ソードアートオンライン 〜鋼鉄の記憶〜   作:誠家

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冨樫義博先生が描き始めたということで、僕もということで。(僕の場合はヘタクソが話がまとまらなかっただけです。)


第35話 唯一無二の…。

 

「ウワアアァァァッ!!」

 

 

響く悲鳴。

 

体の胴に大きな傷跡がついたそのプレイヤーは、不自然に硬直したあと…

 

 

パリイィィンッ!

 

 

破砕音とポリゴンを残して、アインクラッドの世界から姿を消した。

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

攻略組最初の犠牲者は、血盟騎士団のディーラー部隊から出た。

 

少し欲目が出たのか、連撃系のソードスキルを相手の短いディレイの時に撃ち込み、そのまま撤退に遅れてしまった。

 

さらにボスモンスターの技が、運悪く速攻攻撃だったことによりタンク隊のカバーも、ほかのメンバーによる救助もなされないまま、ボスモンスターの攻撃の餌食となったのだ。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

「…HPイエローに突入!攻撃パターン変化注意!!」

 

 

アスナが叫ぶと、それにタンク隊のリーダーであるシュミットが「おう!」と呼応した。

 

先程まで呼応していた者達よりも少ないのは、犠牲者が出たことによる動揺が少なからず広がっているからだ。

 

たとえ何度経験しようと、《仲間の死》なんてものは慣れることなど出来ない。

 

…それは、アスナも同様だった。

 

 

 

「…ッ…!!」

 

 

 

だからこそ彼女は、前を向く。

 

今この場に、後悔する暇なんてものは無い。

感傷に浸るなど、以ての外。

 

さらなる犠牲者を出さない為にも、アスナは明晰なその頭脳を回し続ける。

 

 

「リンドさん、状況は?!」

 

「ウチの団員は怪我人は多数いるが、死者はゼロだ!ただ、回復のためにもう少し時間が欲しい!!」

 

「シュミットさん、シヴァタ副団長!タンク隊はまだ大丈夫!?」

 

「ああ!まだ余裕はある!」

 

「ただ攻撃力と凶暴性が上がってるから、どこまで行けるかの確証はない!」

 

 

リンドとシュミットとシヴァタの声。

つまり今現在急務となるのは、聖竜連合が抜けているところの穴埋め。

 

だが、血盟騎士団のメンバーは動揺がまだ晴れきってはいない…

 

 

「アスナ。」

 

 

悩むアスナに、後ろから声がかけられる。

そこには、鮮やかなピンクに染った髪を持つ、親友の姿。

 

その後ろには、今や彼女と同じギルドメンバーの面々が並ぶ。

 

 

「もう十分休憩も貰ったし、さっきの陽動で失ったHPも回復したわ。次は、また私達が支える番よ。」

 

 

「大丈夫?」と一瞬聞きそうになった口を、アスナは途中で閉じた。

今この場では、大切な親友達だろうと全員が等しい戦力だ。

 

アスナは彼女の目を見据えると、ゆっくりと頷いた。

 

 

「…分かった。」

 

 

そもそも、今この場にいることが《覚悟》してきているという証明だ。

そのような相手にそんなことを聞くのは無粋に他ならない。

 

 

「シュミットさん、シヴァタ副団長!次の攻撃を受けたら技後硬直を狙ってビーターズが前に出ます!半数は彼らのサポートに回ってください!!」

 

「分かった!今俺の後ろにいるヤツらを持ってけ!!シヴァタ、指揮は頼んだ!」

 

「ああ!」

 

「その間、ボーダーラインがシュミットさんの部隊に固定になりますが…!」

 

「へっ、舐めてもらっちゃ困るぜ、アスナさんよ…」

 

 

 

「これくらいの攻撃防げなきゃ、今も1人で戦ってるキリト達に、メンツが立たねえってもんさ!!」

 

 

 

「団長。」

 

「…シヴァタ副団長。」

 

「あいつとあいつの部下なら大丈夫です。まだ士気も、洞察力も落ちてません。」

 

