もこたんのヒーローアカデミア   作:ウォールナッツ

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もこたんの決断

 

「インターンヒーローもこたんより全体通達!逃走中の荼毘が街に放火!現在、群訝市北部で火災を確認しました。蒼炎はそのまま北に伸びており、荼毘は蛇腔方面に向かっている模様。大阪湾からの海風も強く、このままでは全域で大規模火災が発生します!」

 

 妹紅は半ば叫ぶような面持ちで無線報告をした。

 何といっても状況がマズイ。群訝・蛇腔間、すなわち和歌山県北部から京都府南部までであり、大阪府を完全に縦断する形になる。その地域のほとんどが市街地であり、郊外ですら様々な工場が立ち並ぶ経済活動圏だった。

 更に大阪湾からの海風。眼の前を手で覆わないと海を直視できないほどの強風が吹いている。これが厄介だった。風に煽られた炎は次々に延焼を起こし、古い木造家屋などは瞬く間に燃え上がるに違いない。また、都市中心部ではビル風も相まって火炎旋風が発生するだろう。これが多くの人間を焼き殺すことになる。そういう危険をはらんでいた。

 

『荼毘め、何ということを…!もこたん、こちらエッジショットだ。了解した、各地のヒーローたちをどうにかして荼毘迎撃と火災救助に向かわせる。警察や消防にも応援を願おう。蛇腔方面からも人手を捻出できないか頼むつもりだが…そちらは少しばかり厳しいかもしれん』

 

 エッジショットの返答には渋みが含まれていた。蒼炎を撒き散らしながら高速飛行で逃げに徹する荼毘を撃破できるような実力者などそう多くはないし、それほどの戦闘力を持つヒーローであれば最初から激戦区に配属されてしまっている。エッジショットとしても荼毘迎撃は難しいと考えていた。

 そもそもの話、圧倒的に人手が足りていないのだ。蛇腔に至っては通信妨害により状況が不明であり、連絡が取れるのは蛇腔市の郊外のみ。その郊外ですら死柄木の『崩壊』から市民を避難誘導させるため、ヒーローも警察も消防もほぼ全員が出払っているくらいだった。

 

『かくなる上は緊急ヴィラン警報をテレビなどで流して人々に自主避難を促したいところだが…しかし、今はタイミングがマズすぎる!』

 

「まさか警報の発報に公安本部の許可が…?」

 

『いや、それはどうとでもなる。問題はメディアの方だ…。今、荼毘が日本全国の電波をジャックしているそうだ。警報そのものが流せない状況になっている』

 

 エッジショットは苦悶の声で言った。なんと現在、全国の電波がジャックされてしまっているそうだ。テレビやラジオ、インターネットのライブ中継の電波まで。荼毘はそれらを乗っ取ってしまい自身の映像を流しているのだという。

 その内容は衝撃的で、己がエンデヴァーの長男・燈矢であること。個性婚によって産まれたものの、結局エンデヴァーに見限られ捨てられたこと。成功作である末弟・焦凍にすらエンデヴァーは虐待を加えていたこと。またホークスが連合にスパイとして潜入するためベストジーニストを殺害したこと。そんなホークスの父は連続強盗殺人犯のヴィランであったこと。荼毘はそれらを暴露してしまった*1。しかも、わざわざ上着を脱ぎ、焼け爛れて縫い合わせた皮膚を見せつけながらだ。見る者によってはエンデヴァーの虐待によって焼かれたようにも思えただろう。そして轟焦凍の顔にも大きな火傷跡がある。これらを結びつけてしまった者は多かったに違いない。

 しかし、エッジショットはその内容を妹紅に伝えなかった。真偽不明な情報で彼女に動揺を与えたくないという理由もあったが、何よりそれを伝える時間的猶予など一切なかったからだ。

 

『とにかく群訝からは救助活動に秀でたプロヒーローたちを送ろう。君のおかげで群訝作戦チームはそれなりの余力を残している。マジェスティックの個性なら100人以上の移送が可能だろう。他にも移送系・移動系個性を持つ者たちも動かす。また、緊急ヴィラン警報も電波を取り戻し次第、速やかに発報してもらう』

 

「了解、しました…」

 

 応援は心底ありがたい。しかし80km。それだけの距離に何千軒の建物があるというのだろうか。何万人、何十万人の人々が暮らしているというのだろうか。群訝から出せる人数にも限界はあるし、他の任務地から応援が来てくれたとしても人手が全く足りない。そもそも、ヒーローたちが火災現場に辿り着くまでにも相応の時間はかかるのだ。その間にも建物は燃え、そして延焼する度に被害は倍々に増えていく。負の連鎖が始まってしまう。

 妹紅には容易にその想像ができてしまった。

 

(どうする!?荼毘を追うか、火災救助か!?クソ、私が山荘で荼毘を逃してしまったせいでこんなことに…!)

