ソードアートオンライン 〜鋼鉄の記憶〜   作:誠家

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1話1話のタイトル考えるのも結構ムズい。



第6話 歪み始めた傍らで…

第75層ボス攻略戦から4日が経過した。

 

 

あれから、第75層のボス撃破の話題はすぐさま一般のプレイヤーにも広まり、下層は歓喜に包まれた。

そして、最強ギルドのリーダーであり、最強のプレイヤーでもあった、ヒースクリフの正体がアインクラッド中に広まり、それによってアインクラッドに激震が走った。

しかし、思いの外攻略組に限っては大した支障はなく、後継者決めもスムーズに進んでいた。

…が、今は、あることについて、グランザムで議論中であったーー。

 

ダァンッ!!

 

「だから!攻略責任者は元々我々血盟騎士団のアスナ副団長が受け持っていたんだ!それならばそのまま受け継ぐのが流れというものだろう!?」

 

「いやいや、そのような流れは関係ないでしょう。それなら、そちら側は今まで攻略について好き勝手出来ていたのですから、今度はこちら側に譲るべきでは?」

 

そう、それは…

 

聖竜連合と血盟騎士団(二大ギルド)とその他のギルドによる、次期攻略責任者の決定である。

 

第75層ボス撃破の後、結果的に団長不在となった血盟騎士団。

それによって役職も変更となり、副団長であったアスナが団長に。

そして、タンク隊隊長であったシヴァタが新副団長に任命された。

ちなみに、シヴァタはここ数ヶ月で二階級特進並の大出世である。羨ましい。

…話を戻すが、つまりは団長職に就くと、これまでの仕事よりも膨大なものとなるため、アスナの負担軽減のために攻略組責任者の任を変更しようとなったのだ。

 

…で、この始末である。

 

ギャーギャーと喚き散らす数人。

今のとこ3人ずつ聖竜連合と血盟騎士団の幹部がいるが、どちらも知能指数的には同じなようだ。

というか、次期攻略責任者の候補に上がっているシュミットとシヴァタが黙りこくっているのに、何故か他の奴らが喚き散らしている。

 

「ふあぁ…眠い…」

 

会議机の端っこにいたソロプレイヤー、カズマもそう唸りながら欠伸を漏らす。

それには向かい側に座るランと、隣に座るシュンヤも苦笑を漏らした。

曰く、議論に公平性を持たすために、ソロプレイヤー達も収集されたようだ。

 

「にしても、折角兄貴も抜けたのに、相変わらずKoBは争い事が絶えんな。」

 

「だなぁ…」

 

カズマが話しかけた黒衣の青年、キリトは疲れたように声を漏らした。

 

ちなみに、キリトが血盟騎士団を抜けるとなった時も、一部の上層部が反発。

というのも、「規定に従い、デュエルに敗北したのだから、一定期間はギルドに滞在すべき」との事。

一定期間てなんやねん、と言いたくなるがそれは置いといて。

ひとまずその件に関しては、規定を結んだ相手が既にこの世界にいないこと。そして、その人物から一時ではあるものの、退団を認可されたこと。

それら判断材料が揃っており、更には現団長からの許可もおりた(というか現団長が奨めたのだが)為、キリトは退団することが出来たのだ。

 

「まぁ、ガリノッポの一件もあったしなぁ。当然ちゃ当然なんだけど。」

 

「そう、だな…」

 

《ガリノッポ》。

カズマがその単語を出すと、キリトは少しだけ思い悩むように暗い表情を見せた。

 

カズマがガリノッポと称する人物。

それは、かつて血盟騎士団に所属していたプレイヤー。

名を、《クラディール》。

元はアスナの護衛を任される程に優秀…というか腕はたつプレイヤーだった。

しかしアスナへのストーカー紛いの行動や、キリトと無断でのデュエルなど問題を起こし、護衛役を解雇。

更にはその事に逆上して、血盟騎士団へ入団したキリトを葬ろうとまでした。だが、その作戦も失敗。最終的にはキリトの攻撃でHPが吹き飛ばされ、アインクラッドからその存在を消した。

なお、その過程で2名の尊い命が失われた。

 

カズマとキリトが話している間も、両ギルドの応酬は止まらない。

どころか、どこか激化しているようにも見える。というか、最早文句の言い合いのようになっていた。そんな中…

 

パァンッ!

