ソードアートオンライン 〜鋼鉄の記憶〜   作:誠家

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第39話 生き地獄

「ヒィヤッハー!」

ヒュバッ!

 

2本のナイフがシュンヤに凄まじい速度で襲いかかる。それを彼は…

 

「ゼヤッ!」

 

少し危なげなくもしっかりと弾き、ジョニー・ブラックを見る。

しかし、先程までの場所に彼はおらず、少し左から、またナイフが襲いかかる。

 

「グッ…!」

 

これも弾くが、しかしまた先程の場所にジョニーの姿はなく、更にナイフが襲いかかってくる。

 

先程から彼らの戦闘はこのような状態がずっと続いていた。近距離武器と中距離武器の戦いではどうしてもこのようなアドバンテージが生まれてしまう。

 

シュンヤも切り込みたいのはやまやまだが、ジョニーは身長も小柄で体全体が他の者たちと同色のため、紛れられるとどうしても見分けづらい。

シュンヤにとっての完全アウェイとなっていた。

 

「クッソ…!」

 

呻くシュンヤ。

そこで、戦況に異変が訪れる。

彼の後ろから近づいていたラフコフのメンバーが、彼の両手を拘束したのだ。

 

「しまっ…!」

 

両手を絡め取られたシュンヤは、そのまま右手の刀も落としてしまう。

 

「シュンヤさん!」

 

シャムが駆け寄ろうとするが、しかしそこもラフコフメンバー2人に遮られる。

 

「ワ〜ンダウ〜ン〜。」

 

そんな抜けた声と共にシュンヤに近づいてくるジョニー。楽しそうな声でクルクルと指の上でナイフを回す。

 

「さすがに俺一人じゃあんたにゃ勝てねえからな。こうすんのも作戦だろ?」

 

シュンヤは腕を捻ることで抜け出そうとするが、どうしてもAGIに大半を振っているシュンヤのステータスでは振り切れない。

 

「やめとけ、その2人は俺らの中でもかなりのパワー自慢だ。受け入れて死んだ方が楽だぜー?」

 

そう言うジョニーは笑いを隠し切れていない。ニヤニヤとしたズタ袋の下の顔が見えるようだった。

 

「ま、どの道死ぬんだけどな!」

 

麻痺毒を塗られたナイフが、またしてもシュンヤに襲いかかった。

 

ーーーーーーーーーーー

 

突きと薙ぎ。

2つのソードスキルが交錯する。

 

赤と緑。

それぞれの光が当たりを照らし、やがてその2つは離れる。

その一方。ザザはふむと自身の武器(エストック)を見た。

 

「やはり、この、程度では、殺し、きれないか。さすが、だな、黒の、剣士。」

 

その言葉に、キリトは答えない。

ただ、相手の次手を予測することだけに集中していた。

それに、ザザは嘲笑で返した。

 

「ふっ、答え、ないか。俺を、倒すことしか、頭に、ない。…いや、それしか、見えて、いない。」

「…どういう意味だ。」

「そんな、ことだから、お前は、何も、救えない。自分の、ことしか、考えて、いないから、()()()は、何も、出来ない。」

「…ッ…!?」

 

瞬間、蘇る記憶。

忘れたことは無い。ただ、変えたかった過去。彼が、自身のことしか見えていなかったために、彼方に消えた、《彼女たち》の最期。

 

「図星、だったか?」

 

挑発するような言葉。

キリトは、詰める。彼と、ザザの距離を。

 

「ア''ァッ!!」

 

そこで、ザザはエストックを黄緑色に染める。

 

「質より、量だ。」

ヒュバッ!

