さぁ、ゲームを始めよう!(空さんありがとうー)
第1話 決意を共に
「ふあぁ…」
湖のほとり。
2人の黒衣の人物が大きな欠伸を同時にする。同じような動きで目も擦り、カップのコーヒーを啜った。
「ねみぃ…」
「それなー…」
何処か気の抜けた2人の声の掛け合い。
それに何処からかチュンチュンと鳥の鳴き声が返した。
ここは、アインクラッド第23層の中にあるひとつの湖。
景色は数ある中でも一番と言われるほどのものであり、周りにはまばらに人がいた。
その中にいた、黒衣の2人。
同じような顔立ちをした2人。
片方の人物は目の前にある竿を
クイッと手首と腕だけで引き上げた。
「お、hit。5匹目ー。」
「くっそまたか…3匹差…」
唸ると、片方の青年はと笑った。
竿を握りながら暗い表情を見せる青年。
アインクラッド攻略組で最強クラスと言われる、エクストラスキル《二刀流》を持つダメージディーラー。
長くソロプレイヤーであったが、とあるデュエルで敗北して今は最強ギルド《血盟騎士団》に属する。
現在一時退団中。
《黒の剣士》・キリト
片や魚を横にあるカゴに放り込み笑う青年。
同じくアインクラッド攻略組で最強の1人。
圧倒的パワーを誇り、チートに近い武器も持つダメージディーラー。
このゲームが始まってからこれまでソロプレイヤーを継続中。
正しく、真のボッチ。
《死神》・カズマ
「なんか今、すげぇムカつくこと言われた気ぃすんだけど?」
「?気のせいだろ。それより、シュンヤは?」
「ユウキたちの手伝いにでも行ってるんじゃねえの?あいつ真面目だからなー。」
「ほーん…そっか。」
2人はそう言って、もう一度無言になり、湖に視線を向けた。
竿を握りしめ、数分の時が流れる。
「…兄貴はさ、いつまで休むんだ?」
カズマの言葉に、キリトはチラリと視線を向けるが、すぐに戻す。
「んー…もうちょいはゆっくりしたいけど…どうした?」
「いや、やっぱりボス戦まで休まれると俺らとしてはかなりの痛手だからさ。」
「…まぁ、流石にな。次のボス戦はクォーターポイントだし、参加しようと思うよ。2日後だったよな?」
「ああ。…ま、攻略は俺とシュンヤでカバー出来るしな。ボス戦終わったらも少し休んでも良いんじゃねえの?」
「…悪ぃな。」
「いいよ別に。」
そう言って、2人は笑いあった。
それは正しく、理想的な兄弟。
しばらく、その和やかな空気が続いたーー
「カーズマッ!!」
「グエッ!?」
ーことは無かった。
彼らの横から全力ダッシュからの飛び込みでカズマに抱きついた少女によって、その雰囲気はぶち壊される。
あまりの衝撃に倒れ込んだカズマに、少女は笑った。
「あはははー、カズマなまってきた?まだまだだね!」
「ユウキ…家でいくらでもできるんだから、それやめろつったろ…」
「やっぱり外にいるとやりたくなるよね!」
「知らんわ!」
カズマに覆い被さる、長髪の少女。
攻略組に名を連ねる、少数精鋭のギルド《スリーピング・ナイツ》のリーダー。
その剣速は見事の一言につき、本人の剣さばきは攻略組の強者も唸る。
カズマの幼馴染であり、妻。
現在精一杯料理の修行中。
《絶剣》・ユウキ
「コラ!危ないからやめなさいユウキ!」
「えー、でも姉ちゃん…」
「でもじゃないわよ。湖に落ちちゃ大変じゃない!」
「俺の心配は?」
「カズマさんは少し嬉しいでしょ?」
「ごもっとも。」
ユウキを叱り付けた、セミロングの彼女と似た顔立ちの少女。
《スリーピング・ナイツ》副リーダー。
堅実ながらも正確な剣さばきでどのような敵にも対応する。
特に、ユウキやカズマとの連携は見事の一言につきる。
《功剣》・ラン
「相変わらず仲良しね、2人共。」
「和みますね。」
「そんな朗らかなものかなあれ。」
キリト達の上。
ユウキやランが現れた場所に3人の影が更に増えた。
キリトが笑いながら手を挙げる。
「アスナ、お疲れさん。」
