読んでてちょっとびっくりするかもしれませんが、是非お楽しみ頂けたら幸いです。
それでは、どうぞ。
第25話 来る刻に向けて。
''終わり''への前奏は、既に始まっている。
少年少女、あらゆる者達の思惑が交錯し、紡いできた、彼らしか知らない《物語》。
とある鋼鉄の城の中で紡がれたその物語は、微かな余韻を残しつつも…
確実に、''終幕''へと、近づいていたーー。
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西暦2025年、4月6日。
現実世界では、桜が咲くこの季節。
それは、VR空間である《アインクラッド》でも同じだった。
そして、そんな華やかな季節の中、第55層に一際荘厳に構える、巨大な石造りの建造物。
アインクラッド最大のギルド《血盟騎士団》のギルドホームである。
その中にある《いつもの会議室》には、見慣れたメンツが集まっていた。
「…それじゃ、
「だな。」
ギルド《血盟騎士団》団長、《閃光》アスナ。
ギルド《ビーターズ》リーダー、《黒の剣士》キリト。
「今唐突に思ったけど、《ビーターズ》ってセンスの欠けらも無いな。」
「本当に唐突だな。っていうか許可出したのお前だろ。」
「許可出しただけよ。考えたのリズ達だし、ウチはギルメン意見尊重派なんで。」
「はいはい。分かった分かった。」
ギルド《ビーターズ》サブリーダー、《死神》カズマ。
ギルド《ビーターズ》参謀、《烈風》シュンヤ。
「ボクは嫌いじゃないけどなー、ビーターズ。ねっ、姉ちゃん。」
「そうね。3人が受け入れられてるって感じがして、とてもいいと思いますよ。」
ギルド《スリーピング・ナイツ》リーダー、《絶剣》ユウキ。
ギルド《スリーピング・ナイツ》サブリーダー、《巧剣》ラン。
「それにしても、《
「まったくだ。それに今では、攻略組内でも多大な影響力を持ったギルドに成長したわけだしな。」
《血盟騎士団》副団長、《赤壁》シヴァタ。
《聖竜連合》団長、《竜壁》シュミット。
「まぁ、俺としちゃお前らの《ぼっち癖》が治ったみたいで一安心だけどな!良かったじゃねえか!!」
「うるせぇぞクライン。お前こそ、
「やめろよカズマ!広めんなよ!?」
「あはは…あまりクラインさんを虐めないでやってくれ、カズマさん。」
ギルド《風林火山》リーダー、《シングル・サムライ(笑)》クライン。
《聖竜連合》副団長、《竜矛》リンド。
この各ギルド首脳陣10人による、《最終ミーティング》が執り行われていた。
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「にしてもクライン。お前のとこのギルド、相変わらずサブリーダーいねえみたいだけど、大丈夫なのか?」
カズマの問いに、クラインは何処かキメ顔で答える。
「フッ…おいおいカズマ、滅多なこと言うんじゃねえよ。俺がパーフェクトにメンバーまとめてるから、必要ないだけだよ。」
「……………まあ、うん。ソウダナ。」
「ぅおい!なんだよ今の間!!」
「いや、『何言ってんだコイツ』って気持ちと『あぁ、そういやバカだった』っていう納得が…」
「はっきり言ってんじゃねえよ!?余計に傷つくわ!!」
クラインの涙混じりの絶叫が会議室に響く。
2人の周りには苦笑混じりの空気が流れる。
「もー、カズマ。クラインさんのことあんまり虐めちゃダメだよ?」
「へーい。」
「ユウキ…お前は俺の味方だよな!?俺間違ってないよな!?」
「…………………まあ、うん。ソウダネ。」
「さっきと同じ間!!!」
悲痛な叫びと共に、クラインは崩れ落ちた。
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パンパンッ
「はいはい、遊びはそこまでにして、早く会議始めようぜ。」
「せめて《冗談》と言ってぇ!!」
手拍子と共に響くキリトの言葉に、クラインが叫ぶ。
「…それじゃ、取り仕切りはいつも通り、アスナ頼む。」
「うん、分かった。」
「無視…」
「どんまいクライン。強く生きろ。メンバーをperfectにまとめてるリーダーさん?」
「だァーーッ!!的確に煽ってくるなよ!調子乗ってごめんなさいね!!」
