「葉隠、大丈夫か?何があったんだ?」
「ごめん、妹紅。障子君に核を回収されちゃった」
妹紅が核の置いてある部屋に戻ると大柄な男子生徒である障子が、そして手袋を着け直した葉隠が居た。葉隠は両手袋を合わせて妹紅に謝罪する。怪我などは無いとの事だったので、その点は一安心である。
謝罪に対して、妹紅は別に構わないと首を振るも、疑問を投げかける。
「訓練中に一度も姿を見る事はなかった…少なくとも私が居た階段には近寄らせてもいなかった筈だが…」
「最上階に行く手段は階段だけではない、と言う事だ」
それまで黙っていた障子が口を開いた。しかし、その声はマスクの下から発せられたモノでは無く、腕から複製された部位にある口からであった。
個性『複製腕』は腕そのものだけで無く、口や目、耳など身体の部位を複製する事が出来る。更に複製された部位の能力は格段に上がる為、索敵から戦闘までそつなくこなせる個性の持ち主である。
「確かに俺はお前たちが戦っていた階段付近に近づく事すら出来なかった。だから俺は一度外に出て、壁をよじ登って最上階の窓から侵入した。葉隠の位置は『複製腕』の耳で足音を確認し、隙を見て核を回収させてもらった。扉の前に炎の鳥が居た事には驚いたがな」
妹紅が生み出した火の鳥は確かに障子を牽制できた。しかし、多少戸惑うも火の鳥が待機状態である事を障子は看破し、すぐさま核へと接近。途中で葉隠が気付いて障子を捕獲しようと奇襲を行うも、足音からそれはバレており見事に回避される。そして障子は核の回収に成功した。
『さぁ、4人ともモニタールームに戻ってきてくれ。講評の時間だ!』
「まさか、足音でバレるなんて思って無かったなぁ」
「…次は頑張ろう。私も頑張る」
部屋に待機させていた火の鳥を回収していると、オールマイトから通信が入ったためモニタールームへと向かう。トボトボと階段を降りながら落ち込む葉隠を妹紅は無表情ながらも慰めていると、階段で待っていた轟が声をかけた。
「おい、お前。この残った腕はどうすんだ」
「なにこれ、氷付けにされた腕?作り物?」
「いや、私の腕だ。轟に凍らされたから千切って、新しい腕を再生した。これは燃やして処分する」
その言葉に葉隠と障子がギョッとする。妹紅はそんな2人を尻目に千切れた腕を氷ごと掴み、業火で包む。千切れた身体の一部にも炎熱耐性は少し残っているが、お構いなしの業火で燃やし尽くす。高火力により腕は骨ごと燃えさかり、灰すら残さない。
だが、淡々と自らの腕を処分する妹紅に対して、葉隠は手袋を交差させて×印を作って妹紅に詰め寄る。
「駄目!駄目だよ、妹紅!いくら怪我が治る個性だからって、自分の身体は大切にしなきゃ!分かった?」
「あ、ああ。分かった」
勢いよく咎める葉隠に押される形で妹紅は頷いた。『そういえば、慧音先生にも同じような事を何度も言われたな』と頭の片隅で思い出していた。
実際、精神を酷く病んでいた時期の妹紅は、突発的に自傷行為をする事が多くあった。その度に慧音たちに心配をかけてしまっていた。
注意する葉隠がまるで慧音のようだと思った妹紅は、一瞬だがフッと笑みを浮かべた。
「あ、今、妹紅笑ったでしょ!もー、本気で心配してるんだからね!でも、妹紅はもっと笑顔を増やした方がいいよ。その方が絶対可愛いから!私の真似をしてニコッて笑ってみなよ、ほら、こんな感じでニッコリ!」
「ま、真似…!?」
「炎に怪我を治す再生系の個性…か」
妹紅たちのそんなやりとりを聞いて、轟は1人階段を降りながら呟いていた。
「今戦のベストは障子少年だ!理由は核を回収したからだけでは無いぞ。個性を利用した冷静な索敵。そして階段が激戦地となり通れないと判断するや否や、外からの侵入を試みる決断力。その状況を常に轟少年に伝え、情報の共有に努めていたところもポイントが高かった。見事だったぞ、障子少年!」
モニタールームでオールマイトは障子を手放しで褒める。障子は無言ながらも深々と頭を下げた。
「それらを踏まえてこの第2戦を振り返ってみよう。まずは――」
「オールマイト先生、その前に少々よろしいでしょうか」
「なんだい?八百万少女」
心なしか八百万を見るクラスメイトたちの眼差しが期待に満ちている。皆の思いを代弁する形で八百万は手を上げていた。
