カズマは帰り道をゆっくりと歩く。
彼とユウキが購入した家は、ある層の湖が近くにあるレンガ造りの家。
何故かと言えば、元々ユウキは西洋の家に憧れており、釣りもしてみたいのだと言う。
正直カズマにとってはそこら辺のこだわりは無いため、ユウキに任せっきりにしておいた。色などの趣味も合っているからこそ出来る手だ。
まあ、予算だけはカズマが決めたが…。
やがて、ある一軒家の前に着く。見ると家の煙突からは煙が上がっていた。家の中も明るく照らされている。
「ユウキが料理なんて珍しいな。」
そう言いつつ微妙な違和感に包まれながらも、カズマは自宅のドアを開けた。
「ただいまー…」
「おーかえりー!!」
「うわッ!!」
入室と同時に腕にしがみつくユウキ。
それにカズマは何とか耐えた。
「ユウキ…しがみつくのは危ないからやめろって…」
「みんなー!せーの!」
「ユウキ!カズマ!結婚おめでとー!!」
パンパンパンパーン!!!
「………」
突如響いた小さめの乾いた音と、そこにいた無数の人影にカズマはフリーズした。そこに居たのは、全てカズマとユウキの共通の知り合いか、ユウキの女友達。
「あはははー、びっくりした?なんか皆ね、ボク達にサプライズしてくれようとしてたらしいんだけど、皆来たときにカズマがいなかったから、『それならカズマだけ脅かそう』ってことになったんだー。」
「そ、そうか…説明ありがとう…」
未だフリーズしながらも、何とか笑みを浮かべたカズマの手を、ユウキは引っ張った。
「ほらカズマ!早く行こ!アスナと姉ちゃん達がご馳走用意してくれてるんだよ!」
「あー…だから煙突が…」
そりゃそうか、とカズマは1人で納得した。
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「それじゃ、次はプレゼント渡しと行きましょうか!」
「「イェーイ!!」」
アスナの掛け声に、ジュンとノリが拳を上げてノる。
卓上のご馳走は未だに補充され続けていた。
「それじゃ、最初は俺から!」
そう言って声をあげたのはクラインだった。テーブルを回ってカズマ達に近づく。
「おいおい、大丈夫か?」
「嫌な予感しかしねぇな。」
「っるせ!黙って見とけ!」
エギルとキリトの言葉にそう言ってクラインはカズマ達に差し出した。
「ほら、結婚おめでとさん。末永くお幸せにな。」
「わあ、ありがとう。」
「サンキュ。ん、これは…」
それは、着流しだった。
「おう!これは俺もお気に入りでな。通気性はいいのに、保温性もそこそこ高ぇっていう優れもんさ!」
「へー!すごい!」
「クラインにしちゃ、随分まともなプレゼントだな。」
「ンだよその感想!俺信頼0じゃねえか!」
「いやまあ、嬉しいよ。ありがとう。」
やがてユウキの周りに女性陣が集まりだした。するといきなりカズマの肩にクラインが腕を回した。
「?なんだよ」
「カズマ、これは俺からのほんの気持ちだ。…受け取ってくれ。」
クラインが差し出したのは、少し大きめの正方形の何か。
どうやら包装されているようで、中身は見えない。
カズマはそれを少し開けて、中身を確認すると…
「…はぁ。お前な、俺もう既婚者だぞ?こんなんで欲情しねぇよ。」
「あれ、てことはいらねえの?」
「一応貰っとく。」
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「次は俺か。カズマ、ユウキ。Happywedding!つまらねえもんで悪いが、受け取ってくれ。」
「これは…コップか?」
「ボクが紫で、カズマが黒色かー。」
「ああ、2人のイメージカラーに合わせて選んだ。あんまりこってるもんもあれかと思ってな。」
「へー!ありがとう!これから使わせてもらうね!」
「めちゃくちゃありがてえけど…決してこれが店の余りもんでないことを祈るばかりだな。」
「アッハッハッハッハッ!大切な常連の大切な日にそんな無粋なことはしねえよ!」
「 どうだか。」
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「ユウキさん、カズマさん。結婚おめでとうございます。」
「あ、リーテン!ありがとう!」
「シバちゃんも来てくれたのか。」
「一応攻略組では世話になってるし、大切な仲間のめでたい日だからな。…それより、そろそろシバちゃんはやめろ。」
「断る。」
「もう、シバ。いいじゃない。仲がいい証拠だよ。」
「リッちゃん…こいつのはそんなんじゃないよ。カズマは俺を困らせて楽しんでるだけだ。」
「カズマ、そうなの?」
「否定はしない。」
そんなふたりの会話に周りからドッと笑いが起きて、リーテンも困ったように笑う。
「ああ、もうほら。俺達からの結婚祝いだ。受け取ってくれ。」
「これは…」
「お菓子、かな?」
それは、包装されたお菓子のようなもの。
どこかお高そうなそれは、非常に興味を唆られる。