 

 妹紅は悩む。今、彼女の目の前には人々の命が両天秤にかけられて揺れ動いており、そのどちらか片方しか救うことができないという状況にある。そう簡単に選べるはずがなかった。

 命を取捨選択することへの強い躊躇いと不安。荼毘を逃してしまったことへの自責の念と罪悪感。それらのストレスが妹紅に襲い掛かり、吐き気すらこみ上げてくる。息も過呼吸のように荒れてしまっていた。

 

(より多くの人々を救うなら火元である荼毘追撃が優先だ…、でも…!)

 

 ――有名な倫理学上の問題の一つにトロッコ問題というものがある。そして、それに類似する問題にこんなものがある。『貴方はボートで5人の溺れた人を助けに向かっている。しかし、途中で溺れている1人の人を発見した。その人を助けていれば5人はその間に溺れ死んでしまう。その人を助けて5人を諦めるべきか、それともその人を見捨てて5人を助けるべきか』。

 全員助けるという甘ったれた選択肢はなく、絶対に二者択一で選ばなければならない場合。妹紅はどちらを選ぶのか。

 

(無理だ…。目の前で助けを求める人を…見殺しになんてできない)

 

 妹紅は吐き気を抑えるように手で口を覆った。

 紙面上の思考実験であれば妹紅は“5人助ける”を選んでいたかもしれない。己の感情を殺して心を潰してでも多くの人間を効率的に救う。それが賢い選択であり、その覚悟を持ってインターン活動にも赴いていたつもりだった。

 だというのに、その状況に直面してしまった今この瞬間。妹紅はその選択を取ることができなくなってしまった。妹紅はきっと“途中の1人”を見捨てることができない。一生懸命に動けばきっと全員を助けられると信じて行動して、そして“5人”を死なせてしまうだろう。とても愚かな判断だ。頭でもそれを理解できている。しかし、心がその賢明な判断を下すことを拒否してしまった。

 いっそ死んでしまいたいほどのジレンマ。しかし、猶予はない。ここでただ立ち竦んでいては“途中の1人”すらも助けられなくなってしまう。葛藤の末に妹紅は動いた。

 

「…荼毘追撃を中断して火災の救助活動を――」

 

『妹紅!待って!』

 

 妹紅が震える声で命の選択をしようとした瞬間。無線から大きな声が聞こえた。妹紅にとって非常に馴染みのあるクラスメイトの声。葉隠その人のものだった。

 

「葉隠…?すまない、今は時間が…。後にしてくれ」

 

『ある!あるよ!妹紅の個性で全部の火災現場を一遍に消火して、み~んな助けちゃう方法!』

 

「そんな…、そんな都合の良い方法、ある筈が…」

 

 最早、妹紅には葉隠をヒーロー名で呼ぶほどの気力すらない。それほど心が追い込まれていた。

 そんな彼女に向けて葉隠は言った。この二者択一の問題を根本からぶち壊す、そんな画期的な方法があるのだという。無論、それが出来ていれば妹紅も苦労はしない。『不死鳥』の個性がどんなに凄まじかろうと所詮は炎熱系。個性を使って消火に貢献できるはずがなく、むしろ火災を助長するだけだと妹紅は思っていた。

 それほど気持ちがくじけてしまった妹紅に対して、葉隠は“いいから聞け!”と言わんばかりに言葉を続けた。

 

『あるの!海から風が強く吹いているんでしょ?じゃあ、海を焼いてその水蒸気で大雨を降らせばいいじゃん。火災現場の全域に』

 

「あ…上昇気流…」

 

 妹紅は呆けたような声を出してしまった。豪炎を自在に操る妹紅本人だからこそ思いつかなかったともいえる。だが、葉隠は覚えていた。特別講師としてマウントレディを雄英に招いて行ったメディア演習の授業。そこで他ならぬ妹紅自身が『神野区で使用した炎によって局所的な温度上昇が起こり、火災積乱雲が発生してしまった』と言っていたことを。親友である葉隠はこれを覚えていたのだ。

