「テッチ、ガードお願い!」
「了…解!」
黒く鈍い光を放つ盾と、骨の尾が交錯し、火花を散らす。スリーピング・ナイツのタンク、テッチはその攻撃を受け切ると、叫ぶ。
「スイッチ!」
瞬間、彼の横から数人が飛び出して、それぞれの獲物を様々な光に染めた。
「はァァァ!!」
「セイッ!」
「ぜりゃッ!」
まずタルケン、ノリ、メリダの3人による連続攻撃。
その3人に更なる尾の追撃が襲いかかるが、もう1人のタンクであるクロービスがそれを阻止。
「スイッチ!」
彼が叫ぶと共に、更なる追撃。
ジュンの両手剣とシウネーの両手槍、シャムの刀が骨の体を削る。
「スイッチ!!」
ジュンの更なる掛け声に、ユウキとランが前に出る。2人は繰り出される尾の攻撃を最小の動きで避けきった。
「セアアァァァッ!」
まずはランが前に出た。
刀身を青色に染める。彼女はそのまま剣を3度、骨へと叩き込んだ。
片手直剣ソードスキル3連撃技《シャープネイル》
撃ち終わり、剣を振り抜いた瞬間、ユウキが素早く更に前へ出た。刀身を淡い青色に染めた。
そのまま高速の四連撃。確かな手応え。
片手直剣ソードスキル四連撃技《ホリゾンタル・スクエア》
青い四角形が作り出され、それが消えると同時に彼女の技後硬直も解けてすぐにその場を離れた。
「タンクは尾の攻撃が来た瞬間に前に出て防御!その後は攻撃と防御を代わり代わりに行って!攻撃担当は技後硬直の長い高位ソードスキルは使わないように!一応、足での攻撃も警戒しておいて!」
「「了解!」」
ランからの指示にスリーピング・ナイツの全員が呼応。すかさずテッチが前に出た。
「ユウキ、ラン。」
「ノリ。どうかした?」
「いや、ウチらからも前方に援軍を出した方が良いんじゃないかと思って…特に、ユウキの旦那に…」
そう言うと彼女は前方の、スカル・リーパーの鎌を今もパリィし続けている黒衣の青年に目を向けた。
「…気持ちは分かるけど、私達にそんな戦力の余裕はないわ。」
「それに、カズマなら大丈夫。…だから、今はボクたちが出来ることをしよう。」
「そう…だね。ごめん、いらないこと言った。」
「ううん。大丈夫。ありがとね、心配してくれて。」
ノリが持ち場に戻る中、ランはユウキに話しかけた。
「…ああは言ったけど、大丈夫?無理してない?」
「大丈夫だって。それに、今カズマの傍に行っても、スピード型のボクじゃ大した事は出来ないしね。」
「そう。…じゃ、私達は私達の出来ることをしましょう。」
「うん…!」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「ヌオォリャァ!!」
クラインの泥臭い叫びと共に、彼の手に持つ刀が蠢く。
赤い光と共に、その刀身が骨の体に叩き込まれる。
カタナソードスキル3連撃技《緋扇》
3連撃目を振り抜くと同時に《風林火山》のメンバーが飛び出してそれぞれ攻撃を加えた。
「おめえら、あまり張り付くんじゃねえ!攻撃が終わったらすぐに離れろ!」
「オウッ!」
逞しい男性プレイヤーの呼応。
それと合わせるように、クラインの横を一陣の風が通り過ぎた。
「シュンヤ…!?」
赤い和装の青年はそのまま風林火山メンバーの横を駆け抜けると、その速度のまま足を伝って背骨に登り、そのまま頭部付近に到着。
左足を後ろに引いて、刀の柄に手をかけた。
「…ッ…」
刀身が引き抜かれた瞬間、漏れる白い光。それは、カタナソードスキルにのみ存在する、《居合》ーー。
「ゼァッ!!」
彼が刀身を振り抜くと同時に、スカル・リーパーの頭部に凄まじい衝撃が走る。
「キシャア!?」
スカル・リーパーは困惑したような声を上げた。
カタナソードスキル居合打ち抜き重斬撃単発技《絶空》
そこでようやくスカル・リーパーは自身の上に乗る異端者に気付いたのか、払い落とすために体を震わせた。
「暴れんじゃねええぇぇぇ!!」
野太い叫びと共に、スカル・リーパーの体に緑色の閃光が落ちる。
それが着弾したと同時にスカル・リーパーの体は地面に叩きつけられた。
エギルが放った極大の叩きつけ攻撃はスカル・リーパーに初めてのスタンをもたらした。
両手斧ソードスキル単発範囲攻撃技《グラビティ・インパクト》
「今だ!突撃!」
力無く倒れ込んだスカル・リーパーに、攻略組全員が群がり、攻撃を加える。
「シュンヤ、ナイス。」
「エギルさんも流石です。」
頭1つ分程も身長に違う2人が拳をぶつけ合い、お互いを称える。
「おめえら、大丈夫か!?」
「なんだクライン、参加しないのか?」
「ああ、俺は少しHPが減ってたからやめておいた。…それより、お前らHPは…」
「そう慌てないで大丈夫ですよ。ほら、あまり攻撃は食らってないですから。」
