誰だこんな題名付けたやつ(お前だよ)
「ハアアァァァァッ!!」
アルベリヒの持つ赤黒い細剣が、瞬時に光に包み込まれる。
それは、ソードスキルの発動を意味する。
彼が繰り出した技は《トライアン・ギュラー》。細剣三連撃技。
…だが、カズマは知っている。
ヒュバッ!
「な…ッ!」
「その技、下段攻撃はないんだよな。」
カズマはしゃがみ込むだけでソードスキルを回避すると、技後硬直に陥ったアルベリヒを尻目に、そのままステップで距離をとった。
「ハァ…ハァ…ハァ…ッ…」
「ほれ、まだまだ時間はあるぜ。もっと来いよ。さすがに命中0ってのは、面子が立たねえだろ?」
カズマはそう言って、笑みを浮かべた。
そして、挑発するように手招きをする。
それは、限りなく安い挑発。
…しかし。
「…クソォッ!!」
余裕のなくなったアルベリヒには、
凄まじい速度の突進。
しかしまたもその剣は、呆気なく空を切った。
ーーーーーーーーーーーーー
「あの馬鹿…どれだけ挑発するんだよ…」
カズマとアルベリヒの…というか、一方的なアルベリヒの攻撃とカズマの回避を見つめながら、シュンヤは頭を抱えた。
その様子に、アスナも苦笑いを浮かべる。
「…すごいね。人ってあそこまで見事に、他人をおちょくれるんだ。ちょっと感心しちゃうよ。」
「…あいつがやりたいことって、あれのことかよ…。確かに、俺じゃあそこまで見事に挑発は出来ないけど…」
アスナが感嘆し、シュンヤは呻くように呟いた。
だが実際、カズマがアルベリヒを挑発することによって、攻略組ギルドの長の者達がアルベリヒの戦闘をしっかりと見れていることも確かであった。
「だがやはり、あのアルベリヒというプレイヤー、どう見てもおかしいな。」
「ああ。剣を振る速度や突進の速度を見る限り、かなりの高レベルプレイヤーであること…それこそ、キリトさん達に迫るほどのレベル値であることは間違いないが、戦闘に《駆け引き》が無さすぎる。」
「戦闘慣れしていないことが見え見えだな。」
シュミット、リンド、シヴァタが顎に手を添え唸りながら呟く。
「キリの字よぉ、お前から見てどうよ。あのパツキン野郎は。」
「んー、まあ正直、駆け引きに関しては《対人戦に慣れてない》ってことで、説明はつかないことはないけど…。それにしても剣筋が真面目すぎるというか…。」
「というか?」
「まあ、とりあえず剣技がレベルに見合ってないことは確かだな。例えるなら、《新しく技を覚えた犬》みたいな感じか?」
「お、キリの字も言うじゃねえか。さすがは最強プレイヤー様だな。」
「からかうなよ、クライン。…にしても、カズマの奴もよくあそこまで避け続けるもんだ。あれだけ手数があって、速度もある攻撃なら、1度くらいは当たり判定があってもおかしくなさそうなもんだが…」
その瞬間、またもアルベリヒのソードスキルをカズマはステップとジャンプのみで躱し、周りの観衆から歓声が上がった。
…そして。
「多分、それは一生無いんじゃないかな。」
「ユウキ…?」
ユウキは、目の前で、自身の夫によって繰り広げられている回避劇を見ながら、そう呟いた。
「ね、キリトは、ボクとカズマのデュエル戦績、知ってるんだよね?」
「え?あ、ああ。確か、48…?層攻略辺りまでやって、カズマが全勝してる…んだったよな?」
「うん。ボクとカズマが付き合うまで、層が解放される毎に必ず1回、ボク達はデュエルをし続けた。…まあ、たまに2回や3回の層もあったけど。」
ユウキは、何処か感慨深そうに話し始める。
「そんな中で、カズマは一度もボクに負けたことは無いんだ。逆に言えばボク、一度もカズマに勝ったことないんだよね。どんだけ対策して挑んでも、すぐに対策の対策されて負けるし。」
「へえ…」
その話は、その場にいる攻略組の面々全員にとって、少し意外な話であった。
確かに、カズマは強い。
それは間違いないのだが、だがそれと同時に、ユウキの強さも間違いないのだ。
彼女の剣技と戦闘センスは舌を巻くものがある。
そんな彼女に対して全戦全勝を成し得るなど、正直《攻略組最強》と言われているキリトでさえ、自信はない。
「…まあ、カズマさんは、《絶対に負けられない理由》があったんだけどね…」
