ソードアートオンライン 〜鋼鉄の記憶〜   作:誠家

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前回投稿から2年以上サボってたらしい(すみませんでした)

ちょい長め( ´∀`)b




第9話 1人じゃない

 

 

寒空の下。

 

…と言っても、既に暦の上では春であり一ヶ月前に比べると暖かさのある3月。

 

綺麗な青空の下を、同じ茶髪の髪をした男女2人組が歩く。

 

 

男性の方は髪を短く切り揃えており、赤いジャンパーの下に黒のTシャツ、腰から下は深緑のパンツに足を通す。

 

女性は長く伸ばした髪を左右で二つ結びにして白いベレー帽を被り、フワフワの白いコートを着て、藍色のジーパンに足を通していた。

 

 

2人はそれぞれの手と指を絡めて握り合い、ゆっくりと石畳の階段を登り続ける。

 

 

「隼人さん、こっちです。」

 

「はいよ。」

 

 

握った手を少女に左側へ引かれ、青年はそれに従って少女にワンテンポ遅れて進む方向を変える。

 

2人の周りに並び立つのは、墓石。

 

石で作られたそれらは、彼等が歩く場所に独特の雰囲気を醸し出す。

 

2人の男女は手を繋いだまま狭い通路を歩き、目的地を目指す。

 

そして、1つの墓石を見つけ、2人共同じ場所で立ち止まった。

 

 

そして、少女が青年の手を離し少しのぞき込むように墓石へと目線を合わせた。

 

 

「久しぶり。…来たよ、兄さん。」

 

「…ご無沙汰してます、和幸さん。」

 

 

石碑に刻まれる文字は、《武藤家ノ墓》。

 

 

少女…武藤紗綾の兄・武藤和幸の眠る場所だった。

 

青年…霧谷隼人は、紗綾と同じように墓石の前へと腰を下ろした。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

武藤和幸の亡骸は、須郷伸之率いる《レクト・プログレス》が根城にしていたレクト本社の地下から発見された。

 

死因はナーヴギアの高出力スキャンによるもの。

 

彼はラスボスではなくプレイヤーとして、攻略組の面々と相対し、そしてその命をあの世界で散らしたこととなる。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

「紗綾、掃除こんなもんでいいかな?」

 

「はい、大丈夫だと思います。花は私がやっときますね。」

 

「ああ、頼む。」

 

 

「…すみません、隼人さん。兄さんのお墓参りに付き合わせちゃって。」

 

「いいさ。俺も挨拶しときたかったしな。」

 

 

そう言って笑い、隼人は桶に汲んだ水を墓石にかけて手で汚れを洗い落としていく。

 

桶の中の水を使い切ったところで、隼人は桶を地面の上に置いた。

 

 

「紗綾、ちょい寄って」

 

「あ、はい。すみません…」

 

 

2人とも墓石の前にしゃがみこんで、ゆっくりと手を合わせる。

 

各々の念をその旨に秘めながら、おおよそ1分ほど手を合わせ続けた。

 

 

 

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

 

 

「隼人さん。」

 

「…おう。」

 

 

時は数ヶ月前に遡る。

 

4月に《ソードアート・オンライン》がクリアされ、ようやくの思いでプレイヤー達は長い拘束から開放された。

 

そこから約2ヶ月の時が経ち、事件解決の賑わいも落ち着きを見せ始めた頃。

 

 

…隼人は、思いっきり拗ねていた。

 

 

「…隼人さん?」

 

「…なに。」

 

「…拗ねてます?」

 

「別に…」

 

 

拗ねていた。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

少しだけ、時を戻そう。

 

 

ソードアート・オンライン攻略が実現し、現実世界へと解放されたあの日。

 

和人、和真、直葉達が家族で帰還を喜んでいたその時に、隼人はとある場所へ向かっていた。

 

ナーヴギアを脱ぎ、点滴スタンドを杖代わりとして一歩一歩、歩を進めていく。

 

途中看護師の静止があり、それを振り切りながらゆっくりと病室一つ一つの表札を見ては、歩を進めた。

 

