ソードアートオンライン 〜鋼鉄の記憶〜   作:誠家

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茅場晶彦が憎い。



順風満帆だった人生が、大学でのあいつの出現で全てが崩れ去った。

教授の期待も、功績も、学会での評価も、ゼミでの立場も…

好きだった、異性の相手でさえ…


あいつのせいだ。


あいつが、あいつがいたから…!!


アイツガイタカラ、ボクハ…ボクノジンセイハ…


()()()()()()()()()()()



ニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイ!!




飄々としながら、僕の全てを横からさらっていくあの男が…


第39話 LAST(中編)

 

 

「ニクイ!!!」

 

 

 

咆哮と共に吹き荒れる暴風。

まるで恨みそのものをぶつけられたような風に、カズマは苦笑を浮かべた。

 

 

「ったく、私怨に人を巻き込むなってんだ…!」

 

 

そう毒づくと、すぐさま加速を開始。

自身の何倍もの巨体を前に、臆すことなくその身と剣1つで突撃を実行する。

 

…だが、STRは凄まじくとも、AGIはそこまで高くないカズマのステータス。

 

容易にアルベリヒの視線がカズマの姿を捉えた。

アルベリヒの口が歪む。

 

 

「グォアアアアァァァァァァ!!」

 

 

化け物じみた雄叫びと共に繰り出される右手の1発。

凄まじい威力を内包したであろう一撃が、カズマの目前へと迫る。

 

まともに受ければタダでは済まないであろうその一撃を…

 

 

「…ッ…!!」

 

ヒュカッ!!

ズゴォンッ!!

 

 

真っ向から、受け流した。

 

 

「チッ…!!」

 

 

思わずアルベリヒの口から、舌打ちが零れた。

 

そして、アルベリヒは更に連撃。

その全てを、カズマは迎撃していく。

 

彼のパワーと技術だからこそ為せる絶技。

 

 

「シャラクサアアアァァァイ!!」

 

「おぐ…ッ!?」

 

 

最後の左拳を迎撃した、直後。

カズマの腹部に衝撃が走った。

 

見るとそこには、彼の腹部に直撃する紫色の物体。

 

そして次の瞬間。

カズマの体は紙細工の様に吹き飛ばされる。

 

そのまま赤黒く光る壁へと激突した。

 

 

「か…はッ…!!」

 

「シネェ!!」

 

「カズマ!!」

 

「俺がカバーに入る!!」

 

「私も行きます!!」

 

 

カズマを追撃するために放たれた紫色の光線。

低スタン状態で項垂れるカズマの、前。

 

フルメタルアーマーに身を包んだ2人のプレイヤーが割って入った。

 

巨大な盾を持つ2人は、光線を難なく弾いた。

 

 

「カズマ、無事か!?」

 

「カズマさん、大丈夫ですか!?」

 

「おぉ…愛の力だな…」

 

「冗談言えるなら大丈夫だな!!」

 

「…ドライだ。まあでもありがとう、シバちゃん、リーテンさん。」

 

「お構いなく!!」

 

 

無愛想な顔のシヴァタと眩しい笑顔のリーテンに、カズマは礼を言う。

 

前線へと戻るシヴァタとリーテンを見送りながら、カズマはポーションを煽った。

 

 

ザッ…

 

「…見えたか、シノン。」

 

「ええ。…基本的な弱点はヒューマン型のモンスターの上半身と一緒よ。ただ、フルメタルアーマーで覆われてるから、弓矢で狙うには少し骨が折れるわね。」

 

「狙えそうな弱点は?」

 

「顔の額にある赤い宝石。…あと、胸のプレートの奥に強い《反応》があるわ。…あのプレート、削れる?」

 

「ちょっと時間はかかるけど、上等だ。…外すなよ?」

 

「誰に言ってんのよ。」

 

 

シノンの自信満々と言わんばかりの返答の後に脇を小突かれ、カズマは笑った。

 

 

「いつまでも休んでないで早く行きなさいよ、ダメージディーラー様。」

 

「へいへい。」

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

「リーテンさん、シヴァタさん。光線の威力はどんなもんでしたか?」

 

「シュンヤか。俺たちタンクが弾くのは問題ないが、ダメージディーラー達が俺たち無しに受けるのはかなり危険だ。軽い装備を使うお前やシリカ達は特にな。」

 

「わかりました。ありがとうございます。」

 

 

 

 

