ソードアートオンライン 〜鋼鉄の記憶〜   作:誠家

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ーー攻略組、第0層攻略戦の2週間前ーー

ーーエギルの店。



「…正直、今のあなた達が須郷伸之に勝つことは、不可能に近いと思うわ。」


「「「…」」」


メルの一言。
その一言で集まっていた一同の空気がピリつく。

その場にいるメンバーは、キリト、カズマ、シュンヤ、アスナ、ユウキ、シュミット、クライン。

各ギルドのリーダー達が集まったようなメンツだった。


「…根拠は?」


全員の総意を集めたようなカズマの質問。
それにメルは淡々と答えた。


「前のゲームマスター…茅場晶彦は自身がプレイヤーと同等であることを演じ、そして最後に裏切ることに重きを置いていたわ。そこにどんな意図があるのかは分からないけどね。」

「須郷は違うと?」

「ええ。彼はそんなものにはこだわっていない。事実自身の特権である管理者権限を利用して、プレイヤー全員のレベルの底上げ、そして一般プレイヤーへのチート武器の贈与なんかも行っている。」

「ちょっと待て。あれも須郷がやった事なのか?」


その昔、かつての血盟騎士団と聖竜連合の下っ端にチート武器が何者かに流され、そいつらがラフコフのアジトの密告、更にはラフコフへ攻略組の作戦を漏らすという行為を行っていた事件。

長らく、そのチート武器を流した犯人は分からずじまいだったが…


「あの状況で須郷以外にそれを行えてかつメリットのあるやつなんていないもの。推測ではあるけどね。ヒカリとアカネの失踪が須郷の仕業と考えても、かなり長い間練られた計画なのは間違いないわ。」


彼女のその推測に、異議を唱えられる者はいなかった。


「…ごめんなさい、少し話が逸れたわね。つまりここまでそれほど自分の権限を乱用しているやつが、対プレイヤーに対して権限を使わないとは思えない。…正直、管理者権限を多用されるとあなた達プレイヤー側に勝ち目はないわ。」


それは確かに、彼らの不利な状況を的確に指摘しており、事実シュンヤやアスナ達、各ギルドの参謀達も苦難している点だった。


「確かにその通りだよな…けど。」


聞いていた中の一人。
ギルド《ビーターズ》の団長であるキリトは、1人椅子から立ち上がった。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってことは、対処案があるってことだよな。」

「…正直、賭けみたいな作戦よ。まず、私が上手くやれるか…」

「なぁに言ってんだよ。」


キリトの対角線。
《ビーターズ》サブリーダーのカズマも立ち上がった。


「これまでのボス攻略だって、たとえ作戦が上手くいかなくても、その場その場の臨機応変で何とか戦ってきたんだ。今に始まった事じゃねえよ。」

「カズマ…」


何処かイタズラっ子のような、無邪気な笑顔を見せてるカズマと同調するように、その場にいる全員が頷いた。

まるでメル自身の背中を押すようなその光景に、彼女の作られた心がふわりと軽くなる。


「…ありがとう。」




「…作戦を、伝えるわ。」










ーー作戦を説明し終えた後。


それぞれのプレイヤー間で意見が飛び交う。


「とりあえず、我々は何をすればいい?」

「まず、メルちゃん達を護衛する戦力が必要じゃない?」

「でも攻略組だって戦力はギリギリよ?キリト君達抜きでボス戦をやるとなると、今の戦力でも足りるか分からないのに…」


「…なあメル。目的地って()()()でいいんだよ。」

「ええ。」

「ふむ…()()()()()()()()()のがここで役に立ってよかったな。」


キリトはそう言うと、ストレージから取り出した、1枚の羊皮紙。

そこに書かれているのは、とある地図。


「…兄貴?」


カズマに呼び止められると同時に、キリトは顔を上げる。


「…うん。()()()()の力が必要だな。」


キリトはそう言うと、黙って羊皮紙を丸くまとめ周りに集まった面々を見つめ…


「みんな。第0層攻略…いや。」




「《アインクラッド最後の戦い》は、()()()で行くぞ。」




そう、告げたのだったーー。





第37話 総力戦

 

