ソードアートオンライン 〜鋼鉄の記憶〜   作:誠家

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よくよく考えたらロゼリアじゃなくてロザリアでしたね。
どっかの会社のゲームに出てきそうな名前にしてました。


第35話 黒の剣士

聞きなれた木管楽器の音共に、シリカは覚醒し、目を開ける。どこかぼやけていた視覚が鮮明になるとは裏腹に思考能力は依然として回復せずにいた。

 

『…もう、朝…?私…昨日は、キリトさんの部屋に行って…』

 

その後、自分がどのように自室のベットに戻ったのか思い出せない。彼女にはキリトと階層について話して、一悶着あった後に…

 

「…!」

ボフンッ

 

瞬時にシリカは小さな顔を赤く染めた。

 

『そうだ…私、キリトさんの部屋でそのまま…』

 

とりあえず顔を洗おうとベッドを下りようとして、気付く。

 

ベッドの横の床で、キリトは体を休めていた。

スースーと寝息が聞こえてくるところを見ると、まだ起きてはいない。

シリカはベッドから下りて、顔を洗うと、キリトの近くにかけよる。

 

「キリトさーん、朝ですよー。」

「ん…んん…?」

 

控えめなシリカの声に、しかしキリトはすぐに反応し、ゆっくり目を開いた。

 

「ああ、もう朝か…」

 

彼は立ち上がり、そのままぐいーっと伸びをした。

 

「お、おはようございます。すいません、ベッド占領しちゃって。」

「おはよう。別にいいよ、ダンジョンのアンチなんかで寝る時もあるから、硬い寝床には慣れてる。それに、こっちこそごめんな。シリカの部屋まで連れていこうと思ったんだけど…」

「あ、いえ。そこは私が悪いので…私じゃないと扉開けられないですもんね。」

 

あはは…と苦笑しながら、シリカの頭に羞恥と申し訳なさが同時に込み上げてくる。

その様子に、キリトは笑った。

 

「大丈夫、本当にこういう寝方は慣れてるんだ。ここじゃ肩の張りとかもないからな。」

「そ、そうですか…」

「ああ。それよりも、早く準備してダンジョンに向かおう。10分後に下のレストランに集合でいい?」

「は、はい!分かりました!着替えてきます!」

 

シリカはなおも熱い顔を隠すように、急いで自室へと戻った。

 

ーーーーーーーーーーー

 

それから1階で集合し朝食を取った2人は、風見鶏亭を後にし、目的の層へと足を踏み入れていた。

 

「うわぁー…綺麗…」

 

転送するやいなや、シリカはそう言いながら近くの花壇に咲き誇る花達に笑いかけた。相変わらず、花弁の1枚1枚や飛びさる虫など素晴らしい再現度だ。

 

「ここは通称《フラワーガーデン》って呼ばれてる。…ここ以上に花が多くて綺麗な層は、まだ俺も知らないよ。」

「はい、本当に綺麗です…」

 

近付いてきたキリトの言葉にシリカは目を輝かせ、辺りを見回す。

 

そして、気付く。

 

2人の周りにいるもの達は皆、ペア…しかも異性と組んで訪れている者が多い。

ある者たちは腕を組み、またある者たちは手を繋ぎ、思い思いに楽しんでいた。

つまりこの場所は《そういうスポット》としての価値も大いにあることが嫌でもわかってしまう。

瞬間、またもシリカを羞恥が襲う。

 

「さ、さて!そろそろ行きましょう、キリトさん!」

「あれ、もういいの?時間はまだあるけど…」

「だ、大丈夫です!もうたっぷり楽しみましたから!」

 

いたたまれない気持ちに、シリカは足を早めた。

 

「あ、シリカ!そっちは逆だよ!」

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「うわああぁぁぁん!!」

「お、落ち着いてシリカ!そいつすごく弱いから!」

 

 

…無論、そんな精神状態で通常通りにいくはずもなく。

 

シリカは草むらから伸びてきたツルに絡め取られ、見事に宙吊りにされていた。

どうしても下がってしまうスカートを押さえるのにいっぱいいっぱいなシリカは、右手の短剣を意味もなく振り回し、叫ぶ。

 

 

「き、キリトさん!助けて!

