ソードアートオンライン 〜鋼鉄の記憶〜   作:誠家

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俺はユウキをお姫様抱っこしたまま宿屋のロビーを横切って二回へと続く階段を上っていく。
今日は年越しパーティーなので珍しく賑わっているロビーには人っ子一人いなかった(居ればお姫様抱っこなんてまずしないが)。

俺はユウキの温かさと花のような香りを肌と鼻腔で感じながら2階へと上っていく。
上っていく間、俺はあることについて考えた。

《ユウキの記憶が戻ったことを俺が喜んでもいいか》。

これには恐らくほとんどの人々が《良い》と言うかもしれないが俺はどうしても素直に喜べなかった。
なぜなら端的に言えば俺達が起こした裁判が原因でこの事件は起きたと言っても過言ではないのだから。この事件の元凶が果たして素直に喜んでもいいのかどうか…。

俺は廊下まで上がると体の向きを百八十度変えてさらにまっすぐ歩く。
しばらく歩き続けて一番端っこの部屋のドアノブを手で掴んで捻り、押し開ける。
中から少し冷気が押し寄せるが、すぐに収まるので俺は手早く操作して照明と暖炉の火をつけた。俺はユウキの耳に囁くように声を出す。

「ユウキ、着いたぞ。降りれるか?」

俺が質問するとユウキはさらに腕に力を込めた。

「…もう少しだけ、このままで居させて。」

俺は少しだけため息をついて微笑むと…

「分かった。」

了承の意を示した。


第29話 カズマの思い

いつもより2倍ほど激しい喧騒がシュンヤの耳を刺激する。

 

プレイヤー達はいつもよりテンションが高く、漫画でよく見る宴みたいだな、とシュンヤは思った。

 

そんな頬杖をつきながら広場のプレイヤー達を見るシュンヤの前に何やらいい匂いのするオブジェクトが現れた。串

に肉や野菜が刺さったそれは…完全に串焼きである。

 

彼はそれを差し出してきた人物の顔と体を見る。紫と白を基調にした服に、腰には少しだけ大振りな刀。茶髪は大きなツインテールでまとめられていて、顔は小さい卵型。

 

串焼きを差し出してきた女性プレイヤー、シャムはニッコリと微笑みながらシュンヤに話しかけた。

 

「2本あるんですけど、一本いります?」

「…良いのか?」

 

シュンヤが串焼きを指さしながら質問するとシャムはこくりと首を縦に振った。

 

「ええ。二本セットだったんですけどさすがに2本は食べられないので。」

「そうか…じゃあ、ありがたく…」

 

シュンヤは恐る恐る受け取ると、一番上に刺さっていた肉と野菜を同時に引き抜き、口に入れる。味はエスニックなものになっていて、案外美味かった。

 

「へえ、美味いな。」

 

シュンヤの声にシャムも同調する。

 

「はい、確かに。…これはあっちにあるプレイヤーが出してる店で買ったんですけど…当たりみたいで良かったです。」

「あんまり賭けには出るなよ。当たった時は嬉しいで済むけど、外れた時の喪失感は半端ないからな。」

「分かってますよ」

 

シャムは悪戯っぽく笑いながら頷いた。

 

 

二人の串焼きが残り一つずつになった頃、シャムが口を開いた。

 

「今日は…お礼を言いに来たんです。」

「礼?なんの?」

「なんのって…私達を助けてくれたことについてですよ。」

「ああ…」

 

シュンヤは少しだけ納得していないような表情を浮かべながら頷く。最後の肉を引き抜いて咀嚼する。

 

「別に俺に礼なんて不要だろ。特になんもしてなかったしな。したことと言えば…お前らの周りにいた雑魚を蹴散らしたぐらいだろ。あとは全部カズマのお陰だしな。」

 

シュンヤがペラペラとそんな言葉を並べるとシャムは少しだけを頬を赤く染めながら困ったような顔をする。

 

「む…確かにそうですけど…まあ、レベリングを手伝ってくれていることへのお礼も兼ねてならいいでしょう?」

「そんなもん俺に許可を求めんなよ…」

 

シュンヤの困り顔にシャムはクスクスと笑う。

そこで、そんな二人の横に黒い影が現れた。シュンヤはそちらに視線を向ける。一瞬カズマと見間違えたが、コートにフードが付いてないのですぐに違うと判断する。

 

