第29層転移門広場。
武装した集団が何かを待つように待機していた。あるものは話し、あるものは装備の確認をし、あるものは何も言わずただ佇んでいた。
やがて、彼らの前に先日の会議のようにアスナが姿を現す。足を止めたアスナは集団を一瞥する。
「今日の戦いは各ギルドの選りすぐりのメンバーに集まってもらいました。人数としてはおよそ同数になるため、厳しい戦いになるとは思いますが、皆さんならやり遂げてくれると信じています。」
その言葉に、各々で気を引き締め、頷き、気持ちを引きしめた。
アスナはストレージから濃い青色のクリスタルを取り出す。
「これはアルゴさんが用意してくれた回廊結晶です。ゲート先はアジトのダンジョン入り口となっています。向こうに行けば、引き返すことは出来ません。」
それは、最後の忠告であった。それに、攻略組のメンバーは無言で返す。アスナはそれに頷くと、
「コリドー・オープン」
戦場への扉を、躊躇なく開いた。
ーーーーーーーーーーー
「間もなく、情報にあった奴らのアジトだ。」
先頭を歩く、聖龍連合のシュミットというプレイヤーが後ろに振り向いて声をかける。一同は足を止めた。
「今一度確認しておく。この突入作戦はあくまで奴らの《捕縛》が目的だ。ただ、奴らはレッドプレイヤー。決裂したのなら、躊躇はするな。殺らなければ殺られる。その覚悟を持って奴らと対峙しろ。」
彼の言葉に、攻略組の大半が息を飲む。
…逆に、なんのアクションも起こさないものは、この場では2人だけ。
「……」
キリトは、何か違和感を感じる。
だが、周りにあるのは壁やそこに空いた穴だけ。彼を嘲笑うように広がる、黒い空洞。
一方カズマは、確実に感じ取っていた。
レッドプレイヤー達の粘着質な視線と、殺意を。100人以上のレッドと戦い続けた故に感じるそれは、逆に言えば普通ならば感じ取れない。それはつまり、報告をすると混乱を招く可能性すらある。
だから、何も言わない。
ただ、後ろで周りを観察して迅速な対応のため準備する。
「…まあ、最も、人数は近いとはいえ、レベルで言えば俺らが圧倒的だ。…戦闘にならずにそのまま降伏、なんてこともあるかもな。」
シュミットのその冗談に、控えめな笑い声が響いた。
カズマはそれを煩わしく思う。せっかく立てていた聞き耳が、一瞬だけ阻害されたのだ。
恐らくウケ狙いだったのだろうが、笑えない冗談だ。
正しく百害あって一利なし…
ーー……ヒャハッ……ーー
「…ッ」
そんな、消えそうな小さい笑い声が、彼の耳に届いた。瞬間、彼は目線を右にスライド。
集団の右翼…キリトが陣取る方に目をやる。
キリトも自然と体が動いていた。レッドを相手にしている時に感じた、《何か》が弾け、自然と彼の体は右に体を向けて、黒い何かが目に写った瞬間には、背中の剣へ手を掛けていた。
「ヒャハッ!」
「…ッ…!!」
ガギィィィィイイインッ!!
「敵襲ーー!!」
キリトが剣を抜いた瞬間、カズマは叫ぶ。
交錯音が響いた方に向く攻略組の面々は遅まきながら自身の獲物を抜いた。
そこに、ラフコフ達はなだれ込んでいく。
「チィッ…!!」
こちらが奇襲されるとは思ってもいなかった攻略組のプレイヤーにはかなりの痛手となったであろう。その証拠に、驚きで尻もちをついてる奴すらいた。
シュインッ
「……!!」
カズマは剣を抜き、疾走する。人々の間を縫って、振り下ろされようとしていた剣を右手の剣で弾いた。
「あっ…あ…」
「死神…テメェ…!」
ピッ。ストッ…
「グオッ…あッ…」
肩口にピックを投げつけ、刺さった途端、ラフコフメンバーは倒れる。カズマはそれを横目で見ながら、へたれこむ背後のプレイヤーに声をかけた。
「麻痺毒が効いてるうちに縄で縛っとけ。それくらいは出来んだろ。」
「え…あ、ああ…分かった…」
腰から縄を取り出すプレイヤーから目を外して、カズマは辺りを見回す。
どうやら、幸い死者はおらず、なんとか立て直しにかかっているようだ。回復しているやつも、あの調子なら無事だろう。
見ると、先頭で剣を振り続けているプレイヤーが1人。黒衣のそのプレイヤーのおかげで最悪の事態にはならずに済んだようだ。
「さて、仕事の時間だ…」
カズマは、標的目掛けて駆け出した。
ーーーーーーーーーーー
「ハアッ…ハアッ…」
何とか第1波は凌いだキリトは、多少息が荒くなっていたが、すぐに整える。
奇襲されて、1度は瓦解しかけたが、何とか持ちこたえたようだ。捕縛に成功したものが何名か見受けられる。
すると、キリトをいきなり無数の剣筋が襲う。
「…ッ!」