「え、ええと……」

「見ないで助けて!」

「…そいつは、ちょっと無理だな。」

 

懇願の中の懇願に、キリトは目を右手で押さえて「見てないから」と言わんばかりの行動をとる。

それに、彼女も覚悟が出来、もはや宙吊りにしてあそび始めたモンスターのツルを切り捨てる。

拘束から逃れて、シリカは落下を始めた。

怒ったモンスターはツルを伸ばしてくるが、彼女は難なくそれらを弾いてそのまま短剣を赤く染めた。ソードスキル。

 

「やあああぁぁ!」

 

鋭い閃光が走り、モンスターは破砕音と共にその体を消滅させた。

彼女の目の前にドロップアイテムなどのウィンドウが開かれるが…

 

 

「…見ましたか?」

 

 

頬を赤く染めた彼女は、真っ先にそう問うた。それにキリトはさらにフイッと視線を逸らすと…

 

「…見てない」

 

そう返すのだった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「…妹さんの話、聞いてもいいですか?」

「…え?」

 

ポロリと、シリカの口から零れた言葉に、キリトは聞き返した。

 

《思い出の丘》を目指して歩き始めて数十分が経った道中、シリカはそう口にする。

彼女は彼が「似ている」と言った彼の妹のことが気になったのである。

 

「…そうだな。気にならない訳ないか。」

 

そう言うと、キリトはそのまま、歩きながら語り始める。

 

「…妹って言ったけど、本当は従妹なんだ。」

「えっ…」

 

キリトの第一声。それにシリカは驚愕する。

 

「小さい頃から弟と妹と一緒に住んでるから、兄妹みたいなものだし、向こうは知らないはずだけど。…だからかな、俺の方から自然と距離を作っちゃってさ。」

 

そう言うキリトの顔は、動かない。

 

「弟と俺は血の繋がりはあるし、弟もそのことは知ってるけどね。」

 

キリトは少し上を向き、なおも語る。

 

 

「…祖父が厳しい人でね。俺たち3人を近所の剣術道場に通わせたんだけど…俺はすぐ辞めちゃってさ。祖父にはそりゃあ殴られたよ。」

「そんな…」

「そうしたら妹が、『私がお兄ちゃんの分まで頑張るから殴らないで』って、庇ってくれたんだ。…それからは、あいつもいっぱい練習して、爺さんが亡くなる前の月には弟と一緒に全国ベスト4に入るぐらいになっててさ。嬉しかっただろうな…」

「す、すごいじゃないですか!」

 

 

シリカはそう言うが、だが、キリトの顔には、なおも影が落ちる。

 

 

「けど、だからこそ俺には、あいつ…いや、弟も含めてだな。あいつらに対して後ろめたさがあった。本当はもっとやりたいことがあったんじゃないか。俺の事を恨んでるんじゃないか。そう思わずには、いられなかった。…君をこうして助けてるのも、2人に罪滅ぼしをしている気になってるのかもしれないな。」

 

 

そう言って、自嘲気味に笑うキリト。

シリカは、それを見て一瞬言葉に詰まる。

彼女には、今のキリトの気持ちは理解しきれない。彼の長い年月の葛藤を理解することは出来なかった。

 

ならばこそ…

 

「きっと妹さんと弟さん、キリトさんを恨んでないと思いますよ?」

 

かける言葉は、シンプルに投げかける。

 

「楽しくなくて、好きじゃない事をそこまで続けられないと思います。きっと、剣道のことが本当に大好きなんですよ!」

 

キリトの顔を覗き込みながら、そう言うシリカ。彼女の言葉に、キリトは少し驚いていたが…

 

「…君には、励まされてばかりだな。」

 

すぐに、優しく微笑んだ。

 

「そうだな…そうだといいな。」

 

その顔に、またシリカは胸が高鳴る。

頬が熱くなり、鼓動が速くなる。

その感情の正体に、彼女は気付いていた。それを持つことは、決して悪いことではない。

だがしかし、彼女はその感情を、そっと自身の内に秘めた。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

シリカの言葉に、キリトはあることを思い出す。

 

その昔、小学生の頃に彼は弟に同種の質問をした。

 

いや、要求と言うべきか。

 