ランは、誰にも聞こえない声で呟く。
「だからまあ、何が言いたいかって言うとね…そんな、《極限の駆け引き》を体現したようなデュエルで勝ち続けたカズマが、あんな《教科書通り》のつまらない剣に、当たるわけないってこと。」
ユウキは信頼と信用に満ちた目でそう呟き、フンッと鼻を鳴らす。
その様子を見て、クスリとランは笑い、キリト達も笑みを浮かべた。
そして、静かに目の前の戦闘を見据えたのだった。
ーーーーーーーーーーーーー
ザッ
「行くのか?」
「行くも何も、迎えに行かなきゃだろ。」
「だな。あのバカ、見事に挑発に乗りやがって…あんなもん、
「アンタも来るのか?」
「ああ。気は進まないけど、そろそろ
「そうか。…おい、お前も来るか?」
「………」
「あいつ、全然喋らねえじゃねえか。」
「そりゃな。俺が
「マジか。急がねえと。」
「ああ。」
ーーーーーーーーーーーーー
「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…」
大衆の作った円の中心。
ひれ伏すアルベリヒと、それを少し離れて見下ろすカズマ。
2人のその構図が、どのような結末であったかを物語る。
アスナの横にあるテーブルに置かれた砂時計は、既に砂が落ちきっており、無情にも終わりを告げる。
「5分間ずっと攻撃を加え続けた根性というか、執念には目ェ見張るもんがあるけど、戦闘に関しちゃ全然だな。悪いが、ステータスとレベル値が高いだけで入れるほど、
カズマは耳に小指を突っ込みながら、気だるそうに告げる。
しかし、その言葉にアルベリヒによる返答はない。
身体を震わせ、ブツブツと何かを呟いているようだ。
観衆のざわつきが治まってきたことにより、その呟きは耳をすませばカズマにも聞き取れた。
「有り得ない…この僕が…負けた…?あんな、なんの力も持たない…クソガキに…?いや、何かの間違いだ…。僕は、選ばれた人間だ…。これは…間違いだ…間違いでなければならない…。」
何やらブツブツブツブツと、未練たらしく言い訳工場のように、ありとあらゆる現実逃避を表す言葉が発せられている。
『へえ、プライド高いやつがバッキバキにへし折られると、こうなるんだな。』
カズマは何処か関心を示すようにそんなことを考える。まあ、だが今はそんなことはどうでもいい。
カズマは少し後ろに振り向いて、攻略組の面々が集まる場所にアイコンタクトを送った。
それに、ほぼ全員が頷いた。
ユウキだけは満面の笑みで親指を立てていたが。
そんな、嫁の快活な笑顔に思わず笑みが漏れた。
…次の瞬間。
ドォンッ!!
「…!?」
カズマの背後、アルベリヒのいた場所に雷が落ちる。
衝撃波によって、カズマは少しだけよろめくが何とか踏ん張る。
だが、周りの観衆には吹き飛ばされた奴もいるようで、少なからず呻き声も聞こえる。
しかし、カズマにとってそんなことはどうでもよかった。
雷の落ちた場所。
アルベリヒのいた場所の舞い上がった砂塵が晴れて、その姿がカズマ達の前に現れる。
アルベリヒの前に立つ、黒いローブを着た2人。
その中の、片方のプレイヤーはゆっくりとその被っていた頭のフードをのけた。
そこから現れた顔を見て、カズマは顔を顰めた。
「よお、カズマ。4ヶ月ぶりくらいか?」
「…ショウマ、随分と遅い登場だな。」
まるで予期していたようなカズマの言葉に、ショウマは両手を上げて応える。
「お約束だろ?《主役は遅れてやってくる》。かつてのお前のように。」
ショウマはひれ伏すアルベリヒを見下ろすと、苦笑を浮かべた。
「まあでも、正直顔を出すつもりは無かったんだがな。けど、お前らはこの男の正体を見破り、こうして試験にひと工夫加えた…。だろ?」
ショウマの的確な指摘。
それに、カズマは肩を竦めて答えた。
「まあな。そこの男のお知り合いがこっちにはいたから。そんな悪目立ちする奴、間違える方がおかしいだろ。」
「はっ、違ぇねぇ。」
カズマの言葉にショウマは笑みを漏らす。
「ま、けど俺らはこうして話に来たわけじゃない。
「逃がすと思ってんのか?」
カズマがそう言うと、彼の背後からシュミットとシヴァタが姿を現し、盾を構えて迎撃体勢を整えた。
