そして、彼らの目の前にあるのは禍々しいオーラを放つ巨大な扉。
「…この扉の前に立つとさ、なんかすげえ気持ち悪いんだよな。」
「あー、分かる分かる。なんか雰囲気が気持ち悪いよな」
そんな辺りの空気を読まない間の抜けた声が、最後方から聞こえてきた。
これからとてつもなく大事なことをしようとしているのに先ほどのような間の抜けた声を出せる者はかなり限られてくる。自分の腕に余程の自信があるもの。ただの能天気なバカ。
…もしくは、その両方。
シュンヤはそんな声を出す二人に出来るだけ近寄り、ヒソヒソと話し出す。
「キリトさん、カズマ。もう少し小さな声で…」
「やだよ。俺これぐらいの声じゃないと喋れないんだよ。」
「…なんていう苦しい言い訳だ。」
カズマの言葉にシュンヤが今までにないほどの呆れ顔を見せる。
その後、シュンヤはすぐにカズマから目を離して、違うプレイヤーに視線を向ける。その視線の先には、攻略責任者であるアスナの話を真剣に聞いているツインテールの少女。
「…やっぱり心配か?」
「…ああ。」
カズマの問いにシュンヤは躊躇いなく答える。
そして、直後にアスナの高らかな声が薄暗い回廊に響き渡る。
「皆さん、この層を抜ければ我々はデスゲームの半分を攻略したことになります!その分、敵は強力ですが決して倒せない相手ではありません!」
アスナは腰の剣を引き抜いて高々と切っ先を突き上げた。
「勝ちましょう!下層で待つプレイヤーのために、現実で待つ家族のために!そして何より…」
アスナのレイピアがその声に呼応するかのようにギラリと光を放つ。
「我々の、未来のために!」
「「「オオオオオオオ!」」」
およそ90人分の雄叫びが回廊に響き渡る。この層は五十層…つまりアインクラッドの半分部分となる。勿論強力な敵が出現する。なのでこの層は攻略組初のツーレイドで挑むこととなったのだ。
そんな光景を最後方で見ていたカズマが笑みを浮かべる。
「いつも思うけど…まさかアスナさんにあんな才能があったとはなあ…。元相棒としてはどういう心境だ?兄貴。」
カズマの質問にキリトは微笑を浮かべる。
「…まあ、まさか攻略組一のギルドのサブリーダーになるとは思ってなかったけどな。けど、こういう才能があるってのは薄々と勘づいてはいたさ。」
「へえ…」
二人は何気なく喋り続ける。しかし、二人ほど余裕のないビーターが一人。赤い着物を着たプレイヤー…シュンヤはどこかやるせない気持ちを抱えながら先程と同じプレイヤーを見つめる。
まさか、初のボス攻略がこんな層になるとは思いもしなかったのだ。
そう、今回は…シャムの初のボス攻略戦だった。
「沙綾…」
シュンヤの消え入りそうな声は、扉が開く音にかき消された。
アインクラッド史上、最も巨大な戦いが…今、始まる。
ソードスキルの色とりどりの閃光がボス部屋を照らす。
それと同時にボスのHPが数ドットだけ減る。
既に攻略が始まって2時間が経過した。7本あったHPバーは4本にまで減っているがこれでもかなり遅いペースだ。しかも、死亡者も出ておりメンバー数は既に80を下回っている。
五十層のボスは、いわゆる死神型だった。
フードは低層にも存在するアンデッド型と同じだが、鎌の薄い赤色と顔部分に付けられた仮面だけが違う。
攻略組を苦しめるのはSTR全開の鎌の大ぶり、高速の斬撃、口からの特殊攻撃(毒付加)。そして何より…アンデッド型を生み出す攻撃だった。
それに気を取られ、ボスの攻撃で命を散らした者がほとんどだ。
死神が鎌を大きく振り上げ、振り下ろす。
「…!」
その鎌は目の前に掲げられた十字盾に激突する。耳をつんざく衝撃音。だが、十字盾を所持する男は1人でその攻撃を防ぎきる。
「…キリトくん!」
男が大声で叫ぶと男の頭を飛び越えて黒い影が姿を現す。黒いコートの裾が風をうけてたなびく。
彼の漆黒の剣は…既に赤い光を宿していた。
「オオオオオオオ!」
とてつもない気合い。高速の斬撃が死神の体に繰り出される。
五連続突き、切り下ろし、切り上げ、そして全力の上段切り。