「…あなたが言うなら、間違いないわね。」

 

 

それは、シュミットが攻略組に参入した時から双璧を成してきたシヴァタ()だからこそ、信用出来る言葉だった。

 

 

「副団長、あなた方もいけるかしら?」

 

「ええ。本当の《最硬》の部隊はどちらか、見せてやる所存です!」

 

「リーテンさんや他のみんなも…」

 

「いけます!私達が最強ギルドのタンク隊ってこと、証明してみせますよ!」

 

 

 

シヴァタとリーテンの力強い言葉に、その後ろにいた部下達も同調して声を上げる。

無理をしているような様はなく、アスナは頷いた。

 

 

「はっ…言ってろ…!」

 

 

シュミットは彼らの言葉に、思わず笑みを浮かべた。

 

 

「リズ。シヴァタさん達にはビーターズのサポートに回ってもらうわ。ボスの攻撃パターンは頭に入ってるわね?」

 

「もっちろんよ!」

 

「…上3人にしごかれながら頭に入れたもんな。」

 

(全員)コクコク

 

「なら安心ね。…たとえイエローゾーンに入ったとしても急いでこちらに戻る必要は無いわ。隊からはぐれた方が危険になる可能性がある。後退したい時はウチのシヴァタに言って、出来るならその場で回復しておいて。無理をする必要は無いからね。」

 

「分かった。それじゃ、行ってくるわね。」

 

「気をつけてねリズ、皆。」

 

 

「アスナも、無理しないでね。」

 

 

「…ええ、ありがとうリズ。」

 

 

 

「しゃー!行くぞー!野郎共ーー!!」

 

「おおー!!」

 

 

リズベットの余りある元気な掛け声と共に、ビーターズはボスの前へと踊り出ていった。

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

 

 

「部隊長…私が?」

 

 

ある日のこと。

 

第22層のキリトとアスナの家のリビングに、リズベットはキリトに呼び出されていた。

 

 

「ああ。…まぁ、うちは部隊らしい部隊はないから、名前のだけのものにはなるけどな。」

 

「…それじゃ、私は何をしたらいいの?」

 

「簡単に言うと、《賑やかし》というか…持ち前の元気で、パーティーの士気を上げるようにして欲しいんだ。もちろん、攻略には参加してもらいながらな。」

 

「賑やかし…」

 

「勘違いしないで欲しいんだけど、別にリズの戦闘の腕が低いからそうしようと思ったわけじゃない。リズの腕前はうちのギルドでも上位のものだしな。」

 

 

少し視線を落としたリズが気を落としたと思ったのだろう。キリトは慌てた様子で捲し立てる。

 

 

「別に、気を落とした訳じゃないわよ。…ただ、その役割が本当に必要なのかなって…」

 

「必要だよ。間違いなく。」

 

 

キリトは即答した。

 

 

「例えばそうだな…ほかのギルドだと、ユウキとかクラインがその役割かな?」

 

「ああー…まぁ、確かにね…」

 

「どっちもギルドリーダーだし、俺もそういうこと出来たらいいんだけど…そういうのは苦手で…」

 

「あの2つはギルド自体が賑やかじゃない?」

 

「まぁ、そうなんだけど。ただウチも、リズやリーファ、シリカにエギルとかの賑やかなメンバーは沢山いるだろ?だから不可能じゃないと思うんだよ。」

 

「まぁ、うちはリーダーがそもそも根暗だしねぇ」

 

「うぐ…」

 

「冗談よ…。とりあえず了解したわ。まあでも、私のこの元気は産まれつきだし、やることは変わりないわよね。」

 

「そ、そうだな…。また次の攻略からも頼む。」

 

「ええ。…それじゃ、そろそろお暇するわ。アスナが帰ってきたら、不貞を疑われかねないもの。」

 

「…いやぁ、さすがにないと思うけど…」

 

「アンタが思ってる以上に女は敏感なのよ。」

 

 

リズベットはそう言うと、リビングから出ようと…

 

