「「…殺す!!」」
カズマとキリト。
両者同時に叫ぶと、同時に石造りの地を蹴った。凄まじい加速。
次の瞬間、彼らは剣を振り下ろした。
飛び散る火花、響く轟音。
ヒースクリフの盾はキリトの二刀を、剣はカズマの赤剣をしっかりと受け止めた。
それらはしばらくせめぎあい…
「…ッ…!」
ヒースクリフが体を回転させて2人を弾き飛ばす。
キリトは膝をついて勢いを止めて、カズマはバク転でそのまま受け流した。
まず、キリトが動く。
二刀を広げて突進。
距離を詰めると高速の連撃を繰り出す。
『決して、ソードスキルは使えない。あれを作り出したのはやつだ。弱点も熟知してるだろう…。なら、俺の実力のみで倒しきるしかない…!』
キリトはそのままソードスキルに設定されていない、高速連撃を繰り出し続ける。
だが、ヒースクリフも決して撃ち漏らしはない。圧倒的な判断力と集中力で剣を叩き落とし、避け続ける。
キリトも負けない。
凄まじい集中力でカウンターもいなし、凄まじい速度の剣筋をしっかりとヒースクリフに狙い定めていた。
そして、ヒースクリフの突きをキリトが剣でいなし彼の二刀がヒースクリフに防がれた直後、キリトの背後から赤色の閃光が閃く。
ヒースクリフはそれを剣でいなそうとするが、あまりの威力に押し負けた。
「クッ…!」
ヒースクリフの顔が歪む。
だが、キリトはカズマを押しのけて尚も連撃を開始する。
「ちょっ…!?」
「…ふむ…」
カズマが呻き、ヒースクリフは盾を構えた。
「セアアァァァァ!!」
キリトの凄まじい集中力は、逆に彼の視界を狭める。
『もっとだ…!もっと速く…!!』
速さへの執着。
それは、彼に戦闘の選択肢を無くしていく。
確かに、彼の剣速は上がっていく。
それは、彼自身も感じていた。今や、彼のこの剣は誰にも止められない。
…1人を除いて。
「…ッ!」
ヒースクリフは凄まじい剣速の二刀を確実に叩き落としていく。
キリトにとってそれはつまり、現在の自身の武器が通じないということであり、精神的に追い詰められていく。
『クソッ…!』
彼はさらに踏み込み、フィールドを削った。
それは砂塵となって舞い、ヒースクリフとキリトを包む。
キリトは一心不乱に剣を叩き込み続ける。
だが、その全てをヒースクリフの盾に防ぎ切られ、一瞬の隙をついてヒースクリフの剣がキリト目掛けて振り抜かれた。
「…ぁ…」
その剣は直撃はしなかったものの、キリトの頬の薄皮を裂き、微量ながらHPを減らした。
それは、ほんの僅か。
…だが、それがキリトに更なる焦りを産む。
《早く倒さなければならない》
《だが、通常攻撃では駄目》
その瞬間、最悪の選択を彼はしてしまう。
「…ァァァアアア!!」
切羽詰まった叫びと共に、彼の持つ剣の刀身が青く染まる。
ソードスキルの発動。
それと同時に、ヒースクリフは勝ちを確信した笑みを浮かべた。
『…しまった。』
そして、その瞬間にキリトは気付く。
自身の判断の愚かさを。
途中遮断も考えるが、だがそれでは技後硬直の間に斬られて、終わる。
つまり、技を発動するしか、彼には選択肢がなかった。
右手の剣がヒースクリフの盾に吸い込まれる。
…だが、忘れてはならない。
キリトには、ヒースクリフという敵だけでない。たった1人の、味方がいることを。
「「…!?」」
その、ヒースクリフとキリトの間に、1つの影が入り込んだ瞬間。2人は驚きに目を剥いた。そのプレイヤーはあろうことか赤色の刀身をオレンジに染め、そのまま技を発動しようとしているキリトの前に現れたのだ。
このままでは、ヒースクリフでなく彼が…カズマが剣の餌食になることは明白。
「…ハァッ!!」
気合いと共に走る刀身。
流麗な軌跡を描いたそれは、なんと…
「…ッ!」
そして、二撃目はキリトの左手の剣へと直撃。攻撃を途中キャンセル…パリィされたキリトはそのまま後ろへ吹き飛ぶ。
その間、ヒースクリフがそのチャンスを逃すはずも無く、彼はカズマに剣撃を繰り出す。
だが、カズマの刀身の光はまだ消えない。
そのまま3撃目でヒースクリフの剣を弾いたカズマの剣は、4撃目を彼の盾に直撃させた。
その瞬間、彼の周りにオレンジ色の正方形が完成した。
片手直剣ソードスキル四連撃技《バーチカル・スクエア》
「ヌゥッ…!?」
そのまま極大威力の一撃にヒースクリフは吹き飛ばされる。
これこそ、彼の狙い。
キリトのソードスキルを二連撃でパリィして途中遮断し、そのままヒースクリフをいなしと極大の威力で吹き飛ばす。
これにより、キリトの絶体絶命の事態は見事に防がれた。
そして、剣の光が収まった後すぐに、カズマはキリトに近寄った。
「え…あ…」
お礼でも言いかけたのか口を開いたキリトにカズマは…
パァンッ!
