ソードアートオンライン 〜鋼鉄の記憶〜   作:誠家

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「あのさぁ、兄貴。いつまで直葉とギクシャクしてんだよ。」

「うっ…」

シノンとリーファをそれぞれの部屋に送り届けた後。
1階のレストランのテーブルでカズマの鋭い一言がキリトの胸を刺す。
少しだけ図星のような仕草をキリトがした後、カズマはため息をつく。

「はぁ…。…ま、ただでさえ人付き合い苦手な兄貴が《十余年1つ屋根の下で暮らしてきた、血の繋がってない妹》、なんていう超超特殊な関係性の異性にハキハキ喋れるとは思ってないけどさ…。事実知ってからもう何年経つよ。いい加減慣れろよな。」

「いや…そうは言うけどな…」

カズマの更なる一言に、キリトは更なる傷を受けながらも、尚も答えは煮え切らない。

「兄貴の気持ちは分かる。…けど、これから嫌でも付き合い続けなきゃならない相手だ。なら、早いとこ打ち解けるべきだろ。」

「……」

「それに、将来はアスナさんとも付き合うわけだし。」

「ブッ!そ、それは…」

「ん?なんか間違ったこと言ったか?」

「…いや、言ってない。」

そう、将来的には現実世界に戻った後、交際相手と妹は必ず顔を合わせる。その時に、交際相手どころか、兄が関係性としてあんまりなら、かなり(こじ)れるだろう。
なら、早いところ打ち解けておくのが効果的…というものだろう。

「…それに、兄貴も気付いてんだろ?アイツの《嘘》に。」

「…まぁな。」

そして、カズマのその言葉に、キリトは頷いた。

「なら、それについても問いただして置くべきだろ。1回喧嘩でもして打ち解けてこいよ。」

「…それ、お前がスグと喧嘩するのめんどくさいだけじゃ…」

「いーや、兄と妹の関係を想った心優しい次男の気遣いだよ何言ってんだはははは。」

キリトの指摘に、カズマは凄まじい早口で答えると、ゆっくりと席を立つ。

「つーわけで、レクチャーに支障が出ないよう、今日中に頼むぜ。先延ばしたらそれこそ色々面倒だし。」

「…分かったよ。」

「うしっ。…ユウキ、帰るぞ。」

「…ん…」

2人は宿屋を後にした。
1人残されたキリトは、テーブルの下で拳を握り、静かに決意を固めた。

「…やるか。」







第9話 当事者

「う、嘘…?」

 

2人だけの小さな部屋。

机を挟んでキリトとリーファは対峙する。

キリトの一種の迫力にリーファは少しだけ気圧されながら、1歩だけ足を後退させた。

そして…

 

「あ…ははは…そ、そんなわけないじゃん。言ったでしょ?他のゲームで遊んでたら、いきなり暗転して、気付いたらこの世界に居たって。それに、お兄ちゃんも最近はバグやシステム不良があるから、それが原因だって言ってたじゃん。」

 

リーファはどこか苦し紛れのような口調ながらも、そう言いきる。

確かに、筋は通っているように思える。

…だが、キリトには1つの違和感があった。

 

「…そうだな。…けど、よくよく考えてみれば、そんなことはありえないんだよ。」

 

キリトは、そう言いきった。

 

「…このゲームは、外部とのリンクを完全に断つことで今のこの状況を作り出してる。…だからこそ、他のゲームと繋がるなんていうことが起きた時点で、《脱出不可能のデスゲーム》という概念は崩壊する。」

 

そう。

正しく、キリトの意見は的を射ていた。

《ソードアート・オンライン》をデスゲームたらしめている主な要因。

それは、外界との徹底的な《断絶》。

それにより、死の恐怖に脅えながらも勇猛果敢に攻略を続けるのだ。

…だが、他のゲームから人が入ってきたということになると、それは一気に瓦解する。

というのも、その人物が入ってきたルートを使えば他の世界に行けるかもしれない…脱出の可能性が出てきてしまう。

そのようなミスを、あの天才…茅場晶彦がするとは、到底思えなかった。

 

…そして、なにより。

あの男が、自身の作り出した世界を、そうも簡単にねじ曲げると奴だとも思えなかった。

 

「…勿論、今のは仮説だ。だから、本当に違うなら違うと言ってくれ。それとも…なにか別の理由があるなら、正直に話してくれないか?」

 