 

「…ねえ、キリト。」

 

「ん?どした?」

 

「あんたは、なんで私をその役割に当てようと思ったの?それこそシリカや妹のリーファだって居たでしょ。」

 

「…なんでって、言われてもな…」

 

 

キリトはどこかバツの悪そうな、少しだけ言いにくそうに頭を掻きながら…

 

 

 

「…俺が、リズの掛け声でいつも元気貰ってるから…かな。」

 

 

 

「…ふーん、そっか。」

 

 

ニヘッと、リズは頬を緩ませた。

 

 

「やれやれ。それじゃ世話のかかるギルドリーダー様のために頑張りますかね。」

 

「…なんか言い方に刺ないか?」

 

「気のせいよ。…それじゃ、またね。」

 

 

リズベットはヒラヒラと手を振りながら、家を出る。

そして数メートルほど歩き、気付く。

 

自身の頬が、熱くなっていることに。

 

 

「…よしっ。」

 

 

彼女は軽く右拳を握りながら、少し早足で自身の店へと戻っていった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

少し褒められただけで嬉しくなるなんて、我ながらチョロい女だと自覚している。

 

大切な親友の旦那を好きになって未だに想ってるなんて、最低だとも思う。

 

 

 

…でも、もう決めたんだ。

 

 

 

「さぁ!勝負勝負ー!!」

 

 

 

この気持ちは。

 

 

あの日のキリトの手の温かさは、絶対に忘れないって。

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

「うわああああああ!!」

 

 

響く絶叫。

 

足を掬われたプレイヤーに、ボスモンスターが襲いかかる…その直前。

 

 

「キュルルッ!!」

 

 

1匹の小竜がボスモンスターの前へと飛び出し、タゲを引き受けた。

そして…

 

 

「ハアアアァァァッ!!」

 

 

気合い十分の声と共に繰り出される剣技によって、ボスモンスターの体の端に赤いエフェクトが走る。

 

それにより、タゲは剣技を繰り出した少女に移り、ボスモンスターはクルリとその方向へと向いた。

 

直撃すれば大ダメージを負うであろう少女。

 

だが…

 

 

「スイッチ!!」

 

 

シヴァタの掛け声と共に、血盟騎士団のタンク隊が前へと躍り出る。

たくましい壁プレイヤー達ありきの大胆な作戦に、思わずシリカも1つ息を吐いた。

 

 

「シリカさん!」

 

 

ボスの攻撃を防ぎ終わったタンク隊から1人、シリカに駆け寄るプレイヤーがいた。

 

血盟騎士団タンク隊で唯一の女性プレイヤー、リーテンだった。

 

 

「私達のギルメンのために、わざわざリスクの高い攻撃をありがとうございました。…ダメージはありませんか?」

 

「はいっ。大きな怪我はかわしきったのでありませんでしたよ。…それに、この世界では皆大切な仲間ですから。」

 

「クルルゥッ!!」

 

「えへへ…ピナもありがと。」

 

 

一人の少女と1匹の小竜の様子に、リーテンは思わず笑みをこぼした。

 

 

「お二方の仲の良さは、なにか特別に見えますね…。とても微笑ましいです。」

 

 

「はい。…ピナは、私の…《相棒》ですから。」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

暗い森の中、助けてくれた黒い影。

 

 

私が最初は恐怖を抱いた彼は、接してみると怖さの欠けらも無い青年だった。

 

少ない時間だったけど、彼は私を励まし笑いかけてくれた。

 

 

…思えばその《優しさ》は、彼女(シリカ)がこの世界で二番目(愛竜の次)に触れた、《温かさ》だった。

 

 

 

…それから少し経って、キリトから「俺達のギルドに入ってくれ」という勧誘を受けた時は、素直に嬉しかった。

 

理由はどうであれ、自分を信用して頼ってくれたのだから。

 

 

だからこそ、シリカは思う。

 

 

もう彼に、自分の気持ちが届かないかどうかなんてのも。

 

彼にとってのシリカは「大切な仲間」止まりなことも。

 

彼にとっては、アスナこそが「大切な人」であることも。

 

 

その全てが関係ない。

 

 

 

シリカは、彼のために戦う。

 

元々、彼に救われた命。

 

そしてピナの命だけでなく、()()()()さえも救ってくれた、愛しい恩人のために。

 

 

「ピナ、行くよ!」

 

「くるるゥッ!!」

 

 

 

そのためなら、この命を散らしたって構わない。

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

グオオアアァァァッ!!