 

…そして、見つける。

 

 

《501 武藤紗綾》

 

 

「シャム…」

 

 

彼はそう呟き、ドアの取手へおもむろに手を伸ばす。

 

取っ手をつかみ、ドアを開けようとするがあまりの重さにすぐに開けることは叶わない。

 

やがて、やせ細り震える手からの力に観念したように、引き戸の隙間が少しずつ、本当に少しずつ大きくなっていく。

 

そのままドアを押し込み固定してから、隼人は部屋の中へと点滴スタンドと共に入室した。

 

…だがそこで。

 

 

「…ハァ…ッ…く、そ……」

 

 

約2年半ものあいだ動かしていなかった体が悲鳴を上げ、その場に倒れ込んでしまう。

 

膝をつき、肩で息をする。

 

あとほんの数メートル歩くだけ。

 

それだけなのに、体が言うことを聞かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

…だが。

 

 

 

 

 

 

「…しゅ、んや…さん…?」

 

 

 

 

 

 

下げていた頭の上から震える声が投げかけられ、隼人は思わず顔を上げる。

 

そこに居たのは、ベッドから隼人と同じく点滴スタンドを手に立ち上がった少女の姿。

 

あの世界…ほんの数分前までいた世界での彼女は、茶色の長い髪を2つに結び、卵型の顔やスラリと伸びた白い手足をしていた。

 

しかし目の前の彼女は、2年半の拘束の影響から長い茶髪はボサボサで伸びきっており、頬も手足もやせ細っている。

 

…同じ世界で、同じ時を過した、隼人と同様に。

 

 

だが、彼女の目に宿る強い光が。

 

何度も何度も、隼人を励まし、慕い、勇気づけてくれたその声が。

 

彼女が、彼女本人であることを隼人へ教えてくれる。

 

 

互いに目が合い、約数秒の時を見つめ合う。

 

…やがて。

 

 

「…ッ…」

 

 

クシャリと。

 

紗綾の顔が歪み、まるで泣き出しそうな顔をして口元を両手で覆った。

 

だが、体内の水分量が限界値だからか、不思議と彼女の目から大粒の涙は零れてこない。

 

かわりに嗚咽と、一筋のほんの少しの水滴だけが彼女の頬をゆっくりと流れる。

 

 

隼人はその様子に少しだけ笑みを浮かべ、ない力を振り絞るように、膝に手を付き重く軽い体を持ち上げる。

 

そしてゆっくりと彼女へと歩み寄り…

 

 

その細い体を力いっぱい抱き締めた。

 

 

驚くほど細く、肉が極限まで削られた肉体。

 

だが、それでも脈打つ心臓が、彼らの生存を物語る。

 

 

やがて紗綾も彼の右肩に顔を埋め、その手を隼人の腰に回し、力いっぱいに抱きしめた。

 

 

2人は互いの体温を感じながら、束の間の静かな安堵と開放感、喜びへと身を任せる。

 

 

…紗綾を抱き締める隼人の目にも、小さな雫が浮かび上がっていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

そんなこんなで、感動的な再会を現実世界で交わした2人。

 

その抱擁は紗綾の世話をしていた女性看護師が部屋に入ってくるまで続き、隼人はその後彼の世話をしてくれていた看護師と共に自室へ強制連行された。

 

まあその後当然、勝手に脱走した隼人には看護師と医者からお叱りの声を貰い。

 

様々な検査や家族、親族との面会など色々な用事を済ませていると、2人で会う時間などある筈もなく。

 

そんなやや面倒な用事も(家族や親戚に久々に会えたのは楽しかったが)終わり、落ち着きを取り戻した時に、その報せは来た。

 

 

「…接近禁止命令、ですか。」

 

「はい。」

 

 

紗綾の世話をしてる看護師が隼人の元へやって来て、そう告げた。

 

 

その報せを聞いて、隼人は少しだけ笑い俯いた。

 

 

「…驚かないんですか?」

 