「…カズマの受けた飛翔する鎧による攻撃。あれを受けた後のカズマのHPの減りはざっと1割程度…。そこまで警戒する攻撃じゃないか…。カズマの受け流してた攻撃は、完璧な受け流しだったのに0.5割程度の減少。タンクが正面から受けても1割程度…。直撃は避けるべき、か…。他には…」

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

「パンチ攻撃来るぞ!ディーラー組、全員タンク隊の後ろへ!!」

 

 

キリトの指示に呼応して、最短のステップでタンク隊の後ろへと下がるプレイヤー達。

 

彼らは全員、ビーターズと風林火山に所属する者達だった。

 

彼らのタンク隊がパンチ攻撃を防ぐのを見届けながら、キリトは振り向く。

 

 

「シャム、HPはどうだ!?」

 

「全員グリーンゾーンに収まっています!あの距離間での攻撃なら、十分安全かと思います!…ただ…」

 

「痛打にはならない、か…」

 

「…はい。このままでは、HP0は途方もない作業です。」

 

 

それにはキリトも頷いた。

 

見ると、アルベリヒのHPはHPバーが5本あるのに対して、今は1本目のイエローまで減ったところ。

 

 

今までの彼らの攻撃は、タンク隊が耐えた後に生まれた隙に反撃されても問題ない程度の攻撃を繰り出し、危険を感じたらまたタンク隊の後ろへ…。

 

これの繰り返し。

 

残念だがこの戦い方ではいつかは決着も着くが、その前にタンク隊が消耗仕切ってしまう。

それに、相手に回復スキルがないとも限らないのだ。

 

キリトは決定打を欠くというのは後々自身達の首を絞めるであろうことを、これまでの経験から直感していた。

 

 

「クソ…ッ!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

スリーピング・ナイツは、後方で休息をとっていた。

 

 

 

「うーん…なんとも攻めにくいね、このボスは。」

 

 

スリーピング・ナイツのギルドリーダー、紫色のロングヘアを持つユウキは、少し軽くそう呟いた。

 

だが、彼女の体に所々入る傷跡や、依然として回復中であるHPを見ると彼女が突破口を切り開こうと尽力していたことが見て取れる。

 

 

「一見、足がなく動けないからこちらのペースに持ち込めそうだけど、逆に言えばいつも私達を捕捉してる…背後には回りづらくなってるからですね。」

 

「もう少し動き回ってくれた方が、死角になる背後は取りやすいんだけど…」

 

 

シウネーとランの小言。

だがそれは、今現在攻略組が攻めあぐねている理由の一つでもあった。

 

攻撃も単調のようには見えるが、プログラミングされた一定の動きしかしないボスモンスターではなく、元は思考できるプレイヤーであるためなおのことタイミングが計りづらい。

 

 

「《歩いて移動する》ってことは、毎秒状況が変化するってことだもんね…つまり今のアルベリヒは、変わらない状況で攻撃に専念出来てるってこと…」

 

「…《経験不足》というハンデを、自身のアカウントフォルムに工夫をすることで無くして来たのですね…」

 

「…学習してきたラスボスってことか…厄介だな。」

 

 

ノリとタルケンの言葉に、ジュンは歯ぎしりをしながら「くそ…」と、吐き捨てた。

 

 

「…おい、その話、本当かよ。」

 

 

3人の話に、1人のプレイヤーが反応した。

そこに居たのは、血盟騎士団のダメージディーラー隊の1人。

 

 

「…なんだよそれ。それってつまり、あいつに力不足だと思い知らさせたから、今のアルベリヒはあんなに強くなったってことか?」

 

「あ、いや…そういう可能性があるってだけで…」

 

 

 

「つまり、あいつがあんだけ強くなったのは、無闇にあいつを煽った《死神》のせいってことじゃないのか!?」

 

 

 

「なに?俺の話?」

 

 

タイミングが良いのか悪いのか。

 

吹き飛ばされて、しっかりとHPも回復して帰ってきたカズマが現れる。

 

 

「カズマさん、これは…」

 

「俺になんかあんだろ?戦闘中だから手っ取り早く頼むよ。とりあえずユウキ、スリーピング・ナイツで少しの間前線頼んだ。」

 

「了解。」

 

 

カズマの頼みを聞いてユウキは、そそくさとスリーピング・ナイツの全員を率いて前線へと戻っていく。

 

 

「で、なに?」

 

「…アルベリヒがあそこまで強くなったのは、お前の責任じゃないのか。」

 

