ソードアートオンライン 〜鋼鉄の記憶〜   作:誠家

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もう少しだけ、もう少しだけ攻略編はお待ちください…!

もう少し《戦力調整編》という事で…



第11話 変わる世界、変わるプレイヤー達。

「団長。」

 

第55層主街区《グランザム》。

そこにある《血盟騎士団》のギルド廊下において、シヴァタがアスナに声をかけた。

 

「どうかしましたか?副団長。」

「ご報告です。第76層攻略ですが、到達して3週間経った今でも、およそ半分程しか進んでおりません。」

「…苦戦してるわね。」

「それもありますが、やはり75層での戦力削減と、先日団長やキリト達が話した事実に落胆した者も多いようです。」

「そうですか…」

 

アスナは少しだけ思考すると、素早く指令を出した。

 

「副団長。一時間後に緊急会議を開きます。各隊長を会議室に集合させてください。」

「了解しました。」

 

シヴァタは一礼してからアスナから離れていく。アスナは少しだけ歯ぎしりをした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

第22層キリトとアスナの家

 

 

「…ふぅ…」

「…大変みたいだな。」

 

ソファに座ったアスナの前に、キリトがコーヒーの入ったカップを置いた。

 

「ありがとう。大丈夫…と言いたいとこだけど…今回ばかりはね…」

「…また、脱退したのか。」

 

アスナは頷く。

 

「うちの二軍プレイヤーが10人くらい。やっぱり、この前の私達の話に落胆した人達が多いみたい…これで20人も辞めちゃった…」

 

 

キリト達は、コウヤから聞いた話を攻略組内だけでなく、それぞれのギルドのメンバー全員に話した。彼等も、情報が独占していることはよく思わないだろうし、それに独占していても意味が無いと考えたからだ。

結果としては、あまり良くなかった。

当然だが、一部のもの達が「デマだ」と捲し立てたり、また一部のもの達はその情報を受け止めて落胆する者もいた。

 

正直、これを話すことで葛藤がなかった訳では無い。ただ、プレイヤー間で情報の規制があると、誰を信じていいのかわからなくなってしまう。だからこそ、彼らは話すことを決めた。

たとえそれで、今の攻略組が崩れてしまうとしても。

 

 

「…やっぱり、言わない方が良かったかな…」

「…そうでも無いと思うよ。」

「…なんで?」

 

不安そうにつぶやくアスナに、キリトは笑いかけた。

 

「確かに、結果としては戦力がダウンしてるけど、今回アスナが正直に話したことで、攻略組内の結束というか…情報独占の疑念は払拭出来たと思う。それに、皆の気持ちは変わらない。『このゲームをクリアする』っていう気持ちだけは。」

 

「キリト君…」

「その証拠に、元々攻略組にいたメンツは1人も辞めてないだろ?だから、自信もっていいと思うぜ。アスナも頑張ってるんだからさ。」

 

その言葉に。

キリト(愛する人)からの励ましに、体は如実に反応する。心はすっと軽くなり、自然と体温も上がる。

アスナは頬を少し朱に染めて、照れながら微笑んだ。

 

「そう、だね…。ねえ、キリト君。」

「ん?」

「…ありがとう。大好き。」

 

天使のような微笑を浮かべて、アスナは感謝を口にした。それにはキリトも少しだけ頬を染めて「お、おう」と返事を返す。

アスナは少し晴れやかな気持ちのまま、コーヒーに口を付けた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「そういえば、ユイちゃんは?帰ってきてからいないけど…」

「ああ、ユイなら…」

 

アスナの問いにキリトが返しかけた、その時。

ガチャリと玄関の扉が開いて、複数人の声が聞こえる。

 

「お、帰ってきたか。」

「?」

 

キリトが少し立ち上がると、リビングの扉が開いた。そこから姿を現す、ピンク色のセーターを着た黒髪の少女と、黒衣の青年が姿を現した。

 

「わぁい!いっぱい釣れました!」

「やー、負けた負けた。ユイ、お前釣り上手いなぁ。」

「はい!パパに教わってましたから!」

「へー、でもパパは俺に勝ったこと一回もないぞ?」

「そうなんですか!?」

「う…ま、まぁ…確かにな…」

 

「そっか。カズマ君と一緒に遊んでたんだね。」

「まぁ、食料調達も兼ねてですけど。にしても、ユイのやつポンポン魚釣るからビビりましたよ。」

「魚達は一定の規則によって動いてますから、その予測は大得意です!」

「…なるほど。MHCPならではだな。」

 

カズマは感心したようにそう呟くと、グシグシとユイの頭を撫でる。

 

 

カズマとユイは、以前にも1度会っている。

かつてキリトとアスナが記憶の無かったユイの両親を探して、第一層に降りたところで、孤児院にいたカズマと出くわしたのだ。

なんでも、以前から金銭的な援助を行っていたらしい。

「ユウキの奴がやりたいって言ってな。」

と、彼は言っていたが、その理由ははぐらかされたのも、記憶に新しい。

 