それは、妹に自分が剣道を辞めたことをどう思っているか聞いてくれというものだった。

結論から言うと、その質問は行われなかった。

 

カズマが承諾する前に、キリトに言い放ったのだ。

 

 

「俺から見たら、直葉が兄貴を恨んでるなんてことはまず無いよ。稽古見てても、嫌々やってたり、仕方なくやってるなんてことは感じない。きっと、本当に剣道が好きなんだろ。兄貴に思ってることといやぁ、『お兄ちゃんを守る』っていう分かりやすい目標ができて、感謝してるぐらいじゃねえか?」

 

 

そう、笑いかけながら言い放つ和真に和人は何も言えなかった。

 

『本当、そうだといいな…』

 

キリトは、現実の世界で、今も竹刀を振っているであろう従妹(いもうと)のことを思いながら、歩き続けた。

 

ーーーーーーーーー

 

「あそこが頂上だな。」

 

キリトの言葉と共に、見える1つのオブジェクト。

そこにあったのは、宙に浮かぶ縦長の直方体。

 

シリカはそれに足早に近付くと、それを覗き込む。

 

最初こそ、何も無く、ただ上部の光るだけの物体であったが、しばらくすると、ひとつの芽が光の中から出現する。

 

その芽は、倍速をかけた理科の教材映像のように凄まじい速さで成長し、一気に花を咲かせた。

 

シリカは恐る恐る、その細い茎に触れて、つまむと、茎は半ばからすぐに折れて、彼女の手に収まる。

シリカはアイテム獲得のウィンドウが現れると満面の笑顔を浮かべて、キリトに振り向いた。

 

「これで、ピナが生き返るんですね…」

「ああ、そのはずだ。…ただ、この辺りは強いモンスターなんかも出るから、街に戻ってから生き返らせてあげよう。」

「…はいっ!」

 

シリカは涙ぐみながらも、はっきりと返事をした。それに、キリトも柔らかな笑みを浮かべた。

 

ーーーーーーーーー

 

帰り道、シリカは気分も上がり、足も軽くその道を進んでいた。

 

もうすぐ、ピナに会える。

 

そう思うと、笑顔や鼻歌を抑えきれなかった。

だからこそ、キリトが肩を掴んだ瞬間には、何が起きたのか分からなかった。

 

「キリトさん…?」

 

彼の行動の意図に理解が追いつかず、シリカはキリトの顔を見上げた。

彼の顔色は険しく、視線の先にあるものを睨みつけていた。

 

「そこにいる奴、出て来いよ。」

「え…?」

 

見ると、彼の視線の先にあるのは、道の脇にある木々。シリカの目には何もいるようには見えない。

…だが、やがて人影が1つの木陰から出てくる。その人物の姿に、シリカは驚愕した。

 

「ろ、ロザリア…さん…?どうしてここに…」

 

シリカの問いに答える気は無いのか、ロザリアはちらりとキリトの方を見る。

 

「私の《隠蔽(ハイディング)》スキルを看破するなんて、大した索敵スキルね、剣士サン。…その様子じゃ、プネウマの花は首尾よくGET出来たみたいね。おめでとう、シリカちゃん。」

 

その時浮かんだ笑顔は、シリカがパーティーを組んでいた時にも見ていたものとまったく一緒だった。

…だが、その笑顔は一瞬にして、ゲスいものに変換される。

 

「それじゃ、大人しくそれを渡してちょうだい。」

「な、何を…」

 

「言ってるんですか」そう言う前に、キリトがスっと前に出て、シリカの言葉を遮る。

 

「そうはいかないな。これはこの後、シリカが使う予定なんだ。なんなら自分で取ってきたらどうだ。」

「そこのちんちくりんに篭絡された足軽がよく言うじゃない。それとも人を助けることが趣味のお人好しかしら?」

 

キリトを侮辱するような言い回しに、思わずシリカは腰の短剣に手を添える。だが、そこでもキリトは手を広げて、シリカを静止させた。

 

「いや、どちらでもないよ。俺もアンタを探してたのさ、ロザリアさん。…いや、犯罪者ギルド《タイタンズハンド》のギルドリーダーさん、と言った方が良いかな?」

「…へぇ」

 