 

「……」

 

「…メル、大丈夫ですか?」

 

「…ええ、心配しないで、ユイ。…大丈夫よ。」

 

 

何処か張り詰めた表情のメル。

 

そんな彼女に、隣に居たユイが寄り添う。

 

 

現在の時刻は午後0時45分。

攻略組は既に第0層攻略に向けて出発して、45分の時が経っている。

 

彼女達が今いるのは、アインクラッドの頂点。

第100層。

 

その層にある、唯一の建造物《紅玉宮》。

 

その建物の最上層。

 

本来はアインクラッド最後のボスモンスターと対峙していたはずのその場所は、紅い空間に暗い影を落としていた。

 

それでも、その場所には何処か特殊な威圧感がにじみ出る。

 

 

「…ごめん、ちょっと強がった。…ホントは、凄く緊張してる。」

 

「…メル。」

 

「…私が失敗したら、キリトやカズマ、ユウキ…他にも沢山の人の命が危険に晒される…。そう考えたら、震えが止まらないの…」

 

 

「作られた存在なのにね…」と、彼女はどこか強がりのように笑う。

 

…だが。

 

 

「だ、大丈夫ですよ!メルならきっと、上手くいきます!それでパパ達も無事にGMを倒して、全部上手く行きますよ!!」

 

「…根拠は、あるの?」

 

「へ?え、え〜っと…な、なんとなくです!」

 

「……」

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

『ねえ、和人。このダンジョンにはこの編成の方がいいんじゃない?』

 

「あー、そうかなー…。…まあでも、こっちでも大丈夫だろ。」

 

『計算力に長けた私たちの案を無視するなんて、和人様は変人ですね。』

 

「ひでぇ言われよう。俺だって考えてやってんだよ。」

 

『じゃあこの編成の方がいい根拠は?』

 

()()()()()。そっちの方がおもしれぇじゃん?」

 

『根拠って言いませんねそれ。』

 

「固いこと言うなよ。」

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

「…ユイ。あなた、少しキリトに似てきたわね。さすが娘といったとこかしら。」

 

「え?本当ですか!?」

 

 

メルの言葉に、ユイは目を輝かせてぴょんぴょん跳ねながら喜んでいる。

その姿を見て、何処か自身の緊張も和らいでいくのを感じる。

 

そんなところも、彼女の《父親》の良さを受け継いでいるような気がした。

 

 

「はぁ…まったく。敵わないわね…」

 

 

メルは苦笑しつつも、歩き出す。

 

 

「さ、行くわよユイ。アイツらが勝つために、まずは私達が頑張らないと。」

 

「は、はい!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

「私の考える作戦の要点はたった一つ。」

 

 

 

「須郷をGMの座から引きずり下ろすこと。それだけよ。」

 

 

 

ザワッと。

その場にいたプレイヤーが驚きの声を上げた。

 

 

「でもよメル、それは不可能じゃないか?お前も今はMHCPの身だし…。」

 

「そうね。()()()には、到底不可能だわ。」

 

 

意味深げなその発言の後。

 

ーー彼女が発した言葉は、さらなる驚きを産んだ。

 

 

 

 

 

「…私が、《カーディナル・システム》をもう一度起動させる。」

 

 

 

 

 

「…ッ!?」

 

その言葉には、キリトとカズマですら驚愕の表情をうかべた。

 

 

「ユイには、そのサポートをお願いするつもりよ。」

 

「ちょ、ちょっと待て…!カーディナル・システムは、今も起動してるんじゃ…?」

 

「正直、その可能性は極めて低いわ。」

 

 

チラリと、メルは視線をユイへと向ける。

彼女は頷くと、全員に見えるように大きなウィンドウを出現させた。

 

