カツン、カツン、カツン、カツン…
石畳の廊下を、黒衣の青年が歩く。
それはどこか、迷宮区にも似ていたが、しかし迷宮区とは違い、床に日差しが照りつけていた。
ここは第五十五層の主街区にある、血盟騎士団のギルド。普段は喧騒のあるその廊下も、今はほとんど人気がない。
カズマはその廊下を歩き続け、やがて現れた巨大な扉をノックする。
「どうぞ」と返答が来た後に扉を開けて、入室した。
「よお、ヒースのおっさん。しばらくぶりだな。」
「やぁ、カズマ君。ご足労かけてすまなかった。手短にすませるように努力しよう。」
そう言うのは、赤いローブを纏った白髪の男。どこか大人びた雰囲気なのに、肉体はたるんでおらず、どこかスタイリッシュに見える。
男の名を、《ヒースクリフ》。
ユニークスキル《神聖剣》を扱う唯一のプレイヤーで、血盟騎士団団長。あまりのその強さに、《生ける伝説》とも言われる。
「そうしてくれ。長いこと家空けるとユウキが怒るからよ。」
「ふむ…奥方になにか言われているのかな?」
「いや、単純に今まで無茶しすぎってんで攻略も1週間禁止令が出されててな。…まあ、要は休暇だな。」
カズマは用意されていた座席に座る。
「そうか、ならばこちらも善処しよう。」
そう言って腕を組み少し俯くと、ヒースクリフはカズマにもう一度目を向けた。
「今日私が質問することは他でもない。先日君達が捕まえた、内通者のことだ。」
「内通者…ああ、あいつらか。いやでも、俺はあいつらの話は聞いてたけど、そこまで重要なことは話してなかったと思うけど…」
「いや、君が聞いたという内容にひとつ引っかかるものがあってね。彼らが持っていた《アイテム》について話した内容だが…心当たりはあるかな?」
「………ああ、あれか。確か、「無条件で迷宮区の最奥に行ける」とかなんとか…」
「そうか、つまりこの報告書に間違いはなかった、と。」
「そういうことになるな。」
カズマがそう言うと、ヒースクリフは少し怪訝そうな顔で黙り込む。
それにカズマは困ったように問う。
「なんだよ。何かまずい内容なのか?」
カズマが問うと、ヒースクリフは組んでいた腕を解いてカズマを見る。
「そうだな……君は、このゲームを作ったアーガスが《もしも》これを普通のゲームとして売り出していたら、どのようにしてメンテナンスをしていたと思う?」
「え?そりゃ外部からのPCでの修繕とかじゃねえの?」
「そうだね。他の方法もあるが、主にはそれが取られるだろう。なら、それに至るまでに、管理者が取るであろう行動。…これは分かるかね?」
「え…っと…?」
これに、カズマは少しだけ思考する。
メンテナンスをする。それはつまり、管理者がそれを発見したか、ユーザーからの報告で気付いた場合。その場合、普通のゲームならそのまま直すが、このフルダイブ型ゲームなら…
「…1度、管理者自身が試してみる、かな…」
「その通り。」
ヒースクリフはそれに頷く。
「動きの中でのラグなどの不具合の時はまさしくその通りだ。だが、今回のことと関係あるのは、迷宮区内やダンジョン各地において造形などの不具合が生じた場合の、その地点に行って確認することの方だ。」
「ふむ…」
「つまり、彼らの手にあったものは、管理者権限によって出されるアイテムだった、ということになるわけだ。」
「それって、案外まずいんじゃねえの?ていうかなんでまたそんなモンがあいつらに…」
これにはヒースクリフもまた頷く。
「その通り。何故あのようなものが1プレイヤーの手にあったのか。それはまだ分からない。」
「そのアイテムさ、どうしたんだ?」
「ん?勿論回収したさ。ちゃんと彼らと話し合い、刑期を短くすることを条件にね。」
そこでチラリとヒースクリフは斜め上に視線を上げた。これにはカズマも苦笑した。
「おいおい、本当にあいつら出す気か?下手したらまた…」
「勿論、ハッタリさ。このような交渉に、嘘はつきものだからね。」
「やり方がえげつねぇなぁ。」
「裏切り者をそう易々と出す訳にはいかないさ。…それで、話はもう1つある。」
「…あ?」
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「ねぇ、キリト君。あの二人への結婚祝いって、何がいいと思う?」