 

乾いた音と共に、喚き声を上げていた両ギルドの幹部達は押し黙った。

そして、両手を叩き、一瞬で両ギルドを黙らせた張本人。新血盟騎士団団長・アスナは両陣営を少し睨み、透き通った、よく聞こえる声で話し始める。

 

「ここは無意味に両ギルドの憎まれ口や不満をぶつけ合う場所ではありません。攻略責任者として、どの人物が適切か決定する場です。それらの議論はまた別の機会にしてください。」

 

新団長の鋭い一言によって血盟騎士団は押し黙り、聖竜連合側は萎縮する。

 

「相変わらず怖い…」

 

「あれで兄貴と2人のときはデレッデレなのがビックリだよな。」

 

シュンヤの呻きに頷きながら、キリトはいらないことを言ったカズマを軽めにしばいた。

 

「この議会の目的は決して、聖竜連合と血盟騎士団、《どちらが実権を握るか》というものではありません。あくまで目的は、先程申し上げた通り、《誰が次期攻略責任者として適任か》見極めること。いいですね?」

 

アスナの忠告にも似た言葉。

それには幹部達も首を縦に振ることしかできない。

アスナはため息をつくと、話を進める。

 

「それでは、ここからはこの場にいる皆さんの意見を聞いていきたいと思います。今現在聖竜連合からはシュミットさん。血盟騎士団からはシヴァタさんが候補として名が挙がっています。これについても、言及してもらっても構いません。我こそはと立候補も可とします。」

 

 

聖竜連合・シュミット

「俺としては、勿論任命されれば精一杯やろうとは思う。だが、それでも部隊の指揮もして、隊の攻略についても考えながら攻略責任者をするって言うのは、少し荷が重すぎると思うのも確かだ。」

 

血盟騎士団・シヴァタ

「シュミットと同じだ。俺は確かに専属の部隊は無い。けど副団長になったからにはあらゆる所で団員を取り締まらなければならない。アスナさんのように並行して全て出来る気はしないんだ。」

 

風林火山・クライン

「…ま、俺らは良くも悪くもそこまで大きくねえ中堅ギルドだ。2人のどちらになっても責任者サマには勿論従うからな。正直言うとどちらでもいいとは思うぜ。」

 

アニキ軍団・エギル

「そうだな…俺としちゃアスナに続けて貰いたかったんだが…まあそれに関しては仕方ねえ。けど、2人共乗り気じゃねえなら他の候補を出してみてもいいんじゃねえかと俺は思うぜ。…俺?いやいや、そんなのは向いてねえよ。」

 

スリーピングナイツ・ユウキ

「ボクとしては、聖竜連合と血盟騎士団が喧嘩しない決定なら正直誰でもいいんだよねー。それこそウチのね…副団長でもいいとは思うし。…え?やだ?えー。」

 

 

「…皆さんの意見はわかりました。それでは…」

 

「ソロプレイヤーの御三方にも、ご意見を伺いたいと思います。…よろしいですね。」

 

「はい、勿論です。」

 

「…なあ、兄貴が口聞きして飛ばして貰えたり…」

 

「家帰ったら怒られるからヤダ。」

 

「…なーるほど。それは嫌だな。」

 

カズマは納得したように頷くと、ため息をついた。

 

ソロプレイヤー・シュンヤ

「俺の意見としては、前者の方々と同じで誰でもいいのではないかと思います。向き不向きと言うよりは、本人にやる気があるかどうか。そして、それはどのギルドにおいても不利益をこうむらないかなども、考慮して行ければいいと思います。」

 

ソロプレイヤー・キリト

「…まぁ、アスナの役職交代は俺も奨めたから、有意義な意見を言っておきたいんだけど…あまり思いつかないんだよな。勿論適任者がいればそれでいいんだけど、そういうのって普通分かんないしさ。だからまぁ、お試し期間とか設けてもいい…んじゃないですかね?」

 

 

「なるほど…さて、あとはカズマ君。よろしいですか?」

 

アスナが目線を向けると、カズマはしばらく少し上に目線をズラしていたが、すぐにアスナと目線を交錯させた。

 

「あのー、一応質問なんですけど。」

 

「はい。」

 

「これって立候補じゃなくて、《推薦》もありなんですよね?」

 

「…そうですね。ええ…推薦した方の了承は取らなければなりませんが。」

 

「了解です…っと」

 