 

「この世界…浮遊城アインクラッドの統治・監視は、皆さんご存知の通り、カーディナル・システムを採用しています。このシステムのおかげでありとあらゆるバグの修正やクエストの追加などを、外界の人間の手を使わずとも可能とするのです。」

 

「しかし、武器のロストという重大なバグが出たにも関わらずそのバグは残り続けています。これだけでも、そう判断するには決定的なものなんです。彼のシステムに、《取り残し》はありえませんから。」

 

 

「…そう考えたら、たしかにな…」

 

「それに、皆さんが76層に上がってから、上に上がっていくに連れて、どんどん受けられるクエストの種類が少なくなっていませんか?」

 

「確かにね…ボクは基本的に受けられる分だけ受けるタチだけど、上に上がるにつれてすぐ終わるようになってた。」

 

「それも、カーディナル・システムの停止によって産まれた問題。元々用意されていたクエストしか受けれなくなっていたからなのです。」

 

 

 

「ふーむ…話を聞けば聞くほど、信ぴょう性が増していくな。」

 

「本当の話だからね。」

 

「でも武器のロスト以外は特にバグの情報なんかは出なかったけど、それはなんでなんだ?メンテがないなら、もうちょいバグの情報が出ても…」

 

「このゲームは天才・茅場晶彦の集大成よ?そんな生半可な作りはしてないわ。」

 

「…なるほどね。」

 

 

 

「メル。実際その作戦、成功率としては何パーセントだ?」

 

「…正直、50パーあるかないかってとこね。私の考えが当たれば100パーやり切ってみせる。…けど、私の考えが外れれば0パーにまで下がるわ。」

 

 

それは、博打とも言えるパーセンテージ。

彼女には珍しい、建設的とは言えない案だった。

 

 

「も、もちろんこれを実行せずに、他の案を模索することも…」

 

 

 

「いや、それで行こう。」

 

 

メルの言葉を遮るようにして、キリトが告げる。

そしてそれには、カズマを始めその場にいる全員がコクリと頷いた。

 

 

「で、でも…!これ以上にいいやり方が…!」

 

「ならメル。そのやり方以上のものが出てくる確率はだいたい何パーセントだ?」

 

「そ、れは…」

 

 

メルは思わず俯く。

その反応が、分かりやすく答えを示していた。

 

 

「そういうことだろ。…心配すんな。俺らは百戦錬磨の攻略組だぜ?お前は自分を信じて行動に移せばいい。」

 

「で、でも…私が失敗すれば、カズマ達は…!」

 

「舐めんな、メル。」

 

 

 

 

「俺らは死ぬ覚悟(その程度の覚悟)なんて、2年以上前からしてるよ。」

 

 

 

 

「…ッ…」

 

「だからさ、頼んだぜ?俺らをちゃんと勝たせてくれよ?」

 

「…分かった。」

 

 

 

「…必ず、成功させるから。」

 

「…おう。気張れよ、相棒。」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

「メル、ここからどうするのですか?」

 

「紅玉宮の最上階には、《アレ》が………あった!」

 

「これは…システム・コンソール。」

 

「そっ。これを使って、ある場所に移動するわ。」

 

「ある場所、ですか…?」

 

「ええ。」

 

 

 

「かつて私とヒカリ、そしてアカネがこの世界に侵入する時に使った、M()H()C()P()()()()()()。そこへ、もう一度アクセスする。」

 

 

 

その場所は、カーディナル・システムと同じAIであるMHCP(メンタルヘルス・カウンセリングプログラム)達が眠る場所。

 

だからこそ、そこにカーディナル・システムへと繋がる何かがあると、メルは踏んでいるのだ。

 

 

「けど、その時は急いでて座標を記録に残せてないのよね…この数分の中で何とか見つけないと…」

 

 

メルはそう言ってシステム・コンソールに手を置いて、コンソールと同調。

 

