ソードアートオンライン 〜鋼鉄の記憶〜   作:誠家

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「よお。」
「なんだよカズマ、こんなとこに呼び出して。」

シュンヤとキリトの声に、座っていたカズマはゆっくりと顔を上げた。そして…

「お、おい!どうした!?」
「え?何が?」
「カズマお前…いつから寝てないんだ…!?」

2人は、彼のその疲弊しきった顔に戦慄し、動揺する。
カズマは目元を擦りながら…

「ん、ああ…気にすんな。今日呼び出したのはその要件じゃない。」
「いや、気にするだろ…」
「大丈夫。」
「大丈夫てお前…」
「大丈夫だって。」

パシッと、カズマはシュンヤの手を払う。
気だるそうに、右手で顔を覆ってため息をつく。

「この用終わったらちゃんと宿に帰って寝るから。あまり心配すんな。」
「…分かった。」

シュンヤは一歩下がる。

「…で、話ってなんだ?クエストの手伝い…じゃないんだろ?」
「あぁ…そこは間に合ってる。それよりも…」

カズマはウィンドウを開いて、数度操作すると彼の目の前に巻かれた紙が出現する。
それをキリトに差し出す。

「とりあえず、これを見てくれ。」
「これは?」

「ラフコフ討伐作戦の概要。」

「…!?」
「お前それ…!」

カズマの何気ない言葉に2人は戦慄する。
カズマは取り出したパンを齧りながら、説明を始める。

「一昨日、匿名で情報屋のネットワークにタレコミがあった。一応裏付けも済ませてるし、ガセネタじゃねえことは立証済みだ。」

そう淡々と告げるカズマに、しかし2人は驚きはない。むしろ今の今まで見つからなかったのがおかしかったのだ。

「作戦って言っても、レッドプレイヤー達を捕縛、監獄に送還するだけだけどな。」
「…話は分かった。それじゃ、4日後の作戦開始までに準備しとけばいいんだな?」
「いや、作戦開始前日に血盟騎士団のギルドで作戦ミーティングがあるからそれに参加してくれ。…ちなみに、絶対参加な。」

それに、作戦参加するならという言葉も含まれていたが、2人は深く聞かない。
何故なら、このような機会があれば確実に参加すると心に決めていたからだ。

「分かった。準備しとく。」

カズマの言葉に、キリトは呆れ笑いを浮かべてそのまま後ろをむく。

「じゃ、俺はこれから攻略に行くから。カズマ、3日後にな。」
「俺も少し予定があるから、これで。カズマ、またな。」
「おおーう。達者でなー。」

3人は、そんな抜けた声で解散した。

そしてこの四日後、カズマは彼らの前から姿を消したのだ。


第40話 捜索

「ハァ、ハァ、ハァ…ッ…ハァ…」

 

動きっぱなしの体を、迷宮区の壁に預けて、ゆっくりと座り込む。

ここではあまり機能していない心臓がうるさく動く。流れていない血液が、熱くなるような、そんな気がしていた。

 

カズマが居るのは、迷宮区56層。最前線の場所でソロ狩りを数時間ぶっ通しで行っていた。しかも迷宮区での寝泊まりも3日目だ。

街に戻りたい。圏内に戻って、安心の休息を取りたい。仲間と、馬鹿話で騒ぎたい。

 

だが、出来ない。

 

足が圏内の方向に向くと、どうしても竦んでしまう。

もしまた、俺と関わることで、その人物に危害が加えられたら…キリトやシュンヤ、アスナやアルゴ、スリーピング・ナイツの面々。そして何より、ウッドとランとユウキに対して報復されてしまうと考えると、その時点でカズマは、足が竦む。

 

あそこには、居てはいけない。

そんな気がして、動けない。

 

チャリッと、胸に何か音がする。

そこにあるのは、首にかけられたチェーン。そこにぶら下がる一つの指輪。

 

紫色の宝石をはめ込んだそれは、クエストで手に入れて恋人に渡そうと思っていた、だが色々ありすぎて渡せなかった《プレゼント》。

今では、それを渡すことすら、億劫になっている。

だからこそ、俺の足はまた、迷宮区の方に向く。剣を取り、重い足を引き摺って、俺の体と心は、未開拓の迷宮区へと引き込まれるのだ。

 

