ちょっと会話多め也。
「あー!先生ー!ケインが俺のウィンナー取ったー!」
「俺のキノコやっただろー!」
「こら!残しちゃダメじゃない!」
「だって苦くて嫌いなんだもーん!」
「…すごいわね。」
目の前で繰り広げられる大勢の子供達の食事…というか、ほぼ戦場とも言える光景に、シノンは圧倒された声を出す。
「相変わらず騒がしいなぁ、ここは。生半可なボスモンスターなんざ目じゃない。」
「そうですね。もう私が注意しても聞かないので、いつもこんな感じで…。」
カズマの冗談交じりの言葉に、サーシャも何処か諦めたような笑顔で返した。
呆気に取られていたシノンに、サーシャは笑いかけた。
「シノンさん…でしたよね?料理の味はいかがですか?」
「え、ええ。とても美味しいです。ありがとうございます、ご馳走になってしまって…」
「いえいえ、カズマさんのギルドのメンバーの方々には私達の方がお世話になっているので、これでは足りないくらいです。」
「え…?」
サーシャのその言葉に、シノンは違和感を覚える。
自分は、この施設に何かした覚えはなく、そもそもここの存在を知ったのはついさっきだ。
シノンが困惑し、少し微妙な雰囲気になる。
その中で、カズマがすぐにフォローを入れた。
「…ま、確かに、俺とユウキが寄付する金額は、その月に稼いだ分の1割程度って決めてるからな。ギルドが稼ぐ程、ここへの寄付金も増えるわけだ。その点で言えば、確かにギルドメンバー全員がこの施設に貢献してるって言えるな。」
「はいっ。皆さんからの寄付でこの施設は実現していますので、本当に有難い限りです。実は、キリトさん一家からも寄付金を頂いているので、おふたりのギルドの皆さんには本当にお世話になっているんです。本当に、ありがとうございます。」
深々と頭を下げるサーシャ。
だが、シノンは少しだけ間を開けてから、ゆっくりと頭を振った。
「…いえ、私は正直、この施設の事は存じ上げていませんでした。なので、結果この施設の存続に関わっていたとしても、お礼を言われる資格は…」
シノンはそう言って、何処か申し訳無さそうに目線を下げていく。
…だが。
サーシャは、すぐさま口を開いた。
「それでも構いません。シノンさんがどのように考えてきたとしても、皆さんからの支援のおかげでこの施設は存続し、沢山の子供達が路頭に迷わず居られるんです。」
「…私は、今でこそこうして皆の先生として慕われていますが、かつては見向きもされず辛かった時期もありました。飢えを凌ぐのがやっとな時もあったんです。」
「でも、皆さんが、こんな私を励まして、支えてくれたからこそ私は折れずに頑張ることが出来た。…そう、思っています。だから、どんな事でも感謝しようって、そう決めているんです。」
「シノンさん、本当にありがとう。これからも気兼ねなく、是非いらして下さい。」
サーシャの言葉の数々。
聞いた者によっては様々な意見がありそうなもの。それは、サーシャ本人も理解している。
だが…
「…こちらこそ、ありがとうございます。」
深々と頭を下げるシノン。
その体は、少し何処か震えていた。
その言葉が、
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「ふぅ…」
数時間後。
騒がしい時間を教会で過ごした後、カズマとシノンは転移門広場のベンチに腰かけていた。
肌寒い空気が辺りを包む中、カズマは白い息を吐く。
背もたれに体重をかけると、軋むような音が響く。
「どうだった?」
簡潔なカズマの問い。
シノンはそれに少し思考して、答える。
「…少し、新鮮だった。」
「…?」
「…私は、この世界では…自分の目的だけを考えて戦ってきた。…ただ、強くなりたくて進んできた。…でも、結果的にそれが誰かの役に立ってたなんて、考えもしなかった。」
そう言って、シノンは顔を伏せる。
おそらく、その胸中にはありとあらゆる感情が渦巻いているのだろう。
カズマもそれを理解して、声をかけた。