アインクラッド全体へのアクセスを開始。

 

少し多くの集中力を使ってしまうが、今はあそこに戻らなければ何も始まらない。

 

何とか自分の解析で、あの場所の座標を…

 

 

「メル。少し、変わっていただけますか?」

 

「…え?」

 

 

ユイの穏やかな笑顔で告げられた言葉に、メルは少し驚きながらも、その手をゆっくりと放し、彼女にその場を明け渡す。

 

やがてユイはその手をシステム・コンソールへと掲げると…

 

 

「よし、座標掴めました。」

 

「は、はやっ!?」

 

 

ものの数秒で、それを遂行してしまった。

 

メルの数分でアインクラッド全体へのアクセスを完了するのも凄まじいスピードだが、ユイのそれは文字通り次元が違った。

 

 

「ゆ、ユイ…あなた…」

 

「ふふっ、これでも私は、MHCPコード001。MHCPの中でもこの世界に1番長くいる…」

 

 

 

 

 

「1番のお姉ちゃん、ですからね。」

 

 

 

 

 

人差し指を口元に当て、咲き誇るような笑みを浮かべてのその言葉には、思わずメルも笑ってしまう。

 

改めて、目の前の可愛らしい存在の、その圧倒的なスペックを確認し…

 

 

 

 

ほんの少しだけ嫉妬して、笑ってしまった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

「それじゃ、行ってくるわね。」

 

「はい、いってらっしゃいませ。()()()()()のこと、よろしくお願いします。」

 

「…ええ。」

 

 

 

 

「叩き起してくるわ。」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ーー場面は、現実世界(リアルワールド)へ。

 

 

東京都某所。

 

そこにそびえ立つ、巨大なビル。

 

その、最上階。

 

最奥の部屋。

 

タンスや観葉植物に囲まれたその部屋の、中央。

 

実に重そうな机の前で、椅子に腰かける年配の男性。

 

 

「…ふぅ…」

 

 

彼はどこか疲労の溜まったような表情で、小さく息をついた。

 

…そこで。

 

 

コンコンッ。

 

「入りたまえ。」

 

「社長、失礼します。」

 

 

ノックをして入ってきたのは、メガネをかけスーツを着た男性。

 

 

「ああ、浩一郎か…。どうした?」

 

「書類を渡しに来ました。」

 

「ああ、ありがとう。」

 

 

書類を受け取る年配の男性。

 

名を結城彰三。

 

大会社《レクト》の代表取締役であり、結城明日奈の実の父親。

 

そして向かいの男性の名は、結城浩一郎。

 

明日奈の実兄だった。

 

 

「…お疲れのようですね。」

 

「…まぁな。」

 

 

仕事の疲れ…だけでは無い。

 

彰三を蝕む疲労は、他にもあった。

 

それは、娘・明日奈の昏睡。

 

彼女は理不尽なことに茅場晶彦という研究者が作り出した、ナーヴギアによってデスゲームに囚われてしまっていた。

 

 

「…」

 

 

浩一郎自身、その事に負い目を感じている。

 

何故なら、彼女にナーヴギアを渡したのは彼だから。

 

「一日だけ貸してほしい」と頼まれ易々と彼女に渡し、結果的に妹は今も仮想世界から帰ってきていない。

 

思わず、謝罪の言葉が飛び出しかける。

 

 

だが、ここで弱音を吐いても、きっと父は自分を慰めようとする。

いらない労力を使わせまいと、その弱音を浩一郎は飲み込んだ。

 

 

「…そういえば、須郷さんのことですが…」

 

「ん?ああ、彼か。彼は今長期プロジェクトで海外に…」

 

「いえその事ではなく、本当に明日奈と婚約させる気ですか?」

 

「なんだその事か。もちろんそのつもりだよ。正式な話は明日奈が目覚めてからになるが、彼ほどの好青年ならあの子も京子も納得するだろう。」

 

