ソードアートオンライン 〜鋼鉄の記憶〜   作:誠家

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「…カズマ、どう思う?」

「どう考えても誘われてんだろ。」


第一層・地下迷宮を突破した後。

キリト達攻略組のメンバーは、《第0層》へと続くであろう場所で立ち止まっていた。

そこには、誘い出すかのように、4つの分かれ道が用意されていた。

そして…

「…入れるプレイヤーが、制限されてるのか?」

シュンヤの問いに、カズマは肯定の意味を込めて首を縦に振った。

ーーーーーーーーーーー

それは、分かりやすいものであった。

まず、右手の2本の道。

ここにはそれぞれ、キリトとカズマのみが入れる道。

そして左から2番目の道にはシュンヤ、シャム、コウヤのみが入れるようになっていた。

そして、最後の道にはそれ以外のプレイヤーが入れるというものだった。


ーーーーーーーーーーー


「明らかに、俺たちとカズマ達を引き離そうとしてるよな。」

「ど、どうしましょう。」

ジュンとタルケンの言葉に、カズマはため息混じりに答える。

「どうするも何も、行くしかないだろ。」

「…カズマ、大丈夫?」

心配するようなユウキの声。

それにカズマは頭を撫でながら答える。

「大丈夫だ。正直、こうなることは予測してたしな。…まぁ、兄貴の相手が誰なのかは分からんが。」

「…まぁ、なるようになるだろ。…それに、皆だって俺ら抜きでも平気だろ?」

キリトの笑い混じりの問いに、攻略組メンバー達が逞しい返事で返す。

「へっ、当たりめぇだろ!」

「攻略組がお前らだけじゃねえってこと、ちゃんと教えてやるよ!」

クラインとエギルの頼もしい返答。
それに、キリトは一層笑みを深くした。

「よしっ、それじゃここからは各自別れて行動しましょう。攻略責任者の俺が離れるのは心苦しいですが…アスナさん。臨時の代行、お願い出来ますか?」

「分かった、任せておいて。」


「皆さん!ここから先はかなりの強敵と対戦し、苦戦することが予測できます!ですが、皆さん本来の力を発揮出来れば必ず勝つことが出来るはずです!!」


「生きて、また会いましょう!!」


「「「おうッ!!」」」





第28話 vsギレス

《第0層》の構造は、逆ピラミッド型の五階層仕立てとなっている。

 

 

当然その形状故に、下層に降りる毎に個々の階層の広さは狭くなっていき、最下層は最上層の2分の1ほどの広さとなる。

 

そして、現在。

 

第五階を除いた4つで、それぞれの《ボス》と攻略組プレイヤーが対峙していた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

ー1階・棺桶の間ー

 

 

 

 

1階から地続きのフロア。

 

そこで、かつては苦楽を共にした《親友》の2人が静かに対峙する。

 

カズマがこの部屋に辿り着いて、さほど時間は経っていない。

 

ただ一合剣を交えた後、数秒の静寂の中、唐突にショウマが口を開いた。

 

 

「…急がなくて良いのか?カズマ。」

 

「…どういう意味だ。」

 

 

正直、あまりショウマと話す気がなかったカズマ。

 

だが、彼の問いはそんな事よりも気になるものだった。

 

ショウマはどこか楽しそうに、ウキウキとした口調で話す。

 

 

「いや〜♪お前の兄貴…確か、キリト…だったっけ?アイツの手助けに行かなくて良いのかな〜って、思ってさ。」

 

「あぁ…?」

 

「だってその人が相手してんの…」

 

 

 

「俺らの中で、最強の男だぜ?」

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

ー3階・竜騎の間ー

 

 

 

 

「…ギレスさん、あんた…生きてたのか。」

 

キリトの問いに、彼と対峙するフルプレートアーマーの男性プレイヤーは、「やれやれ」と言わんばかりに首を振った。

 

「それよりもまずは、久しぶりにあった攻略組の同士に、激励をするのが常識でないですかな?」

 

「死んだと思ってたら、本当は相手に寝返ってた奴にかけてやる激励なんて、俺の中には無いよ。…ギレスさん、あんた本当に何してんだ。」

 

キリトの目には、鋭い眼光が宿る。

射抜くようなその目に、しかしギレスは飄々と答えた。

 

「何って、ただの移(・)籍(・)行(・)為(・)ですよ。他のプレイヤーの皆さんもしていることでしょう?」

 