「まぁ、そうだな。否定はしない。」

 

「お前…!!」

 

「あなた達、こんな時に何してるの!!」

 

 

事態に気付いたのか、血盟騎士団の部隊を指揮していたアスナが近寄ってくる。

 

しかしカズマは彼女を手と目で制すると、詰め寄ってくるプレイヤーに口を開いた。

 

 

「確かに叩きのめすことで、アルベリヒの強化を招いたのは俺だ。けど、申し訳ないとは思ってない。何故ならそこに《意図》があり、その意図がしっかりと結びついたからこそ今の《クリア可能》な状況があるからだ。」

 

 

 

「アンタが無闇矢鱈に俺が私欲のためにアルベリヒを煽ったと思っているのなら、()()()()()。」

 

 

 

「な…ッ!」

 

「それと、今そんなことを聞いてなんになる。今の俺達の役目はボスを倒すこと。俺への恨みつらみは全部終わってからにしろ。優先順位を間違えんな。…全員死ぬぞ。」

 

 

カズマはそれだけ告げると、何も言えなくなった血盟騎士団のプレイヤーから目を離し、前線へと戻っていく。

 

彼の肩に、アスナは手を置いた。

 

 

「…彼の言い分全てを正しいか、あなたが判断する時間はないわ。ひとまず、最後の言葉は彼が全面的に正しい。優先順位は間違えてはならない。…切り替えなさい。」

 

「…はい。」

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

「カズマ、ちゃんとあの人が理解出来るように説明してあげた?」

 

「そんな時間は無い。」

 

「まーたカズマ誤解されてるでしょそれ。ほんとは皆のこと第一優先に考えてるのに。」

 

「別にいいんだよ、俺への認識なんてもんは。今この場においてはな。」

 

「ほんとそういうとこはドライだよねぇ。」

 

「いいから、早く突破口を開くぞ。」

 

「りょーかい。」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

開戦前は騒がしくなっていた、対アルベリヒ戦。

 

 

開戦した今は、それとは反対に静かな立ち上がりとなっていた。

 

最初こそカズマの突進や、アルベリヒの攻撃の直撃などの動きがあったものの、今は互いが互いを牽制しあい、動きらしい動きは無い。

 

アルベリヒも攻略組も、隙らしい隙は見せていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()までは。

 

 

 

 

 

 

 

アルベリヒの視界が捉えているのは、攻略組の最後方ーー。

 

 

そこにいるのは、巨大な弓矢を番えた少女と長槍を肩に構えた青年。

 

2人のプレイヤーの役割は、先の戦闘から分かっている。

 

 

戦闘での重要な局面で、ボスのウィークポイントを正確無比に撃ち抜くという狙撃手のごとき仕事ぶり。

 

今このフロアにおいて、ダウンするための鍵でもあるアルベリヒの()()()()()、額の宝石を撃ち抜けるのは彼らしかいない。

 

 

ーーそう。

 

逆に言えば…

 

 

 

 

『…この時を、待っていた。』

 

 

「…ケヒッ」

 

 

 

彼らさえ葬れば、アルベリヒの勝利は大きく近づくのだ。

 

 

 

 

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

 

 

 

動くアルベリヒの体。

 

攻撃を仕掛けようと画策していたダメージディーラーとタンクの部隊は、パンチ攻撃を予測し思わず身構えた。

 

 

…だが、彼らはそうでないことにはすぐに気づいた。

 

アルベリヒがとったのは、蹲るような体勢。

何かを抱え込むようなその姿は、今まで見せなかったもの。

 

…そして。

 

 

「しま…ッ!!」

 

 

装甲の下の笑みを見た瞬間、察しの良い者は気付いた。

 

アルベリヒの、目的を。

 

 

 

「シノン!ウッ…!!」

 

グォアアアアァァァァァァァァァッ!!!