「…そうですか。」

 

 

浩一郎の胸に引っかかる、モヤモヤとした思い。

 

その理由は先の話題にも出た「須郷伸之」。

 

彼は確かに好青年だ。

仕事も早く、性格で、人当たりもいい。

 

…だが、浩一郎は気付いていた。

 

それが、《上司》に対してのゴマすりであることに。

 

何となく違和感を覚え、彼のいる部署に浩一郎直属の部下を送り込んだ結果、彼の近い期間に辞めた社員への横暴な態度を取っていたと言う情報をキャッチしたのだ。

 

 

…ただ、この情報を今自身の父に渡すと、「デマだ」と片付けられる気がした。

 

彼は息子以上とは言わないが、辞めた社員の言葉よりは明らかにあの裏の黒い青年を信用している。

 

…いや、それは正に「心酔」と呼んでも良いのかもしれなかった。

 

 

「書類OKだ。はい。」

 

「…それでは私は業務に戻ります。…お身体には充分気をつけてくださいね、社長。」

 

「ああ。ありがとう。」

 

 

浩一郎は1度会釈してから、部屋を出る。

 

彼は一度眼鏡のレンズを拭いてから、仕事場へと戻った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

レクト本社の、その地下。

 

 

そこに、須郷率いる集団《レクト・プログレス》の本拠地は存在した。

 

 

ビー!!ビー!!ビー!!

 

 

パソコンから鳴り響くサイレン音。

 

 

「状況は!?」

 

「第100層《紅玉宮》内にあるシステム・コンソールに何者かが侵入した模様です!!」

 

「第100層だと…!?あの層のボス部屋は封鎖していたはずじゃ…!とにかく侵入者を排除しろ!!」

 

「はい!!」

 

 

方カタカタカタカタカタカ…

 

 

「だ、ダメです!こちらからSAOへのアクセスが不可能になっています!!」

 

「な…!?」

 

「須郷さんとのリンクもロスト!連絡取れません!!」

 

「我々からSAOへの全てのリンクが、一瞬でブロックされました!!」

 

「な、なに…!?」

 

 

元々優秀な社員たちも、この状況には絶句するしかなかった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

ーー第100層・《紅玉宮》最上階。

 

 

 

「…意外と簡単でしたね。《道》は作ってくれてましたし、セキュリティが甘すぎて欠伸が出そうでした。」

 

 

ため息をつきながら、ユイはそう呟いた。

 

 

「…ただ、()()()()()()()()()、気付かれたみたいですね…」

 

 

彼女の張っていた《網》に反応する、数十のプレイヤー達。

続々と紅玉宮に侵入してくる者達は、かなりの速度で階を上ってくる。

かなりの高レベルプレイヤー達のようだ。

 

 

 

…だが。

 

 

 

「…手筈通り、()()()()()()()()()にお任せしましょう。」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「チッ…あのパツキン野郎…1人だけ楽しみやがってよ。」

 

 

 

 

第100層・紅玉宮の内部をかける、数十人単位の集団。

 

その集団の先頭。

牽引するように走る、黒いポンチョを着た男が吐き捨てるように毒づいた。

 

 

男の名はPoh。

 

 

かつてアインクラッドに存在した、犯罪者ギルド《ラフィン・コフィン》のリーダーにして、攻略組プレイヤーの最大の敵。

 

今は、かつてのギルドの参謀・ショウマと共にアルベリヒの協力者として、プレイヤー達の敵対者となっていた。

 

彼自身は今回の戦闘において、攻略組…主に最強プレイヤーであるキリトとの戦闘を渇望していたが、それを外され異常を検知した時の処理班として、雑用を任されていた。

 

 

「あの野郎はリアルで、必ず殺す。そうじゃねえと腹の虫が収まらねぇ…!」

 

 

怒りに満ちた目と憎悪は、協力者であるはずのアルベリヒに向けられていた。

 