「…あんた、そちら側がどういう集団か、分かってて言ってんのか?」

 

まるで悪びれもせず答えるギレスに、少しだけ苛立ちを込めたキリトの声が響く。

 

だが、それにもギレスは何の気なしに答えた。

 

「ええ、勿論。元々私は、あのように支(・)配(・)さ(・)れ(・)、(・)弾(・)圧(・)さ(・)れ(・)る(・)ような立場は性分に合いません。今のように数多のプレイヤーを支配する立場こそ…」

 

 

 

「…分かった。もういいよ。」

 

「それが分かってるならつまり、あんたは俺達の《敵》ってことだ。…それだけ分かれば、後はなんだっていい。」

 

 

 

しびれを切らしたように、キリトは背に吊った剣の柄を握る。

 

そしてそのまま、一息に刀身を抜いた。

 

それだけで辺りに旋風が巻き起こり、ギレスの前髪を揺らす。

 

片方は紅く、もう一方はモノクロの螺旋模様。

 

リズベット(鍛冶屋)の想いが詰まった、《リメインズ・ハート》と《スパイラル・エリュシオン》の二刀。

 

その両方が、リズベットの手入れにより濡れたように光沢を含む。

 

その剣達を見て、ギレスは恍惚とした表情を浮かべた。

 

「…美しい…。」

 

そう言うと、ギレスはウィンドウを操作する。

その瞬間に彼の顔は兜で覆われ、左手には彼の背丈程もある巨大な盾が携えられていた。

 

そして、ギレスは更に腰の鞘から直剣を抜き出す。

 

その直剣は、キリトの二本のそれとは違い簡素な作りながらも、同等の光沢と存在感を放つ。

 

白銀に光り輝く盾と剣、そして鎧を身に纏った彼は、正しく《聖騎士》と言わんばかりの装いであった。

 

…だが。

 

 

「………」

 

 

そんな事は意に介さず、キリトは戦闘態勢をとる。

右手を後ろに下げ、左手を前に出す彼のオーソドックス・スタイル。

 

ギレスも左手の巨大な盾を前に出し、右手の剣を下げた。

 

 

 

…ジリッ…ジリッ…ジリッ……

 

 

 

両者共に、慎重に間合いを測る。

 

互いの息遣いのみが耳に響く。

 

そして…ーー。

 

 

 

 

 

 

「……ッ!!!」

 

 

 

キリトが、動く。

 

 

全力の跳躍と共に、ギレスの持つ盾に斬りかかった。

 

 

ガキュイイィィィィンッ!!

 

 

一撃。

交わるだけで凄まじい金属音が響く。

巻き起こる風がコートの裾を揺らした。

 

 

ほんの一瞬。

 

巨大な盾と螺旋模様の剣は拮抗する。

凄まじい力が接触点に集中し、ギリギリッと音を立てる。

 

そして…

 

 

「ヌゥンッ…!!」

 

 

ギレスがキリトのエリュシオンを押し返し、盾と剣の間に距離ができる。

 

その瞬間、キリトは流れるようなバックステップで更に距離をとった。

 

…だが。

 

 

「……ッ!」

 

ギレスはあろうことか、自分で走り出し、キリトとの距離を詰めてくる。

 

これにはさしものキリトも不意を突かれ、反応が遅れてしまった。

 

『この戦法は…』

 

キリトの脳裏に過ぎる1人のプレイヤー。

 

だが、すぐにそれをかき消し、目の前の迫り来る敵に意識を向けた。

 

ギレスが3歩先程の場所に到達した瞬間、キリトは自身の右側に身体を動かす。

 

 

 

こうすることで、巨大な盾を持つギレスにとってはキリトの姿が盾に隠れ死角となり、不意をつきやすくなる。

 

タンク(盾戦士)に対して、最も効果的な攻め方なのだ。

 

 

 

キリトはギレスにとって《死角》となる場所に潜り込んだ後、カウンターを繰り出すために、すぐさま右手の剣を握り直した。

 

 

ーーその瞬間。

 

 

 

「グォッ…!!?」

 

凄まじい衝撃がキリトの体に走る。

 

その衝撃は、キリトの胸から腹部にかけてを起点としており、彼はその理由を遅まきながら理解する。

 

 

『盾…!?』

 

 