「俺とリッちゃんが行きつけにしてる店の看板商品だ。結構隠れ家みたいな場所にあるから、食べたことは無いはずだ。」
「本当に美味しくて、2人にも食べてもらいたかったんです。」
「へー!ありがとう2人とも!」
「確かに美味そうだな。ありがとう。」
「お前には変に洒落たものよりこういうものの方がいいだろ?」
「まあな。」
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「俺とタルケン、テッチとノリ。あとクロービスにメリダからはあれだ。」
ジュンはそう言うと、布を被せられたオブジェのような高さの何かを指さす。
そして、テッチが布を剥がすと…
「…うわぁ…!」
「おおぅ…」
ユウキは嬉しそうに声を上げ、カズマは若干引くように呻く。
そこにうずたかく積まれた物は、全て食材アイテム。野菜や肉類、魚など種類は豊富だ。
そしてその横には色々な種類の酒が並べられる。
「色んな食材アイテムの詰め合わせだ。結構色んな層で集めたから、種類の多さは自信あるぜ。」
「ありがてえけど…その前に量がおかしいだろ。エギルの身長悠々と超えてんじゃねえか。」
その塊は、巨漢の黒人プレイヤーの身長を頭1つ2つ分も超えていた。
「…これ保存すんの大変だから、このパーティーで使うぞ。」
「おう。2人へのプレゼントだから好きなように使ってくれ。」
「ありがとね!みんな!」
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「次はウッドからか。」
「まあ、俺はシウネーとランを手伝っただけだけどな。」
「フフッ。カズマさん、ユウキ、結婚おめでとう」
「これ、私達から、ささやかな気持ちです。」
「これは…調理器具セットか。」
「はい。包丁とかはウッドさんに打ってもらって、フライ返しとかは私とシウネーで見繕いました。」
「ユウキも、ちゃんと料理しなさいよ?」
「わ、わかってるよ!」
「うん、ありがとう3人とも。そろそろ買い替えの時期だったし、すごくありがたい。」
「それなら、良かったです。」
「ウッドも、慣れないことさせて悪ぃな。」
「ほんと、俺の本業は鍛冶屋であって、小道具屋じゃねえんだけどな…。ま、これからもご贔屓にってことで。」
「ああ、任せとけ。」
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「やっほー、ユウキ。」
「ユウキ、結婚おめでとう。」
「あ、リズにアスナ!ありがとう!」
「こんなイケメン手玉にするなんて、ユウキも隅に置けないわねー。」
「え、えへへへ…そうかな…?」
「えっと、アスナさんと…君は?」
「おっと、夫とは初対面だったわね。はじめまして旦那様。私、ユウキの専属スミスとして働いております、リズベットと申します。以後お見知り置きを。」
「お、おう?」
「もうっ、リズが変なテンションで挨拶するからカズマがついていけてないじゃん。」
「あっはははー、ごめんね。改めまして新郎さん、私の名前はリズベット。気軽にリズって呼んでくれたらいいから。興味湧いたらウチの鍛冶屋に寄ってね。」
「ああ…もしかして最近ユウキの剣をメンテしてるのって、リズか?」
「うん、そう。どうかした?」
「いや、前より鍛冶屋の腕が上がったんだなって分かるくらいメンテの出来が違っててびっくりしたんだ。これからもよろしく頼むな。」
「ええ、望むところよ。」
「フフッ、リズは性格はともかく、腕だけは確かだからね。カズマ君も行ってみたら?」
「ああ、いや。俺はウッドの整備で充分間に合ってるし。まあでも、機会があったら頼むよ。」
「ええ、いつでも来てちょうだい。」
「それじゃ、まず私から。カズマ君とユウキのイメージカラーのマフラーだよ。柄も統一させてペアルックにしてみたの。」
「わあ、ありがとうアスナ!」
「この寒い時期にはありがたい…ありがとうございます、アスナさん。」
「それじゃ、私からはこれ」
「…これは、食器か。」
「そう。調理器具は用意されるって言うから、食器にシフトチェンジしてね。このナイフとか自信作よ。なんてったってDランクの固いお肉でもスパスパ切れるんだから。」
「それもはやナイフじゃなくて包丁だな。」
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「リーダー、カズマさん。結婚おめでとうございます。」
「おめでとう、2人とも。」
「お、シャムにシュンヤ。ありがとうな。」
「それで、私からは、これを…」
「ありがとう。…お、これは…」
「テーブルクロスです。やっぱり景観にも華があった方がいいし、とてもいい色だったので…あの、既にお持ちなら、無理に使わなくても…」
「ん?…ああ、いや。そうじゃなくてな。実際本当にありがたいよ。というのもユウキの奴が『変えるの面倒いしひとつで良くない?』とか言って雑貨費からテーブルクロス代抜いてたんだよ。」