カズマはそう言って、椅子からおりるとそのままぐるりと会議机を回って、アスナの近く…前方にあるホワイトボードの前に立った。

そして、《シュミット》《シヴァタ》と名前のある横に、もう1人の名前を書き足していく。

 

キュキュキュキュー…

 

…そして…

 

「ほいっ。じゃ、俺が次期攻略責任者に推薦するのは、この方です。」

 

 

《シュンヤ》という、

そこにある名前をみて…

 

 

「ハアアアアアアアアアァァァァァッ!?」

 

名指しされた当人は、凄まじい絶叫を上げた。

 

「いや、ちょっ、おま…ハア!?」

 

「ンだよその反応。俺が推薦するって言った時点で分かってたろ。」

 

「分かるか!いや、お前…正気か?」

 

激しいつっこみのあとの問うような声に、カズマは「何言ってんだ」と言わんばかりに鼻を鳴らす。

 

「正気も何も。俺の中でお前が適任だと思ったから書いたんだよ。当たり前だろ?」

 

さも当然とばかりにそう主張するカズマ。

それにはシュンヤも何も言えず、ただ呆然とする。

そして、勿論反論はあった。

 

「い、いや待て!それはダメだ!!」

 

「そ、そうだ!それだけは…」

 

「え、なんで?」

 

カズマはとぼけるように首を傾げると、そのまま続ける。

 

「いーじゃん。シュンヤはシバちゃんやアスナさんと一緒で攻略組に最初期からいるメンバーだし、戦闘員としても超優秀だぜ?」

 

「そ、それは…」

 

「それに、おたくら《二大ギルドサマ達》は要は片方のギルドに美味しいとこ取られたくないわけだろ?なら中立的立場のソロプレイヤーがなれば丸く収まるじゃん。結構いい落とし所じゃねえかな。」

 

カズマの主張は実際、的を射ている。

というのも、二大ギルドの幹部達が何故それほどまでにそれぞれのプレイヤーが攻略責任者になることを拒む理由。それは、自身達のギルドの戦果に悪影響を及ぼすのではないかという《不安》からだった。

攻略責任者とは、攻略組で協力して攻略しなければならないボスの時などに、作戦の合否を決めたり、どの人物が新しく攻略組に加入するかなどを決めたりもする。

それはつまり、彼らにとってはギルドの戦果に直結しかねない話なわけだ。

故に、ひとまずは自身のギルドの者を責任者において、不安を取り除いておきたいわけだ。

 

…話を戻そう。

なら、カズマが提示する、《いい落とし所》。

それは、シュンヤだからこそ可能なものだった。

まずソロプレイヤーということで、ある一方のギルドに加担するなどということはあまり考えられない。

そして、彼自身、周りは良く見えている。それは戦闘中に限らず、彼の空間把握能力は確かなもので、それぞれの担当地点の不備などの把握も容易だろう。それこそ、彼の定期的な周りへの声掛けで命を救われた者も少なくはない。

更にはその真面目な性格も功を奏していた。

というのも、彼は《ビーター》の1人という事で毛嫌いされがちではあるが、それでもその真面目な性格故に、年上年下限らず、各ギルドにも彼とは仲がいいというプレイヤーは割と多い。

《ビーター》ということで有利になるようなことは、上層になって少なくなってはきたものの、やはり《ビーター》が責任者となると風当たりは強くなる。だが、それでもシュンヤなら大丈夫だと、カズマは確信していたのだ。

 

「…なるほど。それは考えていませんでしたね。」

 

「…悪くないな。」

 

アスナもどこか納得したように頷き、シヴァタも唸りながらそう呟く。その反応に、カズマは笑みを浮かべる。

 

「でしょ?…ま、やるかどうか本人によりますけどね。」

 

「そうですね…」

 

ジッ…と。

シュンヤに対して視線が集まる。

それに何処か気圧されるように、シュンヤは少しだけ上体を逸らすが…

シュンヤはすぐに体勢をもどして、ぐるりと周りを見渡した。

その視線は、様々だ。

アスナやユウキのようにただ回答を待つのみのものだけでなく、シュミットとシヴァタのように何処か試すような視線。クラインとエギルのように期待するような視線。

そして…

 

カズマとキリトが浮かべる、どこか確信したような視線。

 

そう、彼らは分かっているのだ。彼が、この状況で断るなど、しないことを。

シュンヤはそれに何処か不本意に感じながらも、観念したようにため息をついた。

 

