「帰ってきた…この世界に!」
俺が今いるのはソードアート・オンラインの舞台となっている浮遊城《アインクラッド》の第一層にある《始まりの街》。ベータテストで見たことのある建物がベータテストとほぼ同じところに設置されている(多少変化しているものもあるが)。
まだ正式サービス開始から間もないが休日のお昼とあってたくさんのプレイヤー達がログインしてきているようだ。
こりゃすぐに武器屋や道具屋はいっぱいになっちまうな、と考えた俺はさっそくその二つに行こうと走り出した…のだが。走り出した俺の肩を何者かが掴んでくる。俺はほぼ反射的に後ろを見るとそこには一人の男性プレイヤーが立っていた。装備は俺と同じ初期のものをつけており、武器はまだ購入していないのかどこにもない。俺はこいつのこれまでの行動と格好から見てマッハでこういう結論にたどり着く。
あ、こいつニュービー(初心者)だな、と。さらに少し視線を上げると現実世界ではありえないような優美な顔が見てとれる。髪は赤く染め上げられその長い髪に趣味の悪いバンダナが巻き付けられている。俺はそこまで考えてからようやく第一声を発する。
「えっと…何か用、かな?」
するとバンダナ男はニカッと笑うと
「その迷いのねえ動き…あんたベータテスターだな⁉︎ちょいと俺にレクチャーしてくれないか?」
と、まあ俺が大体予想していた提案をしてきた。
俺はこの男の提案に乗ったものかどうか迷った。ニュービーの指導と言ったら確かにいいこともある(教えたそのプレイヤーが強くなった時にお礼を言いに来たりしてくれたら悪い気はしないし)。だが俺はベータの時にあった嫌な出来事が頭に引っ掛かって仕方ない。
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あれはベータテストの初日、武器屋にも道具屋にも行き、モンスター狩りをしていた俺に一人の男性プレイヤーが俺に声をかけてきた。名前は確か《シュンヤ》だったか。
彼は俺に「レベリングやソードスキルの出し方がわからないから教えてくれ」と頼み込んできた。どうやらゲームはそれなりにやってきたらしいがVRMMOは初めてだと言っていた。
俺は自分も慣れてないくせに、断ることもできずに「いいよ」と答えてしまい、この後後悔することになった。
このシュンヤというプレイヤー、とてつもなく教えるのに時間がかかったのだ。
まあ、レベリングのやり方はすぐにできた。だがソードスキルに繋げるための通常技の出し方が全然覚えられてなかった。
結局指導は2、3時間ほどかかってからようやくあちらが通常技をマスターし、俺は攻略に出遅れたのだ。
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俺はそんな苦い思い出を思い出しながらバンダナ男に一つだけ質問する。
「…あんた、VRMMOは初めてか?」
「そうだな…ゲームはそれなりにやってきたけどVRMMO自体は初体験だ。」
「そうか…うーん…」
どうしよう。迷うな。正直このまま断って次の街に行くという手もあるにはある。だがそれをすると彼への罪悪感は否めないものとなってしまう。
『うーん…でもまあ俺たちに変わって指導できる人が出てきた方が後々楽になるのか…だったらプラマイゼロだな』
俺は数秒間たっぷり悩んでから言葉を発する。
「わかった。教えるよ。」
「おお!すまねえな!」
「いや、良いさ。別にそんな手間のかかることでもないし」
俺は自分がなぜ痛い目にあったレクチャーをOKしたか大体予想はついていた。それはおそらく時間の問題だと思う。
俺が前にレクチャーしたベータテストのときは一か月という時間制限があり俺はかなり焦っていた。
この世界で《最強》を目指すには時間を無駄に使っていられなかったから。
だが今は違う。
時間制限も存在せず、焦る必要はどこにもない。
俺は少し笑い、身を翻す。
「それじゃあ、まずは武器を買いに武器屋に行こうか。」
「おう!道案内、よろしく頼んだぜ!」
「お前は、どの武器にするんだ?」
「へ?どのとは?」
「種類だよ。種類。」
この世界には片手剣、細剣、曲刀、両手剣、片手棍等々といったバリエーションに富んだ武器が多数存在する。初期にどの武器を選ぶかでかなり、後々の自身のスキル構成が変わってくる大切なことなのだ。