 

 

ボスモンスターの雄叫びと共に、周りに風が吹き荒れた。

風を流すために防御陣形を崩さない攻略組の前で、ボスモンスターの赤い目が青く瞬いた。

 

それと同時に、白く光る地面から伸びる無数の木々。

その全てはまるで意識があるように集まり、1つの大木を織り成していく。

 

それは、攻略組の面々がこの戦闘で何度も見ているもの。

 

 

治癒スキル(回復技)》の前兆ーー。

 

 

「シノ…!」

 

 

 

「了解。」

 

 

アスナが指示を出す、その直前。

 

既に動き出していたシノンは、限界まで引き絞った矢の三本を一気に手から解放した。

 

飛翔する三本の矢。

その全てがボスモンスターの弱点の1つである、額に埋め込まれた赤い宝玉へと一直線に飛翔する。

 

ーーーーーーーーーー

 

この世界に来た当初こそ、1本の命中率があまり高く無かったシノンであるが、数々の場数を踏んだ今では、矢の3本までなら確実に狙った所へ命中させる程にまで成長していた。

 

ーーーーーーーーーー

 

 

シノンが打ち出した三本の矢は美しい軌道を描きながら、狙いすまされた宝玉へと直撃。

 

ボスモンスターの体が大きく仰け反る。

 

 

普通のモンスターなら、1本でクリティカル・ディレイを狙えるが、ボスモンスターのような大きなモンスターには複数本の矢が必要となる。

 

今回のボス…《The・World》も、ここまでは三本を命中させることでディレイし、転倒させる事が可能だった。

 

 

…が。

 

 

 

グオオアアァァァッ!!

 

「な…ッ!?」

 

 

ボスはこれまでと違い、三本の矢の直撃では倒れずそのまま回復技を完遂させようと体を元のポジションへと戻した。

 

 

『外した…?ううん、矢は確実に直撃だった。それなら理由は…』

 

 

シノンは気付いた時には矢を引き抜くために腰の矢筒へと手を伸ばす。

 

だがそれと同時に天からの光がボスを包み込んだ。

 

 

「くそッ!」

 

 

シノンは思わず毒づく。

 

このまま狙いを定めて発射しても間に合わないと悟ったからだ。

 

だが、何もしない訳には行かない。

 

シノンはもう一度弓を構え直す…

 

 

 

ドォンッ!

 

グオオオォォ…!?

 

ズズゥンッ…!!

 

 

 

…その直前。

 

彼女の真後ろから飛来した1本の矢…らしきものが、ボスの額に直撃。

 

その一撃により、ボスはクリティカル・ディレイ状態へと陥った。

 

 

「突撃!!」

 

 

ディーラー組が一心不乱にボスへと突撃するのを尻目に、シノンは後ろへと向く。

 

 

そこには、投げ終えたような姿勢で安堵の表情を浮かべる、同じギルドの()使()()の姿があった。

 

 

「あっぶねー…()()()()()()()()()後ろに待機してて正解だったな…ん?」

 

「…」ジトー…

 

「し、シノンさん…?」

 

「もしもの時、ね…。ま、ボスの情報が私の頭から抜けてたのは事実だから、ありがとうと言っておくわ。」

 

「いやほら、シノンの一気に打って確実に当たる矢の本数って三本だろ?ボスの耐久が変わって、矢が万が一外れた場合に備えてというか…」

 

「まだお礼しか言ってないわよ。良いから早く行きなさい。」

 

「分かったから矢を構えるな!怖いから!」

 