その場にいる全員が、圏内であることは頭に無かった。
「大人しく投降しろ!」
シュミットの言葉。
それにショウマはピクリと反応し、振り向いた。
「あ?誰に命令してんだ?お前。」
「お、お前らに決まっているだろう!早く投降して、俺達プレイヤーを解放しろ!!」
シュミットは勇猛にも、そう言いきった。
しかし、ショウマはそんなことはつゆ知らず。いや、興味が無いのか、「ハッ」と鼻で笑うと、続ける。
「投降しろ、ねぇ…」
「…なんだ…」
「いいか?よく考えてみろ。今のお前達はゲームのプレイヤー。つまりユーザーだ。それに比べて俺達はGM…つまり管理者であり、ラスボスだ。」
「そんな俺達に対して、お前達が何が出来るか。投降することを勧めることか?そんな訳ねえよなぁ?」
「俺達を倒して、このゲームをクリアしたいなら、登れ。この塔を。この城を。最後の頂点まで登り詰めろ。それ以外に、お前達のやるべき選択肢はないんだよ。」
ショウマは言い放つと、くるりと踵を返し、アルベリヒに手を置く。
そしてすぐさま、光が天から降り注いだ。
「…ッ…待て!!」
すぐさまシュミットが叫ぶ。
「…オズ、後始末は頼んだ。」
「オズ…?」
カズマの耳に入ったその言葉。
しかしその瞬間、凄まじい爆発が彼の前で巻き起こった。
「グアァッ!!」
「グォッ!?」
「シュミット!シバちゃん!」
タンク2人に守られ、カズマは受けなかったが、しかし2人はカズマの上を飛び越えて数メートルも吹き飛んだ。
慌ててアスナ達が彼らに駆け寄る。
見ると、既にアルベリヒとショウマの姿はなく、残るはもう1人のローブの人物のみ。
そして、その者のフードも、先程の爆発の爆風の影響で揺れて、その内の顔が姿を現した。
それは、男だった。
男にしては長めの髪。どこか淡く染まったその髪は、右眼を隠すように伸びている。
その目は薄い紫色であり、年齢は大学生くらいだろうか。見たところ、かなり若そうに見える。
突き出された右手には、白い手袋が嵌められていた。
「…誰だ…?」
カズマにとっては、身に覚えのない人物。
…しかし。
《彼女》にとっては、
「…兄…さん…?」
謎の男から少し離れた場所。
カズマにとって対角線上にいた、見慣れたツインテールの少女…シャム。
彼女は呟くように、何処か噛み締めるようにもその単語を発した。
「兄さん…兄さん…だよね?」
シャムの、更なる問い。
男はそれに答えず、黙りこくったまま。
そして、シャムが更に質問を重ねようと口を開いたその時。
男は、左手をシャムに向かって突き出した。
その瞬間、黄色い球体が姿を現し、数秒後それは波動砲となってシャムに襲いかかった。
「特殊攻撃…!?」
カズマは遅れて足を動かそうとするが、間に合わないのは目に見えていた。
…だが、その攻撃は、シャムに当たることは無かった。
ズガァンッ!!
いつの間に移動したのか、コウヤがシャムの前に立ち塞がり、特殊攻撃を彼の盾で相殺する。
そして、次の瞬間。
「ハアアァァァァッ!!」
「…!?」
超高速移動をしたシュンヤが、男との距離を瞬時に詰め、納刀からの居合攻撃を放つ。
だが、気付かれるのが早く直撃には至らず、ローブを掠めるだけ。
男はまた右手に特殊攻撃を発動。
シュンヤにそれを撃ち込む。
…だが。
「…ッ!」
キリトがその間に割り込み、右手に顕現した光り輝く円盾でそれを防いだ。
片手直剣ソードスキル《スピニング・シールド》
シュンヤはキリトに「ありがとうございます」と礼を言いつつ、すぐさま男に視線を向けた。
そこには、懐かしむような、しかし悲しみに満ちた表情が隠れていた。
「…和幸…さん。」
「和幸…」
シュンヤとコウヤはそう呟いた。
やがて、和幸と呼ばれた男はゆっくりと踵を返す。
そして…
「………」
ヒュンッ
何も言わずに、その場を去ったのだった。
ーーーーーーーーーーーーー
残ったのは、僅かな戦闘の後と、驚愕、困惑、そして悲しみであった。
ーーアインクラッドでの戦いは、終わりに近づいているのである。
まあ作者自身後何話で終わるか分かってませんが。
お付き合いよろしくお願いします。