ソードアートオンライン 〜鋼鉄の記憶〜   作:誠家

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暗いなぁ。


第37話 ラフコフ討伐会議

「よ、キーリト!」

「オグッ…」

 

いきなり背中を叩かれ、キリトは変な呻き声を上げる。そして、背中を擦りながら叩いてきた張本人を見る。

 

「…脅かすなよクライン。圏外ならカーソル変化ものだぞ…」

「そこまで強くしてねぇだろうが!」

 

呑気な会話を交わして、赤髪の男、クラインは「ヘヘヘッ」と尚も笑う。それに最初は面倒くさそうな顔をしながらも、キリトは苦笑をうかべた。

 

「相変わらず、仲が良いな。」

「よおエギル、お前まで呼ばれたのか。」

「あぁ、店は閉めてきた。…血盟騎士団の《閃光》様からの緊急呼び出しだからな。来ねえ訳にはいかねえよ。」

「…そうだな。」

 

 

「おう、兄貴。」

 

血盟騎士団のギルド本部にある中会議室に足を踏み入れると、キリトに気さくに話しかけてくる黒髪の青年が1人。

身なりだけでなく、顔もよく似たその人物に、キリトも笑って手を上げた。

 

「カズマ、早いな。」

「ま、色々とあってな…クラインとエギルも、ボス戦以来だな。」

「よぉ、カズマ。最近ウチに顔出してくんねえから売り上げが少し下がっちまってんだよ。また顔出してくれや。」

「悪い、最近忙しくてな。」

 

「おいカズマ!ユウキちゃんとはちゃんと仲良くしてんだろうな!?」

「クライン…相変わらず突然だな…そんなんだから友達少ないんだぞ?」

「おめぇに言われたかねぇんだよ!!…で、どうなんだよ。」

「…まぁ、順調だよ。」

「くー!羨ましいね、このリア充が!」

 

そうして笑うクラインに、キリトと同じような苦笑を浮かべるカズマ。そして、新たな闖入者が1人。

 

「皆さん、お久しぶりです。」

「おー、シュンヤじゃねえか!この前は、中ボス戦でのサポートありがとな!」

 

シュンヤに、クラインが大きな声を上げた。彼は、とんでもないと言わんばかりに首を振る。

 

「お役に立てたなら何よりです。こちらこそパーティーに入れてくれてありがたかったので。」

「おう!お前ならいつでも大歓迎だぜ!そうだ!カズマにキリト!お前らもどうだ!?」

 

「「むさ苦しそうだからやだ。」」

 

「即答した上にハモるんじゃねえよ!」

「あははは…」

 

広い会議室で、そんな喧騒が繰り広げられる。しかし直後…

 

バンッ

 

奥にある扉から、血盟騎士団の制服を着た、ロングヘアの女性が姿を現す。ブーツで音を鳴らし、進行役の席に近づく彼女の姿の後に赤いローブを着た白髪の男性の影がひとつ。他にも血盟騎士団の重役数人が所定の位置につく。

 

「会議開始の時間です。…着席を。」

 

ロングヘアの女性…血盟騎士団副団長・アスナの鋭利な声に、集まった攻略組の面々はそれぞれの席に着く。

 

「皆さん、今日は我々血盟騎士団の緊急招集に応じていただき、ありがとうございます。まず、率直に今日の議題についてお話します。」

 

そして、集まった者たちは、次の彼女の言葉に、ざわめいた。

 

「先日、我々の…いえ、全プレイヤーの敵とも言える集団、《ラフィン・コフィン》のアジトを突き止めたとの報告がありました。」

 

ザワッ

静まっていた会議室に喧騒が広がる。

先程のような陽気なものではなく、驚愕と欺瞞に満ちたそれを、アスナは遮るように声を張った。

 

「静粛に!」

 

それによって、会議室はまた静まりかえる。

アスナは少し息を吸って、続ける。

 

「…ひとまず、その情報について情報屋のアルゴさんから説明があります。…アルゴさん、どうぞ」

「やぁやぁ、皆さん方。お呼ばれされたアルゴダ。よろしク。」

 

そう言って1番前の席から1番前に出たのは、フードを被った、小柄なプレイヤー。

 

「それじゃ、全員机の上にある書類を見てくレ。あ、地図の載ってる方ナ。」

 

アルゴの言葉に、全員が卓上の紙を持ち上げ、それに注視する。

 

「匿名の情報によると、どうやら奴らのアジトは第29層。最西端にあるダンジョンの奥地にあルようダ。」

「情報だけなら、確実性は薄いんじゃないか?」

「安心しロ。ちゃんと下見済みだ。レッド共の行き来もあったし、間違いナイ。」

 