そう、ギレスの持つ巨大な盾がキリトの体に叩き込まれたのだ。

 

 

その攻撃はかつて、攻略組を席巻していた、キリトが唯一敗北した男と同じスキル。

 

エクストラスキル《神聖剣》。

 

 

ギレスの背丈程もある巨大な盾はその推進力を生かして、凄まじい威力を放ち、キリトの体を大きく吹き飛ばした。

 

様々な疑問はある。

 

だが、今はそんな事を気にしている余裕はない。

全ての疑念を振り払い、キリトは敵を見据えた。

 

吹き飛ばされたキリトはしかし、すぐに体勢を立て直す。

ブーツの底で吹き飛ぶ体に急停止をかけ、すぐさま反撃に転じた。

 

足を踏み抜き、凄まじい速度で彼の体は発射される。

 

「…ッ!」

 

走りながらキリトは、両手の二刀の刀身を緑色の光に染めた。

 

「セアアアァァァッ!!」

 

右手と左手。

交互に繰り出される、二撃の斬り上げと斬り下ろし。

 

二刀流重攻撃技《ダブル・サーキュラー》

 

凄まじい威力の攻撃に、思わずギレスも後退する。

 

二撃目を振り切り、確かな手応えを感じながら、キリトは立ち上がった。

 

 

「…流石に、硬いな。」

 

 

頬をコートの袖で拭いながら、キリトは呟く。

 

ギレスは《受け》の姿勢のまま立ち尽くし、そのまま顔を上げる。

高威力の二刀流ソードスキルを受けてもなお、彼の顔には余裕がある。

 

それもそのはず。

キリトの技は、完全に受(・)け(・)き(・)ら(・)れ(・)た(・)のだから。

 

 

「…流石、と言うべきですかね。余(・)波(・)だけでここまで押し込まれたのは、初めてです。」

 

 

 

「流石は、プ(・)レ(・)イ(・)ヤ(・)ー(・)を(・)出(・)し(・)抜(・)い(・)た(・)、(・)卑(・)劣(・)な(・)ビ(・)ー(・)タ(・)ー(・)様(・)だ。」

 

 

 

ギレスの呟いた皮肉とも取れる言葉に、キリトは顔色ひとつ変えずに返す。

 

「…あんたの《ビーター嫌い》も、相変わらずだな…。攻略組時代からだったけど…俺達の何がそんなに憎いんだ。」

 

「…今ここで話して、何か意味があるのかは分かりませんが…いいでしょう。…少し、昔話をしましょうか。」

 

「……」

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

ギレス。

本名を、茜木(あかねぎ) 藤四郎(とうしろう)。

 

彼は幼少期から《神童》と呼ばれ、成績優秀運動抜群として、地元で知らぬものはいないほど。

 

少年期に何となく始めた剣道でも全国制覇を成し遂げ、いつしか彼は《頂点》にいることが彼にとっての《義務》であると、信じてやまないようになっていた。

 

そして、あの日。

 

デスゲームに囚われたあの日も、彼は行動を共にしていた現実世界からの仲間を鼓舞し、《はじまりの街》を出てパーティーを作った。

 

ただパーティーリーダーに、まだVR世界に不慣れであった自分の代わりに、ベータテスターであった親友(ディアベル)を立てて。

 

…しかし。

 

彼(ディアベル)は裏切った。

 

「抜け駆けはなし」と決めた中、彼はLA(ラスト・アタック)ボーナスの事を彼に言わず、それを狙い、そしてその命を散らした。

 

その事への怒りは、彼らの仲間であるリンドが作ったギルドに入っても収まることはなかった。

 

そしてその怒りは、毎層毎層、素知らぬ顔で先頭に立ち、LAボーナスを奪取していく3人のビーターにも降りかかった。

 

更に、「ビーターには負けてもしょうがない」とのたまい、《No.2ギルド》という称号に満足していたギルドメンバー達にも…。

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

「ビーターには出し抜かれ、ギルドメンバー、果てには友にまで裏切られた!こんな腐った世界なんて、私が上に立ち作り直してやる!!だから私は、ゲームマスターの方についたそれだけです!!」

 

ギレスは大声で叫ぶ。

 

「私はゲームマスターの権限で《神聖剣》を取得し、ステータスも大幅に上昇した。言わば今の私は、あの《生ける伝説》ヒースクリフをも超えたということ!!」

 

 

 