キリトの言葉に、分かりやすくロザリアは目を細め、少し顔を顰めた。そして、シリカも反応する。

 

「で、でもキリトさん。ロザリアさんはグリーン…」

「よくある手口さ。グリーンの奴がパーティーに侵入して情報収集をして、ある程度準備が出来たところで実行役のオレンジ達が標的を殺す。古典的だが、だからこそ分かりにくい。」

 

「じゃ、じゃあ、この前まで一緒のパーティーにいたのは…」

「そうよォ。あのパーティーの情報収集するのとそこそこお金が貯まるまで待ってたの。そしたら1番の狙いだったアンタが抜けちゃうじゃない?あの口論は私も計画外だったわ。」

「……」

 

「まあでもそしたら、なんかレアアイテムを取りに行くって言うじゃない?プネウマの花って、今が旬なのよね。それより…」

 

ロザリアはキリトに向かって嘲笑する。

 

「そこまで分かっててその子に付いていくなんて、アナタバカァ?それとも本当に身体でたらしこまれたの?」

 

ニヤニヤと笑うロザリア。

シリカは憤怒のあまり、今度こそ抜剣仕掛けたが、2割方刀身を出したところで、キリトは横目でシリカに静止をかけた。

 

「いいや、どっちでもないさ。さっき言ったろ?俺もアンタを探してたって。」

「…どういうことかしら?」

 

キリトは笑みを無くす。

 

「アンタら、2週間前に《シルバーフラッグス》ていうギルドを襲ったな。ギルドリーダー以外の全員が殺された。」

「…ああ、あの貧乏な連中ね。」

 

ロゼリアはさも興味無さそうに答える。

 

「そこのギルドリーダーは、最前線で朝から晩まで仇討ちしてくれる奴を探してたよ。…アンタにあいつの気持ちが分かるか?」

 

ロザリアは「ハッ」と吐き捨てるように鼻で笑う。

 

「分かんないわよ。そんなことで熱くなって馬鹿みたい。ここで死んで本当に向こうで死ぬなんてこと誰にもわかんないし。それに奪い合いはRPGの醍醐味ってやつでしょ?説教垂れ流される筋合いなんてないわ。」

 

そういうと、ロザリアはパチンッと指を鳴らす。すると並ぶ木陰からぞろぞろとオレンジプレイヤー達が姿を現す。そこには、昨日シリカが目にしたローブ姿のグリーンの姿もあった。

 

「き、キリトさん、数が多すぎます。脱出しないと…!」

 

シリカは慌ててキリトのコートを引っ張るが、キリトは穏やかに笑って、シリカの頭をポンと叩く。

 

「大丈夫、俺が合図するまでは、クリスタルを用意して見ててくれ。」

 

そう言って、キリトはゆっくりとオレンジ達が待ち受ける橋の向こう側へ歩を進めた。

 

「…キリトさん!!」

 

シリカの叫びに、キリトは反応しない。

…代わりに、オレンジの中から声が上がる。

 

「キリト…?」

 

そのひとりは、ゆっくりとキリトの身体を視線で上下して見つめると、サーッと青ざめていく。

 

「黒ずくめの装備に、盾なしの片手剣…。ロザリアさん、マズイっすよ…!あいつ《ビーター》の、攻略組だ!!」

「こ、攻略組…?」

 

予想外の言葉にシリカは困惑するが、それにロザリアの声が重なる。

 

 

「こ、攻略組がこんなとこにいる訳ないじゃない!どうせただのコスプレ野郎よ!それに、もしビーター様なら格好の獲物じゃない!!」

 

「そ、そうだ!攻略組ならアイテムとかすげえ持ってんだぜ!」

「殺るっきゃねえ!」

「ウオオオオオオォォォ!」

「死ねやぁ!」

 

 

ザシュッ!ザシュッ!

ズババババッ!!

ズドォッ!!