突然飛んできた質問に、アルゴは難なく答えて、続ける。

 

「このダンジョンは上部のトラップエリアと、下部のモンスターエリアに別れてる珍しいダンジョンダ。トラップは落とし穴のみだが、それに落ちる、もしくは通路、広間の端から落ちると、下に待ち受けるのはモンスターが大量に湧くエリアなのは周知ダロウ。注意してくレ。…俺っちからは以上。あとはアーちゃん、任せタ。」

 

そこまで話して、あとは任せたと言うふうにアスナへ手を振り、席に戻る。

アルゴが座ると同時に、アスナが立ち上がりよく通る声で喋る。

 

「それでは、次に相手戦力の説明に行きたいと思います。…シュンヤ君、お願いします。」

「はい。」

 

アスナの呼ぶ声に呼応して爽やかな青年の声が響く。シュンヤは1番後ろの席から歩く。その道中、少ないが向けられる、怪訝な視線。

もう攻略して50層を超えたというのに存在する《アンチ・ビーター》の視線を、しかし気にせずまっすぐと歩き、全員に向き直った。

 

「それでは、ここからは俺が引き継がせていただきます。アルゴさんの時に使用したものとは違う、写真の載っている紙をご覧下さい。」

 

全員が視線を向けると、そこに載っていたのは4人の顔写真とプロフィールと見える文字列。シュンヤはそれに沿って説明していく。

 

「まず、1番上から説明していきます。…皆さんもよく知っているであろうプレイヤー。ラフコフの創設者にして、最悪のレッドプレイヤー。ギルドマスターの《アインクラッドの悪魔・PoH》。」

 

写真に移るのは、フードを被った中肉の男。その顔は、フードの影に隠れて、全貌は見えない。しかし、どこか細い輪郭と、つり上がった口元が恐怖を掻き立てる。

 

「メイン武器は短剣。ピックやナイフなどの飛び道具も持ってはいるでしょうが、使用したという証言はありません。…ただ、その短剣技術は確かなもので、単純な強さなら我々攻略組と同等と考えていいでしょう。次に2人目を見てください。」

 

全員が視線を向ける。

 

「仮面が特徴的なプレイヤー。通称《赤眼のザザ》。かなりの古株であり、殺人の数ならPoHと近い数です。メイン武器はエストックで、ナイフなどの使用はPoHと同じでほとんどありません。ただ、彼も実力は確かで、かつてある攻略組の小隊が彼を含めた5人と遭遇したところ、生き残り1人以外が抹殺されたとの情報もあります。その生き残りのプレイヤーによると、《凄まじい剣速》だったようです。…3人目に行きましょう」

 

3枚目の写真には、ズタボロの被り物をした人物。

 

「ズタボロの被り物をしたプレイヤー。通称《毒使いのジョニー》。その名の通り、毒を扱うことに特化しており、メイン武器はピックやナイフなどの飛び道具。しかもそれには麻痺毒やダメージ毒などが付与されていて、デバフを狙ってきます。主にザザと二人で行動していますが、戦うとなると、彼一人との対戦になるでしょう。ただ、毒にやられると針のむしろになるので、十分に気をつけてください。」

 

そして、その言葉を最後に、自然と全員がその下の写真に目を向けた。だが、それは写真とは言えない。《no image》と書かれた黒い正方形。

 

「…残念ながら、このプレイヤーはあまり表に出ない為、画像がありませんでした。しかし、情報だけ発表させてもらいます。名前は《ショウマ》。特に身体的特徴はなく、ラフコフの参謀を務めているとされる人物です。メイン武器は恐らく片手剣。戦闘技術はそこまでありませんが、頭はキレると思われます。」

 

シュンヤはそこまで喋り終わると、持っていた紙を置いて、そっと全員を見渡した。

 

「以上が幹部4人の情報です。もちろんこれと変わっていることも十分に有り得ますが、皆さんなら対応はできると思います。…質問はありますか?」

 

シュンヤの言葉に、しばらく誰も動かない。

しかし、そこである人物が手をゆっくりと上げる。それは、《聖竜連合》のメンバーであった。

 

「質問ですか?どうぞ。」

「いやー、質問って言うか…まだ情報を聞いてないなーって。」

「えと、何処か読み飛ばしましたかね。」

「いやいや、そうじゃなくて。」

「…?」

 

シュンヤの分からないという仕草に、プレイヤーは笑う。

 