「これこそ本当の《私の力》なのです!!」

 

 

 

高らかに叫び、哄笑するギレス。

今やその様子に《聖騎士》といった風体はなく、まさにそれは《狂戦士》という言葉こそ似合うものであった。

 

そして、その様子にキリトは…

 

 

 

「くだらねぇ。」

 

 

 

そう、吐き捨てた。

 

上を向き、哄笑していたギレスは奇怪な首の角度のままキリトに視線を向けた。

 

 

「…何だって?」

 

 

不気味なそのギレスの姿に、キリトは…

 

 

「くだらないって、そう言ったんだ。」

 

 

もう一度、そう吐き捨てた。

 

ピクリッと、ギレスの眉が動く。

 

だが、彼が何かを言う前に、キリトがすぐに口を開いた。

 

 

「裏切られて、挫折して、それを他人に逆恨みして。結局最後に辿り着いたのが《システムによるチート》?くだらないことこの上ないな。」

 

「あんたは間違いなく、俺達ベータテスターよりも卑劣だよ。」

 

 

 

「黙れぇ!!」

 

 

キリトの言葉に、ギレスの叫びが追って重なる。キリトは、初めて彼の表情が崩れるのを見た。

 

 

「お前に、何がわかる!ベータテスターというハンデのおかげで攻略組での地位を難なく確立したお前のようなガキに、私の何が…!!」

 

 

そう言って、ギレスは剣と盾を構え直す。

 

構えは先程とほとんど変わらないにしても、その表情と腰を落とした構えによって、凄まじい威圧感が産まれていた。

 

「……」

 

だが、キリトは気圧されることなく、スッと目を細めて集中する。

 

先程と同様に腰を落とし、左手を前に、右手を後ろに下げた。

 

 

 

『…決める。』

 

 

両者のそんな決意が滲み出る。

 

 

…そして。

 

 

 

 

 

 

両者は、同時に動いた。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

ー1階・棺桶の間ー

 

 

 

数刻前

 

 

「いかねぇよ。手助けになんか。」

 

「…へぇー?天下の《死神》様は随分とドライなんだねぇ。肉親が苦戦しているのにスルーだなんて。」

 

からかう様な、煽るようなショウマの笑い混じりの言葉。

挑発とも取れる言葉に、カズマは…。

 

 

穏やかな笑みを浮かべた。

 

 

「…勘違いすんなよ。俺が行かねえのは見捨てるからじゃねえ。行(・)く(・)必(・)要(・)が(・)な(・)い(・)からだ。」

 

「あぁ?」

 

「《お前らの中で最強》って言ったか?…上等だ。」

 

 

 

 

 

 

「ウチの兄貴だって、伊達に《攻略組最強》名乗ってねぇってことだよ。」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

あの日。

 

ヒースクリフに負けたあの日から、キリトは考えていた。

 

負けた理由などでは無い。

 

彼(ヒースクリフ)のソードスキル《神聖剣》。

 

確かにあのスキルは攻守に万能、最強クラスのユニークスキルだろう。

 

 

だが、決して無敵ではない。

 

 

そう。

 

彼は見つけていた。

 

最強スキル《神聖剣》の、たった一つの弱(・)点(・)を…。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

「…ォォォォオオオオッ!!」

 

 

咆哮とも言える気合いと共に、キリトは二刀を振り下ろす。

 

凄まじい連撃。

傍から見れば、軌跡しか見えぬかもしれない速度の剣戟を、しかしギレスは全て弾いていく。

 

 

 

彼の盾は、ヒースクリフのような十字盾では無い。

彼の盾は全ての斬撃を確実に弾く為に、自身の体全てを覆い隠せる巨大な、四角形の盾だ。

これにより、正面の攻撃はほぼ確実に迎撃することが出来る。

更にはその重さゆえに、かつてのヒースクリフのように盾が弾き飛ばされることも無い。

 

そして、側面から攻撃されても抜かりはない。

この世界で最高の強度を誇る素材で作られた鎧に纏われた体は、あらゆる攻撃を吸収する。

 

正しく、最硬。

 

ギレス自身、その硬さには絶対の自信があったのだ。

 

 

 

 

しばらくして、盾に降り注ぐ衝撃が止まる。

 

確認すると、間違いなくキリトはその手を止めていた。

 

それを見た瞬間、ギレスは盾の側面からキリトに向かって剣を突き出した。

 