「あー、いや。ちょっと予想してたので…。目覚めた直後に脱走しちゃったわけだし、それくらいのペナルティは病院側から見たら当然のことかなと…」

 

「…あー、いや。そうではなくてですね…」

 

「?」

 

「病院側としては、別に霧谷さんの行動はそこまで問題視されてないんですよ。病院全体がバタバタしてた時だし、当事者の患者さん達は喜びもひとしおだったでしょうしね。」

 

「じゃあなんで…」

 

「…実は、武藤さん自身からの御要望でして…」

 

「紗綾から?」

 

「理由としては…まあ…《乙女だから》としか、私からは言えません…」

 

「…?はあ…」

 

「…まあ、出来れば察していただけるとありがたいです。」

 

 

看護師はそう言って頭を下げると、彼の部屋を静かに退出した。

 

こうして、最愛の少女からまさかの接近禁止命令を出された隼人は、少し不思議に思いながらも実直にその命令に従い続けた。

 

 

 

その期間、およそ1ヶ月半。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

で、時は現実に戻り。

 

そんな展開もありながら、今の隼人のほっぺプクー(本気拗ね)へと至る訳だ。

 

 

ちなみに今は、紗綾がベッドに長座位で座り、隼人が来客用の丸椅子に座り込んでいる構図だ。

 

 

「まさか1ヶ月半もお預け食らうと思わんかった。」

 

「いやぁ…ははは…すみません…」

 

 

さすがの彼も色々と溜め込んでいたというか、解放前に帰ったら紗綾とどんな話をしようかと考えていた手前、今回のお預けはなかなかキツかったらしい。

 

普段は物分かりがいい彼も、今回ばかりは頬をふくらませながらそっぽを向いていた。

 

…だが、申し訳なさそうな紗綾を見た瞬間に、ため息をついてから彼女と目を合わせる。

 

 

「…ま、紗綾にも色々事情はあるだろうから、これ以上は大人気ないか。」

 

「…ありがとうございます。」

 

「で?仮想空間での話とはいえ男女の仲で、デートもして、お互いの裸も見た仲の俺を1ヶ月半接近禁止にした事情、そろそろ聞かせて貰ってもいいか?」

 

「話しますからその言い方やめてください…!!あとやっぱ根に持ってますよね…!?」

 

「いや全然。」

 

紗綾は顔を真っ赤にしながら両手で顔を覆って首を横に振り、なるだけ控えた大きな声を上げる。

 

かわいい。

 

 

「…その、笑わないで、くださいね?」

 

「笑うかよ。」

 

「…その…」

 

 

「……………………やせ細ったままの顔を、隼人さんに見られたくなかったので。」

 

 

「…ほう…?」

 

 

隼人は正直、イマイチ理解出来なかったが。

 

少し考えて、ようやく理解が追いつく。

 

あの時は特に気にもしなかったし、今でも別に気にしてはいなかったが当時の状況と言えば約2年半もの間の昏睡状態の影響で、俺達の体は限界まで削られていた。

 

今でこそ人並み(それでもモデルよりも更に細い)程度の肉はついているが、目覚めた直後は顔も体も骨と皮だけに見えるような状態だったわけだ。

 

彼女…紗綾は、その状態で俺と会って失望されることを危惧したのかもしれない。

 

あの時看護師が言っていた理由と「察してくれ」の意味がようやく分かった気がした。

 

 

「女の子は万全の状態で人と会いたいだろうし、そりゃそうだわな。確かにそこは俺の配慮が足らんかったかもしれん。ごめんな。」

 

「あ、いえ。隼人さんが謝る事では…。目覚めてから真っ先に無茶をして私のとこまで来てくれて…本当に嬉しかったです。…ただ…」

 

「ただ?」

 

 

 

 

「…その…隼人さんの前では、いつも可愛いと思っていて欲しいので…今回は、我儘を言いました…」

 

 

「………………」

 

 

 

 

最初こそハキハキと言葉を紡いでいたが、先に進むにつれて口元はおぼつかなくなり、ゴニョゴニョとしりすぼみに声が小さくなっていく。

 