 

「あれ、ユイちゃん。そのマフラー…」

「はい!カズマさんに頂きました!快復祝い?だそうです!」

「えぇ!?…ご、ごめんねカズマ君…」

「あぁ、いえ。俺もユイに会えて嬉しいですし。これくらいはさせてください。…それに、俺にとっては姪なんで、可愛がりたいんですよ。」

 

カズマはそう言うと、もう一度ユイの頭を撫でる。

「えへへ」と気持ちよさそうにユイは頬を緩ませた。

 

「まったく、カズマはきっと子供出来たら溺愛するタイプね。」

 

ふよふよと、羽で宙を舞う極小の少女…メルは呆れたように呟いた。

それには、カズマも苦笑する。

 

「んー…ま、否定はできねえな。その証拠に、お前のことも可愛がってるし。」

「何が可愛がってるよ。パシってるだけじゃない。」

「…え?なに?まさかこれまで以上に可愛がって欲しいのか。そうかそうか。それなら5分間ずっと撫で続けて…」

「よ、寄るな変態!」

 

目が輝く黒衣の青年と、妖精の鬼ごっこが始まった瞬間に、リビングのドアから着流しを着た青年が「何してんだ…」と呟きながら姿を現した。

 

「お邪魔します、アスナさん。」

「いらっしゃい、シュンヤ君。あら、もしかして…」

「ええ。僕も2人と釣りしてたんですけど…」

「シュンヤさんは3匹です!」

「…うん、全然釣れなかったな。」

 

どんよりと肩を落とすシュンヤに、アスナとキリトも苦笑いを浮かべた。

 

「そんな時もあるだろ。今日はたまたま調子が悪かっただけじゃないか?」

「あはは…そうだといいんですけど…」

「ま、その話はまた後にしようぜ。」

「カズマ、メルは?」

「あそこで伸びてる。」

 

どうやら本当にメルのことを撫で続けたようで、小さな少女が木製の床にピクピクしながら伸びていた。

 

「…で、アスナさん。話ってなんですか?」

「…うん。そうだね。それじゃ、みんな座ってくれる?私から、今の攻略組の状況を話させてもらうから。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「なるほど、攻略組の戦力不足ですか。」

「そう。やっぱり皆、《クリアの不鮮明さ》っていうのが不安みたい。それで、ギルドから足を洗う…というか脱退する人は多いわ。」

 

アスナの情報に、シュンヤも頷く。

 

「確かに。…ですが、それと同時にある疑念というか…噂も産まれてるようです。」

「?疑念ってなんだよ。」

 

カズマの問いに、シュンヤは淡々と告げる。

 

「…今ここにいる俺達が、アーガス運営の間者になったかもしれない、ということだ。」

「はぁ?」

 

予想外の回答に、カズマは思いっきり素っ頓狂な声を上げてしまう。

「本当かよ?」と言わんばかりの視線にシュンヤはなおも頷いた。

 

「これはあくまでアルゴさんの情報というところに留まってはいるが、一部のプレイヤー内でそのように囁かれているらしい。」

「アルゴの情報ってことは、ほぼ確定か。なんでまた。」

「おそらく、俺らがあまりにも自然と《元アーガス社員》の話を鵜呑みにしたからだな。それによって、ありもしない疑念が生まれたわけだ。」

 

「めんどくさっ。」

 

カズマが全員の内心を読んだかのように、そう吐き捨てた。

思わずキリトも頷く。

 

「ていうかそれ言ってんの、絶対ギルド脱退した奴らだろ。わざわざ攻略組ギルド全体のミーティングして教えたのに、返ってきたのは疑念かよ。」

「まあ、そう言うな。それを見越しての情報開示だったんだ。卑屈なことは言ってられない。」

 

「ちなみにだけど、一般プレイヤーの方はどうだ?彼らの方は何かあるか?」

「キリトさん、それは特に心配いらないかと。…といっても、大体は攻略組のみんなと同じですね。素直に受け取る人もいれば、疑念を飛ばす人もいる。」

「…まあ、そう一概には言えんか。」

 

キリトが唸ると、他の者達もつられたように唸る。

やはり、攻略組というのはプレイヤー達が結束して出来るもの。

その攻略組に疑念が向けられては、下手をすればこれから攻略組として補充できる人材が居なくなるかもしれないのだ。

 

パンパンっ!