 

 

カズマが声を上げた瞬間。

アルベリヒも雄叫びを上げて、その声をかき消した。

 

そして彼の背中にある穴から放たれる、八本の紫色の光線。

 

その1本1本が、先程カズマを狙って撃たれた物と同じ威力を内包していることが見て取れた。

 

 

「俺が…!」

 

「ダメだシバちゃん!間に合わねぇ…!!」

 

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

 

 

シヴァタは驚きを隠せなかった。

 

アルベリヒの行動に、では無い。

 

 

カズマが、これまで聞いた事のないような焦りを前面に出した声を上げたことに、だ。

 

 

つまりこれは、彼にすら《予測》出来なかった攻撃。

 

これまで見た事のない攻撃だったこともあるだろうが、何よりカズマはシノン達と自身達の距離がカバー出来なくなるまで遠くなっていることに、気付いていなかった。

 

普段なら、気をつけていたことなのに。

 

 

それだけ彼も、この戦闘に()()()()()()()のだ。

 

 

 

これも《最終決戦》故の出来事だった。

 

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

 

 

「2人とも、避けろー!!!」

 

 

カズマの声が響く。

2人にも、届いたはずだ。

 

だが…

 

 

「………」

「………」

 

 

2人は、獲物を射出ポジションに置いたまま1()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

…そして。

 

 

 

 

 

 

 

ズゴオオォォォォンッ!!!

 

 

 

 

 

 

着弾。

轟音。

 

凄まじい音と共に到達する熱風。

その熱さが、どれだけの威力を内包していたかを物語っていた。

 

 

「ケヒャ…ケヒャヒャヒャヒャッ」

 

 

勝利を確信してか、自身の策がはまった達成感か。

アルベリヒは笑う。

 

煙が晴れるのも待たずに。

 

 

アルベリヒと違い、攻略組内部に漂う絶望に似た感情。

 

 

当然だろう。

 

ボスの遠隔攻撃と対抗出来る、攻撃手段である2人を一気に失ったのだから。

 

彼女達がタンク無しにまともに当たれば、生きていることは有り得ないのだ。

 

 

 

 

 

「ケヒャヒャヒャヒャッケヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!」

 

 

 

 

 

ーー煙が、晴れていく。

 

 

二人の立っていた場所を覆い尽くしていた濃い煙は、そのまま横に流れていく。

 

 

儚いポリゴンへとその身を散らした2人の姿を、彼らの瞳は捉えたーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ケヒャヒャヒャ…ヒャ…」

 

 

 

ーー違う。

 

彼らが捉えたのは、信じ難い光景。

 

 

極大威力の光線が落ちた場所。

 

彼女達が元々立っていたその場所に、()()()()()()()()その手に獲物を構えて、彼らは立ち続けていたーー。

 

 

 

「バ…バカ、ナ…」

 

 

「……待ってたわ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()を、ね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、番えられた三本の矢と赤色の長槍が光り、周りを照らし出す。

 

ソードスキルーー。

 

 

 

 

タメは、一瞬。

 

 

 

 

「…王手(チェック・メイト)。」

 

「…ヌオォラアッ!!」

 

 

 

 

 

射出は、同時。

 

 

弦と剛腕。

 

 

2つの異なる射出装置から繰り出された、4本の流星は、確かな軌道を描きながら…

 

 

 

 

 

 

 

スカアアアァァァンッ!!

 

 

 

 

 

 

先程の光線とは全く違う音。

 

 

乾いた、芯を叩いたかのような軽やかな音に全員が耳を奪われた。

 

 

三本の矢と、1本の赤い長槍。

 

その全てが、アルベリヒの額にある宝石を寸分の狂いもなく撃ち抜いた。

 

 

…そして。

 

 

その宝石は、微かな音を立てながら呆気なく霧散したーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グァアアアアァァァァァァアアアァァァァァァアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!????」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フロア全てを揺らすような、アルベリヒの絶叫。

 

だがそれは今までのような咆哮ではない。

 

 

これまでのボス同様、ウィークポイントを撃ち抜かれ、ダウンする直前に行う行動。

 

 

 

 

つまり、悲鳴だった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

『イッタイ…ナゼダ…!!?』

 

 

 

アルベリヒの脳内は、倒れこみながらも困惑に包まれていた。

 

 

彼が今繰り出した、背中の砲台からの特殊攻撃の発動。

 

あれの威力は、まともに受けてしまえばタンクのHPをも吹き飛ばす程の極大威力のスキル。

 

使うことによって多少のディレイがあることは否めないが、それを使ってでもアルベリヒは二人の後衛を始末しに行ったのだ。

 

…だが、事実としてそれは叶わなかった。

 

あの二人は《何らかの手段》を用いてあの攻撃を回避もしくは迎撃し、自身に攻撃を繰り出した。

 

 

 

『ドウ…ヤッテ…』

 

 

 

 

 

 

 

 

「…隠蔽、解除(ハイディング・リリース)。」

 

 

 

 

 

 

その《答え》を、彼の目はしっかりと捉えた。

 