 

あらゆる雄叫びを上げながら、オレンジプレイヤー達はキリトに襲いかかる。

およそ10人ほどの猛攻を受けながら、キリトは動かず、その攻撃を受け続ける。

 

「や、やめて…やめてよ…き、キリトさんが…死んじゃう…」

 

小さく頼りない声が、シリカの口から漏れるが、勿論オレンジプレイヤー達には聞こえない。いや、聞こえたとしても聞かないだろう。彼らの目は、標的を狙う時の獣のそれ。

 

『た、助けなきゃ…』

 

シリカは左手で転移結晶を持ちながら、おのずと短剣の柄に手を伸ばす。あの中に入ってもキリトを助けられるとは思わないが、彼が逃げ出す時間稼ぎは出来るかもしれない。

 

…しかし…

 

「…え?」

 

シリカはそこで、あることに気づいた。

 

キリトのHPが、減っていない。

 

いや、正確には攻撃を受ける事に減ってはいる。ただ、次の瞬間には一気に全回復してしまうのだ。

あれだけの猛攻を受けているのに、彼のHPは全く減らない。

 

「ど、どういうこと…?」

 

その異常とも言える現象に気づいたのか、オレンジプレイヤー達は攻撃を止める。

それぞれ四方に散らばりキリトを囲んではいるが、キリトは飄々とした態度で立ち尽くす。

 

「何やってんだい!さっさと殺しな!!」

 

先程までニヤニヤと笑みを浮かべていたロザリアも、痺れを切らしたように怒鳴る。

 

「ど、どうなってんだこいつ…」

 

一人がつぶやくと、キリトは首をポキポキと鳴らしながら呟く。

 

「10秒辺り400ってとこか…軽すぎるな。」

 

何事もないようにそう告げるキリトに、オレンジプレイヤー達は畏怖の視線を送る。

 

 

「面倒だけど教えてやるよ。俺のレベルは78。HPは14500。自然回復(バトルヒーリング)スキルによる回復が、10秒で600ポイントある。何時間経ってもあんたらは俺を倒せないよ。」

 

「な、なんだよそれ…そんなん、アリかよ…」

「アリなんだよ。」

 

キリトは呻いたプレイヤーに冷たい視線を送る。

 

「たかが数字が増えるだけでここまで無茶な差がつく。それがレベル制MMORPGの理不尽さなんだ。」

 

そう言い放つキリトには、凄まじい威圧感が存在した。まるで、彼らだけでなく、自身にまで言い聞かせるような…

 

「クソッ!こうなったらあのガキを…!」

「ヒッ…!?」

 

呻きながら、シリカとキリトの間に居たオレンジプレイヤーの1人がシリカに向かって走り出す。

 

ピウッ

 

だが、そんな音と共に、男は動きを止めて、ゆっくりと倒れ込んだ。見ると、彼には麻痺を示すアイコンが点滅し、肩口にはピックが突きたっていた。

 

「妙な動きはしない方がいい。俺も手荒なマネはしたくないんでな。」

 

そう言いながらキリトはバックパックから転移結晶よりももう1段階濃い青色のクリスタルを取り出すと、高く掲げた。

 

「これは俺の依頼人が全財産をはたいて買った、回廊結晶だ。監獄エリアが出口に設定してある。これで全員牢屋に飛んでもらう。」

「…嫌だと言ったら?」

 

往生際が悪く、一人がそう呟くと、キリトは横目で見ながら、軽く笑う。

 

「別に構わないぞ。その時は、そこに寝転がってるやつと同じ末路を辿るけどな。」

 

その言葉に、オレンジプレイヤー達はまた身構えた。

 

「コリドー・オープン」

 

キリトの手の中にあった結晶が砕け散り、空間上に1つの門が出来上がった。

 

やがて…

 

「…チクショウ…」

 

そう呻きながら、メンバーの1人が入っていったことを皮切りに、ほかのメンバーも続々とゲートに足を運んでいく。ローブの人物が最後に入門すると、キリトは転がっていた男のピックを引き抜き、門に放り投げた。

 

…そして、ロザリアの方を見る。

彼女はまるで入らないという意思表示のように槍を置いて、胡座をかいて座っていた。

 

「やれるもんならやってみなよ!グリーンのアタシを傷つけたらアンタがオレンジに…!」

 

言い切る前に、キリトはロザリアの首元を掴みあげる。その視線は、冷ややかに見下ろされる。

 

「言っとくが俺はソロだ。一日二日オレンジになることなんざどうってことない。」

 