「え?」
突然の質問に、キリトは戸惑い…
「あー…じゃあ、調理器具なんか…」
「それはシウネーが渡すらしいから却下。で、私皆から聞いた感じで、編み物にしようかなって思ってるの。」
「…もう決まってるのに何故俺に聞いたの…?」
「んー、参考意見としてね。」
却下される前提の参考意見とはなんぞや、との言葉を、キリトは飲み込んだ。
さて、その前に読者諸君は思っていることだろう。
何故、基本ぼっちのソロプレイヤーと基本モテモテの攻略責任者様がこうして行動を共にしているか。
それは、昨日に遡る。
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「…アスナ?」
突如送られてきたそのメッセをキリトは開く。思えばそれが、地獄の始まりだったのかもしれない。
「なになに…《明日、ユウキとカズマ君の結婚祝いの素材を取りに行きたいから、一緒にクエストに行ってくれる?》ええ…」
正直、このお誘いに乗り気ではなかった。
というか直後に断りのメッセを入れかけたのだ。だが…
「あれ、まだ続きが…《一緒に来なかったら、アルゴさんに君の恥ずかしいエピソードを売付けるから。》ええええ…」
…その、最後の一言で。
彼が彼女について行くことは決定事項となったのだ。
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「にしても、お前今日は攻略じゃなかったのか?」
「今日は休暇入ったのよ。今の最前線はあまり難しくないからって。私にだって休憩はいるのよ?」
「知ってるよ。じゃなかったら第一層で倒れたりしてn…」
ヒュッ!
「何か言った?」
「悪かったから、レイピア下ろして。…そんなにするくらいなら、あんなことするなよ…」
「しょうがないでしょ。あの時はああするしかなかったんだから。」
言いながら、2人はダンジョンを進んでいく。
思えば、こうしてこの女性とパーティーを組むのはいつぶりだろうか。
「…今日はありがとうね。私の無理に付き合ってくれて。」
「ああ…別にいいよ。俺も暇だったし。ていうか、あんな脅し文句つけられちゃ、断れない。」
「ちゃんと恥ずかしいことしてたって自覚はあったのね。」
「そりゃ、多少はな。…ていうか、なんでまた俺に声かけたんだよ。アスナの知り合いなら他にも…」
「今手が空いてるだろうと予測できて、かつカズマ君と親しい関係なのは君しかいなかったの。」
「ああ…カズマの結婚祝いって言うと、怪訝な顔するやつ多いもんな、KoBは。」
「うん。…リーテンさんに頼もうとも思ったけど、シヴァタさんと用意してるらしいから。」
「あの二人元気か?まあ、たまにボス戦で顔合わすけど…」
「相変わらずよ。ラブラブで「早く結婚しろ」っていうレベル。」
「そりゃすごい…」
リーテンとシヴァタは、かつてそれぞれ《アインクラッド解放軍》と《ドラゴンナイツ・ブリケード》というギルドに所属していたプレイヤーだ。この2つが解散した今は、KoBのタンクとアタッカーとして活躍している。
「そういや、体育会系君はこの前隊長になったんだっけ。」
「体育会系…?ああ、シヴァタさんね。うん。この前の会議の時に失言した人をクビにして、その人と入れ替わることでタンク隊の隊長に選出したの。」
「まあ、もう結構長い期間血盟騎士団にいたしなぁ。それくらいなってもおかしくないか。」
「元々メンバーからの評判は良かったし、反発もなくて助かったわ。…それより。」
「ん?」
アスナは唐突にキリトの方に振り返る。
「君は、どうなの?」
「な、なにが?」
「君は、ギルドに入る気は、ないの?」
それは、もう何度かされた問い。
彼女の純粋な心配の言葉に、キリトは…
「…んー、今はない、かな。」
「…確かに立場上、君の入団が難しいのは分かってるわ。けど、君の実力は、全員が知ってる。君なら、確実に隊長クラスの…いえ、もしかしたら私以上の地位も…」
「アスナ。」
彼女の言葉を、キリトは笑いながら遮った。
「悪いけど、俺は入れないよ。」
「…」