しかし、元々任された仕事は最後までやりきるのを信条としていた彼は、こうしてかつての仲間達を集め異常の処理へと向かっていた。

 

 

「おめぇら、この先に二手に別れる道がある。どんな障害があるかも分からねえ。俺らも二手にに別れて上を目指すぞ。」

 

 

コクリと頷くレッドプレイヤー達。

 

暗殺者は、気付かれてはならない。

だからこそ、会話も最小限に。

 

そう教えてきたのは、何を隠そうPohなのだ。

 

 

やがて、彼の言っていた二手に別れる道が現れた。

 

 

「散れ。」

 

 

静かな命令と共に二手に別れる集団。

 

その足に迷いはなく、ちゃくちゃくと目的地に近づいている。

 

彼らが目指す先は、すぐそこだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

ーー紅玉宮最上階・ボス部屋手前の通路。

 

 

 

二手に別れたレッドプレイヤー達。

 

その片方の集団は、罠もしっかりと回避しながら目的地へと進んでいた。

 

 

…だが。

 

 

 

ボス部屋手前。

道の太さは変わらず、紅く神々しい雰囲気を帯びた景色が続く。

 

 

そこに現れる、黒い装備をした集団。

 

 

「…ッ!」

 

 

先頭にいた男はすぐに部隊に静止命令を出す。

その瞬間にレッドプレイヤー達は足を止めた。

 

 

レッドプレイヤー達の前に現れたのは、重装備の集団。

 

先頭には黒い盾を携えたタンク。

その後ろにはそれぞれの武器を構えた兵士達が見て取れた。

 

 

…そして。

 

 

「…来ましたか。」

 

 

その先頭には、背後の兵士達と比べたら軽装の、少し歳を重ねているように見えるプレイヤー。

 

横に流した茶色の髪と、穏和そうなその顔には、鋭い視線が今は浮かび上がっていた。

 

 

「…《軍》が、こんなとこに何の用だ。」

 

「あなた方を取り締まりに来たんですよ。私達は、今はそれが仕事なんですから。」

 

 

 

「…《チート》によって取り逃した羽虫は、私…このシンカー率いる部隊が、もう一度監獄へと送り込んで差し上げます。」

 

 

 

「…ッ!かかれぇ!!」

 

 

レッドプレイヤー達のリーダー格の男が叫ぶ。

 

その瞬間にレッドプレイヤー達も、軍のプレイヤー達も動き出し、戦いの火蓋が切って降ろされた。

 

シンカーに、レッドプレイヤーの1人が襲いかかる。

 

 

「シャアッ!!」

 

「くっ…!」

 

「シンカー!!」

 

「ユリエール!問題ない!!君は部隊を!!」

 

 

彼は愛する女性へそう告げると、黒フードの1人と対峙する。

 

 

ーー僕は、争い事が苦手だ。

 

 

そんな臆病な心は、今は捨てよう。

 

 

「…キリトさん、アスナさん。あなた達が救ってくれたこの命、必ず役に立たせてみせます…!!」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

もう一方のレッドプレイヤー達の集団。

 

 

彼らの前にも、《軍》は立ち塞がる。

 

 

…違うのは、先頭に立つプレイヤー。

 

 

「おうおうおうおう!!ワイら《アインクラッド解放隊》は羽虫すら通さんで!!分かったらさっさと消えんかいオラァ!!」

 

「き、キバオウさん…!今は《アインクラッド解放軍》なんですが…!?」

 

「じゃあかしい!分かっとるわそんな事!今日限定の特別復活や!!」

 

 

めちゃくちゃな理論を撒き散らすキバオウ。

それには、昔から彼の下についているプレイヤー達も苦笑いを浮かべた。

 

 

「…それに、()()()()()()()()()()()()()()()()()ようやしのぉ…」

 

 

 

 

 

「なぁ、モルテ。ジョー。」

 

 