 

同じギルドの槍使いであるウッドはそう言って、一目散にボスの元へと走っていった。

 

シノンは少しため息をつきつつ、弓スキルの派生スキル《千里眼》を使用。

未だ倒れ込んでいるボスの額に刺さった、長物の武器を見て、もう一度ため息をついた。

 

 

『あんなもの、よく《百発百中》で当てれるわね…』

 

 

…そう、ウッドが先程投げ、ボスモンスターの額へと1寸の狂いもなく当てたもの。

それは…

 

 

彼のメイン武器である、《長槍》だった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「だーめだ!全然上手くいかねぇ!」

 

 

そう言って、ウッドは下の芝生へ身を投げ出した。

 

彼の槍が打ち込まれた修練用の杭には、無数のエフェクトが刻まれ、彼の修練の量が見て取れる。

 

寝転びながら唸るウッドの額に、コツンと固いものが当てられる。

 

ヒヤリとしたそれは、炭酸の飲み物の容器。

 

それを持つのは、彼の親友であり鍛冶屋の最大のお得意様、カズマだ。

 

 

「もーダウンか?ウッド。」

 

「うるへー…まだまだ、これからだよっ」

 

 

ウッドは「サンキュ」と言いながら瓶を受け取ると、栓を抜いて一気に中身を呷る。

シュワシュワとしたのどごしを感じながら、3分の1ほど飲みを干すと、修練用の杭を見る。

 

 

「…やっぱそう簡単には行かねぇよなぁ…」

 

「OSS…《オリジナルソードスキル作成》、か…。」

 

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

 

オリジナルソードスキル作成。

 

 

それは、アインクラッドの迷宮区が第80層まで到達した時に解放されたシステム。

 

要は《俺の考えた必殺技》という、男子なら誰しも憧れることを実行できるシステムなわけだ。

 

野郎共が多いアインクラッドはこのシステムに大いに沸いた。

 

…が、それは一瞬で挫折に変わったのだった。

 

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

 

 

「確か、専用ウィンドウ開いて、思い通りに武器振り回したら出来るんだったよな。」

 

「端的に言えば、な。それと一緒に超超超キツい基準をクリアしなきゃなんだよ…」

 

「あー、システムアシスト有りでようやく到達出来る速度に、システムアシスト無しで到達しなきゃならないんだっけ?」

 

「矛盾してるだろ?」

 

「それが出来るくらいまで反復練習しろってこった。《俺の考えた必殺技》習得はそう甘くねえってことだよ。」

 

 

カズマはそう言って笑う。

 

 

「にしても…皆なんでそこまでのめり込むのかねぇ…。」

 

「お前は欲しくないの?《俺の考えた必殺技》ってやつ。」

 

「まぁ、気持ちは分かるけど…逆になんでお前はそこまで欲しいんだよ。」

 

「……好奇心。…と、後はまあ攻撃の幅を広げたくてな。」

 

「幅?今の槍スキルだけじゃ不服か?」

 

「そうじゃねえけど。…今の俺の腕はギルドでも下の方だし、OSSで特別なスキル手に入れたらお前らの負担にならずに済むかなってな…」

 

「マスターランサーの癖してまだそんなこと言ってんのか?」

 

「だってよ…」

 

「あのなぁ、扱いに困るならそもそも勧誘してないし、大きなお世話なんだよ。もっと自信持てって。」

 

「…つってもなぁ。これは俺の受け取り方の問題だから、どうしても…」

 

 

そう言って悩むように腕を組みうなり続けるウッドに、カズマはまたため息をついた。

 

 

「…ま、確かに今の攻略組で一つだけ足りてない役職があるのは確かだけどなぁ…」

 

「え?あるのか?」

 

「あぁ。…ただ、今から俺の言う行為がソードスキルに認定されるかも分からんし、努力が無駄になるかも…」

 

「いいさ。」

 

 

カズマが言い終わる前に、ウッドは食い気味に即答した。

 

 