「は、はあ…」
「なんで、もう1つ欲しいと思ったところにこれが来たから、嬉しいよ。ありがとう。…なぁユウキ、これが女性らしい女性だぞ?見習っとけ。」
「むかっ!まるでボクが女の子っぽくないみたいじゃん!」
「おてんば娘がよく言うな。」
「ムキー!」
「イチャイチャはそこまでにして、俺の祝い品も受け取ってくれよ。」
「あ、悪ぃ悪ぃ。それで、シュンヤは…安眠用ポーションか。」
「お前には消耗品の方が気楽だろ?」
「まったくその通り。…ありがとな。」
「おう。」
「…それより、シャム髪飾り変えたんだな。」
「は、はい。シュンヤさんにプレゼントで…」
「ふーん…」
「な、なんだよ。」
「いーや、別に。へー…赤い薔薇模様か…」
「は、はい!とても綺麗ですよね!?」
「…気付いてないかぁ…」
「へ?」
「いや、なんでもない。…シャム、大事にしてやれよ。」
「は、はい!勿論!」
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喧騒が続く中、部屋から1人ベランダに出て、キリトはため息をつく。
「はぁ…こういうのも、久しぶりだな。」
そう呟くと、仮想の息が、白く可視化されて消えていく。
やがて後ろの窓から自身と同じようにベランダに出る者がいた。
その者はゆっくりと歩いて、キリトの横に立ち、柵にもたれ掛かる。
「…主役が出てきていいのか?」
「こういうの、久しぶりであんま落ち着かないんだよ。」
「俺も一緒だ。」
「そういや、結婚祝いの釣り用具1式ありがとうな。ユウキのやつも釣りしてみたかったらしいから、助かった。」
「なら良かった。お前らはアウトドア派だからいるかなと思ってさ。」
「大正解。」
カズマはそう言って笑った。
キリトもそれに同調して笑う。
「にしても、お前が結婚か…。俺と一つしか違わないのにな。不思議な感じだ。」
「ま、この世界だからこそできる事だな。…所詮現実世界じゃ、俺達はただの中学生だ」
「現実世界、か…」
軽くこぼしたその単語に、キリトは引っかかりを覚えた。天を仰いで、上空にある鋼鉄の蓋を見つめる。
「なんか最近、向こうでのことを思い出さなくなってきた。母さんや父さん、スグの顔すらも思い出さない日がある。」
「そういうもんだろ。…住めば都、なんて言うけど、1年もこんなとこで生きてたら、そうもなるさ。」
「…そうだな。なんか、この世界に産まれて、この世界でずっと過ごしてきた。…そんな気さえもする。」
「《慣れ》ってのも、怖ぇもんだ。《非常識》が、簡単に《常識》として変換されちまう。…今の俺たちみたいに。」
カズマはそう言って、チラリと中にいる彼らを見た。ただああして、この世界でも笑えるようになったのは、どこか皆に希望があるからだ。
この世界をクリアして、現実世界に戻れるであろうという希望が。
「けどまあ、俺は帰りたいと思ってる。…いや、帰らなきゃ出来ないことがある。」
「出来ないこと…って…」
「俺にだって、人生の内にやっておきたいことくらいあるさ。」
そう言って笑うカズマに、キリトも苦笑した。
「…俺は、帰りたいのかな。」
「ん?」
「俺は帰りたいって言うより、サポートしてくれてる職人クラスの奴らのために戦ってるところが強い…と思う。俺、あっちに帰ってもゲームくらいしか残らないから…」
そう呟くキリトの声は、どこか暗い。
現実世界でも、VR世界でも変わらないんじゃないかという、一種の恐怖が彼を縛り付ける。
実の兄が零したその本音に、カズマは…
「ま、それでもいいんじゃね?」
そう、なんて事ないと言いたげな口調で返す。
カズマは体勢を変えて、手すりに腕を乗せて体重を預けた。
「そんな皆が皆、人生目標据えて一生懸命生きてる訳じゃねえよ。今それが戦う理由になってるなら、それも充分な理由だし…」
カズマはキリトに笑いかけた。
「それに、理由ならこれから見つけていきゃいいさ。なんせ、あと40層もあるんだからな。考え放題だ。」
「…そう、だな。」
この言葉に、キリトは苦笑した。
「あと40層もあることを、そんなポジティブな受け取り方したのは、アインクラッド中でもお前だけだろうな。」
「なぁに。これからどんどん増えてくるさ。なんせ、目測じゃ1年以内にクリア出来るんだからな。タラレバなんざしてたら尽きねえよ。」
「…そうだな。」
2人はそう言って笑う。
背後の喧騒の中、黒い空の中を一筋の細い光が駆け抜けた。
「お、流れ星。」
「…埼玉の家で昔1回だけ、1人の時に見たことあるな。」
「へー、そりゃ珍しいな。…勿論ちゃんとお願いしたんだろ?」
「ああ。《次のイベントでレアアイテムがドロップしますように》ってな。」
「夢がねー。」
目を細めてそうカズマが言ってから、2人はもう一度笑いあった。
次回、第1章最終回!!(唐突)