ソードアートオンライン 〜鋼鉄の記憶〜   作:誠家

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時が経つのは、早いものだ。

第75層ボスフィールド。

キリトとカズマがヒースクリフを倒してから…

…既に、2週間が経過していた。



第7話 シノンという少女

「っざけんな!!」

 

怒号を上げる1人のプレイヤー。

それを宥めるように周りのプレイヤーは声をかける。

 

「お、おいネス。落ち着けって…」

 

「そ、そうだよ。周りに人もいるし…」

 

「あぁ!?これが落ち着いてられるか!」

 

プレイヤーはなおも声を荒らげた。

 

「俺らは茅場晶彦を倒した!なのになんでまだ解放されねぇんだよ!ラスボスのアイツを倒せばこのクソゲーはクリアなんじゃなかったのかよ!?」

 

男の叫びは、酒場全体に響いた。

 

「今日だってフィールドボスを倒したけどギリギリだ!こんなのいつまで続けりゃいいんだよ!!そうだろ!?」

 

「おい、おめェ。その辺にしとけ!」

 

「あァ?!」

 

ここで、男に待ったがかかった。

それをかけた人物は、赤髪をバンダナで逆立てたプレイヤー。

ギルド《風林火山》リーダー、クラインだった。

今この酒場には、今日のフィールドボス攻略帰りの攻略組プレイヤーが多数居たのだ。

 

「なんだよ!お前みたいな新参者がそんな大層な口聞くなとでも言いたいのか!?」

 

「そうじゃねえ!そんなの、ここにいる奴らが全員思ってる!だっつーのに、おめェが叫んでわざわざ皆の士気を下げるんじゃねえって言ってんだよ!」

 

「はあ!?たかだかそんなことでウチの士気が下がるわけねえだろ!大体、その程度で下がるのはお前のとこの中堅ギルドくらいだよ!!」

 

「あァ!?んだとてめぇ…!!」

 

「ちょっ、リーダー!落ち着いて!」

 

「そうっすよ!手ぇ出したら元も子も…!」

 

「それに、ビーター様達はお休みだったし、本当はアイツらがヒースクリフを倒したってのも、嘘なんじゃねえのか!?」

 

叫び掴みかかろうとするクライン。

それを風林火山のメンバーが止める。

その様子に、ネスというプレイヤーは挑発的な笑みを浮かべた。

 

 

「その辺にしろ!!」

 

 

瞬間、酒場に響き渡る怒号。

それにはクラインだけでなくネスも肩を震わせ黙り込んだ。

その声の主は、ネス達の少し奥のテーブルに座る、紅白の鎧を着た巨漢のプレイヤー。

現血盟騎士団副団長である、シヴァタは、じろりと2人を…主にネスを睨みつける。

 

「ここは我々だけでなく、皆が食事をする場所だ。それに、同じ攻略組メンバーがいざこざを起こしてどうする。」

 

静かな声は、しかし奥で怒りを含む。

 

「そしてネス。お前は先程ヒースクリフ討伐をまるで我が物顔で叫んでいたが、あれはあくまでキリトとカズマの戦績。それをゆめゆめ忘れるな!」

 

「なら、なんでアイツらはヒースクリフが茅場晶彦だって言う情報を隠してたんすか!?俺らを信用してない奴らのことを、なんで俺らが考えなきゃならないんすか!」

 

「てめぇ!もう我慢ならねえ!」

 

「ちょ、リーダー…!」

 

「放せ!一発殴らせろ!」

 

クラインの怒号だけでなく、シヴァタの眉もピクリと動く。

そんな、一触即発の現場に…

 

 

「あー、腹減ったー…って、何だこの雰囲気。」

 

当事者(カズマ)が、姿を現した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「すまんかったな、カズマ。」

 

喧騒が去った酒場。

そこのひとつのテーブルに座るシヴァタは、カズマに謝罪を述べた。

それに、カズマは卓上の料理を咀嚼しながら答えた。

 

「んー…まあ、シバちゃんは悪くねえしな。ああいう意見もあんだろ。」

 

「そ、そうだよ。元気出して、シバ。」

 

「…ああ。ありがとう、リッちゃん。」

 

シヴァタの隣に座る女性…血盟騎士団タンク部隊所属のリーテンが肩に手を添えながら声をかけた。

 

「ったく、ああいうのは一発締めねぇとわかんねえんだよ。やっぱ一発…」

 

「やめとけ。KoBのギルドホームに乗り込む気か。更なる火種を増やすんじゃねえよ。」

 

突撃しようとするクラインを、カズマは一蹴した。

 

ちなみに、いまこの酒場にいるのは彼らだけであり、他のメンバーは各々のギルドホームへと帰った。

叫んでいたネスの言葉には、カズマ自身が言及し事なきを経た。

 