「俺への配慮なんてしなくてもいいよ。お前らのためになるなら俺はなんだってするさ。例えそれが無駄足でもな。」

 

 

 

「…お人好しだな、相変わらず。」

 

「お互い様だよ。」

 

 

2人はそう言って、笑いあった。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

カズマが俺に提案した、OSS。

 

それは、俺の主武器である《長槍(ロングスピア)》を投げることで、超遠距離攻撃を可能とする《投擲技》だった。

 

元々超遠距離攻撃が可能なプレイヤーはシノンしかいなかったため、彼女への負担は多大なものとなっておりそれをカズマはギルドの課題として上げていた。

 

ギルド立ち上げ当初は、かつての攻略組でも活躍した《レジェンド・ブレイブス》所属である数少ない投擲武器使いのネズハ(正しくはナーザ)を引き抜くことも考えていた程だ。

 

しかしシノンの「1人でも行ける」という推しと、ネズハの意向も考慮しこれを断念。

 

カズマはその後もシノンの負担の多さを懸念してはいたが…

 

 

俺が長槍投擲技OSS《スターダスト》を手にしたことで、何とかシノンへの負担を軽減させることが出来た訳だ。

 

カズマ曰く、「負担が1割でも減るとかなり違う」らしい。

 

それを聞いていたシノンも、どこか不服そうに頷いていた。

 

 

そして何より、彼のその技の秀でているもの。

それは、命中率。

 

OSS制作中に何度も何度も振り抜かれ、染み付いたその動きは、彼の体の一部となり百発百中と言える練度にまで磨き上げられていた。

 

 

 

 

ウッドは疾走しながら武器を新しいものに持ち替え、少しだけ笑った。

 

自身の新しい可能性を開いてくれた親友に、一抹の感謝を唱えながら。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

素晴らしい連携だった。

 

 

 

かつてのトラウマを克服した攻略組のプレイヤー達は、まさにそれぞれが阿吽の呼吸をしているがの如く連撃で、みるみるボスモンスターのHPを削り続けた。

 

 

…そして。

 

 

ボスモンスターのHPが、ラスト1本のレッドゾーンに突入した瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼らの前に、《ラスボス(須郷伸之)》が現れたのは。

 

 

 

 

 

 

ボスの目の前。

 

広場の中央に現れた彼に真っ先に斬りかかったのは、かつて攻略組入隊試験の時に間近で彼を見ていた3人。

 

リンド、シュミット。

 

そして、クライン。

 

 

シヴァタとアスナは指示を出し、防御態勢を整える。

 

 

自身の主人を前にしてか、攻撃の止まったボスモンスターの動きも警戒しつつ、3人はいっせいに攻撃を仕掛けた。

 

 

…だが。

 

 

 

キイイィィィンッ!!

 

 

まるで、《見えない何か》に防がれたかの如く彼らの剣は、アルベリヒの体に届く前にその威力を霧散させた。

 

 

だが、自身の剣が弾かれても彼らの剣気は衰えない。

 

 

もう一度攻撃を繰り出すために、その足を踏み出した

 

 

…その、直前。

 

 

 

掻き消える、アルベリヒの体。

 

 

 

3人の体に、走る衝撃。

 

 

 

彼らはなんの抵抗も許されないまま足を斬り飛ばされ、真下の地面へと転がった。

 

 

 

そこで動き出すボスモンスター。

 

 

 

その意図を3人は瞬時に悟り、自身の未来も瞬時に把握した。

 

 

 

バァンッ!!!