「…クソッタレ…」

 

 

「セアアァァァァ!!」

 

迷宮区内をソードスキルの光が照らし出す。

ゴーレム型モンスターの振り抜いた腕と交錯し、激しいスパークを散らせた。

 

「ボォォォォォオオオオ!!」

 

そのまま片方の腕も対峙するプレイヤーに振り抜いた。

それをプレイヤーはバックステップで回避すると、そのまま剣を肩に担ぐ。

瞬間、響く轟音と、紅い輝き。

それに何かを感じ取ったのか、ゴーレムは腕を引いて、そのまま突進して来る。

1歩。2歩。

そして、3歩目。

響く足音が、彼の剣の音で塗り潰される。

 

「ボォォォォ…!」

 

4歩目が踏み込まれる、直前。

 

「…ッ!!」

 

プレイヤーが動く。

赤い閃光がゴーレムの体を貫く。

それだけで、半分近くあったゴーレムのHPバーが消し飛んだ。

ゴーレムの体はポリゴンとなって、四散した。

 

「ふぅ…」

 

黒衣のプレイヤー…キリトは、剣を振ってから鞘に戻す。

彼がいるのは、第五十六層の迷宮区。

その中でもかなり進んだところの回廊であった。いつもならこんな所でもソロでこもっている彼であったが…

 

「…」

 

今日は、ツレがいた。

後ろを向いて、少し歩き、近くで戦闘を行っていた数名に近づく。

そこに居たのは、赤い和装のプレイヤーと同じ紫色の髪を持つ、2人の女性プレイヤー。

 

彼らも相手にしていたゴーレムがをポリゴンに変えて、それぞれの獲物を鞘にしまう。

 

「お疲れ。」

「キリトさん。そちらも終わりましたか。」

「ああ、一体だから楽だったよ。」

 

そう言って少し笑うと、キリトは少し引き締めて問う。

 

「さて、一応聞いとくが…これまでの道中でカズマを目撃したか?」

 

シュンヤは横に首を振る。

 

「それらしい影も、ちょっとした証拠品もありませんでした。まだ先に行ってるんじゃないですかね。」

「かもな。それと…」

 

キリトは後ろを見て、2人の女性プレイヤー…ユウキとランに声をかける。

 

「2人はどうだ?何か見つけたか?」

「私達もこれといった手がかりは見つかってません。」

「結構注意して足元は見てるんだけど…」

「そうか。ならもう少し進むけど、お前ら回復アイテムは大丈夫だよな?」

 

それに3人が同時に頷いて、キリトも頷き返す。

 

「なら、もう少し進もう。しっかりはぐれないようにな。」

 

4人は迷宮区を歩き始めた。

 

ーーーーーーーーーーー

 

このパーティーが形成された経緯には、あまり深いものは無い。

 

ただ、キリトとシュンヤが行っていたカズマの捜索に、ユウキとランが無理を言って入ったという、それだけのことだ。

しかし、それまでの過程には少しだけ一悶着あった。

 

というのも、キリトは他人とパーティーを組むのは基本的にしないようにしている。

シュンヤやカズマとは非常事態(今回のような)に組む時もあるが、それも数としては少ない。一緒にいることが多い2人でさえそうなのだ。

弟の恋人と親友である彼女達に申し込まれた時は、キリトも猛反対した。そして更にそれに対抗して2人が抗議し、更にそれをキリトが押し返した。

そんなやり取りを2、30分ほど繰り返し続けたのだ。だが、最後にはキリトの方が折れて、条件付きで同行を許可したのだ。

 

ここで、皆は思っただろう。

 

それなら攻略組全員で探したら良くね?と。

実際攻略組の中でもカズマの捜索を行うという風潮はあるのだが、1部の《そんなことに貴重な人命を賭すものでもない》という意見から難航していた。

 

ーーーーーーーーーーー

 

「…それにしても、あの馬鹿どこに行ったんですかねぇ…」

「あいつが討伐作戦前にマッピングしてた場所は俺と大して変わんなかったはずだ。勿論いなくなって3日以上経過してるから、それなりには進んでると思うけど…」

 

そう言ってキリトは歩きながらマップを確認する。

 