その人物は上着は黒いTシャツに黒のロングコート。ズボンとブーツも黒で、背中に吊っている剣の鞘とグリップも黒。彼とカズマは兄弟なだけあって、顔立ちがとても似ておりどちらかを判断するにはコートにフードが付いてるかどうか、剣のグリップが何色かで判断しなければならない。

カズマの兄で、攻略組の中でもトッププレイヤーに位置する人物…キリトはシュンヤに声をかける。

 

「おっす、シュンヤ。横、空いてるか?」

 

キリトはシュンヤの左方を指しながらそう質問する。

 

「ああ、空いてますよ。どうぞ座ってください。」

「悪いな。」

 

キリトは少し笑いながら長ベンチの一番左端っこに腰を下ろした。そして袋から先程シュンヤ達が食べていた串焼きを取り出した。

その串焼きの肉を一つ引き抜き、キリトは咀嚼しながら話しかける。

 

「そういや、新しいギルドが発足するんだってな。アルゴから聞いたよ。レッドプレイヤー達の、名前は…《ラフィン・コフィン》だったか?」

 

キリトの言葉にシュンヤはゆっくりと頷く。

 

「ええ、どうやら今日か明日発足するんだそうです。おかげで野宿が出来なくなりそうで困ってるんですよ。」

「まったく…新年早々最悪のニュースだな。」

 

キリトは唸るようにつぶやく。

 

「確かスリーピング・ナイツが今日襲われたとか聞いたけど…シャム、大丈夫だったか?」

「あ…は、はい!カズマさんとシュンヤさんが助けてくださったのでなんとか…」

「俺は何もしてないけどな。」

 

シュンヤはシャムの言葉のあとすかさずツッコミを入れた。少しだけシャムとキリトが笑う。

…と、そこでまた新たな闖入者。

 

「あら、楽しそうにしてるわね。」

 

キリト達はその声のした方にほぼ同じタイミングで顔を上げる。そこに居たのはめでたい紅白の騎士服と美しい鞘のレイピアを腰に吊った少女だった。

 

「アスナさん、久しぶり…いや、昨日攻略中に会いましたね。」

 

そんなシュンヤの言葉にアスナは少しだけ微笑みを浮かべる。

 

「こんばんは、シュンヤ君。あの時は援護ありがとうね。おかげでスムーズに攻略が進んだわ。」

 

アスナのお礼にシュンヤは「いえいえ」と手を横に振る。

 

「同じ攻略組として、当然のことをした迄ですよ。俺の援護で攻略が早く進むなら願ってもない事ですしね。」

「さすが、シュンヤ君はいうことが違うわね。…キリト君ももう少し援護してくれればいいのに。」

 

アスナの言葉にキリトは「しょうがないだろ」と反論する。

 

「毎度毎度《KoB》様が俺の後ろにいるんだから。援護に行きたくても行けないんだよ。」

「あら?それは私の攻略方針を馬鹿にしてるのかしら?」

 

アスナの氷点下の視線を受けてキリトは喉を詰まらせた。

 

「ま、まあまあ…それは置いといてさ。アスナも座れよ。俺の横空いてるから。」

「あらそう?じゃ、遠慮なく。」

 

そう言うとアスナは軽やかな足取りでベンチに近づきストンと腰を下ろす。そして凄まじい速度でキリトの手からもう一本の串焼きを奪い取った。

 

「あ!」

 

キリトが情けない声を出した時にはアスナは既に口をつけていた。

キリトはジトーっとした目でアスナを見つめる。その視線を受け流しながらアスナは口を動かす。

 

「しょうがないじゃない、昼ごはん食べてないんだから。…うん。なかなかいけるわね、これ。」

「…ソリャヨカッタネ。」

 

キリトはそう言うと少しだけため息をついた。

 

「そういえばアスナ、聞いたか?例の話。」

「例の話って…《ラフィン・コフィン》のこと?」

「なんだ、アルゴから聞いたのか?」

「うん、フレンド・メッセージでね。スリーピング・ナイツが襲われたんだって書かれてたけど…シャムちゃん、大丈夫だった?」

「え?あ、はい。」

 

シャムが微笑みながら頭を振る。

 

「そう…良かったわ。…そういえば」

 

アスナが辺りを見回しながら気づいたかのような声を出す。

 

「ユウキとランがいないわね。他のみんなはいるのに…どうかしたの?」

「あー…本当だ。カズマも居ないな。三人は個人行動か?」

 

キリトとアスナの問いにシャムは躊躇いがちに答えた。

 