一撃目がキリトのコートを掠り、更なる連撃。

 

さらに数発、掠りはするが、大きなダメージとはならない。

 

「チィ…ッ!!」

 

バックステップで距離を取られ、手を出せない距離に移動されたギレスは、もどかしそうに歯ぎしりをすると、一気にダッシュを開始した。

 

巨大な盾をものともせず、赤色の床を駆け抜ける。

 

このスキル…《神聖剣》の1番の長所はやはり、《二刀流》と同じように剣と盾に攻撃判定があること。

これにより攻守の隙を無くせるのだ。

 

『ならば…それを利用しない手はない!』

 

ギレスはキリトとの距離を詰めていく。

 

 

 

ーーそして。

 

 

ほんの数歩歩けばいいだけの距離で、キリトは先(・)程(・)と(・)全(・)く(・)同(・)じ(・)ように、盾の影に自身の体を隠す。

 

キリトの一辺倒な対策に、ギレスは勝利を確信する。

このまま先程のように吹き飛ばし、その隙に距離を詰め、HPをも吹き飛ばす。

 

確かな《ビジョン》が、ギレスの脳内で創造されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…え…?」

 

 

 

盾を振り抜いた場所。

 

そこに、キリトの姿はなく。

 

盾は虚しく虚空を駆ける。

 

 

『…どこに…』

 

…ズッ。

 

 

思考しきる、直前。

 

彼の左腕がず(・)り(・)落(・)ち(・)た(・)。

 

 

まるで斬られたかのように。

 

手首の先から、突然。

 

 

ーー影が落ちる。

 

ギレスの体を覆うように。

 

人(・)一(・)人(・)分(・)の、濃密な影がーー。

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

キリトは理解していた。

 

神聖剣の決定的な長所。

それは、剣ではなく《盾》にあると。

 

攻守を両方こなす物があるからこそ、プレイヤーには迷いが産まれ、主導権が握られる。

 

…だが、盾が失われれば?

 

ただの守ることの出来ない、不慣れな片手剣士の出来上がりだ。

 

 

 

 

『…ギレスの盾は、確かに硬い。しかも守護範囲も広いから、そう簡単に不意打ちは出来ない。俺はカズマみたいなSTRもないから、蹴り飛ばすことも出来ないだろうな。』

 

『…けどその分、弱点もある。』

 

『形が四角い分、使用者の視界は限られるし、しかも重い分だけ《速度》はともかく《瞬発力》は遅くなる。』

 

『戦闘中、限りなく狭くなる視野の中で、盾に遮られてしまえば、上を警戒することは…ほぼ不可能だ。』

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

盾を失い、右手に剣だけを持ったギレス。

 

最早何1つのリーチも持たないギレス(ボスプレイヤー)に、キリト(攻略組最強)が襲いかかる。

 

 

「…フッ!」

 

 

まずキリトは、着地直後。

固まるギレスのうなじに、大威力の回し蹴りを打ち込んだ。

 

これにより、ギレスの体は低スタン状態に陥る。

 

そして、固まるギレスの背後で、キリトは止まらない。

 

 

すぐさま左右の両刀を、青い光に染めた。

 

 

その光を見た瞬間、ギレスは自身の仮想の体温が一気に下がっていくのを感じた。

 

背中に一瞬、冷たいものが走る。

 

 

『いや!俺の体は最高級のフルプレートアーマーで守られている…!無効化は出来なくとも、ダメージの軽減は…!』

 

 

彼の頭に過ぎる、一縷の希望。

 

…だが。

 

 

 

「スターバースト…」

 

 

 

 

「ストリーム…!!」

 

 

 

 

…その希望は、すぐに消し飛んだ。

 

 

一撃目。

 

それが直撃した瞬間、凄まじい衝撃が走る。

 

そして。

 

彼へのダメージは、全くと言っていいほど軽減されていなかった。

 

二度目の、悪寒が走る。

 

 

『馬鹿なッ…何故…!?』

 

 

何とか動く首だけ動かし、ギレスは《それ》に気付く。

 

キリトの二刀。

 

凄まじい威力を内包したその連撃は…

 

 

その全てが、肉(・)体(・)の(・)関(・)節(・)部(・)分(・)へと正確に叩き込まれていた。

 

 

鎧とは元来、戦闘で体を動かしやすくするために、関節部分は金属で纏わせないというのは周知。

 

