ソードアートオンライン 〜鋼鉄の記憶〜   作:誠家

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今回の前編に嘘はありません。


多分(おい)


第18話 強さとは《前編》

「カフェラテで良かったか?」

「…ありがとう。」

 

噴水の前にあるテーブルとベンチ。

シノンはそれの片方のイスへと腰掛けていた。

露店から駆け寄ってきたカズマが手渡したカップを受け取り、シノンはそれに口をつける。

ミルクで少しまろやかになった苦味に、ホッと一息つく。

 

カズマは器用に腕に乗せていたケーキをシノンの前に置くと、そのままテーブルを挟んで彼女の目の前にある席へと座った。

そしてカップの中にガムシロと砂糖を追加爆撃。スプーンで混ぜてから口をつけた。

 

「…あなた、甘いの苦手じゃなかった…?」

「ん?あー、そりゃ兄貴の方だよ。俺は別に甘いのも苦いのも好きだ。まあでも、苦いのは甘いものほどは飲まないかな。」

「…そう。」

 

「…何の話されるのか気になってる、って顔だな。」

「…そりゃそうでしょ。いきなり呼び止められたんだから。」

「確かに。」

 

シノンの指摘に、カズマはククッと喉を鳴らして笑う。その様子にため息をついて、シノンは目の前にあるケーキの端をフォークで切り取り、口に運ぶ。

何処かチーズケーキのような味わいの中にある控えめな甘み。

 

「美味しい…」

 

思わず呟き、ハッとカズマを見る。

彼の顔はニヤニヤと笑みを浮かべていた。

 

「…何よ。」

「いーや。お気に召してくれたようで何よりだよ。…シノンは、生クリームドカドカ乗ったやつより、そういうあっさりした方が好きだなと思ってな。」

「…」

「一応、ギルドの調理担当責任者だからな。それくらいは把握してるよ。…勿論、ギルドの副リーダーとしてもな。」

「…どういう意味よ。」

 

どこか含みのある三言目に、シノンは怪訝そうな目を向ける。その視線をカズマはコーヒーに口をつけながら飄々と受けると、そのまま問う。

 

「…ボス戦の後、何言われた?」

「…なんの事。」

「惚けても無駄。周りの連中から声掛けられてただろ。ちゃんと見てた。お前は全然返答してなかったしな。」

 

「…別に、ただの世間話よ。」

「ただの世間話なら、いくらお前でもあそこまで鋭い眼光は向けんだろ。」

「そんなの分からないじゃない。もしかしたら、そういう女かも。」

 

「…短期間とはいえ、戦い方も教えてやって、同じギルドにいるんだ。お前がどういうやつかくらいは分かるよ。…シノンは普段素っ気なくても、意味もなく人を無視したり睨みつけたりはしない。リーファやリズが話しかけても、少ない口数でもちゃんと返答はしてる。後衛班のリーダーしてるシウネーの指示や助言もちゃんと聞いてるし。」

 

「…義務としてやってるだけ。」

「だとしても、こうして俺と話してる。なら、()()()()()()だろ。」

「………」

 

これには、シノンも何も返せない。

フォークの先でトントンと、ケーキを軽くつつきながら、「はぁ…」とため息をついた。

 

「あなたって、本当に遠慮なく人のテリトリーにズケズケと潜り込んで来るわよね。…見透かされてるみたいで、なんかムカつく。」

「スマンな、デリカシーなくて。」

 

笑いながら言うカズマに対して、シノンは少しむくれながら「まったくよ」と拗ねたように呟く。

そして、もう一度ため息をつくと、シノンは椅子に体重を預けて喋り始めた。

 

「…少しね、小言を言われたわ。『エクストラスキル持ちもそんなものか』、『所詮はニュービーだな』って。」

 

シノンは言われた言葉を復唱して、コーヒーの注がれたカップに口をつけた。

 

一応攻略組全体には、シノンの記憶がないことが周知されている。

そんな奴が自身の立場を脅かし、更にはエクストラスキルを持っているとなると、危機感故の小言というやつだろう。

 

『よくわからんな。』

 

カズマ自身は、危機感というものをあまり持ったことがない。

勿論、彼よりも強いものもいるにはいるが、今の自分の立場を任せられる者は居ないと自負している。

まあただ、ぶっちゃけて言うと小言を言ったヤツらの気持ちはどっちでもいい。

 

「で、どう思った?」

「…別に。他者の言葉で我を見失ったりはしない。…ただ…」

 

「もっと強くならなくちゃって、思った。」

 

「あいつらに何も言われないように、もっと強く。…それが、私の目的。」

 

