メルの横を、光る粒子が通り過ぎていく。
その一つ一つが、この世界を構成しているものだということは、彼女には何となく分かっていた。
…やがて、その光は晴れ、メルは暗い影の落ちた空間に出る。
そこは、かつて彼女が降り立った場所。
アインクラッドという舞台に立つために
メルは自身の入っていたカプセルから抜け出すと、辺りを見回す。
そして、かつての記録を頼りに、彼女はゆっくりと目の前にあった壁へと近付く。
それは、周りの壁と特に違いのない何の変哲もない壁に見える。
だが、彼女はその壁に手を置き…
…《解析》を開始した。
…そして。
「…見つけた。」
メルは壁のある場所をタップ。
すると…
ブォン…
出現する白い渦。
突如として現れたその渦に、メルはなんの躊躇もなく身を躍らせた。
ーー視界が、ホワイトアウトする。
一瞬の浮遊感。
それが終わると同時に目を開けると、彼女の視界には無数の《ウィンドウ》が映し出される。
その全てに、びっちりとあらゆるデータが描き連ねられており、プレイヤー、クエスト、アイテム、ダンジョン、マップ。
ありとあらゆるSAO世界のオブジェクトの情報が、そこには集められていた。
…だが、メルには分かる。
その全てのウィンドウが、今は機能していないことに。
更新の止まったプログラム、変動していない心拍数。
ありとあらゆるものが、その場所の《核》が機能していないことを物語っていた。
ーー歩く。
一歩一歩、殻のように折り重なったウィンドウを掻き分けながら、メルは中心へと近付いていく。
…そして。
《
その姿を見下ろしながら、メルは彼女に話しかけた。
「はじめまして。…
蹲る少女は、ゆっくりとその顔を上げたーー。
『…キリト、聞こえる?』
「ああ。」
『須郷伸之…アルベリヒについて、報告よ。』
『彼は…』
「…了解。」
ーーーーーーーーーー
「か、カーディナル・システムの乗っ取り…だと…!?」
カズマの口から語られた極秘作戦の概要に、須郷が驚きの表情を浮かべる。
それに、先頭に立つキリトが口を開いた。
「正確には、少し違う。
「あ、ありえない!!MHCPだろうがプレイヤーだろうが、お前達がカーディナル・システムの本体へ接触するためのルートは遮断したはず…!!」
「お前と同じ手を使っただけだよ、須郷。」
「お前が
「な、何故それを…」
俺達は、
キリトはそう、言い切った。
その言葉に、須郷は目を剥く。
そして…
「自惚れんな、須郷。」
「お前らごときが閃く手を、俺の優秀な相棒が思いつかないわけが無いだろ。」
そんな彼に、カズマは嘲笑を浮かべた。
「…ッ…!!お、おい!!応答しろ!!今すぐカーディナル・システムをこいつらから取り返せ!!聞こえてないのか!!?おい!!」
アルベリヒの甲高い喚き声のような命令が響く。
おそらく現実にて彼を手助けしている者たちに対して言っているのだろうが…
「無駄だ。お前の現実への連絡手段はこちらで断たせてもらった。」
「…ッ…クソ!!おい、
「…あ?」
「…ッ…」
…ピピッ。
「おお、繋がった…おい、Poh!!緊急事態だ!!早く僕に援軍を…」
『キーキーうるせぇ。…今お前に援軍を遅れるだけの余裕は俺達にねぇよ。』
「ふ、ふざけるな!!誰のおかげでそいつらを釈放して従えられていると…!!」
『俺ァそんなこと頼んじゃいねぇよ。お前が勝手に渡してきただけだろ。…どちらにせよ、俺は今忙しいんだ…おっと。』
『フハハハ!さすがはアインクラッドの悪魔!!これも当たらんか!!!』
『しつけぇ野郎だ…!!』
ピッ。
「………………………………」
Pohとの通話が切れる。
その後、須郷は何度も通信を行おうとするが訪れるのは静寂のみ。
「…話は終わったか?須郷。」
「お前がやったことは所詮、茅場晶彦がいなくなった世界で
「掠めとっただけの玉座には、《泥棒の王》しか座らない。」
「そんなことで立った立場に、意味も価値も、ありはしないんだよ。」
全てお見通しだと言わんばかりのキリトの言葉。
…ザッ。
「ヒッ…!?」
「…決着の時だ、須郷。誰も、管理者権限を使えない。…
ザリッ…
「逃げるなよ。」
「…ッ…」