片手剣ソードスキル高位八連撃技《ハウリング・オクターブ》。
その攻撃で少しだけ…しかし確かな幅のHPが削り取られる。
「…キュアアアァァ!」
攻撃を受けた死神が怒声にも似た声を上げてキリトに鎌による攻撃を繰り出した。
しかし、彼の頭にあたる…直前。
神速の斬撃がその鎌を弾いた。
死神が目を向けた先には赤の着物に茶髪の少年。刀は既に腰の鞘に収められていた。
「キュア…!」
「どこ見てやがる。」
死神が怒声をあげる直前にそんな声と青色とオレンジの光が発生する。
死神はまたもや視線を変える。
そこには…赤色の柄をした剣を青色に染める黒色の少年と、紫色の柄をした剣をオレンジに染めた紫色の少女がいた。
「セ…ァァアアアアアア!」
「ハ…ァァアアアアアア!」
息の合った気合と共に二人の剣がとてつもない速度で四角形を形作る。
片手剣ソードスキル四連撃技《ホリゾンタル・スクエア》と《バーチカル・スクエア》。
その攻撃で死神は壁まで吹き飛び、激突した。
追加ダメージ。
攻略組メンバーはそれと同時に乱れていた陣形を組み直していく。
ソロメンバー達はその中には入っていないので個々のやりやすい位置についた。
死神はゆらりと立ち上がると…
「…アアアアアアア!」
今までとは違う声を上げた。そして、周りの暗闇からアンデッド達が出現する。もはや、見慣れた光景。
「タンクはそのまま!アタッカー達は数人アンデッドの処理に回り、残りはボスの攻略に尽くしてください!」
「「「「「応!」」」」」
アスナの指示に全員が呼応する。
「カズマ、俺たちはアンデッドの処理に回るぞ!キリトさんはボスに攻撃を!」
「ああ!」
「分かった!」
シュンヤの指示にキリトとカズマは口々に呼応する。
その時、シュンヤの目に見慣れたツインテールが少し映るが、無理矢理視線を外して近くのアンデッドに向かって走る。
1秒で距離を詰める。
アンデッドが気付いた頃には、既にシュンヤの刀はソードスキルの光に包まれていた。
「…ァァアアアアアアア!」
シュンヤのソードスキルが、アンデッドのHPを全て吹き飛ばした…
ーーーーーーーーー
二日前…
「私、ようやくボス攻略メンバーに入れました!」
嬉々とした表情で、ツインテールの少女がそんなことを叫ぶ。シュンヤは手にフランクフルトを持ち、口をもぐもぐ動かしながら返答する。
「ひってるよ、よはったひゃん。」
「はい!ついにここまで来ました!」
シャムは拳を握りながら嬉しそうに笑顔を作る。シュンヤは嚥下してから、微笑を作る。
「ま、随分と時間はかかったけど目標達成おめでとう。」
「ありがとうございます!」
幼馴染の笑顔にシュンヤはもう1度笑い返すとフランクフルトを更に齧る。
シャムは今までボス攻略メンバーに名を連ねるため、レベル上げに邁進してきた。
昔のシャムはとにかくレベルが低く、攻略組の補欠にすら入れなかったほどである。
しかし、シュンヤの紹介でスリーピング・ナイツに加入してから急激な成長を見せていた。そして今回、ようやくボス攻略メンバーの資格を勝ち取ったのだ。
「見ててくださいよ!活躍して絶対にシュンヤさんを超えてみせますから!」
シャムの大胆な宣戦布告にシュンヤは笑って返した。
「ああ、期待してるよ。」
「あ〜、出来ないと思ってません?」
「思ってないよ。」
シャムが顔を近づけて質問するとシュンヤはなおも笑いながら返答する。
その笑顔を見てから、シャムはニッコリと笑った。
「ま、いいです!それじゃ、また明後日に会いましょう!」
「ああ、じゃあな。」
手を振りながら離れていくシャムに手を振り返しながらシュンヤは笑顔を作る。
しかし、シャムの姿が転移門から消えた瞬間その笑顔は険しいものに変わる。
「…遂に…来ちまったか…。」
シュンヤは膝の上で手を組んで、そこに額をぶつける。
先程はシャムのことを思ってとても嬉しそうに振る舞ったが、シュンヤはシャムがボス攻略に来ることをあまり良く思っていない。
それだけ、死への危険性が上がるからだ。