「お待たせ、キリト君。遅くなっちゃってごめんね?」
「大丈夫だよ、カズマと釣り勝負して時間潰してたから。これも焼こうぜ。」
キリトと話す、栗色の髪の女性。
華奢な体から繰り出されるレイピアによる剣技は、凄まじい速度を誇る。それを視認出来るものすら少なく、《速さ》のみなら間違いなく三本の指には入ると言われている。
更に統率にもその才を発揮し、今や《血盟騎士団》の副団長として名を連ねていた。
キリトとの連携は筆舌に尽くし難く、本人曰く「愛の力」とのこと。
キリトの妻。
《閃光》・アスナ
「よ、シュンヤ。遅かったな。シャムとイチャついてたのか?」
「アホか。皆が集まる状況でそんなことすんのはお前らぐらいだよ。」
「お褒めに預かり恐悦至極。」
「褒めてねえ。」
カズマと悪態をつきながらも何処か楽しそうに話す茶髪の青年。
和装から繰り出される高速の斬撃はその軌跡を視認することすら難しく、居合抜きともなればまともに視認できるものはいないほどの速度となる。
アインクラッド最速とも言われるその剣技には、いかなるモンスターも視認することが叶わずにポリゴンと化す。
現在幼馴染に猛アピール中。
《烈風》・シュンヤ
そして、彼の横で控えめに笑みを浮かべる、ツインテールの少女。髪を結ぶ大きめの髪飾りは、薔薇柄。
シュンヤと同じ刀を使い、特に目立ったステータスはないが、大きく遅れながらもレベル実力共に攻略組に参加した努力と才能は本物。
最近の趣味はお菓子作り。
《紫白の刀使い》・シャム
「いやいや、でもお前らもすることあるかもしれねえじゃねえか。」
「いくらなんでもそんなことはしねえよ。」
「そ、そうですよ、カズマさん。それに…」
「シュンヤさんには、そんな気もないでしょうし。」
「…はぁ。」
「…」
「お前の幼馴染、あそこまで鈍感だったか?作者が長引かせたくてああしてる訳じゃねえよな?」
「そ、れは…ないだろ…おそらく…恋愛経験のなさが…仇に…」
「…アホらし。」
「え?なんですか?え?」
しばらくして。
焚き火の前で7人はアスナ達の持ってきた弁当にがっつき始めた。
「ん〜!美味しい!」
「ほんと、相変わらず美味しいわね。さすがアスナ。」
「ふふ、ありがとう2人共。キリト君は?どう?」
「うん、やっぱりアスナの料理は最高だな。俺だとこうはいかないだろうなぁ。」
「も、もう…キリト君ったら…」
「あのー、皆の前でイチャつかないでくれる?シュンヤの機嫌悪くなるから。」
「なんでそこで俺なんだよ。」
「しゃあねえだろ事実なんだから。」
「ていうかやっぱほら!皆イチャつく場所に制限はねえんだよ!」
「それはお前らだけだよバカップル兄弟!」
「2人共、仲良く食べましょうよ。」
言い合う2人に、シャムが微笑みながら声をかける。
「あ、そろそろお魚焼けたんじゃない?ボクこの大きいのもらうねー!」
「あ、コラ待てユウキ!それは俺のだ!」
「いやそれ釣ったの俺だから俺んだろ!何言ってんだ兄貴!」
他の4人はその様子を見て、笑みを浮かべた。
「そういえば、さ。」
昼食後、カズマは茶を啜りながら口を開いた。
「みんな、次のボス戦には参加するんだよな?」
カズマの問いに、シュンヤは苦笑を浮かべる。
「どうした、急に。」
「や、なんか気になってさ。」
カズマがそう言い、シュンヤは苦笑を続けた。それに最初に手を挙げる人物。ユウキだ。
「はいはい!ボクは参加するよ。一応攻略組ギルドのリーダーだからね!」
「私も、参加します。ユウキも心配ですし、少しでも皆さんの力になりたいので。」
「まあ、お前らはそうだろうな。」
カズマはそう言うと、チラリと視線を移した。その視線に合わせるようにおずおずとシャムが手を挙げた。
「わ、私も、ですね。…少し怖いですけど、これでも攻略組の一員なので。」
シャムはそう答える。
おそらく、前回のクォーターポイントである50層でのことを思い出しているのだろう。少しだけ肩が震えている。