「だから、4人目の情報を持ってそうな人が1人いるじゃないかってこと。…なあ、《死神》さんよ。」

 

プレイヤーの言葉に、攻略組の全員が1人に視線を送る。それまで椅子の背もたれにもたれかかっていたカズマは、ちらりと質問というか要望を行ったプレイヤーを見る。

 

「あんた、確か《スリーピング・ナイツ》救出の時にその《ショウマ》って野郎と相対したんだよな。なら、話す義務があるんじゃねえのか?」

 

それを聞いて、カズマは少し眉を寄せたが、やがてため息をつくと、体勢を元に戻す。

やがて立ち上がって、喋り始めた。

 

「ま、大した話はできねえが、要望があったんで手短に。」

 

カズマはチラリと、先程まで見ていた紙を一瞥して説明を始めた。

 

「大まかな説明はだいたいこの紙に書いてる通りだよ。頭は多少キレるし、参謀役ってのも間違いはない。ただ、一つだけ。戦闘能力が低いかどうかはまだ分からん。どうやら、今このアインクラッドでアイツと戦ったことのあるやつはいないかもしれないらしいからな。だから、油断はするな。以上。」

 

カズマは一気に喋り倒すと、椅子に座り込んだ。…しかし、それで終わらなかった。

 

「いやいや…それで終わりか?」

「ああ。俺が言えるのはこれが以上だ。生憎と、別にそいつとあまり話もしてないし、剣を交えた訳でもない。」

「剣はともかく、話はあるだろ?」

「…なんでそう言いきれる?」

 

「だってお前とショウマって奴は、現実世界での知り合いだったんだろ?」

 

その言葉と共に、会議室はザワりと雰囲気が変わる。その言葉にはアスナも動揺を隠せずに、ユウキとランが心配そうな目でカズマを見る。

 

「おいおいそれマジか…?」

「そういや、そんな話聞いた事が…」

「確かそいつと《死神》はクラスメイトだったとか…」

「俺も聞いたぞ…」

「たしかスリーピング・ナイツのギルマスとサブリーダーも…」

 

ガヤガヤガヤガヤ

 

喧騒が広がる会議室。そこでアスナはようやく動揺が覚めたのか、叫ぶ。

 

「ちょっと皆さん!静粛に…!」

 

 

 

ズガアアァァァァァンッ!!

 

「「「「!?」」」」

 

 

 

凄まじい衝撃音と共に、止まる喧騒。

 

どうやら、カズマが力いっぱいに会議室の長机を叩きつけたらしい。だが、破壊不能オブジェクトなため、紫色のアイコンが点滅する。

カズマは1つ息を吐くと、先程のプレイヤーを見る。その視線は、氷のような冷たく、彼とその周りの空気を一瞬で凍らせた。

…しかし、カズマはそこで何も言わずに手を戻して、視線を元の温厚なものに戻す。

 

「現実世界での情報だな。いいよ、話してやる。」

 

 

 

()()()()()()。」

 

 

 

「…へ?」

 

「俺とアイツは別に関わりが長かったわけじゃない。それこそ一緒だったのは小学校の数年だけ。話も合わなかったし合わそうともしてなかった。別に何かスポーツしてた訳じゃないし、せいぜい《お友達》が多かったくらいだ。あとはまあ、キレやすいってことと、俺に恨みを持ってるぐらい。…これで満足か?」

 

「え…あ…」

 

「今回は俺たちの戦いの中でも最高クラスに大切なものになるだろうから話したが…それ以上俺のリアルの話を持ってくるなら、次は容赦なく舌の根引っこ抜く。分かったか?」

 

「あ、ああ…」

 

「それに、お前らは別にあいつの情報は聞く必要ないと思うぞ。」

 

 

 

「…どうせあいつは、俺に向かってくる。」

 

 

 

周りのプレイヤーが驚愕に包まれていると、カズマはやがてアスナに向かって話を進めるよう促す。

アスナはコホンと咳払いをすると、立ち上がって会議を進めていく。

 

「…一悶着ありましたが、ひとまずラフコフの大まかな情報はこれで全部です。相手はおよそ40人。明日討伐パーティーを組んでラフコフの殲滅に動きます。…と言っても、あくまで目標は、説得して捕縛すること。投降するならそれでよし。しない場合は…」

 

「…最悪戦闘も覚悟しておいて下さい。」

 

それにはいかにも微妙な空気が流れるが、しかし全員覚悟を決めたように表情を変える。

 