彼の中には、シャムには死んで欲しくないという気持ちが確かに存在する。攻略組の《スリートップ》になった今でも、彼は自分の力にあまり自信を持てなかった。
なので、シャムを自分だけの力で守れるかとても不安だったのだ。
しかし…
「…やるしかねえよな。」
彼は強い光を宿した目を空に向けながら決意する。その空は、これまでにないほど、澄んだ青だった。
ーーーーーーーーーーー
時は現実に戻る。
あれから数回のアンデッド召喚があり、ボスのHPバーも残り一本のイエローゾーンとなった。
死傷者も2桁にのぼっていたが、全員が勝利への期待を膨らませる。
…そこで、異変は起きた。
アンデッドと対峙していたカズマとシュンヤの後ろから、視界がホワイトアウトしかけるほどの光が発生する。
カズマとシュンヤはアンデッドを消滅させてから体を後ろに向けた。
「な…!?」
二人は視界に映ったものを見て、体を硬直させる。そこには、ありえないものが宙に浮いていた。ほとんど毎日目にして、現実では地球に最も近い星。
そう…月だった。
どうやら、死神が召喚したもののようで振り上げた右腕の上にその月は出現している。
大きさはバスケットボール程だが、大きな威力を秘めていることは確実だ。
そして…死神は右腕を無造作に振り下ろした。
「逃げ…」
シュンヤは叫ぼうとする。しかし…一手、遅かった。
月はボス部屋の中心で弾けた。
コンマ数秒のタイムラグを経て、途轍もない衝撃波が攻略組を襲う。
「ぐおっ…!」
「あうっ…!」
「これ…は…!」
そんな声がカズマやシュンヤたちの元に届く。そして、シュンヤ達は膝から崩れ落ちた。
「なっ…!」
シュンヤは驚きの声を漏らして、必死に立ち上がろうとするが、体が電撃を喰らったかのように痺れて動けない。
その状態から、彼は即座に自分がなぜ倒れたのかを判断する。
『麻痺か…!』
その判断を肯定するかのようにHPバーの下に麻痺を知らせるアイコンが出現した。
HPはあまり減っていなかった。
『…麻痺専用か。タチが悪い…』
シュンヤはそんなことを歯ぎしりしながら内心毒づく。
威力+麻痺の攻撃は何の対策もしていないダメージディーラーにはかなり強力だ。
だが、麻痺毒に耐性のあるタンクにはほとんど効かない。少し体が痺れるレベルだ。
しかし麻痺単体の攻撃は訳が違う。
これはタンクにもしっかり効く。
勿論麻痺時間は短くなるが、それでも軽く一分は超える。だから、それが全体攻撃になると、尚更タチが悪い。
死神はあたりを見聞して、ある場所で視線を止めた。そこには、最も近くにいた攻略メンバー。
その光景を見て、彼は戦慄する。
『嘘だろ…おい、嘘だろ…?』
そこにいたのは…新加入の、ツインテールの少女だった。
ーーーーーーーーーー
シャムは声も上げられなかった。
いや、上げることは出来ないのだ。麻痺毒をかけられているから、口も動かせない。
死神が大きく鎌を振り上げる。
その姿を見て、シャムの頭を死の恐怖が埋めつくした。その恐怖は目から流れる雫に姿を変える。
『いや…嫌…!』
涙は溢れるが、声だけは少しも漏れない。そして、死神の目が赤く光った…
ーーーーーーーーーー
『動け…動け…!』
『何のために…何のためにここまでレベルを上げたんだ!』
メキッ。
『こんな生き恥を晒すためか?…違うだろうが!』
『大事な人を、大切な人達を守り抜くためだろ!』
メキメキッ。
『今までの努力を…決意を、水泡にするつもりか!』
『お前の決意は、意思は…そんなもんか!?霧谷隼人!』
メキメキメキメキッ!!
「ぐおっ…」
『…痛くねえ…こんなもん…あいつを失うよりかは全然マシだろ!』
『システムなんて知るか!世界の法則なんて知るか!』
『守りたいものが…救いたい命があるなら…!』
メキメキメキメキッ…
『システムなんて壊せばいい!』
『そんなもんは自分の意思で、塗り替えろ!』
『それが…』
メキィッ!!!
『
ーーーーーーーーーー
………チュンッ!
ドガァンッ!!!!