それを見て、シュンヤが微笑みながらシャムの肩に手を置いた。
そして、反対の手を挙げる。
「俺も、もちろん参加するよ。3トップだかビーターだか言われてんなら、参加しない訳にはいかないだろ。」
「…ま、そうだな。俺もそうだし。…で、現在休暇中の2人はどうだ?」
カズマはそう言って、自身の兄とその妻に目を向けた。2人は少しだけ微笑み合うと、キリトが答える。
「あー、アスナとも話し合ったんだけどさ。ボス戦は俺らも参加しようと思う。ちょっと申し訳ない感じもあるけど。」
「攻略組にも、戦力がありあまってる訳じゃないしね。流石に2人も抜けちゃったら作戦にも支障が出ると思うから。」
「そうなんだ!良かった!よろしくね2人とも!」
「フフッ、ええ。ユウキも頑張ろうね。」
「うん!」
「キリトさん、参加するのはありがたいのですが訛ってないですか?」
「安心しろ。これでも巨大魚釣ったり、地下ダンジョン挑んだりしてたから。」
「欠片も休暇になってねえ気がするんだが?」
「気のせいだろ。…ところで、いきなりどうしたんだ?カズマ。」
「何が?」
「能天気なお前がそんなこと気にするなんて珍しいと思って。体調でも悪いのか?」
「そこまでか?俺そこまで言われるほどか?」
キリトの容赦ない一言に、カズマは少しだけ焦るように早口をまくしたてた。
だが、すぐに茶を飲んで落ち着くと、ゆっくりと答える。
「…まあ、こういうのもあれだけどさ。」
「俺は、みんなに死んで欲しくないんだ。」
「今日みたいなバカ騒ぎがずっと続くように、誰一人だって欠けて欲しくない。心から、そう思う。」
カズマは言い切る。
彼にとっての、今の本心を。
彼の言葉に、その場にいる全員が黙り込む。
そして、やがて…
シュンヤが顔を両手で隠した。
「…なんだよ。」
「…恥ず…」
「おいやめろ。そんなこと言いながら顔真っ赤にすんの。俺も恥ずくなってくるから。」
「まあ、今のは…恥ずかしいな…」
「そうね…」
「えー、ボクはちょっと感動したけどなー。」
「私もそうだけど…確かにちょっと恥ずかしいです」
「…」コクコク
「えー…」
全員の反応にカズマは少しだけ不満を漏らすが、咳払いで一蹴した後に、続ける。
「コホン…まああれだ。何が言いたいかって言うとだな。《死ぬ気で頑張る》んじゃなくて、《死なない程度に頑張ろうぜ》ってことだ。俺らが死んだら、元も子もねえからな。」
カズマはそう言って、茶を飲み干した。
そしてその言葉に、キリトがため息をついた。
「なんだ…そんなことか…」
「結構大事なことだろ。」
「そうだけど、そんなのはみんな分かってるよ。お前が心配することじゃないって。」
キリトが笑いながらそう言うと、カズマはバツが悪そうに唇を尖らせた。
「それにさ…」
「みんな、お前にも死んで欲しくないって思ってるんだからな?」
キリトがそう言うと、全員が首を縦に振った。カズマはそれに頬を少しだけ染めて、恥ずかしそうに笑った。
「…分かってるよ、そんなことは。」
カズマは注ぎ直した茶を、もう一度啜った。
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「ねえ、キリト君。」
「ん?」
「やっぱり、戦いに出るのは、怖い?」
「そうだな…昔は、1人だったから、何も考えなかったけど…」
チャリッ…
「今は、守るものも、守りたいものも、増えたからな…」
ギシッ
「今は、キリト君に期待してる人、いーっぱい居ると思うよ?私も含めてね…」
「ああ…皆助けるって、約束したからな…」
「…君のことは、私が守る。だから、キリト君は、私を守ってね?」
「ああ…必ず。」
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「ね、カズマ。一緒に寝ていい?」