言うやいなや、キリトはそのまま踵を返してゲートの方に向かって歩く。

そしてロザリアはここで初めて取り乱し、喚き立てる。

 

「ね、ねえ、やめてよ!見逃してよ!ねぇ!そ、そうだ!アンタ、アタシと組まない?アンタとアタシが組んだら、どんな奴らだって…!」

 

彼女の言葉は、最後まで続かなかった。

 

キリトは何も言わずに彼女を頭からゲートへと放り投げた。瞬間、ゲートが閉じて耳障りな声も届かなくなる。

 

ここで、初めて静寂が訪れ、残るのはキリトとシリカの2人のみ。キリトがニコリとシリカにほほ笑みかけると、彼女は思わず地面にへたり混んでしまった。

キリトはシリカに近づくと、先程までの威圧感が嘘のような笑みで手を差し伸べた。

 

「さ、戻ろう。…立てる?」

「こ、腰が抜けちゃいました…」

 

ーーーーーーーーー

 

「…ごめんな、シリカ。君を囮にするようなことになっちゃって。…俺の事を言ったら、怖がられるかなって思ったんだ。」

 

風見鶏亭の宿屋で、キリトは申し訳なさそうにそう告げる。だが、それにシリカはゆっくりとかぶりを振った。

 

「キリトさんはいい人だから…怖がったりなんかしません。」

 

そう言うと、キリトは目を細める。

 

「…やっぱり、行っちゃうんですか?」

「ああ…5日も前線から離れちゃったからな。すぐに戻らないと。」

 

その言葉で、気付く。彼との別れが近付いていることを。

 

「…ッ…」

 

思わず、引き止めてしまいそうになる。

だが、そんなことは出来ない。

出来るはずがない。

彼は自分とはまるで違う大きさの重圧を、責任をその肩に背負っているのだ。

 

「こ、攻略組だなんて凄いですね!私じゃ、何年経ってもなれませんよ…」

 

何処か苦し紛れにそう言うシリカの声は、暗い。

その言葉に何かを感じたのか。

キリトはポツリポツリと呟く。

 

「この世界の強さは、ただの数字で、幻想だ。それが現実の強さに繋がるなんてことは、絶対にない。…そんなものより、大事なものがある。」

 

キリトはシリカの顔を見ると、微笑みかけた。

 

「次は、現実の世界で会おう。そしたらまた、同じように友達になれるよ。」

 

その言葉に、スっと、自分の心が軽くなるのを彼女は感じる。

関係の深さなんて、そんなものはどうでもいい。ただ、彼との関係が続いていく。それがとても嬉しかった。

 

「はい…きっと、必ず…!」

 

同じようにキリトに笑いかけながら、シリカはそう言った。

 

 

「さて、それじゃ、ピナを生き返らせてあげよう。」

「はい!」

 

シリカはアイテム欄から《ピナの心》を取り出すと、机の上に置く。そのまま、《プネウマの花》も取り出して、手に持つ。

 

「花の中の雫をかければ、蘇生されるはずだ。」

「はい。」

 

 

ーーピナ、いっぱい、いっぱいお話してあげるからねーー

 

ーー今日の楽しい冒険の話をーー

 

 

ーー私の、たった一日だけの、かっこいいお兄ちゃんの話をーー

 

シリカは、ゆっくりと雫をかける。

羽毛が発する光の中、彼女はそっと、未来に思いを寄せた。

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

「…アルゴ、その話マジなんだな?」

「俺っちがガセネタを売る主義じゃねえってのはカズ坊は100も承知ダロ?」

「そりゃそうだけど…匿名の情報提供ってとこが怪しすぎんだろ。」

「それもそうダナ。…けど、頼らない訳には行かないだロ?」

「…確かにな。…それで、場所は?」

「第29層、《モンスターフィールド》と呼ばれる、ダンジョンの最奥サ。」

「…分かった。アスナさんとヒースのおっさんにまた言っとく。」

「…意外と早かったナ」

「あぁ、決着の時だ。」

 

 

「ここで、ラフコフは潰す。」




キリトの行動増えたなァ。
まあ、しょうがない。原作の方が面白いし(お前が言っちゃダメ)
次回からはドロドロします(多分)
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