 

凄まじい速度でキリトの体にエストックが叩き込まれる。

 

「グッ…オッ…」

 

8連撃高位ソードスキル《スター・スプラッシュ》。

《閃光》アスナの得意技であるそれを、ザザは見事に彼の体に命中させた。

キリトのHPが、4割ほど減少する。

飛び退りながらも、キリトは頬の傷を撫で、剣を構え直した。

 

ーーーーーーーーーーー

 

「おい、そちらの主力2人が劣勢みたいだぜ。援護に行かなくていいのか?」

「あ?鍔迫り合いしてんのに行けるわけねえだろ。それとも、今すぐのいてくれんの?」

「今すぐ俺を殺せばいいだろ。そうしたらこうしてる事はなくなる。」

 

「安心しろ。言ったろ?豚箱にぶち込んでやるって。」

 

「……」

「それに、俺はあの二人を信用してる。ぼっち同士、いつも一緒にいるんだ。あの二人の事は、俺が1番よく知ってるよ。」

 

「ハッ、今すぐそのお喋りな口を閉じてやりたいな…!」

「ああ、そうだな。」

 

ギイイィィィィンンン…!

 

「…!?」

「そろそろ、終わりにしよう。」

 

ーーーーーーーーーーー

 

「へ?」

「ア?」

 

シュンヤに当たるはずだったナイフ。

それは、彼の左腕を掴んでいたラフコフメンバーの背中に命中していた。

 

「あ…が…」

 

動かなくなった彼を見ていたジョニーともう1人のプレイヤーは、突然の事態に頭が動かない。

その隙を見逃さず、シュンヤは右腕を掴んでいたプレイヤーの襟首、腕を掴んだ。

 

「…セイッ!!」

 

そして、そのまま思いっきり叩きつける。

すると、多少のHP減少の後、低スタンの表示。

シュンヤは流れるような動きで転がっていたプレイヤーの背中のナイフを抜いて、叩きつけた方に刺す。

 

そうして麻痺したプレイヤーを2人作ったシュンヤは、手をパンパンと払いながら、ジョニーを見た。

彼は、未だに現実に追いついていなかった。

 

「お、お前…何をした…」

「何って…ただの柔術ですよ。まあ、柔道技って言った方がわかりやすいですか?《向こう側》で経験があるもので…」

 

彼はまず、左側のプレイヤーを足を払うことで転ばせ麻痺させ、右側のプレイヤーを一本背負いでダウンさせた後に麻痺させたのだ。

 

…柔道経験者の彼にしか出来ない、荒業だった。

 

「は…ハハハッ…なんだそりゃ…」

 

笑うジョニーに、刀を拾い上げたシュンヤは…

 

「…ッ!」

 

問答無用で切り付ける。

1太刀でジョニーの両手を切り落としたシュンヤは、そのまま左手でジョニーの首を掴み持ち上げた。

 

「グエッ…!な、何すん…ッ…!?」

「いえ、そのまま逃げられても困るので。」

 

シュバッ!

 

「足も落としておこうかと。」

「グアアァァァァッ!!」

 

そして、そんな状態のジョニーを落とすと、這い逃げようとする彼に、シュンヤは落ちていたナイフを突き立てた。

 

「ギエッ…!?」

 

現れる麻痺アイコン。

 

「あ、言い忘れてましたね。」

 

動けなくなったジョニーを見下ろして、シュンヤは一言。

 

「…次シャムにおかしな真似しようとしたなら、」

 

 

「問答無用で殺す。」

 

 

沸き立つ彼の、静かな怒りが、垣間見えた瞬間だった。

 

ーーーーーーーーーーー

 

「…」

 

肩口のキリトの傷を、彼自身が見ながら思考する。HPはイエロー手前で止まってはいるが、このまま一気に削られてもおかしくは無い。

なら、

 

『…初手が勝負か。』

 

そう考えるキリトは、抑えていた肩口から左手を離すと、ゆっくりと構える。

今、この戦いに割り込むものはいない。

 

相手は、目の前の仮面男だけだ。

ならば、意識をそこだけに向ける。

 

「ほう、いいだろう。受けて、立って、やる。」

 

ザザも構えて、キリトと彼の勝負は、ソードスキルの撃ち合いであることが分かった。

そして…

 

「…」

 

ザザの仮面の奥の口に笑みが浮かぶ。

瞬間。

 