そんな激突音がボス部屋に響き渡る。
全員、何が起きたのか分からなかった。
なぜなら、あの攻撃を受けて動けるものなどいるはずがなかったから。タンクでも、あと数十秒は硬直しているはずだった。
だから…死神の顔を蹴り飛ばした者の姿を見た時、ボス部屋は驚きに包まれた。
彼は、タンクでも何でもなく、ただのダメージディーラーだったから。
カタンッカタンッ…
彼が歩く度に下駄の軽やかな音が響く。
彼の持つ刀の銀色の刀身には何故かヒビが入っていた。しかし、彼は刀を変えようとしない。
そのまま、死神に近づき続ける。
死神はゆったりとした動作で立ち上がる。落ちていた鎌を持ち上げてシュンヤに近づく。
「あいつは…」
シュンヤは足を止めて、両手で刀を水平に構えた。そこで、刀身のヒビがさらに広がる。
「…死なせねえ…!」
その声と共に、ヒビから紅色の光が漏れ出す。
そして…破砕音と共に、銀色の刀身は弾け飛んだ。
その中にあったものは…紅色の鮮やかな刀身だった。
先程とは比にならないほどのオーラを、剣が放つ。
「…フッ!」
「キッ!」
シュンヤは足で地面をひび割れんばかりに踏み込み、死神は全速力の移動。
そして、紅色の刀と赤色の鎌が交錯した。赤い光が弾け飛ぶ。
「ちっ…!」
流石に力負けしたのか、シュンヤは軸足を少しぶらす。死神が勝ちを確信した笑みを浮かべた。
「キュアアアアアアアアアア!」
鎌をシュンヤに向かって無慈悲に振り下ろした。全員が彼の体に鎌が刺さるのを錯覚した。
だが、ここで忘れてはならないことが2つ。それは…
彼が、攻略組でも飛び抜けた敏捷力と凄まじい反応速度を持っていること。
彼の体に鎌が刺さる…直前。
彼の体が、掻き消えた。
誰も、彼の姿を追えなかった。それは、システムである死神も同じだった。
死神が目を必死に動かした…直後。背後から光速の斬撃が繰り出される。
死神のHPが数ドット減少する。
「…ァァアアアアアアア!」
無理矢理鎌を後ろに振り回す。そこに、彼の姿はなく手応えもなかった。
死神はまた目を動かした。
その目が、青色の光を捉える。それは…自身の鎌から発生していた。
死神は目だけを動かす。
その目は…鎌の刀身の上に乗り青色の光をバックに、刀身を鞘に収めたまま柄に手をかける、赤色の武士を捉えた。
「…吹き飛べ。」
チュチュチュンッ…!
そんな、囁かな斬撃音。
死神は斬撃を目で追えなかった。気付けば、自身の体が吹き飛んでいた。
七回目の、壁への激突。
既に、死神のHPバーはレッドゾーンに突入していた。だが、このままやられるという選択肢は死神にはなかった。
立ち上がり、右腕を上げる。その上には、青白く光る球体。
麻痺から回復したプレイヤーの一人、カズマは装備フィギュアを操作して剣を変える。それは…ユウキ達を助ける時にも使った、あの剣だった。
赤黒い光を剣が放つ。
「…いいね。」
カズマは不敵に笑う。
手には死神の心臓刀。現在の時刻19時46分。
そして…目の前には、《満月》がある。
これ以上にないセッティング。
直後、カズマの剣から赤黒い光が飛び出した。まるで月の光を侵食するが如くボス攻略メンバー全員の視界の色を塗りつぶしていく。
心拍のようにカズマの持つ剣がドクンドクンと波打つ。
「…キュアアアアアアアアアア!」
死神が月を投げる。
同時に、カズマも動く。
そして、刀身をライトグリーンに染めた。ソードスキル…
「…ォォォオオオオオオオ!」
カズマの剣はライトグリーンに包まれながらも、さらに赤黒い光を漏らす。
…遂に、カズマの剣と月が接触する。
「アアアアアアアァァ…!」
「オオオオオオオォォォ…!」
とてつもない音と、光がボス部屋を満たす。
その光景に、全員が目を奪われた。
攻略メンバーが一人残らず目を開ける。
そして…
「ォォォオオオオオオオ!!!」
カズマの剣が、満月を真っ二つに切り裂いた。満月は少しした後に…光と共に弾け飛んだ。
月を失くしたカズマの剣は光を失い、力尽きたようにカズマは倒れ込む。
勿論、彼を死神は鎌で狙った。
しかし、それも叶わなかった。
十字盾を掲げた最強の男・ヒースクリフがその鎌を受け止める。
「…全員、突撃!」
アスナの指示に呼応して、残り少ないHPを削り取ろうと攻略メンバー達が突撃する。それを狙っていたかのように死神が鎌を持っていない左手を振る。
アンデッド達が一瞬で生み出された。
これで安心しきった…それが死神の落ち度だった。
アンデッド達の間を縫って、一人のプレイヤーが飛び出す。死神はその姿を見て、恐怖を覚える。