「アッハッハッハッハッ!!」
「あー…2人共、始めていい?」
ごめんなさい。
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「さて、少し押しましたが、最後の《首脳陣ミーティング》を始めようと思います。」
アスナの掛け声にその場にいる全員が頷いた。
「やー、にしても俺達のギルドが参戦してから始まった、このミーティングももう25回目?なのかー。」
「なんか感慨深いよな。」
カズマの呟きに、キリトも呼応するように呟いた。
「この前も丁度《100回目》のボス攻略会議が終わったし…ようやくって、感じだな。」
「…さ。それじゃあ、始めましょうか。」
アスナの可憐な声が、会議室に響き渡った。
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現在、アインクラッドの攻略は既に、第99層まで完了している。
おおよそ一層攻略に1週間かかっていない、破格のペースだ。
何故ここまでハイペースに攻略が進んでいるかと言うと、その要因は複数ある。
まず一つは、全員のLvアップ。
第76層到達時、謎の不具合によって起きた《Lv一律上昇》現象。
これにより、レベル70以下であったプレイヤー全てのレベルが70付近にまで上昇した。
しかし、これはレベル70以下のプレイヤーだけに効果があったのかと言えば、そうでは無い。
レベル70以上…それこそ、攻略組のメンバー達にもその影響は及んだ。
おおよその数値ではあるが、平均15程の上昇が見られたようだ(アルゴ調べ)。
これにより、元々安全マージンを確保していた彼らには《レベル上げ》を行う必要がほとんど無くなったため、その分の時間を攻略に割くことが出来たのだ。
そしてもうひとつが、コウヤの加入。
これが、最も大きいと言われている。
彼のタンクとしての戦力は勿論、《情報通》としての存在は絶大なものがあった。
というのも、彼はフィールドボスやフロアボス、その
これには、さすがのアルゴも「オレっちのメンツ丸つぶれだな…」とボヤいていた。
どうやら、アーガスから退却する際に、何かあった時の為にとデータを取っていたらしい。
これによってボスの攻略のヒントをとるためのクエストを受ける必要が無くなったため、攻略のペースが上がったのだ。
少しばかりずるい気もしなくないが、カズマ曰く、
「今は非常事態なんだから、んなもんいちいち気にしてらんねーよ。」
だそうだ。
…そんなこんなで、攻略組は破竹の勢いで残りの攻略を進め…
残るは、
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「キリト君。」
ミーティングも終わり、会議室から出たキリトにアスナが声をかける。
「アスナ、お疲れ様。」
「うん、お疲れ様。…この後は、エギルさんのお店に行くの?」
「ああ。ギルドミーティング終わったらすぐに帰るよ。…っていうか結局あの宿屋、ギルメンしか使ってないし、下のレストランも夜からだから、ウチのギルドホームみたいになってるな…」
「ふふっ。エギルさん、『収入が安定してるからありがてえこった』って言ってたよ?」
「うん、俺も言われた。」
キリトの言葉に、アスナはまた微笑みをうかべた。
…やがて、微笑みを維持したままアスナは呟く。
「…いよいよ、だね。」
「…ああ。」
アスナのその言葉に、キリトは右の掌を握り、力を込めた。
ギチリッと、僅かに音が鳴る。
「…あと、一層…。」
彼の言葉は、石造りのレンガに反響して、ゆっくりと消えていったーー。
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「…奴ら、とうとうここまで来やがったか。」
軽く弾んだ、楽しそうなショウマの声が、ロウソクに照らされた薄暗い空間に響く。
彼の周りには、2つの人影。
その中の1つ…ほんの少し青みがかった白い髪を持つ、男性プレイヤーが口を開く。
「…随分、楽しそうだね。」
「そりゃあそうさ。俺の中じゃ、長い間待ち望んだ《決戦》だ。今からワクワクが止まらねえよ。」
クククッと野戦的な笑みを浮かべながら、ショウマは呟く。