「…数時間前にも言ったけど、お前が強くなろうとすることは、別に悪いことじゃないんだ。どういう目的であれ、その努力は圏外では結果としてその場にいる全員の生存率を上げてくれる。」
「けど、
「周りを巻き込みたくない気持ちも分かる。自分一人で解決したい気持ちも分かる。…けど、無理なんだよ。そういうのは大抵、1人で解決しようとする度に泥沼にハマって、最終的に取り返しがつかなくなる。」
シノンは、チラリとカズマの横顔を見る。
そこには、いつもの彼の穏やかな顔は無かった。
あるのは、後悔を滲ませた目元と、強く閉じられた口元。
それにはシノンでさえ、彼の中にある強い《何か》を感じられた。
瞬間、彼女は問いそうになる。
『あなたは、何があったの?』、と。
だが、寸前でやめる。
今、カズマは自分の中にある《目的》の裏側にある《トラウマ》に関して、何も聞かないでいてくれている。
そのような相手に、そこまで踏み込んだ問いは出来なかった。
「…あなたは、やっぱり強いわね。」
代わりに、シノンはそう呟いた。
だが、カズマは頭を振った。
「俺は、強くなんてない。ゲームの中じゃこんだけ偉そうなこと言ってるけど、リアルじゃ何も出来ない、ただの学生だ。」
その瞬間。
初めて聞いた、彼の
シノンはもう一度、彼の方を見た。
だが、カズマは特に気にした様子もなく、ゆったりと空を見上げている。
「…それなら、あなたは、どうやって過去に打ち勝ったの…?」
シノンは、呟くように問うた。
カズマはチラリとシノンを横目で見てから、ため息混じりに答える。
「…打ち勝った訳じゃない。確かにある種での《決着》はついたけど、今でも後悔してるし、時折悩まされる。『もっといいやり方があったな』って。…偉そうなこと言ってるけど、俺もまだ悩んでる。」
「…なら、私はどうすればいいの…?あなたですらそれなら、私は…」
シノンは、思わず頭を抱えそうになる。俯く。
彼女の中にある目的。
それが、間接的にとは言え否定されたのだ。
そうもなるだろう。
「……」
そんな彼女の姿を見て、カズマはもう一度話しかけた。
「な、今日さ、なんで俺があそこに連れて行ったか分かる?」
「え…?」
その問いに、シノンは顔を上げる。
見ると、カズマの顔は、笑っていた。
彼は何処か思い馳せるように、もう一度天を仰いだ。
「俺はさ、アイツらが…サーシャさんや子供達が、この世界で
「……!?」
カズマの言葉に、シノンは驚愕に表情を変えた。カズマは「そんな顔すんなよ」と茶化すように笑った。
「…ま、そりゃ勿論、スキルやらレベルやら考えたら俺らの方が上だ。そんなことは誰でも分かる。」
「………」
「けどさ、よく考えてみろよ。このゲームの開始初日。大の大人達が心中を図る中、たった1人、家族から引き離される子供達の気持ちを。」
それは、絶望的な事だっただろう。
見知らぬ世界で、右も左も分からずに放置されたのだ。錯乱状態に陥っても不思議はない。
「そんな中、絶望感に打ち負けずに、ああやって支え合いながら生きてるんだからな。…まぁ、俺らベータテスターが置いていかなければもっと違ったんだろうけどな。」
カズマはそう言って自嘲の笑みを浮かべた。
だが、すぐに表情を戻す。
「サーシャさんだって、かつては本当に苦労したそうだ。戦うのを諦めて子供達の世話をするはいいが、懐いてくれない、喋ってくれない。喋ってくれたと思えば罵詈雑言。…それでも続けたんだから、すげぇ人だよ、本当に。」
カズマの言葉に、シノンは想像も出来なかった。あの騒がしく、楽しそうな施設に、そんな時期があったなど、信じられない。
だが、同時に確かにと納得も行く。
まだ不安定な子供の時期にデスゲームに閉じ込められたら、普通はそうなるのだろう。
「でさ、俺聞いたんだわ。『なんで続けてるんですか?』って。ここまで割食わない仕事もないだろうしな。」
「そしたら、言われたよ。『色んな恐怖もあったけど、私がこれを続けられたのは、共感してくれた皆さんと、支えてくれた人達のおかげなんです』、だって。最終的に俺まで礼言われた。」