「藤原さんの個性についてですわ。私は最初、藤原さんの個性は『炎で物を作る』モノだと思っておりました。しかし、その考察は藤原さん自身が否定し、今の訓練では全く説明がつかない状況もありました。そこで、藤原さんに伺いたいのですが…貴方は炎、そして回復系の個性を持っているのではありませんか?」
「…そうだ、私の個性は『不死鳥』。炎、そして鳥を模した炎を操り、自己再生が出来る個性だ。腕を再生する程度なら数秒で済む」
隠す理由も無い妹紅はそれを肯定した。聞いた事も無いほどの強個性にクラスメイトたちが一気にざわめいた。だが、その中でオールマイトは大きな声で妹紅に注意を促す。
「確かに強力な個性だ。しかしだ、藤原少女!いくら再生するからと言って無茶をするのはNGだ!惨烈な戦闘はヒーロー活動としては正しくとも、見る者に凄惨さを印象づけてしまう。その点は気を付けなければならないぞ!ヒーローとは敵に畏怖を与え、圧倒する者だ。だが、同時に脚光を浴び、誰もが憧れる存在であるという事を忘れないように!」
「はい、オールマイト先生。肝に銘じます」
妹紅は頭を下げてその言葉を受け入れる。トップヒーローとして、そして1人の教師として放たれたその言葉には強い説得力があった。オールマイトも素直に聞き入れる妹紅に一安心し、心の中でホッと息を吐く。
「うむ!では改めて第2戦を振り返っていこう!」
その後、第2戦の講評は滞りなく終わる。轟と障子の臨機応変な作戦に翻弄されていた事に改めて気づき、索敵の重要性を痛感した妹紅と葉隠であった。
第3戦、ヒーロー側、蛙吹梅雨・常闇踏陰 対 ヴィラン側、八百万百・峰田実。
ヒーロー側は二手に分かれ、建物の内外から侵入を図る。外からの侵入を試みた蛙吹は八百万の侵入対策に阻まれるも、常闇は内部の探索に成功。核とヴィラン側の2人を発見する。
しかし、峰田が自分たちの作った罠に不幸にもかかってしまい、捕獲テープが峰田の身体に絡まってしまった。焦った八百万がその捕獲テープを解こうとしている場面で常闇が2人を見つけてしまう。まるでSMプレイ染みた光景に唖然とする常闇であったが、気を取り直して核を回収。蛙吹・常闇らのヒーロー側が勝利した。
第4戦、ヒーロー側、砂藤力道・口田甲司 対 ヴィラン側、切島鋭児郎・瀬呂範太。
正面突破を図った砂藤に対して、切島・瀬呂コンビは即座に対応する。しかし、砂藤は囮であった。2人はすっかり騙されてしまい、その隙に口田が核の回収に成功してヒーロー側の勝利となった。
第5戦、ヒーロー側、耳郎響香・上鳴電気 対 ヴィラン側、芦戸三奈・尾白猿夫。
索敵に優れる耳郎・上鳴コンビに芦戸・尾白コンビは翻弄され続け、実力を全く出す事が出来ずに核を回収されてしまう。またもヒーロー側が勝利を収めた。
全5戦の結果はヒーロー側が圧倒的不利な条件での訓練であったにも関わらず、ヒーロー側の全勝となる。純粋な強さだけで無く、索敵や戦略がいかに重要であるかを思い知らされる結果であった。
「お疲れさん!緑谷少年以外は大きな怪我も無し!しかし真摯に取り組んだ!初めての訓練にしちゃ皆上出来だったぜ!それじゃあ私は緑谷少年に講評を聞かせねば。皆は着替えて教室にお戻り!」
オールマイトはそう言い残して急ぐように走り去っていった。実際、オールマイトの活動時間は授業時間でギリギリであった。落ち込む爆豪を気にしながらもオールマイトは医務室へと急ぐ。
「なあ!放課後は皆で訓練の反省会しねぇか?」
「あ、それいいじゃん!やろうやろう!」
「お、いいな。参加するぜ」
「あ、俺も」
下校時間となり皆が帰る準備をする中、切島が大声で呼びかける。すぐに芦戸が諸手を挙げて参加を表明し、多くが参加する事になった。
「全員参加か?おーい、爆豪。お前はどうする?」
「……」
切島が声をかけるも爆豪は無言のまま教室を出て行った。今日の訓練で緑谷に負けた事がよほど響いているのだろう。あの敗北以降、爆豪は一言も喋らずに押し黙ったままだった。
「おいって!…帰っちまった。まぁいいか、轟はどうすんだ?」
「…すまない、用事があるんだ。帰らせてくれ」
「そうか、引き留めて悪ぃな。じゃあまた明日な」
また、轟もそう言って帰った。しかし、残りのクラスメイトは参加するようで、教室に残っている。
「葉隠と藤原はどうだ?」
