このゲームのチュートリアルが終わって既に一ヶ月が経過した。
あの後最初に死者が出たのはなんと3時間後のことだった。話を聞くところによると、外周区から飛び降りたのだという。
その後も死者は増え続け、ついには二千ものプレイヤーがその命を落とした。それほどの犠牲を払ってもまだ第一層はクリアされていない…。
「キシャアアアア!」
俺は上から振り下ろされたハンマーを最小限のステップで避け、素早く攻撃を繰り出す。
「…ハアッ!」
俺が繰り出した剣撃はモンスターにクリティカルヒットしHPバーが一気に2、3割ほど削れる。
俺が今相手にしているモンスター、名を《ルインコボルド・センチネル》。俺が今いる第一層迷宮区の中でもトップクラスの能力を持つ強敵だ。本来はソロで戦うべき相手じゃない。
「キシャアアアア‼︎」
センチネルはハンマーを青色に染める。ソードスキル…!そう確信した俺はほぼ反射的に剣を自分の前に構えた。センチネルのハンマーが俺の剣に触れた…瞬間に俺は剣を真上に力づくで振り上げる。防御基本技《パリィ》だ。
これは別にスキルとしてあるのではなくプレイヤー本人の技術の問題だ。つまり、頑張ればレベル1のプレイヤーでも余裕でできる。
センチネルがパリィの効果で仰け反っている間に俺は剣をオレンジに染める。片手剣ソードスキル単発技《バーチカル》。もう一つ《ホリゾンタル》という技があるがこちらの方がクリティカルを狙いやすい。
「…セアアアアア!」
「ギギッ…」
センチネルがガードしようとするが、一手遅い。俺の剣はセンチネルの心臓部に直撃し、すさまじい音を上げる。
センチネルはその体とHPバーをあっけなく四散させた。
結局あの後、カズマとは一旦別れた。迷宮区の攻略中、あいつは言ったものだ。「これ、やっぱソロの方が効率良いよな?」と。
今頃気づいたのかよ!と突っ込んでも仕方ないと思う。
まあ、それからなんやかんやあってボス戦は一緒にやってそれ以外はソロでやろうということになった。まったく、自分勝手な奴である。
これがおよそ二週間前のこと。それからも俺はソロで攻略を続けていた。誰とも交流することなく、一人で…
…キンッ
ドロップアイテムやEXPを確認していた俺の耳にかすかな金属音が届いた。それと同時に靴が石底を踏む音も…
「この音は…?」
俺はもう一度耳をすます。そして確信を得た瞬間に猛ダッシュを開始する。今の靴底の音、普通のブーツの音じゃなかった。いつもの靴底と地面が擦れるような音ではなくてカッカッカカッという厚底ブーツがステップを踏む音だった。しかも足音は複数ではなく、一人分。そこまで考えた瞬間に俺は確信する。
「ソロで戦ってるのか?それも、女性プレイヤーが…?」
俺は音のする方向に急いだ。
女性プレイヤー(?)がいると思われる場所に着くと俺は角からにゅっと顔を出す。そこでは相変わらず剣撃の音が鳴り響いている。音の様子からして武器の種類はレイピアのようだ。俺は見飽きたセンチネルはほっといてプレイヤーの方に視線を向ける。
一番下を見ると白色の厚底ブーツが見て取れる。体は全身をケープで包んでおり詳細はわからない。顔も同様にフードで全体が隠れている。手元の武器を見るとこれは予想通りのレイピアでしかも一番安い《アイアン・レイピア》ときた。
強化されているようには見えない。
「…驚いたな。」
レア武器ならまだしも、初期武器を強化せずに迷宮区で使う奴など初めて見た。俺の準レア度級武器のアニール・ブレードでさえ+6まで強化しているのだ。それだけの自信家か、それとも…
「ただ知らないだけか…」
俺はひっそりと呟く。すると再び剣撃の音が鳴り響き始めるので思考を遮り、戦いの見物に集中する。