「まあ、色々ありまして…カズマさんは自分の宿に帰ってリーダーとサブリーダーはギルドホームで休んでますね。」

「あら、そうなの?…久しぶりに二人と食事したかったんだけどなあ。」

 

少し残念がるアスナにキリトがニヤニヤ笑いを浮かべた。

 

「代わりに俺が一緒に食ってやろうか?」

 

アスナはお返しとばかりに不敵な笑みを浮かべる。

 

「へえ、キリトくんからお誘いが来るとは思ってなかったわね…それじゃ、お言葉に甘えちゃおっかな!」

 

そう言うとアスナは伸びをしながら立ち上がった。少ししゃがみこんでキリトの腕をつかみ、引っ張る。

 

「ちゃんとエスコートしなさいよ!もちろん全部キリト君の奢りね!」

「ちょっ、ちょっと待て!代金は割り勘だろ!?」

「攻略責任者やってあげてるんだからそれぐらい奢りなさいよ!」

「ええっ!?」

 

そんなやり取りをしながら離れていくキリトとアスナを見ながらシュンヤとシャムは微笑む。

 

「…ぴったりな二人だと思うけどな」

「ええ、アスナさんはなんだかんだ言いながらキリトさんと一緒にいる時が一番楽しそうですからね」

「ああ…」

 

シュンヤは微笑みながら少しだけ頷く。そんなシュンヤの横顔を見ながらシャムは数センチだけシュンヤの方に体を動かした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

俺はようやく俺の首から離れたユウキを部屋の机のそばにある椅子に座らせていた。

俺も向かい側に座ってユウキの方のグラスに金色のシャンパン(みたいなもの)を注いでやる。

俺の方も同じように注いでからグラスを少しだけ持ち上げた。

 

「それじゃ、今年1年お疲れ様ってことで。」

「ん…」

 

俺とユウキはグラスを控えめに打ち合わせる。俺は一気に飲み下し、ユウキも半分ほど飲み込んだ。炭酸のしゅわしゅわとしたのどごしが心地いい。

俺は新たなシャンパンをグラスに注ぐ。そこで、ユウキが俯きながら言葉を発した。

 

「カズマはさ、ボクの記憶が戻ったの…知ってるんだよね。」

「ん?ああ、もちろん。加藤のやつが言ってたしな。」

 

俺はグラスに口をつけながら首肯する。

 

「そう…」

 

ユウキはそう言うとまたグラスに口をつける。ユウキの反応に俺は首を傾げた。これが漫画なら頭上に?マークが出ていたであろう。

 

「それがどうかしたのか?なんか言ってくれないとわからねえぞ?」

 

俺の言葉にユウキは視線だけを上げて上目遣いに俺を見る。

 

「…じゃあ聞くけど…カズマはさ、ボクの記憶が戻っても嬉しくないの?」

「は?なんで?」

 

俺はまた首を傾げた。ユウキは顔を上げて真正面から俺を見る。

 

「…これはボクの勘なんだけどさ、カズマがボクとさっき会った後から少しだけ難しい顔をしてたのはそれが原因なんじゃないかって思ってるんだけど。」

「へ?俺そんな顔してた?」

「してた」

 

これは予想外だった。まさか階段の時に顔を見られていたとは。

するとユウキは目を細めると俺に向かって身を乗り出してくる。

 

「カズマ、正直に答えて。君はさっきまで何を思っていたのか。これでボクの記憶のことについて悩んでなかったならそれでもいい。とにかく、正直に答えてくれれば…」

「俺は」

 

ユウキのセリフが言い終わる前に俺は割り込むようにして言葉を発する。

 

「俺は…本当にお前の記憶が戻ったことを、喜んでもいいのかっていうことを悩んでた。」

 

その言葉にユウキの肩がびくりと震えた。少し、予想していたものと違う返答が来たからであろう。

 

「お前は知らないと思うけどな、加藤がああなっちまったのは俺と俺の親、そしてお前の親のせいなんだ。…その中でも俺は一番罪深いかもな。言い出したのは、俺だったから。」

 

そう、加藤達のことを《裁判に訴える》という案を発案したのは俺自身だった。もちろんそのあとじっくりと話し合われたわけなのだが、やはり言い出したやつが一番罪深くなるであろう。

 

「だから、ある意味では元凶の俺が、お前の記憶が戻ったことを素直に喜んでもいいかどうか、かなり悩んでた。だってそうだろ?事の発端は俺なのに、いい事があったら周りに混じって喜ぶなんて虫が良いにも程がある。」