「わかりましたよ…ただ、1つ。今この場にいる全員で、多数決を執り行って貰えますか?出来れば公平性は維持したいので、それの結果によって決定としてください。」

 

「分かりました。すぐに用意させましょう。…2人も、それでいいですか?」

 

「ああ、勿論。」

 

「うん。異論はない。」

 

他の候補者2人の許可も取れて、そこからはスムーズに進んだ。

勿論、シュンヤの提案通りに厳正な多数決も執り行われたが…

 

結果は、言うまでもないだろう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ふう、やっと終わった…」

 

血盟騎士団のギルドホームを出て、カズマは腕を組んで体を伸ばす。

そして、降り注ぐ日光を吸収するように手を大きく広げた。

彼が目を閉じてその行為に少しだけ浸っていると、すぐに背中に「トスッ」と控えめな衝撃。

 

「おふっ…。…何してんだよ、ユウキ。」

 

衝撃の元凶であるロングヘアの少女を少し横目で見ると、少女…ユウキは横目で分かる程の満面の笑みをうかべた。

 

「え?さっきの仕草は「俺の胸に飛び込んでこい…」ってやつじゃないの?」

 

「俺そんなキザな言葉言ったことねえだろ。…ていうか、胸じゃなくて背中だし。」

 

「細かいことは気にしなーい。」

 

「あはは…ごめんなさい、カズマさん。」

 

「…ま、いつも通りだよ。ていうかラン、何か用か?お前ら今日は昼飯一緒に食うんだろ?」

 

「はい、その事で少しお話が。提案なんですが、一緒に食べませんか?」

 

「あー、俺とお前ら3人でか?」

 

「そ!確かカズマも外食だったよね!?」

 

「まあな。うん、良いよ。一緒に食おう。」

 

「わぁい!」

 

「ありがとうございます。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

ギルドホーム内での団長執務室。

そこでアスナ手作りの弁当を食べ終わったキリトは、アスナとお茶を飲んでいた。

 

「ふー…何とか終わって良かったわ…」

 

「大変だな、団長サマは…」

 

「まぁね。…団長も、こういうことがあるから、攻略に関しては私に一任してたわけだから、予想はしてたけどね。」

 

「…ま、あいつも苦労してたんだろうな。」

 

茶を啜り、そこからは静寂が包む。

 

あの戦いの後。姿を消したヒースクリフこと、茅場晶彦。彼の所在は今も分かっていない。

勿論、死んだと考えるのが最も妥当な判断なのだろう。

だが、キリトの中では、あの笑みとそして、あの時の剣の感触に未だ違和感を感じていた。

 

「確か、剣士の碑には…」

 

「ああ、奴の名前は既に無かった。だから、生きてるかどうかも分からない。」

 

「…そうね。」

 

そして流れる、微妙な雰囲気。

それを振り切るようにアスナは首を横に振ると、笑顔を作る。

 

「そ、そういえばさ!最近妙な噂があるの知ってる!?」

 

「え…噂…?」

 

「うん。なんでも、新層…76層にある圏内の森に度々妖精が現れるって…」

 

「妖精…?それってメルみたいな…?」

 

「ううん、メルちゃんみたいじゃなくて、私達の身長と同じくらいらしいの。目撃者によると、金髪で緑色の羽が生えてるんだって。」

 

「…それは、少し気になるな。」

 

「でしょ?だから、この後行ってみない?」

 

「え…?でも仕事は…」

 

「大丈夫。今日は午後から休みだから。」

 

「…そっか。分かった、行こう。」

 

「うん。」

 

アスナは柔らかく微笑んだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

76層、主街区。

大通りを歩く、カズマ一行。

その時3人は、カズマが見つけたそこそこ美味い(らしい)飯屋へと向かっていた。

…だが。

 

「…?ねえ、カズマ。」

 

「ん?なんだよ。」

 

「あれ、なんだろう…?」

 

「んー…?」

 

ユウキは空を指さして、カズマにそう問うた。カズマとランは視線を上げて、その方向を向いた。

そして…

 

空に、紫色の亀裂が走っていた。

 

「…ちょっと見てくる。」

 

「え?あ、分かりました。」

 

「行ってらっしゃい。」

 

「ん。」

 