「俺みたいないい加減なやつは人を統率するなんてまず無理だし、それにアスナもさっき言ってたろ。シヴァタレベルのやつで反発が産まれる可能性があったなら、俺なんか確実に反発される。…ようやくこの城の半分を超えたんだ。わざわざ指揮を下げることは無い。」
キリトの言葉に、アスナはため息を吐き…
「…そうね、ごめんなさい。」
「いや、心配してくれてありがとうな。」
「なッ…!別に心配じゃないわよ!た、ただ単にウチの戦力強化としてあなたが使えるんじゃないかと思っただけで!勘違いしないでよね!」
「え、あ、う、うん…そこまではっきり言わなくても…」
「ほら!早く行くわよ!とっとと歩いて!」
「…歩いてるよぅ。」
キリトのささやかな反抗が、小さく響いた。
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「シュンヤさん、これなんてどうでしょう。」
「これは…何これ?」
「これはですね、テーブルクロスです。テーブルに敷くだけで彩りも良くなるかなって。」
「おお、いいんじゃないか?まあ、あの二人が既に持ってたらあれだが…」
「ああ、確かに…」
「…まあでも、その色すげえいいし、それにお前がくれたものなら喜んで使ってくれると思うぞ。」
「そうですね。それじゃ、これともう1つ少し良い日用品を買っておきます。」
「おう。」
少し小走りにNPCの方に向かうシャムを見送ってから、シュンヤは少し悩む。
『あいつが欲しがるものか…うーん…あいつの好みとかあまり知らんしなぁ…菓子折だと軽い感じがするからな…一応世話にはなってるし…』
そんな事を考えながら、彼は視線を移動させた。…そして、ある物が目に止まる。
「ん…」
そして少し手に取り…うんと頷いた。
「決まりましたか?」
しばらくして、シャムが戻ってくる。
「ああ、これにしようかなって」
「…?あ、これって…」
「うん。安眠用フレグランスの詰め合わせ。」
それは、かつてある層の問屋で見つけて購入し、それをカズマに渡したと言う記憶があるもの。元々そこそこ高価なものであったが、それでも層が上がったことで少し希少性も薄なってはいるようだ。だが、高いものに変わりはない。
「まあ、正直消耗品じゃなかったらアイツらが気にして使い続けるかなと思ってさ。俺はそういうのは嫌だからどうせなら消耗品にしようと思って。…どうだろ。」
「いいと思いますよ。その気遣いはとてもありがたいと思います。流石シュンヤさんですね。」
「ありがとう。…じゃ、ちょっと会計してくるわ。」
「はい、外で待ってますね。」
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時刻は夕暮れに近づき、人の流れもまばらになっていた。
「お待たせ。」
「じゃ、行きましょうか。」
「あ、悪い。シャム、ちょっと待ってくれ。」
「はい?」
引き止めるや否や、シュンヤはウィンドウを操作して、1つのアイテムをオブジェクト化した。
それは、髪留め。
それも、ツインテールが止められように2つあり、今シャムが着けている、大きめの装飾がついたものと、同じ系統のもの。
「ほらこれ。」
それを彼は、彼女の手の上に置いた。
しばらくシャムはそれをどこか抜けた顔で見ていたが…
「あ、あの…これって…」
彼に問うように、そう呟く。
シュンヤはニッと笑うと、答える。
「そういや、渡してねえなと思ってさ。」
「えと…何をですか?」
「攻略組加入おめでとう。」
「…あっ…」
「正直さ、俺ここまで早くお前が来るなんて思ってなかった。結構な遅れも取ってたし。」
「うっ…」
「けど、お前はいい意味で俺の予想を更に超えてきた。それには勿論、ユウキ達のサポートもあったからだろうが…」
「お前自身の精一杯の努力がなければ、その結果はなかっただろ?」
「だから、頑張り屋さんへの俺からのご褒美だ。…良ければ、受け取ってくれ。」
「…ありがとう、ございます。」
シャムはその髪留めをキュッと自身の胸に抱く。すると、彼女の目から、1粒の雫が流れ落ちた。
「…ん?」
「あ…すみません。つい…嬉しくて。」
「そか…なら良かったよ。」
「あの…付けてみても…?」
「いいよ、勿論。」
シャムは元々つけていた同型の髪飾りを外す。そして、それを少しだけ見つめる。
「どうした?」