何発か弾いて、バックステップでかわしてからキリトは初めて相手の姿を見る。
ボロボロのフードを被った黒色の姿。それは下っ端連中とかわらない。
だが、フードの奥。それは生身の顔ではなく銀色の装甲…いや、仮面に鈍く光る赤い眼。
こいつは、会議に出ていた…
「《赤眼のザザ》…」
「ほう、黒の、剣士サマに、知られて、いるとは。俺も、有名に、なった、ものだ。」
途切れ途切れの言葉に、これがザザの喋り方であると、キリトは少し経ってから理解した。体勢を立て直して、剣を構える。
「安心、しろ。俺の、武器は、痛みを、感じない。楽な、まま、殺せる。」
「……」
手に持つ細剣…というか
キリトは距離をとりながら、第1手に集中する。
「さぁ、勝負だ。黒の、剣士!!」
「…ハアッ!!」
ーーーーーーーーーーー
「シャム、そっちはどうだ!」
「はい、何とか…。スリーピング・ナイツのメンバーも頑張って押しています!」
響くシュンヤとシャムの声。
シュンヤはシャムの隣を歩いていたため、襲撃後も何とかかなりの近さを保っていた。
おかげで会話での安否も確認出来、シュンヤはそのまま迎撃を続けていた。
シュピッ
「うおァッ!!」
キィンッ
「シュンヤさん!?」
…突然飛んできたナイフを何とか弾いて、シュンヤは飛んできた方向を見据える。
少し離れたところにいた、ズタボロの頭巾を被ったプレイヤーは気だるそうにため息をついた。
「おいおい、あれが弾かれんのか。ないわー。ビーター様方強すぎだって。」
「お前…《毒使い》の…」
「お、俺の事知ってる?そ、俺こそ《毒使いのジョニー》で通ってる、ジョニー・ブラックていうもんだ。以後よろしく。…あ、ここで死ぬから以後はねえか。」
そう言って、自慢げに話す姿は、どこか子供っぽい。そして、ジョニー・ブラックはおねだりをするように言った。
「なあなあ、《烈風》サンよ。アンタの隣にいるそのツインテールの女。俺に譲ってくんねえかな。そしたら、見逃してやらんこともないぜー。」
ジョニー・ブラックが指を指す場所にいるのは、勿論シャムだった。
シュンヤはシャムを隠すように横にズレると、言い放つ。
「悪いが、女漁りなら他でやってくれ。こいつは、死んでも渡さない。」
「シュンヤ、さん…」
「チエッ。ま、そういうと思ったけどよ。あー面倒くせー。男をなぶり殺したって面白くねえのによ。」
そう嘯くジョニー・ブラック。
「ま、殺して奪えばいいだけか。」
シュンヤはため息をついて、こう呟いた。
「…俺、こんなメインの奴ら相手にするの苦手なんだけど…」
ーーーーーーーーーーー
カズマは3人目をピックで刺して、戦闘不能にさせる。それと同時に、突進してくる物体に気付き、すかさず剣でブロック。
突進が止まったところで剣で弾いて距離を取る。
尚も剣を構えてから、相手を見て、カズマは呟いた。
「よぉ、会いたかったぜ。ショウマ。」
「…本名で呼ばないんだな。」
「ここはアインクラッドだ。リアルじゃない。なら使うのは、プレイヤーネームだろ。」
構えて言い放つ彼に、ショウマは歪んだ笑みを浮かべた。
「まあいい。俺も会いたかったよ、カズマ。貴様をぶち殺す日を今か今かと待ち望んだ。今日この日が来たことを、神に…いや、茅場晶彦に感謝するよ。」
「こんなことで感謝されるなんざ、あの男も災難だな。」
「御託はいい。」
パチンッ
ショウマの指が軽快に鳴らされ、これの周りに4人のラフコフメンバーが降り立った。
彼らの獲物に見えるのは、塗られたように付着する緑色の液体。間違いなく麻痺毒だろう。
『1発喰らえば即アウト…わかりやすい。』
恐らくショウマはカズマを殺すため、1人では相手にならないのを分かっているためこうして数で埋め合わせようとしているのだ。
実は、カズマ自身、麻痺毒持ちの5人組と戦った覚えはない。麻痺毒というのは厄介で、1発当たる=死を現す。
「さぁ、蹂躙の時間だ。」
歪んだ笑顔。それにカズマは少し止まる。
突進するのも脳なしというもの。ゆっくり相手の出方を図る。
そして…
ジリッ
「…ッ…!!」
ラフコフメンバーが足をズラした直後、両者は動く。
「フッ…!!」
1人目を弾いて、2人目を受け流し、3人目を避けたところで…
「セアアァァァッ!」
4人目の剣を迎え撃った。
衝撃、轟音。
弾かれた剣が宙を舞う。
ラフコフメンバーの片手剣が、モンスターエリアへと落ちていく。
「安心しろ。」
彼の剣が爛々と、赤黒く光る。
「問答無用で、全員豚箱にぶち込んでやる。」
ーー戦いの幕が、今、上がった…ーー
これまたハイペースで投稿しすぎてある時から1年ぐらい空いちゃうパティーンだな。