「ていうか、本当にこの層にいるんですかね?」

「あいつからの情報なら、間違いないだろ。」

 

 

ここで、彼らの中では《圏内》にいるという選択肢はなかった。

そこには、ある情報屋の存在が大きく関わっていた。というのも、彼らは探索に向かう前に情報屋・アルゴから情報を受け取っていたからだ。

キリト達がカズマの居場所の情報について尋ねると、彼女はこう答えた。

 

「なら、料金を払ってもらわないとナ。」

 

…どんな時も、彼女は彼女だった。

 

「お金取るの?」

「知ってるだロ?俺っちは情報屋。どんなものでも《情報》なら、それ相応の等価を示してもらわないとネ。」

 

もはや血も涙もなく、容赦もなかった。

 

「俺っちがタダで請け負う時は、天地がひっくり返った時か、それこそ()()()()()()()()()()()()()()サ。」

「あんのかよそんな時…」

 

キリトの呆れた声に、ユウキがずいっとアルゴとの距離を詰める。

 

「あ、アルゴ…どうしても、ダメ?」

「悪いネ、ユーちゃん。これは俺っちのお得意様とのカターイ契約で成り立ってるんダ。いくらユーちゃんでも、情報は情報だからナ。」

 

そう言って、アルゴは二ヒヒと笑う。

しかし、そこにはいつものイタズラっぽさはなかった。

 

「この前も、どこかの阿呆から俺っちに『絶対に教えるな』って言われた情報を渡されたけど、口止め料も払ってないんだから聞く理由はないんだよナ。」

 

その言葉に、4人はピクリと耳を動かす。

その、《阿呆》からの情報に自然と全員が興味を持った。情報屋が《ポロリ》と()()()情報に食いつく。

 

「…アルゴさん、その情報頂けますか?」

 

ランの言葉に、ここでようやくアルゴのイタズラっぽさが戻る。

 

「ンー…タダで渡してもいいんだけど、情報屋としてじゃなく、《友人》としての俺っちの信用を無くしかねないからナァ。ここはお金だけじゃ承れないかナァ。」

 

そう言ってニヤニヤと笑う彼女に、ランは…

 

「分かりました、もし教えてくれたら私とユウキがなんでも1つずつ言うことを聞きましょう。」

 

そんな、爆弾発言をした。

これには、さしものキリトとシュンヤ、そして、アルゴさえもが驚いたように目を見開く。

しかしすぐにアルゴはそれを直すと、笑う。

 

「へぇ…本当に大丈夫かナ?教えたら拒否は出来ないけド…」

「ええ。大丈夫です。私達の中では自分と同じくらいカズマさんは大きい存在なんです。彼についてのことなら、この身を差し出すことも厭いません。」

「アルゴさん、教えて。」

 

いつの間にかアルゴの前に移動したユウキがその身を乗り出すと、アルゴは少しの間の後…

 

「ニャハハハハハハハハ!ニャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

お腹を抱えて大笑いする。

近くの大通りを通る通行人達が少しこちらを見るが、すぐに素通りしていく。

 

「や…ごめん…まさかそう来るとは思わなくて…」

 

クククッとなおも笑いながら、彼女は目じりに浮かんだ雫を拭う。

 

「…大事なんだナ。カズ坊のことが。」

 

もはや隠す気もないのか、アルゴがそう問うと。ユウキは胸を張って、答える。

 

「大事だし、大好きだよ。」

「私も、同じです。」

「そっか…こんな美人2人を手懐けるトハ…カズ坊も隅におけないナァ…」

 

呆れつつも、笑うアルゴは首を振るとランとユウキを見た。

 

「ま、美人2人を1回好きにできるってことで、今回は手を打とうカ。…そこの男2人が得したみたいで癪に障るケド…」

「ギクッ…ま、まあこれからも贔屓にするし、許してくれよ…」

「あ、アルゴさんに好きにされると…捕食されそうですし…」

「俺っちもそこまで節操ないわけじゃナイ。それに、2人に手出したらアーちゃんとシャーちゃんに殺されちゃうヨ。」

「?なんでその2人が出てくんだよ。」

「?」

「さー、鈍感(バカ)2人はほっといて情報取引ダ。」

「そうだねー。」

「鈍いってある意味罪ですよね…」

「あ、アルゴ待てよ。2人まで。おーい…」

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

「…」

 