「おぶっ?!」
強烈な一発(カーソルギリギリ)を彼の頬に叩き込んだ。
これにはヒースクリフも驚くように目を丸くし、そして周りの攻略組プレイヤー達も微妙な雰囲気を出す。
頬を抑えるキリトに、カズマは
「目え覚めたか?
…絶対怒ってる。
だってもう、ルビがおかしい。
だが、カズマは呆れたようにため息をつくと、そのまま言葉を紡ぐ。
「あのさぁ、兄貴。わざわざ1人で突っ込むなよ。こっちのハンデ丸つぶれじゃねえか。」
「…そう、だな…」
「確かに、焦る気持ちも、緊張も分かるけどさ…兄貴は今、1人じゃねえ。」
「俺がいるんだ。…頼ってくれよ。」
「家族で、仲間じゃねえか。」
「…そう、だよな…」
カズマの言葉で、ようやくキリトは頭が冷静になっていく。
そうだ。
わざわざ、自分自身の力だけであの男を倒す必要は無い。
この世界でこれまで、何度もそうしてきたように。
「…悪い、迷惑かけたな。」
「今に始まった事じゃねえよ。さて…」
「待たせて悪かったな。…第2ラウンドと行こうぜ。」
カズマの言葉に、ヒースクリフは苦笑を浮かべた。
「…まったく、あのままかかってきてくれれば楽だったものを…これが《絆》というものかな…」
「そんな高尚なもんじゃねえよ。ただの《慣れ》だ。」
カズマは苦笑を浮かべてそう返す。
そして、キリトはカズマと背中合わせに立つ。
そのまま黒い剣を持つ右手を後ろに引き、白い剣を持つ左手を前に出して構える。
そして、カズマは右手に持つ剣を前に出して構えた。
対して、ヒースクリフ。
十字盾を前に、右手の剣を後ろに引いて構えた。
「……」
「……」
「……」
そのまま、両陣営睨み合い、一定の距離を保つ。
…だが、次の瞬間。
先ほどと同様。キリトがまず、足を踏み抜いて一気にヒースクリフとの距離を詰めた。
その凄まじい速さに、しかしヒースクリフはしっかりとついて行き、初撃を盾でしっかりと防いだ。
そのまま数合打ち終わり、最後の一撃をキリトが振り抜くと、そこに確かな隙ができる。
それをヒースクリフは見逃さない。
最短距離で剣を振り抜き、キリトを狙う。
…だが、直後。
キリトの背後から現れたカズマがそれを弾き、ヒースクリフは体勢を崩す。
「ゼアアァァァ!!」
「グッ…!」
続けて繰り出されるカズマの剣撃をヒースクリフは辛くも盾で受け止めた。不安定な体勢だったために、数メートルほど後退する。
だが、体勢を立て直したのも束の間、背後から殺気を感じて、振り向きざまに剣を横薙ぎに繰り出した。
剣の切っ先がキリトの頬を掠め、彼は後退するが、しかし先程のような動揺はない。
むしろ、酷く落ち着いていた。
「…なるほど…これが彼らの連携か…」
ヒースクリフがそう呟くと、彼の頬に一筋の雫が落ちる。
キリトとカズマ。
2人がボス戦などで見せる連携は、攻略組内でもかなり高い評価を得ていた。
というのも、2人は戦闘で連携を取る際、ほとんど言葉を発しないのだ。
まるで、
「まさか、ここまで
《言葉を発さない》。
それは、云わば彼らの行動パターンの情報が限りなく少ないことを示す。
つまり、対戦相手からすれば《厄介》。
それがモンスターではなく、人相手だと尚更。
「フッ!」
ギイイィィンッ!
キリトの斬撃をヒースクリフは盾で受け止め、そして、その背後にカズマの姿があるのが写る。
それを見て、ヒースクリフは目線を少しそちらにズラした…
ヒュバッ!!
「…なッ…!?」
だが、その瞬間の、視覚外からの一撃。
キリトの突きが十字盾をすり抜けて、ヒースクリフの顔を掠める。
連携を利用した、ブラフ。
単純な手ではあるが、緊張の高まるこの場では、圧倒的な効果を見せる。
そして、その攻撃で、ヒースクリフのHPはレッドゾーンにまで突入する。
「カズマ!」
「ああ…!」
キリトの呼び声。カズマの呼応。
その瞬間、カズマが前に出た。
そして、彼は…
誰も予想できない行動に出る。
なんと彼は、右手に持つ赤剣の刀身を薄緑色に染めた。それは正しく、ソードスキルの発動。
これにはヒースクリフだけでなく、周囲の攻略組プレイヤーからも驚愕の声が上がるが、カズマは止まらない。
そのまま右手の剣を振り抜き、盾と接触することで凄まじい音を発した。
『…まさか、これも彼らの連携なのか…?』
ヒースクリフはチラリと横目でキリトの動きを確認する。だが、彼が動いている気配はない。
ならば、なぜ目の前の青年はソードスキルを使ったのか。ヒースクリフには理解が追いつかなかった。
彼は今も技後硬直で動けないはずだ。
それは、ヒースクリフにとって最大のチャンスだった。
…だが、次の瞬間。
ズガアアァァァン!!
