めちゃくちゃ長いです。
12月24日。
昨夜降り積もった雪が陽光を反射する朝。
キリトとアスナはいつものように朝食を摂っていた。
「キリト君、今日はどうするの?」
「え?」
アスナのいきなりの問いに、キリトは少しだけ硬直してしまったが、すぐに質問の意図を察して、簡潔に返す。
「んー…今日は少し用があるから朝からいないかな。夜には帰ってくるよ。」
「わかった。…用って、フィールド?」
「…まあ、それもあるかな。」
「気をつけてよ?今キリトくんは、期待の新進気鋭ギルドのリーダーなんだから。」
「分かってるよ。ちゃんと気をつけるから。」
「もう…。私も、今日はクリスマスパーティーの手伝いがあるから。夕方まで居られないのよね。」
「そうか…」
そこで、キリトとアスナは、キリトの横でハムハムとサンドイッチを頬いっぱいに詰め込んだ、ユイの方を見た。
ユイは視線に気づくと、キョトンと首を傾げた。
「?どうしました?パパ、ママ。」
「…んー、ちょっとリーファに連絡してみるよ。」
「うん、お願いね。」
「OKだって。」
「分かった。…ユイちゃん。今日、パパとママ少しだけ帰りが遅くなっちゃうから、リーファちゃんと一緒に居てくれる?」
「…今日は、一緒に居れないんですか?」
少しだけ寂しそうな顔をするユイに、アスナは優しく微笑んだ。
「ううん。お仕事が終わったら、絶対に迎えに行くから。帰ってきたら、一緒にクリスマスパーティーしようね。」
「はい!分かりました!」
「うん、ありがとうね。」
「それじゃ、キリト君。送りはお願いできる?」
「分かった。アスナも頑張ってな。」
「まあ、お手伝いだけだし、気楽にやってくるよ。」
…チュッ。
「…それじゃ、いってきます。」
「おう、行ってらっしゃい。」
騎士服を着たアスナは、栗色のロングヘアを揺らしながらリビングを出た。
そのまま、玄関のドアが閉まる音も響く。
「さて…もう少ししたら俺らも出るか…。ユイ、朝ご飯あとどれ位で終わる?」
「むぐっ…もう少しです、パパ。」
「そっか。じゃ、食べ終わったら出よう。」
「はい!」
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「ユイ、ちゃんといい子にしてるんだぞ。」
「はい!」
「リーファ、ユイのことよろしく頼むよ。」
「分かった。お兄ちゃんも、気をつけてね。」
「おう。」
キリトは、最後にユイの頬にキスをして、少しだけ歩いてから、もう一度ユイに向かって手を振った。
ユイはそれに大きく手を振ることで返す。
リーファも小さく手を振って返した。
キリトが人の波の中に消えたところで、リーファはユイに話しかけた。
「ユイちゃん、今日は何しようか。」
「そうですね…あ、そういえば。」
「ん?どうしたの?」
「リーファさんは、現実ではパパの妹さんなんですよね?」
「え?う、うん、そうだよ。あまり話はしなかったけど、一緒に暮らしてたし。」
「それなら、現実世界でのパパの話を聞いてみたいです!!」
「え、ええ?」
「現実世界でのパパがどんな人だったか非常に興味があります!果たして現実世界でもモテモテだったのかとか…」
「あはは…それはないけど…まぁでも、そうだね…」
そこでリーファも「あ」っと何か思いついたように声を上げた。
「それなら私にも、この世界でのキリト君について教えてくれない?」
「はい、勿論です!」
「やったー!それじゃ、私の部屋に行こうか。」
「はい!」
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自身の昔話(という体の地獄)が繰り広げられていることを知るはずもなく、キリトはある場所へ向かう。
そこは、第47層にある、1つの鍛冶屋。
ドアを開けるとカランカランと鐘が鳴る。
「リズ、居るか?」
「リズベット武具店へようこそ…って、なんだキリトか。」