小さな部屋に響く、キリトの懇願。

その問いに、リーファはしばらく答えなかった。少しだけ下を向いて、黙り込む。

その場に、不自然な沈黙が流れた。

 

…やがて…

 

「…はぁ。やっぱり、お兄ちゃんにはなんでもお見通しかぁ…」

 

そう言ってため息をついて、リーファは項垂れた。

 

「…リーファ…」

 

「…お兄ちゃんが考えてる通り、きっかけがなくこの世界に来たって言うのは嘘。アバターは、ALOのだけどね…」

 

 

「私、ナーヴギアを使ったの。友達が、隠し持ってたのを借りて…SAOに、ログインしたの。」

 

 

「な…ッ…」

 

リーファのその言葉を聞いた瞬間に、キリトは驚きに目を剥く。そして、次の瞬間には、立ち上がっていた。

 

「な、何考えてるんだ!このゲームはもう、ただのゲームじゃないんだぞ!?」

 

自然と、口調も強い物に変わる。

 

「数百人ものプレイヤーが命を懸けて、身も心も削り切って攻略を進めてる…。その証拠に、もう何千もの人々の命が失われてるんだぞ!?」

 

「…」

 

「スグも見てたんだろ?報道で流れてるSAOユーザー死亡の情報を。なら、この世界がどれだけ危険な場所か分かってたはずだ…!」

 

 

 

「…ここは、好奇心なんかで軽々しく来ていい場所じゃないんだ!!」

 

 

 

キリトは、そう叫ぶ。

それは正しく、彼の心から漏れ出た本音。

この世界で、あらゆることを経験してきた彼の、偽りのない叫びだった。

 

…だが。

 

「…違う…」

 

それは、リーファも同じだった。

力を込めた拳が震える。

 

「…違うよ…好奇心なんかじゃないよ…!」

 

その様子に、キリトも息を呑む。

 

「だって…私も当事者だもん!お兄ちゃんの…和真の…2人の妹なんだから!!」

 

「…っ!」

 

「…私、目を覚まさない2人を見て、ずっと泣いてた。…他の病室や、他の病院のSAOプレイヤーは、1人ずつ亡くなっていって、次は、お兄ちゃんの番なんじゃないか…和真の番なんじゃないかって…。いつも、病室に入る時は、怯えてた。」

 

それは、SAOプレイヤーではない。

別の《当事者》としての、本音。

《部外者》である《当事者》としての、苦悩だった。

 

「…悲しかったし、怖かったんだよ…。」

 

「スグ…」

 

「私達は、家族なのに…。一緒にいて、笑って、悲しんで…。そうすることが当たり前なのに…。…私、何も出来なかった。2人の横で、怯えることしか、出来なかったの…。」

 

直葉の目尻には、いつの間にか涙が浮かび、今にもこぼれ落ちそうだった。

 

「そんな生活、耐えられると思う…!?」

 

「……」

 

「だから私、SAOに来たの。もう一度、お兄ちゃんと、和真と会うために。傍にいて、2人の役に立つために…。2人と一緒に、笑い合うために。」

 

 

 

「…もう、これ以上…大切な物を、手放したくなかったから…。」

 

 

 

涙混じりの、直葉の本音。

それには、和人も何も言えない。

慰めることも、謝ることも出来ず…

 

ただ、優しく抱き締めたーー。

 

「お…にい…ちゃ…」

 

「…ごめん…心配、かけたな…」

 

彼は、細く、柔らかい彼女の体を、優しく…しかし、力いっぱいに抱き寄せた。

 

「…もう、どこにも…行かないよね…?」

 

「…ああ…」

 

「私を、置いていかないよね…?」

 

「ああ…家族は、一緒にいるのが当たり前だからな…。」

 

「…血は繋がってないけどね…。」

 

「…っ…それは…」

 

「…冗談だよ…。…大事なのは、《時間》…だもんね…。」

 

「…ああ。…そうだな。」

 

「…ねぇ、お兄ちゃん。」

 

「…ん?」

 

 

 

「大好き。」

 

「…ああ。俺もだよ。」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌日。

場所は変わり、キリトとアスナの家。

 

「ごめんなさい!!」

 