その様子に、オズはため息をついて、もう1つの人影に視線を移す。
そこに居たのは、堀の少し入った顔に長い茶髪の男性プレイヤー。
何処か大人しそうなそのプレイヤーは、覇気の無い目をロウソクの火に向けていた。
「…相変わらず、黙りか。」
「……」
オズの茶髪のプレイヤーに対する苦言に、しかし彼は何も言わない。
オズは、このプレイヤーの声を
何処で喋っているのかと問いたくなるほど、寡黙な男だった。
このプレイヤーについて知っている情報は、ショウマがスカウトした事と、あともう一つの情報のみという少なさ。
この状況で協力しろというのだから、それこそ無茶というものである。
「まあまあ。オズ、あまり心配すんなよ。そいつはプライベートはともかく、仕事は出来る男だ。仲良くしてやってくれよ。俺みたいにさ。」
ショウマのフォローするようなその発言に、しかしオズはため息をついた。
「…何度も言っているけど、お前らと僕は《協力関係》なだけで、決して《仲間》な訳じゃない。…所詮、《この計画》が終わるまでの関係だ。」
「はいはい、分かってますよ。ま、短い付き合いなんだから少しくらいは仲良くしようぜ。」
ショウマのいたずらっ子のようなその笑み。
それを見ながら、オズは少しだけ顔を顰めた。
それも当然。
彼の、先程の発言の何処にも
全てが取り繕い、その場しのぎ。
まるで他人を信用していないその発言に、オズはもう一度ため息をついた。
「さて、それじゃ…《最後の攻略戦》で誰がどの相手をするか決めようか。」
「…僕たちの役目は、《ビーター》の3人を攻略組から引き離す…だよね?」
「ああ。あの3人が抜けりゃ、そこまでの戦力は残ってねえ。これまでのボス戦の間にもかなり削れたからな。…俺は勿論、カズマの奴を殺る。」
ショウマはそう言って、邪悪な笑みを浮かべた。
好戦的な笑みに、オズは呆れたようにため息をついた。
「…それなら僕は…」
「私が、キリトを殺ろう。」
その声が響いた瞬間、オズは目を見開いてそちらを見た。
そこには、立ち上がる茶髪のプレイヤーの姿。
寡黙な彼が発した、低い声。
穏やかなその瞳には、しかし。
ゆらりと煌めく、強い意思が宿っていた。
「…本当にいいのか?」
「…ええ。彼には私が、《正義の鉄槌》を下してやりましょう…。」
「…それじゃ、頼むぜ。」
「元《聖竜連合》・《鋼壁の盾》ギレス団長。」
「…ええ。」
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ー第22層・カズマとユウキの自宅ー
「…んー…」
いつものフードコートを脱いだ青年、カズマはアインクラッドにて発行されている新聞を手に持ちながら、少しだけ唸り声を出す。
口をへの字に曲げた彼に、紫髪の少女が近づく。
「かーずまっ♪」
「おふっ…」
ユウキは背後からカズマに覆いかぶさり、そのまま首を優しくホールドして、スリスリと頬擦りを始める。
「んふふ〜♪」
「…なんだよ、どうかしたか?」
「べっつにー。カズマ成分補充してるだけ〜。」
「なんだそりゃ。」
カズマは苦笑しながらも、されるがままに抵抗もせずに身を任せる。
ユウキは「それなら遠慮なく」と言わんばかりになおもスリスリを続け…。
「…ね、カズマ。…何か悩み事?」
ピタリとその動きを止めて、彼女はカズマに問うた。
カズマはそれにすぐに動きは見せず…やがて「フッ」と微笑みを浮かべた。
「…やっぱ、バレてたか。」
「えへへ。カズマ、結構な時間ずーっと同じページ見てたからね。奥さんなら、それくらいの異変気づかなきゃ。」
そう言って満面の笑みを浮かべるユウキに、カズマは微笑みで答える。
「…ま、ちょっとな。…けど、お前が心配するような事じゃないよ。」
「そうなの?相談事あるなら、聞くよー?」
「いや、本当に大丈夫。気持ちだけ受け取っとくよ。」
カズマはそう言って笑いかけた。
だが、ユウキは納得したような表情は見せず、「むー」っと口をへの字に曲げている。
そして…
「ね、カズマ。明日、少し出かけようよ!」
「え、明日?」
「そ、明日!《ビーターズ》も明日は休みでしょ?《スリーピング・ナイツ》も休みだからさ!」
「は?お前明日は攻略って…」
「大丈夫!