「なんだとはなんだ。」
相手が知り合いだと知った瞬間に、気迫が一気に失せていく店主を、怪訝そうな目で見つめる。
リズベットは少し笑いながら弁明を始めた。
「ごめんごめん。最近少しだけ売上落ちてるから、新しいお客引き入れるのに必死で。」
「なんだ、やっぱり時間足りてないのか?それならもう少し休み増やしても…」
「や、そうじゃなくてさ。ギルドの攻略はそこまで影響してないのよ。…それ以上に、最近は来店する人も少ないのよね。」
「…やっぱり、あの情報が出回ってからか…?」
「そうねー…クリア出来るかどうか分かんないって分かったら、そりゃわざわざ装備も要らないからね。」
「…スマン。」
リズベットの話を聞き終わると同時に、キリトの口から謝罪の言葉が零れた。
リズベットもそれに焦るように返す。
「あ、いや!別にあんた達を責めてるわけじゃないからね!?売上落ちてるって言っても本当に何パーセントってくらいだし。それに攻略組のお得意様達は今も利用してくれてるしね。…だから本当に、あんたがそこまで気にする程でもないのよ。」
「…それなら良かったけど…」
「それにこれからは、攻略組の副業ボーナスも出るから、プラマイゼロよ。むしろお釣りくるくらいじゃない?」
「…なるほど、発想の転換ってやつか。」
「《いつも笑顔で出迎え》が、リズベット武具店ですから。それくらいしなきゃ、繁盛もしないわよ。」
「その割には、さっき俺って知った時、みるみるその笑顔薄れていってた気が…」
「細かいこと気にしないの。」
キリトの指摘を一蹴すると、リズベットは笑みを浮かべた。
「先に工房行っててくれる?掛札《準備中》に変えてくるから。」
「分かった。」
「さて、と。今日は確か、武器の《製造》だったわよね。」
「ああ。」
「インゴットは?確か用意してるって話だったけど…」
「あー、スマン。用意してるっていうか…用意してもらうというか…」
「?どういうことよ。」
キリトの言葉にリズベットは疑問符を浮かべた。キリトはしばらく歯切れの悪そうに喋っていたが、少ししてからウィンドウを開いた。
「…見てもらった方が早いな。」
「?」
キリトはウィンドウのアイテム欄から2本の剣をオブジェクト化させた。
その2本は、黒い鞘に納められた、黒い柄と白い柄を持つ片手剣だった。
それを見て、リズベットも驚きに目を見開いた。
「え、あんたこれ…」
「…」
キリトは剣を作業台に置き、ジェスチャーで、2本の剣のステータスを見るように促した。
「…」
リズベットは恐る恐る、二つの剣に《鑑定》スキルを起動。現れたウィンドウを見て、表情を歪めた。
「…なるほど。やっぱり《ロスト》しちゃったのね。」
「ああ。」
2本の剣のステータスウィンドウは所々文字化けしており、リズベットが手に持っても、少しだけ軽くなっていることが分かる。
《ロスト》とは、第76層到達時の不具合であり、これの影響を受けた武具はステータスが著しく下がり、ステータスウィンドウが文字化けしてしまうという現象に陥る。
キリトの愛剣である《エリュシデータ》と《ダークリパルサー》もこれの影響を受けてしまったというわけだ。
「でもあんた、まだ1回もメンテ来てないわよね?どうやって攻略進めてたのよ。」
「…いや、その時は直し方なんて分かってなかったからさ。弱体化しても使い続けてたんだよ。こんなにいい剣捨てるのも勿体なかったし…」
「あらそう…。これを打った身としては嬉しい限りだけど、それのせいであんたが死んじゃったら元も子もないんだから、もうやめなさいよね。」
「ああ。」
「さて、それじゃ始めましょうか。《インゴット化》してからの、《武器製造》でいいのよね?」
「ああ。値段は気にしないから、最高の剣を頼む。」
「勿論、ハナからそのつもりよ。」
リズベットは不敵に微笑むと、まずエリュシデータを溶解炉へと入れる。
すぐさま剣が赤く変色するので、それを2本の巨大ペンチで取り出す。