「…ま、確かに。あいつの言う通り、俺はお前らをあまり信用してなかったのかもな。」

 

カズマはグラスの酒を飲み干す。

 

「正直、情報はどこから漏れるか分からんからな。万全を期したかったんだけど…」

 

「いや、あれに関して言えば、お前の判断は間違ってはいなかった。情報が漏れて、ヒースクリフが逆に身構えてしまえば意味が無い。」

 

「そうですよ!カズマさんは間違ってないです!」

 

シヴァタとリーテンの言葉に、カズマは笑みを浮かべた。

 

「…ありがとな、2人共。」

 

「…そういやよ、カズマ。おめェ今日休んでたよな。何してたんだ?」

 

「ああ。ちょっとな…レベル上げを…」

 

「はぁ?お前それ以上上げて…」

 

「俺じゃねえ。…ちょっと、頼まれてな。」

 

そう呟くと、カズマはおもむろにフォークを手に取り、刺した魚のフライを口に運んだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「記憶が無い?」

 

「ええ…」

 

あの後。

空から落ちてきた少女は目を覚まし、カズマが話を聞いていた。

ちなみに、ユウキとランは買出し中。

 

「…それは、このゲームの中でのことが?」

 

「…ええ。まったく…」

 

少女の顔はそう言って、暗く沈み込む。

 

『…嘘ではない、か。』

 

カズマは彼女を観察し終えた答えを出して、困ったように頭を掻く。

 

『正直、こういう脳系の知識はあまりないんだよな…せいぜい、心理学の齧りが限界だ…』

 

「くそ…」

 

カズマは少しだけ、リアルでの自身の努力不足に毒づくと、少しだけ困惑する少女に声をかけた。

 

「悪い。…そういえば、君名前は?」

 

「名前?名前は…」

 

「ああ、記憶が無いのか。えっとこうやって縦に右手を振ってみてくれ。」

 

「…?」

 

カズマの身振りに合わせるように、少女は手を動かした。

すると、彼女の前にウィンドウが出現した。

 

「…!?これ、何…?」

 

「それの最初のページにデカデカと文字が書いてないか?それが君の名前だ。」

 

カズマの言葉に少女は恐る恐る読み上げる。

 

「し…の…ん…?…シノン。…それが、私の名前…?」

 

「そうか。ならシノン。君はこれからこの宿にいてくれ。」

 

「…え?」

 

「勿論、宿代は俺が出そう。正直、俺の金なんかより、君が記憶が無いままフィールドに出て死ぬ方が問題だ。だから…」

 

「ねえ。」

 

カズマの言葉に、食い気味に重なるシノンの言葉。カズマはそれに少し驚きながらも聞き返す。

 

「…どうした?」

 

「…あなたは、戦えるの?」

 

「…ああ。勿論。」

 

「なら、私に戦い方を教えて。」

 

突然の、シノンの要望。

それに、カズマはすぐには答えない。

少しだけ思考した後に、聞き返す。

 

「なんで、戦い方を教わりたい?」

 

「…強く、なるため。」

 

「…この世界では、HPが0になればそれは死を意味する。そのことを分かって…」

 

「勿論…あなたに教わったから…ちゃんと分かってる…。…けど、」

 

シノンはそのまま少し震えながらも声を絞り出した。

 

「私は、強くならなきゃいけない。」

 

「なんで。」

 

「理由は、分からない。…けど、強くならなきゃ、いけないの。…そうじゃなきゃ…」

 

カズマの問。

シノンは何とか声を絞り出そうとするが、そこから先は口が動かない。

言えないことなのか、そもそも言うつもりはなかったのか。

それは、カズマには分からなかった。

…だが、彼は感じ取っていた。

彼女の内にある、確かな《意志》を。

生半可な気持ちでは、言っていないことを。

 

「…分かった。それで、記憶が戻るかもしれんしな。ひとまずやってみよう。」

 

「…ありがとう。」

 

「礼はいいよ。乗りかかった船だ。最後までやりきるさ。…それより、戦い方を教えるなら、条件がある。」

 

「…なに?」

 

「戦い方を教えるのはいいが、決して1人でフィールドには出るな。このゲームでは本当の命がかかってる。フィールドの中では誰が敵か分からん。それと、知らない相手とパーティー…フィールドに出るのもやめろ。いいな?」

 

「…分かったわ。」

 

「うしっ。じゃ、決まりだな。…アイツらが帰ってきたら、飯にしよう。」

 

「…ええ。」

 

カズマとシノンは、口を紡いだままユウキとランを待った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

「兄さん、今…なんて…」

 

震えるシュンヤの声。

それに、彼の目の前に座るメガネの青年は淡々と答えた。

 

「…言葉の通りだ。」

 

 

 

「この世界は既に、脱出不可能なんだよ。」

 

 

 




今回は少し少なめ。

というわけで、次回もお楽しみに!
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