顔を真っ赤にしながら布団で顔を隠す彼女には、抜群の破壊力が備わっていた。

 

ちなみに、隼人はというと。

 

同じ体制のまま真顔ではいるが、

 

 

『可愛い。』

 

『抱き締めたい』

 

『萌え殺す気かこいつ』

 

「キスしたい。」

 

「へッ!?!?」

 

「あ、やべ。声に出てた。」

 

 

大混乱であった。

思わず口に出た隼人の一言に、紗綾は更に顔を赤く染める。

もはや茹でダコのようになっていた。

頭から湯気が出てもおかしくない。

 

 

「そ、その…」

 

「や、すまん。取り乱しすぎた。今のはポロッと口から出ただけだからあんま気にしなくても…」

 

 

 

「…ですか?」

 

 

「へ?」

 

 

「…しないんですか?………きす。」

 

 

「…」

 

 

 

「………して、くれないんですか?」

 

「…ッ…」

 

 

もう、限界だった。

 

隼人は椅子から腰を上げて体を乗り出すと紗綾との距離を一気に縮める。

 

左手をベッドの上につき、右手で紗綾の頬に触れてから、そのまま彼女と唇を重ねた。

 

 

「…ん…」

 

 

漏れる紗綾の吐息と共に、唇に伝わるじんわりとした温かさ。

 

かつていた世界では何度も繰り返した行為ではあるが、かの世界でした時とはまったく違う感触に自然と胸が高鳴る。

 

隼人は、およそ10秒ほどの静寂の後に顔を離す。

 

紗綾は真っ赤な顔を口元だけ布団で隠す。

 

 

「…ケダモノ…」

 

「…最終的に誘ったのは紗綾だろ。」

 

「………」

 

 

少しだけバツが悪そうな顔をする紗綾に、隼人はクスリと笑みを漏らす。

 

 

「…ま、ここからまた再スタートって事で?」

 

「…ええ。」

 

 

 

「…またこっちの世界でもよろしく頼むな、シャム。離れてた数年分、しっかり埋め合わせるからな。」

 

「はい、シュンヤさん。…よろしくお願いします。」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

そして、さらに数カ月後。

 

 

数ヶ月に及ぶリハビリから日常生活が可能なまでに回復した2人に退院の許可が下り、同年の11月頃、2人は退院を果たした。

 

 

「隼人!瑛一!!よく戻って来たなぁ!!!」

 

「父さん…ちょ…痛い痛い…」

 

「耐えろ、隼人…俺も退院した時にやられた…」

 

「えぇ…」

 

隼人と瑛一の父、霧谷孝蔵は目元に涙の雫を浮かべながらバシバシと隼人の肩を叩く。

 

「俺ぁ…俺ぁ…不謹慎かもしれねぇが、お前ら2人が戻ってきただけで、それだけで嬉しいんだ。なあ母さん。」

 

「そうね。…私達親にとっては、あなた達の無事が何よりの吉報だわ。改めて、おかえりなさい。」

 

「まあ…うん。ただいま…。」

 

「何照れてんだよ隼人。」

 

「これは誰でも照れるって父さん。」

 

「ちょっと小っ恥ずかしいよな…」

 

「そうか?まあ今日ぐらい許せ!全部本心だから安心してくれ!!」

 

「尚更小っ恥ずかしい…」

 

 

「というかSAOに囚われてる間世話してたの俺と母さんなんだから今日くらい付き合え!!」

 

「その節は誠にお世話になりました。今日は日をまたぐまで付き合わせていただきます。」

 

「うむ、苦しゅうない!!」

 

 

「ふふふ、追加のお酒買ってきましょうか。瑛一もまだ飲むでしょう?」

 

「ああ、俺も行くよ。」

 

「いや!母さんだけに負担をかける訳には行かんので俺と隼人も行くか!!歩くぞ!!!」

 

「俺退院初日なんですけど!?」

 

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

 

 