そして、赤く変色した剣をリズベットは槌で叩き始める。槌と剣が接触する度に火花が散り、重い金属音が響く。
しばらくして、30回ほど叩いた所でエリュシデータは変形を始めて、少し歪な黒い金属塊へと姿を変えた。
「よし。とりあえずはOKね。じゃ、次はダークリパルサーもやっちゃいましょう。」
そう言ってリズベットは、ダークリパルサーも溶解炉へと入れて、慣れた手つきでインゴットへと変えた。
「おお…」
そこまでは、順調だった。
キリトが感嘆の声を漏らすほどに。
ーーが。
「……」
「お、おい…リズ…?」
リズベットの手が、いきなり止まった。
ダークリパルサーをインゴット化してから、少しだけ操作をした後に、まるで悩むように眉をひそめて口元に手を当てている。
キリトが声をかけても、返ってくるのは静寂だった。
…だが、しばらくして。
リズベットはチラリとキリトを見て、ため息をつく。
「…どした?」
「…そうね。これの決定権はあんたよね。」
そう言うと、リズベットは自身の前にあるウィンドウをキリトの前に飛ばした。
見ると、それは鍛治成功などのパーセンテージを表したもののようで、インゴットの名前や、リズベットの鍛治スキル熟練度も載っていた。
「?コレがどうしたんだよ。」
「そのウィンドウの左下に、一つだけパーセンテージが低いものがあるでしょ?」
「…ああ。確かに。」
見ると、そこには確かに、他のものに比べて半分ほどのパーセンテージである項目があった。どうやらこれも何かの成功率のようだ。
「それは、《融合成功率》。…まあ要は、この2つを融合させた時、剣が出来るかどうかの成功率ってことね。」
「…ああ。なるほど。」
つまり、鍛治をするにあたって、ダークリパルサーのインゴットと、エリュシデータのインゴット。
《それぞれ武器製造する》か《2つを融合させて武器製造する》かの2つの選択肢があるわけだ。
「…で、これの何処に悩んでんの?」
だが、それだけでは素人目線ではやはり何故悩んでいるのかは分からない。
リズベットは大きくため息をついた。
「ほんっと、参ったわ…こんな時に
「?」
「いい?まず説明すると、インゴットの中にも《相性》っていうのは存在するわ。それは槌にもあって、実際槌を変えることで鍛治成功率を上げることも出来るの。」
「ほう。」
「高い槌を使えばいいってものじゃない。高い槌で叩いた方が成功率が上がるものもあれば、そこまでレアじゃない槌で叩いた方が成功率が上がる場合もあるの。レアケースではあるけどね。」
「なるほど。」
これは、キリトにとってもなかなか興味深い話であった。普段戦闘にしか興味が無いため、そのような知識は持ち合わせていなかったのだ。ゲーマーとしての喜びとも言えよう。
「その中でも、《インゴット同士との相性》っていうのはさらに顕著よ。そもそもが別のもの…植物と金属とかならまず相性は良くない。金属と金属で融合させても、相性は大体半分がいいとこね。」
「…まあ、硬さとか色々違うもんな。」
そして、そこでキリトは「待てよ」ともう一度ウィンドウを見る。
「これが50パーってことは、この2つも普通の相性ってことなんじゃないか?」
キリトの問いに、リズベットはため息をついた。
「それは相性じゃなくて、《融合成功率》。《インゴット同士の相性》は、その逆…右下に書いてあるでしょう?」
「あ、そうなのか。えー…」
インゴット相性
95%
「えー…?」
「ほんっとに予想外よ。こんな身近に万分の一の奇跡があったなんて。…で、どうする?」
「…なるほど、そういうことか。」
段々キリトにも状況が分かってきた。
つまり、リズベットが悩んでいたのは、ここまでの相性の良いインゴット同士はなかなか存在せず、それを無下にするかどうかということだろう。
確かに、ここまでの逸材を使わないのは勿体ない気がする。
「…確認したいんだけど、いいか?」
「ええ、どうぞ。」