 

だが、その時控えめな、乾いた音が鳴る。鳴らしたのはメルだった。

 

「もう、そんな未来のこと考えてたらキリがないでしょ。今はとりあえず、攻略組の戦力不足が議題じゃないの。」

「…そうだね。メルちゃんの言う通り、いまは目の前の議題を片付けましょうか。」

 

メルの言葉を発端に、話し合いは当初の目的へと移り変わる。

 

「よく出来ました。」

「触るな変態っ」

 

カズマが頭を撫でると払いのけられていた。

 

 

「まずは、やはり人員の不足ですね。第75層攻略の時に出した人的な被害が未だに解消出来てないのは、正直かなり痛いです。しかも、その中には歴戦の方々も含まれていたので…」

「代わりの確保という面では、かなり苦労するわね…」

 

これに関しては、完全にシュンヤとアスナの領分だ。キリトとカズマはソロプレイヤーなのでそこまで気にはしないが、アスナは団長、シュンヤに至っては攻略責任者ということで、人員の不足はかなりきついだろう。

 

「なぁ、シュンヤ。血盟騎士団や聖竜連合の二軍の面々には良さそうなのいないのか?」

「いないとは言わないが、どうも足りない。…まあ、1番の問題は…」

 

シュンヤはそこまで言って、言葉を切った。それは、彼自身が言い難いことを言おうとしている証。

カズマは少し考えてから…

 

「あぁ、お前のこと嫌ってる奴が多いのか。」

「ヴッ…」

 

痛いとこをつかれたと言わんばかりにシュンヤはビクリと身体を震わせた。

 

「まあそうだよな。いくら周りから評価高くてもビーターはビーターだからな。嫌われててそりゃ当然だ。」

「…そうだよ。お陰で俺の作戦に文句ばっかりつけてまったく従ってくれない…」

「そんなの入れてちゃ、足でまといでしかないしな。はー、こら大変だ。」

 

そう言って、カズマは茶菓子を齧ってコーヒーを啜った。まるで他人事のように呟くカズマを、シュンヤは少し睨む。

 

「…お気楽そうで羨ましいよ…」

「しゃあねよ。俺の領分じゃねえし。…分かったよ。真面目に考えるから、そんなに睨むなって。…元々俺がお前推薦したし、それくらいはしねえとな。」

「当たり前だ。」

 

「それじゃ、これついては何かいい案があればまた発表してね。…次は、ロストした武器のことだけど…キリト君、なにか案があるんだっけ。」

 

「…まあ俺っていうか、教えてくれたのはユイだけどな。」

「ユイちゃんが?」

「ああ。…ユイ、説明してもらっていいか?」

「はい。パパ。」

 

今まで茶菓子を頬張っていたユイは、口の中のものを嚥下してから、話し始めた。

 

「これは、私がSAOの現在のデータベースを調べて発見した方法です。なので、これはあくまで一方法として受け取ってください。」

「それは…大丈夫なの?また、カーディナル・システムに…」

「これはあくまでMHCPの特権の1つなので、特に問題はありません、ママ。排除されるのは、管理者権限を使った場合のみなので。」

「…そう。よかった。」

 

心配しているアスナの声に、ユイは笑顔で答えた。

 

「それでは、まず結論から申しますと、ロストした武器の復元は不可能です。」

「不可能?」

「はい。ロストし、アイテム欄で文字化けしている…それはつまり、武器のデータが破損していると同義。それは本来はメンテナンスなどで直すものですが、今はそれが不可能なので、復元も不可能に近いでしょう。」

「なるほどな…そりゃそうだ。」

 

「ですが、復元は出来なくても、《製錬》はできます。」

「製錬…」

「はい。武器のデータが破損していると言っても、それはあくまでその状態のみの話。武器のデータを初期化すれば、問題ありません。」

 

ユイがそこまで言うと、カズマが指を鳴らした。

 

「なるほど、《インゴット化》か。」

「その通りです。インゴットにして、もう一度武器を作り直せば、その武器に問題はありません。…ですが、1つ問題としては、その武器を作るにあたって《弱体化》もやむを得ない、という事です。」

「それに関しちゃ、そいつの自己責任というか、日頃の行いだろ。」

「だな。…ユイ、ありがとう。参考にしてみるよ。」

「はいっ。お役に立てたなら、何よりです!」

 

笑みを浮かべるユイの頭を、キリトは優しく撫でた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「…さて、武器問題はとりあえずこれで良いとして…あとは《人員問題》だけど…」

「…あー、まあそれは、俺に案があるんだけど。いいかな。」

「本当か?」

「うん。…ま、この手はあまり使いたくないけど、緊急事態だから仕方ねえ。」

「…どういう意味だよ。」

 

「俺らも、そろそろ覚悟決めなきゃいけねえって意味だよ、兄貴。シュンヤ。」

 

「「え?」」

 

カズマの言葉に、2人の反応。

カズマが、更に言葉を紡いだ瞬間。

その場にいる全員が、驚きに目を剥いた。

…だが、それにより《シュンヤへの信頼度》という点では間違いなく解消されることも、明白であった。

 

 

 

 

変わりゆく世界。

変わりゆく彼らの関係。

 

ならばと。

彼ら自身も変わらなければならないと、カズマは決意したのだ。

 

それは、《成功》しか許されない、決意だったーー。






次回もなる早で出します。お楽しみに!
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