力を込める。しかし…

 

「ウグッ…!」

 

力を込めようとしても全く力が入らない。まだ、麻痺毒が完全には抜けていないのだ。頭は働くようになってきたが体が全く動かない。それは姉であるランも同じなようで腕は動いているが足が全く動いていない。

 

「カズマ…!」

 

ユウキはワイヤーごしに見える幼馴染に手を伸ばす。

 

今まで、どれだけ辛かっただろうか。

数年ぶりに会えた幼馴染に自身を忘れられ、そして《会ったことのないただの友達》を演じるのは。

 

『…ボクには、耐えられないなあ…』

 

ユウキは頭の中でそんなことを考える。

ユウキは、謝りたかった。今まで辛い思いばかりをさせてきたことを。

ユウキは、お礼を言いたかった。こんな自分に…自分たちに、いつも笑顔で接してくれていたことを。

 

「カズマ…和…真…」

 

悲痛な声とともにユウキの手に一粒の雨粒が落ちる。

その雨粒は黒い光沢のあるものから…白い丸の映った透明な雫へと変化する。

ユウキは反射的に左横を見る。

そこにあったのは…巨大な、満月。

どうやら日が沈み、更に雲が晴れることによってようやく月が姿を現したようだ。

ユウキはその満月に暫く見とれていたが、すぐに見とれている場合ではないと首を振る。

 

ユウキは気合で麻痺を回復させようとする。しかし、そんなものではどうすることも出来ずにまた無様に地面に転がる。やはりシステムに勝つことは絶対に不可能なのだ。

 

ユウキは悔しそうに奥歯を噛み締めながらカズマに視線を移した。その視線が捉えた光景は…

 

「…えっ!?」

 

目を疑うようなものだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

俺は月が出たと同時に口角を上げる。

 

この時を待っていた。

 

月が姿を現す、この時を。

 

 

「…ォォォオオオオオッ!」

 

「グムォッ…?!!?」

 

 

俺は今鍔迫り合いをしているプレイヤーをSTR全開で吹き飛ばす。

俺と奴らの間合いが一気に離れる。

一呼吸ほど置いたあと、ウィンドウを開いて操作し始める。

 

押すのはアイテム欄とフィギュアボタン。

 

俺は今装備している愛剣を武装解除。

アイテム欄に収納する。

 

そしてそれと入れ替えるように一番上にあった剣をタップ。

すぐにオブジェクト化され、俺の背中に先程よりもたくましい重みが背中に伝わる。

 

「なにかする気だ!一気に叩き潰せ!」

「「「オオオオオッ!」」」

 

高スピードで俺に向かってプレイヤー達が走り出し、剣を振り上げる。なるほど、これを喰らえばいくら俺とてただでは済まない。しかし…

 

 

その光景を塗り潰す程のオーラが、彼の背中の剣から溢れ出す。

 

 

鍔を引き出すだけで視界を塗り潰すほどの、赤黒いオーラ。

 

止まれない体勢のまま、ラフコフメンバー達は戦慄を余儀なくされた。

 

 

 

「一手、遅かったな。」

 

 

 

俺の反撃は、この剣を装備した時にすでに始まっている。

この剣を装備すれば…もはや、時間は5分もいらない。

 

 

速攻で…終わらせる。

 

 

「…!」

 

無音の気合い。

 

脚に力を入れる。

 

地面がひび割れんばかりのとてつもない力の注入。

足を思いっきり踏み抜き、滞空時間は僅かに1秒。

ライトエフェクトではない赤い尾を引きながらカズマは飛翔する。

 

「なっ…!?」

「速っ…!」

 

 

ズババババババン!

 

 

俺が次に着地した時にはすでに半数以上のレッドプレイヤーが地に転がっていた。HPバーの横には麻痺を知らせるアイコン。

 

「うそ…だろ…!?」

「速い…」

「あいつは…STR全振りのはずじゃ…」

 

俺は口々にそんなことを呟くまだ攻撃を受けてない面々にニヤリと片頬を上げて返答する。

 

「別に全振りってわけじゃないさ。まあ、STRの方がかなり高いのは確かだけどSPDにも多少はつぎ込んでる。」

 

俺の言葉に納得しているのは、0名。それもそうか、と俺は考える。今の俺の速さは兄貴と並ぶほどのスピードを誇っていたのだから。少しつぎ込んでるだけではあそこまでのスピードにはならない。

 

「Wow…流石だな。やはり攻略組のスリートップを名乗るだけはある。」

「俺は自分では名乗ってねえぞ。」

 

Pohの言葉にそんな苦笑混じりの答えを返す。それと呼応するかのように右手の赤黒い剣がドクンと少しだけ脈を打つ。心なしか剣自体の輝きも鮮やかなものではなくどこか禍々しい雰囲気を滲み出している。