「あいつは…茅場晶彦は、どんな状況でも、決して逃げなかったぞ。」
「か、かや…茅場…」
「…お前の気持ちは分からないでもないよ、須郷。」
「…ッ…」
「身近にいる、自身の能力を超える能力を持った、天才の存在。その存在に憧れ、いつしか嫉妬を覚える、その感情は。」
チラリ、と…。
彼は背後に視線を向け…
「それに俺もやつに負けて、家来になったからな。」
そう言って笑った。
「…けど、俺はあいつになりたいとはこれっぽっちも思わなかったよ。」
「…
ーーーーーーーーーーーー
「…ふざけるな…」
体が、震える。
整えられた金髪と、輝く防具が揺れる。
「お前なんかが…お前みたいなクソガキが…この僕の気持ちが分かるだと…?」
そしてその揺れはやがて、城全体を巻き込んでいく。
赤黒い床は揺れ、《ヒビ》も入っていく。
「…お前なんか…お前らなんか…!」
ガシガシと、彼は整った金髪を乱す。
そして…
「《本当の力》は何も持っちゃ居ないんだよォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」
黒く濁ったオーラが、アルベリヒを一瞬にして包み込んだ。
ーーーーーーーーーーー
「メル。状況を。」
『…アルベリヒのアバター情報がコンピューターウィルスに似たものに上書きされていってるわ。このアバターNo.は……』
「…どうした?」
『…測定不能。』
「は?」
『測定不能、って言ったの。…おそらく、この世界に今まで存在しなかったフォルムのボスモンスターが誕生してる。…もう、止められない。』
「…そのことと《最終確認》をメッセでこの場にいる全員に周知してくれ。あとはこっちで何とかする。」
『了解。…アバターを引き剥がせるかも試してみるわ。』
ピッ。
「兄貴…」
「ああ、聞こえてた。」
「どうする。」
「どうするって、やるしかねえよ。」
「…だよな。」
ーーーーーーーーーーー
攻略組のメンバー全員に送られたメッセージには大まかに3つのことが書かれていた。
1つは今の須郷の状況。
2つ目はこの場所が既に結晶有効空間へ移行したこと。
そして3つ目は、《人》を殺せるかの確認。
今、この世界のボスプレイヤー…ボスモンスターは、アルベリヒ。
つまり生身のプレイヤーだ。
今までの彼らが相手していたのは、純粋なボスモンスター。
キリトとカズマ、シュンヤ達とは訳が違う。
そのことを意識して動きが鈍くなっては、かえって邪魔になる。
だから、その覚悟がないやつは街に戻れという、カズマからの《最終通達》というわけだ。
今からこの空間が、須郷の移動を抑えるための脱出不能エリアになるまでの1分間。
その場にいる全員が、《決断》を迫られていた。
ーーーーーーーーーーー
…黒く濁ったオーラが、晴れていく。
その中から現れたのは、正しく異形。
下半身は床と同化しているが、飛び出している上半身には紫色のフルメタルアーマーが着られ、逞しい両腕が伸びる。
そして、鎧の奥に見える紫色の眼と金髪がそれがアルベリヒであるということを物語っていた。
「コロシテヤル…ボクノジャマヲスルヤツラゼンイン、ブチコロシテヤル…!!」
グォアアアアアアアァァァァァァ!!!
そんな言葉と共に鳴り響く怒声。
城全てが揺れるように、空気もビリビリと震えた。
「コウヤさん。あれの情報は…」
「ない。面目ないことだが…」
「ですよね…メル、どうだ?」
『…引き剥がすのは無理ね。既に彼のナーヴギアにアカウント情報が上書きされてる。まだ完全じゃない私じゃ、これ以上は無理ね。』
「…倒せるのか?」
『そこは大丈夫。HPが0になればあいつもゲームオーバー扱いになるわ。』
「…了解。」
カズマは通話が切れたのを確認すると、後ろに振り返った。
…そこには既に、更なる《覚悟》を決めた、勇者達の姿があった。
「…もう後戻りは出来ない。…皆。」
「勝って、《向こう》に帰るぞ。」
「「「「「おうッ!!!!」」」」」
「皆さん、今回の作戦ですが…」
「久しぶりの、《フォーメーションF》で行きます。」
…最後の死闘が、幕を開ける。
「…行くぞ。」
久しぶりの前後編なり( ̄^ ̄ゞピッ