「恐らく、これまでで最もきつく、残忍な戦いとなるでしょう。しかし、負けることは許されません!一般プレイヤーを怯えさせる最悪のギルドを、明日確実に壊滅させましょう!!」

「「「「おおおおぉぉぉぉぉ!!」」」」

 

攻略組プレイヤーの野太い声が、血盟騎士団のギルド全体に響き渡った。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

「カズマ君!」

会議が終わり、血盟騎士団の廊下を歩くカズマに、可憐な声がかけられる。

見ると、先程まで会議を進行していたアスナがカズマに追いついて来ていた。

 

「あれ、どしたんすか?」

「さっきの、ことで…謝りたくて。」

「さっきの…ああ、リアルの話を出されたことですか?」

「ええ。」

 

「いや、あれはあいつが悪かっただけですって。あいつ…ていうか聖竜連合全体でビーターを受け付けない節があるんで、しょうがないですよ。アスナさんが謝ることじゃないです。」

 

「…それなら、良いんだけど。もしかしたら、カズマ君が傷付いてるかもしれないし。」

「あははは。過保護ですねえ。やっぱり気になる男の兄弟なら気にかけますか?」

 

「ちょっ…何言ってるのよ!別に誰もそんなこと思ってないわよ!」

「あははは、まあそういうことにしときますけど。」

「そういうことなの!!」

「ははっ。…まあでも実際、なんともないっすよ。これぐらい。」

「そう?」

「ええ。」

 

 

「…ユウキとラン(あいつら)を守れなかった時に比べりゃ、こんなの屁でもないです。」

 

 

カズマはそう言って笑いかけると、ゆっくりとその場を後にした。

 

「じゃ、アスナさん。明日はお互い頑張りましょう。」

「…ええ、君も気をつけて。」

「お気遣い、ありがとうございます。」

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「シャム、お疲れ様。」

「あ、シュンヤさん。お疲れ様です。」

「…お前も、明日の討伐戦参加するのか?」

「…ええ。私も、彼らの行いは許せませんし、危険を覚悟で戦場に立たなければならないと、そう思います」

「そっか…」

 

「…反対ですか?」

「ん?…まあ、正直、な。ただ、それは俺が決めることじゃない。だから強引に抜けさせたりはしないよ。ただ…」

「ただ?」

 

「やっぱり俺は、お前に死んで欲しくない。そう思ってる。」

「…私もです。あなたには死んで欲しくない。そう、心から願います。」

「ああ。…明日は、ちゃんと生きて、街に帰ってこよう。」

「はいっ。」

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「ふー…」

アルゲードのエギルの店。

その2階の窓から顔を出しため息を1つ。

やがて後ろからエギルがマグカップを差し出す。

 

「飲むか?」

「おう、サンキュ」

 

1口飲むと、思考がクリアになっていくような感覚。エギルも立ったままコーヒーを飲み、星を眺める。

 

「…キリトよ、お前も明日の討伐戦、参加するのか?」

「…一応《自由参加》って風にはなってたけどな。」

 

キリトはコーヒーを1口煽ってまたため息を1つ。

 

「ああ。今回会議に参加した90人の中で、恐らく参加しねぇやつは、何人かはいるだろ。」

「だな。アスナは奴らを説得させると言ってたけど…それが通じない奴らだってことは百も承知だ。」

「けど、そうした方がいい。なるべく犠牲を出さないためには、それが1番だろ。」

「ああ、勿論。」

 

キリトは残りのコーヒーを1口で煽って、エギルに向き直った。

 

「さっきの質問への返答だけど、参加するよ、勿論。やっぱり大手ギルドの奴らで欠員が出るなら、他の奴らがそれをカバーしなきゃならないだろ?」

「お前は背負い込みすぎだよ。色々とな。」

「…それに、あいつらはここで止めないといけないんだよ。絶対に。」

「…ああ、そうだな。」

「…寝よう、明日に備えて。」

「Good night.キリト。」

「ああ、おやすみ。」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ーー夜が、あける。

差し込む光が、黒色の彼をしっかりと映し出す。眠りから覚めた彼の手にあるのは、一つの指輪。紫の宝石が埋め込まれたそれを、彼はギュッと握りしめた。

 

「フーー…」

 

長い息を吐いて、彼は立ち上がった。

黒いフードコートが揺れ、同色のブーツが鳴る。彼が部屋から出ると、その部屋には長い静寂が訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーアインクラッド史上、《最悪》の戦いが、今日、始まる。ーー




次回、《開戦》。

……
………
…………
…ぜってえ見てくれよな!(必死)
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