「もち参加するよー!妹紅も参加するでしょ?」
葉隠はやる気十分といった勢いで手袋を振っている。妹紅も葉隠に促され、参加する事にした。
「…参加しよう。あまり遅くまで残る事は出来ないが、それでもいいか?」
「おう、そんな長時間はやらないぜ。オールマイト先生から言われた事も踏まえて、皆で話し合ってみたくてよ。何か新しい発見があるかもしれねぇしな。それにまだ言葉を交わして無いクラスメイトも結構いるからよ、交流会みてぇなもんだ」
そう言って反省会が始まった。立ち話でワイワイと騒いでいるようにみえるが、実際は真面目に訓練を振り返っている。その辺は流石雄英生といったところであろう。
「それにしても第1戦と第2戦が特に凄かったよな!何喋ってんのか分かんなかったけどよ!」
「緑谷はまだ保健室だしな。大丈夫かよアイツ・・・」
緑谷の右腕は自身の個性に耐えきれずにボロボロに、更に左腕は爆豪の『爆破』によって火傷と裂傷を負い、こちらもボロボロになっている。試合後、気を失った緑谷はすぐに保健室へと運ばれたが、未だ戻ってきていない。
クラスメイトとなって日は浅いが、それでも緑谷を心配する生徒は多かった。
「戻ってこなかったら皆で医務室に見舞いにでもいってやろうぜ!第2戦は葉隠と障子には悪いが、轟と藤原のバトルが凄ぇアツかったよな。藤原が腕もいだ時はビビったけどよ、『不死鳥』なんてメチャクチャ格好良い個性じゃねぇか!なぁ!?」
「マジでそれな! プロ顔負けのバトルだったよな。だけど、あの炎に対応しちまう轟もスゲーよ、エンデヴァーの子供って噂はガチっぽいな」
切島の言葉に上鳴が続いてそう言った。その噂はクラス内でも結構広がっているようで、他にも頷いている者も多い。だが、その会話に轟のコンビであった障子が注意を促す。
「その話題は本人に振らない方がいいだろう。轟と藤原の会話を通信で聞いていたが、奴は
「そうなのか?」
障子の言葉に妹紅は首を傾げる。だが、葉隠が障子の言葉に同意する。
「妹紅、やっぱり気付いて無かったんだね…。通信で聞いていただけの私も、あの時の轟君の声がすごく怖いなって思ったのに…」
思い返してみると、確かにエンデヴァーの話題を出した時から轟は機嫌を悪くしていた…気がする。今更ながら悪い事をしてしまったなと思う妹紅であったが、とにかく轟にエンデヴァーの話題は厳禁と言う事でクラス内は収まった。
そして、第3戦の話になると、反省会であるというのに未だ激しく落ち込み続ける八百万と峰田の姿に上鳴が気付いた。
「あの2人、訓練で何かあったのか?」
「らしいよ。ちょうどカメラの死角で映ってなかったんだって」
味方が作った罠にかかってしまい、コンビの足を引っ張ってしまった峰田。そして、刃物を作り出して捕獲テープを切るだけでいいのに、焦ってテープをただ解こうとしてしまった八百万。
そんなこんなをしている内に核を回収されて負けてしまった。モニタールームでは気付かれなかったが、無様すぎる結果に2人は落ち込んでいた。
「なー常闇、一体何を見たんだよ?」
「黙秘する」
「えー!?余計に気になる!」
一方、常闇は勘違いしたまま黙秘を続けていた。中二病ながらも本来は硬派な男である。きっとこの秘密は墓まで持って行く事になるだろう。
その後、ギプスを付けたままの緑谷が戻ってきたが、すぐに爆豪の後を追いかけて出て行ってしまった。その様子を皆が不思議に思っていると、緑谷と爆豪の2人は幼馴染なのだと麗日が教えてくれた。
緑谷の無事も分かり、反省会もある程度終えて雑談ばかりとなったところでお開きとなった。1時間と少しという短い時間であったが、妹紅は様々な新しい課題と共に帰路に就くのであった。
八百万「捕獲テープを『創造』で沢山創って罠を仕掛けますわ!」
峰田(八百万の肢体から出てきたテープ…くぅ、なんか全体的に卑猥!ん?)
トラップ作動
峰田「ぐわあああ」
ヤオモモ「何やってますの!?ちょっとこれどうなってますの?」グイッグイッ!
峰田「痛っ!すまん、優しく…///」
常闇が2人を発見
蛙吹「常闇ちゃん、場所と状況は?」
常闇「今言葉を選んでいる…(何やってんだこいつら…)」
スピンオフのすまっしゅによると、峰田たちの第3戦の状況はこんな感じ。酷いなこれは。
書いてると峰田が登場するだけでギャグよりになっちゃう…