 しかし、ただ空気を熱して上昇気流を作るだけでは降雨量が少ないし時間もかかってしまう。故に、まずは海を焼く。発生した大量の湯気と水蒸気は空へ昇るにつれて冷やされ雲となり、そして雨となるだろう。自然界においては主に太陽エネルギーによって日夜繰り返されている水の大循環現象。これを妹紅の炎によって局所的かつ迅速に再現するのである。

 

『そう!妹紅ならできるよね?温度とか風速とか色々あるから、今ヤオモモが燃焼地点を計算中だよ』

 

「できる、むしろ簡単に、余裕で…。許可さえ出れば今すぐにでも!」

 

 妹紅は空中を飛びながらにして身を乗り出すように答えた。それだけの範囲に大雨を降らせるとなると数百万トンの海水を蒸発させなければならないだろうが、妹紅にとっては無理難題という程でもない。なんなら大阪湾を全て焼き尽くしてみせようかという意気込みすらあった*2

 

『ならば、俺が海上保安庁と水上警察に連絡しよう。もこたんは準備を始めていてくれ。何があっても責任は全て俺が取る。群訝作戦チームは君に…いや、君たちインターン生に助けられた。微力にもならないかもしれないが、せめてこのくらいは手伝わせてくれ』

 

 妹紅たちの気勢に呼応してエッジショットも意を示した。今回、妹紅を始めとするインターン生はトッププロ以上の活躍を見せてくれたのだ。そして今も希望の炎を輝かせ続けている。そんな彼女たちの足をプロである己が引っ張る訳にはいかない。それは彼だけでなく他のプロヒーローたちも同じ気持ちであった。

 

『こちらはギャングオルカだ。話は聞いた。大阪湾の船舶・漁業関係者には俺から話を通そう』

 

『こちらセルキー。同じくだ』

 

『ファットガムや。大阪は地元やからな。誰に何を言われても俺がナシつけたるで!まずは周辺の空港からやな』

 

『俺たちも協力するぞ!』

 

 ギャングオルカ、セルキー、ファットガム。更に他のヒーローからも次々に声が上がった。彼らはベテランヒーローだからこそ各方面に信頼とコネクションがある。妹紅たち未成年が通報するよりも遥かに早く話を通せるだろう。地元密着型のヒーローなら特にそうだ。残存の解放戦士たちと戦闘・捕縛しながらも、彼らはマルチタスクで行動に移していた。

 その間に妹紅は炎を全力で練り上げていく。大きく単純高火力な巨鳥(パゼスト)ではダメだ。水に触れる表面積を増やすためには小さな火の鳥を大量に作る方が望ましい。そう考えた妹紅は鳩サイズの小さな火の鳥を無数に作り出してみせた。

 

「ふぅー……。火の鳥たちよ、まずは大阪湾の上空まで飛んで行け…。許可が下りるまではそこで待機だ」

 

 群訝山荘を覆った火の鳥を遥かに超える規模の数が妹紅から飛び立っていく。しかも、小サイズでありながらも妹紅の炎はしっかりと込められており、一羽一羽が人間を簡単に焼殺できるレベルの火力が秘められていた。これならば十分な量の海水を蒸発させられるだろう。

 しかし、これには流石の妹紅も大きな疲労を感じることになる。深く息を吐きながら肩をグルグルと回してストレッチをする妹紅。別に疲労が肩に集中している訳ではないので気分的なものだが、少し楽になった気がした。

 そこに八百万から無線が入る。現地の風速、温度、気圧などのデータを気象庁から取得。その数値に妹紅の火力を加えることで八百万は燃焼地点を最速で算出してみせたのだった。

 

『燃焼地点は大阪市から南西に10km沖です。この地点付近の海水を蒸発させることで水蒸気は風に乗り拡散。群訝・蛇腔間およびその周辺の上空で水蒸気は過飽和となり、局地的な大雨を降らせることができます。燃焼開始から降雨発生までの時間は30分程度の予想ですわ』

 

「ありがとう、クリエティ。後は許可が下りるかどうかだが…」

 

 妹紅は空から大阪湾の方を見た。火の鳥たちは可能な限りの最高速度で飛ばしている。しばらくすれば指定の海域へと到着するだろう。しかし、そこに船舶などがあれば焼く訳にはいかなくなる。それ故の安全確認待ちだった。運航している船の位置次第では消火効率を落としてでも燃焼地点を変更する必要がある。