「…いえ、あなたには、この世界で貰ってばかりだな、と…」
「そんなことは…」
「いえ。目標も、居場所も、生きる術も。それに、この髪留めも…」
彼女は少しだけ微笑んで、シュンヤを見る。
「あの時、ダンジョンで出会ってから、あなたには何度も助けて貰いました。」
「本当に、ありがとうございました。…そして、これからもよろしくお願いします。」
「…ああ、こちらこそ。」
やがて彼女は長い髪を両側に束ね、それぞれを髪留めで止める。それは、いつもの彼女の姿であったが…
「…どうですか?」
「似合ってる…すげぇ綺麗だ。」
夕日と相まって、花柄の髪留めをした彼女は幾倍にも美しく見えた。
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「そういや、藍子はさー」
「今はランですよ、ウッドさん。」
「悪ぃ。ランはさ、なんで諦めたんだ?」
「何がですか?」
「カズマのこと。」
「……」
「お前ずっとあいつのこと好きだったじゃねえか。なんで諦めたんだ?」
「そうですねー…妹可愛さ、からですかね。」
「…なんだそりゃ。」
「正直に言うと、私自分の幸せに無頓着なんですよね。あの子は私以上に辛いことを経験して、それでもあの人のことを想い続けてたんです。そんなもの見てたら、自分の幸せは二の次にしちゃうんですよ。」
「ふーん…そういうもんかね。」
「ええ。…ただ、私としては私自身が本当にカズマさんのことを好きだったのか、疑問なんです。」
「と言うと?」
「確かにあの人に好意はあります。ただそれが恋慕…恋心なのかと問われれば、私には分かりません。ユウキのようにはっきり言葉に出来るわけではありませんから。」
「あいつみたいに堂々とああ出来るやつの方が少ないと思うけどな。」
「そうですね。…でも、そういう所でも私の想いはユウキには負けてるんです。これじゃあ、あの子が彼と結ばれる他に選択肢は無くなりますから。」
「…なら、もうカズマのことはもう諦めたんだな?」
「どうでしょう。少しだけ未練はあるかも知れませんが、恋慕があるかどうかは、もう分かりません。」
「そっか……ならさ…」
「お前のこと、俺が狙ってもいいか?」
ウッドのその言葉に、ランはぱちくりと目を瞬かせていたが、やがて微笑むと…
「ええ、構いませんよ。」
そう、答えたのだったーー。
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夜。
カズマは家までの帰り道を歩く。
そんな中、彼は昼間のヒースクリフの話を思い出していたーー。
「君の、亡き親友のことだ。」
ピクリッ
「勿論、覚えは…」
「聞かなくてもいいだろ、そんなこと。…で、どういう話だ?」
話題を聞いた時から、カズマは話を続けるように促す。ヒースクリフはそれに「うむ」と頷く。
ヒースクリフはまず自身の横にあった記録結晶を手に取った。
「まず、彼…ラフィン・コフィンの参謀役として知られていた、ショウマなる人物が所有していたこの記録結晶。彼のドナウ氏をリンチした時の音声であろうものが保存されている。…この音声は、彼のもので間違いないかな?」
「…すまん、どういう意味だ?」
「なに、そのままの意味だよ。」
「この結晶内の音声は、
「…その音声のなかにあったのは、確実にドナウのものだった。それに間違いはねえよ。」
「そう思ってるのは、君だけかもしれない。」
「何?」
「所詮声なんてものは、周波数の違いによって起きる変化だということさ。頭のいい君なら分かりきったことだろう?」
「…いや、そう単純な話じゃねえだろ。その時の湿度、風。それこそ、記録するなら結晶の位置にだって。」
「そう。それら全てを計算し尽くさなければならない。何故なら、そうしないと作れないからだ。
「…」
「逆に考えてみたまえ。その状況を作れば
「なあ、ヒースのおっさん。難しい御託は並べなくていい。本題を言ってくれ。あんたは、俺に何を伝えようとしてる?」
そして、ヒースクリフはまたも肘をつき、指を組んだ。
「単刀直入に言おう。」
「君の親友であるドナウというプレイヤーは、生きている可能性が高い。」
「……あ?」
「…そりゃ、そこに入ってる音声だけじゃ、判断しかねる…ってことか?」