 

 

 

キバオウが呼ぶ、2人の名前。

 

それに呼応するように、ゆらりと隊の後ろから2人のプレイヤーが現れる。

 

 

チェインコイフを被ったプレイヤーとフードを被ったプレイヤー。

 

 

2人の姿を少し懐かしそうに見つめながら…鋭い眼光を飛ばしていた。

 

 

「あはぁ…お久しぶりですぅ、キバオウさん。A()L()S()()D()K()B()()()()()()()()ぶりなので…1年半ぶりくらいですかぁ?」

 

「ふんっ、貴様らにはワイの同胞が随分と世話んなったからなぁ…」

 

 

 

「…かつては同じ釜の飯を食うた者として、せめてもの餞別や。ワイの剣で、楽に死なせたる。」

 

 

 

「ちょ、調子に乗らないで下さいよキバオウさん!!あんた元々剣技は大したことねえんだ!!俺ら二人に単体なんざ、コテンパンに…!!」

 

「ジョー!!」

 

「…ッ!!」

 

「こうして貴様に説教垂れ流したるんも、これで仕舞いや。最後にそのひん曲がった根性、叩き直したるわ!!」

 

 

シュインッ!!

 

 

「…やる気満々ですねぇ。来ますよぉ。」

 

「…ああ。」

 

 

 

 

動いたのは、同時。

 

キバオウの部隊とレッドプレイヤー達。

 

2つの集団の先頭。

 

キバオウとモルテ。

 

 

2人の武器である、片手直剣が交わり。

 

 

…戦闘開始の合図が、紅い廊下に鳴り響いた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

Pohは1人、ボス部屋の前にいた。

 

 

 

元々隠密行動は得意中の得意なので、シンカー率いる軍の間を縫って抜け出すことは容易だった。

 

…だが。

 

 

 

「…抜け目ねぇな。黒の剣士。」

 

 

 

そう。

 

彼の前には…

 

 

 

 

《伝説の英雄達》が、立ち塞がっていた。

 

 

 

 

「フハハハハハ!!さすがは我らの英雄・キリト殿とその仲間の者達だな!!読み通り我々にも出番が訪れおったわ!!」

 

「お、オルランドさん…!相手はあのPohですよ?!もっと真剣に…!」

 

「馬鹿者!ネズオ、余はいつでも真面目だ!!」

 

「ええ…」

 

「諦めろネズオ。リーダーはこうなると止まらん。」

 

「ベオさん…」

 

 

 

「我々の前に立つ、強大な敵!アインクラッドの死神とも称された、その黒き姿!まさに血湧き肉躍る!!」

 

「我らオルランド!ベオウルフ!クフーリン!ギルガメッシュ!エンキドゥ!…そして()()()!!」

 

 

 

 

「…今こそ攻略組、そしてキリト殿への恩義に報いるため!!アインクラッドの死神よ…我ら、《レジェンド・ブレイブス》が御相手いたそう!!」

 

 

 

 

よく通る、大きな声。

 

まさに英雄の演説のような自己紹介は、紅い廊下に響き渡る。

 

Pohはそれを聞いて、笑う。

 

それは、嘲笑にも似たもの。

 

 

「…まったく、あいつの周りには変なやつしか集まらねえのかよ…」

 

 

彼の脳裏に浮かぶ、黒衣の青年。

 

 

「…けどまぁ、暇つぶしには丁度いい…」

 

 

Pohはそう言うと、腰から友切包丁を取り出して、ゆっくりと目の前に構えた。

 

 

 

「…来な。《伝説の英雄達》か《1匹の()()》か。…どっちが上か、思い知らせてやる。」

 

「…さあ行くぞ!お前達!!」

 

「「「「「おう!!!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

「…さぁ、ショウタイムの時間といこうか…!!」

 

 

 






彼らが出てきたのは作者の趣味です。

《楽しく書く》のがモットーなもんで笑
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