「うーん…俺は曲刀にしようかなと思っているんだが…」
「良いんじゃないか?曲刀ってしつこく修行してるとカタナスキルが出現するらしいしな。」
「え⁉︎マジで⁉︎」
「あくまで噂だよ。その手の嘘話ならそこらへんに転がってるぜ。だからお前も気をつけろよな」
「わかった。忠告、受け取っておくよ。そういえば自己紹介がまだだったな。俺はクライン。お前は?」
「俺はキリトだ。よろしくな、クライン。」
「ああ、よろしく頼むぜ。キリト。」
俺とクラインは熱い握手を交わした。
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ズドムッ‼︎
子イノシシの頭がクラインの股間にダイレクトでぶち当たる。うわあ、と俺はしばし口を開けてしまう。
「ぐふう…‼︎」
クラインが股間を押さえながら縮こまる。
「仮想世界なんだから痛みとかあんまないだろ。むしろ立った方が痛み和らぐと思うけど。」
「ほ、ホントかよ…」
「ホントホント。試したらわかるって」
クラインは渋々立ち上がりその場で二度三度ジャンプする。
「あれ、ホントだ。痛みが消えた。」
俺はふうっとため息をつく。
俺たちは武器屋から道具屋に行った後少しの説明をしてからフィールドに出た。二、三体ほど子イノシシの倒し方を俺が実演を交えて説明したのだが、これまたクラインが全然勝てない。攻撃を当てようと剣を振り回せば空を切り、ガードしようと剣を自分の前にかざすと悠々と弾かれる。
「キリトよう。もう一度ソードスキルの使い方教えてくんねえか?」
「良いけど…何度もやったろ?」
「そうだけど…全然出ないんだよ。スキルが。」
ソードスキル。他のゲームでいう必殺技のようなもの。この世界には魔法というものがないので殆どソードスキルで戦うしかなくなってくるわけだ。
俺は小石を拾い上げ先ほどクラインの股間に頭突きを食らわせたやつをフォーカスして腕を持ち上げる。
「だから、1、2、3じゃスキルは発動しないぞ?こうやって、スキルが立ち上がるのを感じたら…」
俺は腕を振り下ろす。すると小石が一気に加速し一筋の流星となり子イノシシの土手っ腹に直撃する。
「ズパーンッ、と」
「ズパーンッとってお前…簡単にやるけどさあ」
「クライン、持ち手はそのままで剣を肩に担がせて肘をあげてみな。」
「こうか?」
「そうそう。それで力を入れてみな。」
「…ッ」
クラインの曲刀の刀身が黄土色に染まる。
「でやあ‼︎」
ささやかな気勢とともに剣がまっすぐ繰り出される。剣が水平な軌跡を描く。曲刀ソードスキルの初期技《リーパー》。
俺が教えたのはそのスキルを出すための構えだった。クラインはソードスキルを打つことにハマったのかバシィ!バシィ!と何回も繰り返し発動している。
「どうだ?癖になるとやばいだろ?」
「ああ、めっちゃ気持ち良いな、これ!」
そりゃあそうだろうおそらく漫画やゲームをしてきた殆どの人が憧れてきたであろうことをできているのだ。気持ち良い以外の何物でもない。
「さて、もうそろそろ5時だけど。まだ続けるか?」
「良いねえ、と言いたいとこだけど…」
クラインがぽりぽり頭を掻く。
「俺5時10分にピザ頼んであるんだわ。だからとりあえずここで落ちるわ。」
「用意周到だな。」
さすがはネットゲーマー。
「いや、今日はあんがとな。また飯でも奢らせてくれや。」
「楽しみにしとくよ。」
俺自身もウィンドウを出す。
「そうだ、キリト。俺とフレンド登録しねえか?これからちょくちょく相談とかするかもしんねえから。」
「ああ、良いよ。」
「サンキュー!」
するとすぐにフレンド申請が飛んでくるので⚪︎ボタンをタップ。フレンド登録が完了する。
「そんじゃまたな!これからもよろしくな!」
「ああ、またな。」
クラインがもうログアウトすると言っていたので俺もログアウトしようとウィンドウを開く…直前にクラインのこんな変えが聞こえた。
「あれ?ログアウトボタンがねぇよ。」
そしてその言葉とほぼ同時に鉦の音が鳴り響く。
リンゴーン!リンゴーン!
その音を聞いた途端俺たちの体は淡いブルーの光に包まれ視界がホワイトアウトする。
「これは…!」
目を開けた俺の目に映っていたのは…始まりの街の大広場。
「強制転移⁉︎」
さて、次話は和真くんの出来事です。お楽しみに〜♡アデュー♡