確かに、シュンヤのHPは黄色直前で止まっていた。
「それならいいけどよ、回復はしとけよ。」
「分かってるよ。ほら、お前は仲間の指示出してやれよ。」
「ああ、それじゃな。」
クラインが遠のくと、2人はハイ・ポーションを一気に飲み干した。
「エギルさんも、《アニキ軍団》の指揮取らなくていいんですか?」
「アイツらは俺が指示出さねえ方がいい。よくも悪くも、マイペースだからよ。ま、一応様子は見に行くか。」
「はい。さっきの連携ありがとうございました。」
「ああ、気を付けろよ。」
「ええ。そちらこそお気を付けて。」
「おう。」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
そして、更に前方。
スカル・リーパーの目の前に立つ黒衣の青年と、真紅の騎士。
「キシャアアアァァァ!」
繰り出された右の鎌を、ヒースクリフが受止め、追撃に繰り出された左鎌をカズマが1振りで弾き返した。
「スイッチ!」
カズマの叫び。
それに合わせて2つの影が飛び出した。
黒と白のモノクロ色の2人。
「アスナ、行くぞ!」
「うん!」
前を走るキリトの少し後ろ、赤色のスカートと栗色のロングヘアをたなびかせながらアスナが走る。
「キュラララララァァァァ!!」
キリトの二刀とアスナの細剣の刀身が煌びやかに輝く。
二刀流ソードスキル二連撃技《ダブル・サーキュラー》
細剣ソードスキル単発技《オブリーク》
3つの閃光がスカル・リーパーの体を捉えた瞬間、スカル・リーパーのその体は大きく跳ね上がった。
だが、すぐに体勢を立て直して、そのまま左右の鎌の連続突きを繰り出す。
…だがそれも、2人は滑らかな、素早い動きで全て避けきった。
2人はすかさず刀身を染める。
「セアアァァァッ!!」
「ハアアァァァッ!!」
二刀流ソードスキル二連撃技《シグナス・オンスロート》
細剣ソードスキル三連撃技《トライアンギュラー》
流れるような連携技にスカル・リーパーは大きく体を跳ね飛ばされ、そのまま腹を向けて倒れ込んだ。Down状態。
「チャンスだ!囲め!」
「オオオッ!!」
雄叫びを上げて突撃するプレイヤー達。スカル・リーパーのHPはみるみると削られていく。
「クッ…」
「キリト君…!?」
膝を付くキリト。
アスナが慌てて傍に寄った。
「いや、大丈夫だ…肩を少し掠っただけ…」
「何言ってるの…もうHPがイエローに入ってるじゃない。これ飲んで…」
「悪い…」
手渡されたハイ・ポーションをキリトは飲み干すと、そのまま地面に投げ捨てた。
見ると、スカル・リーパーは既に立ち上がりかけており、他の者達も距離を取り出している。
HPバーを見ると、残り1本をきっていた。
「よし…このまま…」
「休憩してろ、兄貴。」
前に出ようとしたキリトを、カズマが肩を持って止めた。
「そもそも、アレの鎌を弾くのは俺の仕事だ。それに、他の奴らもそうしてる。少しぐらい休んでも支障は大して出ねえよ。」
「カズマ…」
「…ごめんなさい…ありがとうね。」
「…いいっすよ、礼なんて。俺も二人の攻撃中は休めましたし、それに…」
「
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「カズマ君、まだいけるかな?」
「ああ、心配しなくても絶好調だよ。」
「ほぉ、先程の肩のかすり傷は大丈夫なのかな?」
「…チッ…見てんじゃねえか。」
「いや何、調子の善し悪し、引いては引き際も決めるのは君だ。私が口出すような事ではなかろう。」
「…ま、それもそうだな。」
「…やるかね?」
「やるよ。当たり前だろ。」
「…死ぬのは、怖くないのかい?」
「あ?怖ぇよ。めちゃくちゃ怖ぇ。…けど、それ以上に、周りが死ぬのはもっと怖い。」
「…なるほどな。それが君の強さか…」
「…?何だよ。」
「いや、何でも。」
シュインッ
「さあ、それでは行こうか。もう少しだ。」
「ああ。終わらせよう。」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
そして。
それから数十分後。
HPを削りきられたスカル・リーパーはその巨大な体躯を、無数のポリゴンへと変化させた。
「…終わった…のか…?」
「…ああ…終わった…」
クラインの呟きに、キリトが力ない言葉で答えた。
その二言に、戦い抜いた歴戦の猛者達は、ゆっくりとその場にへたりこんだ。
あるものはため息をこぼし。
あるものは亡きプレイヤー達を悲しみ。
あるものは荒く息を吐き。
またあるものは、黙り込む。
キリトも、アスナと背中合わせに座り込んだ。
「終わっ…た…」
正しく死闘と言える戦いを終えて、キリトは思わずそう呟いた。