「キエエェェェェッ!!」

 

背後から聞こえる奇声。

それは正しく、ラフコフの闖入者。

横目で見ると、そこには剣を振り上げるズタボロな装備のプレイヤー。無意識にそちらに体を向けかける。

 

「セアアァァァァッ!!」

 

だが、そこに更なる闖入者。

流麗な茶髪と赤色のスカートをたなびかせ、凛とした声と共に、ザザを超える速度の斬撃を繰り出すプレイヤー。

 

「キリト君!!」

 

彼女…アスナの声に、キリトは「ありがとう」と答えて、ザザと対峙する。

 

ザザは舌打ちをしながらも構えた。

 

…動き出しは、同時。

 

キリトは剣を黄緑色に染めて、宙を翔ける。

ザザはそんなキリトを待ち構え、エストックを引き絞る。その刀身は、赤。

 

片手直剣突進技《ソニック・リープ》

細剣4連撃技《カドラプル・ペイン》

 

『こいつの剣技は、確かに速い。…けど。』

 

「アスナやシュンヤに比べたら、なんて事ない!!」

 

叫び、一閃。

パキイイィィィィン…

ザザの2連撃目以降が繰り出されることは、なかった。彼のエストックが半ばから叩き折れたからだ。

 

「バカ、な…」

 

すかさずウィンドウを開くが、

 

トスッ

「グッ…」

 

背中に刺さる、キリトのピック。

そのままザザは倒れ込んだ。

キリトはそれを見送ると、次の目標に走った。

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

討伐パーティーが出発しておよそ1時間が経過した頃。

ラフコフの数も少なくなり、戦いは落ち着きを見せていた。

そして…

 

「ここまでだ、ショウマ。」

 

カズマの戦いも、終わりに近付いていた。

HPがイエローとレッドの合間くらいで止まっていたショウマは、肩で息をしながら、カズマの顔を見る。

 

「ハッ、数人がかりで相手をして、これかよ…これだから、部下は使えない…」

「…」

「…まるで、昔と一緒だな。」

 

剣を突きつけられながら、ショウマは笑う。

 

「所詮、力ねえ奴は何人かかっても力ある奴には手も足も出ねえってことかよ…」

「ショウマ…」

 

だが、ショウマは…

 

 

「…けど、傷跡ぐれえは残せる。」

「…あ?」

 

 

そう言って、大きな笑みを浮かべた。

そして、ポーチから結晶を取り出す。

それは、記録結晶…ーー

 

「なあ、カズマ。ここには、《あるプレイヤー》の音声が入ってる。」

「あ…?だから何だよ。」

「それも、殺す直前の音声だ。…興味深いんじゃねえか?」

 

「お前にとっては尚更、な。」

カチッ

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

『おい、何する!麻痺毒を解除しろ…!』

『あー、うるせえなぁ。お前のお友達同様お喋りなのか?』

『友達…?誰のことだ。』

『おいおい、カズマ君のことに決まってんだろ?』

『…確かにあいつは友人だが、お前らのことは知らない。』

『ハッ、この紋章を見ても言えるか?』

『…ッ!?それは、ラフィン・コフィンの…!』

 

ーーーーーーーーーーー

 

「…ドナウ…」

カズマは結晶を見ながら、呟く。

それは、名前。かつて彼が亡くした、友人のプレイヤーネーム。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

カチッ

『やめろ、やめろ!』

『おいおい暴れんなって、殺しにくいからさ。』

『ふざけるな!お前らの身勝手で、こんな…』

『じゃあな。恨むなら、お前の《お友達》のカズマを恨めばいい。』

ドシュシュッ!

『グアアァァァァッ…!!』

カシャアアァァァンッ…!