先程まで、自身を圧倒していたプレイヤー。
シュンヤは通常技を繰り出す。通常技は狙いをつけやすいが、速度はソードスキル程は出ない。
だから、死神は初撃は防げた。
しかし、その後。死神はシュンヤの姿を見失った。死神も学習したのか、今度は横も下も見る。だが…いない。
「キュアアアァァ…」
まるで混乱したかのように眼球をグルグルと回す。
死神は見落とした部分がある。翼で翔ぶことが出来ないSAO。
だから、見落とすのも仕方が無い。だが、相手は全プレイヤー1の敏捷力を誇るプレイヤーなのだ。
可能性は大いにあり…事実、やり遂げている。
死神の目は、赤色の光を捉える。それは横でも、下でも…鎌からでもなく。
普通ならありえない…真上からだった。
死神は視線を真上に向ける。そこには…両足を天井に合わせた、少年がいた。
シュンヤは一呼吸置いて…天井を蹴る。
赤い閃光が、死神に降る。
そして、10発の斬撃が死神の体に繰り出された。
HPはグングンと減っていき…残り数ドットだけを残すのみとなった。
だが、ここで足掻くのがモンスターだ。死神は月を生み出すために右腕を上げる。
光が死神の真上に…
「そういや、言い忘れてたな。」
シュンヤは死神の後ろを歩きながら言葉を発する。刀は腰の鞘に収められていた。
「ラストアタック・ボーナス。あれって俺とカズマは取ったことないんだよ。」
そこで、死神は自分の目の前に赤い光が生み出されていることに気付く。
そこには…
「だって…」
剣を肩に担いで構えた、黒衣の剣士の姿。ジェット機めいた音を剣が発している。
「それは、その人がするって決まってるからな。」
死神は後ずさる。
その剣士が発する威圧を恐れる。もちろん、剣士に躊躇いはない。
その一撃で…
「仕留める。」
剣士は言葉を発すると、地を蹴った。部屋全体が揺れる。その速度は…いつもの彼を超えていた。
死神は避けようとするが…無駄な足掻きだった。
「セアアアアアア‼︎」
黒衣の剣士の剣は死神の心臓を貫いた。そして…それと同時に死神のHPは、全て吹き飛んだ。
「キュアアアァァ……」
死神は、一瞬硬直した後…
カシャアアアアン!
その体を、無数のポリゴンに変えた。
ファンファーレとプレイヤー達の歓喜の声が響き渡る。
《congratulations!!》の文字がいつまでも宙に浮いていた…。
「うぐっ…ひっく…うぅ…」
「…」
誰もいなくなったボス部屋を泣き声が埋める。
シュンヤの胸に一人の少女が顔を埋めている。シュンヤは少女の背中を撫で続ける。
あの後、泣き出したシャムを宥めるためにシュンヤはみんなを先に行かせた(何人かには意味深な目で見られたが)。シュンヤは疲労しきった体に鞭打って必死に背中を撫で続ける。
「ごめんなさい…ごめんなさい…私の、私のせいで…」
「お前のせいなんかじゃないって。あと別に俺死にかけてないし。」
シャムの言葉をシュンヤは少し疲れた声で否定する。
「だけど…だけど…」
「んー…」
正直、経験のない自分には荷が重い。カズマはユウキを宥める時どうやったんだ?また今度教えてもらおう。
シュンヤはそう決意しながらシャムの肩を両手で握る。
そして、自分と無理矢理視線を交錯させる。シャムの濡れた目が青色の火を反射する。
「…悔しいか?」
シュンヤの質問にシャムは泣きながら頷く。
「はい…。全く勝利に貢献できなかったことが。何より…シュンヤさんに迷惑をかけてしまったことが…申し訳なくて…」
「なら」
シュンヤはシャムの言葉を途中で遮った。
「なら、もっと強くなれ。俺に助けられなくてもいいように。逆に、俺を助けられるぐらいに。大丈夫だ。志があるなら、人はどこだって行ける。俺が保証してやる。」
シュンヤはそう言うと微笑んだ。
「だから、もう泣くな。これからは、絶対に。」
シャムはシュンヤの言葉が終わったあと、すぐに目元を拭う。赤く腫れた目のまま、ニッコリといつものように微笑んだ。
「はい…必ず…必ず、約束します…!」
シャムはそう言うと、またすぐに表情を歪ませた。
「なので…今日だけ、思いっきり泣かせてください。」
「ああ…。いつまででも、俺が受け止めてやるよ。」
「ありがとう…ございます…。」
シャムはまたシュンヤの胸に顔を埋める。
「うあっ…ああああああ!…ひっく…ひぐっ…ああああああ!」
シュンヤは右腕を背中から頭に移す。そして、頭を撫で始める。左手で背中を抱きしめる。
その後、二人は…いつまでも、寄り添っていた。