 

俺は少しだけ自嘲の笑みを浮かべた。俺はその自嘲の笑みを微笑みに変えてユウキに向ける。

 

「…いくら悪気が無かったとはいえ、事の発端は俺なんだよ。」

「…」

 

俺の質問にユウキは答えなかった。ただただ無言で俺を見つめている。

俺は右の拳を力いっぱい握った。

 

「だからさ…俺が、お前の記憶のことを喜んで、一緒にいる資格なんて…」

 

俺は拳をさらに握って下唇を噛む。

 

 

正直、俺は加藤やクラスメイト達と同じくらい自身を恨んでいた。

《もっと強ければ》

そんなことを何回思ったか数え切れない。

 

今日の事件が起きて、その気持ちはさらに強くなった。

そしてもう一つ…裁判なんて起こさなけりゃよかったとも思った。

今回のアイツのユウキへの殺意は裁判が原因であることはわかっていたから。

俺の右拳の感覚がどんどん無くなっていく。恐らくナーヴギアの感覚情報量が限界に達したのだろう。

しかし、そこで…何も感覚がなく冷たい右拳を、何か温かいものが包み込んだ。

俺はハッと顔を上げる。そこには、俺の右拳を両手で包み込んで微笑んでいるユウキの顔があった。その美しさに、俺の心臓がドキリと跳ね上がる。

 

「カズマ…」

 

彼女の口から発せられた言葉は、今まで聞いたことがないほど優しいものだった。

 

「加藤君が、あんなことになった元凶の一つに、カズマがいることはよく分かった。君が何をしたかは知らないけど…それを今とても悔やんでいることもね…。けれど…」

 

ユウキは俺の手を自身の胸のあたりに引っ張って抱き寄せる。俺の手に柔らかい感触と温かい体温が伝わる。

 

「それは、ボクや姉ちゃんのためにしてくれた事なんでしょ?なら、ボクは責められないよ。たとえ今日悲しいことがあって、それがカズマのせいだったとしても…その行いが間違いじゃなかったなら、ボクは何も言わない。だって、カズマは何も間違ってないじゃない。」

「…それでも、俺はお前らをまた…苦しめたんだ。あんなことをしたせいで…あいつはさらに壊れちまった…。だから…俺が、罰を受けなけりゃ…」

「カズマ。」

 

ユウキは俺の頬を自分の両手で挟み込む。温かい温度が、俺の頬に伝わる。

 

「それは別に君一人だけで背負わなくちゃならないってわけじゃないでしょ?これからはボクが…なんならボクと姉ちゃんが一緒にその罪を背負うよ。」

「でも…でもそれじゃあ…」

 

俺は左手でユウキの肩を掴んだ。そしてユウキはその左手をそっと包み込む。

 

「元々、ボクたちが加藤君に従っていたらこんなことにはならなかった。だから、従わなかったボクらにも罪はあるんだよ。そして、カズマを支える義務も…ね。…その為には」

 

 

ユウキはニッコリと俺に向かって微笑んだ。

 

「ずっと一緒にいないとね。」

 

ユウキは俺の頬から両手を離した。

そして、椅子から立ち上がって俺の横に移動する。

 

「ユウキ…良いのか?俺はお前と一緒にいても…良いのかな…」

 

俺の質問にユウキは優しい微笑みを浮かべる。

 

「当たり前でしょ?むしろボクの方からお願いしたいぐらいだよ。」

 

ユウキは俺の首に手を回して俺の体を抱き寄せた。

 

「カズマ…今までは長い間離れてたけど…次は絶対に離れないで?ボクと、いつまでも…一緒にいてください」

 

その言葉を聞いた途端、俺の目頭に何か熱いものがこみ上げてきた。それはたちまち、雫へと姿を変える。

 

「…当たり前だろ。…そんなこと、頼むような事じゃ…ないな。」

 

返答時の俺の声は、自分でも驚く程に震えていた。俺はユウキの背中に手を回して強く抱き寄せた。

俺の頬に、さらに一筋の涙が零れ落ちた。

 

 

 

 

 




うーむ、カズマ君とユウキの話はあと二話ぐらいは続くかなー。長いねえ、この二人は。早く書かないとキリトファンとかアスナファンとかに怒られちゃうなあ(≧∇≦*)
それじゃ、次回もお楽しみにね!感想と評価よろしく!ε=ε=ε=(۶•̀Д•́)۶ ドリャアアア
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