 

ーーーーーーーーーーー

 

「なぁ、どうだよおい!お前の大切な《お友達》が死んだ理由が、自分だって知ってどんな気分だ!?」

「…ッ…!」

「お前を大切に思ってたプレイヤーが、お前のせいで殺されるなんてな!?…ハッハッハッ!どう思うよ桐ヶ谷和真!!」

 

響くショウマの哄笑。

動けないカズマ。

そこに、1人のプレイヤーが近付いてくる。

 

「テメェ…ざけんな!!」

 

赤く逆立った髪のそのプレイヤーは、ショウマの襟首を掴むと、顔を近付ける。

 

「俺のダチの大切なダチを殺しておきながら、それはカズマのせいだと!?舐めた発言もたいがいにしやがれ!」

「勝手に入ってくんなよオッサン!部外者はすっこんでろ!」

 

ショウマはクラインの手を払う。

 

「俺はこいつに人生を滅茶苦茶にされたんだ!なら、俺もこいつの人生を壊す権利があるのは当然だろ!!」

 

最悪の暴論に、クラインが拳を握った。

 

「テメェ…!」

「よせ、クライン!!」

「放せエギル!1発殴らせろ!」

 

 

 

「クライン。」

 

 

激昴するクライン。叫ぶエギル。

その2人を、カズマは静かな声で黙らせる。

 

「…悪ぃ。ありがとな。」

 

訪れた静寂を、カズマはウィンドウを操作する音で破る。

彼は、持っていた赤い剣を装備解除した。

 

「お、おい…カズマ…?」

 

困惑するクライン。

見守るエギル。

ショウマは挑発するように声を上げる。

 

「ハッ!やっぱりお前はクズ野郎だな!《たかが》友人を殺されたくらいじゃ怒りもしねえって!?俺を殺そうとも思わねえとはなぁ!この根性なしが!」

 

カズマは、何も言わない。

ただ、ゆっくりと息を吐き、それを2度繰り返す。彼の動向を討伐パーティー全員が見守る中…

 

 

 

カズマは、遂に動く。

 

まず、腰のピックを投擲。ショウマの肩口に命中。

 

「…あ?」

 

倒れ込むショウマ。

そのまま、カズマは何を考えたのか。

 

「ヒール。」

 

回復結晶を取り出して、ショウマをヒールした。

 

「お、お前…何を…」

 

そして、HPが全回復したショウマをカズマは襟首を掴み立ち上がると…

 

 

バキッ!

「グエッ!?」

 

 

1発、殴る。

彼の拳は、そこでは終わらない。

2発、3発、4発…。

その拳を、STR全開の拳をショウマに叩き込み続ける。

 

「アッ、ガッ、ガアッ…!!」

 

そして、HPがイエローに突入した。

 

「アッ…」

 

ショウマが安心したような表情をうかべた。

 

…のも束の間。

 

「ヒール。」

 

瞬間、全快するHP。

普通なら安心する光景。それは、ショウマにとっての生き地獄の開始の合図だった。

 

「ヒァッ…!?」

ドカッ!!

 

なおも続く殴打の束に、ショウマは涙を流し始めた。

 

「や、やめ…っ」

バキィッ!!

 

カズマは答えない。ただ無言で彼に拳を叩き込む。その目は酷く冷たく、彼を睨めつける。

 

「ああ…アァッ……」

バギィッ!!

 

 

 

結果として、そのその殴打は10分以上も続いた。それは、カズマのポーチの回復アイテムが無くなったタイミングであった。

そのカズマの行為に対して言葉を発する者はおらず、彼がショウマを回廊結晶で牢屋に送り付けた瞬間に、この戦闘は終わりを迎えたのだ。

 

 

最終報告

 

生存者

攻略組・45人

ラフコフ・11人

 

 

死者

攻略組側・15名

ラフコフ・29人

 

 

なお、キリト、カズマ、シュンヤが殺害した数は、0名である。




2月5日。
それは、最悪のレッドギルド《ラフィン・コフィン》壊滅の日としてアインクラッド全プレイヤーの記憶に刻まれた。
アインクラッドが歓喜に湧き、攻略組を称えた。
そして、その日を境に…

《死神》カズマは姿を消したのだ。
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