それは、このVR世界でも同じ。

 

関節部分には、鎧の効果は発生しない。

 

 

「ガッ…ハッ…!」

 

 

何度も走る衝撃。

 

受けているギレスには、分かる。

 

その全てが、彼の関節(ノーガード)部分へと正確無比叩き込まれていることを。

 

 

「馬…ッ…鹿…な…」

 

 

ギレスは、理解する。

 

彼は…キリトは、自身の何段階も上の存在であることを。

 

剣技も、戦術も、そして…精神面でも。

 

 

『…これが…《敗北》…か…』

 

「ゼアアアァァァァッ!!」

 

ドズッ!

 

 

…最後の一撃。

 

 

キリトの剣(リメインズ・ハート)による、極大威力の突きがギレスの体を貫いた、その瞬間。

 

 

 

彼のHPバーは、呆気なく四散したーー。

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

「…俺の勝ちだ、ギレス。」

 

「…ッ…ハッ…私に…勝ったから…なんです…?この先には、ゲーム…マスター…が、いるん…ですよ…?あなた方に…勝ち目は…」

 

「勝ってみせる。…いや、勝てるさ。仲間と一緒ならな。」

 

「…その、仲間も…今は…最強のボスと…戦って、いるでしょう…。ビーターの、抜けた…攻略組に…倒せる…相手、では…」

 

「勝てるさ。」

 

 

 

「俺は、仲間を信じてる。」

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

夢を、見た。

 

 

遠い過去の夢。

 

 

彼の目の前には、軽装に身を包んだ青い髪の一つ結びの男性プレイヤー。

 

パーティーメンバーや、先日組んだボス攻略メンバーと酒を飲みかわしていた。

 

彼とは、現実でも知り合いであるが、あのコミュニケーション能力の高さはひとえに素晴らしいと思う。

 

青い髪の彼が、口を開く。

 

 

 

『俺達は明日、必ず勝つ。勝って、皆に教えてやるんだ。「このゲームは、クリア出来るぞ」ってさ。そしてその為には、誰かがこの後も攻略組を引っ張って行かなきゃならない。』

 

『俺は明日必ず活躍して、名実ともに「ボス攻略の第一人者」になると、ここに誓う!』

 

 

 

その高らかな宣言に、周りのプレイヤー達は歓喜し、叫ぶ。

 

その様子を見て、ギレスも右拳を突き上げたーー。

 

 

 

…彼には、分かっていた。

 

青髪のプレイヤーが、友人を差し置いて《出し抜く》などというマネをするわけが無いことを。

 

ただ彼は…ディアベルは、攻略組を引っ張って行くために…《最強》という、最も重要なメンツのために。

 

あの時、1人で飛び出すしか無かったのだ。

 

 

そうしなければ、《ボス攻略の第一人者》が誰かに取られると、自覚していたから。

 

そして何より。

 

彼は自身の欲望に、他人を巻き込むのは嫌う人間だったから。

 

 

…ギレスこそ、人の事は言えない。

 

彼こそ、時が来ればディアベルを出し抜き、自身のものとしようとしていたのだから。

 

攻略組も、ギルドも。

 

 

彼が…ディアベルが、その事に気付いていたのかは分からない。

 

 

だが、分かっていた。

こんなのはただの《逆恨み》なことくらい。

 

 

ただ、そうしないと彼は、押し潰されそうだった。

 

トップを取れない、自身の不甲斐なさとプレッシャーに。

 

そして…友を見殺しにした、罪悪感に。

 

 

 

 

 

「…クソッ…タレ…」

 

 

 

ギレスは、無性に彼(ディアベル)に、頭を下げたくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…静寂の中。

 

ギレスはゆっくりと、その身を無数の光へと変えたーー。





ーーギレス。
正直俺は、友や仲間に裏切られたあんたの気持ちはほとんど分からない。
俺は現実世界でも1人だったし、この世界でも1人で戦わなくなったのは本当につい最近だから。そんなこと、経験することが無かった。

ただ俺は、あんたよりも強い奴を知ってる。
《親友》に裏切られて、挫折しても、どんなに辛いことがあっても前を向き続けてた奴を、俺は知ってる。

だから、そんな理由で堕ちたあんたを俺は絶対に受け入れられない。許容できない。

俺とあんたは、絶対に相容れないんだ。ーー

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