 

「その心臓のような剣、黒いフードコートに黒のズボン…今のお前は自身の二つ名を具現化したような姿だな。」

 

Pohはなんとも楽しげに口角を吊り上げる。

 

「そうだろ?…《死神》。」

 

俺は挑発めいたその言葉に一言で返す。

 

「犯罪者プレイヤー専門の、がのいてるけどな。」

 

俺の返答にPohは「クククッ」と喉を鳴らす。

 

「お前の今のスピード…その剣が原因と考えていいんだな?」

「…想像におまかせするよ。手の内を明かすのは、好きじゃないんでな。」

 

俺は方に担いでいた剣の先をPoh達幹部の方に向ける。

 

「さて、これからどうする?選択肢は三つだ。一つ、今すぐにこの場を立ち去る。二つ、最後のあがきで下っ端全員をぶつける。三つ…今すぐ全員で仲良く牢屋行き。さ、選びな。」

「おっと、お前なら俺たちを止めることなんて簡単じゃないのか?」

「状況が状況だからな。あらゆる可能性を考えてのこの三択だ。」

 

Pohはその言葉に再度挑発めいた笑みを浮かべる。

 

「ま、そうだよな。そこで倒れてるお前のガールフレンドをなるべく早くに助けないといけないからな。…いやまったく、そいつら麻痺させといてよかったぜ。」

 

そう言うとPohはくるりと後ろに振り返る。

 

「戻るぞ、お前ら。」

「…うぃっス。」

「…ああ。」

 

Pohは腰から取り出した濃紺の結晶を掲げてコマンドを呟く。高価な回廊結晶だ。何も無い空間に歪んだ入口が現れてその中に三人は入っていく。三人に続いて残りの下っ端達も体を躍らせる。

最後に残ったのは、加藤だった。殺気のこもった視線を俺に浴びせている。現実なら、充血しているところであろう。

 

「桐ヶ谷…和真…お前は、いつか殺す。」

 

普通の人々なら恐れるであろう声の低さと内容を聞いても俺は動じない。ただただ、冷静に返答した。

 

「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ。」

 

数秒間睨み合ったあと、加藤が回廊の中へと姿を消した。

先程までの喧騒が嘘のような、静寂。俺は少しだけため息をつくとなおも脈打っている剣を背中の鞘に押し込む。

とりあえず牢屋に繋いだ回廊結晶を使って回廊を開き、麻痺しているレッドプレイヤー達をその中に放り込む。俺のSTRなら人を持ち上げることなど容易い。

俺は作業を終えて振り向くと、数歩歩いて自分で張っていた十数本のワイヤーを腰のナイフですべて切り捨てる。どうやらほぼ全員麻痺が解けているようで立ち上がれているやつもいた。ただ、立ち上がれていない少女が一人、存在した。

俺は大切な幼馴染であるユウキに近づくとゆっくりと腰を下ろして目線を下げる。そうするとユウキは震えながら顔を上げて俺の視線と自分の視線を合わせる。

 

「カズ…マ…」

 

ユウキはゆっくりと俺に向かって手を伸ばす。その手を俺は少し控えめに指を絡ませて握る。ひんやりとした柔らかい感触が俺の肌に伝わる。

 

「カズ…マ…。ボク…ボク…」

 

そんなことを呟きながら涙を滲ませるユウキを俺は自分に引き寄せて、優しく抱きしめる。暖かい体温と胸の鼓動が俺の肌に伝わる。

 

『生きてる…生きてる…』

 

俺は安堵のため息をついた。よかった、本当に…

 

「あ、あの…カズ、マ…?」

 

戸惑いの声を漏らすユウキに俺は本心を打ち明けた。

 

「生きててくれて、ありがとうな。」

 

その言葉を聞くとユウキはビクリと体を震わせる。そして、嗚咽を漏らしながらユウキは俺を抱きしめ返す。震える手で、精一杯力強く。

そこでスタミナが切れたのか、ユウキの力はだんだんと弱くなっていき、俺の頬の横にある口から小さな寝息が聞こえる。どうやら、眠ってしまったようだ。俺は流水のような髪の毛を撫でてやりながら目を閉じて言葉を発する。

 

「おやすみ、ユウキ。」

 

寄り添う俺たちの姿を、月はいつまでも控えめに照らしていた。




はふぅ…終わった。まあ、ユウキとカズマ君の話はまだまだ終わらないけどね。あと4話ぐらいは続くかな?ん?3話か?ま、どっちでもいいや。とりあえず、次回をお楽しみに。感想と評価、お願いね。
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