ポーンという音がすると俺はポットを持ち上げて二つある内の片方のコップに茶を注ぐ。別になんの効果もない紅茶だが俺は案外この茶の味が気に入り大人買いしていた。
もう片方にも注ぐと俺はティーカップを持ち上げて小さめのテーブルの上に置く。
「ほれ、飲みな。」
「ありがとう…ございます。」
俺の目の前にいる女性プレイヤー、ラン…本名《紺野藍子》は、おそるおそるカップを口につけた。途端に硬い表情が少し緩くなる。その光景を見ながら俺は少し笑って自分も茶を少し飲む。
カップをテーブルの上に戻すと、まずは俺から質問をする。
「それで、なんでわかったんだ。」
「何が…ですか?」
聞き返してくる藍子に俺は苦笑を浮かべる。
「俺が《和真》だってことだよ。少年期から顔も体格も結構変わってんだろ?」
「…たまたまですよ。」
俺はその答えに「ククッ」と喉を鳴らす。
「な、なんですか…」
「お前なあ、そんな賭けをして男に話しかけるやつなんているかと思うか?名前が同じでもしねえよ、そんなもん。」
藍子は数秒の沈黙の後、「はあっ」と息を吐いた。
「やっぱりカズマさんには敵いませんね…。」
「と、いうことは…?」
「ええ、気づいてましたよ。あなたが和真さんであることは。もちろん、顔を一目見ただけで。」
藍子は少し得意げにそこまで大きくもない胸を張る。
「なんで顔を見ただけで俺だとわかったんだ?さっきも言ったけど俺って結構顔変わっただろ?」
「確かに、今のあなたは昔のあなたよりかなり悪そうになってます。」
ほっとけ。
「悪かったな、そこまでイケメンじゃなくて。」
「あ、いえいえけなしたわけじゃないんです。昔よりイケメンになったと言おうとしただけで。」
どこがだよ。
俺は心の中で突っ込む。こいつは昔からドジっ子気質があるのだ。そのため将来が心配で心配で仕方がなかったのを覚えてる。
「こほん…話が逸れてしまいましたね。それではなんであなたのことに気づいたのか、種明しといきましょう。」
話を強引に変えやがった。
「あなたの顔を見ただけで気づいた理由。それは…」
絶対にいらない少しの間。別に焦らすことないだろ。
「私が、あなたの顔を見たことがあるからです。」
「…え?」
俺は口から間抜けな声を出していた。
ーーーーーーーーーー
アスナが3日ぶりに選んだ晩飯のメニューはベーカリーで一番安い黒パンと噴水で汲み放題の水だった。
もそもそと硬い黒パンを苦労して噛みちぎる。向こうではボス攻略パーティーがどんちゃん騒ぎをしているが行こうと思うことはなかった。
「結構美味いよな、それ。」
アスナはいきなり聞こえたその声にピクリと肩を震わせると微妙な角度、振り向く。
そこにいたのは少し前に別れた男が立っていた。アスナを助けたソードマン(片手剣使い)。
彼はアスナに「横、座ってもいいか?」と聞いてくるので無視を選択する。
こうしているといずれは遠くに行ってくれると期待していた。しかし、彼は思いもよらぬ行動をとった。躊躇なくアスナの横に腰を下ろした(もちろん一定の感覚をとっていた)。
いつもならそそくさと退散するところだがアスナは少しお尻の位置をずらし、距離を取るだけでとどまる。
彼はポケットからアスナと同じ黒パンを取り出すと一口かじる。その様子を見てアスナは無意識に口を開いていた。
「…本当に美味しいと思ってるの?それ。」
彼は口の中のものを胃に嚥下すると口を開く。
「もちろん。この町に来てから、1日一回は食べてるよ。まぁ、ちょっと工夫はするけど。」
そういうともう片方のポケットから瓶を取り出し自分とアスナの中間地点に置く。
アスナは少しためらって瓶の先っぽをタップ。指が青白く光る。彼を見ると黒パンの方を指差す。
おそるおそる指をパンの端から端まで動かすと少し黄色がかった白色のごってりしたものが大量に出現する。
「クリーム?」
彼の方を見ると同じ動作をしてパンを口に運んでいた。どうやら毒は入ってないようだ(まあ、圏内では毒にかからないのだが)。
アスナは意を決してパンにかぶりつく。
途端、驚きに包まれた。
クリームはほのかな酸味が効いていてかなりの美味だった。夢中で食べると4口で食べ終わっていたアスナは羞恥に顔を染め、その場から立ち去ろうとしたがご馳走になったのにこのまま帰るのは無粋というものだ。
「ごちそうさま…」
「どういたしまして。今のクリームを手に入れるクエスト、《逆襲の雌牛》っていうんだけどやるんだったらコツを教えるよ?」
少々魅力的な提案だったがアスナは首を横に振った。
「いい。美味しいものを食べるために、私はここまで来たわけじゃない。」
「ふうん。なら、なんで?」
普通なら、ここで会話は終わる。しかしアスナの口は自然に動いていく。
「自分が、自分でいるため。」
その言葉に、ソードマンは何も言わなかった。
「最初の街で宿屋に引きこもって少しずつ腐っていくよりモンスターに殺された方がマシ。モンスターに負けても、この世界には負けたくない。」
その言葉を聞いてソードマンは少し前傾姿勢になると、小さく、しかし確かな声でこう答えた。
「パーティーメンバーに死なれるのは困るな。せめて明日はやめてくれ。」
そこで、乾いた夜風が2人の前髪を揺らした。
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「俺の顔を、見たことがある?」
俺は首を振る。そんなことはありえない。俺の母さんとあいつの母さんはもう交流はないはずだ。写真を見ようにも見れないのが現状だ。
「いえ、見てるんですよ。確かに。」
「どうやって…」
「総体、ですよ。カズマさん。」
俺の声に藍子が割り込むように言葉を発する。
「…ああ、そうか。」
そうだ、その手があった。
俺は深くため息をつく。
総体。俺は夏頃、部の代表としてそれに出場した。出場枠六つのうち3つはすでに三年の先輩が埋めていたので一、二年の中から残り三つを埋めなければならなかった。結果、俺と直葉、そして二年の先輩が選ばれた。
俺と直葉はその大会で快進撃を見せ、結局2人とも全国大会の第4位という結果で幕を閉じた。
その時取られた写真は今もネットで残っているはずだ。…本名といっしょに。
「私が気まぐれで総体の結果を見てるといたんですからびっくりしましたよ。しかも一年生でですからね。」
「そりゃどーも…」
「私、カズマさんが前に出てきた時一瞬でああっ!と思いましたからね。」
藍子がまた胸を張る。まさか総体の結果が見られていたとは。そら気づくわなと俺は思う。
「まあ、私からしたら嬉しかったですよ。カズマさんに会えたので。」
藍子が下手くそだが魅力的なウィンクを送ってくる。俺はそれに笑って返事をする。しかし…
「それと…」
途端に藍子の顔が途端に引き締まり、声のトーンも低くなる。
「カズマさんに、お願いしたいことがありましたし。」
「…お願い?」
俺は残りの茶を流し込む。すこし、いらな予感がする。
「お前が俺にお願いとはな…。…内容は?」
俺の質問に、藍子は真剣な口調で答えた。
「カズマさん、あの子…ユウキと会ってくれませんか?」
あー、疲れた。最近コメント来ないなー。誰か書いてね( ̄▽ ̄)また次回!