「そんなこんなありながら、もう3月かぁ…」

 

「早いですよね。…最終攻略から、もう1年も経とうとしてる。」

 

「だな。光陰矢の如しってやつだ。」

 

「ですね。」

 

 

2人は小さめの商店街の中にあるカフェのテラス席で紅茶を飲みながら、2人は談笑を続ける。

 

 

「それで、おじさんは今はもう落ち着きました?」

 

「落ち着い…てはないな。今でも兄さんの安否気にしてオロオロしてる時がある。」

 

「瑛一さん、今は海外ですもんね。」

 

「ああ。これからはフリーランスのプログラマーとしてVR世界の治安維持に勤めてくんだと。」

 

「キリトさんが受け取ったもののおかげで、VR世界も広がり続けてますからね。今では昆虫になって遊べるVRMMORPGもあるらしいですよ?」

 

「うへぇ、絶対やりたくない…」

 

「隼人さん、虫苦手ですもんね。…あれ、でも向こうでは虫型モンスターにそこまで嫌悪感ありませんでしたよね?」

 

「あそこまでデカいとむしろ吹っ切れるからな。そう言うお前も、爬虫類苦手じゃなかったっけ?」

 

「もうあそこまで行くと、蛇というよりドラゴンな感じがして吹っ切れてました。」

 

「ほら見ろ。」

 

 

隼人が笑いながらティーカップを持ち上げると、紗綾もクスクスと控えめに、だが楽しそうに笑みを浮かべる。

 

隼人はカップ内の紅茶を飲み干して、背もたれに体を預けた。

 

 

「…珍しく今日は、随分と急な《お誘い》だったな。」

 

 

隼人の言葉に、紗綾は先程と同じように控えめに、しかし今度は少し陰りを含んだ笑みを浮かべた。

 

 

「今日は、付き合ってくれてありがとうございました。兄さんの、お墓参りに。」

 

「いいよ、俺も参っときたかったし。礼を言われるような事じゃない。」

 

「それでも、ありがとうございました。なんだか1つ、区切りをつけれたような気がします。」

 

「区切り、か…」

 

「…正直、仮想課の方から兄さんの訃報を聞いても、兄さんのお葬式に参列しても、実感が湧きませんでした。」

 

「…そうだな。」

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

今からおよそ数ヶ月前。

隼人、紗綾、そして瑛一がSAOの舞台で相対したラスボス…紗綾の兄であり、瑛一の親友でもあった武藤和幸。

またの名を、オズ。

 

彼の葬式が行われ、3人もその場に参列した。

 

和幸は小中高大と全ての学校にて優秀な成績を収め、鳴り物入りでアーガスへと入社した優秀な人間であり、学内外、社内外にも多くのパイプを繋いでいたこともあって、葬式には多くの人物が参列していた。

 

業界内においては『いずれ茅場晶彦の跡を継ぐ男』と期待する者達もいたのだから、その期待の大きさがよく分かるだろう。

 

そして、両親のショックが大きかったのは言うまでもない。

手塩に育てた自慢の息子を失ったときの喪失感は何ものにも変え難い苦痛だっただろう。

 

そして、紗綾も。

 

参列した者達から「惜しい人を亡くした」というような声や、彼が亡くなる原因を作った茅場晶彦への呪詛を吐くものもいる中。

 

その実の兄を屠ることへ加担したという事実は、彼女に重く、重くのしかかっていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

「少し歩きませんか」という紗綾の言葉に、隼人は「ああ」と答え、会計を済ませて店を出る。

 

 

「…私、後悔はしてません。」

 

「…ああ。」

 

「あの時、兄さんの場へ行くことが出来るのは私達だけ。そして須郷伸之の元へは行けなかったので、必然的に私に残された選択肢は《街へ帰る》か《兄さんと戦う》事だけでした。…その二択なら、答えは1つだけです。」

 

 

兄を殺すか、攻略組…いやさ《ビーターズ》の親しい友人達を危険に晒すか。

 