見たところ戦い方はシンプルだった。三連撃ソードスキル(または通常攻撃)を避けて隙のできたところに全力のソードスキルを撃ち込むという俺もよくやる戦い方。
特に素晴らしかったのが体運びではなく細剣ソードスキル単発技《リニアー》の精度だった。剣を引いてから突き出すだけのシンプルな技だが、スピードがすさまじい。
あの技をベータテストで何度も見たことのある俺でさえ剣の通った軌跡を確認することしかできなかった。
そのような決まった動作が4回ほど続けられた後、センチネルはその体を四散させた。強敵であるはずのセンチネルを無傷で屠ったフェンサーは喜びもせずに体を石造りの壁に預けて力なく座り込んだ。
普段の俺ならこのまま帰っていただろう。
だが俺はフェンサーに抱いた違和感をぬぐいきれずに、ゆっくりとした足取りで歩み寄る。俺の存在に気がついたのか、フェンサーはピクリと体を震わせたが、特に移動する気配はない。
俺は3メートルほどの距離で立ち止まり、そっと声をかける。
「…今のはオーバーキルすぎるよ。」
俺の言葉にフェンサーは首を傾ける。恐らくオーバーキルの意味がわからないのだろう。俺はやっぱりと思う。
俺がこのフェンサーに抱いた違和感、それは技のキレにしては少々戦況の運び方が初心者じみていたことだった。
確かに技のキレとスピードは目を見張るものがあった。それこそベータテスターだと思えるほどに。
俺が気になったのはその後、4回目の攻撃の時だった。あの時センチネルがHPは二割を切っており、通常攻撃だけで事足りたはずだ。
ソードスキルだと失敗してしまった時に長時間のディレイがかせられ、下手をしたらクリティカルでゲームオーバーということもあり得た。
だがこのフェンサーはソードスキルを選んだ。
それはこのフェンサーが初心者だという何よりの証拠だ。俺は腕を組んで説明を始める。
「…オーバーキルっていうのは過度なダメージ付与のことだ。最後の攻撃…あの時センチネルのHPは二割を切っていた。通常攻撃でも事足りたはずだ。あの時失敗してたら、あんた死んでたぞ。」
「…どうせみんな死ぬのよ。」
俺はその小さな呟きを聞き逃さなかった。
「…今のはどういう意味だ?」
「そのままの意味よ。たった一ヶ月で二千ものプレイヤーが死んだ。私たちは死ぬしか未来がない。脱出不可能なのよ。このゲームは。私たちの違いといえば死ぬのが早いか遅いか、それだけよ。」
「…そうか。なら一度街に戻ろう。補給が必要だろう?」
「?私、戻らないわよ。」
「…は?」
俺は言葉の意味がわからず数秒硬直する。
「も、戻らないって…だって剣のメンテとかポーションの補充とか…」
「ダメージを受けなければ回復薬はいらないし剣は同じなのを10本買ってきた。休憩は…近くの安全エリアでとってるから。」
フェンサーは細剣を杖にして立ち上がった。
「…そんな戦い方してたら、死ぬぞ。」
「言ったでしょう。所詮私たちの違いといえば死ぬのが早いか遅いかだけだって。」
フェンサーはよろよろと歩き出す。
「わかったなら、早く行ってちょうだい。私はまだここで狩りを続ける…か…ら…」
突如、フェンサーは糸が切れた人形のようにその場に倒れこんだ。手に持っていたレイピアが地面に転がる。
「やれやれ。結局こうなったか…」
俺はストレージから寝袋を出し、フェンサーを中に入れてから素早く歩き始めた。
いやあーはっはっはっは(((o(*゚▽゚*)o)))隣の中3がねー診断テストが終わったってはしゃいでました。若い頃を思い出しますねー。ま、灰色の青春でしたが。そして現在も灰色。そろそろ青色になりたいものです。それでは次回をお楽しみに〜(⌒▽⌒)