「この《融合》なんだけどさ、やってみて成功したらどうなるんだ?」
「それはもちろん、インゴット2つ分の超強い…とはいかなくても、確実に強力な武器は出来上がるわ。当然と言えば当然だけどね。」
「…それじゃ、失敗したら?」
「これは1つの時と同じよ。…使用したインゴットは、2つとも耐久値が切れて、ポリゴンに変わるわ。」
「ふむ…」
つまり、ハイリスク・ハイリターン。
いや、たとえ成功したとしてもその素材に見合う武器が出来るとは限らないため、リスクの方が大きい訳だ。
「…どうする?」
リズベットの問いに、しかしキリトは少しだけ悩むような仕草。やはり、少しだけ躊躇いはあった。
…だが、まあ。
「これを利用しない手はないよなぁ…」
そう。これだけの相性のインゴットがある方が珍しいのだ。もし失敗したとしても強い武器など、これから幾らでも手に入るだろう。
「うん、決めた。リズ、頼む。」
「…本当にいいの?もし失敗したら、あんたの剣無くなっちゃうのよ?」
「…まあ、確かにそうだけどさ。けど、この2つがここまでの相性なのは、偶然じゃないような気もするんだよ。」
「…?」
「なんつーのかな…こいつら自身も『これくらいで終わりたくない』って、そう言ってるような気がするんだ。…悪ぃ、上手く言えない。」
苦笑しながら頭を掻くキリト。
それにしかしリズベットは首を振った。
「ううん…あんたの気持ち、わかる気がする。…そうね。こんな千載一遇のチャンスを逃してちゃ、鍛冶師の名折れよね。」
言うやいなや、リズベットは壁にかけてあった複数の槌を比べるように見てから、「うん、やっぱりこれね」と左端の槌を手に取った。
「リズ、それって…」
「うん。あんたが始めて来て、この子を…《ダークリパルサー》を打ったときの槌。この中じゃ、最古参の私の相棒。」
リズベットはウィンドウを開いて確認。槌とインゴットの相性を確認してから頷くと、もう一度キリトを見た。
「…いいのね?」
「ああ。頼む。」
信頼していると分かる、キリトの視線。
それに、リズベットはもう一度頷いた。
2つのインゴットを溶解炉へと投入。
赤く変色したところで取り出して、もう一度ウィンドウを操作。2つのインゴットを重ねる。
「スゥー…フゥー…スゥー…」
心を落ち着けるように、リズベットは数回深呼吸を繰り返す。そして…
「…!!」
カァンッ!!
力を込めて槌を振り下ろす。
先程よりも響く、重い金属音。先程よりも明るく散る、無数の火花。
直接関係しているかは分からないが、武器製造の時、インゴットを叩いた回数は多い方が、より良い剣が生まれると言われている。
実際、リズベットが今まで叩いた回数で最も多いのは54回。
その時に産まれた《ダークリパルサー》は、間違いなく彼女の最高傑作だ。
その次に多い47回の武器…アスナの持つ《ランベントライト》も彼女の代表的な作品の一つだ。
…つまり、これまでの傾向から50…いや、60を超えれば、彼女の知らないレベルの武器が産まれることは、間違いなかった。
「…ッ!…ッ!」
カァンッ!カァンッ!カァンッ!
時折汗を散らせながら、リズベットは無心で槌を振る。赤く変色した2つのインゴットは、「まだまだ」と言わんばかりに変形する素振りすら見せない。
もう30は超えたのに、手応えは変わらず重く、彼女の槌を跳ね返す。
「…ッ!…ッ!」
カァンッ!カァンッ!カァンッ!
負けじとリズベットも槌を振り続ける。40を超えたところで、ようやく輪郭がすこし動き始めたが、それでも剣には変形しない。
…ふと、キリトを見た。
彼は何処か感心したように叩き続けられるインゴットを見つめていたが、見つめているリズベットに気づくと…
不敵な笑みで、頷いた。
その返しに、リズベットも笑みで返すと、なお一層、手に力を込める。
そこには、失敗への恐怖など存在しない。
意識にあるのは、今目の前で自身と格闘しているインゴットのみ。
「フッ…!」
カァンッ!