「いつもお構いなしに入ってくるくせに何言ってんだ。」
「気遣いってやつだよ。ボクも大人になったでしょ?」
「はいはい。大人は普通そんなこと言わないから。…ほら、入れよ。」
「わぁい!」
バフッ
「電気消すぞ。」
ピッ
「ね、カズマ。」
「ん?」
「カズマはさ、ボクが死んだら悲しい?」
「は?当たり前だろ。」
「どれくらい?」
「んー、寂しくて死んじゃうくらい。」
「へー、そうなんだ。カズマはボクのこと大好きだね。」
「勿論。…どうしたんだよ、いきなり。」
「んーん。聞きたかっただけ。」
「なんだそりゃ。」
シュルっ…ギュッ。
「…ボクもね、カズマがもし死んじゃったら、多分寂しくて、悲しくて死んじゃうと思う。もしかしたら、姉ちゃんだって、ウッドだって、キリトも…」
「…どーかなー…そこまで愛されてる自覚はないんだが。」
「そうだと思うよ。なんだかんだ、皆カズマのこと大好きだもん。カズマの一番近くにいて、今1番見てるボクが言うんだから、間違いない。」
「…それは確かに、信用できるかもな。」
「まあでも、一番好きなのはボクだけどね。」
「お前それ言いたかっただけだろ。」
「あ、バレた?」
「ったく…」
「どう?嬉しかった?」
「すごく。」
「えへへー。…ね、絶対生きて帰ろうね。」
「ああ…必ず。」
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「あ、シュンヤとシャム見つけた。」
「こ、こんばんは。」
「なんだメルか。こんばんは。カズマはどした?」
「あいつ嫁さんとイチャイチャし過ぎでそろそろストレスになりそうでねー。抜けてきたわ。」
「あ、そう。でもお前も見慣れたろ?」
「見慣れてたまるもんですか。あんなの、いつ見ても糖分過多よ。」
シュルンッ
「お、久しぶりに見たな人型。」
「こっちの方が話しやすいでしょ。あ、すみません。ワイン1つ。」
「お前金は?」
「ないからシュンヤの財布から引かれるようにしといたわ。」
「おいコラ。」
「あははは…」
「そういえば、明後日は今の層のボス戦だったわよね。2人から見て勝算はあるの?」
「話すり替えやがって。…ま、そうだな。確かにクォーターってことでかなり強い敵は来るだろうけど…それでも勝てるとは思うよ。」
「そうですね。参加するのは歴戦の猛者の方ばかりですし、あまり不安はないですね。」
「でもでも、偵察にボス部屋に入った血盟騎士団の連中が瞬殺されたんでしょ?しかも転移しなかったってことは…」
「ま、十中八九クリスタル無効空間、ってとこか。…それは、前の層でそうだったから、予想はしてたけどな。」
「もう逃げれないっていう心許なさは、かなり刺さりますね…」
「だな。…けどま、勝てなきゃ始まんねえし、勝たなきゃ《あっち》にも戻れねえからな。やるしかねえよ。」
「ですね。私も、出来るだけお役に立てるように頑張りますっ。」
「あまり張り切りすぎてミスんなよ?」
「そ、そうですね…」
「そっか。…なら安心ね。」
「?…ていうかどうしたんだよ。いきなりそんなこと聞くなんて。」
「別に。…ただ、私もあんた達が昼間みたいにバカ騒ぎして、楽しそうにしてるのは嫌いじゃないのよ。」
「ちょっと意外だな。」
「やかましっ。…まあ、だから…絶対戻ってきなさいよ。全員で。」
「…わかった。」
「ええ…約束しますよ、メルさん。」
「ちゃんと、勝ってきなさいよ。」
「ああ…必ず。」
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そして、2日後。
それぞれの思いを胸に、決戦の日は訪れる。
ある者は和装を正し。
ある者はフードコートをたなびかせ。
ある者は黒いコートに袖を通した。
そして、それぞれの獲物を装備して、顔を上げた。
「「「…さあ、行くぞ。」」」
第2章、ここに開幕。
これからもお付き合いよろしくお願い致します!!