カズマは緩やかに加速する。

すると、その間に亀裂にも異変が起き始める。亀裂の下には何も無かったが、やがてポリゴンらしきものが集まり、何やら形作っているようだ。

 

「…?」

 

だが、それでも何かは分からないため、カズマは加速を強めながらも、緩やかに加速していく。

…やがて、ポリゴンは細長い楕円形のものから、形の細部が細かくなっていった。

窪みが生まれ、楕円の膨らんだ部分は削れて流麗なラインを生み出していく。

そして更には先端は丸く、形作られ、やがて腕、脚、頭と思われる部位が見え出す。

 

「…あれは…」

 

それに気付いた瞬間に、カズマは足を踏み抜く。凄まじい加速とともに人の間を抜けて、亀裂の真下に猛ダッシュ。

そして、亀裂の下に形作られた、ポリゴンの塊は弾け、その中身が姿を現した。そして、急降下を始める。

 

「…ッ…!!」

 

カズマは三段跳びの要領で勢いそのままに通りを駆け抜ける。

そして、地面と直撃する直前に、石の地面を滑って何とか受け止めた。

 

「…っぶねー…」

 

カズマはそうため息をつくと、受け止めた《人》を見つめた。

どうやら女性のようだ。

とりあえず分かることは黒いセミロングの髪くらい。

赤と緑の装備に身を包んではいるが、本人の意識は無いようだ。

目を瞑ったままカズマの手に収まっている。

緩やかな寝息を立てているあたり、生きてはいる。

そして、ザワザワと自身を囲む者たちを見て、カズマはため息をついた。

 

「やれやれ…」

 

カズマはそのまま少女を抱えると、立ち上がってユウキ達の元に急いだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「…なあ、アスナ…」

 

「うん、多分あの人かな…」

 

76層主街区から少し外れたところにある、圏内の森。その中でキリトとアスナは木の影から目の前にいる人影を見つめる。

その人物は、金色の髪をポニーテールで結び、緑色の装備をつけて腰には剣。背中には確かに緑色の小さな羽が生えていた。

 

「…クエスト発生用のNPC…じゃないみたいだね。」

 

「…とりあえず、話しかけてみるか。」

 

「そう、だね…ここは圏内だし…」

 

「ああ、バトルになることは無い…と思う。…じゃ、行くぞ。」

 

キリトは立ち上がると、ゆっくりと前に進む。アスナもそれに後ろから続き、目の前にいる《妖精》へと近付く。

そして、その妖精は足音に気づいたのか、キリト達の方を向く。

キリトは、その緑色の目と目が合い、少しだけ緊張感が増す。

…だが、妖精は、それとは真逆の反応をした。

 

「…ッ…!」

 

彼女は驚いたように目を見開いた後、すぐにその表情を変化させていく。

その表情は、満面の笑み。

嬉しそうなその顔に、キリトだけでなくアスナも驚きを隠せない。

そして、妖精はキリトの手をとると、そのまま嬉しそうに上下に振った。

 

「ようやく…会えた…」

 

「へ…?」

 

その言葉の意味が分からず、惚けていたキリト。そして、次の言葉に、更なる衝撃が走った。

 

()()()()()!!」

 

「「お、お兄ちゃん!?」」

 

森の中に、キリトとアスナの驚愕の声が響いた。

 

 

76層主街区。

大通りから外れた脇道を歩くシュンヤ。

任された大役に少しだけ肩を落とし、だが、気合いも入っていた中。

彼に声がかけられた。

 

「隼人。」

 

それは、彼の本名。

限られたものしか知らない、現実の名前(リアルネーム)

シュンヤは久しぶりに呼ばれたその名に驚きながらも振り向いた。

…そして、彼は見た。暗い脇道の中に立つ、1人のプレイヤー。

その顔を見たのは、実に2年半ぶり。

向こうでは、産まれてからずっと見てきたはずなのに、久しく見たその人物に、シュンヤは驚きを隠せなかった。

 

「いや、悪い。今は《烈風》シュンヤ、だったか。」

 

その声も、何処か久しく、鼓膜を震わせる。

シュンヤは、震えた声で。

久しぶりに、その呼称を口にした。

 

「…兄さん。」

 

「…久しぶりだな。…元気そうで、良かった。」

 

 

 

歪み始めた世界は、同時に、

 

大きく、動き始めた。




誰をどこで出すかすげぇ悩んでる今日この頃。
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