とうとう、大台の60を超える。
だが、まだ終わらない。
散らす火花と金属音は、尚も工房に散り続ける。
…そして。
カァンッ!
「あ…」
85を数えたところで、リズベットの力が抜ける。たしかな感触。まるでインゴットの核を突いたようなその感覚に、察した。
新たな武器の完成を。
インゴットの赤い光は尚も強まり、キリトとリズベットの顔を照らす。
「おお…」
キリトも漏らす、いっそう強い感嘆の声。
やがて光の中、インゴットは融合しながらその形を変えていき…
動きを止めたところで、光も収まった。
すかさずリズベットが完成した剣のステータスウィンドウを開く。
「名前は《スパイラル・エリュシオン》。私も聞いたことの無い、新種の剣ね。…一応、振ってみてくれる?」
「ああ。」
キリトは黒く染められたグリップを握る。
鍔は白く、所々に黒い小さな装飾が施されていた。
刃の部分は中間地点を中心に、渦巻く黒と白の螺旋が浮かび上がっている。
剣を持ち上げたあと、1度、2度とその剣を振り…
キリトは満足そうな笑みをうかべた。
その様子に、リズベットもガッツポーズをして喜ぶ。かつてダークリパルサーを打った時にも感じた感覚だった。
「ありがとう、リズ。凄くいい剣だよこれ。」
「やー、私が本気出せばこんなもんよ!」
「ああ。さすがだな。」
キリトはもう一度笑みを浮かべて、手元の片手剣を見つめた。
どうやら本当に満足しているようで、頷きながら微笑みを浮かべている。
「良かったぁ」
リズベットは近くの椅子に座って、しばらく安心感に浸った。
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その後、キリトが製造費用を支払い(彼の要望により割増)、そして2人で昼飯を食べた後(これもキリトの要望により奢り)。
店に戻ったリズベットが口を開いた。
「そういえばあんた、1本はその剣で良いとしても、2本目はどうすんのよ。」
「あー…そういやそうだな…。まだ考えてなかった…。」
そう、キリトは二刀流のため、戦闘にはもう1本剣が必要となる。
つまり、先程と同等の剣がもう1本必要というわけで、かなり困る問題だった。
「よければさ、もう一本も私が打っていい?今から。」
「え?いや、そりゃ有難いけど…って、今から?」
「そ。今から。」
「大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。もう色んな疲れも引いたし。それにこの世界は筋肉疲労はないから、筋肉痛もないしね。」
そう言って、リズベットは座っていた椅子から立ち上がる。
「いや、でもインゴットが無くて…」
「大丈夫よ。私の使うから…」
「いやそれでも…私の?」
よく分からないことを言っているリズベットに、キリトも疑問符を浮かべる。
キリトが立ち上がり、彼女に駆け寄ると、丁度ウィンドウから何かオブジェクト化させた所だった。
それは、インゴット。
だが、通常のものより輝きが強く、透明感が高い。一目でレア物だということがわかった。
「おま…これ、どうしたんだよ。」
「どうって。私が昔、たまたま取ってきたレア素材のインゴットよ。」
「は?え、いや…そんなレベルのものじゃないだろ、これ…下手すりゃ《クリスタル・インゴット》超えてるぞ…」
紅く、燃えるようなその色は、まるで宝石そのもの。到底、インゴットの輝きには収まらなかった。
「ていうか、こんなのあるなら作って売り出せば、凄い利益になるんじゃないか?」
「まー。そうだけどね。これ手に入れた時は鍛治熟練度が足りなくてほっといたんだけど、そのまま忘れててね。」
「…ホントかよ…」
勿論、嘘だ。
このようなレア素材のことを、彼女が忘れるはずがない。
なら、何故打たなかったか。
…いや、打てなかったのだ。
単純にこわかった。自身の手で、もしかしたら超レア素材を
…だが、今は違う。
今の彼女にあるのは、大きな自信と、確信。
鍛治への自信と、あとは…
「ほら、今から打つから下がってて。」
「わ、分かった…本当に良いのか?俺なんかのために…」
「あー、もう!所有者の私が言うんだから良いのよ!いいから下がってなさい!」
尚もそう呟くキリトにリズベットは叫ぶと、しっしっと手で追い払う。
未だに申し訳なさそうな顔をするキリト。
だが、リズベット自身には迷いはなかった。
リズベットはインゴットを溶解炉に入れて、取り出すと、先程と同じように深呼吸。
そして…
「…ッ!」
カァンッ!