確固たる意志を持って、シノンはそう告げる。…いや、その様子はカズマにとって、何処か()()()()()()()()()ようにも感じられた。

 

一応、その《強さに執着する理由》とやらを聞くだけなら出来る。

 

『…けど、俺は兄貴みたいに天然タラシみたいな特性は無いし、シュンヤみたいに礼儀正しく聞ける訳でもない。いや、礼儀正しくはできるけど、懐疑的な目で見られて終わる未来が見える。』

 

どうしたもんか、と。

カズマは少しだけ天を仰いでから、「うん」と頷くともう一度シノンを見た。

 

「なぁ、シノン。お前さっきまで、圏外に出ようとしてたよな?」

「…ええ、そうね。」

「ソロで?」

「…いいえ、他の募集パーティーを見つけて入れてもらおうかと…」

「それがなかったら?」

「……」

「募集なんてそう毎日転がってないからな。無かったら?」

「…それは…」

 

カズマの突然の質問攻めの前に、ゆっくりと口を噤んでいくシノン。

その反応を見て、カズマはため息をついた。

 

「ソロプレイは厳禁だって、この前も言ったろ。強くなりたいと思うだけなら別に止めはせんが、それで自分の身を危険に晒したら元も子もないだろ。」

「…それなら、カズマだってソロで…」

「なら聞くが。今のお前に俺を倒せるか?不測の事態に、()()最低限の動きが出来るか?」

 

「……」

「そんなに強くなりたくて、レベルを上げたいなら、もっと《仲間》を頼れ。メンバー募集みたいな半端な奴じゃなく、お前には《ギルドメンバー》がいるんだから、そいつらを頼ればいい。」

「…私の私欲に、あの子達を巻き込む訳にはいかない。」

 

「それなら、俺を巻き込めばいい。…いや、もう既に巻き込まれてる身だ。それなら躊躇なんて要らんだろ。」

「…それは…」

 

そのまま、シノンはまた黙り込んでしまう。

 

カズマは小さくため息をついた。

おそらく、彼女の『私欲に巻き込みたくない』という言葉。この言葉に、嘘はない。

あくまでも勘だが。

 

だが、それだけではないことも確か。

彼女はそれ以上に、恐れているのだ。

《人》との関係を、深めることを。

当たり障りのない関係で保ち、一定の距離を取り、関わり続ける。

 

別に、その生き方を否定する気はさらさらない。

そんなものはその人の自由なんだから。

他人が口出すことでもないだろう。

 

…だが。

 

「…そうもいかねえんだよな。」

 

カズマは小さく呟いた。

 

そう、彼は今や、攻略組の一角を担うギルドの副リーダー。

 

「シノン、予定変更。ちょっと歩こうぜ。」

「え…?」

 

責任を負う役職についた限り、目についた問題を放置することなど、出来るはずもないのだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

「…ねえ、カズマ。」

「ん?どした?」

「どうした?じゃないわよ。何処に行く気?」

 

カズマは歩き出し、ゆっくりとした動きで前に進んでいく。

シノンはそれに同じような歩調でついていく。

カズマの足取りに迷いはない。

 

「どこって、この方向にあるものって言ったら、《あれ》しかないだろ。」

「あれ…?まさか、圏外に出る気?」

「あー、なるほど。《それ》もあるけど…広い意味の《もの》じゃなく、もっと範囲の狭い《物》だよ。」

 

カズマの言葉は何処か遠回しで、聞くだけではシノンも意味が分からなかった。

…しかし。

それの目の前に立つと、カズマが目指していた物はすぐに分かった。

 

「…転移門…」

「ほら、早く来いよ。」

 

カズマに促され、シノンは慌てて転移門へと上がる。

 

 

「転移、《はじまりの街》。」

 

カズマは、目的地を告げた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

一瞬の浮遊感の後、目の前に広がる街。

色とりどりの天井が並ぶが、上層に比べれば何処か簡素な家々。

そして、後ろを振り向けば、そこにあるのは黒く光る巨大な建造物。

何処か独特な雰囲気を、それらは醸し出す。

 

「ほら、行くぞー。」

 

あまりのスケールに圧倒されていると、カズマの言葉で慌てて彼の後を追う。

 

「カズマ…ここって…」

「あー…お前は初めてだったか。」

 

カズマは少し立ちどまり、ゆっくりと先程まで居た広場に、体と視線を向けた。

人もまばらなその広場を、何処か懐かしむような、しかし少しだけ忌々しそうに見つめる。

 