アスナも膝を抱えて荒く息をしていた。
…だが、そこでジュンが呟く。
「…今回、何人死んだ…?」
それは、誰もが思っていた疑問。
一撃でHPを吹き飛ばすあの化け物に、どれほどのプレイヤーが犠牲になったのか。
キリトはウィンドウを開いて、今フィールドにいるプレイヤーの数を数えた。
…そして、いない人数を口にする。
「…13人、死んだ。」
2桁。
それも、アインクラッド内で最強クラスのプレイヤー達が。
これよりも上に、二十以上の層があるというのに…
「…俺達、このままテッペンまで、辿り着けんのか…?」
エギルが思わず呻いたその言葉に、その場にいる誰もが答えられない。
今回と同じレベルのボスが並ぶと仮定して、犠牲を10としても、最低でも残り250人は犠牲になる。
…つまり、今この場にいる人数の7倍以上。
その現実に、泣き出す者もいた。
受け入れたくない。そんな気持ちが、行動にされているようだった。
キリトは、周りを見つめた。
そこで、彼は見た。
疲弊し、座り込んだプレイヤー達の中心。
励ますように、鼓舞するかの如く立ち尽くし彼らの周りを歩く、真紅の騎士。
巨大な盾を持つ、最強の男。
『こんな時でも立ち上がり、味方を鼓舞する…流石だな。』
キリトは最初、純粋にそう感じた。
それ程までに、彼の姿は崇高に見て取れた。
ーー本当に、そうか?ーー
その瞬間、1種の違和感を覚える。
何か正体は分からない。…だが、《何か》が引っかかる。
そして、次の瞬間。
彼が醸し出すオーラ…《ある人物》の雰囲気をキリトは感じ取った。その人物には、直接あったことはない。
だが、2年ほど前はテレビやネットニュースで見ない日はなく、そして
この世界の《神》に。
今、ヒースクリフが向けるのは、慈愛や労いの念などでは無い。
ただ彼は見下ろしている。
なんの感情もなく、まるで
「…ッ…」
それと同時に思い浮かぶ、かつての光景。
数ヶ月前、弟と話した、《もしも》の話。
不敗神話、圧倒的な知識量、そしてかつて自身とのデュエルの時に見せた、限界を超えたスピード…
その全てが当てはまり、一つの確信へと変わった。
「………」
キリトは剣を拾い、ゆらりと立ち上がる。
そして、彼の視界の端に
「キリト君…」
その様子に気づき、アスナは声をかけた。
キリトは彼女の方向を向いて、一言。
「……ゴメン。」
思わず、そう呟いた。
瞬間、キリトは足を踏み抜いて突進を開始。
刀身を青く染める。
片手直剣ソードスキル単発技《レイジスパイク》
攻撃力は低いが、速さなら申し分ない。
だが、ヒースクリフもそれにはすぐに反応する。凄まじい速度で迫り来る黒い刀身。
それを自身の盾でしっかりと受け止めた。
「…クッ…」
「…!?」
困惑を浮かべる表情。
恐らくそこには演技はないだろう。
だからこそ、キリトは笑みを浮かべた。
ーーそう、攻撃はここで終わらない。
先程から、真紅の騎士を見ていた者が、キリト以外にもう1人。
キリトとは遅れて動いたために、察知されなかった、同じ黒衣の青年。
ーカズマは、ヒースクリフの背後で、剣を振り上げていた。
その瞬間、彼の存在に気づいたヒースクリフは後ろを見るが時すでに遅し。カズマの剣は振り下ろされて、ヒースクリフの体を切り裂く…
直前に、紫色の障壁に防がれて、紫色の閃光を散らした。
2人はそのまま距離を取って、剣をしまう。
そして周りのプレイヤー達は、嫌われ者2人がとったいきなりの特異な行動に困惑し、奇異の目で彼らを見る。
「キリト君…!?何を…!」
「ちょ、カズマ…!?何して…!」
アスナやユウキでさえ、慌てて近寄る中、それでも2人は視線をヒースクリフにのみ向ける。
そして、アスナも気づく。
先程カズマが斬りつけた場所に浮かぶ、紫色の英語の羅列。
日本語読みをすると…《不死属性》。
「システム的…不死…?どういう、こと…ですか…?団長…」
アスナの震える声。
途切れ途切れに紡がれたアスナの言葉に答えたのは、キリトだった。
「これが伝説の正体だ。この男のHPはシステム的に、絶対にイエローへはいかないように設定されているのさ。」
キリトの言葉に、驚愕の気配がフィールドを包み込む。
そして、それにカズマも続く。
「…1度、考えたことがある。今《あいつ》はどこで俺らプレイヤーを監視して、コントロールしてんのか…ってさ。…ま、結論から言えば、簡単なことだった。」
「ああ…どれだけ小さな子供でも知ってる事だ。」
「「他人の遊ぶゲームを、傍から見続けるほど、退屈なものは無い。」」
「そうだろ…?…茅場晶彦。」
紡がれた言葉。
問われた名前。
驚愕の雰囲気。
…その全てに、ヒースクリフは…
柔らかな笑みで答えたーー。
茅場晶彦に専門科目教えてもらいたい。