笑いながらそう言うと、カズマはシノンを見る。
「正直、お前がなんのために強くなろうとしてるのかはわからん。…けど、俺なりの助言をするとするなら…」
「まずは他人と向き合え。」
「他人と向き合って、その後は自分自身と向き合って、目的や目標と向き合うのはそれからだ。そうすれば、たとえ目的に向き合えなくても、そいつらは支えてくれる。相談にものってくれる。…それは、この世界で手に入れて、現実に戻っても、
「…あなたは、それを1人で導き出したの?」
「いや、全然。色々あって、ユウキに叱られて、ようやく出て来た。…だからま、人ってのは支え合わなきゃ生きていけないのかもな…なーんて、偉そうに言えることじゃねえが。」
「……それは、他人任せじゃないの?」
「他人任せってのは、他人にまるまる自分の問題を任せることだ。いったろ、《助け合い》だって。自分が辛い時は支えてもらえばいいし、逆に相手が辛い時は支えてやれ。それでいいと思うけどな。」
「子供達だって、攻略組の皆だって、支え合って、励ましあって生きてるんだ。…お前も、もうちょっと他人と関わっても、いいんじゃないかな。」
「………」
「俺が言いたかったのはそれだけ。…これをどう受け取るかはお前の自由だ。」
そう言うとカズマは立ち上がる。
そして、シノンに笑いかける。
「さ、帰ろうぜ。明日は休みだけど、明後日攻略だから体休めなきゃな。送ってくよ。」
「…ありがとう。」
シノンはゆっくりと立ち上がり、礼を一つ。
そして、転移門へと近付く。
ささやかな街灯が転移門広場を灯す中、2人は上層へと戻ったのだった。
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ーー数日後ーー
「それじゃあキリト、私達これからダンジョンに行ってくるから。」
「分かった。リズ、5人で大丈夫か?」
キリトの問いに、リズベットは笑いながら答える。
「だいじょーぶよ!今回のはそこまでハードな奴じゃないし、それに助っ人としてスリーピング・ナイツの女性陣とアスナが来るから!」
「…まあ、それなら大丈夫か。」
「そうだよ、キリト君。私達一応攻略組なんだからさ!もっと信用してよ!」
「経験浅いお前が一番心配なんだけどな。」
カズマの一言にキリトが「うん」と頷いた。
その一言にショックを受けたのか、リーファは「ガーン」とわざとらしくリアクションする。
「ま、まあ、そのメンツならフォローも出来るし、大丈夫でしょう。えっと、メンバーは…」
「私、リズさん、シャムさん、リーファさん、あとシノンさんの5人ですっ。」
「分かった。…それじゃあ皆さん、頑張って来てください。」
「当然!」
「はいっ!」
「うんっ!」
「はいっ」
「…シノン。」
「…なに、カズマ。」
「頑張ってこいよ。」
「…ええ。」
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「シノンさんも、他の4人と関わるようになって一安心ですね。」
「だな。さすがカズマってとこか。」
「褒めても何も出ねーぞ。…ま、多少なりとも響いてくれたみたいで良かったよ。」
「あはは…それにしても、カズマがはじまりの街の保護施設に寄付してたとはな。キリトさんは、ユイちゃんの親を探す時に尋ねたんでしたよね。」
「ああ、そうだな。それからは俺も関わらせてもらってる。…そういえば、カズマはどうやって、あそこのことを知ったんだ?聞いた事無かったけど…」
「黙秘。」
「ええー…」
「ここでかよ…」
「良いだろ別に。それより、早くクエスト行こうぜ。現地集合のウッドとコウヤさん達も待ってるだろ。」
「上手く摩り替えやがって…まあ、いいや。いずれ聞き出すからな。」
「ご自由にどうぞ。」
「エギルー!準備OKだぞー!」
「おう!俺ももう行けるぜ。」
「よしそれじゃあ、行くか。」
「「「おー。」」」
あーあー、次はバレンタインかなー。
1ヶ月すっ飛ばすかー。多分。