 そんな不安を抱える妹紅だったが、エッジショットからの報告によってそれは解消されることになった。

 

『もこたん、降雨作戦の実行を許可する。現在、作戦海域および周辺に船舶なし。上空に航空機なし。海水浴客やマリンスポーツ客なし。近隣の空港をはじめ関係各所が協力してくれたおかげでレーダーやソナーだけでなく目視による念入りな確認も取れた。即時の海上封鎖と航空規制も成功したため火の鳥以外の接近物もない。繰り返す、作戦の実行を許可する。…可能であれば、出来るだけ湾内の海洋生物に影響が及ばぬように海の表層だけを熱してほしい、とのことだ』

 

「了解です。指定地点を中心に火の鳥を広く浅く入水させます。問題ありません」

 

 漁業関係者から多少の条件は付けられたものの、妹紅も八百万も元からそのつもりで海を熱する予定だった。事はスムーズに進んだといえるだろう。

 とはいえ順調に海水を蒸発させたとしても、水蒸気が火災現場に到達して大雨が降るまで30分程度かかる。それまでの被害もどうにか減らしたい。そこで妹紅は考えた。

 

(水蒸気が届くまで何かもう一手が欲しいところだけど……ああ、なんだ。とても簡単なことだった)

 

 妹紅は静かに笑みを浮かべる。葉隠から降雨というヒントを得たことで彼女の頭も柔軟になっていた。

 再びエッジショットに連絡を取って、その許可を得ると妹紅は炎に力を込める。そして今度は『パゼストバイフェニックス』を繰り出した。

 

「行け。地面の土を削り取れ」

 

 郊外の誰もいない空き地に向かって妹紅は炎の巨鳥を放つ。それは嘴を大きく広げて地表に突っ込むと、ゾブリと地面を溶かしながら大量の土を抉り取ってしまった。そうして巨鳥は腹に土石を抱えたまま急上昇して空へと駆け上がる。

 一方、大きく抉られた地面はクレーターの様に窪み、表面の土は赤熱して溶岩化。その後、冷えるとクレーターの表面にガラス結晶を残すほどの火力であった。

 

「そのまま上空で土を蒸発させながら飛んで、粉塵を撒き散らせ」

 

 妹紅は肩で息をしながら巨鳥に命令を下す。彼女の目的は抉り取った何万トンもの“土”の方にあった。

 通常、雲の中で雨粒が形成されるためには核となる粒子が必要になる。自然界では低温の雲の中にある氷の結晶などがその“核”となるのだが、妹紅は土を蒸発させた粉塵、つまり微細な火山灰を撒き散らすことによってそれを人工的に再現しようとしていたのである。

 実際、こういった人工降雨(クラウドシーディング)という気象制御技術は昔から存在していた。現代においては効果の高いドライアイスやヨウ化銀などが散布に用いられているが、微細な粒子であればどういったものでも多少の効果は得られるのである*3

 特に今日は夜から全国的に雨が降る予報なだけはあって現時点でも雲は多かった。雨を降らせる条件は元から揃っている。もちろん、これだけ条件が揃っていたとしても小雨程度にしかならないが、海からの水蒸気が届くまでの繋ぎくらいにはなるだろうと妹紅は見ていた。

 また、火山灰だけでなく大量の熱を巨鳥から放出することで激しい上昇気流が発生するだろう。それは地表の湿った空気を吸い上げることで雨量を増やすと同時に、海風を更に強く吹かせる(吸い寄せる)ことになる。つまり海からの水蒸気をより早く現地に運ぶことができるということだ。これはそんな一石三鳥の手であった。

 

(でも、流石にかなりの体力を消費しちゃった。……けれど、とても清々しい気分だ。ヴィランを焼く以外にも私の炎は使い道がある。今はすごく大変な事態だっていうのに、なんか楽しくなってきたぞ)

 

 オールマイトなら拳の風圧だけで上昇気流を起こし、一瞬の内に雨を降らせることも出来ただろう。パンチ一発で解決だ。そんなパワーが羨ましくて仕方ない。大技を連発して相当に疲労してしまった妹紅は肩で息をしながら、そんなことを思っていた。