シノンとウッドの、目前。

 

まるで透明なベールが脱げていくかのように、その姿を現す3人のプレイヤー。

 

まず、巨大な盾を持った二人のタンク。

 

そしてその後ろに彼らを支えるような形で立つ、和装の青年。

 

 

シュミット、コウヤ、そして…シュンヤ。

 

 

 

 

…その瞬間、アルベリヒは思い出した。

 

 

 

 

彼の…シュンヤの持つ、《スキル》の名前を…

 

 

 

『…エクストラスキル…《シノビ》。』

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

数ヶ月前。

 

 

七十六層へと到達した直後のこと。

 

俺のスキル欄に、見覚えのないスキルがいつの間にか追加されていた。

 

歴史上ではかつての日本で、将軍に仕える《影》として活躍した者達を指す、その名称。

 

 

このスキルのことを相談したキリト、カズマ、そしてアルゴはスキルの内容を見て口を揃えこう言った。

 

 

 

「こりゃ便利そうだ」、と。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

エクストラスキル《シノビ》。

 

 

このスキルの特徴は、エクストラスキルには珍しい()()()()()()()()()()()()

 

このスキルの本質は《パッシブスキル》。

キリトやカズマがよく使う《索敵》と《隠蔽》のスキルがこれに当たる。

 

他にも存在するパッシブスキルの中でも、あらゆる面で頂点に君臨するのがこのエクストラスキル…

 

 

 

いや、シュンヤのユニークスキル《シノビ》なのである。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

「本当に便利だな、そのスキル。」

 

 

先んじて回復を終えたシュミットとコウヤを見送って。

 

ダウンしたアルベリヒに攻撃を加えるため、攻略組のダメージディーラー達が彼に群がる中、MP回復のためにポーションを煽っていたシュンヤにウッドが話しかけた。

 

 

「まさか()()()()()()()1()0()0()()()()()()()()()()()()()()サポートスキルが存在したとは、聞いた直後は信じられなかったぞ。」

 

「…まぁ、《自身と両手に触れているプレイヤーのみ》、《動かない状態に限る》っていう制限はあるけどね。」

 

「それって、動く対象にもかけられるの?」

 

「一応は。ただ、普通の隠蔽スキルと同じで、対象が動いてると少しだけ効果が薄れるので見つかりやすくはなるんですよね。それでも、高速戦闘中に見つかることはほとんどありませんけど。」

 

「十分過ぎる。」

 

 

 

「それにしても、シュンヤにしては珍しく今回の《囮作戦》は他の連中には何も言わず実行したんだな。」

 

「はい。変に意識されてその視線でアルベリヒに気取られるのも嫌ですし、《フォーメーションF》は各々の判断に突破口の開口を委ねるもの。()()()()()()()()()()()()からこそ、このフォーメーションにしたんです。」

 

「…なるほど。最初からこの手の少数人数での作戦も織り込み済みってことか。」

 

「もちろん。」

 

 

 

 

 

 

「敵を完璧に騙すなら、まずは味方の意識から僕自身の存在を無くさないと意味がありませんからね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…シュンヤ。あなた、カズマに少し似てきたわね。今回のやり方とかその笑い方とかまんまよ。」

 

「ははは…なんだかんだずっとコンビ組んできた、腐れ縁ですから。」

 

「お前も運がねぇな。あいつと関わり持つと、なかなかめんどくせぇぞぉ?」

 

「もう慣れるほど、痛感してますよ。」

 

 

シュンヤは、そう言って笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼らが奪ったこのダウンは言わば、戦況という小さな火への着火剤。

 

たった一つ投げ込まれた、その《異物》は…

 

 

 

小さな《火》を、全てを飲み込むほどに大きな《炎》へと、猛らせていくーー。

 

 

 

 

 

 

 





《スキル説明図鑑》

防御特化スキル《双璧》

防御型盾持ち片手武器使い(通称:タンク)の最上位スキル。
一度発動を始めるとタメに時間がかかり、1歩も動けなくなるという制限はかかるが、発動することによって一定の範囲を完全防御出来る防御膜を作成できる。

タンクとしての練度を最高まで上げ、かつステータスが一定以上のプレイヤーが二人いることで発動が可能となる。(スキル自体は持っている者が一人いれば発動可能)

プレイヤー例:シュミット、シヴァタ、コウヤ、テッチ、リーテンなど



まさか前後編どころか、前中後編なるとは思いませんでした By作者
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