「グオッ…!?」
凄まじい衝撃がヒースクリフの盾を襲い、彼の持つ十字盾は大きく跳ね上がった。
混乱の中、ヒースクリフは状況を確認する。
キリトは動いていない。
なら、2人以外に麻痺から回復したものがいるのか。
だが、そうではないようだ。そもそも麻痺は管理者権限でヒースクリフの指示がない限り、解除されることは無い。
そして、カズマを見た。
彼の体勢は確実に変わっていた。
先程の剣を振り抜いていた体勢は、左足が跳ね上がり、その脚の靴部分は消えかけながらも黄色の光に包まれていた。
ヒースクリフは、それを知っている。
この世界のソードスキルをデザインしたのは彼なのだから。
ーー体術スキル・蹴り技《弦月》ーー
だが、それが分かった瞬間に彼は剣をカズマに向かって突き出す。
何故か、彼は技後硬直にならず、《ソードスキルの連続使用》という離れ業をやってのけた。
だが、今の彼はその素振りはなく、技後硬直に陥っていた。
「…ッ…!」
無音の気合と共に高速の突きの切っ先が走る。それは、カズマには対処出来ない攻撃。
当たれば間違いなく彼のHPバーは消し飛ぶ。
…だが、彼の剣はカズマには届かない。
銀色の剣は横から繰り出された黒色の剣に真上に弾かれた。
そして、必然的にヒースクリフの胴はがら空きとなる。
その瞬間を、キリトは逃さない。
「アアアアァァァァァッ!!」
吼えながら左手の白い剣で突きを繰り出す。
体を捻り、加速を乗せてヒースクリフに狙いを定めた。
「…ヌォォォォオオオオッ!」
だが、負けじとヒースクリフも十字盾を引いてキリトの剣の軌跡上に割り込ませようとする。
それは一瞬の攻防。
気迫の一撃。
白い盾と、純白の剣は、一瞬の後に交錯したーー。
そして、プレイヤー達は目撃する。
ヒースクリフの紅い鎧を貫く白い刀身。
白髪の横で消滅する、HPバーを。
それが示すものは、正しく…
2人の、勝利だった。
「…なんだ、これ…」
最高威力の突きをヒースクリフの肉体に命中させたキリト。だが、彼自身、ある種の違和感を感じていた。
この世界では、味覚や嗅覚などの感覚は現実世界と同じように機能している。
それは触覚も同じで、何かを触ったりする時や、何かを斬るときですらそれは感じることが出来る。
…話を戻そう。
今キリトがヒースクリフの体に突き立てているはずの、純白の剣…《ダークリパルサー》から、彼は何も感じられなかった。
もし刺さっている、ヒースクリフの体を切り裂いているなら、生々しくも重い感覚が感じられる筈だ。
だが、彼の体からは、何も感じられなかった。
それこそ、《虚無》に刃を突き立てているように。
「…見事だ、キリト君…」
ヒースクリフの声に、キリトは顔を上げた。そこに浮かぶのは笑み。だが、次の瞬間…
ビービービービービービービービービービービービービービービービービービー!!
「グッ…ォ…!?」
「なんだ…これ…!」
フィールド全体に響く警報音。
あまりの大きさに、攻略組プレイヤー全員が耳を塞いだ。
そして、それはカズマや、そしてキリトも同様で、思わず左手の剣を離してしまう。
『しまった…!』
警報音の中、キリトは耳を塞ぎながらヒースクリフにもう一度目を向けた。
そして…
「なッ…!?」
彼は、見た。
ダークリパルサーが突立つ部分を中心に、ヒースクリフの体が歪み、砂嵐のようにブレている光景を。
やがて、そのブレは全身に広がり…
そして、刺さっていた剣だけをのこして、《紅い魔王》は、その場から姿を消した。
カラン、カラン…
キリトの純白の剣。
それが落ちた音だけが、フィールド内に響く。
「……」
「……」
状況が理解出来ない、キリトとカズマ。
そして、それは周りの攻略組プレイヤー達も同様であり、誰もが言葉を発せられなかった。
…だが、やがて。
ある一つの《音》がその静寂を破る。
ゴゴゴゴゴ…
それは、石同士が削り合い、そして攻略組プレイヤー達なら、聞き慣れた音。
音の方に目を向けると、そこには開き始めていた上層への扉。
そして、しばらくして…
ゴォンッ…!
まるで、続くことを知らせるように、重い音が大きく響いた。
「……」
「…クソッ…」
ーーそう、ーー
ーーデスゲームは、まだ終わらない。ーー
赤信号 みんなで渡れば 怖くない(やめとけ)
仲間がいるって大事ですよね(意味が違う)