「そうでは無い。ただ単純に、彼の生死は未だに不明なのだ。」
「いや待ってくれ。ドナウは確かに死んでる。《剣士の碑》の名前にも、ちゃんと横線が…」
「カズマ君、同じ名前の者が二人いて、その片方が死んだ時、剣士の碑はどうなると思う?」
「え?」
唐突な質問に、少し戸惑うが、カズマは、難なく、
「そりゃ、片方に線が引かれる…だろ。」
「うむ。なら、その後もう片方が《改名》を行った場合は?」
「そ、れは…」
「改名して少しだけしたら、そこに名前は無くなっているのだよ。」
ヒースクリフは淡々と告げる。まるで、何事でもないように。当たり前のように告げる。
「ま、待てよ。なら、ショウマ達が殺した奴は…あいつはいったい誰だってんだよ?あいつなら、ドナウの姿も見て…」
「カズマ君、彼の…君が知るドナウ氏の容姿を教えてくれないか?」
割って入る、唐突な質問。
嫌な予感に、少し呼吸が浅くなりながらも、カズマは…
「…少し暗めの青髪に、黒目の短剣使い…だ。」
「…彼らが殺したドナウ氏は、黒髪赤目の長剣使いだったそうだ。」
瞬間。
彼の呼吸は、一気に止まった。
しかし、同時に少しだけ喜びもした。
何故なら、彼はまだ生きている可能性があるということだからだ。
亡くなった者が居るのに、不謹慎だと分かってはいるが、数少ない親友の無事も分かった。なら…
「…もうひとつの報せだ。…聞くかね?」
「…ここまで来て勿体ぶるなよ。聞くよ。聞かせてくれ。」
カズマの言葉に、ヒースクリフは「良かろう」と頷いた。
「君達が捕まえたメンバーの中に、古参のラフコフメンバーもいてね。その者から聞いた話だと、現在の参謀は《2代目》だそうだ。前の参謀は一般プレイヤー…グリーンのまま指示だけをし続け、そして我々が35層を突破したところで、ラフコフを抜けた。いや、抜けたわけでなく偵察として主街区に紛れ込んだようだ。我々の戦力分析の為にもね。」
そう告げるヒースクリフの声は、比較的穏やかだ。逆に、カズマの目には焦りが見える。
まさか、そんな。
そのような声も聞こえてきそうな程に。
「どうやらその参謀はメンバーの武器のメンテも行っていたみたいだね。鍛治スキルはそこそこのものだったらしい。短剣使いで素早さもなかなかのものだったようだ。…そして何より、少し濃い目の青い髪と黒い目をしていたそうだ。」
「…ッ…!?」
「そして彼は初代の参謀として名を馳せていた。その名は今の参謀と同じで《ショウマ》。そして彼は…」
「脱退と同時に、名前も変えたようだ。」
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「はぁ…」
ため息を着いて、カズマはどうにか気持ちを落ち着かせる。
自身の親友の本当の姿を知って、動揺と少しの悲壮感を抱いていた。
勿論、ヒースクリフの報せが嘘で、仮説も間違っている可能性がある。ただ、それを否定出来るだけの根拠もないのだ。
声を同じ物にするなどかなり不可能に近いし、それに一応ショウマ達の見間違いという線もあった。
影武者を使って、彼が俺達の前から姿を消した。
その根拠は間違ってはいない。ただ、肯定したくなかった。いくらなんでも、いきなり親友を疑うなど、そんなことは出来なかった。
カズマは、複雑な気持ちのまま、夜空を見上げた。
「…どこにいんだよ、ドナウ。」
ーーーーーーーーーーーー
「よぉ、
「…悪くはなかった。けど、生ぬるすぎる。日よったヤツらの相手をしてたから、感が鈍るところだった。」
「それはまた、お疲れさん。」
「それで、なんであいつらを切り捨てた?使えるコマじゃなかったのか?」
「もうめんどくせぇし、何より増えすぎた。あそこまで増やしてメリットはねえからな。」
「…そうか。まあいい。」
「さて、もう動くかい?兄弟。」
「いや、しばらくは様子見だ。わざわざ不利なところから動くことも無い。」
「なら、俺もしばらくは休むか。奴らにしばしの平和って奴をプレゼントしてやろう。」
「ああ。」
「そういや、兄弟は《死神》を相手にしてたんだったよな。どうだった?あいつはかなり《楽しめそう》だろ?」
「…ああ。」
「実に、殺しがいがありそうだったよ。」
書けば書くほど《ひと対ひと》が多くなる。