白昼堂々、頭を低く下げるリーファ。

その前には、茶菓子を頬張るカズマの姿があった。

カズマは咀嚼、嚥下してから、もう一度卓上の茶菓子に手を伸ばした。

 

「んー?なんのこと?」

 

「…いや…その…勝手にSAOにログインして…迷惑かけちゃって…心配もかけて…」

 

リーファは頭を下げたままそう呟く。

その様子に、カズマはため息をついてから手に持つ茶菓子を口の中に放り込んだ。

手を払ってから、ソファを飛び越えて、リーファの前に立った。

 

「…っ…!」

 

彼女は、キツい一撃を覚悟した。

…が。

 

コツン

 

「え…?」

 

彼女の頭に起きた衝撃は微々たるもの。

カズマは軽く握った拳をリーファの頭に少しだけ当てて、呆れたように彼女を見下ろした。

 

「あのなぁ…お前が反省すべきは、自分のことを蔑ろにしたことと、現在進行形で親父と母さんに迷惑かけてる事だ。それに関しては猛烈に反省しろ。とくと反省しろ。」

 

コツコツと頭を叩きながらカズマはそう告げた。

…そして、言い終わると、金髪の髪をグシグシと撫でる。

 

「ま、この世界に来たのは、俺らのためらしいしな…怒ろうにも、怒れねぇよ。俺だって、お前に迷惑かけてんだし。」

 

「…ごめん。迷惑かけて…」

 

「言ったろ。俺も迷惑かけてる。なら、迷惑かけられんのが、家族ってもんだろ。」

 

「…ありがと。」

 

「なんだそりゃ。」

 

突然の感謝の言葉に、カズマはそう呟いた。

 

 

 

 

「…で、呼び出した張本人が遅刻してるんですが?」

 

カズマとリーファの絡みが一段落した後、カズマはそう呟いてため息をつく。

そう。元々この集まりはとあるプレイヤーが声をかけたものだった。

 

「シュンヤ君が遅刻なんて、珍しいわね。」

 

「ねー、シュンヤはキリトやカズマと違ってキッチリしてるのに。」

 

「流石の俺も約束に遅れたりは…しない気がする。」

 

「いや兄貴、そこは力強く否定してくれ。」

 

「お兄ちゃん早起き苦手だもんね。」

 

5人の軽快なトークが繰り広げられる中、ドアを叩く音が鳴り響いた。

 

「あ、来たみたい。」

 

アスナが「はーい」と小走りにドアへと近づいた。そして、ドアを開けた瞬間、「きゃっ」という声が聞こえる。

 

「ん?」

 

キリトが少しだけ玄関の方を覗くと…

凄まじい速度で玄関とリビングを横切り、カズマの顔にダイブした物体が1つ。

 

「グホッ!?」

 

勿論カズマはダメージを受けて、頬を抑えた。

そして…

 

「…何してんだよ、メル。」

 

ぶつかってきた物体は、プルプルプルプルとカズマのコートの襟を掴んで震えていた。

この世界で数少ないMHCP(メンタルヘルスカウンセリングプログラム)であるメルは、怯えるように震えながら、呟いた。

 

「あわわわわ…じ、地獄を見たわ…」

 

「あ?何言ってんのお前…」

 

意味不明なメルの言葉にカズマが疑問符を浮かべると、シュンヤと、そしてシャムが入室してくる。

 

「こんにちはー。」

 

「おう、なんか久しぶり。」

 

「シャムちゃんもこんにちは。」

 

「ご、ご無沙汰してます。」

 

各々に挨拶を交わした後、とある人物が入室したことで、メルの震えは最高値に達した。

 

「あ、どうもはじめまして。」

 

その人物は丁寧に頭を下げると、眼鏡をかけた顔を上げて笑みを浮かべた。

印象としては、心優しそうな青年といった感じか。

…だが、メルはと言えば…

 

「あわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ…」

 

「おいメル、そろそろ落ち着け。着信してる携帯みたいになってる。」

 

カズマの言葉にも反応せず、メルは止まらなかった。

カズマがため息をつくと、入ってきた青年はもう一度律儀に頭を下げると、喋り始めた。

 

「はじめまして。僕の名前は《コウヤ》と言います。こう見えてシュンヤの兄であり…」

 

 

 

「そして、アーガスの元社員の者です。」

 




次回、あの人物が登場…!?

お楽しみに。
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