「おいコラ。」
「それに今団員全員からのOKメッセ貰ったし!!」
ピロンピロンピロンピロン。
「おい、メッセ届きまくってんぞ。絶対ランからのお叱りのメッセだろ。」
「ええーい!うるさーい!!いいから明日はみんなで出かけるの!いい!?」
「駄々っ子かよ!?」
ユウキの一連の行動にツッコミ終わったカズマは、やがて大きくため息をついた。
そして…
「…カズマ…駄目…?」
「…ああ、もう。分かったよ。俺も、息抜きしたかったしな。」
カズマは根負けしたように、そう答える。
その返答に、ユウキはまたも満面の笑みで喜んだ。
…そして、それを見守る一人の少女。
「あーあ。相変わらず仲のいい夫婦だこと。ま、私は適当にプラプラしーとこっと。」
「何言ってんだよメル。お前も来るんだよ。」
「…へ?」
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ー第22層・キリトとアスナの家ー
「クリアまでもう少しですね、パパ、ママ!」
「そうだな。これも、色々アドバイスしてくれたユイのおかげだな。」
「いいえ、アドバイスというのは実践してくれる人がいなければ意味がありません。ですから、パパやママ、それにカズマおじさん達攻略組皆さんのおかげです!」
ふんすと、ユイが言い切った言葉にキリトは微笑みを浮かべて、彼女の頭を撫でる。
「…たしかにな。でも、本当にありがとうな、ユイ。色んな所で助けてくれて。」
「うん、ユイちゃんのおかげで助かった層もいっぱいあったの。それは確かよ。」
「えへへ…パパとママのお役に立てたなら良かったです。」
満面の笑みを浮かべるユイに、その頭を撫でるキリト。
それは、傍から見ればいつもの微笑ましい光景。
…だが、アスナは気付いていた。
頭を撫でるキリトの顔に、少しだけ憂いがあることを。
あれは、彼に悩みがある時の表情。
「ね、キリト君。明日、ギルドお休みだよね?」
「え?あ、ああ。そうだな。」
「それなら、3人で出かけない?私も明日は休みだから。…この世界で、3人で最後のお出かけ。ね?」
「アスナ…」
アスナのその提案に、キリトは少しだけ間を置いた。
すぐに答えられない。
…だが、彼が答える前にーー
「わぁっ、3人でお出かけですか!?行きたい!行きたいです!!」
ユイの無邪気な、はしゃぐような声が響いた。
その声が響いた瞬間に、キリトの答えは自ずと決まってしまう。
「…それじゃ、朝からでいいかな?」
「うん。」
「わーい!何着ていこうかな〜!!」
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ー第76層・エギルの店ー
コンコンッ
「はい。」
「シャム、ちょっといいか?」
シャムはその声で、扉の奥の人物の存在を認識して、「ちょっと待ってください」とドアに駆け寄った。
開いたドアから見える、茶髪の青年、シュンヤ。
彼はシャムに促されると、入室してドアを閉める。
「好きなところに座ってください。今、お茶入れますね。」
「ああ、ありがとう。」
そう言って奥に行くシャムを後目に、シュンヤはソファでなく、ベッドに腰かけた。
ギシリと脚の軋む音がする。
やがて、シャムがお盆を持って戻ってくる。
「…クスッ…シュンヤさん、最近私のベッドお気に入りですよね。」
「…だってこの部屋、1人用のソファしかないから…」
グイッ
「…こうしないと、並んで座れないだろ。」
「…ですね。」
シュンヤはシャムを横に座らせて、肩を抱いた。
シャムは体重を預けるように、彼の肩に側頭部をもたれかけさせる。
サラリと、シャムの髪が流れる。
「…もう、ここまで来ちゃったんですね。」
「…そうだな。…あんなに遠かったゲームクリア。今や、目と鼻の先だ。」
「…」
シュンヤの言葉に、しかしシャムは何も言わずただ少し、不安そうな顔をする。
シュンヤはその原因に瞬時に気づいた。
「…心配か?和幸さんのこと…」
シュンヤの問に、彼女は無言で頷く。
「…私、分からないんです。兄さんの気持ちが。…あんなに真面目だった人が、なんでこんな事をしているのか…。」
「…」
「…何か理由があるなら、知りたいって…そう、思います。」
少し落ち込んだような、シャムの声。
シュンヤはそれに、どう答えるか思考をめぐらせる。
何か、気の利いた言葉を…
『俺らは、俺らが出来ることで支えたらいいんじゃねえかな。』
その瞬間、蘇るキリトの言葉。
それによって、彼の思考はすぐに切り替わる。
『…俺の、出来ること…』
「…シャム。」
「…?」
「…明日、2人で出かけないか?」
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その刻に備え、剣士達は安らぎの時間を過ごす。
ーー例え、
如何だったでしょうか。
正直、「100層までの道のりを飛ばし飛ばし書いてから決戦にしようかなぁ」とかも考えてたのですけど、それだと何処か間延びしそうというか、無駄に長くなりそうな気がしたので、一気に飛ばさせて頂きました。
無駄な長さを面白くする程、僕は文章書くの上手くないですし(笑)
そんなわけで、もうすぐでこのアインクラッドの戦いも最終決戦。
是非、《ビーター》3人の最後を見届けてくれたらと思います。
それでは、次回もお楽しみに!!
執筆なるべく早くします!(すんません!)