思いっきり、槌を振り下ろした。
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ねえ、キリト。
私はさ、このインゴットを手に入れた時、嬉しさ以上に、何処か申し訳無い気持ちがあったの。
私なんかがこんなものを手に入れていいのか。そんな迷いがどこかにあった。
当時はまだ店を開いてそこまで経ってなかったし、それも仕方無いのかもしれない。
…けど、それは、店が繁盛しだして、攻略組のお得意様がついても、変わらなかった。
どうしても、どうやっても。
これを打てる自信が出なくて、かなり悩んだ。
それが変わったのは、数ヶ月前。
キリトが店に来て、ダークリパルサーを打ってから。
あれから、どんなものを打っても良い物が出来て、それまでよりももっと鍛冶師としての腕が上がった。
失敗が少なくなった。
自然と、自信がついていくのがわかった。
確かに、ただの気持ちの変化だよ。
けど、私にとっては、その気持ちの変化こそが…《キリトが好き》っていう気持ちこそが、一番大事な事だった。
分かってる。
キリトは、大切な親友の…アスナの恋人。
こんな気持ちを抱いちゃいけないってことは。
…でも、それでも。
この気持ちは、本当だから。
だから、私はこの剣を、キリトのことを想って打つ。
あんただけを、想って打つから。
…だから、受け取って。
私の、最初で最後の、《本当の気持ち》をーー。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「…出来た。」
光が収まり、赤い刀身と柄が姿を現した。
インゴットの時のものを受け継いで、燃えるように紅いそれは、凄まじいオーラを放つ。
「…振ってみて。」
「…分かった。」
キリトは、赤いグリップを握り数回振る。
『…なんて筋力要求値だ…』
それは、インゴット2つを消費した《スパイラル・エリュシオン》に迫るものがあり、持つだけなら、手が震えそうなほど。
…だが、それでも。
その剣は、自然と手に馴染んだ。
かつての愛剣達と同じように。
「…これ以上の剣は、望めないな…」
自然と漏れた言葉。
リズベットも渾身のガッツポーズで喜ぶ。
「…本当にありがとう。…これ、本当に貰っていいのか?」
「くどいわねー。私が良いって言ってんだからいいの!代金もツケにしといてあげるから!」
「え?!い、いやそれはいくら何でも…!」
「良いってば!そのかわり、代金は《あっちの世界》で払ってもらうからね!!」
「…分かったよ。」
「利息もつくから、なるべく早くクリアしないとね。」
「ああ。…ありがとうな、リズ。」
「ま、そうね。これはお礼も兼ねてだし、《クリスマスプレゼント》ってことでいいんじゃない?」
「だな。…本当にありがとうな。これでまた、思う存分戦えるよ。」
「なら良かったわ。ギルドリーダー様には、これからも頑張って貰わなきゃならないしね。」
リズベットはくるりと後ろを向いた。
キリトの「だな」という答えを聞きつつ、口元に浮かぶのは満面の笑顔。
武器の名前は、《リメインズ・ハート》。
想い人に対する想いが、剣となって彼の手元に届いた。それだけで、彼女にとっては幸せだった。
「…ね、キリト。」
「ん?」
「メリークリスマス!!」
外には、白い《想い》が降り積もっていた。
リズベットヒロイン回って感じかな?書いててすごく楽しかった。文章とか武器の名前考えるのはちょっと難しかったけど…( ̄▽ ̄;)
リズベットはええ子やー。
補足説明しとくと、《武器融合》は融合させるのに数回余計に打たなければならないので、《武器製造》の時の打つのに換算したらだいたい70回くらいですね。
それでもヤバいが笑
では、次回もお楽しみに!