その二択を迫られた中で、前者を選ぶくらいには、紗綾の中で仲間達の存在は大きくなっていた。

 

《ビーターズ》はもちろん《スリーピング・ナイツ》の面々も、過去の苦い経験からギルドに入る事を避けていたシャムに居場所をくれた。

彼女が俺に、恩も感じているし、皆が大切な存在だとかつてあの世界で話してくれたことを思い出す。

 

躊躇がなかった訳ではないだろう。

 

悩まなかったわけがない。

 

なら、隼人()に出来ることは。

 

その覚悟と決断を、否定しないことだろう。

 

 

「…あれが最善手だったと思うぞ。少なくともあの時の俺達にとってはな。」

 

「ですかね…」

 

「ああ。」

 

 

握った隼人の手を、紗綾は再度強く握り直す。

 

 

「…親には、言うべきですかね。」

 

「…今はいいんじゃないか?息子さん亡くした上にその息子が監禁事件に加担してて自分が…っていうのは重すぎるだろうからな。」

 

「そう、ですね。」

 

「…心配?」

 

「…親にどう思われるかは、少し。」

 

 

困ったように笑う紗綾。

隼人は足を止めて、彼女を引止めた。

 

 

「…?隼人さ…わぷッ」

 

 

隼人は紗綾が向けて来た顔の頬を両手で挟み込み、しっかりと彼女の目を見据える。

 

そして、真正面から断言した。

 

 

 

「お前の味方は、ここにいる。」

 

「へ…」

 

「お前を()()()()()()()()味方が、ここにいる。…それだけは、覚えといてくれ。」

 

「…はい。」

 

 

 

紗綾の先程とは違う笑みを見て、隼人も笑い、ゆっくり手を離した。

 

紗綾は隼人の手を握り直して、下から見上げるように彼の顔を覗き込む。

 

 

 

「…隼人さんがずっと私の味方なのは、分かってましたよ?」

 

「…ま、念の為だよ。」

 

「…元気づけてくれて、ありがとうございます。」

 

「…分かってるじゃん。」

 

「もー、拗ねないで下さいよ。この後みんなとの予定もあるんですから。隼人さんて、こういう時は子供っぽいですよねー。」

 

「あーうるせうるせ。…ほら、行こうぜ。」

 

「はい。」

 

 

誰にも頼らず1人でなんてのは、無理かもしれない。

 

でも、そんな事でも。

 

2人なら大丈夫。

 

 

紗綾はそう想いを馳せながら、隣を歩く青年の方を見て。

 

 

もう一度、満面の笑みを浮かべた。

 

 

 

「なんだよ。」

 

「いいえ。…隼人さん。」

 

「ん?」

 

 

 

「大好きです。」

 

 

 

「んん…!?お、おう…」

 

「相変わらず、慣れませんね?」

 

「…やかましい。」

 

 

かつての世界でやった事の意趣返しをされて隼人はバツの悪そうな顔をし、そんな様子を見て紗綾はもう一度笑う。

 

 

 

 

あの世界で失ったものはとても大きい。

 

 

しかしそれと同じくらい得たものも大きい。

 

 

紗綾は今日それを、改めて実感した。





まずは、2年間という長い間サボっててすみませんでした。

※ここから言い訳が続きます。

いや違うんですよ。
決してやる気が出なかったとかそんなことではなくてですね、色々資格の勉強とかしてたら小説書く時間なんてほぼなくてですね?
え?やってたゲームですか?

そんな多くないですよ?
プロスピ、SAOIF、アリブレ、テイルズアスタリア、ザレイズ、メジャスピ、パズドラ、FGO、バンドリ、イーフトですかね?(原因)


…まあ醜い言い訳はこれくらいにして。
今後は少しずつですが色々投稿していきたいなーと()()思ってますので。(最悪の保険)

今後もよろしければお付き合いいただけると幸いです。

なんならこっちのSAOはもうちょいで終わるかもですな( ´∀`)ハハハ

これからも楽しく書いていきますので、改めてよろしくお願いしますm(_ _)m

それではまた次回!!
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