 

 

 

 

開かれる扉。

 

クラインの目に入ったのは、赤い和装に身を包んだ青年とツインテールの少女、タンクの青年。

 

 

 

…そして。

 

 

 

 

 

黒いコートに身を包む、この世界で出会った、唯一無二の親友。

 

 

 

 

 

「クラ…!!」

 

 

 

彼の開かれた口から発せられるその単語(自身の名前)が放たれる直前。

 

 

キリトは自身を見る、親友の眼に気付いた。

 

 

彼の体が止まったのは、その《メッセージ》が伝わったからだろう。

 

 

 

「キ、リトぉ…!」

 

 

 

クラインはいつものように笑い、親友を見据えていた。

 

 

 

 

 

 

 

「あとは頼んだ」、と…。

 

 

 

 

 

 

 

そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

ズガアアアァァァァンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

3人の体は、無惨にも。

 

 

ボスモンスターの攻撃の、餌食となった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

ボスモンスターの攻撃が振り下ろされた、その瞬間。

 

 

 

 

 

俺の身を、何処か覚えのある感覚が包み込む。

 

 

 

 

 

今の俺には無い血管が瞬時に沸騰するような、世界の全てが変わり果てるような。

 

そんな、感覚。

 

 

 

 

…そうだ、これはーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…キリト。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女(サチ)をなくしてしまった日》と、同じ感覚だ。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

気付けば、剣の柄を握っていた。

 

 

 

 

 

「ダメだキリトさん!罠だ!!」

 

 

 

 

気付いたシュンヤの声も構わず、俺は跳んだ。

 

 

 

 

視線の先にいる、目が眩むほどの装飾を施された《敵》に向かって。

 

 

 

 

肉薄する距離。

 

 

 

 

引き抜いた二刀を、俺はアルベリヒへと振り下ろした。

 

 

アルベリヒはその一撃…いや、二撃をバックステップで避ける。

 

 

 

 

ズガアアアァァァァンッ!!!

 

 

 

 

振り抜かれた二刀は、地面へと叩きつけられる。

 

 

流麗で華奢な二刀は、先程のボスモンスターの一撃に匹敵する轟音を叩き出した。

 

 

痺れるような感覚に襲われているであろうキリトの腕。

 

 

だが彼は構わず、その目をアルベリヒの元へと向けていた。

 

 

 

 

「……ァァァァアアアアアッ!!」

 

 

 

 

その目には、殺意の色しか存在しなかった。

 

 

 

 

「見事にかかったな、クソガキ!!」

 

 

 

 

「ヒャハァッ!」という奇妙な笑いを上げながら、アルベリヒは腕を振り下ろす。

 

 

それと同時に振り下ろされる、ボスモンスターの右腕。

 

 

クライン達を葬り去ったその一撃は、凄まじい威力を内包しているのは明らかだった。

 

 

 

…だが。

 

 

 

 

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァアァァァァァッ!!!!」

 

 

 

 

 

今のキリトにはそんなもの、()()でしか無かった。

 

 

まだ、振り下ろされる前の赤ローブの右腕。

 

 

その腕目掛けて振り上げられる、二刀の両刃。

 

 

 

その2つが、コンマ1秒の間を置いて接触した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…シュパッ。

 

 

 

 

 

 

 

そんなささやかな音と共に、超高威力を内包した2つの攻撃の接触は終わる。

 

 

振り切った形で止まるキリト。

 

 

それに対して、振り下ろされる前に硬直した、ボスモンスター。

 

 

 

…決着は、明らかだった。

 

 

 

 

 

少しの間を置いて、ボスモンスターの体が()()()

 

 

そして、その上の天井に張られていた、ユウキの使用していたワイヤーも、プツッと切れた。

 

 

あと残り、10ドット分ほど残っていてボスモンスターのHPバーが全て消し飛び…

 

 

 

カシャアアァァァァァン…

 

 

 

第0層ボスモンスター・《The・World》は、その姿を無数のポリゴンへと変えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その姿に、その場にいる誰もが、自身達の中の《最強》に見惚れ、期待し、そして…

 

 

 

 

戦慄した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かくして2人は対峙する。

 

 

 

 

 

今や《魔王》として、この世界を乗っ取った妖精の王と。

 

 

かつての《魔王》に打ち勝った、《最強》の剣士が。

 

 

 

 

 

 

 

…クライマックスは、近い。

 

 

 

 

誰もがそう、確信したのだった。

 

 

 






※カズマ君はサボってませんよ(一応)
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