 しかし同時に、不謹慎だと思いつつも高揚するような気持ちが湧いてくる。相手を焼くだけしか出来ないと思っていた炎で大勢の人を救えた。きっと妹紅一人の力ではそこまで至れなかっただろう。葉隠たち仲間が居たからこその結果だ。今は疲労すらもどこか心地良い。長距離マラソンを気持ちよく走りきった後の時のような、そんな気分だった。

 

「問題があるとすれば…神野区の時とは比べ物にならない規模の低気圧爆弾がアメリカに直撃するかもしれない。それはちょっと心配…いや、ちょっとじゃないかも。かなり心配になってきた。あの、これ大丈夫でしょうか?」

 

 妹紅は深呼吸を繰り返して息を整えながら空を見る。海の方向に飛ばした火の鳥の大群に、火山灰を撒き散らしながら空を舞う巨鳥(パゼスト)。大阪の空は炎で真っ赤に染まりつつも粉塵が汚く舞っている。地獄の天気がどんなものかと尋ねられたら、これからは今日の大阪上空の写真が答えとして貼られることになるだろう。そんな様相を呈していた。

 しかも、見た目だけではない。最初から天候を変える目的で莫大な熱を込めている訳だから、神野区の事件以上の気象影響が発生するに違いない。世界規模の影響だ。気分は一変。段々と不安を募らせていく妹紅だったが、そこにミッドナイトが助け船を出してくれた。

 

『その件については私から根津校長に伝えておくわ。校長とオールマイトの連名でアメリカに連絡しておけば…まぁ、なんとかなるわよ、きっと』

 

 ミッドナイトも自信なげではあったが、最悪何があってもアチラにはアメリカNo.1ヒーロー(スターアンドストライプ)が居る。個性の詳細は明らかにされていないが、オールマイト級のヤバいヒーローであるということだけは他国でも周知の事実だった。いざという時は彼女に何とかしてもらおう。申し訳ないが妹紅たちはそう思うことにした。

 

「さてと…覚悟しろよ荼毘」

 

 荼毘の逃げ先である蛇腔市の方角を睨みながら妹紅はそう呟く。小さな声量ではあったものの、そこには確かに憤怒が滲んでいた。

 街に放火しながら逃亡するという荼毘の選択は、対妹紅の戦略としては間違いなく最善の一手であった。現にギガントマキアやトガヒミコ、外典含めた解放軍数万を相手にした時以上の体力を妹紅はこの一連の消火活動で消費してしまっている。7割ほど残していた体力が、今では3割を下回ってしまっているほどだ。それどころか、もしも葉隠が名案を思いつかなければ妹紅は救助活動で完全に足止めさせられていただろう。

 正しい。『妹紅と戦わない』という手段はヴィランとして実に正しい。正面戦闘を得意とする妹紅にとって最も困ってしまう一手だった。

 だからこそ、これを繰り返される前に荼毘はこの手で確実に潰す。妹紅は怒りを理性で抑え込みながら赤い空を駆けるのであった。

 

 

*1
原作ではホークスがトゥワイスを殺害したシーンも流しているが、ここでは妹紅の襲来によって編集の暇なく電波ジャックせざるを得なかったため流せていない

*2
やめろ

*3
古代の雨乞いなどの祈祷では大規模な焚火によって煙や塵が空中に上っていき、それが知らずの内に人工的な降雨に繋がっていたのではないかという説がある。……が、焚火程度の煙では効果は全く無く、最低でも山火事くらいの規模でもなければ意味がないとも言われており、祈祷での降雨は実証できていない




トロッコ問題
 行動の結果として多数を救うことは倫理的に正しいのか(功利主義)、それとも意図的に誰かを犠牲にすることは許されないのか(義務論)、という倫理的な対立。今回の話のような抜け道探しは面白いがそれはこの問題の本質ではなく、基本的には功利主義か義務論かを問う議論である。
 妹紅の場合は功利主義の覚悟を持っているつもりでいたが、結局は情を捨てきれずに義務論に不時着した。ヘタレたとも言う。とはいえ功利主義を瞬時に選べるヒーローはプロでもそう多くはないだろう。

 個人的に原作ヒロアカキャラならどう答えるかとても気になる問題。特にA組生徒。抜け道なしで絶対にどちらか一方を選ばないといけない条件で問いたい。
なお、実際にその場面が訪れた場合、どちらの選択肢を選んだとしてもヒロアカ市民はヒーローの苦悩など知らずに非難を浴びせてくる模様。(そういう社会になるようAFOが裏から世論を誘導してきていたのかもしれないが)
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