カズマが今いる場所は、迷宮区最奥の小部屋の1つ。と言っても、そこに入る手前の壁に張り付いていた。

その理由は単純。

 

今、小部屋の中にいるプレイヤー達に気付かれたくないからだ。

元々、この部屋もマッピングするためによった所だったのだが、ヒソヒソとした話し声が聞こえて、くせとも言える速度で彼は壁に張り付いた。

 

というのも、レッドプレイヤーを大量に相手にしているとこういう行動も増えてくるため、どこか体に染み付いていた。

というか、最前線のこのようなところでヒソヒソと話をしているあたり、怪しさしかない。

カズマは出来るだけ小部屋の入口に近付き、聞き耳を立てる。

 

「…尾行は無かったか?」

「…当たり前だろ。安心しろ、ちゃんと確認してきた。」

「けどまあ、血盟騎士団も聖竜連合もこの層はまだあまり攻略出来てない。頼みの《スリートップ》の1人も今行方不明だからな。」

「…しかし、《このアイテム》は便利だな。まさか無条件で迷宮区の最奥に行けるなんてよ。」

「ああ、面倒なモンスター退治をしなくて楽チンだな。」

 

およそ5人、だろうか。それと、全員男。

声色を聞くだけだとそれだけしか分からない。全員あまり面識はない、聞いた事のない声だった。

 

『この層のここまで来てるってことは、かなりの高レベルか…?いやでも、無条件で奥に行ける…?それに、血盟騎士団や聖竜連合の情報を知ってるって…?』

 

あまりの情報量に少しこんがらがりそうになるが、カズマは何とか整理しようとする。

…そこで、無視出来ない話が行われる。

 

「それより、例の件は上手くいって良かったな。」

「ああ、いい感じにアジトの密告も出来た。《あの方》の計画通りだ。」

「俺としちゃ、目障りな《攻略組》とラフコフがまとめて削れたから万々歳だけどな。」

「ま、そうだな。」

 

彼らの笑い声が響くと共に、カズマの頭は整理されていく。何も無かった空間に、新たなピースがはめ込まれ、1つの《仮説》が誕生する。

 

「…まさか。」

 

カチリ、と何かがハマる。

そんな感覚を覚える。

そして、その瞬間。

 

「…ぁ…ーー?」

 

カズマはゆっくりと倒れ込んだ。

 

俺はチラリと自分のHPバーを確認する。

そこにあったのは、光る黄色いアイコン。

麻痺を知らせるそれを見て、更に小部屋とは逆の方向から聞こえる足音に視線を向ける。

 

「盗み聞きとは、随分いい趣味してんな。」

 

顔は、フードで見えない。

声で男だと分かるが、それだけだ。

おそらく先程の俺への攻撃でオレンジカーソルへ変わったのだろう。

 

『しくったな…』

 

思わず集中力を欠いた。

いや、ひとつのことに集中しすぎたと言うべきか。

そして、集まってくる小部屋の5人。

俺には奴らの声が聞こえなかった。

疲労した脳と、麻痺した体が何も動かなくなったのだ。

やがて、プレイヤーの1人が俺を肩に担ぐ。

そして、6人は歩き出した。

俺の首から重力に従って何かが落ちる。

 

「…すまん、皆…木綿季…」

 

カチャリという音と、そんな声が重なった。

 

ーーーーーーーーーーー

 

「あわわわわ…」

 

ヒョコリと、落ちた指輪の影から、ヒョコリと顔を出す、1匹の妖精。

白い髪を持つ彼女は、震えながら去っていく6人を見つめていた。

 

「まずい…非常にまずいわ…。」

 

やがて、彼らが闇に消えると、妖精は飛ぶ。

あるプレイヤー達の元に向かって。

彼らがいることは、《反応》で分かっていた。彼女達にのみ備え付けられているそれを頼りに、彼女は飛ぶ。

 

「カズマ、ちゃんと生きてなさいよ…!」

 

「キリト…!」




最近リアルで忙しすぎワロス
チ───(´-ω-`)───ン
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