「ここは、第一層《はじまりの街》。全プレイヤーのチュートリアル地点であり…」

 

 

()()()()()()()()()、だ。」

 

 

カズマはそう言って、また歩き始めた。

シノンはその言葉だけで、この街の正体に気付く。

VRという世界に魅了された人々を収容し、そして閉じ込めたいわば《悪夢の始まり》の場所。

 

「…」

 

シノンはもう一度、広場に目線を向ける。

確かに、よく見てみると何の変哲もない転移門広場だ。かつてはあそこに攻略組の面々も集結したのだろう。

…だが、上層に行くにつれて忘れられていく閑散としたその広場は、街並みと共に、確かな威圧感を滲み出していた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「ねえ、カズマ。本当に何処に向かってるの?まさか、こんな低層で訓練なんて言わないわよね?」

 

カズマとシノンが広場を出て15分ほどが経過した。カズマは尚も、迷いなく歩を進めている。

だが、実際15分の間何も無く、着々と圏外に近づいているのだ。

カズマはシノンの問いに、少しだけ笑いながら答えた。

 

「大丈夫、もう少しで着くから。」

「もう少しって…」

 

カズマの言葉とは裏腹に、周りの外観はまったくと言っていいほど変わっておらず、目的地が近づいているのかすら定かではない。

だが確かに、カズマの足取りに迷いはなく、道順を分かっているようにどんどんと先へ進んでいく。

 

…やがて、細道の向こうに少し開けた広場と、その奥にある少し大きめの、教会のような建造物が見えてくる。

建造物の前では、5人ほどの子供がサッカーボールのようなものを蹴りあって遊んでいる。

やがて、その内の一人が路地から近づいてくる2人…というかカズマに気付いた。

その瞬間、その子供は満面の笑みを浮かべた。

そして…

 

「あ、カズマ!」

 

少年はそう言うと、遊んでいた輪から抜け出し、猛ダッシュでカズマに突っ込んだ。

カズマは少年を抱きとめると、笑みを浮かべた。

 

「よ、ケイン。元気にしてたか?」

「うん!」

 

やがて少年の声で、他の4人もカズマに抱きついた。

 

「カズマー!」

「カズマさん!」

「カーズマー!」

「くらえキック!」

「おいおいお前ら、もうちょい優しくだな…おい、誰だ今キックした奴。」

 

「「「「ハヤトです。」」」」

 

「あ、お前ら!」

「お前かああぁぁぁ?」

「ギャー!すみませんでしたぁ!」

 

カズマがアイアンクローを繰り出すと共に響く少年の悲鳴。その様子に子供達4人は笑い声をあげる。

そして2人いる少女の中の一人がカズマの袖を掴み、上目遣いで問う。

 

「ね、カズマさん…この女の人は…?」

「ん?ああ、今の俺のギルドメンバーだよ。ちょっと、お前らのこと紹介したくてな。」

「えー、カズマがギルド入ってたって本当だったのかよ!」

「逆になんで嘘だと思ったんだよ、タケヤ。」

 

「だってずっとボッチだっt…」

ギリギリギリギリ…

「ギャー!アイアンクローはやめてー!」

「間違ってないけど言い方がムカつく。」

 

仲睦まじそうに会話を交わすカズマと5人の子供。その様子にシノンは呆気に取られる。

やがて、教会から1人の女性が姿を現す。

女性は何処か修道女のような服装をしており、三つ編みの奥の表情は少し幼く、かなり若く見える。

 

「カズマさん、お久しぶりです。いらして下さり、ありがとうございます。」

「や、サーシャさん久しぶり。元気そうでなによりだよ。」

「はい。カズマさんとユウキさんのおかげです。…ところで、そちらの方は…?」

「ああ、俺のギルドのメンバーなんだけど…ちょっと教会に失礼してもいいか?」

 

カズマの言葉に、サーシャと呼ばれた女性は笑顔で答えた。

 

「カズマさんの友人なら、いつでも歓迎ですよ。…どうぞ。ついでと言ってはなんですが、お夕飯も食べていってください。」

「お言葉に甘えるよ。シノンも、それでいいか?」

「え?え、ええ。」

「分かりました。…ほら、あなた達。早く戻って。ご飯よ。」

 

 

「「「「「はーい!」」」」」

 

 

サーシャに言われ、5人は満面の笑みで協会へと戻って行った。

やがてサーシャ、カズマとその後に続き、そして…

 

「……」

 

シノンも恐る恐る、その後について行くのだった。

 

 

 




この終わり方で前編のいてたら笑いますね。
そんなのやる奴の気が知れない(お前だよ)
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